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「お、おい…。もうやめてくれよ……」レンジが恥ずかしそうに目を泳がせる。
「ぎゃははは!やべ!腹痛い!センセ!もう一回!!レンジがハイハイするとこから見たい!」
「えー?面倒臭いよ!!最初の寝顔の場面も、我慢して見るんだ!」
「『ピーマン食べなさい』っていうお母さんみたい」
「違う!言うならお父さんにしろ!!」
「そんなに変わんないでしょ」
「変わるんだー!」
みんなでギャーギャー騒いでいたのだが、突然寮室の戸がガラリと開いた。
「何、なんだ!この真っ暗闇は!!全く、俺のいない間に何をしている!!馬鹿にしとんか、どりゃああ!全員出て来いや!」
ケント先生だ。
「ひいいい!」
「何みっともねえ声出しとんじゃ、ああ?!訓練中じゃろうが!何でそんなでっけえ音が部屋から聞こえてくるんだ!ああ?!おい、誰か応えろ!!どうして訓練中に笑い声が聞こえてくるんだっ!!」
「…羨ましいんですか?」
「アホッ!そんなんちゃうわ!!誰や!今そんなこと喋った奴!!暗闇やからって何でも言って良いんとちゃうど!コラ、早く出て来い!!」
無論、出てくるやつなんていない。暗闇の中だと、誰が何をしているのか分からないから便利だ。
確かに開いた戸から光は降り注いでくるが、クサカベ先生は闇魔法を強くしたらしく、届いてこない。それに、カメラの映像すら闇でかき消してしまった。だからケント先生は、私達が何をやっていたのか分からないわけだ。
「…おい!早く出て来い!耳が無いのか?ああ?!何でこんなに真っ暗なんだ!誰か魔法を使ってるのとちゃうんかい!!誰や!誰や!」
ケント先生が闇の中にズカズカ入り込んできた。
私達は壁に寄り添うように固まって身を縮めていたが、いつの間にか闇が無くなっていった。
クサカベ先生が術を解いたのだ。降伏するのか…?
「何だコラ!テメーらそんなにくっつきやがって。年齢が違うんとちゃうんか!テメー、年下は先輩を敬えよ、コラ」
ケント先生が意味不明な怒り方をして、近くにいた生徒をひっぱたいたが、その生徒は上級生の方ですよー。
「おい、ドラ、ドラ、そこに並べよ!」
ケント先生が私達を一列に並べる。
「おい!そこのテメー、説明しろ!」
「えっと…これは…その」
「上級生と訓練を一緒にするって話になったんだよなあ!それがどうして、この寮室に招き入れて一緒に遊ぶまでに至ったのか話せ!コラ!何で上級生を呼び込んだんだ!」
だから先生、そんなこと上級生の胸ぐらを掴んで話してもしょうがないです。
「カ、カメラを…」
「カメラだぁ?おい、どこにそんなものがあるんだ!」
みんな一斉に周りを見て、気づいた。
クサカベ先生が逃げている。
「あ、逃げやがった!あいつ」
「あいつって誰だ!」
「えと、ク……ゴホッゴホッ」
「はあ?聞こえんぞ、コラあ!」
「その…ク……ゴホッゴホッ」
「馬鹿にしとんのか!!」
私も名前を叫ぼうとした。
「それは、ク……ゴホッゴホッ」
が、「ク」と言った時点で咳き込んでしまい、その次を伝えられない。
気づけば、みんなでゴホゴホ合唱隊を編成してしまっていた。
「なめとんのか!おい!病み上がりだと思って!…じゃない、病気にかかっている途中の老人だと思って、ふざけてんだな!!急に全員が咳き込んで、集団インフルエンザの真似事をしたって、許さん!断じて許さんぞ!!馬鹿!!」
ケント先生が喚き散らすのを見てたら……。
咳き込んで涙を目に溜めながら、笑えてきた。口封じされてるんだ。あいつめ、よくもやったな。
「フフフフ、わはははは」
「何だ何だ!咳の後は集団で笑いだすとか、一体なにがどうなってる!お前ら全員退学にするぞ!」
そんなこと言われたって知るもんか。こんなに面白いことは滅多に無い。
ケント先生は顔を真っ赤にして怒っていたが、その怒鳴り声は笑いによってうやむやにされた。
すると、疲弊している体にだいぶん血が上ったのか、ケント先生は目を何回かパチパチとして、最後に何とかと叫んで、三人程殴って、帰っていった。
「…行ったね」
「あー、傑作だ。口封じとか」
「やろうと思えば、紙に書いてツゲグチするっていう方法もあったけどな。ま、これでいいだろ」
そう誰かが言うと、待ち望んでいたと言うように「そうだよ!これで良かったんだ!」とクサカベ先生が登場してきた。
「先生!何てことするんだ!裏切りやがったな!!」誰かが食ってかかる。だが、その顔の豊かなこと。
「裏切る?何のことかな?僕は最もトラブルになりにくい策を、だねえ…」
「俺たちも一緒に空間移動で逃がしてくれれば良かったじゃんよ」
「そりゃダメだ。僕が逃がしたってバレちゃう。そうなれば、僕がクラスを担当できなくなるよ」
「そーゆーことか」
「そーゆーこと」
クサカベ先生は頷いて、「でも、これだけじゃ納得できないって人もいるだろ?特に理不尽にシバかれた人だね。…じゃ、僕は一つ君達に権利をあげよう」
「権利?」
「そう」クサカベ先生はウンウンと首を動かしながら胸を張った。
「僕のこと、クサカベって呼んでいいよ!」
「要るか!そんな権利!!!」
そう言ってクサカベ先生を叩いたが、……じゃ、ありがたくその権利はもらっちゃおうか。
「ぎゃははは!やべ!腹痛い!センセ!もう一回!!レンジがハイハイするとこから見たい!」
「えー?面倒臭いよ!!最初の寝顔の場面も、我慢して見るんだ!」
「『ピーマン食べなさい』っていうお母さんみたい」
「違う!言うならお父さんにしろ!!」
「そんなに変わんないでしょ」
「変わるんだー!」
みんなでギャーギャー騒いでいたのだが、突然寮室の戸がガラリと開いた。
「何、なんだ!この真っ暗闇は!!全く、俺のいない間に何をしている!!馬鹿にしとんか、どりゃああ!全員出て来いや!」
ケント先生だ。
「ひいいい!」
「何みっともねえ声出しとんじゃ、ああ?!訓練中じゃろうが!何でそんなでっけえ音が部屋から聞こえてくるんだ!ああ?!おい、誰か応えろ!!どうして訓練中に笑い声が聞こえてくるんだっ!!」
「…羨ましいんですか?」
「アホッ!そんなんちゃうわ!!誰や!今そんなこと喋った奴!!暗闇やからって何でも言って良いんとちゃうど!コラ、早く出て来い!!」
無論、出てくるやつなんていない。暗闇の中だと、誰が何をしているのか分からないから便利だ。
確かに開いた戸から光は降り注いでくるが、クサカベ先生は闇魔法を強くしたらしく、届いてこない。それに、カメラの映像すら闇でかき消してしまった。だからケント先生は、私達が何をやっていたのか分からないわけだ。
「…おい!早く出て来い!耳が無いのか?ああ?!何でこんなに真っ暗なんだ!誰か魔法を使ってるのとちゃうんかい!!誰や!誰や!」
ケント先生が闇の中にズカズカ入り込んできた。
私達は壁に寄り添うように固まって身を縮めていたが、いつの間にか闇が無くなっていった。
クサカベ先生が術を解いたのだ。降伏するのか…?
「何だコラ!テメーらそんなにくっつきやがって。年齢が違うんとちゃうんか!テメー、年下は先輩を敬えよ、コラ」
ケント先生が意味不明な怒り方をして、近くにいた生徒をひっぱたいたが、その生徒は上級生の方ですよー。
「おい、ドラ、ドラ、そこに並べよ!」
ケント先生が私達を一列に並べる。
「おい!そこのテメー、説明しろ!」
「えっと…これは…その」
「上級生と訓練を一緒にするって話になったんだよなあ!それがどうして、この寮室に招き入れて一緒に遊ぶまでに至ったのか話せ!コラ!何で上級生を呼び込んだんだ!」
だから先生、そんなこと上級生の胸ぐらを掴んで話してもしょうがないです。
「カ、カメラを…」
「カメラだぁ?おい、どこにそんなものがあるんだ!」
みんな一斉に周りを見て、気づいた。
クサカベ先生が逃げている。
「あ、逃げやがった!あいつ」
「あいつって誰だ!」
「えと、ク……ゴホッゴホッ」
「はあ?聞こえんぞ、コラあ!」
「その…ク……ゴホッゴホッ」
「馬鹿にしとんのか!!」
私も名前を叫ぼうとした。
「それは、ク……ゴホッゴホッ」
が、「ク」と言った時点で咳き込んでしまい、その次を伝えられない。
気づけば、みんなでゴホゴホ合唱隊を編成してしまっていた。
「なめとんのか!おい!病み上がりだと思って!…じゃない、病気にかかっている途中の老人だと思って、ふざけてんだな!!急に全員が咳き込んで、集団インフルエンザの真似事をしたって、許さん!断じて許さんぞ!!馬鹿!!」
ケント先生が喚き散らすのを見てたら……。
咳き込んで涙を目に溜めながら、笑えてきた。口封じされてるんだ。あいつめ、よくもやったな。
「フフフフ、わはははは」
「何だ何だ!咳の後は集団で笑いだすとか、一体なにがどうなってる!お前ら全員退学にするぞ!」
そんなこと言われたって知るもんか。こんなに面白いことは滅多に無い。
ケント先生は顔を真っ赤にして怒っていたが、その怒鳴り声は笑いによってうやむやにされた。
すると、疲弊している体にだいぶん血が上ったのか、ケント先生は目を何回かパチパチとして、最後に何とかと叫んで、三人程殴って、帰っていった。
「…行ったね」
「あー、傑作だ。口封じとか」
「やろうと思えば、紙に書いてツゲグチするっていう方法もあったけどな。ま、これでいいだろ」
そう誰かが言うと、待ち望んでいたと言うように「そうだよ!これで良かったんだ!」とクサカベ先生が登場してきた。
「先生!何てことするんだ!裏切りやがったな!!」誰かが食ってかかる。だが、その顔の豊かなこと。
「裏切る?何のことかな?僕は最もトラブルになりにくい策を、だねえ…」
「俺たちも一緒に空間移動で逃がしてくれれば良かったじゃんよ」
「そりゃダメだ。僕が逃がしたってバレちゃう。そうなれば、僕がクラスを担当できなくなるよ」
「そーゆーことか」
「そーゆーこと」
クサカベ先生は頷いて、「でも、これだけじゃ納得できないって人もいるだろ?特に理不尽にシバかれた人だね。…じゃ、僕は一つ君達に権利をあげよう」
「権利?」
「そう」クサカベ先生はウンウンと首を動かしながら胸を張った。
「僕のこと、クサカベって呼んでいいよ!」
「要るか!そんな権利!!!」
そう言ってクサカベ先生を叩いたが、……じゃ、ありがたくその権利はもらっちゃおうか。
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