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「この辺りで先週見たんですね?ありがとうございます」
数年前に村を出た姉を探して早4年。ずっと見つからなかった手がかりがここに来てやっと見つかった。
11年前、父と母が野盗に襲われて亡くなり、姉は私を庇って体に大きな傷を負った。その傷のせいで姉は結婚を踏みとどまって、私が自分に気を使わないように一人村を出てしまったのだ。勿論出ていった理由までは口にしなかったが、そんな考え妹の私には痛いほどわかった。そうやって成人してから旅に出たはいいものの…手がかりが見つからないまま年月だけが経過していった。
しかし神様は私のことを見放さなかったようで…村から何百キロとかなり遠くに向かったこの辺りで、姉の目撃情報を得たのである。
それはとある市場で一年ほど前から姉の姿を何度か見ることがあったというものだ。どこから来たかは聞いてもはぐらかされてしまうとのことだが、いつもこの市場の南の森の中からやってくるとのことだった。地図で見る限り、夜は危険な魔獣が出るとのことだが夜になりそうだったらその前に出てしまえばいいかと呑気に森の中へと入っていった。
そして迷ったあげく、周りは真っ暗になってしまった。近くで狼の遠吠えが聞こえて、嫌な予感しかしない。せっかくお姉ちゃんと出会えそうだっていうのにこんなところで死ねないと周囲を見回して見るが手がかりは全くなかった。ガサッと木々が掻き分けられるような音がすぐ近くでしてもう終わった、と思った瞬間───
「こんなとこでどうしたんだ、嬢ちゃん」
そこにいたのは一人の男性だった。190はありそうな長身に垂れ目、目の下には小さなシワがある。黒い前髪は下され、後ろは軽く一つに縛っているようだ。年齢はおそらく…30代半ばくらいだろうか?
ここに来てやっと人と会えてほっとしたからか腰を抜かしてしまう。
「おいおいおい、おじさんなんもしてねぇだろ…、どうしたってんだ」
男性は慌てて私に駆け寄って私に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「あ、あねを…探しているんです。その途中で迷っちゃって…」
私が姉の写真を差し出すと男性はそれを受け取って、じっと見つめた。
「…よし、分かった。」
男性は私の腰を掴んだと思ったらそのまま軽々と担いでしまう。突然の展開に混乱するものの体勢のせいでろくに暴れることもできない。
「あ、あの…っ?」
「知ってるよ、この写真の姉ちゃん。俺たちの村にいるから連れていってやる。」
「本当ですか?!」
「ああ、ちょっと歩くから大人しくしててくれ」
あんまり、ちゃんと見れなかったけど…このお兄さん、ものすごく好みドストライクな気がする。年齢の割には結構逞しい体つきだし、耳を優しく撫でる低くて渋い声も好みだ。会って数分、お姉ちゃんとのこともあって私自身もお姉ちゃんが結婚するまで自分もそういう相手を見つけたりしないと誓っていたはずなのに、変にドキドキしてしまっている。
「嬢ちゃんもあの姉ちゃんと同じ…ここから遠く離れた…あの村から来たのか?10年くらい前に色々あったっていう」
「ええ、どうしてもお姉ちゃんが気になって…いてもたってもいられず、成人してから村を飛び出してきてしまって」
「そっか、仲の良い姉妹なんだな、嬢ちゃんのお姉ちゃんも妹が幸せであることいつも願ってたよ」
どうやら彼は姉のことをよく知っているような口ぶりだ。もしかして…
「お姉ちゃんと付き合ってたり、するんですか?」
私のその直球な質問に彼はゲホゲホとむせ始めた。どうやら的外れな質問だったみたいだ。
「姉ちゃんは俺の知り合いの嫁さんでよ…残念ながらおじさんはこの年になっても悲しい独り身ですよ」
