我儘女に転生したよ

B.Branch

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互助組合ギルド長の魔法講習はとても為になった。しかし、残念ながら教室内に催眠効果を発揮し始めたようだ。
皆の頭がユラユラと揺れている。

ね、眠い!覚えた事を忘れそうだ。
いや、ここは潔く寝るのが正解なのか!?寝る事で記憶は整理され定着するって誰かが言っていたような気がする。
という事は寝るのはむしろ良い事!?
う、眠過ぎて正常な判断が出来なくなってきた、、、

殆どの生徒が睡魔に敗北し、私も思考を放棄しようとした時、ようや互助組合ギルド長から救いの手が差し伸べられた。

「では、これから実技を行うので、練習場に移動する」

「やったー!やっと終わった!もう眠くて眠くて」

「ヨーナス!教えてくれてるのに失礼だよ!」

互助組合ギルド長の言葉と同時に立ち上がって拳を突き上げて叫んだ少年を連れの少女がたしなめる。

「あーごめんなさい、、、」

「ふむ、まだ若いとは言え冒険者には落ち着きも大事じゃぞ」

「すみません、ヨーナスは生まれた瞬間から落ち着きがないっておばさんも言ってました」

「おい!エミも寝てたじゃんか!」

「自分を正当化する為に他の人を犠牲にするなんて男らしくないよ!」

「小難しい事ばっかり言うなよ!寝てるのを認めない女はどうなんだよ!」

おー白熱してますね。
年若い二人の可愛らしい言い合いに、互助組合ギルド長も生温かく見守り口を挟まない。

「女の子に勝ちも譲れない男は何もかも小さいってお姉ちゃんが言ってたよ!」

「何もかもって何だよ!」

「知らないよ!いーーだ!」

「何だよ!いーーだ!」

「フッ」

あ、可愛らし過ぎて思わず吹き出しちゃいました。
もう、お母さん目線でしか若者を見れなくなってますね。

「ヨーナスの所為でうさ耳さんに笑われたでしょ!」

「エミが、いーーだ、とか言うからだろ!」

言い合いの最中の二人にも私の笑い声が聞こえてしまったみたいです。

うさ耳さん!ヨーナスが煩くしてごめんなさい」

「おい!俺の所為かよ!」

エミとヨーナスが騒ぎながらこちらに近付いて来たので、「よしよし」と思わず二人の頭を撫でてしまう。
おっと、手が勝手に動いちゃいました。

「う!?」「ちょっ!?」

「はい、これどうぞ」

戸惑う二人の目の前に屋敷から持って来た紅茶のクッキーを差し出す。
ロールケーキを紅茶風味にしたので、ついでにクッキーも焼いてもらったのだ。小腹が空いた時用とベルタをごまかす時用です。
っていうか、私、お母さんを通り越してオバちゃん化してる?ヤバイです、、、

「「え?ありがとうございます」」

二人が同時にお礼を言い、躊躇なくクッキーを口に運ぶ。

「うま!!何これ!?うま過ぎる!!」

「美味しい!!いい香り~こんなの始めて食べました!幸せです~」

二人が至福の表情を浮かべる。

この世界のお菓子は砂糖を大量に使用する。むしろ砂糖の塊と言ったほうが正しいだろう。
その為、元々砂糖が高価なこの世界では庶民の口に入る事はあまりない。
けれど私の作るお菓子は、そんなものよりは砂糖が控え目だ。もしかしたら少しは手に入り易くなるのかもしれない。
まあ、それでも高価な事は否めないけれど、、、

「これお菓子、ですよね?でも、毎年建国祭に振舞われるお菓子と全然違います、、、美味し過ぎます!」

「そうだよな!毎年楽しみで仕方ない建国祭のお菓子より断然うまいよ!」

二人の絶賛に周りの人々がざわめき、視線が私の手元に集まる。

「、、、食べます?」

「いいの!?」「やったー」「欲しいです!」「お菓子ー!」「「「「ありがとううさ耳さん!」」」」

その場にいた少年少女が群がって来る。
今日は初歩の講習なので、この教室にいるのは皆年若い者ばかりだ。

「順番にお渡ししますから、並んでくださいね」

私の言葉に皆一斉に列を作る。
、、、雛に餌を与える親鳥みたいになってますね。
期待満面の少年少女達にお菓子を手渡していく、、、ん?

