我儘女に転生したよ

B.Branch

文字の大きさ
上 下
38 / 50

説教

しおりを挟む
庭に続く扉が開かれ、心地よい風が室内に入ってくる。
穏やかで静かな空間の中、ペラペラと本をめくる音とさやさやと木々が揺れる音だけが室内を満たしていた。

「なるほど、、、」

やっぱりイラストが欲しいなと思いながら、文字がぎっしり詰まった本のページを捲っていく。

これは互助組合ギルド長に渡された魔法書だ。
例のちょっとした・・・・・・出来心の所為で、「これを読め!」と厳命されてしまったのだ。
本自体はかなり興味深いものなので文句はないが、互助組合ギルド長の呆れ果てたような表情には少し落ち込んだ。ごめんなさい、、、

本を読んで分かった事は、やはり私の魔力量が桁外れに多いという事だった。恐れられるのも仕方がないと思うほどに、、、
この世界に魔力を持たない者はいないが、自分の中から外に魔力を放出する事が魔力の少ない者には出来ないようなのだ。体外に及ぼせる魔法の強さは魔力量に比例して変わる。
王都中にただでさえ魔力が必要な氷魔法を使う雪を降らせるなど、本当にとんでもない事なのだ。

誰もはっきりとお前がやったんだろうとは言わないが、あの日の所業の非常識さを私に懇々こんこんと述べる。
皆私がやったのかと確認もしないで決め付けている。これで私がやっていなければ、完全にグレているところだ。皆酷いよ!まあ、私がやったんだけどね!

あの出来事は、巷では奇跡と言われているらしい。大事になり過ぎている事に驚くが、それは光を降らせた所為でもあるようなのだ。
私の降らせた「光」は、辺りを明るくするというもではなく、治癒魔法的なものだったようなのだ。
それ程の体調の変化をもたらすものではなく、なんとなく元気になった?くらいのものだったようなので、人々の気の所為という可能性もあるが、その話が「奇跡」という噂を大きくしてしまったのだ。

「皆大袈裟過ぎるわね、、、」

溜息と共に思わず愚痴が漏れる。

「反省していないと報告した方が良さそうだな」

背後から突然響いた声に、びくりと身構える。

「ク、クリストハルト様、、、驚かせないでくださいませ」

私の背後には、長身のフラクスブルベ公爵が威圧感たっぷりにそびえ立っていた。

「王は甘過ぎる、そう思わないか?」

私を見下ろしながら、クリストハルト様が言葉を続ける。

「いつも私には勿体無い程にお心遣いを頂いて、本当に有り難く思っておりますわ。クリストハルト様や他の皆様の御薫陶くんとうも真摯に受け止め、心に刻んでおります」

「あれが最初であればその言葉も信じられるがな、、、自覚はあるだろう?」

クリストハルト様の言葉が私に突き刺さる。

はい、誠にもってその通りでございます、、、
自覚はある。凄くある。あるが、ここで罪悪感に負けて過去の所業の数々を懺悔などしようものなら大変な事になりそうだ。
良くて外出禁止。悪ければ魔法を封じる、とか?

「そう言えば、クリストハルト様は本日は如何いかがされたのですか?」

掘り起こされると困る事しかないので、サクッと話を変えてみる。

「、、、まあ、いい。今日は先日のハンカチの礼を言いに来た」

クリストハルト様は諦めたように溜息を吐き、今日の用向きを教えてくれた。

「そんな、態々わざわざお出でいただくような事ではございませんのに、、、」

本当に!だって、クリストハルト様に渡したのはついで、、、いや、仕方なく?、、、もっと悪いか、、、
兎に角、屋敷の者達に渡して、アルトゥール様やアンネリース様、ビアンカ様ときてクリストハルト様に渡さない訳にいかなくなったのだ。お礼なんて言われては、逆に申し訳ない気持ちになる。義理プレで、ごめんなさい。

「『礼節は人間の営みに欠かせない大切な事柄』、らしいからな」

驚いたような私の言葉に、クリストハルト様がぼそりと言葉を返す。

ああ、ビアンカ様に言われて来たんですね!納得しました!
しかし、意外にビアンカ様はチクリと言う事は言う方のようですね。きっと優しく和かにお説教されたのでしょう。
ビアンカ様には丁重なお礼の手紙とお返しの品を頂きました。本当に良い方です!またお菓子を差し上げますね!

「まあ、あの物凄い・・・ハンカチには、礼では足りんかも知れんがな」

物凄いハンカチ、、、褒めてなくない?
そう、あのハンカチには、ヴィアベルのベストのように魔力を刺繍したのです。
流石にヴィアベルのベストと同レベルの刺繍をしたら逆に説教されそうだったので、かなり控えめにしたのだけれど、、、「物凄いハンカチ」という評価を頂いてしまいました。
まあ、魔力を刺繍する事が、そもそも非常識なのだろうが、、、

「喜んで頂けて幸いですわ」

「礼を言うか説教をするか迷うところだがな。まあ、礼を言っておく」

良かった!ベルタだけでなくクリストハルト様の感覚も麻痺してきているのかも知れません。説教をまぬがれました!
クリストハルト様は言葉数は少ないのですが、眼光が鋭くて怖いんですよ!そして、くどくど言われない分、沈黙が重い!一番説教されたくない人かも知れません。

「ところで、旅の支度は進んでいるのか?」

クリストハルト様には旅の話と共に、ヴィアベルを連れて行く許可はもう頂いている。

「はい、安全快適な旅になるよう万全を期しておりますわ」

「そうか、、、程々にしろと言いたいが、ヴィアベルを連れて行くなら仕方ないな」

自信満々な私の言葉に、クリストハルト様はまた私の遣り過ぎを危惧したようだが、ヴィアベルの安全の方が大切だったようだ。

「じゃあ、そろそろ私は行くが、、、アマーリエ!」

「はい!」

突然名前を呼ばれ、ビクリとして返事を返す。

「気を付けろ」

クリストハルト様は命令口調で一言ひとこと言うと、来た時同様に静かに図書室から去って行った。

クリストハルト様の後ろ姿を見守りながら、やはりこの人は光るんだな、と思う。
出会った時からこの人は光っていた。
スキルで光る理由は大体が価値があるからで、光った理由もすぐに分かる。だが、クリストハルト様はなぜ光るのだろうか?

ヴィアベルを授けてくれた、という理由で納得してもいいのだろうが、クリストハルト様でなくとも子供は授かっただろう。
では、なぜ?考えても結論は出ない。ビアンカ様に迷惑を掛けてまで結婚して良かったのだろうか?愛し合う二人に迷惑を掛けまくっただけかも知れないと思うと、申し訳なさでいっぱいだ。

しかし、後にビアンカ様の告白で私の懸念は解消される事になる。
迷惑を掛けてはいなかったのだ。なぜなら、、、
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...