神の娘と人の皇太子

文字の大きさ
上 下
5 / 8

神の娘、呪いをとく

しおりを挟む
 楼閣の中に入ると朱理は座敷を二枚出すとその内の一枚の上に正座すると青年に座るように声をかけた。
 青年はおとなしく腰を降ろすと朱理を見つめた。
 その視線に耐え切れなくなった朱理は、慌てて青年に尋ねる。
「ど、どうされました?」
「いや、別に何も・・・。」
 こちらの質問には一切答えずまたこちらを見てくる青年に、朱理はだんだんイライラしてきてとうとう口を開いた。
「あのぅ、何か言いたいことでもあるのですか?」
 朱理がそう聞いてみると青年は何かを決意したらしく口を開いた。
「朱理姫、貴女は何者ですか?」
 思いもよらぬ質問に朱理はぎこちなく口を開いた。
「何者とは?」
 そう聞いてみると青年は、こちらを真摯な眼差しで見ながら考えるように言った。
「ただの人ならば、こんなにも美しくないはずだし、それに貴女からは、神気を感じるのです。」
 朱理はそれを聞いて、まずいと思いとっさに立ち上がって逃げようとした。
 青年が言う、美しいは良く分からないが、神気を感じるということは神の血を引く者(娘)だとばれてしまう。
 慌てて逃げようとした朱理だったが青年に腕を掴まれ、逃げることができなかった。
「お願いします。正体を教えて下さいますか。」
 真摯な眼差しで問い詰められた朱理は、観念して口を開いた。
「誰にも言ってはいけませんよ。」
 朱理は、青年に釘を刺すと自分のことを話した。
「実は私は、この忌部氏の親神である布刀玉命の娘です。なので半神半人なのです。」
 と短く話終えると青年は、
「そうだったんですか。無理に聞いて申し訳なかった。」
 そう言われ朱理は内心、"本当です。"と思いつつ口を開く。
「とりあえず呪いを解きますね。」
 朱理は青年の額に手を伸ばすと術を唱える。
『・・・音もなく姿も見えぬ咒詛神、心ばかりに負うてかえれ・・・。』
 朱理の手から黄金の光が表れ、ソレは青年の額に吸い込まれて消えた。
「どうですか?一応、呪いは解けましたよ。」
「ああ。分かりました。ありがとうございました。」
 青年にホッとした顔でお礼を言われて朱理は苦笑した。
(さすが、母様の血を引いているだけはあります。お礼を言われて嬉しいと思ってしまいました。)
「ええ。それでは呪いを解き終わったので忌部氏当主様の所へ戻りましょうか。」
「ああ。」
 青年も頷いたので朱理は立ち上がった。
 だが、力を使いすぎてしまったらしく身体がふらついた。
 朱理は"早く忌部氏当主の所へ戻って甘い菓子を食べて力を補給しなくては"と思い急いで歩き出した途端、今度は敷居に躓いた。
「あっ。」
 淡紅色の領巾が空気をはらみ、まるで天女が纏っている天の羽衣のようにフワリと膨らむ。
 天地が反転する────────。
 朱理は眼をつぶり衝撃が来るのを待っていたが、一向に痛みは来なかった。
(はっ。まさか今日は床が軟らかいのでしょうか?)
 と思い薄く眼を開くと信じられない光景が眼に入った。
 眼の前が紫紺に染まっていた。
 その色は確か謎の青年が纏っている袍の色と同じ色だった。
 まさかと思いおずおずと顔を上げると、頭一つ分高い位置から青年がこちらを見下ろしていた。
「えっ。」
「大丈夫ですか?」
 朱理は青年に聞かれて慌てて口を開いた。
「す、すみません。ありがとうございました。」
 と謝りとお礼を言いながら青年から離れようとした途端、急に身体がフワリと浮いた。
(えっ、私、今飛行の術なんて唱えましたっけ?)
 と思ったものの、しばらくしてやっと青年に抱き上げられていることに気付いてあわてて叫んだ。
「え──────────っ。す、すみません。じ、自分で歩けますから、お、降ろしてください。」
「何を言っているんですか。こんなに顔色が悪い女性をほっといたら男失格です。」
 と青年に言われて朱理は真っ赤になった。
(た、確かに霊力を使いすぎてしまって顔色は悪いとは思います。が、そんな私をほっといても男失格にはならないと思いますし・・・。そ、それに、今日知り合ったばかりの人にここまでしてもらう訳には・・・。)
「私は大丈夫です。なので」
 "降ろしてください。"と続けようとしたが、青年が溜息を零したので朱理は最後まで言えなかった。
「もう黙って頂けますか?俺は貴女に何を言われても、こればっかりはやめませんので。」
 その言葉に朱理は黙り込んだ。
(あーぁ。どうすれば良いのですか?私、お父様にも忌部氏当主様にもこんなことやって貰ったことないですのに。)
 そう思っている間にも青年はもう歩み出していた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...