我儘女に転生したよ

B.Branch

文字の大きさ
上 下
17 / 50

予期せぬ事態です

しおりを挟む
さあ、今日は何して過ごしましょう?
ヴィアベルは本館に行っちゃったし、図書室で読書でもしようかな!

「ベルタ、図書室に参ります」

ベルタに告げて部屋を出る。

図書室では基本的に1人で過ごす。
侍女たちもお茶の用意はするが側に控えることはない。
アマーリエの習慣だったので、皆心得た様に下がって行く。
"図書室に行く"はアマーリエが1人になりたい時の言葉だったのだ。

「え、食べたの!?」

図書室への廊下を歩いていると、侍女の声が聞こえてきた。
何となく侍女達の死角である扉口の陰に隠れてしまう。

私におしゃべりを聞かれたと思ったらきっと慌てるよね。
まだ完全には以前のアマーリエを払拭できていないだろうし、平謝りとかされたらすごく気不味い。

あ、でも、このままだと立聞きになっちゃう?

「ええ、すっごく美味しかった!」

「ずるいわ!」

「そうよ、そうよ!」

案の定、侍女達は私に気付かず話し続ける。

「"グラタン"っていうらしいわ。クリーミーで熱々で本当に美味しかった、、、」

味を思い出しているのか、侍女の1人が陶酔したように呟くと、他の侍女が羨ましそうな声を上げる。

「いいな~私昨日は本館の方の担当だったの」

「私も、、、最近陽光館を担当したいって人が多いのよ。以前は押し付け合いだったのにね」

「そうね~」

各家人の専属侍女以外の者達は持ち回りで部屋の清掃などを行っているので、本館と陽光館のどちらを担当するのかはシフトによるのだろう。

どうやら、話の中心になっているのはグラタンを作った時に厨房にいた侍女のようだ。

昨日ベッカーが帰ってから厨房に行くと、お馴染みのクルトとダミアンと侍女数人がいた。
調理見習いの2人に料理の手伝いを頼むと、「料理長を呼んできます!」と言って走って行った。
まだ連れて来てと頼んでいないのになぜ?と思って聞いてみると、呼ばなかったらヤバい事になるとのことだった。
料理長、、、

それからすぐに料理長がやって来た。
一応、多忙の料理長を呼び出したお詫びを述べると、全く問題ないので今後もいつでも呼んでくれと言われました、、、仕事大丈夫ですか?
心配になってベルタに確認すると、副料理長に全て押し付け、、、いや、任せているそうだ。
可哀想な副料理長、、、中間管理職な感じかな。

副料理長には申し訳ないが、料理長を止められそうにないので、早く終わる為にもすぐに作り始める事にした。

まずはパスタ生地を作る。マカロニの為だ。
市販のマカロニの形状を手作りで作るのは難しそうなので、似た形のパスタを作った。

皆、パスタにも驚いていた。いろいろな形に成形して各種料理に使える事を教えると、料理長が感激していた。
あ、ロールケーキの時の二の舞!?となったが、やっちゃった後でした。しょうがないよね?
暫くは晩餐にパスタ料理が並ぶ事になるのでしょう、、、

パスタを完成させ、ホワイトソースを作った。
バターで小麦粉を炒めたものに牛乳を混ぜる際、泡立て器を使うとダマが出来にくいと教えてみた。
家庭料理の知識をプロの料理人に教えるのもどうかと思うが、初心者なのでまあいいでしょう。

焼き上ったグラタンをオーブンから取り出すと、皆のゴクリと唾を飲む音がした。
チーズの香ばしい香りがなんとも食欲をそそります。

久々のグラタンは美味しかったです!皆も絶賛してくれました。
勿論、ヴィアベルも晩餐で、フーフーしながら美味しそうに食べていました。うちの子可愛い!

