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act1 激甘悪夢のはじまり
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しおりを挟む「…で?どこまで脱げばいいんだ?」
セックスをした日の翌日─エリスさんには私の家兼アトリエに来てもらって早速デッサンをする流れになった。私はキャンバスの前に腰掛けて目の前の椅子を指さした。
「じゃあ…下着以外脱いでそこ座って」
「下着以外な、了解…髪は、このままでもいいのか」
「ぜひとも髪は上げていただきますよう謹んでお願い申し上げます」
「はいはい」
こんな全身理想的なモデルを描くことなんてない。ワクワクしながら彼が準備するのを待つ。よく見ると手足も長くて筋肉質なだけではない。
「エリスさんほんとに今彼女いないの?」
見れば見るほど色男だ。私が今まで気づかなかっただけで目敏い女性は逃さないだろう。モテない…訳がない。
「今どころかここ数年いねーよ、学校関係者となりゃお姉ちゃんの店にもいけねぇし…女っ気全くなし。お前だって昨日散々もっさりだとか何だとか言ってただろ。周囲の俺に対するイメージは大体それで統一されてるってもんだ」
そう言って椅子に体重を預けるように座るものだからギシっと大きな音が鳴った。疑いのまなこを向けるがエリスさんは呑気に欠伸をして嘘をついてそうな素振りは全く見せない。
「んで?なんかとって欲しいポーズとかあるのか?」
「あ、いや…座ってくれてばいいよ、ただ20分くらいあんまり動かないようにして貰えば」
意外にも彼は思いの外協力的で私の要望に応えるように対応してくれる。人のこと散々変態扱いしていたくせに…と思いつつ彼のスケッチを始めた。
(…昨日この体に抱かれて、撫でられて…いやいややめよう!)
じっくりと彼の体を観察していると意識せざるを得ないが集中力を取り戻すため雑念を取り払う。
(筋肉ってここがこうなって…やっぱり写真とかで見るのと違うな…実物って迫力がすごい)
「でもよ、何で俺なんだよ。そこらの男はみんな獣人なんだからいい体の男ならいくらでもいるだろう」
そう、数多の獣人の中でも私たち熊の獣人は体格に恵まれたものが多い。身長が男性なら190センチを超えるのはそう珍しくもなく2mを超える人もいる。そう言うエリスさんだって195はあるんじゃないか。
「エリスさんの筋肉が1番理想に近かったんですよ。」
「はーん…じゃあ俺より理想的な体があったらそっちにいくのか?」
「…そんなこと考えたこともなかった」
何の気なしに答えた言葉にエリスさんは目を丸くした。初めて彼の体を見た時体に電流が走るような衝撃を受けて、こんなに理想的な体に出会ったことはなかったので感動したほどだ。そしてその直後衝動のままにモデルになってくれとせがんでいた。
「まぁ、そんなのに出会っても俺が行かせねぇけど」
「へ、えっ?!それって…」
「変態女被害者の会を作るわけにいかないからな。変態に目をつけられた哀れな男は世界のためにも俺だけにしといたほうがいいだろ」
…ちょっとときめいてしまった私の気持ちを返して欲しい。まったく…雑念だらけじゃないか。気を取り直してキャンバスに向かい、そのあとは集中して描き続けた。何個かポーズや向きを変えてこれ以上無いほど満足のいくデッサンができた。完成品を眺めていると横からエリスさんが覗き込んでくる。
「ほー…やっぱ美術教師やってるだけあって上手いんだな」
「へへっ、昔から絵は得意で…両親からは絵なんて将来の役に立たないなんて言われちゃってたけど」
長女という立場からいろいろ我慢していた中私の唯一の楽しみは絵画だった。色々と我慢してきた中それまで諦めるわけにはいかない、役に立たないなんて言わせないようにがむしゃらに勉強して美術教師になった。
「でも、お前は貫き通したんだな…そう簡単にできるもんじゃない」
大きな掌にポンポンと私の頭を撫でられて、私はそっと顔を上げた。自分のやってきたことを誰かに認められることなんて無くて…だけど彼は…
「まぁ今回は4枚描いたみたいだからあと3回セックス追加だな」
その言葉で全てをぶち壊しにされる。
「は、はいィ?!!一回で終わりじゃないの?!」
「ンなこと言ってねぇだろ。まぁ処女もらった大サービスで最初の一回はデッサン3枚分にしてもいいけど」
この男…やっぱり最低だ。
「まぁ、セックスしたら俺の体触り放題だし勉強にもなるだろ?体の相性もかなり良いみたいだし…」
「気持ちよければいいって話じゃないでしょ!」
「いやいやセックスする上で体の相性は大事だぞ」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
こじつけの返答に頭が痛くなってくる。つまり私が今後デッサンを頼むたびにセックスのお誘いにもなってしまって…でも正直今日の4枚なんかじゃ全然足りない。彼の体にこだわるのは芸術家としての変な意地みたいなものだ。機会を手放すのはもったいない。
「昨日みたいに、全身蕩けるくらいに撫で回されるの…嫌じゃなかっただろ?これからもあれ、いっぱいしてやるよ。」
「ふぁッ?!」
悪魔の囁きが昨日の情事をまざまざと思い出させた。確かに…嫌、じゃなかったどころか…幸福を錯覚させるものだったけど。
「だから、悪い取引じゃないだろ?これからもよろしくな?」
彼が私に提案を持ちかけて、それを受けた時点でこの流れは決まっていたのかもしれない。私は差し出された手を渋々握り返して、この関係は延長戦へと向かうのだった。
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