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act3 ハッピーバースデー
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「お父さんとなんかあったの?」
今日1日の業務も終わって帰り際、偶然タイミングが一緒だったエリスさんにそう尋ねると私の問いかけに首を傾げた。
「別に何もないけど…なんで突然」
「いや、寝言で父さんって呼んでうなされてたから…なんかあったのかなって」
「聞き間違いじゃねぇの?俺親父のことは親父って呼ぶし…父さん呼んでたのなんてかなり前だよ」
「ふーん…」
下駄箱に到着するとエリスさんは体躯にあった大きな靴を出した。30センチはあるんじゃないだろうか。ついマジマジと見つめてしまう。
「そういや水曜日、親父も来るらしいから…つってもすぐ帰るだろうからあんまり気にすんな」
「へー…仲、良いんだね」
「いいっつってんのにさ、俺もう明後日で30だぞ。子離れしろっての」
「そうは言っても拒否しないんだから…やっぱり仲良いじゃん」
そう言うとエリスさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。いやに変な予感がしたがあの寝言は何でもなかったみたいだ。彼のいう通り、私の聞き間違い…だったのだろう。至って良好な家族関係みたいだし、と思ってはたと気付いた。
「お父さんに私といるとこ見られても大丈夫なの?時間ずらす?」
「はぁ?なんでわざわざ…」
「だって親は誤解して冷やかしたりするでしょ、アレ彼女かー?…なんて」
と、自分で言った後で恥ずかしくなる。でも誕生日に異性を連れ込んでいる時点で10人中9人は間違いなく誤解するだろう。
「女っ気がなくて心配されてっから逆に都合がいい。見合いでもされちゃたまんねぇからな」
「は、はぁ…」
そんなもんなのか、と思いつつ校舎を出て行く。思ってみれば一緒に帰るのは初めてだ。
「っていうかお前は、誕生日いつなんだよ…年齢も知らないし」
「私は、4月21日…で、27になった」
「へぇ…三つ下か。道理で俺の名前に頑なに”さん”付けしてくるもんだ」
正直に言うと話し言葉も本当は敬語を使いたいんだけど…そういうのはいいからと嫌がられて以来フランクな口調で話してしまっている。
「まぁ…職場自体エリスさんの方が先輩だし」
エリスさんは高校を卒業してからすぐここに勤めている、ということを以前聞いた事がある。じゃあもう12年になるということだ。裏山まで熟知しているのも納得がいく。
「そういやさ…金曜にヤった時精子かけてって言ったの割と腰にキたんだけど次やる時も言ってくれよ」
「バカ!いきなり何の話?!てかまだ学校近いんだからそういう事言わないでよ!」
「いや、キスマーク、見たら思い出しちまってよ」
スカーフでキスマークは全て隠したつもりだったのだがどこか隠しきれていなかったのだろうか。私は慌てて首回りを気にし出した。そんな横でエリスさんはクスクスと笑った。
「そこじゃねぇよ、ココ…付けたの気付かなかっただろ?」
エリスさんの手が私の右手を掴んで手首に口付けをした。いくら周囲に人がいないからとはいえ突然の動作に顔が熱くなって咄嗟に手を振り払った。口付けされたところを見ると確かにアザのように肌が少し変色している。
「もう…っ、何箇所に付けてるの?!」
「お前が寝てる間に太ももと腰…あと脚の付け根にも付けたような気がするな…」
それを聞いて深いため息をつく。…っていうか脚の付け根って…何でそんな際どいところ…。彼と帰り道を歩くことに今更ながら後悔した。
「っていうかあれ?エリスさん家の方向こっちじゃなくないですか?さっきの道左じゃ…」
「送ってく…ちょうどお前の家の奥の市場にも用事あるし」
どうやら家の近くまで一緒な状況らしい。しかし善意でやってもらっている以上無碍にもできない。
「校内放送でも言ってたが最近変質者とかも居るらしいからな、気をつけろよ」
変質者は隣にいると突っ込むべきものなんだろか。ため息をついてぼんやりと夕日を眺めた。鮮やかに空を橙に染めるその美しさなんて今まであまり気にも止めていなかったが彼との間がもたず、じっと見つめ続けた。
「お前は風景画とかも描くのか?」
「ん、まぁたまーに…基本人物がだけどね、背景でその人の心情を表現するような感じにして」
「ふーん…」
そうこうしているうちに家が近づいてきてようやくお別れの時間が訪れる。彼のことが嫌いとかではないがどうもこう、2人で普通に過ごすことができない。これもそれもところどころでセクハラ発言をぶちかます彼のせいなのだが。
「じゃ、また明日な」
「送ってくれて、ありがとう」
「あんま夜遅くとか出歩くなよ」
