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しおりを挟む「あ、お姉、ちゃん…私…私昔から彼のこと…すきだったんだ…」
「やっと思い出した?」
涙が意識しなくともポロポロと溢れ出て、それをお姉ちゃんのハンカチが拭ってくれる。
「私…っ、彼に会って話さなきゃ…私が昔から好きな人は…っ」
「嬢ちゃーーーーーーんっ!!!!!」
そんな時窓の外から大音量で声が聞こえてきた。聞き間違えるはずもない。それは聞き慣れたベイリーさんの声だった。窓から外を見るととんでもない大きさの仕留められたであろう魔猪と共に傷だらけのベイリーさんが立っていた。
「な、何あれ…っ!?」
「あ、あれは…」
お姉ちゃんが絶句する横で私は訳もわからないが慌てて外に出た。あまりの声の大きさに村の人も集まっては魔猪の大きさにざわついている。
「ベイリーさん…っ、これ…っ」
「俺はハーヴィルより頭も要領も良くなくて…傷だらけになってでしか好きな女を守れねぇ…だけど、俺が必ず嬢ちゃんを幸せにする。だから、おじさんにしてくんねぇか?」
近くで見ると怪我はさらに痛々しい。至る所に切り傷や刺し傷、打撲の跡がある。だというのにベイリーさんは跪いて私の手の甲に恭しく唇を落とした。
「おじさん…っ、私が好きだったのは、11年前から貴方だけです」
「嬢ちゃん…その、呼び方…」
ベイリーさんは驚いてから、呆れたような笑みを浮かべた。
「おじさんじゃなくてベイリーって呼べって言ってんだろ、嬢ちゃん」
そこで彼は力尽きて倒れ込んだ。
「お前なんで普段は落ち着いてんのにたまにとっつぜんぶっ飛んだことするかね、馬鹿だろ」
数日後、村の診療所で包帯ぐるぐるで絶対安静状態のベイリーさんの前にお姉ちゃん達夫婦が訪れて、ベイリーさんに罵声を浴びせた。浴びせてるのはハーヴィルさんだけだが。
「しょうがねぇだろ、嬢ちゃんが初恋はハーヴィルだっていうから求婚の証くらいてめーを超えてやろうと思ったんだよ」
あのあとお姉ちゃんから聞いた話だがどうやらあの魔猪は求婚の証だったようで、この村では魔猪を自分一人の力で仕留め、捧げるのが最上級の求愛らしい。去年はハーヴィルさんが擦り傷と打撲数カ所で子象サイズの魔猪を仕留めたそうだ。
「超えるっつっても最終的に500g超えただけだろ」
「500gでも多いもんは多いだろ」
そして三日間全く姿を現してくれなかったのは狩りの練習で毎日傷だらけになってしまっていたから。私に心配をかけまいとわざと私と会うのを避けていたそうだ。
「退院したら覚えとけよ、お兄様」
「そりゃ楽しみだ、お前と兄弟になるなんてゾッとするけどな」
「まぁ大袈裟にされてるけどあと一週間もありゃ退院できんだろ」
「絶対安静って10日で治るもんなんですか?」
「俺たちは一応獣人だからな、人間よりは丈夫なつもりだ」
彼らは獣人、ということだが…御伽話のような話で彼らの祖先に狼の精霊にいるらしくそれ以来村の人は狼に変身出来たり、何かの弾みで狼の部分が出てしまうそうだ。代を重ねすぎたせいか神秘的な部分は薄れてきたとはいうが、記憶を操作したり、治癒力が高かったり、常人からすれば神秘が失われたようには見えない。
「絶対嬢ちゃんには耳と尻尾が出た姿は見せたくねぇ…」
「え!そんな姿になる時があるんですか?」
「ま、まぁ…ね…」
お姉ちゃんも見たことがあるのかそう答えるがなんだか歯切れが悪い。斜め上を見ながら答えているような気がする。
「まぁ、興奮したときに稀になるんだけど。あれは簡単に抑えられるものじゃねぇぞ」
「興奮…?」
「あー…ようは嬢ちゃんとセックスするとき、だな」
ハーヴィルさんの言葉に首を傾げる私にベイリーさんは言いづらそうに答えた。私もそれを聞いて顔が真っ赤になる。
「近いうちに見せちまうかもしんねぇが笑うなよ」
「わ、笑わないですよ!見れるの楽しみです」
気まずくなる空気を晴らすように笑って答える。その横で「見る分だけならいいんだけどね…」とお姉ちゃんが言っていたが、その意味が分かるのはベイリーさんが退院した日だった。
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