我儘女に転生したよ

B.Branch

文字の大きさ
上 下
21 / 50

大きな一歩です

しおりを挟む
互助組合ギルド長の魔法講習はとても為になった。しかし、残念ながら教室内に催眠効果を発揮し始めたようだ。
皆の頭がユラユラと揺れている。

ね、眠い!覚えた事を忘れそうだ。
いや、ここは潔く寝るのが正解なのか!?寝る事で記憶は整理され定着するって誰かが言っていたような気がする。
という事は寝るのはむしろ良い事!?
う、眠過ぎて正常な判断が出来なくなってきた、、、

殆どの生徒が睡魔に敗北し、私も思考を放棄しようとした時、ようや互助組合ギルド長から救いの手が差し伸べられた。

「では、これから実技を行うので、練習場に移動する」

「やったー!やっと終わった!もう眠くて眠くて」

「ヨーナス!教えてくれてるのに失礼だよ!」

互助組合ギルド長の言葉と同時に立ち上がって拳を突き上げて叫んだ少年を連れの少女がたしなめる。

「あーごめんなさい、、、」

「ふむ、まだ若いとは言え冒険者には落ち着きも大事じゃぞ」

「すみません、ヨーナスは生まれた瞬間から落ち着きがないっておばさんも言ってました」

「おい!エミも寝てたじゃんか!」

「自分を正当化する為に他の人を犠牲にするなんて男らしくないよ!」

「小難しい事ばっかり言うなよ!寝てるのを認めない女はどうなんだよ!」

おー白熱してますね。
年若い二人の可愛らしい言い合いに、互助組合ギルド長も生温かく見守り口を挟まない。

「女の子に勝ちも譲れない男は何もかも小さいってお姉ちゃんが言ってたよ!」

「何もかもって何だよ!」

「知らないよ!いーーだ!」

「何だよ!いーーだ!」

「フッ」

あ、可愛らし過ぎて思わず吹き出しちゃいました。
もう、お母さん目線でしか若者を見れなくなってますね。

「ヨーナスの所為でうさ耳さんに笑われたでしょ!」

「エミが、いーーだ、とか言うからだろ!」

言い合いの最中の二人にも私の笑い声が聞こえてしまったみたいです。

うさ耳さん!ヨーナスが煩くしてごめんなさい」

「おい!俺の所為かよ!」

エミとヨーナスが騒ぎながらこちらに近付いて来たので、「よしよし」と思わず二人の頭を撫でてしまう。
おっと、手が勝手に動いちゃいました。

「う!?」「ちょっ!?」

「はい、これどうぞ」

戸惑う二人の目の前に屋敷から持って来た紅茶のクッキーを差し出す。
ロールケーキを紅茶風味にしたので、ついでにクッキーも焼いてもらったのだ。小腹が空いた時用とベルタをごまかす時用です。
っていうか、私、お母さんを通り越してオバちゃん化してる?ヤバイです、、、

「「え?ありがとうございます」」

二人が同時にお礼を言い、躊躇なくクッキーを口に運ぶ。

「うま!!何これ!?うま過ぎる!!」

「美味しい!!いい香り~こんなの始めて食べました!幸せです~」

二人が至福の表情を浮かべる。

この世界のお菓子は砂糖を大量に使用する。むしろ砂糖の塊と言ったほうが正しいだろう。
その為、元々砂糖が高価なこの世界では庶民の口に入る事はあまりない。
けれど私の作るお菓子は、そんなものよりは砂糖が控え目だ。もしかしたら少しは手に入り易くなるのかもしれない。
まあ、それでも高価な事は否めないけれど、、、

「これお菓子、ですよね?でも、毎年建国祭に振舞われるお菓子と全然違います、、、美味し過ぎます!」

「そうだよな!毎年楽しみで仕方ない建国祭のお菓子より断然うまいよ!」

二人の絶賛に周りの人々がざわめき、視線が私の手元に集まる。

「、、、食べます?」

「いいの!?」「やったー」「欲しいです!」「お菓子ー!」「「「「ありがとううさ耳さん!」」」」

その場にいた少年少女が群がって来る。
今日は初歩の講習なので、この教室にいるのは皆年若い者ばかりだ。

「順番にお渡ししますから、並んでくださいね」

私の言葉に皆一斉に列を作る。
、、、雛に餌を与える親鳥みたいになってますね。
期待満面の少年少女達にお菓子を手渡していく、、、ん?

