1 / 1
ストーカーVSお兄ちゃん
しおりを挟む
夏のある日の夜。人気急上昇中のアイドルSの自宅玄関扉の前にて、男達は対峙していた。ドアノブに手をかけているのは背の高い細い男。その男に声を掛けたのは背の低い小太りの男。
「お、おい、お、お前は、誰だ!」
背の低い男は鼻息荒くオドオドしながら背の高い男の肩に手を伸ばす。
「なんだテメェ。」
背の高い男は背の低い男を睨みつけ、伸びてくる丸々とした手を払う。背の高い男は気付く。
「(こいつ、前にSが言ってたヤベェやつだな。ストーカー野郎め、ここでとっ捕まえてやろう。)」
背の高い男は背の低い男の胸ぐらを掴み、玄関扉側の壁に叩きつける。背の低い男は苦しそうにもがく。
「く、くそ!離せ!Sに手出しはさせないぞ!」
二人はお互いに殴り蹴りを繰り返しながらもみくちゃになり、背中に強い衝撃を感じた時、いよいよ塀を越え中庭へ転落した。ここはマンションの4階。そして落ちる瞬間を丁度帰宅してきたSは目撃し、叫んだ。
「おにいちゃん!」
病室で目を覚ましたのは背の低い小太りの男。彼は腕を骨折したが命は助かっていた。落ちる瞬間に聞こえたSの声が彼を救ったのだ。声が聞こえた瞬間に背の高い男が下になるように落ちたのだ。サイドテーブルにはうさぎの形に整えられたリンゴが三つ皿の上に並んでいる。その横には果物ナイフ。不思議と安堵感が胸のそこから湧き出てくる。結果的にストーカーはどうなったのだろうかと疑問に思っていた。例えばあの背の高い男がほぼ無傷であったとして、Sは無事なのだろうか。彼は胸騒ぎを感じ病院を飛び出す。
タクシーを使い、背の高い男ともみくちゃになったあの現場に到着する。そこにはSがいた。きっちりとした服装でドアに鍵を掛けている。おそらく昨日の出来事で警察と面会をしなければいけないのだろうと彼は推測する。ストーカーと共に落ちたあの現場にいたSに向かって彼は彼女の名前を呼ぶ。
「・・・!お兄ちゃん・・・。」
Sの目には涙が浮かぶ。背の低い小太りの男はSを抱きしめる。
事件の三ヶ月前、Sが所属する事務所の客室にて。ある有名雑誌に掲載される記事のため、Sへのインタビューが行われていた。グレーのスーツを身にまとった女記者がSに質問をする。
「やっぱり、Sちゃんくらい有名になると変なファンとかも出てくるんじゃないですか?」
Sは少し暗い表情になり答える。
「はい。実は最近、ちょっと変わった人がいまして・・・。せっかく応援してくれているのでこんな言い方はよくないのだと思うんですけど。お仕事の帰り道を後ろからつけられたり、夜遅くにノックをされたりするんです。」
記者はヒェと小さく悲鳴をあげる。
「それ完全にストーカーじゃないですか!ちゃんと警察にも相談をしてください!」「もう、事務所の方とはお話していますので。それに兄と同居をしているのでとりあえずは大丈夫かなと。」
記者は「兄と同居」という話題に反応し、すぐに話題は切り替わる。
「あ、お兄さんと同居されているんですね!お兄さんはどんな方なんですか?」
「はい。お兄ちゃんは優しくて、背はちょっと低いんですけど、学生の頃に陸上をやっていたのでヒョロッとしてるんです。」
記者は目を輝かせながら質問を繰り返す。
「そうなんですね。陸上をやっていたってことはお兄さん、スタイル良さそうですね。」
このインタビュー記事は二ヶ月後に刊行された雑誌に掲載された。
夏のある日の夜。玄関前が何やら騒がしい。そろそろ妹が帰ってくるし、厄介なことになる前に追い出そうと少し扉を開く。するとそこには、何度追い払っても仕事帰りの妹にストーキングするのをやめない背の低い小太りの男と、何度か深夜にノックをしては逃げていく背の高い細い男が取っ組み合っていた。真剣に対処してくれない事務所と、止まないストーキング行為に妹は毎晩涙を流していた。俺はこの二人が許せない。俺は気付けば二人の背を力一杯に押し、中庭に突き落としていた。その瞬間を、妹が見ていた。
「おにいちゃん!」
私の兄は二人の男性をここから突き落とした。中庭を見れるようにと、塀が低い作りになっているこのマンションの作りも悪かった。何より、私のためにと兄は行動を起こしてくれたのだ。兄はその後警察の元に行き事情聴取を受けた。今日の朝からは兄は弁護士と話をしている。私たちはその後一緒に駅前でランチをしようと約束をしていた。これから私は駅前に向かう。ドアに鍵を掛けさぁ行こうと振り返った時、あの背の低い小太りの男が私の名前を呼びながらこちらに向かってきている。私は恐怖のあまり兄の助けを求める。
