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act3 ハッピーバースデー
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家の中に入って彼も話していた変質者に関して思い返す。詳細は朝の職員会議でも話されたことだったがここ一週間で3人ほど帰り道で女子生徒が連れ去られそうになりかけたとのことだ。相手は男─顔の特徴は、わからない。というのもその男はクマの姿で現れるそうだ。
今まではたまたま近くに大人がいたから相手を威嚇して事なきを得たとのことだがいまだに犯人は見つかっていない。今も教職員が交代で登下校の見回りをしている。今日は休みだったが明日は私も当番だ。
自身も獣人とはいえ獣人が獣に姿を変えることは少ない。顔の判別はできないのだ。その代わり鼻が利くので遭遇した者の嗅覚を頼りに捕まえるしかない。とはいっても匂いは他人に共有できるものではない。捜索は難航している。
「はぁ…物騒だな…大きい村でもないのに」
そうして何事もなく、というか結局犯人が見つからないままエリスさんの誕生日を迎えた。最後に変質者が現れた日─先週の土曜日から犯人は鳴りを潜めている。
「お邪魔しまーす」
月曜日同様、彼と一緒に下校してそのまま彼の家に向かった。プレゼントも持ったし、夕飯はすでに家にいるお父様が作ってくれているらしい。
どんなお父様なんだろう、と少し挙動不審気味でエリスさんの後ろについてキッチンへと向かった。そこにいたのは30歳の息子を持つにはかなり若く見える体格のいい男性だった。恐らく50歳は超えているのだろうが40代前半と言っても納得のいく雰囲気で、エリスさんには似ていないがタイプの違う渋さを持ったかっこよさがある。清潔感のあるワイシャツとジーンズを着こなして今日な手つきで料理をしている。
「親父、帰ったぞ。この人が話してた職場のシャノン…さんだ」
「ど、どうも…!美術教師をしているシャノン・ヴァーノンと申します」
紹介するからかさん付けで呼ばれるのはなんだかくすぐったい。私も緊張しながら手を差し出した。
「どうも、シャノンさん…エリスの父です。聞いていた通り、とても愛嬌のあるお嬢さんだ。エリスも誕生日おめでとう」
中身までエリスさんと似つかない。粗暴の”そ”の字もない紳士的な男性だった。でも握手をする手はエリスさん同様、仕事人のゴツゴツした手でそう言えば農家をしていることを思い出す。
「聞いていた通りってなんて話してるんですか?」
「うるさくて俺の体を求めてくる変態女って」
「誤解を招く言い方ご家族にもしてるんですか?!」
「いやいや、私も事情は分かっているよ、デッサンのモデルだろう?お前もなかなか人を呼んだらしないからこうやって誕生日を祝ってくれる人がいて父さんも安心だ」
「ガキじゃあるまいし」
エリスさんはため息をついてソファの上に荷物を置いて座った。そして隣に座るようにぽんぽんと隣を叩いた。
「おい、エリス…座って休むのもいいがお前汗ひどいぞ、シャワーでも浴びてきなさい」
「あー…はいはい、鼻が利く親父を持つと大変だな、入ってきますよ」
キッチンに隣接するリビングで一人待っているのも落ち着かない。おもむろにソファから立ち上がってキッチンに向かった。
「あの、何かお手伝いできることがあればしたいんですけど…」
「えっ、いいのかい…じゃあ、マリネを作ってるから玉ねぎスライスしてくれるかな」
スライサーと玉ねぎを手渡されてベリベリと玉ねぎの皮を剥いた。エリスさん本人は聞き間違いだとは言っていたがやっぱりあの寝言のことが気になってしまう。あんな風にうなされるなんて…きっと何かあるんじゃないか、人の家庭の事情に首を突っ込むのはよくないと思いつつも…口は勝手に動いていた。
「はぁ…エリスがねぇ…うなされてたのか」
「昔…何かあったんですか?」
もしかしたら彼がエリスさんを虐待をしていたとか、そんなことも予想の範囲内だ。最近不審者がうろついているということもあり必死で隠した手は震えている。しかし、帰ってきた言葉は予想外のものだ。
「初めてエリスが私に会わせた人だから…君を信用して話すよ。だがこれはエリスには言わないで欲しい。」
「その、内容にもよりますけど…」