「お姉ちゃん…結婚してたんだ。」
「一年前になるかな、村長の息子と結婚して今は若奥様ってやつだ」
お姉ちゃんの花嫁姿見たかったなぁなんて思いながら気づけば村に近付いていた。そして男性が私を下ろすと今度は腕を引いてお姉ちゃんのところまで案内してくれる。やっぱり、横から見てもタイプな容姿で、目が離せない。
「なんか、さっきからずっと見られてる気がするんだけど…おじさんの顔になんかついてる?」
「い、いえ!その…素敵な、方だな…と」
視線が完全にバレているのだと指摘されると、テンパって思ったことをそのまま口にしてしまう。そう言うと彼は驚きつつもへらりと笑った。
「可愛くて若い嬢ちゃんに言われちゃあおじさん調子乗っちゃうから、あんまりこういうこと簡単に言っちゃダメだよ?」
調子乗ってもいいのにと思いつつ流石にそこは口を噤んだ。そしてとある大きな家の前に到着すると彼はやや乱暴にノックした。
「今夕飯…ってなんだベイリーじゃねぇか」
家から出てきたのは顔に傷のある、黒髪の男性だった。彼も私を案内してくれた男性と同じくらいの年齢で、背が高くて、顔立ちが整っている美中年というやつだった。
「で、どうしたんだ…なんだ、ツレがいるのか?」
「ああ、この嬢ちゃんがお前んとこの姉ちゃんの妹らしくてな。ずっと一人で旅してたっていうもんだから連れてきたわけよ」
「妹…?」
「ハーヴィル、どうしたんですか?こんな時間にお客さん?」
家の奥から懐かしい声が聞こえてきて人の家であろうと関係ないという勢いでその声の方へ駆けて行った。
「お姉ちゃん…っ!」
「え、エリー?!」
お姉ちゃんは飛びついた私を驚きながらも受け止めてくれた。記憶よりも少し大人っぽいお姉ちゃん。だけどすぐに私を私だと認識して、優しく抱きしめてくれた。
「お姉ちゃん…っ、会いたかったよぉ…っ!」
「エリー…ごめんね。貴方に幸せになって欲しくて私一人出ていってしまったけど…心細い思いをさせてしまってたんだね…、こんなに大きくなって…」
そのまま私はお姉ちゃんに抱きついたまま再会の喜びに泣き続けた。
数年前に村を出た姉を探して早4年。ずっと見つからなかった手がかりがここに来てやっと見つかった。
11年前、父と母が野盗に襲われて亡くなり、姉は私を庇って体に大きな傷を負った。その傷のせいで姉は結婚を踏みとどまって、私が自分に気を使わないように一人村を出てしまったのだ。勿論出ていった理由までは口にしなかったが、そんな考え妹の私には痛いほどわかった。そうやって成人してから旅に出たはいいものの…手がかりが見つからないまま年月だけが経過していった。
しかし神様は私のことを見放さなかったようで…村から何百キロとかなり遠くに向かったこの辺りで、姉の目撃情報を得たのである。
それはとある市場で一年ほど前から姉の姿を何度か見ることがあったというものだ。どこから来たかは聞いてもはぐらかされてしまうとのことだが、いつもこの市場の南の森の中からやってくるとのことだった。地図で見る限り、夜は危険な魔獣が出るとのことだが夜になりそうだったらその前に出てしまえばいいかと呑気に森の中へと入っていった。
そして迷ったあげく、周りは真っ暗になってしまった。近くで狼の遠吠えが聞こえて、嫌な予感しかしない。せっかくお姉ちゃんと出会えそうだっていうのにこんなところで死ねないと周囲を見回して見るが手がかりは全くなかった。ガサッと木々が掻き分けられるような音がすぐ近くでしてもう終わった、と思った瞬間───
「こんなとこでどうしたんだ、嬢ちゃん」
そこにいたのは一人の男性だった。190はありそうな長身に垂れ目、目の下には小さなシワがある。黒い前髪は下され、後ろは軽く一つに縛っているようだ。年齢はおそらく…30代半ばくらいだろうか?