「・・・!お兄ちゃん・・・。」
「次のニュースです。人気急上昇中のアイドルSさんが何者かに鋭利な物で刺され、先ほど搬送先の病院にて死亡が確認されました。凶器は小型のナイフとみられ、Sさんは以前からストーカー被害に悩まされていると所属事務所の〇〇〇からは・・・」
-完
「お、おい、お、お前は、誰だ!」
背の低い男は鼻息荒くオドオドしながら背の高い男の肩に手を伸ばす。
「なんだテメェ。」
背の高い男は背の低い男を睨みつけ、伸びてくる丸々とした手を払う。背の高い男は気付く。
「(こいつ、前にSが言ってたヤベェやつだな。ストーカー野郎め、ここでとっ捕まえてやろう。)」
背の高い男は背の低い男の胸ぐらを掴み、玄関扉側の壁に叩きつける。背の低い男は苦しそうにもがく。
「く、くそ!離せ!Sに手出しはさせないぞ!」
二人はお互いに殴り蹴りを繰り返しながらもみくちゃになり、背中に強い衝撃を感じた時、いよいよ塀を越え中庭へ転落した。ここはマンションの4階。そして落ちる瞬間を丁度帰宅してきたSは目撃し、叫んだ。
「おにいちゃん!」
病室で目を覚ましたのは背の低い小太りの男。彼は腕を骨折したが命は助かっていた。落ちる瞬間に聞こえたSの声が彼を救ったのだ。声が聞こえた瞬間に背の高い男が下になるように落ちたのだ。サイドテーブルにはうさぎの形に整えられたリンゴが三つ皿の上に並んでいる。その横には果物ナイフ。不思議と安堵感が胸のそこから湧き出てくる。結果的にストーカーはどうなったのだろうかと疑問に思っていた。例えばあの背の高い男がほぼ無傷であったとして、Sは無事なのだろうか。彼は胸騒ぎを感じ病院を飛び出す。
タクシーを使い、背の高い男ともみくちゃになったあの現場に到着する。そこにはSがいた。きっちりとした服装でドアに鍵を掛けている。おそらく昨日の出来事で警察と面会をしなければいけないのだろうと彼は推測する。ストーカーと共に落ちたあの現場にいたSに向かって彼は彼女の名前を呼ぶ。
「・・・!お兄ちゃん・・・。」
Sの目には涙が浮かぶ。背の低い小太りの男はSを抱きしめる。
事件の三ヶ月前、Sが所属する事務所の客室にて。ある有名雑誌に掲載される記事のため、Sへのインタビューが行われていた。グレーのスーツを身にまとった女記者がSに質問をする。
「やっぱり、Sちゃんくらい有名になると変なファンとかも出てくるんじゃないですか?」
Sは少し暗い表情になり答える。
「はい。実は最近、ちょっと変わった人がいまして・・・。せっかく応援してくれているのでこんな言い方はよくないのだと思うんですけど。お仕事の帰り道を後ろからつけられたり、夜遅くにノックをされたりするんです。」
記者はヒェと小さく悲鳴をあげる。
「それ完全にストーカーじゃないですか!ちゃんと警察にも相談をしてください!」「もう、事務所の方とはお話していますので。それに兄と同居をしているのでとりあえずは大丈夫かなと。」
記者は「兄と同居」という話題に反応し、すぐに話題は切り替わる。
「あ、お兄さんと同居されているんですね!お兄さんはどんな方なんですか?」
「はい。お兄ちゃんは優しくて、背はちょっと低いんですけど、学生の頃に陸上をやっていたのでヒョロッとしてるんです。」
記者は目を輝かせながら質問を繰り返す。
「そうなんですね。陸上をやっていたってことはお兄さん、スタイル良さそうですね。」
このインタビュー記事は二ヶ月後に刊行された雑誌に掲載された。
夏のある日の夜。玄関前が何やら騒がしい。そろそろ妹が帰ってくるし、厄介なことになる前に追い出そうと少し扉を開く。するとそこには、何度追い払っても仕事帰りの妹にストーキングするのをやめない背の低い小太りの男と、何度か深夜にノックをしては逃げていく背の高い細い男が取っ組み合っていた。真剣に対処してくれない事務所と、止まないストーキング行為に妹は毎晩涙を流していた。俺はこの二人が許せない。俺は気付けば二人の背を力一杯に押し、中庭に突き落としていた。その瞬間を、妹が見ていた。
「おにいちゃん!」