「…うん、エリスも知らないことだが…私はエリスの父親ではないんだ。そしてエリスがうなされてる”父さん”っていうのは実の父親のことでね」
「え…?」
あまりに予想外のことに玉ねぎを落としそうになる。話を聞いていくうちに30にもなる男性に実の父親ではないと隠し続けている理由も分かってきた。
今まではたまたま近くに大人がいたから相手を威嚇して事なきを得たとのことだがいまだに犯人は見つかっていない。今も教職員が交代で登下校の見回りをしている。今日は休みだったが明日は私も当番だ。
自身も獣人とはいえ獣人が獣に姿を変えることは少ない。顔の判別はできないのだ。その代わり鼻が利くので遭遇した者の嗅覚を頼りに捕まえるしかない。とはいっても匂いは他人に共有できるものではない。捜索は難航している。
「はぁ…物騒だな…大きい村でもないのに」
そうして何事もなく、というか結局犯人が見つからないままエリスさんの誕生日を迎えた。最後に変質者が現れた日─先週の土曜日から犯人は鳴りを潜めている。
「お邪魔しまーす」
月曜日同様、彼と一緒に下校してそのまま彼の家に向かった。プレゼントも持ったし、夕飯はすでに家にいるお父様が作ってくれているらしい。
どんなお父様なんだろう、と少し挙動不審気味でエリスさんの後ろについてキッチンへと向かった。そこにいたのは30歳の息子を持つにはかなり若く見える体格のいい男性だった。恐らく50歳は超えているのだろうが40代前半と言っても納得のいく雰囲気で、エリスさんには似ていないがタイプの違う渋さを持ったかっこよさがある。清潔感のあるワイシャツとジーンズを着こなして今日な手つきで料理をしている。
「親父、帰ったぞ。この人が話してた職場のシャノン…さんだ」
「ど、どうも…!美術教師をしているシャノン・ヴァーノンと申します」
紹介するからかさん付けで呼ばれるのはなんだかくすぐったい。私も緊張しながら手を差し出した。
「どうも、シャノンさん…エリスの父です。聞いていた通り、とても愛嬌のあるお嬢さんだ。エリスも誕生日おめでとう」
中身までエリスさんと似つかない。粗暴の”そ”の字もない紳士的な男性だった。でも握手をする手はエリスさん同様、仕事人のゴツゴツした手でそう言えば農家をしていることを思い出す。
「聞いていた通りってなんて話してるんですか?」
「うるさくて俺の体を求めてくる変態女って」
「誤解を招く言い方ご家族にもしてるんですか?!」
「いやいや、私も事情は分かっているよ、デッサンのモデルだろう?お前もなかなか人を呼んだらしないからこうやって誕生日を祝ってくれる人がいて父さんも安心だ」
「ガキじゃあるまいし」
エリスさんはため息をついてソファの上に荷物を置いて座った。そして隣に座るようにぽんぽんと隣を叩いた。
「おい、エリス…座って休むのもいいがお前汗ひどいぞ、シャワーでも浴びてきなさい」
「あー…はいはい、鼻が利く親父を持つと大変だな、入ってきますよ」
キッチンに隣接するリビングで一人待っているのも落ち着かない。おもむろにソファから立ち上がってキッチンに向かった。
「あの、何かお手伝いできることがあればしたいんですけど…」
「えっ、いいのかい…じゃあ、マリネを作ってるから玉ねぎスライスしてくれるかな」
スライサーと玉ねぎを手渡されてベリベリと玉ねぎの皮を剥いた。エリスさん本人は聞き間違いだとは言っていたがやっぱりあの寝言のことが気になってしまう。あんな風にうなされるなんて…きっと何かあるんじゃないか、人の家庭の事情に首を突っ込むのはよくないと思いつつも…口は勝手に動いていた。
「はぁ…エリスがねぇ…うなされてたのか」
「昔…何かあったんですか?」
もしかしたら彼がエリスさんを虐待をしていたとか、そんなことも予想の範囲内だ。最近不審者がうろついているということもあり必死で隠した手は震えている。しかし、帰ってきた言葉は予想外のものだ。
「初めてエリスが私に会わせた人だから…君を信用して話すよ。だがこれはエリスには言わないで欲しい。」
「その、内容にもよりますけど…」
「…うん、エリスも知らないことだが…私はエリスの父親ではないんだ。そしてエリスがうなされてる”父さん”っていうのは実の父親のことでね」
「え…?」
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