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それから一週間ほどが経過する。最初の2、3日は私につきっきりになってくれていたベイリーさんだが元々材木業で生計を立てていて普段は木の伐採や加工、村を出て市場で販売しているらしい。どおりで筋肉質な体つきをしているわけだ。私もベイリーさんのお世話になっている身だから出来ることを手伝いながら日々過ごしていった。
「ベイリーさんと、すっごく仲良いみたいね」
ある日お姉ちゃんの家でティータイムを楽しんでいると頬杖をついてニヤニヤとした笑みを向けられる。
「なっ、そ、そんなこと…なくも、ないけど」
私はその問いかけに動揺しつつも、ベイリーさんは優しいし変に衝突することもない。お仕事を教えるのもとても丁寧で、毎晩一緒に入浴して、私の作るご飯をなんでも美味しいと言ってニコニコしながら食べてくれる。惚気ない方が無理な話だ。
「なーんの話してんの、嬢ちゃん達」
「ベイリーさんっ、若様も…」
ベイリーさんとお姉ちゃんの旦那さん…村では若様と呼ばれているらしい彼が帰宅してきてお姉ちゃんの作ったカップケーキをひょいと摘んだ。
「若様はやめてくれ、ハーヴィルでいいよ」
にっこりと微笑みかけるハーヴィルさんは紳士的だ。お姉ちゃんはいつも満更でもなさそうだが強引で傲慢、エッチで意地悪だなんて愚痴っている。到底そんなところは想像できないのだが。
「おい、人の恋人に馴れ馴れしく声掛けるな。若様」
「馬鹿言え、嫁さんの妹だぞ。仲良くしてぇってのは当然だろ」
「いんや、性欲大魔神のお前の言葉は信用ならないね、てなわけで嬢ちゃん連れてきますよ、義姉ちゃん。あとこれいつも嬢ちゃんにお茶してくれるお礼なんでもしよかったら使ってくれ、木製の食器だ」
ベイリーさんはお姉ちゃんに紙袋を手渡して私を抱き上げた。お姉ちゃんたちの前で恥ずかしいと思いつつ、落ちないようにしがみつくことしかできない。
「んじゃ、失礼するぜ」
私が挨拶する隙も与えられず早々に家から出ていく形になってしまう。
「ベイリーさん…っ、私ちゃんと、挨拶しないと…村長さんの息子さんだし…っ、お姉ちゃんの旦那さんで」
「いいのいいの。その分俺が構ってやるから。それに、嬢ちゃん…可愛いから、あんまり他の男と話されんの…精神衛生上良くねぇんだわ。悔しいがハーヴィルもいい男だしな」
拗ねたような不安を織り交ぜたような声色に人目も憚らずぎゅうっと抱きついた。
「ベイリーさんが不安ならいくらでも言いますよ。私ベイリーさんが好き、他の人を見る余裕なんてないくらい」
そう言うと突然ベイリーさんの歩幅が広く、早足になっていく。勿論私が落ちないようガッチリと支えられてはいるがなんだか怖くなって声をかけずにはいられない。
「へ?ベイリー…さん…っ」
「そうやって俺のこと煽りやがって…家帰ったら覚悟しろよ?嬢ちゃん」
ギラギラとした目が情欲に塗れていて思わず喉の奥から短い悲鳴のような声が出る。
「ま、まだ明るいですし…っ、ベイリーさんお仕事直後で汗かいてお風呂入りたいんじゃないですか?だから…っ」
「じゃあ一緒に風呂入ってセックスしような、嬢ちゃん。これでいいだろ?」
全然何も良くないのに勝手に話が進んでいってしまう。そして無情にも家は近づいていき、扉が閉められると同時に情熱的な激しいキスをされるのだった。
激しく求められて、全身にキスマークを付けられたのちに、指一本動けなくなった私にベイリーさんが夕飯を作って食べさせられるところまでがついさっきまでの流れだ。お互い好きだと確かめあったあとのベイリーさんはなんだか独占欲が強いというよりは何かに焦っているようで、性行為も激しく甘ったるいものへと変わっていった。困りつつもそれを満更でもないと思ってしまう私も私なんだが。
今はベイリーさんが食器を洗っていて私は寝室で一人ベイリーさんの香りがするベッドの中でぬくぬくと余韻に浸っていた。不意にサイドボードに置きっぱなしの本が目に入って、そういえばベイリーさんはどんな本を読むんだろうと、近くにある本棚に歩み寄った。
「林業関係の本と…動植物の図鑑、ベイリーさんらしいな…」
一緒に森の中に入るとガイドさんのように色々なことを教えてくれる。森のことなら何でも知っているまさにベイリー・ウッド、その名の通りだ。
