我儘女に転生したよ

B.Branch

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旅はやはり危険です

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どうしよう、想定外の出来事が起こってしまった。

旅はとても順調で、対策通り私達の一行を"見えているが見えていない状態にする"魔法効果によって、誰も私達を気に留めない。馬車だけでなく馬や護衛の騎士達にも魔法効果が及ぶようにして万全を期した。
街に近付くと解除するので特に支障もないし、街の外を旅している時も偶に他の旅人や馬車等とすれ違うくらいで、特段のトラブルにも出会わなかった。

しかし、やはり予定通りに事が運ぶとは限らないのが旅というものなのだろう。
今、起こっている出来事がそれを物語っていた。
さて、どうしたものか?

街道を通り、現在は森の中を進んでいる。
今までとても順調だったので、木々の間から光が漏れる昼日中の森の中、それ程の危険もないだろうと思っていた。
事実、その考え通り危険はなかった。私達には・・・・

木々が生い茂り陽の光が遮られ森の中が少し薄暗くなった辺りで、「ナウ」とディーターが短い警戒したような鳴き声を上げて立ち上がった。

「ディ、どうしたの?大丈夫?」

ゆったりと足元に寝そべっていたディーターが突然動き出したので、ヴィアベルが心配そうに声を掛けた。

「ナー」

暫くじっと動かなかったディーターだが、馬車がそのまま何事もなく進んで行くと、警戒を解いて元のようにまた横になる。

「奥様、何事かあったのでしょうか?」

「ええ、でも、もう大丈夫みたいね」

窓の外を見ると、先程の暗い道も後方に見えなくなっていく。
ディーターは何か危険に気付いたようだが、幸い魔法効果のお陰か危険は去ったようだった。
ホッと一息つき、皆の緊張をほぐす為にお茶を取り出す。

「奥様、お茶でしたら私がお入れいたします。いえ、問題はそこではございませんね。そのお茶はどこから、、、」

ベルタがお茶と私を胡乱な目で見て、説教を始めようとしたまさにその時、馬車の後方から人が叫ぶような声が微かに聞こえてきた。
思わずヴィアベルを抱き締めて窓の外を見るが、騒ぎの元からは距離があるようで、何も確認できない。

「何かあったのですか?」

窓の外の護衛に問い掛ける。

「恐らく後方で旅の馬車が襲われているのかと、、、私達から少し離れて乗り合いの箱馬車が街道を走っておりましたので」

「そう、、、」

「なぜかこの馬車は狙われなかったようですので、私達はこのまま進めば危険もないかと、、、」

フラクスブルベ家に仕える護衛の騎士が、後方を見てギュッと顔を歪めた。

護衛の騎士達にとって私達を守る事が最優先だ。
しかし、分かっていて見捨てるのも複雑な気持ちなのだろう。
甘い考えで判断を誤れば守るべき人間を守れなくなるので以ての外なのだが、彼の逡巡もよく分かった。

私もほぼ同じ心境だ。
ヴィアベルの安全を考えればこのまま進むべきなのだろうが、襲われている人達の運命を考えると躊躇ってしまう。
彼らは恐らく荷物を強奪され、自身も殺されるか売られるかして悲惨な末路を辿るのだろう。襲っているのが盗賊ではなく魔物であってもその運命は良くはならない。

正義の味方のように全ての人々を救うつもりは毛頭ないが、目の前で殺されようとしている人々を見捨てる事にも抵抗を覚える。
この迷っている間にも彼らの命が消えているかと思うと、益々前にも後ろにも動く事が出来なくなってしまう。

「お母様、僕大丈夫ですよ!この馬車は凄く安全なんでしょう?危険を感じたら絶対に馬車から出るなとお父様が仰っていました。恐ろしいほど・・・・・・・安全だからって!」

私の迷いを感じ取ったヴィアベルが、精一杯の励ましの言葉をくれる。

それにしても、クリストハルト様はこの馬車の事をどこまでご存知なのでしょうか、、、どんな情報網をお持ちなのか?近衛騎士は諜報とは関係ないはずですが、、、

でも、そうです。クリストハルト様の仰る通り確かにこの馬車は安全だ。
次元結界の中に入れば誰にも害する事は出来ないだろう、、、うん、心を決めましょう。

「では、皆に助けに行ってもらいましょう」

「はい、お母様!」

ヴィアベルが真剣な面持ちで頷く。

段々大人になっていくな、と感動してしまうが、今はそれどころではないので、護衛騎士に即座に背後の馬車を助けるように指示を出す。

馬車を襲っている者達は私達には気付いていない。この利を生かさない手はないだろう。
折角気付かれていないのだから、こっそり近付いてこっそり倒したい。
態々利を生かさずに正面突破など、無駄にしか思えない。

騎士達としては、颯爽と登場し盗賊や魔物を倒すつもりだろうが、それは是非止めてもらおう。
騎士達にはを"見えているが見えていない状態にする"魔法がかかっている。それに私の魔法を刺繍した肩賞を付けてもらっているので、防御も万全だ。

