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しおりを挟む唐突に、唐突に、でもそれ以前からゆっくりと、侵攻の準備は整っていたのだ。
何の前兆もなかった。
ただ、ふと、クサちゃんが「こいつはヤバイな…」と呟いたのだ。
私はその震える顔を見て、カヌーに穴でもあいたのかと思った。
だから陽光の下の寝ぼけ眼で「ふぇ?」と言ったのみで、クサちゃんの次の反応を窺っていた。
「これは…今の今まで気がつかなかった…」
「え、え?え?」
「すまん、行くぞ」
クサちゃんは私の腕を掴んで、「一緒に行くぞ」と、重ねた。
「え?ん?」
「時間が無い。急ぐ!」
最後の方は悲鳴だった。
クサちゃんは空間移動を慌てて発動し、どこか別の場所へ私を飛ばした。
「ああ!カヌー、放ってるよ!」
私が叫んでも、何も言わなかった。
そして素早く移動した先には。
「…ん?ここは?何?」
砂漠だろうか。
ラクダがいると言われる、あそこだろうか。
でも、本には、風で砂嵐が起きていたはずだ。
だが、そこの土は固くて、ただ、それだけだった。
あとは、何も無い、ただの空間。
「遅かった…」クサちゃんがへたり込んだ。
「え?わけ分かんないよ。説明を…」
「これから起きる被害に備えるんだ!相手は…エグすぎる……」
クサちゃんは前方をキッと睨んだ。
横にいる私にも何か不穏なモノが伝わってきて、ますます頭がこんがらがる。
結局クサちゃんは私を置いて独りで駆け回っていた。
私は、ここはどこなのだろうかと思いながら、ひたすらにクサちゃんを待っていた。
そのクサちゃんが戻って来たのは、夕日が沈むか沈まないかという頃だった。
「ごめーん…って…あれ?」
「遅、遅い…。喉が渇いて…」
「わわわわ!そっか!日陰も無いんだった!忘れてたよ!!」
それからクサちゃんは迅速に対応して、すぐにご飯と水を調達した。
「あれ?これって…」私は水を一口すすって呟いた。ご飯の献立に見覚えが…
「あは、バレた?そう、寮から盗んで来ちゃった」
「はあ…」
「どうせトクちゃんはあそこに所属してるんだから」
「じゃあクサちゃんは?」
「僕は…あれだ、あの、トクちゃんのお裾分けと言ってもいいし、つい最近解雇されたばかりだし」
「はあ…」
つまりクサちゃんも寮食で済ませたのだ。
だが、腹が空いているのは事実だから、私はそのご飯を食べた。体は正直だ。
「はい、これ、お土産ね」
クサちゃんが手に持っていた物を渡してくれた。
「これは?」
「森にあったんだ。クダモノだよ」
「あー、デザートの」
「そう」
クサちゃんは森にも行っていたらしい。
「…ねえ、何してたの?」
「えっと…」
クサちゃんは私の価値を天秤にかけるように見る。
「…トクちゃんって、どこの村出身だったっけ?」
「アルカダ村だけど…」
「…ふー、まあ良かった」
クサちゃんは自分用に取っておいたらしいクダモノを齧る。
私も口に放り込んだ。
顎を上下に動かして歯を噛み合わせるたびにシャキシャキとした食感が快い。
「…で、何かあったの?」
「大当たり」クサちゃんは口をモゴモゴしたまま、「アルカダ村に行こう」と誘ってきた。
「何?」
「トクちゃんの家だよ。親御さん…、なんか変な感じだね。両親を連れて逃げよう」
「え?」
「ここね、ヤンマ村っていう村だったんだ」
「??」
「敵は強い。一瞬でここにあるものすべてを根こそぎ奪ってしまったんだ」
もしかして…
ここが村だったーーー?
「いやいやいや…」
「アルカダ村、いや、訓練場からずっと離れてるから、大丈夫だとは思ってたんだけどね。急がなくちゃ」
クサちゃんが真面目な顔で言うので、私は何も喋ることができなかった。クサちゃん、テンションは戻って来ていると思うんだけど。行き過ぎというか、…そう、嘘くさい。
何の前兆もなかった。
ただ、ふと、クサちゃんが「こいつはヤバイな…」と呟いたのだ。
私はその震える顔を見て、カヌーに穴でもあいたのかと思った。
だから陽光の下の寝ぼけ眼で「ふぇ?」と言ったのみで、クサちゃんの次の反応を窺っていた。
「これは…今の今まで気がつかなかった…」
「え、え?え?」
「すまん、行くぞ」
クサちゃんは私の腕を掴んで、「一緒に行くぞ」と、重ねた。
「え?ん?」
「時間が無い。急ぐ!」
最後の方は悲鳴だった。
クサちゃんは空間移動を慌てて発動し、どこか別の場所へ私を飛ばした。
「ああ!カヌー、放ってるよ!」
私が叫んでも、何も言わなかった。
そして素早く移動した先には。
「…ん?ここは?何?」
砂漠だろうか。
ラクダがいると言われる、あそこだろうか。
でも、本には、風で砂嵐が起きていたはずだ。
だが、そこの土は固くて、ただ、それだけだった。
あとは、何も無い、ただの空間。
「遅かった…」クサちゃんがへたり込んだ。
「え?わけ分かんないよ。説明を…」
「これから起きる被害に備えるんだ!相手は…エグすぎる……」
クサちゃんは前方をキッと睨んだ。
横にいる私にも何か不穏なモノが伝わってきて、ますます頭がこんがらがる。
結局クサちゃんは私を置いて独りで駆け回っていた。
私は、ここはどこなのだろうかと思いながら、ひたすらにクサちゃんを待っていた。
そのクサちゃんが戻って来たのは、夕日が沈むか沈まないかという頃だった。
「ごめーん…って…あれ?」
「遅、遅い…。喉が渇いて…」
「わわわわ!そっか!日陰も無いんだった!忘れてたよ!!」
それからクサちゃんは迅速に対応して、すぐにご飯と水を調達した。
「あれ?これって…」私は水を一口すすって呟いた。ご飯の献立に見覚えが…
「あは、バレた?そう、寮から盗んで来ちゃった」
「はあ…」
「どうせトクちゃんはあそこに所属してるんだから」
「じゃあクサちゃんは?」
「僕は…あれだ、あの、トクちゃんのお裾分けと言ってもいいし、つい最近解雇されたばかりだし」
「はあ…」
つまりクサちゃんも寮食で済ませたのだ。
だが、腹が空いているのは事実だから、私はそのご飯を食べた。体は正直だ。
「はい、これ、お土産ね」
クサちゃんが手に持っていた物を渡してくれた。
「これは?」
「森にあったんだ。クダモノだよ」
「あー、デザートの」
「そう」
クサちゃんは森にも行っていたらしい。
「…ねえ、何してたの?」
「えっと…」
クサちゃんは私の価値を天秤にかけるように見る。
「…トクちゃんって、どこの村出身だったっけ?」
「アルカダ村だけど…」
「…ふー、まあ良かった」
クサちゃんは自分用に取っておいたらしいクダモノを齧る。
私も口に放り込んだ。
顎を上下に動かして歯を噛み合わせるたびにシャキシャキとした食感が快い。
「…で、何かあったの?」
「大当たり」クサちゃんは口をモゴモゴしたまま、「アルカダ村に行こう」と誘ってきた。
「何?」
「トクちゃんの家だよ。親御さん…、なんか変な感じだね。両親を連れて逃げよう」
「え?」
「ここね、ヤンマ村っていう村だったんだ」
「??」
「敵は強い。一瞬でここにあるものすべてを根こそぎ奪ってしまったんだ」
もしかして…
ここが村だったーーー?
「いやいやいや…」
「アルカダ村、いや、訓練場からずっと離れてるから、大丈夫だとは思ってたんだけどね。急がなくちゃ」
クサちゃんが真面目な顔で言うので、私は何も喋ることができなかった。クサちゃん、テンションは戻って来ていると思うんだけど。行き過ぎというか、…そう、嘘くさい。
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