12 / 28
11
しおりを挟む
「お、待ってたぞ」
中に入ると大きなベッドとサイドテーブルがあるぐらいでここが何をする場所なのかと知らしめていた。ハーヴィルはそのベッドの上で胡坐をかきながら飲み物を飲んでいる。
「さっきあれだけ飲んだのにまたお酒ですか?」
「いや、違ぇよ。ただの水…柄にもなく緊張しちまってな」
ハーヴィルはコップをサイドテーブルに置くとまだ立ったままの私の腕を引いてベッドへと導いた。処女でもないというのに触れられたところが強張って独特の空気に緊張感が走った。
「ミサも俺と一緒…緊張してるのか?」
ここで誤魔化したところですぐにばれることだ。…というか既にばれていそうだが。私はおとなしくうなずいた。そんな私をハーヴィルは本当に緊張しているのかと疑わしくなるような手つきで力強く引き寄せる。そして私の左手に手を重ねると深く眉間に皺を寄せた。
「ミサ…お前指輪は?」
婚姻の証である指輪は、外して手の中に握りこんでいた。
「ちゃんと持ってます」
「ならなんでつけない、つければいいだろう」
「いつ返せと言われてもいいように…外しているんです。」
つけていたら未練が残ってしまう、返したくないと泣きわめいてしまいそうで。震える声でそう言うと地響きでも起きたかと思うくらい低くて恐ろしい声がハーヴィルから発せられる。
「つけろ、誰が返せなんて言った」
「ハーヴィル…でも…」
「お前は何をそんなに怖がっている。ここにきてからずっとだ。俺に何か予防線を貼って傷つくまいと保険をかけている」
私は意を決して服を脱いだ。本来これを脱いだら裸になる、はずだが私の胸には何重にも包帯を巻いてもらっていた。
「それは…」
「ひどい…怪我の跡があるんです。今まで見てきた男性はすぐにベッドから出るくらいとても見ていられない傷です」
ハーヴィルの手を取って右胸の形を確かめさせた。今までは下着やパッドで誤魔化していたが本来膨らんでいるべき胸の一部が不自然にへこんで肉が抉れている。
「それを知られて…拒否、されるのが…怖くて…ずっと、男性と添い遂げることはあきらめていたんです。」
泣くつもりなんてなかったのに、全て明かしてしまうと涙があふれた。ぽたぽたとシーツに染みを作って止めたいのに呼吸もままならなくてただそれを見つめることしかできなかった。
しかしハーヴィルは私の背中に手を添えて包帯の結び目を乱暴に外した。そのままその包帯を引きちぎるような勢いで外していく。包帯越しでもひどい有様だとわかっているはずなのにこれ以上見られたくなくて必死で抵抗するが腕はまとめてベッドに押さえつけられる。数日間私が彼を拘束したのと同じように。
「お願いっ、やめて…っ」
彼から拒否される覚悟はできていたはずなのにいざ全てをさらす状況になると包帯の存在に縋り付きたくなる。これを取られたらもう後戻りはできない。胸を隠すこともできない状況で抵抗できるのは口だけだがそんなもの聞き入れてもらえるはずもなく、無情にもそこは空気に晒されることになる。
包帯を解いて露わになった胸は肉を抉るようにしてグロテスクな傷跡が残っている。右胸は半分以上なくなって不格好にへこんでしまっている。10年も前の傷だが痕は一向に消えることはない。
「ほ、ら…っ後悔したでしょ?こんな体じゃ誰も私を娶ろうとは思わない。」
自らの体を嘲り、そう言ってやる。どうせあなたもほかの男性と同じなんでしょ、と。本当は期待や希望をするなと自分に向けた言葉だった。しかし予想外にも彼はそんな私に熱い口づけをした。
突然のことに目を見開いたまま抵抗もできない。大きな腕ですっぽりと抱き寄せられて彼の心臓の音まで鮮明に聞こえるほどに密着させられる。分厚い舌がその形とは反対に丁寧にねっとりと口内を舐め回して角度を変えて何度も口付けをした。彼とは初めてのキスだというのにあまりに濃厚なそれに意識がもうろうとする。
「誰がこんな怪我させやがった」
唇が離れたと思ったらまた低い声がハーヴィルから発されていてぴくりと体が強張る。
「じゅ、10年前…村を襲ってきた野盗に…妹が襲われかけて…その時」
「そいつは、逃げたのか?」
「その時は、無我夢中で…妹を守るために、私が殺した」
震える声でそう答えると、ハーヴィルは息を吐いて私の肩に頭を寄り掛からせた。
「こんなに綺麗な肌してるっつーのに…俺がぶち殺してやりたかったくらいだ」
「き、もちわるく…ないの…?」
「見せてやっただろ、俺たち村民は狩人だ。もっとエグいもんも見てる。これくらいどうってことねぇよ」
そう言ってハーヴィルは私を抱き寄せて私の腕を自分の背中へ回した。
「ほら、これはクマに肉を抉られた痕、これは狼に噛まれた痕だ…これは何にやられたかは忘れたが緊急時で自分で縫った事だけは覚えてる」
ハーヴィルは傷自体は見せないようにひとつひとつ触らせる。そうやって私を安心させてくれる姿になんだかホッとしてしまう。
そして、体を少し離すと躊躇いがちに胸を揉んだ。ピクッと反応してしまうと「痛いか?」と問いかけてくる。