ぽん、と頭を撫でられて絆されかけている自分のチョロさには自覚がある。
「うん、じゃあ明日」
今日1日の業務も終わって帰り際、偶然タイミングが一緒だったエリスさんにそう尋ねると私の問いかけに首を傾げた。
「別に何もないけど…なんで突然」
「いや、寝言で父さんって呼んでうなされてたから…なんかあったのかなって」
「聞き間違いじゃねぇの?俺親父のことは親父って呼ぶし…父さん呼んでたのなんてかなり前だよ」
「ふーん…」
下駄箱に到着するとエリスさんは体躯にあった大きな靴を出した。30センチはあるんじゃないだろうか。ついマジマジと見つめてしまう。
「そういや水曜日、親父も来るらしいから…つってもすぐ帰るだろうからあんまり気にすんな」
「へー…仲、良いんだね」
「いいっつってんのにさ、俺もう明後日で30だぞ。子離れしろっての」
「そうは言っても拒否しないんだから…やっぱり仲良いじゃん」
そう言うとエリスさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。いやに変な予感がしたがあの寝言は何でもなかったみたいだ。彼のいう通り、私の聞き間違い…だったのだろう。至って良好な家族関係みたいだし、と思ってはたと気付いた。
「お父さんに私といるとこ見られても大丈夫なの?時間ずらす?」
「はぁ?なんでわざわざ…」
「だって親は誤解して冷やかしたりするでしょ、アレ彼女かー?…なんて」
と、自分で言った後で恥ずかしくなる。でも誕生日に異性を連れ込んでいる時点で10人中9人は間違いなく誤解するだろう。
「女っ気がなくて心配されてっから逆に都合がいい。見合いでもされちゃたまんねぇからな」
「は、はぁ…」
そんなもんなのか、と思いつつ校舎を出て行く。思ってみれば一緒に帰るのは初めてだ。
「っていうかお前は、誕生日いつなんだよ…年齢も知らないし」
「私は、4月21日…で、27になった」
「へぇ…三つ下か。道理で俺の名前に頑なに”さん”付けしてくるもんだ」
正直に言うと話し言葉も本当は敬語を使いたいんだけど…そういうのはいいからと嫌がられて以来フランクな口調で話してしまっている。
「まぁ…職場自体エリスさんの方が先輩だし」
エリスさんは高校を卒業してからすぐここに勤めている、ということを以前聞いた事がある。じゃあもう12年になるということだ。裏山まで熟知しているのも納得がいく。
「そういやさ…金曜にヤった時精子かけてって言ったの割と腰にキたんだけど次やる時も言ってくれよ」
「バカ!いきなり何の話?!てかまだ学校近いんだからそういう事言わないでよ!」
「いや、キスマーク、見たら思い出しちまってよ」
スカーフでキスマークは全て隠したつもりだったのだがどこか隠しきれていなかったのだろうか。私は慌てて首回りを気にし出した。そんな横でエリスさんはクスクスと笑った。
「そこじゃねぇよ、ココ…付けたの気付かなかっただろ?」
エリスさんの手が私の右手を掴んで手首に口付けをした。いくら周囲に人がいないからとはいえ突然の動作に顔が熱くなって咄嗟に手を振り払った。口付けされたところを見ると確かにアザのように肌が少し変色している。
「もう…っ、何箇所に付けてるの?!」
「お前が寝てる間に太ももと腰…あと脚の付け根にも付けたような気がするな…」
それを聞いて深いため息をつく。…っていうか脚の付け根って…何でそんな際どいところ…。彼と帰り道を歩くことに今更ながら後悔した。
「っていうかあれ?エリスさん家の方向こっちじゃなくないですか?さっきの道左じゃ…」
「送ってく…ちょうどお前の家の奥の市場にも用事あるし」
どうやら家の近くまで一緒な状況らしい。しかし善意でやってもらっている以上無碍にもできない。
「校内放送でも言ってたが最近変質者とかも居るらしいからな、気をつけろよ」
変質者は隣にいると突っ込むべきものなんだろか。ため息をついてぼんやりと夕日を眺めた。鮮やかに空を橙に染めるその美しさなんて今まであまり気にも止めていなかったが彼との間がもたず、じっと見つめ続けた。
「お前は風景画とかも描くのか?」
「ん、まぁたまーに…基本人物がだけどね、背景でその人の心情を表現するような感じにして」
「ふーん…」
そうこうしているうちに家が近づいてきてようやくお別れの時間が訪れる。彼のことが嫌いとかではないがどうもこう、2人で普通に過ごすことができない。これもそれもところどころでセクハラ発言をぶちかます彼のせいなのだが。
「じゃ、また明日な」
「送ってくれて、ありがとう」
「あんま夜遅くとか出歩くなよ」
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「うん、じゃあ明日」
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