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入学したての新入生である私たちも、ここの生徒は快く迎えてくれた。
「わー、お姉さんの服、カッコいいね!センセーみたい!」
そう言えば、みんな草で編んだ服を着ている。
丈夫な植物なんだろうか。

「ねえ、これ破けないの?」
キヌも同じことが気になったらしい。
男の子の着ている服をちょいちょいと引っ張っていた。

「うん、強化魔法って言うんだよー」
「タッくーん、この人達はねー、魔術師さんなんだから、そんなことジョーシキだと思うよー」
「ええー、そーかなー?」

へー、魔術師以外の種族でも魔法使えるのかあ、と思ったら、それは当たり前だった。
だって、私も使ってるんだもん。
魔術師しか魔法が使えない、なんてことは無いんだ。

そにしても、さっきから先生の服が目につく。
うーん、どうしようかな。

「先生」
思い切って声をかけてみた。
その時先生はみんなに植物を成長させる魔法を実演してしゃがみ込んでいた。
みんなの拍手が終わった後、「なんだい?」と言って立ち上がる。

「えっと、ちょっとお話が」
「なになに?」
みんな寄ってくる。

「あ…えーと」
「みんなの前じゃ話せないことなの?」
先生が助け舟を出してくれた。

「あ、はい、そうです」
「分かった、…はい!みんな!どいたどいた!今教えた魔法を練習しときなさい!」
「はーい!」
みんなバタバタと去って行った。

ドラゴン達は逆に寄ってきたので、手で払うようにして向こうへ行かせた。

「で?話っていうのは?」
先生が私を見上げている。
「う…大したことじゃ無いんですけど」
「いいからいいから」

先生に促されて、頷いた。
「先生は、生き残りなんですね」
そう切り出すと、さっと先生の表情が変わるのが分かる。

やっぱり言わなかった方が良かったかもしれない。
でも、もう後戻りはできない。

「先生は、迫害された魔術師なんでしょう?」
「…どこで、そんなことを?」
「直接、リンクって人に聞いたんです」

「リンク!」
先生がもっと上を向いて呟いた。
「懐かしいわぁ…、でもあの人、もう死んでたはずよ。いや、あの人ならあるいは…」
「いえ、正確に言うと思念と話したんです。残留思念というか」

「残留思念?」先生は首をかしげる。
「ええ、リンクは自分の作った玉に意識を保存してたんです。その玉は私が壊してしまいましたが…
でも、わずかな間、リンクとお喋りして、三百年以上前の事件を聞いたんです」

「そう…あれは悲惨だったわ」
先生がそのまま仰向けに倒れてしまった。
「わわっ!大丈夫ですか?」
「気にしないで。…今でも時折思い出す。思い出したら、とにかく寝転ぶことにしてるの。…地面のね、いい香りが、苦い思い出を打ち消してくれそうな気がして」
「…そうですか」

私も先生の横で仰向けになった。
土の香り。確かにする。それに太陽の暖かさ。

「私はね、リンクが死ぬ時そばにいたんだ」
「え!」
「死んだ時、『ああ…、最後の砦が落ちたな』って、思ったの。でも、敵のボスは、リンクの落とした玉を触ろうとして、なぜだか止めて帰って行ったのよ」
「知ってます」

「ふふふ」
先生が大の字のままこちらを向いてくる。
私もそっちを向く。

すると、「センセー!話、終わったんですかあ?」と何人かの生徒がやってきた。

私が困った顔をすると、先生は
「良いのよ。別に隠すことじゃ無いんだし。聞かれても、私は全然平気」と言った。
私がそれに対して薄く笑いかけるよりも早く、先生と私の間に男の子が滑り込んできた。

「何のこと話してるの!」
「昔のことよ」
先生は眩しそうに目を細めて言う。

「土と、子供は、自分の悪い記憶を消してくれるのよ…」
そして独り言のように、喉の奥でつぶやいた先生の言葉を、私はなぜだか聞き取ることができた。

「で、あいつが帰ってくれたから、私はすぐに殺されなかったんだと思う。まず隠れていた全員が捕まってね。みんなの前で見世物として、殺されることになったの」
子供達の声がピタリと静まる。
「…でもね、私は檻の中で閉じ込めるにはあまりに小さかった…」

先生は誰に話しかけているのだろう。
もちろん私にだとは思う。
じゃあ、子供達は?
ただ、癒しの道具として扱っているの?
そうでは無いと分かっているのに、そんなことを考える。

「それで檻を抜け出して、閉じ込められてた仲間に、さよならも言えずに逃げてしまった…」
そして、森に入り込み、ここに出てきた。

「逃げるのは案外簡単だったわ。あの頃は結界なんて張れる人はいなかったしね。まあ、結界を張ったのはリンクを殺した人だそうだけど…、それはもう良いの。でね、ここにボロボロの私が来た時に、昔ここに住んでた人たちがすごく助けてくれて…」

クシュンクシュンと先生の鼻が鳴った。
「…本当に嬉しかった。その人達の方が飢えていることは体を見れば一目瞭然だったのに…なのに、食べ物を分けてくれて。だから、私はせめてもの恩返しだと思って。食料問題を解決するための研究に取り組んで…」

先生が瞬きをするたびに、?茲が光る。
「…楽しかった。みんな、家を作れるほどの余裕もできて。それから、私も長生きできて。体質かしら?それは分からないけど。…みんなゴメンね。こんな重い話を言っちゃって」

そういえばリンクも消える前、私に謝っていた。
なぜだろう。
生徒たちが先生に抱きついている。
先生も抱き返していて、私はやっぱり目をそらすことしかできなかった。

でも少し緊張感は無くなった。
それより、私に何ができるのかを、見つけたいと思った。
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