約束は後先を考えて!

めぐみ

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act3 ハッピーバースデー

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エリスさんはもともと、農業で生計を営む母親と父親の3人暮らしで平和に暮らしていたようだ。どこにでもある仲のいい家族…しかしある日突然、エリスさんのお母様が不慮の事故で亡くなってしまった。その時エリスさんもかなりショックを受けていたが、それ以上にダメージを受けていたのは父親の方だった。愛した女性が突然事故で亡くなったという現実を受け止められず、彼は狂った。
仕事はせず、酒に溺れ、家事はずっとエリスさんが行っていたらしい。献身的に父親を支える中で歯車はさらに狂い始める。もともとエリスさんは母親にそっくりだったそうだ。父親がその頃は細身だったエリスさんを押し倒して─

「その後エリスの目の前で自殺したんだ。母親と父親を同時に失い、しまいに父親に…、されてしまった彼も狂ってしまったんだよ。父親との忌まわしい出来事は全て記憶の奥に封じ、父親の双子の弟である…私を父親だと勘違いしているんだ。うなされていたのは無意識で記憶の奥底の出来事に囚われているからだろう。」

「そんな…」

「エリスは周囲がうるさいからと言って目を隠しているけどね…あれも本当の理由は、母親と全く同じのターコイズブルーの眼を無意識のうちに隠している。真実を伝えたらきっとあの子は狂って二度と戻れなくなるだろう。だから…」

「分かりました。勿論エリスさんには言いません…ごめんなさい、思い出させたくないこと…聞いてしまって」

「いや、君がエリスをどういう形かは分からないが大事に思ってくれてることだけは伝わったから私も話したんだ。」

彼が笑うと目尻に皺が寄って私も釣られて笑みが溢れた。自分の人生を投げ打ってまで…父親を演じ続けた叔父。すごく優しい人なんだろうと思うと胸がじんわりと温かくなった。
「ま、まぁ恋人とかではないんですけどね!」

「へぇ…でもエリスは君のこと、恋人だとは言わなかったけど手放したくない女性だとは言っていたよ?」

「え、へ…っ?!」

クスリと意地悪な笑みを浮かべる姿はやけにエリスさんに似ていてその言葉の意味も含めて顔が熱くなる。それは…どういう意味なんだろう。都合のいい女っていう意味なのか…それとも…。タイミング悪く、その瞬間にエリスさんが戻ってきてしまう。私たちを見ると一瞬固まって訝しげな視線を向けた。

「…おい、親父。再婚も考えたらとは言ったが…俺の知り合いの、しかも俺より年下の女は勘弁してくれよ」

エリスさんの私たちを見た第一声がそれだった。思いっきり誤解されている。

「いや、エリスさんそんなんじゃないですって!」

「はぁん?んな顔真っ赤にして何言ってんだお前は。絶対親父となんかあっただろ」

彼は私の顎を掴んで、ギロリと私を睨んだ。なんか分からないけど誕生日の人を不機嫌にさせている。

「じゃあ私は料理が終わったから帰るよ。手放したくない女性は大事にな?エリス」

「なっ、それシャノンに言ったんじゃねぇよな?!」

「さぁね、じゃ…あとは二人で楽しみなさい。失礼するよ」

そう言ってエリスさんの叔父様は荷物を纏めて足早に出て行った。残されたのはテーブルに置かれた数々の美味しそうな手料理と私たち2人。ローストビーフにチーズフォンデュ、ステーキ。目の前の料理に溢れ出す唾液を飲み込む。そんな中、エリスさんはため息をついて椅子を引いた。

「ほら、座れよ」

どうやらエスコートしてくれているらしい。台所に置いてある最後の料理、タコと玉ねぎのマリネをテーブルに持っていってエリスさんの引いた椅子に座った。エリスさんも反対側に回って椅子を引いて座る。

「じゃあ、いただきます」

「ああ、親父張り切って作ってたからな、遠慮せず食ってくれ。」

「あ!そうだ、エリスさん誕生日プレゼント」

持ってきていた紙袋を差し出すとエリスさんは目を丸くしてそれを見た。そしてぎこちない手でそれを受け取るとそわそわと落ち着かない様子を見せた。

「開けてもいいか?」

「そ、そんなに緊張して受け取ってもらうものじゃないけど…っ、勿論どうぞ」

プレゼントは2つ。一つは肌荒れに効くハンドクリーム、もう一つは多機能のハサミだ。

「使ってたハサミだいぶ切れ味悪そうだったから、新調するのにいいかなって。枝とかロープ切るのにも使えるみたいだからもしよかったら使って?」

「ほぉ…」

エリスさんは目を輝かせながらハサミを動かした。男性に贈るには情緒というかそういうものが足りないかとも思ったがエリスさん相手にそういうのを考えるのも違うかと思って素直に彼が必要そうなものを選んだ。どうやら気に入って貰えたようだ。

「俺のことよく見ててくれたんだな」

「あれだけ舌打ちしながらハサミ使ってたら嫌でも気付きますよ」

クスクスと笑いながらそう答えた。よっぽど今使っているハサミの切れ味が悪いのかイライラしながら作業をしているところをよく見かけていた。

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