我儘女に転生したよ

B.Branch

文字の大きさ
上 下
11 / 50

実演しましょう

しおりを挟む
厨房に着くと誰もいませんでした。

ではでは、私が♪っと前に出ようとしたところ、ベルタがすかさず「調理助手を呼んで参ります」と言って去って行った。

ちょっとくらいいいじゃんねぇ~、ケチ~、、、ハッ、なんて言葉遣いを!ヴィアベルが真似したらどうするんですか!
口には出してませんけど、こういうのは油断してると咄嗟に出てしまうものですからね!

「奥様、お待たせして申し訳ございません」

え?、、、料理長?

なぜか、目の前に料理長が立っていた。
料理長の後ろにベルタとお馴染みのクルトとダミアンもいる。

調理助手を呼びに行っただけだよね?
ベルタを見ると、申し訳なさそうな表情でこちらを伺っている。

「奥様、何やら調理の助手を必要とされているとか。不肖私めが微力ながら勤めさせていただきます!」

、、、いや、あなた料理長ですよ?
助手するんですか?おかしいですよね?

「先日、ダミアンに分けて下さいました片栗粉、あれは素晴らしいですな!小麦粉でとろみ・・・を付けるとどうしても風味や粉っぽさが残り色も白く濁ります。しかし、あの片栗粉は味も色も付けずにスープにとろみ・・・が付けられる。驚きを通り越して感動いたしました!いや~しかも、ミルクレープなるケーキも絶品だったとか!羨ましい!料理界の一端を担う者として新たな料理の歴史が生まれる瞬間に立ち会える機会を逃すわけにはまいりません!どうぞ、私を助手に!」

料理長が興奮して喋りまくる。
誰かを思い出しますね、、、チラッとベッカーの方を見ると、また新商品の匂いを嗅ぎつけたとばかりに口元に悪い笑みを浮かべていた。

「そうですか、では、お願いしますわ。今日はこの泡立て器の実演をいたします」

もう、反対するのも面倒なので料理長の好きにしてもらいましょう。

料理長は泡立て器を興味深そうに眺めて真剣な表情で聞いてくる。

「なるほど、、これをどのように使用すればよろしいのでしょうか?」

「その説明に入る前に、お菓子を作る上で一番大切なことは何か分かりますか?」

調理見習いの2人を見ると、クルトがおずおずと答えた。

「さ、砂糖をたくさん使うことだと思います!」

あ~そうですよね。私(アマーリエ)も前世を思い出すまでは、そう思っていました。
クルトの答えが特別におかしいのではなく、この世界のほとんどの人間がこう考えているのだ。
この世界の砂糖の値段はかなり高く、砂糖をたくさん入れるほど価値がある希少な贅沢品とされている。

「なるほど、では、砂糖をたくさん入れた方が美味しいとクルトは思いますか?」

「い、いえ、奥様のお作りになったケーキは無闇に甘過ぎず、寧ろ砂糖を控え目に加えることで他の材料を引き立てていました」

クルトはつかえながらも真剣に自分の考えを述べた。
それを聞き、料理長がハッと顔を上げる。

「そうか、我々は今まで甘さこそお菓子の全てだと考え、安易に大量の砂糖を加えていました。ですが、それは他の材料の味を殺すことだったのですな、、、なんということだ、何十年も料理を作り続けてそんなことにも気付かなかったとは、、、私は料理人失格です」

料理長が項垂れ、がくりと膝を付いた。

え、いえ、そこまで大袈裟に取られると困るんですが、、、
料理長は頭を抱え、なおもブツブツと自分の愚かさを嘆いている。
挙句の果てに、「料理長を辞める!」とか言い始め、周りを慌てさせている。
ええ!?ダメでしょう、ちょっと待って!

「料理長、なぜそのように嘆くのですか?私にはとても良いことだと思えるのですが」

「奥様?」

うつむいていた顔を上げ、料理長がいぶかしげにこちらを見てくる。

「新たなことを知ったことが悪いことでしょうか?これからあなたがより素晴らしい料理人になれるということではありませんか?」

「奥様、、、はい、、その通りです!!落ち込んでいる暇などなりませんな!寧ろこれからもっと学ぶことがあることに喜びと興奮を感じます!なんと有り難い!」

料理長は矢庭やにわに立ち上がり、少年のように目をキラキラさせた。
料理長を宥めようとしていた面々もホッとしたように笑顔でこちらを見ている。

短い間でかなり周囲の人々の感情が変わってきたように思う。
周囲が常にビクビク怯えているような環境は子供にいい影響を与えない。
ヴィアベルのためにも穏やかな環境は大切だ。

「では、話を戻しますが、お菓子を作る上で大切なこと、それは下準備です。どんな料理にとっても重要ですが、お菓子作りで下準備を怠ると出来上がりに格段の差が生まれてしまいます」

「なるほど」

皆が真剣な顔で頷いている。

「下準備といっても基本的なことです。材料を用意して計る、粉類を振るう、オーブンを温める、あとは材料を常温に戻すなどです」

「常温に戻す、ですか?」

「ええ、材料と材料の温度差を無くし常温にすることは、混ぜる上でも焼く上でも大切なことなのです」

皆の間に感心したような声が漏れる。
調理に関係ない者達まで熱心に聞き入っている。
ていうか、ベッカーのギラギラした目が怖いんですけど!

一通り下準備の説明をし、今回の材料の下準備をお願いすると、料理長が即座に材料を取りに向かう。

「料理長!俺たちが用意しますから!」

「何を言う、私は調理助手だぞ。これは私の仕事だ!」

「いや、ホントにお願いしますから」

クルト達に涙目になって止められ、料理長は渋々取りに行くのを諦め、その他の準備に取り掛かる。

「小麦粉と砂糖はこのふるい・・・で振るって、卵を卵黄と卵白に分けます」

ふるい・・・はもちろんベッカーに頼んだものだ。
卵は分けなくても出来るが、経験からすると卵黄と卵白を別々に泡立てた方が失敗が少ないように思う。
材料と分量さえ分かれば、基本的なお菓子の作り方は知っている。

「さて、ここでこの泡立て器を使います。今、私はケーキの生地を焼こうと思っていますが、生地は空気をふくませることで膨らみます。この泡立て器はより簡単に卵に空気を含ませることが出来るのです」

料理長が力強く素早い手付きで砂糖を入れた卵を泡立てていく。

「これは凄いですな!卵がこんな状態になるとは考えたこともありませんでした、、、」

卵黄と卵白は完璧にふわふわに泡立てられている。

「お~、なんか既に美味しそう、、、」

「美しい、、、」

ダミアン、食べちゃ駄目ですよ!
それにベルタ、泣いてます?美しいって、卵だよ?
まあ、これで泡立て器の有用性は示せたでしょう。

よし、あとは小麦粉をサクッと混ぜて、鉄板に油を敷き生地を流し込んで焼き上げるだけです。

「本当に膨らみましたね、、、」

出来上がった生地を見て、クルトが驚いたように呟いた。
料理長は感動のあまり言葉もない。

「いい匂いですね~」

侍女の1人がうっとりと嬉しそうな声を上げた。

このまま放って置くと、延々と飽きることなく生地を眺めていそうな面々に次の指示を出す。

「では、生地を冷まして生クリームをのせて巻きましょう」

私の言った通りに、冷まされた生地が巻かれていく。
出来上がったロールケーキを見て、またもや皆が感嘆の声を上げる。

「なんと美しく気高き姿だ、、、この至高の輝きは神の思し召しか、、、」

料理長、意味分かりませんけど?
ロールケーキは光ってませんよ?

しばらく、ロールケーキの観賞会は終わりそうにありません。
ヴィアベル帰ってきたら食べちゃうけどね~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...