本棚は下のほうに行くと数冊のアルバムがあって、興味本位でぺらぺらとめくっていく。それも動植物を撮ったであろう写真ばかりだったがとあるページで、今より若くて体格も少し細身なベイリーさんが映った写真が出てくる。年齢は…恐らく今の私と同じくらいだろうか。そしてその隣にいる人物に目を見開いた。
「この、写真…」
ベイリーさんと…お姉ちゃんと、お姉ちゃんの旦那さん、それに私。お姉ちゃんが車椅子に乗っていることから…恐らく事件の数日後だろう。
若々しいベイリーさんは私の頭を撫でて、私はそれを笑顔で受け入れていた。そこでずっと忘れていたことを少しずつ思い出す。11年前の、事件の時…ずっと忘れていたが助けてくれた人は何日か村にいた。そして私の憧れの人───私を助けてくれた人…ベイリーさんだったんだ。嬉しさで胸がいっぱいになり、ギュッとその写真を抱きしめた。
そうと分かるとキッチンにいるベイリーさんに駆けていく。洗い物をしているなんて関係なく、その背中に抱きついた。
「お、いっ?!嬢ちゃんどうした、あぶねぇだろっ!」
注意しながらもしっかり受け止めてくれるベイリーさん。いつもより更に愛しさが募って、数分はそのまま彼に抱きついていた。ベイリーさんは「どうした?」といいながらもいつも通り頭を撫でてくれる。そしてやっと離れると写真を笑顔で差し出した。
「11年前、私とお姉ちゃんを助けてくれたの、ベイリーさんだったんですね!」
ベイリーさんはその写真を見ると目を見開いた。
「どうして、これを…」
「寝室にあったアルバム…見ちゃったんです、これ!若いですけどベイリーさんですよね。昔からイケメンだったと言うか…私のこと知ってるなら言ってくれれば良かったじゃないですか!水臭いなぁ」
「違う」
明るいトーンで話す私に突き刺すような鋭い声がベイリーさんから発せられた。そして自分の声色にハッとして目を伏せた。
「ち、違うって…どういう、こと、ですか…?」
「嬢ちゃんと姉さんを助けたのは俺じゃねぇんだ。ハーヴィルなんだ」
「え…」
「記憶が混濁してるのは当然だ、ワケあって俺たちがお前たち村人の記憶を消した。悪かったな…お前の姉さんの旦那がお前の憧れだって…流石に言い出せなかったんだ」
どういう、こと…?
助けてくれたのはお姉ちゃんの旦那さん?
私たちは記憶が、消されて…?
ベイリーさんは最後の食器を水切りに立て掛けて、こちらを一度も見ずに、寝室へと歩いていった。
「ごめんな、嬢ちゃんの憧れが俺じゃなくて」
そう、言い残して─
「ベイリーさんと、すっごく仲良いみたいね」
ある日お姉ちゃんの家でティータイムを楽しんでいると頬杖をついてニヤニヤとした笑みを向けられる。
「なっ、そ、そんなこと…なくも、ないけど」
私はその問いかけに動揺しつつも、ベイリーさんは優しいし変に衝突することもない。お仕事を教えるのもとても丁寧で、毎晩一緒に入浴して、私の作るご飯をなんでも美味しいと言ってニコニコしながら食べてくれる。惚気ない方が無理な話だ。
「なーんの話してんの、嬢ちゃん達」
「ベイリーさんっ、若様も…」
ベイリーさんとお姉ちゃんの旦那さん…村では若様と呼ばれているらしい彼が帰宅してきてお姉ちゃんの作ったカップケーキをひょいと摘んだ。
「若様はやめてくれ、ハーヴィルでいいよ」
にっこりと微笑みかけるハーヴィルさんは紳士的だ。お姉ちゃんはいつも満更でもなさそうだが強引で傲慢、エッチで意地悪だなんて愚痴っている。到底そんなところは想像できないのだが。
「おい、人の恋人に馴れ馴れしく声掛けるな。若様」
「馬鹿言え、嫁さんの妹だぞ。仲良くしてぇってのは当然だろ」
「いんや、性欲大魔神のお前の言葉は信用ならないね、てなわけで嬢ちゃん連れてきますよ、義姉ちゃん。あとこれいつも嬢ちゃんにお茶してくれるお礼なんでもしよかったら使ってくれ、木製の食器だ」
ベイリーさんはお姉ちゃんに紙袋を手渡して私を抱き上げた。お姉ちゃんたちの前で恥ずかしいと思いつつ、落ちないようにしがみつくことしかできない。
「んじゃ、失礼するぜ」
私が挨拶する隙も与えられず早々に家から出ていく形になってしまう。
「ベイリーさん…っ、私ちゃんと、挨拶しないと…村長さんの息子さんだし…っ、お姉ちゃんの旦那さんで」
「いいのいいの。その分俺が構ってやるから。それに、嬢ちゃん…可愛いから、あんまり他の男と話されんの…精神衛生上良くねぇんだわ。悔しいがハーヴィルもいい男だしな」
拗ねたような不安を織り交ぜたような声色に人目も憚らずぎゅうっと抱きついた。