互助組合ギルド長、、、貴方もですか?」

「差別はいかんぞ」

いつの間にか最後尾に互助組合ギルド長が並んでいた。

「そんな事しませんよ。どうぞ」

「うむ、有り難く頂こう!、、、これは!本当に美味いな、、、これ程の逸品食べた事もないぞ!」

互助組合ギルド長の言葉に少年少女達も頷いて幸せそうにクッキーを食べている。

「よし、ではそろそろ練習場に移動するぞ!」

皆が落ち着いた所で練習場に移動を開始する。
移動中もエミやヨーナス達に周りを囲まれながら練習場に向かう。
すっかり懐かれちゃいましたね、、、お菓子の威力凄いです。

「では、先ず先程の講習で説明したように、自分の中にある魔力を意識しその存在を感じるのだ」

皆が自分自身に集中し始めたので、私も私の中の魔力に意識を集中する。
自然と目を閉じると、自分の中から溢れ出る無尽蔵とも言うべき魔力だけに意識が移る。
ああ、身体中に行き渡る魔力を感じる。
何だか気持ちいいです、、、ヨガの瞑想みたいな感じですね。

「イーナ!おい!イーナ!」

ん?互助組合ギルド長が呼んでる?
折角いい気分だったのにと思いながら目を開けると、周りには呆気に取られたような表情の皆がいた。
あれ?何かあったのかな?

「イーナ、自分の状態が分かるか?ゆっくり魔力から意識を離すんだ」

自分の状態?
なだめるように言われた言葉に、自分に意識を戻す。

「きゃっ!」

なんと私の体は風に取り巻かれ、小さな火花も散っている。
しかも、、、浮いてる?数センチだが確実に地面から浮き上がっていた。

えーーーーーー!?

驚きながらもなんとか魔力を散らす。
びっくりした!ホントに!!

互助組合ギルド長、こんな事になるなんて講習で教えてもらってませんよ!」

思わず苦情を述べると、互助組合ギルド長から呆れたような声が返ってくる。

「普通ならんわ!!魔力を意識するだけで体を浮かす程の魔力が発現する事などない!それどころか何も起こらんのが普通じゃ!」

見回すと、少年少女達の目に畏怖の感情が浮かんでいる。
ああ、やっちゃった?
仲良くなれそうだったのに、、、
物心ついた頃から注がれていた、周りの怯えたようなアマーリエを遠巻きにする視線を思い出す。

『そんな恐ろしい力使ってはいけないわ』
底冷えのする笑顔に猫撫で声、お母様は繰り返し私-アマーリエにこうささやいた。
『恐ろしい、怪物のような、忌まわしい』表現は違えど同じ言葉。
私と私の魔力は否定され続けた。
抱き締める冷たい手がいばらのように私に絡みつき耳元で囁かれる。
子供だったアマーリエにはそれが日常。お母様と二人の日々。何かが壊れていくような気がした。
幾ばくかの救いがなければ、小さなアマーリエの心は本当に壊れていたかもしれない、、、

うさ耳さん?」

え?物思いに沈んでいた私にエミの声が届く。

「お姉様凄いです!地上から離れて浮いている姿は神聖で女神様のようでした!」

「うん、凄い格好良かった!俺も飛んでみてー」

ヨーナスは興奮したように目を輝かせている。
他の皆も「凄い凄い」と口々に褒めてくれる。

「あ、ありがとう、、、」

喉が詰まって震えるような声になってしまった。

外に出て良かった。ふと、そんな風に思う。
アマーリエの世界は今までとても狭く閉塞的で息苦しかった。
これから徐々に癒され幸せを感じるようになれば、私の中に残るアマーリエの心が救われ、この小さな子供が心の中で震えて泣いているような想いもいつか消えてなくなるのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...