今おしゃべりしている侍女は、試食の際「美味しい」を連呼していたので、余程気に入ったのだろう。
まあ、料理長の美辞麗句の数々には適わないが、、、「燦然と輝く大海原のようなグラタン」って何?訳わかんないよ!そんな事ではグルメリポーターの座はベルタから奪えませんよ!

「そうだ!近々"ミルクレープ"が食べられるって噂が流れてるんだけど、本当なの!?」

「ええ、奥様がそう仰っていたらしいわ」

「やった!!楽しみ過ぎる!生きてて良かった~」

大袈裟な人がここにもいますね。まあ、喜んでくれているみたいで良かったです。
しかし、噂が広がるの早いですね。実行しないと恨まれそうです。

「でも、奥様変わったよね」

1人の侍女がボソリと呟くと、皆も同意の声を上げた。

「ええ!ヒステリックに叫ぶ事をなくなったし、癇癪を起こして魔法で物を壊すこともなくなったわ。穏やかになってまるで別人ね!」

「確かに!魔法が暴発した時は本当に怖かったわ」

そう言って、侍女がブルッと身を震わせた。

「皆、陽光館で勤めるのが不安だって言っていたものね」

「そうね、奥様程の魔力を持った人なんてそうはいないと思うわ」

口々に魔力の恐ろしさを語る侍女達に思わず溜息が出た。

ハァ、皆にはかなり迷惑を掛けていたみたいですね、、、申し訳ないです。
頑張って魔力の制御が出来るようになります!

「でも、、、部屋や家具はすごい事になったけど、怪我人はいなかったわよね」

「そうね、運が良かったわ!」

「まあ、それもそうだけど、奥様も制御できないなりに魔力を人に向けないようにはしてらしたんじゃないかしら?」

「迷惑だったけど、悪意はなかったものね。アンネリース様の我儘をすごく酷くしてこじらせまくった感じね」

、、、何ていうか、この屋敷の人は皆お人好し?
悪意はなかったと言ってくれているが、アマーリエの振る舞いはひどく扱い難くて自分勝手なものだった。
敬遠されてはいても嫌われていない事が不思議で仕方ない。ちょっと子供の我儘扱いだし、、、

今更ですが、これ以上、立聞きするのも申し訳ないので、そろそろ図書室に向かいましょうかね。

物音を立てないようにそっと扉口の陰から出て歩き出すと、侍女達の話す声も段々と聞こえなくなり図書室に到着した。

さて、何の本読もうかな?
、、、やっぱり魔法の本だよね。予習は大事だし!

ペラペラと読み進んでいく。
ふむふむ、色々書かれていますね、、、あ!これ・・いいかも!

「"結界を作る魔法"かぁ、ヴィアベルを守る為にこれは役立つよね!」

やり方は、、、魔力を意識し結界を張る範囲を設定する、そして、、、閉じる?

「"閉じる"って何?ん~よく分かんないな?やっぱり習わないと難しいよね、、、」

鍵を掛ける感じなのかな~
魔力は意識しなくてもある、範囲は陽光館?、で鍵を「ガチャ」っと回すジェスチャーをしてみる。

、、、うん、何も起こらない。
結界なら誰にも迷惑が掛からないのでいいかと思ったけれど、本で理解するのは無理ですね。
少し期待外れな気持ちで本を見ていると、扉がトントンとノックされる。

「どうぞ」

お茶だろうと思って声を掛けると、ベルタが急いで入って来た。

「奥様!」

ベルタは緊迫した様子で話し始めようとしたが、私の手元の魔法の本を見た瞬間、ピタリと動きを止めた。

「ど、どうかしたの?」

「奥様、、、何かされましたね」

ベルタが思い切り断定口調で聞いてきた。

え?別に何もしてない、よね?したの?え??

「し、してない、わよ?」

否定した私にベルタの疑いレベルではない視線が突き刺さる。
絶対に信じてませんね。ベルタさんはやっぱり勘が良すぎます。

っていうか、何が起こったの!?
教えて!いや、聞きたくないです!ごめんなさい!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

処理中です...