我儘女に転生したよ

B.Branch

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私を我儘女にした人

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ピーーーチチチ。

王宮の庭園の小道を歩いていると、木漏れ日の向こうから鳥のさえずりが聞こえてきた。
さやさやと心地よい風が吹き、頰を撫ぜる風はとても心地よかった。

王宮内の慌ただしい雰囲気とは異なり、お祖母様のいらっしゃる離れに向かう小道は、長閑で人通りも少ない。
侍女の一人も連れずに歩き回るのは良くないとは思いつつも、王宮を一人で散策するのは子供の頃からの癖だった。

「鳥かぁ、、、」

ふと、嫌な事を思い出す。

そう、魔王ベルタの降臨だ。

私の刺繍したベストは小鳥の命を救った(らしい)。
それはとても良かった。
子供達も嬉しそうだったし、ヴィアベルの守りに役立つ事が証明されたのだから、最高に良い話だろう。
しかし、例え最高に良い事でも非常識さが伴うと、余り良くない事になってしまう。

そう、非常識その一は、衣服に魔法効果を付与するといった事は普通出来ないという事だ。
魔法の力を宿した剣や鎧があったという昔語りの伝説はあるが、それはあくまで伝説に過ぎない。

しかも、それらは神の御手みてによって作り出されたもので、人の手によって施されたものではない。
更に言うならば、名工の作り上げた武器防具でもないただの普通の衣服に魔法の力が宿るなど非常識極まりない。(と、目の血走った魔王様が仰いました)

そして、非常識その二は、その魔法効果だ。
まず、死にかけの鳥が一瞬で全快する事などない。(ないったらない!、のだそうだ)

そもそも癒しの魔法は万能ではなく、個人の力量によって効果が違う。
同じ魔法を使えても、個人の経験や知識、資質といったものに左右されるのだ。
それは通常の医者に通じるものがあり、魔法と言えども適切な処置が必要となる。
呪文を一言唱えれば、万事解決とはならないのだ。

それなのにだ!私がした事は癒しの魔法効果を衣服に縫い付けただけ。特に細かい効果を思い描いたわけでもない。
私が癒しの魔法として無意識に考えていた事を言葉にするとしたら、それは"完全治癒""奇跡""救い"などだろう。

結果としては、その通りになったと言える。
小鳥は奇跡のように治癒されたのだから。

これこそが、即ち非常識。
ベルタさんは泣きが入っておられました、、、御心労お察ししますです。はい。

取り敢えず、子供達には口止めをしました。
この事が広まったら大騒ぎになること確定なので。

「まあ、でも、私の魔法上達したっぽい?」

とか、ベルタの前では言ったら、張っ倒されるよね。多分。
それに、かなり明後日あさっての方向に魔法を上達させている自覚は流石にあります。
"独創的"は褒め言葉だと思う、そんな今日この頃でございます。フッ。

「気持ち悪いぞ」

独り言を言いながら口元を緩めていると、背後から失礼な発言が聞こえてくる。

突然の声に驚きつつも、私は振り向く前からそれが誰の声か分かっていた。

「あら、これはこれはご機嫌麗しゅう、ユストゥス殿下」

「ああ、お前の不気味な顔の所為でいい気分が台無しだけどな」

ギリ。
思わず、お祖母様への手土産の箱を握りつぶしそうになる。

顔!?選りに選って顔をチョイスする!?
不気味な行動と言うなら、まあ許さなくもない。事実だし。
それを不気味な顔だと!?
アマーリエは童顔美女だ!マニアには堪らないん(はず)だぞ!

しかも、そもそも女性が恥ずかしくなるような事を指摘するなど、紳士たるべき身分の男性としてあるまじき行いだ。
こいつは王子失格だ!小父様やベル兄様の完璧な紳士っぷりを見習え!このノータリン殿下め!

