スターチスの思い出

２４

『体、だいぶ良くなってきたみたいだな』

10年前─痛みが少しずつ引いていった頃、いつものようにベッドの横に座りながらハーヴィルはそう言った。

『妹にも、ハーヴィル様にもこれ以上助けてもらうことできないですから、早く元気にならなくちゃ』

『無茶しても治るの遅くなるだけだぞ』

『大丈夫ですって』

そう答えた私を見てハーヴィルは眉間にシワを寄せて額を小突いた。何事かと目を白黒させるとハーヴィルはフン、と鼻を鳴らした。

『無理して笑ってますって顔してやがる』

『は、はは…やっぱり、ハーヴィル様は鋭いですね』

情けない笑い声を漏らしながら震える手を握りしめた。

『妹を助けたことは決して後悔していません。妹の幸せが何より大事ですから、良かったと思ってます。でも、私…』

誰にも言えなかったことを震える声でハーヴィルには話してしまっていた。

『きっと…結婚はできないだろうなって』

良くなってきたとはいえ胸の肉を抉るように残った傷痕はグロテスクで一生消えない。こんな体の女を求める男なんていないだろう。
まだ17とはいえ傷ごと愛してくれる人が現れるなんて夢は見ていない。そう思うと自然と涙が溢れていた。

『馬鹿、お前ほど魅力的な女はいねぇよ』

そんな私を大きな腕が涙で濡れるのも気にせず苦しいくらいに抱きしめた。

『約束だ、お前がそうだな…10年経っても貰ってくれる相手が居なけりゃ俺が喜んで貰ってやるよ』

『え…、で、でも…私、こんな傷で』

『俺からすりゃんなもんお前の魅力からしたら全然大したことねぇ傷だ。だから、な…約束だ』

そう言うなら、今すぐ貰って欲しい。そう思いながら…でも言う勇気のない私はその背中に腕を回した。

『はい、約束です』

10年後の自分に託して…その思い出は失われて、そして今戻ってきたのだった。