我儘女に転生したよ

B.Branch

文字の大きさ
25 / 50

オーブンの日

しおりを挟む
「お母様、、、僕、少しお腹が痛いです、、、」

「え!大丈夫!?」

ヴィアベルに即座に駆け寄り、お腹にそっと手を当てる。

「はい、でも、今日は本館には、、、」

床を見ながら後ろめたそうにボソボソと話すヴィアベルに、「ああ、成程」と得心する。
これも成長の証といえるのかな?

今日はオーブンが搬入される日なのだ。
陽光館ではその話で持ちきりで、当然、ヴィアベルの耳にも届いたのだろう。
まあ、一大イベントのような雰囲気で皆ソワソワしているので、そりゃあ子供の好奇心は刺激されますよね。

それにしても、我儘などほぼ言わないヴィアベルが仮病を使うなんて!
フラクスブルベ家に生まれた男子として厳しく躾けられ、しかも、ヒステリックな母親と共に育ったヴィアベルは、普通の子供よりも明らかに大人びている。
物分かりが良過ぎるのも、逆に少し心配です。もっと悪戯いたずらっ子でいいんだよ!と言いたくなる。

とはいえ、ここで甘やかしては駄目ですよね。

「そう、では、お医者様をお呼びしましょう。苦いお薬を頂いて、今日はお部屋で一日中安静にしていなければいけないわね」

「その、、、はい、、、」

「ヴィアベル?」

口籠るヴィアベルの頰を優しく撫でると、幼い瞳がこちらを見た。

「お母様、、、ごめんなさい、僕、本当はお腹痛くありません、、、オーブンが見てみたくて、、、」

後悔をいっぱいに滲ませた声でヴィアベルが呟く。

うん、なんていうか、やっぱりうちの子真面目!こちらが何か言う前に既に反省して落ち込んでいる。
子供が一度は言いそうな嘘だよ?
この生真面目さはクリストハルト様に似たのかな?
あの人、一筋縄ではいかない曲者感はかなり漂っているが、根はかなり真面目な人だと思う。

「、、、僕の事嫌いになりましたか?」

「!そんな訳ないでしょう!お母様はどんな時もヴィアベルを愛してるわ。でも、人を騙す行為は良くないわ。そうでしょう?」

「はい、ごめんなさい」

う~ん、"叱る"って難易度高い!
嘘は良くない。でも、生真面目過ぎるのも息苦しくないのかな?と思ってしまう。
ちょっとくらいの嘘ならいいよ、と言うわけにもいかないし、、、
いろいろな経験をして成長していくと分かっているが、やはり、どうかこの子の人生が厳しいものにならないように、と思ってしまう。

本当に子育ては、難しいです。
何が正解なのかはっきり分かればいいけど、そんな訳にもいきません。
だから、せめて誠実でいよう。逃げる事だけはしません。

「ヴィアベル、今日はバームクーヘンというお菓子を作るの。お母様、頑張るから一緒に食べてね?」

「はい!僕も頑張ってお勉強してきます!」

「ええ、じゃあ、お茶の時間に今日の成果を発表しあいましょうね」

「はい!」

元気に返事をしたヴィアベルをハグして、見送る為に玄関まで手を繋いで行きました。
二人で延々と手を振り合っていたら、ベルタに「いい加減になさってください」と叱られちゃった。すみません。

それでは、厨房に向かいましょうかね!

バームクーヘンの為の片栗粉はもう用意できています。
後は、材料を混ぜ合わせるだけなので、特にする事はありません。
勿論、私は何もさせてもらえませんよ!指示する人が一番凄いんです、と皆が言います。ホントに?宥められてる感が半端ないです。ちぇっ。

厨房に近付くと、話し声が聞こえてきた。

この声は料理長ですね。
いつも通り熱く語っているみたいだ。
この間も軽い気持ちでリクエストしたサラダのせいで、ヒートアップして大変でした。

こちらの世界ではあまり生野菜を食べる文化がありません。
でも、熱を加えたら壊れる栄養もあります。
なので、単純に食べたかったのもあり、食卓に出してもらった。
すると、サラダ??と疑問符がつくものが運ばれて来ました。
食べたら歯が丈夫になりそうな野菜達。カレーの具か!?って感じでした。

違うよ!!
料理長を前にしてに入りさいに入り懇々こんこんと説明しましたとも!!
その時点で、「おお!」と感動していたのに、続いてドレッシングの説明に入ったらもう大変でした。

「お、奥様、貴女様は神の御使わされた料理の化身なのでございますね、、、」
と、拝み出す始末。
なんでやねん!アホか!チャウチャウちゃうねん、ちゃうちゃう!、、、失礼、取り乱しました。

そういう訳で現在のフラクスブルベ家の食卓には多彩なサラダが並び、ビアンカ様にもご好評を頂いております。どうもです!
サラダなので、料理長は葉物野菜を使う事も覚えました。
葉物野菜のレパートリーを増やしたいのか、庭をうろうろ。仕方がないので、スキルで食べらそうなものを教えてあげました。
怪しい草を混入したら駄目ですよ!

「奥様!オーブンが届いたようです」

「そう、では、設置してもらって」

やっと来たね!さあ、作りましょうか!

巨大なオーブンの設置には苦労しましたが、なんとか設置完了しました。
続いて下の受け皿の部分にバームクーヘンの生地を流し込み、横に渡した棒につけて棒を回しながら焼いていきます。

辺りに甘い甘い匂いが充満してきます。

これだよね~
前世で学校に行く途中にあった小さな洋菓子工房がバームクーヘンを焼いてる時の匂い!
多分、今、陽光館中がこの匂いで満たされている事でしょう。
幸せな匂いです~

「ハァ、、、」
彼方此方あちこちから吐息のような陶然とした溜息が聞こえてきます。
皆もこの匂いにやられているみたいですね。
いつも通りベルタは涙を流し、料理長は感動に打ち震えています。
お約束ですね!

感動しつつも順調にバームクーヘンは回し焼きされ、独特の丸い層が出来上がっていきます。

「奥様、如何でしょう?」

「そうね、これくらいでいいわ。粗熱が取れたら切りましょうか」

「はい!」

皆、バームクーヘンが冷めるのを固唾をのんで見つめている。
そんなに直ぐには冷めないんですけどね。

料理長に着いて来ている料理人や見習い達は生地が余っていたので、次のバームクーヘンの作成に移っている。頑張って!
今日ここへ来るメンバーを決める際、かなりの混乱があったそうだ。
本館で仕事がある為、全員来るわけにはいかない。「私が!いや、私が!」と、血を見そうになったのを、なんとか料理長が宥めたとベルタが言っていました。
私の知らない間に話がかなり大きくなっています。
バームクーヘン作るだけだよ?

「奥様、宜しいでしょうか?」

オーブンの搬入に着いて来てそのまま残っていたベッカーが話しかけてきた。

「ええ、何かしら?」

「最初にオーブンの発注を頂いた時は、正直戸惑いを覚えておりました。しかし、オーブンが出来上がるにつれ私の中である想いが芽生えました。そして、今日実際に見て確信に変わりました!」

ベッカーが何やら熱く語りかけてくる。

ど、どうしたの?

「奥様!バームクーヘン屋を開きましょう!」

「は?」

なんだかまた大袈裟な話になってきました。
ロゴマークにレシピ本に調理器具の普及にまつわる彼是あれこれ。後なんだっけ?まだまだ色々ありますよ。

、、、もう、いいんじゃないかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...