互助組合ギルド長、、、貴方もですか?」

「差別はいかんぞ」

いつの間にか最後尾に互助組合ギルド長が並んでいた。

「そんな事しませんよ。どうぞ」

「うむ、有り難く頂こう!、、、これは!本当に美味いな、、、これ程の逸品食べた事もないぞ!」

互助組合ギルド長の言葉に少年少女達も頷いて幸せそうにクッキーを食べている。

「よし、ではそろそろ練習場に移動するぞ!」

皆が落ち着いた所で練習場に移動を開始する。
移動中もエミやヨーナス達に周りを囲まれながら練習場に向かう。
すっかり懐かれちゃいましたね、、、お菓子の威力凄いです。

「では、先ず先程の講習で説明したように、自分の中にある魔力を意識しその存在を感じるのだ」

皆が自分自身に集中し始めたので、私も私の中の魔力に意識を集中する。
自然と目を閉じると、自分の中から溢れ出る無尽蔵とも言うべき魔力だけに意識が移る。
ああ、身体中に行き渡る魔力を感じる。
何だか気持ちいいです、、、ヨガの瞑想みたいな感じですね。

「イーナ!おい!イーナ!」

ん?互助組合ギルド長が呼んでる?
折角いい気分だったのにと思いながら目を開けると、周りには呆気に取られたような表情の皆がいた。
あれ?何かあったのかな?

「イーナ、自分の状態が分かるか?ゆっくり魔力から意識を離すんだ」

自分の状態?
なだめるように言われた言葉に、自分に意識を戻す。

「きゃっ!」

なんと私の体は風に取り巻かれ、小さな火花も散っている。
しかも、、、浮いてる?数センチだが確実に地面から浮き上がっていた。

えーーーーーー!?

驚きながらもなんとか魔力を散らす。
びっくりした!ホントに!!

互助組合ギルド長、こんな事になるなんて講習で教えてもらってませんよ!」

思わず苦情を述べると、互助組合ギルド長から呆れたような声が返ってくる。

「普通ならんわ!!魔力を意識するだけで体を浮かす程の魔力が発現する事などない!それどころか何も起こらんのが普通じゃ!」

見回すと、少年少女達の目に畏怖の感情が浮かんでいる。
ああ、やっちゃった?
仲良くなれそうだったのに、、、
物心ついた頃から注がれていた、周りの怯えたようなアマーリエを遠巻きにする視線を思い出す。

『そんな恐ろしい力使ってはいけないわ』
底冷えのする笑顔に猫撫で声、お母様は繰り返し私-アマーリエにこうささやいた。
『恐ろしい、怪物のような、忌まわしい』表現は違えど同じ言葉。
私と私の魔力は否定され続けた。
抱き締める冷たい手がいばらのように私に絡みつき耳元で囁かれる。
子供だったアマーリエにはそれが日常。お母様と二人の日々。何かが壊れていくような気がした。
幾ばくかの救いがなければ、小さなアマーリエの心は本当に壊れていたかもしれない、、、

うさ耳さん?」

え?物思いに沈んでいた私にエミの声が届く。

「お姉様凄いです!地上から離れて浮いている姿は神聖で女神様のようでした!」

「うん、凄い格好良かった!俺も飛んでみてー」

ヨーナスは興奮したように目を輝かせている。
他の皆も「凄い凄い」と口々に褒めてくれる。

「あ、ありがとう、、、」

喉が詰まって震えるような声になってしまった。

外に出て良かった。ふと、そんな風に思う。
アマーリエの世界は今までとても狭く閉塞的で息苦しかった。
これから徐々に癒され幸せを感じるようになれば、私の中に残るアマーリエの心が救われ、この小さな子供が心の中で震えて泣いているような想いもいつか消えてなくなるのだろう。
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