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「…じゃ、もう良いね!よし!新たな場所へ!」
司の背中に続いて、私も空間の亀裂に飛び込む。

飛びこえたら、すぐに大きな街が目の前にある。

「ここか…」
崖の上の街もそこそこ大きいと思っていたが、ここは別格だな。
私達は、その街が見える草原に落ちたらしい。

「まず街の中へ行ってみないことには、何も分からないよね」
「そりゃそうだ。早く行こう」

歩き出して、ふと後ろを見ると、あの森につながっている空間の亀裂が小さく開いていた。

ところで、背中がまだ痛い。
波動を他人と協力して増やすのは、こんなにキツイことなのか?
もう一度はできない。
自分で増幅する方法を見つけないと。
司みたいに、感覚で良いのだから。理論はいらない。

街はやっぱり厚い壁が覆っていた。どこもモンスター対策に奔走しているらしい。
残念ながら門の入り口は一つしかなくて、その入り口は私達がいる方向の逆だった。
ここの街が大きいせいで、また長い間歩かなければならない。

「…チャンル、どうしてこんなところに空間の亀裂なんて作ったの?嫌がらせ?」
「いや、他の人にバレないようにするためさ」
「バレたらマズイの?」
「マズくはないけど、変に詮索とかされても良い気持ちはしないだろ?」
「そっか」

「でもね、なんで門の入り口がここの反対側にあるかというと、今いるここの辺りの方がモンスターの出没する確率が高いからなんだ。だから、空間の亀裂を通ってあの森にも色んなモンスターが侵入するだろうし、森からもあの草原に来るだろうね」
「でも森にある空間の亀裂は岩の上だよ」
「まあ、森からここに来るのは物好きな鳥のモンスターくらいかもしれないけど、ここの草原から岩のてっぺんにたどり着いたやつは、岩を滑り降りることだって、できると思うよ」

ついさっきまでとは立場がまるで違って、私がチャンルの声を小刀から聞き取るという、とても面白い構図が出来上がっていた。チャンルからすれば面白くないことかもしれないけれど。

でも、とうとうキヌが「リリーだけズルい!波動を増やすっていう目的は果たせたんでしょ?!」と言い出した。
こうなれば仕方のないことだ。

チャンルは「召喚入れ替え」を使って私とキヌを入れ替える。
でもそうするとタツも叫びだすわけで、結局チャンルが出てきて、騒ぎは収束した。

でも問題ごととは重なるもので、チャンルは速く走れない。
少し歩いただけで息切れするような体質なのだ。

チャンルが設定したのだから自業自得とはいえ、このままでは急ぎたい司にまで影響が出る。
そろそろ空も白々と明るんできていた。


「ええい!分かったよ!チャンル!」
ホワイトが自分の魔力をチャンルの下に滑り込ませた。
チャンルは足をすくい上げられたような格好のまま空を飛ぶ。

「司はどうする?」一応ドウランが聞いた。
「このまま行けるよ!」
「了解!」

司は猛然と走りだした。
速い!
私達は慌てて一斉にチャンルへ力を注ぐ。
魔力は出来るだけ多く集めたし、波動も大量に加えた。

それだけ本気でやっているのに、司に追い抜かされそうになる。
周りの土がえぐれた。
このままでは街の周りに、私達が通った所だけ線を引くように土がむき出しになってしまう!