「こっそり、背後から、、、ですか?」

「ええ、この旅の一行には他者に気付かれにくくする魔法がかかっているの。余程の注意を引かない限り他者に認識されないわ」

「は!?そのような魔法が!?」

助けに行く事には乗り気なようだが、背後から敵を倒せという私の提案に騎士達は不服そうにしていた。しかし、私のかけた魔法を説明すると、口をあんぐり開けて驚いている。

「な、成る程、それでですか。この旅は余りにも順調過ぎました。それに道中旅の者に話し掛けると必ず最初は無視されるので不思議だったのです」

この旅で護衛の騎士達をまとめている小隊長がなんとか立ち直り、納得したようにしきりに頷いている。

ああ、やっぱり弊害はあったのですね。
街付近以外は魔法が発動しているので、私達は周りの人々に認識されない。
襲われる危険はなくなるが、通常のコミュニケーションには不便だろう。まして、魔法の所為だと知らなかった彼らが態と皆に無視されていると思っても仕方がない。きちんと話すべきでしたね、ごめんなさい。
でも、何を秘密にして何を話すかは難しいところです。余り余計な事を話し過ぎても良くないだろうし、加減が難しいです。

「奥様、では、相手に気付かれぬうちに制圧して参りますので、しばしこの場でお待ちください。ドミニク!カール!奥様とヴィアベル様をお守りしろ!」

二人の騎士を残して他の騎士達が馬で去って行く。

「お母様、皆大丈夫でしょうか?」

「ええ、彼らはクリストハルト様がこの旅の為に選んでくださった精鋭です。無事に戻って来てくれるから大丈夫よ」

襲われている人々は助けたいが、騎士達を無為に危険に晒す事に、ヴィアベルが不安そうにする。

私も戦闘などには全く詳しくないので、安全なはずだと思いつつも不安になる。しかし、ヴィアベルにはそんな顔は見せられない。
笑顔を崩さないようにしつつ、やはり心配なので、ディーターにも彼らに着いて行ってもらった。

馬車で待つ五人の耳に微かに戦闘の騒音が聞こえてくるが、見えないので状況はよく分からない。
待っている身には少しの時間もかなり長く感じてしまい、心配が募って来る。

大丈夫?私も助けに行った方がいい?
私の魔法があれば彼らの助けになるかも知れないが、ただの足手まといになる可能性も否めない。私が着いて行ったら、彼らは私を守る事を第一に考えてしまうだろう。
ここで待つのが一番、なはず、、、でも、ああ、心配だ。

それから固唾を飲んで待っていると、気の所為ではなく少し皆の帰りが遅いので益々不安になってくる。大丈夫なの?
ヴィアベルに不安を見せないようにしつつも背後の様子を気にしていると、やっと騎士達が戻って来た。

私達の心配をよそに、騎士達は負傷した様子もなく元気そうだった。
良かった!本当に!ヴィアベルも満面の笑顔を浮かべている。

「奥様、お待たせいたしました。やはり盗賊が馬車を襲っているところでした。盗賊は生きている者は捕らえて縛りあげましたので、街に知らせをやって衛士を呼ぶように手配いたしました」

「そう、皆無事なようで安心しました。かなり手間取ったの?襲われていた人達は大丈夫だったのかしら?」

「はい、盗賊が二十人程いましたので、少し制圧に時間が掛かってしまいました。襲われていた者達も多少怪我はしていますが、大事ありません」

小隊長がまだ不安な面持ちを残す私達を安心させるように、ゆっくりと説明してくれる。

「二十人!?かなり多かったのね。皆に怪我がなくて本当に良かったわ」

「はい、敵が奥様の魔法のお陰で私達が近付いても全く気付かなかったのと、なぜか・・・気付かれても相手の剣が我らを掠めると不自然に弾かれるのです。何度かありましたので、我らの気の所為ではありません。、、、奥様、ご無礼を承知でお尋ねいたしますが、先程ご説明頂いた魔法以外にも何かお心当たりがおありですね?」

小隊長の問い掛ける笑顔がなぜか怖いです。
しかも、疑問の形はとってはいるが、小隊長の言葉尻は完全に私の仕業だと決め付けている。

そうだよ?私の仕業だよ!何が悪いの!?って、そうですね。皆に言っていなかったのが悪かったんだよねー
もう、小隊長ったらそんな真剣な顔しちゃって、真面目さんなんだから!細かい事気にし過ぎたらハゲちゃうよ!まだ三十代でしょ!

心の中で茶化しつつ笑顔で誤魔化そうと試みる。

「そ、そうね?どうだったかしら?」

「奥様、、、また何かされたのですか?馬車の中の説明もまだお聞きしている途中でございましたね?」

ベルタの大きな溜息が背後から聞こえてくる。

ま、不味い。どちらか一人でも誤魔化せそうにないのに、前後から挟み撃ちでは不利過ぎます。
前門の虎さんと後門の狼さんに襲われる!誰か助けて~ヘルプミ~!
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