中に入ると大きなベッドとサイドテーブルがあるぐらいでここが何をする場所なのかと知らしめていた。ハーヴィルはそのベッドの上で胡坐をかきながら飲み物を飲んでいる。
「さっきあれだけ飲んだのにまたお酒ですか?」
「いや、違ぇよ。ただの水…柄にもなく緊張しちまってな」
ハーヴィルはコップをサイドテーブルに置くとまだ立ったままの私の腕を引いてベッドへと導いた。処女でもないというのに触れられたところが強張って独特の空気に緊張感が走った。
「ミサも俺と一緒…緊張してるのか?」
ここで誤魔化したところですぐにばれることだ。…というか既にばれていそうだが。私はおとなしくうなずいた。そんな私をハーヴィルは本当に緊張しているのかと疑わしくなるような手つきで力強く引き寄せる。そして私の左手に手を重ねると深く眉間に皺を寄せた。
「ミサ…お前指輪は?」
婚姻の証である指輪は、外して手の中に握りこんでいた。
「ちゃんと持ってます」
「ならなんでつけない、つければいいだろう」
「いつ返せと言われてもいいように…外しているんです。」
つけていたら未練が残ってしまう、返したくないと泣きわめいてしまいそうで。震える声でそう言うと地響きでも起きたかと思うくらい低くて恐ろしい声がハーヴィルから発せられる。
「つけろ、誰が返せなんて言った」
「ハーヴィル…でも…」
「お前は何をそんなに怖がっている。ここにきてからずっとだ。俺に何か予防線を貼って傷つくまいと保険をかけている」
私は意を決して服を脱いだ。本来これを脱いだら裸になる、はずだが私の胸には何重にも包帯を巻いてもらっていた。
「それは…」
「ひどい…怪我の跡があるんです。今まで見てきた男性はすぐにベッドから出るくらいとても見ていられない傷です」
ハーヴィルの手を取って右胸の形を確かめさせた。今までは下着やパッドで誤魔化していたが本来膨らんでいるべき胸の一部が不自然にへこんで肉が抉れている。
「それを知られて…拒否、されるのが…怖くて…ずっと、男性と添い遂げることはあきらめていたんです。」
泣くつもりなんてなかったのに、全て明かしてしまうと涙があふれた。ぽたぽたとシーツに染みを作って止めたいのに呼吸もままならなくてただそれを見つめることしかできなかった。
しかしハーヴィルは私の背中に手を添えて包帯の結び目を乱暴に外した。そのままその包帯を引きちぎるような勢いで外していく。包帯越しでもひどい有様だとわかっているはずなのにこれ以上見られたくなくて必死で抵抗するが腕はまとめてベッドに押さえつけられる。数日間私が彼を拘束したのと同じように。
「お願いっ、やめて…っ」
彼から拒否される覚悟はできていたはずなのにいざ全てをさらす状況になると包帯の存在に縋り付きたくなる。これを取られたらもう後戻りはできない。胸を隠すこともできない状況で抵抗できるのは口だけだがそんなもの聞き入れてもらえるはずもなく、無情にもそこは空気に晒されることになる。
包帯を解いて露わになった胸は肉を抉るようにしてグロテスクな傷跡が残っている。右胸は半分以上なくなって不格好にへこんでしまっている。10年も前の傷だが痕は一向に消えることはない。
「ほ、ら…っ後悔したでしょ?こんな体じゃ誰も私を娶ろうとは思わない。」
自らの体を嘲り、そう言ってやる。どうせあなたもほかの男性と同じなんでしょ、と。本当は期待や希望をするなと自分に向けた言葉だった。しかし予想外にも彼はそんな私に熱い口づけをした。
突然のことに目を見開いたまま抵抗もできない。大きな腕ですっぽりと抱き寄せられて彼の心臓の音まで鮮明に聞こえるほどに密着させられる。分厚い舌がその形とは反対に丁寧にねっとりと口内を舐め回して角度を変えて何度も口付けをした。彼とは初めてのキスだというのにあまりに濃厚なそれに意識がもうろうとする。
「誰がこんな怪我させやがった」
唇が離れたと思ったらまた低い声がハーヴィルから発されていてぴくりと体が強張る。
「じゅ、10年前…村を襲ってきた野盗に…妹が襲われかけて…その時」
「そいつは、逃げたのか?」
「その時は、無我夢中で…妹を守るために、私が殺した」
震える声でそう答えると、ハーヴィルは息を吐いて私の肩に頭を寄り掛からせた。
「こんなに綺麗な肌してるっつーのに…俺がぶち殺してやりたかったくらいだ」
「き、もちわるく…ないの…?」
「見せてやっただろ、俺たち村民は狩人だ。もっとエグいもんも見てる。これくらいどうってことねぇよ」
そう言ってハーヴィルは私を抱き寄せて私の腕を自分の背中へ回した。
「ほら、これはクマに肉を抉られた痕、これは狼に噛まれた痕だ…これは何にやられたかは忘れたが緊急時で自分で縫った事だけは覚えてる」
ハーヴィルは傷自体は見せないようにひとつひとつ触らせる。そうやって私を安心させてくれる姿になんだかホッとしてしまう。
そして、体を少し離すと躊躇いがちに胸を揉んだ。ピクッと反応してしまうと「痛いか?」と問いかけてくる。
10
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる