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「レンジ!お前カッコいいよ!!」思いっきり叫ぶ。
「はああ?急に何言ってんだお前…」レンジがビクッとしてこっちを振り返った瞬間…
「ワアアアアアア!」六つあるベッドの布団が全部めくれて十二人の生徒が出てくる。
「おわっ!」レンジは驚いて動きが止まった。
だがこれで終わりではない。
その寮室の戸がバン、と開いて何人ものクラスメイトや上級生が入ってきた。
「ウオオオ!お前は俺らのてっぺんだああああ!!」
「何、何、何?!」
レンジは突然のことに驚いて耳を塞ぐこと以外何もできていなかった。
それからワアワアみんな騒いで、まだお疲れのレンジもそれに巻き込まれてモミクチャにされる。
その騒動も時間が経つごとに徐々に鎮火して、やっとレンジが身動きできるようになった。
「何なんだよ、もう…」
「へへへ、やっぱり回復するのに時間かかるんだね」私はみんなと目配せして笑いあった。
「どういうことだ?」
「クサカベ先生が言ったんだ。『レンジ君、数時間経ったら起きるだろうけど、そうなっても少しの間能力は鈍っているだろうね。そこで、だ』」私は食い入るように見つめてくるレンジの前で朗々と喋った。
「ほら、あそこ見て!」いったん話を区切って部屋の隅を指す。
「あれは…?」
「ああ、そっか。お前、今は視界が霞んでるんだったっけな。ま、目の疲れもすぐに消えるから、すぐはっきりするとは思うけど。……あれね、カメラ」
「カ…カメラって、お前!!」
「うん、高級品ね」
カメラというのは、設置した場所でその時何が起こったのかを後のために記録してくれるっていうシナモノだ。記録したデータは暗闇の中で取り出すことができる。
「…分かりづらかった?」
「俺は知ってるから、言いたいことは大体分かる。だが、全く知らなかったら、分かんないだろうな」
「お前に分かったらいいんだよ」私はちょっと顎をシャクって笑った。
クサカベ先生は、レンジが疲れて無防備になることなんてソウソウ無いんだから、早く昼ご飯をかき込んで、その後の授業はレンジの周りで潜むことにしなさいと言ったのだ。
「おい、そんなの良いのかよ」
「だって先生が許可を出したんだもん」もっと言えば、発案者自体クサカベ先生だ。
そして、十二人をベッドの下、他の人は外で待機させた。
「いやあ、我ながらとってもウマい案だと思ったよ。楽しいし」
「先生…」はあ、とレンジが寝転がった。完全に脱力したって感じだ。
そしてみんなに合図する役、その重役には、私が抜擢された。
何で?って思ったけど、クサカベ先生が「やってみなよ」、って。
「ほら、そこのベッドの下に鉛筆が転がってるでしょ?その鉛筆を越えたら合図することになってたんだ」
「うわ、ホントだ」
レンジはベッドの下からちょっとだけはみ出している鉛筆を手に取った。
「一番レンジが油断してて、しかもいきなり戸を開いてもレンジの頭をぶつけない位置を探したんだ!」とクサカベ先生が嬉しそうに言う。寮の各部屋の入り口は基本的に片開き戸なのだ。
「はは、してやられたなあ。でも」レンジが目を伏せた。「みんな忘れてることがあるよ」
「ん?」
「俺のために先生がカメラ借りて来たんだろうけどさあ」
「あ、いや、僕、自分の持ってるんだー」
「分かったから!……あのカメラって、中に魔法石を詰めると、魔法石の質にもよるけど平均して一時間二十七分程度しか記録できないの知ってたか?」
「へえ。詳しいね」素直に褒める。
「俺が寝てから、その時間は既に過ぎてるんだよ!つまり後で見たって、俺の寝顔しかデータに無いと思うぜ?」レンジが鼻で笑った。レンジが寝ていたのは約五時間。ということは…。
「こらこら、僕を誰だと思ってるんだ」クサカベ先生が出てきた。「そんな、カメラの使える時間が限られてるなんて、僕だって知ってるさ。君みたいに正確な時間は知らなかったがね。それで…僕、感知能力を使って、君が起きそうになった時に、空間移動の魔法で魔法石をカメラの中に詰め込んだから大丈夫」
クサカベ先生がニヤリと笑い返した。
レンジはそれを見ると、何秒間か絶句していたが、やっと顔を背けると「どこに魔法使ってんだよ…」と呟いた。
それからはそのデータの評論会だ。評論をしない評論会。
まだ昼だから、カーテンを閉めて部屋の中を暗くする。
それでもまだ明るかったから、クサカベ先生が闇魔法で真っ暗にした。ホント、訓練時間に何やってんだか。
そしてその闇の中で、先生が魔法石に触れて魔力を流すと、浮かび上がるように寝ているレンジが出てきた。
「映像っていうんだよ。これ」と、先生がコソコソ解説する。
「うーん」と、小さくレンジが唸った。質が良い魔法石らしく、かなり細かい音も拾っている。
ーー私がレンジに話しかけているのも全部映ってる。
「そうそう、『映る』って言うんだ。君も物知りだねえ。こんなに高くて生活必需品でもないモノ、普通買わないんだけどねえ。魔法石の費用もバカにならないし」
「母さんが持ってたんだ」私はうっとりと、噛みしめるように言った。懐かしい。
途端にうるさくなった。映像の中のレンジが驚いているのが伝わってくる。
その頃になると、見ているみんなは、また楽しくなってきて笑いだした。
すると、なぜだかホッとしたように、静かに笑っていたレンジが、ピタリとその笑顔を止めてクサカベ先生の耳元で小さく囁いた。
私はレンジを目で追っていたので、その言葉を頑張って聞いてみる。
「先生、生徒間の、年上と年下っていう関係が薄くなってる気がする」
「だろ?僕もさ、君の実力に劣らない、素晴らしい授業すると思わないかい?」
それを聞いて私もハッとした。
上級生も、レンジにフルボッコにされて、思うところはあっただろうが、それよりも、こうしてみんなで楽しくワイワイやってると自然に距離も縮まるというものだ。
クサカベ先生のウインクが、レンジに向かって飛んでいくのを、私は新たな笑いを感じながら見ていた。
「はああ?急に何言ってんだお前…」レンジがビクッとしてこっちを振り返った瞬間…
「ワアアアアアア!」六つあるベッドの布団が全部めくれて十二人の生徒が出てくる。
「おわっ!」レンジは驚いて動きが止まった。
だがこれで終わりではない。
その寮室の戸がバン、と開いて何人ものクラスメイトや上級生が入ってきた。
「ウオオオ!お前は俺らのてっぺんだああああ!!」
「何、何、何?!」
レンジは突然のことに驚いて耳を塞ぐこと以外何もできていなかった。
それからワアワアみんな騒いで、まだお疲れのレンジもそれに巻き込まれてモミクチャにされる。
その騒動も時間が経つごとに徐々に鎮火して、やっとレンジが身動きできるようになった。
「何なんだよ、もう…」
「へへへ、やっぱり回復するのに時間かかるんだね」私はみんなと目配せして笑いあった。
「どういうことだ?」
「クサカベ先生が言ったんだ。『レンジ君、数時間経ったら起きるだろうけど、そうなっても少しの間能力は鈍っているだろうね。そこで、だ』」私は食い入るように見つめてくるレンジの前で朗々と喋った。
「ほら、あそこ見て!」いったん話を区切って部屋の隅を指す。
「あれは…?」
「ああ、そっか。お前、今は視界が霞んでるんだったっけな。ま、目の疲れもすぐに消えるから、すぐはっきりするとは思うけど。……あれね、カメラ」
「カ…カメラって、お前!!」
「うん、高級品ね」
カメラというのは、設置した場所でその時何が起こったのかを後のために記録してくれるっていうシナモノだ。記録したデータは暗闇の中で取り出すことができる。
「…分かりづらかった?」
「俺は知ってるから、言いたいことは大体分かる。だが、全く知らなかったら、分かんないだろうな」
「お前に分かったらいいんだよ」私はちょっと顎をシャクって笑った。
クサカベ先生は、レンジが疲れて無防備になることなんてソウソウ無いんだから、早く昼ご飯をかき込んで、その後の授業はレンジの周りで潜むことにしなさいと言ったのだ。
「おい、そんなの良いのかよ」
「だって先生が許可を出したんだもん」もっと言えば、発案者自体クサカベ先生だ。
そして、十二人をベッドの下、他の人は外で待機させた。
「いやあ、我ながらとってもウマい案だと思ったよ。楽しいし」
「先生…」はあ、とレンジが寝転がった。完全に脱力したって感じだ。
そしてみんなに合図する役、その重役には、私が抜擢された。
何で?って思ったけど、クサカベ先生が「やってみなよ」、って。
「ほら、そこのベッドの下に鉛筆が転がってるでしょ?その鉛筆を越えたら合図することになってたんだ」
「うわ、ホントだ」
レンジはベッドの下からちょっとだけはみ出している鉛筆を手に取った。
「一番レンジが油断してて、しかもいきなり戸を開いてもレンジの頭をぶつけない位置を探したんだ!」とクサカベ先生が嬉しそうに言う。寮の各部屋の入り口は基本的に片開き戸なのだ。
「はは、してやられたなあ。でも」レンジが目を伏せた。「みんな忘れてることがあるよ」
「ん?」
「俺のために先生がカメラ借りて来たんだろうけどさあ」
「あ、いや、僕、自分の持ってるんだー」
「分かったから!……あのカメラって、中に魔法石を詰めると、魔法石の質にもよるけど平均して一時間二十七分程度しか記録できないの知ってたか?」
「へえ。詳しいね」素直に褒める。
「俺が寝てから、その時間は既に過ぎてるんだよ!つまり後で見たって、俺の寝顔しかデータに無いと思うぜ?」レンジが鼻で笑った。レンジが寝ていたのは約五時間。ということは…。
「こらこら、僕を誰だと思ってるんだ」クサカベ先生が出てきた。「そんな、カメラの使える時間が限られてるなんて、僕だって知ってるさ。君みたいに正確な時間は知らなかったがね。それで…僕、感知能力を使って、君が起きそうになった時に、空間移動の魔法で魔法石をカメラの中に詰め込んだから大丈夫」
クサカベ先生がニヤリと笑い返した。
レンジはそれを見ると、何秒間か絶句していたが、やっと顔を背けると「どこに魔法使ってんだよ…」と呟いた。
それからはそのデータの評論会だ。評論をしない評論会。
まだ昼だから、カーテンを閉めて部屋の中を暗くする。
それでもまだ明るかったから、クサカベ先生が闇魔法で真っ暗にした。ホント、訓練時間に何やってんだか。
そしてその闇の中で、先生が魔法石に触れて魔力を流すと、浮かび上がるように寝ているレンジが出てきた。
「映像っていうんだよ。これ」と、先生がコソコソ解説する。
「うーん」と、小さくレンジが唸った。質が良い魔法石らしく、かなり細かい音も拾っている。
ーー私がレンジに話しかけているのも全部映ってる。
「そうそう、『映る』って言うんだ。君も物知りだねえ。こんなに高くて生活必需品でもないモノ、普通買わないんだけどねえ。魔法石の費用もバカにならないし」
「母さんが持ってたんだ」私はうっとりと、噛みしめるように言った。懐かしい。
途端にうるさくなった。映像の中のレンジが驚いているのが伝わってくる。
その頃になると、見ているみんなは、また楽しくなってきて笑いだした。
すると、なぜだかホッとしたように、静かに笑っていたレンジが、ピタリとその笑顔を止めてクサカベ先生の耳元で小さく囁いた。
私はレンジを目で追っていたので、その言葉を頑張って聞いてみる。
「先生、生徒間の、年上と年下っていう関係が薄くなってる気がする」
「だろ?僕もさ、君の実力に劣らない、素晴らしい授業すると思わないかい?」
それを聞いて私もハッとした。
上級生も、レンジにフルボッコにされて、思うところはあっただろうが、それよりも、こうしてみんなで楽しくワイワイやってると自然に距離も縮まるというものだ。
クサカベ先生のウインクが、レンジに向かって飛んでいくのを、私は新たな笑いを感じながら見ていた。
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