「あら、殿下、肩に埃が、、、」

「痛!何をする!?」

ユストゥス殿下が苦痛に顔をしかめる。

「肩に付いていた糸屑をつまんだだけですわよ?」

「嘘を吐くな!身ごと摘んだたろうが!」

「まあ、そんなに大袈裟に騒がれて!少し触れただけで痛がるだなんて、か弱くていらっしゃいますのね」

我ながら人の悪い笑みを浮かべて、ユストゥス殿下を見る。

「この意地悪女が!父上達の前では猫を被りやがって!」

「あら、猫なんて被っていませんわ。人によって態度が違うだけです」

「自身満々で言うな!」

視線をバシバシぶつけ合いながら、お互いを睨む。

私達は小さい時に出会った頃からこんな感じだ。
この方はベル兄様の弟でこの国の第二王子なのだが、なぜか常にアマーリエに喧嘩を売ってくる。
それをアマーリエは引くことなく買い続け、たまに売ったりもしながらこの不毛な関係は出来上がった。

「父上達は、お前に甘すぎる!お前の目が豆粒みたいで口が顔からはみ出ていても、可愛い可愛いって言うんだろうよ!粒々してて愛らしい、とか言ってさ!」

誰が粒々だ!?埋めるぞ!!
言動が不穏過ぎる?ええ、そうですわよ!だってこいつはボケナス野郎なんですから!!

「貴方なんて、ベル兄様とは、、、」

言い掛けて、ハッとして口をつぐむ。

「なんだよ、言えばいいだろう?俺なんて優秀な兄上とは似ても似つかない出来損ないだ、って言おうとしたんだろ?」

「、、、そんな事言っていませんわ」

兄殿下の出来が良過ぎたせいか、ユストゥス殿下は兄と比べられる言動にとても敏感だ。
幼い頃、大人達の何気ない言葉にもとても傷付いていた。

「嘘付け!いつも嫌味言いまくりの我儘女だった癖に、なのにお前は人が本当に傷付くと思う事だけは口にしないんだよな」

「、、、ごめんなさい」

「どうして、謝るんだよ」

「、、、」

二人の間に、先程の言い合いとは打って変わった沈黙の時間が流れる。

「、、、お前、今、幸せなのか?」

ユストゥス殿下がポツリと呟いた。

「、、、ええ」

「そうか、、、フラクスブルベ公爵には気の毒だが、まあ良かったな。いつまでもお前の相手をしている程、俺も暇じゃないんでもう行く。じゃあな、、、ミリィ」

「ええ、また」

私がそう言うと、ユストゥス殿下は微かに笑って小道の向こうに歩いて行った。

アマーリエは本当に小さい頃は、まだ大人しい引っ込み思案の少女だった。
王宮に来ても殆ど話さなかった。
そんなアマーリエをある意味我儘ヒステリック女に開花させたのが、ユストゥス殿下だった。

言い合い怒鳴り合って発散する。
何も言わずに自分の中に閉じ篭っているよりは、ヒステリックに喚き散らす方がアマーリエの救いになったのだろうか。

子供の頃はユストゥス殿下もアマーリエもお互いに喧嘩を売る事で鬱積したものを吐き出していた。
少しずつ形は変わってしまい、アマーリエは悪名を轟かす迷惑な我儘女になってしまったが、あの頃ユストゥス殿下が喧嘩を売ってくれていなかったら、アマーリエはもっと不幸になっていたのかも知れない。

『仕方ないから結婚してやってもいいけど?』

何度思い出してもムカつくが、この言葉がユストゥス殿下の優しさだった事は間違いない。
本当にイラっとするけど!

ボケナス殿下のプロポーズ。
お互いに愛があったわけでは絶対にないが、二人の中にはある種の連帯感があった。
あの方と結婚していたら喧嘩ばかりして血をみていた事は確実なので、プロポーズを受けなくて本当に良かったとは思うが、まあ、完無視したのは悪かったかも?

でも、『仕方ないから』『してやってもいい』と言われて喜ぶ女はいない。
幼馴染として、未だ結婚していない失言だらけのユストゥス殿下に、可愛い奥様が現れる事を願っておこうと思います。

頑張ってね!ボケナス殿下!
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