ここに来てやっと人と会えてほっとしたからか腰を抜かしてしまう。
「おいおいおい、おじさんなんもしてねぇだろ…、どうしたってんだ」
男性は慌てて私に駆け寄って私に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「あ、あねを…探しているんです。その途中で迷っちゃって…」
私が姉の写真を差し出すと男性はそれを受け取って、じっと見つめた。
「…よし、分かった。」
男性は私の腰を掴んだと思ったらそのまま軽々と担いでしまう。突然の展開に混乱するものの体勢のせいでろくに暴れることもできない。
「あ、あの…っ?」
「知ってるよ、この写真の姉ちゃん。俺たちの村にいるから連れていってやる。」
「本当ですか?!」
「ああ、ちょっと歩くから大人しくしててくれ」
あんまり、ちゃんと見れなかったけど…このお兄さん、ものすごく好みドストライクな気がする。年齢の割には結構逞しい体つきだし、耳を優しく撫でる低くて渋い声も好みだ。会って数分、お姉ちゃんとのこともあって私自身もお姉ちゃんが結婚するまで自分もそういう相手を見つけたりしないと誓っていたはずなのに、変にドキドキしてしまっている。
「嬢ちゃんもあの姉ちゃんと同じ…ここから遠く離れた…あの村から来たのか?10年くらい前に色々あったっていう」
「ええ、どうしてもお姉ちゃんが気になって…いてもたってもいられず、成人してから村を飛び出してきてしまって」
「そっか、仲の良い姉妹なんだな、嬢ちゃんのお姉ちゃんも妹が幸せであることいつも願ってたよ」
どうやら彼は姉のことをよく知っているような口ぶりだ。もしかして…
「お姉ちゃんと付き合ってたり、するんですか?」
私のその直球な質問に彼はゲホゲホとむせ始めた。どうやら的外れな質問だったみたいだ。
「姉ちゃんは俺の知り合いの嫁さんでよ…残念ながらおじさんはこの年になっても悲しい独り身ですよ」
「お姉ちゃん…結婚してたんだ。」
「一年前になるかな、村長の息子と結婚して今は若奥様ってやつだ」
お姉ちゃんの花嫁姿見たかったなぁなんて思いながら気づけば村に近付いていた。そして男性が私を下ろすと今度は腕を引いてお姉ちゃんのところまで案内してくれる。やっぱり、横から見てもタイプな容姿で、目が離せない。
「なんか、さっきからずっと見られてる気がするんだけど…おじさんの顔になんかついてる?」
「い、いえ!その…素敵な、方だな…と」
視線が完全にバレているのだと指摘されると、テンパって思ったことをそのまま口にしてしまう。そう言うと彼は驚きつつもへらりと笑った。
「可愛くて若い嬢ちゃんに言われちゃあおじさん調子乗っちゃうから、あんまりこういうこと簡単に言っちゃダメだよ?」
調子乗ってもいいのにと思いつつ流石にそこは口を噤んだ。そしてとある大きな家の前に到着すると彼はやや乱暴にノックした。
「今夕飯…ってなんだベイリーじゃねぇか」
家から出てきたのは顔に傷のある、黒髪の男性だった。彼も私を案内してくれた男性と同じくらいの年齢で、背が高くて、顔立ちが整っている美中年というやつだった。
「で、どうしたんだ…なんだ、ツレがいるのか?」
「ああ、この嬢ちゃんがお前んとこの姉ちゃんの妹らしくてな。ずっと一人で旅してたっていうもんだから連れてきたわけよ」
「妹…?」
「ハーヴィル、どうしたんですか?こんな時間にお客さん?」
家の奥から懐かしい声が聞こえてきて人の家であろうと関係ないという勢いでその声の方へ駆けて行った。
「お姉ちゃん…っ!」
「え、エリー?!」
お姉ちゃんは飛びついた私を驚きながらも受け止めてくれた。記憶よりも少し大人っぽいお姉ちゃん。だけどすぐに私を私だと認識して、優しく抱きしめてくれた。
「お姉ちゃん…っ、会いたかったよぉ…っ!」
「エリー…ごめんね。貴方に幸せになって欲しくて私一人出ていってしまったけど…心細い思いをさせてしまってたんだね…、こんなに大きくなって…」
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