「ベイリーさんが不安ならいくらでも言いますよ。私ベイリーさんが好き、他の人を見る余裕なんてないくらい」
そう言うと突然ベイリーさんの歩幅が広く、早足になっていく。勿論私が落ちないようガッチリと支えられてはいるがなんだか怖くなって声をかけずにはいられない。
「へ?ベイリー…さん…っ」
「そうやって俺のこと煽りやがって…家帰ったら覚悟しろよ?嬢ちゃん」
ギラギラとした目が情欲に塗れていて思わず喉の奥から短い悲鳴のような声が出る。
「ま、まだ明るいですし…っ、ベイリーさんお仕事直後で汗かいてお風呂入りたいんじゃないですか?だから…っ」
「じゃあ一緒に風呂入ってセックスしような、嬢ちゃん。これでいいだろ?」
全然何も良くないのに勝手に話が進んでいってしまう。そして無情にも家は近づいていき、扉が閉められると同時に情熱的な激しいキスをされるのだった。
激しく求められて、全身にキスマークを付けられたのちに、指一本動けなくなった私にベイリーさんが夕飯を作って食べさせられるところまでがついさっきまでの流れだ。お互い好きだと確かめあったあとのベイリーさんはなんだか独占欲が強いというよりは何かに焦っているようで、性行為も激しく甘ったるいものへと変わっていった。困りつつもそれを満更でもないと思ってしまう私も私なんだが。
今はベイリーさんが食器を洗っていて私は寝室で一人ベイリーさんの香りがするベッドの中でぬくぬくと余韻に浸っていた。不意にサイドボードに置きっぱなしの本が目に入って、そういえばベイリーさんはどんな本を読むんだろうと、近くにある本棚に歩み寄った。
「林業関係の本と…動植物の図鑑、ベイリーさんらしいな…」
一緒に森の中に入るとガイドさんのように色々なことを教えてくれる。森のことなら何でも知っているまさにベイリー・ウッド、その名の通りだ。
本棚は下のほうに行くと数冊のアルバムがあって、興味本位でぺらぺらとめくっていく。それも動植物を撮ったであろう写真ばかりだったがとあるページで、今より若くて体格も少し細身なベイリーさんが映った写真が出てくる。年齢は…恐らく今の私と同じくらいだろうか。そしてその隣にいる人物に目を見開いた。
「この、写真…」
ベイリーさんと…お姉ちゃんと、お姉ちゃんの旦那さん、それに私。お姉ちゃんが車椅子に乗っていることから…恐らく事件の数日後だろう。
若々しいベイリーさんは私の頭を撫でて、私はそれを笑顔で受け入れていた。そこでずっと忘れていたことを少しずつ思い出す。11年前の、事件の時…ずっと忘れていたが助けてくれた人は何日か村にいた。そして私の憧れの人───私を助けてくれた人…ベイリーさんだったんだ。嬉しさで胸がいっぱいになり、ギュッとその写真を抱きしめた。
そうと分かるとキッチンにいるベイリーさんに駆けていく。洗い物をしているなんて関係なく、その背中に抱きついた。
「お、いっ?!嬢ちゃんどうした、あぶねぇだろっ!」
注意しながらもしっかり受け止めてくれるベイリーさん。いつもより更に愛しさが募って、数分はそのまま彼に抱きついていた。ベイリーさんは「どうした?」といいながらもいつも通り頭を撫でてくれる。そしてやっと離れると写真を笑顔で差し出した。
「11年前、私とお姉ちゃんを助けてくれたの、ベイリーさんだったんですね!」
ベイリーさんはその写真を見ると目を見開いた。
「どうして、これを…」
「寝室にあったアルバム…見ちゃったんです、これ!若いですけどベイリーさんですよね。昔からイケメンだったと言うか…私のこと知ってるなら言ってくれれば良かったじゃないですか!水臭いなぁ」
「違う」
明るいトーンで話す私に突き刺すような鋭い声がベイリーさんから発せられた。そして自分の声色にハッとして目を伏せた。
「ち、違うって…どういう、こと、ですか…?」
「嬢ちゃんと姉さんを助けたのは俺じゃねぇんだ。ハーヴィルなんだ」
「え…」
「記憶が混濁してるのは当然だ、ワケあって俺たちがお前たち村人の記憶を消した。悪かったな…お前の姉さんの旦那がお前の憧れだって…流石に言い出せなかったんだ」
どういう、こと…?
助けてくれたのはお姉ちゃんの旦那さん?
私たちは記憶が、消されて…?
ベイリーさんは最後の食器を水切りに立て掛けて、こちらを一度も見ずに、寝室へと歩いていった。
「ごめんな、嬢ちゃんの憧れが俺じゃなくて」
そう、言い残して─
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