だからチャンルをもっと高くに飛ばした。
司は走っても草原が荒れていないから、きっとスキルの効果だけで私達に対抗しているのだろう。

なんてことだ。
今、追い抜かされた。
少しずつ距離が開いていく。

上空からでは分かりにくいが、私には、はっきりと感じられる。
負けているんだ。


その後すぐに門に着いたが、空間の亀裂から出てくるより目立ったんじゃないかと思った。

チャンルは最初「オヒョヒョヒョ」と笑っていたが、勢いをつけていくのに従って、表情が物凄いことになっていった。

ある程度速くなった時、落っことさないように魔力で体を包んでいたので風は受けなかったと思うのだが、それでも涙がボロボロこぼれていた。

ついでに門に着くと吐いた。
でも吐き出せるものがなかったのか、唾が糸を引いて落ちていった。

みんな波動と魔力しか使ってないから、唾液で汚れることもなかった。
でも、司より何秒か遅いという事実には、密かに地団駄をする思いだった。



「ねえ、チャンル、もう一度行ってくれる?」
「だきゃら言ったじゃらい…うっぷ。ここの門はあ、十ディ、十時にならないと開あきゃなくてうばぁ」
チャンルは顔面蒼白のまま答えた。

「…」
何でこんなにも早くにここに来たのか。
崖を深夜に深夜に出発して。

「チャンル、それじゃあ、どうして空間の亀裂をあんなとこに作ったのよ」
「ましゃかきょんなに早く、くう、来るとは思わなーたきゃら、ううう」
「きちんと喋れるくせして」
「えへへ…」
「引きずり過ぎなのよ、大げさな」

「目立つとか目立たないとか、もはや関係ないじゃん」
「えへへへ?」
「『えへへへ』じゃないよ、ねえ…」

小刀をへし曲げてでも頭を抱えたい気分だ。
小刀がへし曲がったところで頭を抱えるなんてできないとは思うが。

「自分の『転移』スキルは一度行ったところへしか使えないので、この門を超えるのは無理だね」
あんなに走ったのに息一つ切らさなかった司が言う。

「あ、そうか!チャンル!これからあの空間の亀裂は使わないわよ!」
「え、何で?…て、あ、そっか」

今日中にはこの街に入るのだから、あの空間の亀裂はもうオサラバだ。帰る時にも転移すれば良いんだから。

「あれの意味、あったの?」
「いや、でも、さっき使ったじゃんか!一回でも使ったんなら、役に立ってるんだ!」
「すっごく不便だったけどね」

やいのやいの言っている間に、仕事の速い司は街を囲む壁を見ていた。

「うーん、この壁は、街全体を覆ってるねえ、真上から見ないとわからなかったけど、ドーム状になってたのか」
「そうそう!そうなんだよ!」
チャンルが私からの矛先を躱そうと司の話に乗っかっていく。

が、私もそう簡単には逃がさない。
「あれ?チャンル?もしかしてこの街の情報知ってたの?何で言わなかったの?ずっと黙ってたわけ?」
「そりゃ、言っちゃったら面白みがなくなるじゃんか!」
「チャンルのせいでどれだけ遠回りしてると思ってんのよ!」
「知らないよ!」
「知っててよ!」

「えー、私とドウランだったら転移魔法できるけど」
その声にみんなハッと静まった。
こ…小刀が話している!!!

と驚くのは冗談で、私はキヌが転移魔法使えるのをすっかり忘れてたよ。あ、後ドウランもね。私はそんなに得意じゃない。

キヌ達の転移魔法は、司と違って、行ったことないところにも使える。
でも、きちんと狙いを定めないと、知らないところへ飛んで行ってしまう。
崖の街に人々を飛ばした魔法使いも同じ類の技だったのだろう。
ただ、キヌは上手いだけだ。

「このくらいの壁だったら、ホイ」
「わあ…」
キヌが一瞬で壁の向こうへと移動する。

街は、ランプがいろんなところに点灯していて、綺麗だった。

「何だ、こんな技使えたんだったね!じゃあ、最初からしとけばよかったのにね!」
「チャンルにだけは言われたくないと思う」
「………あ!そうそう、ここのランプはね、魔石っていう、何の変哲もない石に魔力を込めて、それに火をつけたものを使用してるんだよ。不思議な魔法だよねえ」

話題を転換すると質問攻めから逃げれるとでも思ってるんだろうか。
ま、いいや。深追いするほどのことでもないか。
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