私の兄は二人の男性をここから突き落とした。中庭を見れるようにと、塀が低い作りになっているこのマンションの作りも悪かった。何より、私のためにと兄は行動を起こしてくれたのだ。兄はその後警察の元に行き事情聴取を受けた。今日の朝からは兄は弁護士と話をしている。私たちはその後一緒に駅前でランチをしようと約束をしていた。これから私は駅前に向かう。ドアに鍵を掛けさぁ行こうと振り返った時、あの背の低い小太りの男が私の名前を呼びながらこちらに向かってきている。私は恐怖のあまり兄の助けを求める。
「・・・!お兄ちゃん・・・。」
「次のニュースです。人気急上昇中のアイドルSさんが何者かに鋭利な物で刺され、先ほど搬送先の病院にて死亡が確認されました。凶器は小型のナイフとみられ、Sさんは以前からストーカー被害に悩まされていると所属事務所の〇〇〇からは・・・」
-完
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
巨象に刃向かう者たち
つっちーfrom千葉
ミステリー
インターネット黎明期、多くのライターに夢を与えた、とあるサイトの管理人へ感謝を込めて書きます。資産を持たぬ便利屋の私は、叔母へ金の融通を申し入れるが、拒絶され、縁を感じてシティバンクに向かうも、禿げた行員に挙動を疑われ追い出される。仕方なく、無一文で便利屋を始めると、すぐに怪しい来客が訪れ、あの有名アイドルチェリー・アパッチのためにひと肌脱いでくれと頼まれる。失敗したら命もきわどくなる、いかがわしい話だが、取りあえず乗ってみることに……。この先、どうなる……。 お笑いミステリーです。よろしくお願いいたします。
シャッターチャンス
ちみあくた
ミステリー
27才の自称・写真家「俺」には、表沙汰にできない趣味がある。
目を付けた女性が住む安アパートへ留守中に侵入し、赤裸々な日常の一端を覗き見るのだ。
五月のある日、「俺」は秋葉原の書店に勤める井田須美の部屋へ、いつも通り侵入を果たした。
地味だが清楚な容姿の須美に一目惚れ。書店のイベントで遅くなる日を狙った筈なのに、いきなり彼女が帰ってきた。
慌てて部屋の押入へ隠れると、大手出版社の社員だと言う中年男といちゃつき始める。その男の行動は極めて暴力的。突然、須美の首を絞め始めた。
いつもの癖で写真を撮りつつ、中年男の行為が「プレイ」の類か、犯罪かを判断しかね、悶々とする「俺」。
結局、押入を飛び出し、男を殴る羽目になってしまうが、その時の「俺」は知らなかった。
想定外の真実が、盗撮した写真の中に残されていた事を……。
エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。
===とある乞食の少女が謳う幸福論===
銀灰
ミステリー
金銭の単位と同じ名《めい》を名付けられたその少女は、街中を徘徊する乞食であった。
――ある日少女は、葦の群生地に溜まった水たまりで身を清めているところ、一人の身なりの良い貴族とばったり顔を突き合わせる。
貴族は非礼を詫び立ち去ったが――どういうわけか、その後も貴族は少女が水浴びをしているところへ、人目を忍び現れるようになった。
そしてついに、ある日のこと。
少女は貴族の男に誘われ、彼の家へ招かれることとなった。
貴族はどうやら、少女を家族として迎え入れるつもりのようだが――貴族には四人の妻がいた。
反対、観察、誘い、三者三様の反応で少女に接する妻たち。
前途多難な暗雲が漂う少女の行く先だが――暗雲は予想外の形で屋敷に滴れた。
騒然となる屋敷内。
明らかな他者による凶行。
屋敷内で、殺人が発生したのだ――。
被害者は、四人の妻の一人。
――果たして、少女の辿る結末は……?
席は何処?
三月 深
ミステリー
私たちの席はどこ?
登場人物達の思いから、彼らの席を考えて下さい。
様々な悩みを抱える彼らは、どんな思いでせきにつくのでしょうか?
解けたら答え合わせします。
ツイッターで見た方はDMにて
それ以外の方は感想にてお願いします。
刑事殺し・トラブル・ 抗争の渦
矢野 零時
ミステリー
俺は、宇宙から来た者(?)に寄生されてしまった。どうなるのか、まるでわからない? だが、それを心配ばかりしては、いられない。俺は刑事、片倉洋(かたくら よう)。警察の仕事はもっと大変なんだ。仕事のために、わからない謎を解かなければならない。そして、また殺されてしまった!
なお、俺がなぜ寄生されたのかは、別作の「刑事殺し」に書いている。もし、よろしければ、そちらも、ぜひお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる