魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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The Witch's Hound (魔女の猟犬)

堂々たる憩いの姿を、それがフランメリア(2)

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 ぱちぱち、ぱちぱち。
 そんな音に惹かれてドーム型のかまどを屈んで覗いた。
 半円状の穴の奥で薪が赤く灯されてる。じんわり巡った熱を額に感じた。

「……よし、いい感じに温まったな」

 PDAのレーザー温度計機能によれば200℃だ。もう少し上げとくか。
 にしても、文明の利器に頼ってた現代人がアナログな火起こしに向き合うなんて変な人生の巡り方だ。

「よく見ると大味な造りしてるのうこいつ。わしが作った方がもっといいかまどができるってのに……」

 だんだんと積み上がる火と向き合ってるとスパタ爺さんが絡んできた。
 短い両手にはに手袋にワイヤーブラシといろいろ揃ってる。ただし地下スーパーの値札付きで。

「店にあるやつよりはだいぶ見劣りするけどそこまで気になる? 今のところ普通に使えてるけど」
「ドワーフ的な目で見りゃどこか雑なところもあるのよ。ほれ、地下スーパーから道具持ってきたぞ。取り寄せた薪は倉庫に運んどいたからの」
「どうもありがとう。ついでにかまどに一家言あるならこだわり抜いたやつでも作ってくれ、そっちの方がいい」
「ドワーフこだわりの本物をこしらえてやりたいところなんじゃがなあ、仮に作ったとしてちゃんと面倒見れるんか?」
「掃除の仕方ならパン屋でしっかり覚えてきたぞ」
「こういうのは毎日手入れをこなしつつ使い込まんといかんのよ。煤とかしっかり取り除かんと火事の元になっちまうし、そもそもお前さんがたまに使う程度ならそのかまどでじゅうぶん事足りるじゃろ?」
「大丈夫ちゃんと面倒見るから!」
「だいたい薪とかどうすんじゃ? まさか生木くべりゃいいと思っとらんよな? ちゃんと持続的に焚けるように調達せんといかんし、薪の質も選ばんと料理の味も左右されるんじゃぞ? その辺ちゃんと考えとる?」
「そこはまあ……使いながら覚えていくつもりだ」
「急にふわっふわで不安極まりないのう。というかな、薪っつーのは何気に作るの大変なもんなんじゃよ」
「薪ってそんなに面倒なのか? ぶったぎったらそれでよし、みたいにうっすら思ってたんだけど俺」
「実際はこうじゃよ。原木を然るべき大きさに断って、それを一つ一つ薪割りして、更に乾燥させて水気を飛ばさんといかん。しかも自然乾燥なら一年以上はかかるぞ? マナで急に育った木なら柔らかすぎてなおさらじゃ」
「そんなに手間かかるのかよ……なんか思ってたんと違う」
「うーむなんか不安じゃぞこやつ。よいか? 別にかまどの一つぐらい作ってやってもよいが、まずはそのかまどでちゃんと腕を慣らせ」

 それなりに付き合ってるドワーフは自慢の黒ひげをいじりつつ、かまどと俺を一緒くたに訝しんでる。
 説教からするに共通点はもっと頑張れってことらしい。今に見てろ! 

「了解、スパタ爺さん。ところでステーションの物資運びが大変だから改善してほしいってさ。だからみんなの腰を労わって地下に倉庫まで楽々運べる地下通路的なもん作ろうと思うんだけど」
「ほう、面白いじゃないの。そういや『はうじんぐ』がありゃ綺麗に掘れちまったな? あれでなんかこう、地下にいろいろ作れるんじゃないかってわしらもずうっと考えとったのよ」
「つまりいいタイミングだったわけか」
「うむ、というかお前さんでいろいろ試そうと思っとってな?」

 火かき棒でカリカリに焼けた薪をいじくってると、スパタ爺さんの『付き合え』が目に見えてきた。
 何でも付き合ってやるつもりだけど、人で防具の性能テストをしたことだけは一生忘れないぞ。

「人体実験? それとも防弾試験? それ以外だったら喜んでやってやるよ」
「わはは、お前さんが身を張ったおかげでエーテルブルーインの防具に箔がついたじゃろ? みんな欲しがっとるぞ」
「またやるっていうなら手当を要求するからな、それから覚悟する時間もだ。で、今日は何をするおつもりで?」
「いやな、だいぶ地上もいろいろできとるし、今度は地下にもなんかこしらえてみんかってお誘いじゃよ。わしもちょうど増えつつある荷物を簡単に運べんか頭を悩ませておったわ」
「分かった、あとでタカアキ呼んでさっさと作っちまおう。他に俺で試したいことはあるか?」
「それとついさっき里から工場の機材やら人手が送られてきたんじゃが、発電機の試作型も一緒に届いてな。ちょいとここらの環境を生かして発電でもしようかと思っとる、どうじゃ?」
「発電機だって?」

 口から出てきたのは『発電機』だ。開発意欲が極まってそんなものまで作ってたのか。
 知らぬ間にまた一歩近代化してたことに驚いてると、すかさずPDAに画像が送られて。

「わしらの里じゃ工場とか動かすのに電力がいっぱい必要でな。最初こそは回収したブラックプレートで間に合ってたんじゃが、近頃はそれくらいじゃ賄いきれんほどなのよ。そこでそういうのに頼らずいろいろな発電方法を日々模索しとるんじゃが――」

 どこか得意げで、それでいて少し早口な口ぶりが「見てみんか」と促した。
 メッセージ・ウィンドウには確かにそれらしい何かが写ってる。
 乾いた地面の上で作業服を着た男女多種族に囲まれたが件の発電機なんだろう。
 人の膝ほどに高くて横に1.5mはある青い長方形がいかにも強調されてるが、俺には特大サイズのゴミ箱にも見える。

「この青い箱がそうなのか? みんなで倒れたデカいゴミ箱囲んで記念撮影してるわけじゃないよな?」
「こら、ゴミ箱いうな。そもそもこいつが青いのにはちゃんと理由があるんじゃぞ? 自然の景観を崩さぬようクリーンなイメージを……」
「おや、ようやくあれが完成したのかい? いろいろ並行して開発してるから中々手がつかないと思ってたんだけど、ちゃんと形になってるじゃないか」

 ところが広場の賑わいからヌイスがにゅっと覗き込んできた。
 眼鏡でクールな美人顔は画面上の青くて大きなそいつに関心気味だ。

「ワオ、まるでお前も関わってるような言い方だ。それでこいつはなんなんだ?」
「うーん、配色のせいでデザインがゴミ箱みたいになってるねえ。これは小型水力発電機さ、川とか水路に設置するだけで電力を作れるんだ。もちろん設計には私が携わってるよ」
「つまりヌイスのアイデアに今のわしらの技術力とこの世界ならではの素材をまぜこぜした、環境に優しい発電機ってことよ」
「そう、これは元の世界やウェイストランドにあったテクノロジーを織り交ぜたってわけさ」

 なるほど、ヌイスも思いっきり関わってたみたいだ。

「そのなんかすごいのがこっちに運ばれてきますよ、と。ここで実地試験でもするつもりか?」
「今んところすぐそこのブラックプレートで賄えとるが、あんなアーティファクトめいたもんに頼らず安定した電力を作れるか試したいのよ。なあに、川の環境も魚たちも傷つけんよう後ろめたくない設計じゃから心配いらん」

 ここの環境を使って発電してみたいっていうお願いか。
 言われてハウジングメニューを開くと電力消費量のタブに気が向いた。
 【P-DIY・ライフシステム】に【ウォーターコレクター】をはじめとする諸々はほどほどに電気を食ってる。
 もしこれから設備を増やすならもっと食うはずで、そしてスパタ爺さんは『その時』に備えろと言わんばかりだ。

「なんだかドワーフのみんながこっちの土地であれこれしてみたいって意図を感じるね。まさかここらを一気に近代化させようとしてるのかい?」

 体感冗談二割のヌイスの言葉も混じったせいでドワーフ族の企みも見えてきたぞ。髭面に「うむ」と浮かんでる。

「まあそれもちょっとある」
「いやあるのかよ」
「それはちょっとじゃすまないことだよ。そういえばこの地方には何らかの理由で手つかずのままの鉱山があるそうだね? そして既に君たちの先約が入ってるそうだけど」
「それなんじゃが国から正式に許可下りちゃったのよこれが。国の利益のためにドワーフ族主導で鉱山を開発しとくれとさ、となりゃわしらの考えた開発プランにやっぱ電力がいるんじゃよ。そういうこった」
「おい、なんか俺の想像以上にスケールがデカくなってる気がするぞ」
「うわあ、しっかり目をつけられてるねえ……いやそれもそうか、あのアキ君がしっかりお目付けしてるわけだし」
「それにな、巷じゃこの捨てられた開拓地を再びやり直してみんかって話が強まっとるんじゃよ。そういう時のためにがありゃ便利じゃろ?」

 それでこの話題が落ち着く先はついさっき送られた発電機の画像だ。
 ヌイスは面倒と厄介が入り混じった顔だし俺もそんな感じだ。冒険者のせいで開拓再開ムードが復活してる。

「あーつまり『また開拓しませんか? 今なら電気で快適な暮らしも保証してやりますよ!』ってことか? で、そのために発電機が必要になりますよと」

 周りにそう気にかけるとここぞとばかりに誰かがすたすた駆け寄ってきた。
 眼鏡でスラックス姿のエルフ、アキだ。カットされたスイカをたしなんでる。

「そうですな、あのスイカでいっぱいの村は覚えておられますかな?」
「いやでも覚えてるし今食ってるスイカの出所だろ? なんだお前いきなりむしゃむしゃしやがって」
「ええ。こちらの噂は今や王都ど真ん中まで届いておりますが、となると興味を示した有力者が現れてしまいましてな? そのお方が大のスイカ好きでして、再び村を興さないかと人手を募っているのですよ」

 しゃりしゃり小気味いい咀嚼音と一緒にタイムリーな話題だ、フランメリアはおかしい。

「スイカごときで?」

 しかも例のスイカ村を好物だからって理由で開拓しようとする変わり者がいるそうだ。冗談だよなと伺った。
 返事はまずしゃくしゃくという音だし、ずいぶん浅い頷き方だ。

「既に志願者が二十は集まってるとのことですぞ。噂によれば旅人やらウェイストランドの移住者やらを含めてそこまで膨れ上がっているそうですし、国からも支援がもたらされるという話も――」
「もう一度聞くぞ、スイカごときでか?」
「ご本人はスイカ食べ放題程度に思ってるふしがあるそうな。いやはや、動機がフランメリア人らしいですな?」
「そんな理由で村興したいとか聞いたことねーよなんだそいつ変態か?」
「そういう気概で来るのは間違いなくフランメリアの民じゃな。そやつらのためにもわしらドワーフも頑張れってことじゃろうな、上等じゃこき使って見せろ」
「えらいことになってるね。あの花咲き誇る村がスイカの名産地になるのも時間の問題か、なんて世なんだ」
「なあ、俺たちもしかして未開の地の宣伝役かなんかとして担がされてない?」
「それいったらわしらなんか昔っから国のために働かされとる。もう一蓮托生じゃ諦めろ」
「はっはっは、転ぶときが来ようとも共に仲良く立ち上がって欲しいですなあ。なに、私も付き合いますゆえ前向きに行きましょう」
「イチ君、やっぱり君は行く先々で周りを大きく動かすのろ……力があるみたいだ。諦めて最善を尽くすしかないようだよ、やれやれ」

 言うだけ言ったアキはお気楽な笑顔で集会所へ行ってしまった。
 おかげで休日出勤させられた社会人の気持ちがここにきてやっと分かった。まだ見ぬスイカ好きのために休まずここを栄えさせなきゃいけない。

「俺だけやることいっぱいじゃなーい?」
「いっぱいじゃなー? まあ我慢せい、お前さんただでさえ特別扱いされとるんじゃからその分働かんか」
「そうするよ。ああそうだ、女性陣からお風呂作ってくれってさ」
「よっしゃ上等じゃ、ならばドワーフの里に伝わる浴場の作り方を伝授してやろう。さあて川の構造調べんとな」
「あの発電機ならこのあたりの川の勢いで十分だろうね。となれば後は設置する場所だとかの問題かな? お風呂楽しみにしてるよイチ君」
「どうかお手柔らかに」

 勤勉なスパタ爺さんもヌイスとお勤めに行ってしまった。
 ともあれ気を取り直してかまどに向き合うことにしよう。
 エプロンを引き締めてかまどの熱さをまた伺うと。

「ご主人、せっかくのお休みなのに忙しくなってない……?」

 ニクがふわつやな犬の手で小麦粉入りの袋やらを抱えてきた。
 ジト顔はどこかでさっきのやり取りを見届けてたそうだ。撫でてやった。

「楽はするなって人生の教訓だろうな、清々しく諦めよう。よしよし」
「んへへ……耳が気持ちいい……♡」
「かまどの温度も落ち着いてきたか。さてそろそろ生地作るぞ」

 俺は木製のをそこらに置いた。
 手書きのレシピも開いて【グリッシーニ】の作り方を再確認。
 奥さんの故郷で作られてる棒状のパンだそうだ。硬質の小麦粉が1㎏、酵母と塩を10gずつ、水500gにオリーブオイル適量とある。
 材料をその通りに並べてると*ぴこん*と音がして。

【そっちに肉送りましたよ、クレイバッファローじゃなくて本物の牛肉です。なんか店員さんに気に入られていっぱいおまけしてもらっちゃいました。お釣りの700メルタは昼飯に使わせてもらいますね】

 と、ホンダからメッセージが届いてた。もちろん画像つきで。
 市場のどこかで赤身眩しい骨付き肉が二本も映ってる。これにはニクもじゅるりだ。 

「今発送したってさ――いや思ったよりデカいなこれ、食べ応えありそうだ」
「おいしそう……」
「生肉見て秒でおいしそうとか言うやつはお前ぐらいだろうな。おいよだれ拭け、隠し味にするなよ」
「ん、焼くならミディアムレアがいい」

 ホンダとハナコも首尾よく久々のクラングルを満喫中らしいな、良かった。



「最初は少しだけ作って試してみるか。半分の500gでいこう」
「分かった、計るね」
「このレシピ食べ方まで書いてるな。奥さんいわく【丸かじりしないで折って食べるのよ】だってさ」
「丸かじりしちゃだめなんだ……」

 さて、ニクと一緒に始めた。瓶詰めされた酵母を10g削って水に溶かす。
 のし台に小麦粉を盛って、白濁した酵母液とカンで計った水10gを注いだ。

「えーと……ここに塩とオリーブオイルを少々。混ぜ合わせながら水を足してゆっくりとまとめるそうだ」
「ん、じゃあぼくがお水を足すよ」
「オーケー、手を止めたらその都度注いでくれ」

 わん娘は水差しをスタンバイ中だ。まずは軽く揉み込む。
 指先で掻くように混ぜると硬質の小麦粉がぐにぐにした塊にまとまった。
 手を止めればちょろっと水が足されて、また捏ねると塊が一段階大きくなって、それを繰り返す。

「ん……だんだん柔らかくなってきた。むにむにしてる」
「全体に艶が出て弾力を掌底に感じるまでしっかり捏ねろ、か。けっこう大変だなこれ」
「水全部入れたよ。捏ねすぎ注意だって、やりすぎると食感が悪くなるみたい」
「そういえばさ、前に塩なしパンの生地捏ねすぎてえらいことになったよな……。力尽きたパンみたいなのができてみんなでしばらく笑ってたっけ」

 飼い主と愛犬の交代制でしばらくこねこねだ。弾力も滑らかさもひと捏ねするたびに整ってきた。

「なぁん?」

 今回は観客もいる、さっきの美しい猫がのしのし様子見にきた。
 ところがすんすん嗅いだ末に興味もなさそうに踵を返された。こいつはたぶん肉か魚をご所望だ。

「パンには興味ないみたいだな、残念」
「このにゃんこさっきからずっとここにいるね。どうしたんだろう?」
「なぁぁぁん」
「冒険者観察にでもきたんじゃないか? それにしても変わった声だよなこいつ……」

 次第に図々しく香箱座りをキメたお猫様を目で追い越すと――

「わ~お、リス様おっぱいでっっかいっすねえ……この手触りからして120軽く越えてるっすよ、えいえいっ♡」
「あひゃぁんっ♡ こ、こら~! ダメですよ、いきなり人のお胸持ち上げちゃ……ぁぁんっ♡♡」

 どどゆんっっ。
 割とすぐ近くで青髪お姫様のでっっかい胸が衣装ごと持ち上がってた。重たげにどっっしりと。
 犯人は背中に親しく抱き着くによによしたダメイドだ。またお前かロアベア。

「おー、リスちのおっぱいデカすぎね? ミコよりあるとかすっご……♡ えいっ♡」
「えっ、あのチアルさんなにする……んぉぉっ♡ な、なんでわたしまでっ♡ ふぁぁっ♡」

 ばるんっっ。
 チアルに後ろを取られたミコの質量高めな胸二つも重たげに掲げられた。その姿はまるで相棒に白い翼が生えたよう。
 やがて「いっち見て見て~♡」などとふざけてばるんばるんさせてきたが。

「リスティアナちゃんデカすぎ!? あ、ちなみにミセリコルディアではエルが一番おっきいよ? インナーで隠してるけど本気出すとすごいよ、ほらこんな風に!」
「ひゃんっ♡ おいこらっ!? 何をするんだ馬鹿者!? ……あっ♡ ゆ、揺らすなぁっ……♡♡」

 ぼるんっっ。
 負けじとフランの大きな魔の手がエルの不意をついて、緩まった黒インナーにメロンもどき二つがでかでか浮かんだ。
 ところでなんでみんな俺に向けてるんだろう。

「こっちも負けてないゾ! ホオズキは隠れ爆乳なんダ! いつもはさらしで隠してるけド、ほどくとすっっごイ!!」
「めっ……メーアッ! やめなさいっ!? そんな乱暴にずらしちゃ……んぉ゛うっ♡♡ つ、つめた……あ゛っ……そこはきっつ……っ♡」

 どむんっっ。
 なぜそこにいるのかはさておき、メーアの手にひんやりまさぐられたホオズキに異様な大きさが立った。
 平たくお淑やかだった胸元がすさまじく盛り上がる――というか、赤白の着物風のそれから肌色の深々な谷間が飛び出てた。
 いやほんとにデカい。ホオズキの顔を隠せる重柔おもやわらかそうなのが二つも目立ってる。

「いや待ってうそでしょホオズキちゃんでっっっか!? ロリ爆乳!? こんなの団長のデータにないぞ!?」
「ふふン、すごいだろウ? ちなみにホオズキは陥没」
「メーア!!! 今日という今日はもう許しませんッ! 貴女はいつもいつも人が気にしていることをこうも漏らして! そこに直りなさいっ! そのきわどい水着を正してしてやりますからね!?」
「ウワー!? 何する気ダぁぁぁぁぁ!?」

 乳揉みの連鎖はそこが終着点だったらしい、魚ッ娘と鬼娘のチェイスがどこかへ向かった。
 まあいいか、アサイラムの平和の象徴か何かと思ってパン生地を練った。

「あのさあイチ君……」

 ぼゆん。
 仕上げに取り掛かってると急に温かめの柔らかさを頭で感じた。
 振り返ることなく正体は判明だ、ドラゴン系女子のおっぱい二つが人の頭を温かく陣取ってる。

「なんだいきなり」
「隣で女子おなごどものおっぱい捏ねられてるのに無反応とか冷たすぎん? なに熱心にパン作りに励んでるの?」

 フランのくすぐったくなる声はじとっと俺の所業を疑ってる。
 残念だったなこちとら色気より食い気の男だ。ぱちんと生地を叩いて威嚇した。

「こっちはパンを捏ねてるぞ、ほらこれグリッシーニの生地。いい艶だろ?」
「何で張り合ってるのさキミィ……」
「イチ様はおっきいおっぱいとかよりも、つやつやしてたりふわふわしてたり、手触りがいいものがお好きなんすよ~? ほら、普段よくニク君の耳とか触ってるじゃないっすか」

 満足のいく仕上がりを得意げにしてるとセクハラ中のダメイドもおいでだ。
 でもによによ言うには思い当たるふしがある。なんかこう、触り心地のいいものについ触ってしまうというか。

「え、じゃあパン屋で働いてるのってまさかそういうへきからきてる?」

 しまいに頭のおっぱいはそんな俺のくせとパン屋との関係性を疑ってる。
 そうかな――そうかも。

「そうかもしれない……」
「そこは否定しないんかイチ君……」
「案外天職なのかもしれないっすね。前はあんなにおっきいクッキー焼いてたのに、すっかり成長なされてうれしいっす」
「人間何ができるか分からないもんだな。あとデカいクッキーとかいったやつの顔全員覚えてるからな覚悟しとけよ」
「まだ根に持ってるんすか」
「いやでっかいクッキーって何あったの? なんか失敗した系?」
「大失敗だよ畜生」
「ん、ご主人がレシピ通りに作らなくてパンケーキがクッキーになっちゃった」
「ざくざくだったっすね。ほら、こんなあられもないお姿になってたっす」
「うおでっか、なにこれパンケーキじゃないじゃんあははははははははははっ!」
「おいお前スクショ送っただろ」

 ばるんばるん揺れて笑いを感じる胸を払って発酵プロセスにとりかかった。
 レシピにはタオルで覆って30℃ほどで三十分とある。
 ところがここは壁の内側とは環境が違う。この涼しさはあまり発酵向きじゃない――さてどうする。

「よし、ドラゴン体温で30分頼む」

 いいこと考えた、フランの温かさを頼ろう。
 なので木のボウルに生地を収めて押し付けた。きっとドラゴンパワーでどうにかしてくれるはずだ。

「ええ……おっぱいスルーされた挙句にパンの発酵託されたんですけどー」
「なんのためらいもなく当然のようにパスしたっすねえ。さすがイチ様、迷いがないっす」
「大事に育ててくれ。あとよろしく」
 
 ドラゴン娘のぬくもりに全てをゆだねて後にすると。

「イチ、やっぱお前すげーよ。何があっても頑なにパンに集中するやつ初めて見たわ俺……」
「動じないどころかひたむきにパンと向き合ってるよね。きっといい職人さんになれるよ、うん」

 シナダ先輩とキュウコさんの視線を感じた。今までのやり取りをじっと見てたらしい。

「男なら駄々とおっぱいは人前で捏ねるな、堂々と捏ねていいのはパン生地だけだ……って奥さんが言ってた気がする」
「絶対いってねーだろそれ、勝手に捏造すんな奥さんに失礼だろ」
「ジョルジャさんならいわないとおも……いや、いうかな……どっちなんだ!」

 俺は今の自分をエプロンで得意げに表現してからかまどへ向かった。
 
「お前たち、ステーションにこれが届いてたぞ。魔物じゃなくて本物の牛の肉、それも骨付きとはずいぶんといいものを頼んだようだな」

 そこでクラウディアが俺たちを静かに待ってた。
 包まれた骨付き肉も抱えてる。心なしか想定よりも迫力とデカさが5割増しだ、君写真と違くない?

「ああ、俺が頼んだ奴だ――あれ? 1㎏っていったのに500gぐらい余計についてない? 気のせい?」
「おおきなおにく……!」
「きっと気前のよい肉屋がおまけしてくれたんだぞ、あの市場はそういうところだ。で、これをどうするつもりなんだ? かまどがついているということはもしや焼くのか?」
「その通り。うちのわん娘が肉食べたいって言うからさ、かまどの火加減を確かめるついでに焼いてみようかと思った」

 ブツをずっしり受け取るとクラウディアは「ふむ」と納得したみたいだ。

「ふっ、そういうと思って倉庫からこいつを持ってきたぞ。地下スーパーにあった『とすかーなぐりる』とかいう焼き台だ」

 続けざまに何か取り出した。いかにも肉を焼けそうな縦の格子状になった焼き台だ。

「お前って食い物のことになると察しがフル回転するよな。どうもありがとう、そういうのが欲しかった」
「ついでにダークエルフ族に代々伝わるステーキの焼き方を教えてやろう。調味料もしっかり持ってきたぞ」

 どこまで先読みしてるんだこいつ、今度は岩塩の塊とペッパーミルが出てきた。
 そしてナイフとフォークも。あわよくば味見するつもり満々である。

「作り方から味見まで任せろってことだな。どうかご教授よろしく」
「ニクに最高のごちそうをしてやろうじゃないか。見ろ、すごいよだれだぞ」
「おにくのために朝ごはん控えたんだ。早く食べたい」

 全力全開でじゅるりしてるニクを待たせて、俺たちはさっそく肉焼きに取り掛かった。
 骨に肉を分厚くまとった投げ斧めいたものが二本もまな板の上にどっしり君臨した。どんなおまけしたんだマジで。

「いい肉だな、それに焼くにはちょうどいい温度だぞ。まずは燃えさしを手繰り寄せて、その上にグリルを置いて熱するんだ」
「分かった、どれくらい引けばいい?」
「肉に触れない程度に適当だ。そうだな、ついでに少しだけ薪を足しておけ。パンを焼くなら後でそいつを抜くのを忘れずにな」

 とりあえず言われた通りだ、スコップでうすら赤い燃えさしを寄せた。
 そいつを広げてグリル台の四つ足をずりずり押し込んで、それっぽい調理環境ができた気がする。
 そこへ薪をもう一本足した。火の勢いがぼうっと増していく。

「こうか?」
「いい具合だな。グリルが温まっている間に肉の下味をつけるぞ、塩と胡椒だけでいい」
「ワーオ、シンプル。素材の味を生かすとかそういう感じ?」
「そうだぞ。だがこだわるなら岩塩と挽きたてのコショウだ、真似してみろ」

 クラウディアはの片割れに味をつけ始めた。
 小さな岩塩をごりごり擦り合わせて、コショウをがりがり挽いてたっぷりぶちまけてる。
 褐色の手先が味をなじませるところまでしっかり真似した。たぶんよし。

「こ、こう……?」
「肉の質が落ちる前に手早くやるんだぞ。さてかまどもいい具合に温まってるはずだ、さっそく焼くぞ」

 ニクによるものすごい眼差しを背にかまどと向き合った。
 グリル周りは250℃ぐらいだ、これくらいか?

「今だな。グリルを取り出して下味をつけた肉を乗せるんだ、ここからは焼き上がるまでつきっきりだから死ぬほど集中しろ」
「了解、冗談も今は控えとこう」

 道路側でわいわい商売する光景も、周りが「何してんだろう」と見つめる感覚も忘れて集中だ。
 クラウディアは魔獣も射貫けるほど真剣だ。グリルを引いて肉二本を手早く乗せた。
 じゅぅぅぅと肉の焼けるいい音が立ち込めた――考えてみればステーキを作るなんて初めてだ。

「いい音だ。ホンダとハナコはいい買い物をしたな」
「いいASMRだ。どれくらい焼けばいい?」
「決まった時間などないぞ、肉の様子を見てその都度判断しろ」
「厳しい授業だなオイ」
「まずは片面に香ばしい焼き色がつくまでだ、途中で向きを変えるんだぞ。そしたらひっくり返して少し長めに焼く。両面と端に美しく均一な焼き色がついたその時が頃合いだ」

 燃えさしの上でダークエルフのカンにならって肉焼き続ける。
 炎の中で表面が香ばしい色になってきた、トングで向きを変えて骨側にも火を与えた。
 気づけばニクの距離感もすぐ隣だ。ジト目で肉を見守る番犬と化してる。

「……そろそろひっくり返した方がいいか?」
「肉を掴んだ際の感触も確かめるんだぞ。この焼き色でトングにぐにっと奥に柔らかさを感じたらちょうどいい」
「じゃあこうだな」
「おお、いい焼き目がついてるじゃないか。ここからはしっかり焼いて仕上げるぞ」
「おにくまだ……?」
「おにくまだだ」
「おにくまだだぞ、辛抱強く待つんだ」

 ひっくり返せばグリルの形が焼き刻まれてた、こんがりしててうまそうだ。
 これをさっきより少し長めに焼いていく。死ぬほどつきっきりで。

「なぁぁぁぁぁん」

 茶白い猫がずっとそこにいる理由も今分かった、きっとこれが目当てだったんだろう。

「よし、今だぞ。最高の焼き加減だ」

 クラウディアの死ぬほど真剣な顔がそう語った瞬間に動いた。
 グリルを引きずり出すと、焼き色から香ばしさを漂わせる骨付き肉が二本だ。
 これはまさにステーキだ! 信じられるか? 自分で作ったんだぞ?

「おお……なんかすごいのできた」
「いいじゃないか、私の焼き加減をしっかり真似るとは流石だぞ」
「おいしそう……! もう食べていい?」
「おっと待つんだぞニク。まだだ、仕上げに焼いた肉を落ち着かせるんだ」
「まだ食べちゃダメなの?」
「だめだぞ。こうすることで肉汁が全体に回って柔らかくなるし味も良くなる、ほんの数分待つだけで最高のご馳走だ」

 でもまだみたいだ。肉を皿に移してフタをかぶせてリラックスさせた。
 しょんぼり待ち遠しそうなニクを撫でて辛抱させると。

「あははっ。なんかおいしそうな匂いするなーって思ったらおにーさんがお肉焼いてるんだけど、どういう状況なのかなこれ?」

 トゥールが匂いにつられたみたいだ。緑髪で猫耳が好奇心の形をしてる。

「ダークエルフ流のステーキの焼き方教わってた。報酬はたぶんステーキの味見」
「ニクにステーキをご馳走したいそうだから教えてたんだ。さあ、そろそろ食べごろだぞ!」

 こういう状況だと紹介すると、クラウディアいわくやっと食べごろらしい。
 促されるままフタを開けた――スモーキーな香りがうまそうに立ち込めた。

「おー……!」

 わん娘が目をきらきらさせるぐらいの骨付きステーキがそこにあった。
 今にもかぶりつけそうな具合だが、クラウディアの器用さがかっさらう。

「驚くのは早いぞ! これを見るんだ!」

 いつもよりノリのいいダークエルフは木のまな板の上で獲物を仕留めだした。
 骨の両側からさっくり切り分けて、そこに生でもなく焼き過ぎでもないピンクの断面がやっと見えた。
 ミディアムレアだ。それを食べやすくさくさく切り整えて、骨に沿って盛り付ければ――

「なぁぁぁぁぁん?」

 猫が足にすり寄ってくるほどの完璧なステーキの出来上がりだ。
 しれっと混じっていただこうとする気満々である。なんだこいつ。

「……うむ、完璧な火入れだな。クレイバッファローも良いが、このきめ細かな味がやはり一番だぞ」

 クラウディアはお先に失礼したようだ、名誉ある味見ともいう。
 感じ入った深い頷きからしてよっぽどらしい。俺もニクと一緒につまんだ。

「…………うまいなこれ!!!!」
「おいしい……! まさにおにく!」
「どうだ、これがダークエルフの誇るステーキの焼き方だ。そういえばハーヴェスターのやつが焼いたステーキも中々だったが、こっちの方がずっとうまいだろう? そうに決まってる」

 これは――控えめに言っても最高のステーキだ、クラウディアが得意げなのもしょうがない。
 驚くほど柔らかいし、かりっとした表面に薪の香りがしみ込んで刺激的でもある。
 しっかりした下味に牛肉の繊細な味が余すことなく持ち上げられてる。まさにご馳走だ。

「すごいご馳走……これ、ほんとに食べていいの?」
「なんかすごいの作っちゃった気分だ。さあどうぞ召し上がれ」
「全部お前の肉だぞ、いっぱい食べて強くなるんだニク」
「朝ごはん我慢してよかった。いただきます」

 飼い主とダークエルフの「よし」でニクが静かにがっついた。
 よっぽどお腹が空いてたのかワイルドに噛みしめてる。犬だった頃と変わらぬ食いっぷりだ。

「なぁぁぁぁぁん?」
「ん、欲しいの? あげる」

 猫にも一切れ差し出されてにゃもにゃも食べた、うまそうだ。

「あははっ、その子お肉ちょうだいってずーっと言ってたよ?」
「きっと何かくれるって思ってずっと待ってたんだね。賢いにゃんこめ!」

 猫二つ追加だ、トゥールと……それからなぜかキュウコさんも混じってる。
 この茶白の猫の言い分が理解できるそうだ。そうか、ニクみたいに何言ってるか分かるのか?

「おい、こいつがなんて言ってるのか分かるのか?」
「猫系ヒロインだから分かっちゃうよー?」
「バケネコだからばっちり!」
「じゃあ今度から通訳してくれ。どうせ次は『もっと肉よこせ』だろうけどな」
「なぁぁぁぁぁぁん(うまいけどもうちょっとレアがいいなあ。もう一枚くれなあ)」
「おにーさん大正解、もう一枚ちょうだいってさ。ところでそんなにおいしいのかな?」
「焼き加減レアにしてくれとも言ってるねえ。私も気になるな―?」

 残念、聞くまでもなく『肉よこせ』で通訳の対価も『肉よこせ』って感じだ。
 まあ、ニクはもぐもぐ気前良く「いいよ」と皿を寄せてる。猫二人にも振舞うことにした。

「……んっ! これおいしいね? さっくり噛み切れちゃうほど柔らかいし、お肉の味も全然違うや。こんなの食べるのわたし初めてかも……」
「すっっっっごく美味しいじゃん……肉汁がすごいしし、なんかごはん欲しくなる……」
「ふっ、ダークエルフは狩の民ゆえ毎日肉を焼いてるからな。お前たちもこの味をしっかりと覚えておくといい」

 ワオ、好評だ。つまりこいつは正真正銘のご馳走だ。
 その証拠に視界の中で【Slevスキルレベルアップ!】と浮かんだ。教えが良かったのか料理が3から4になった。

「いいニュースだ、あまりにうますぎて俺のスキルレベルが上がったぞ」
「おお、今ので上がったのか? さすがは我らが誇る焼き加減だな」
「おいお前、なに人の彼女に餌付けしてんだ」

 シナダ先輩も肉に寝取……魅了された彼女を心配しにきた。すかさず一切れご馳走だ。

「じゃあその彼氏も餌付けだ」
「こらイチ君、私からシナダ奪っちゃだめだよー?」
「野郎相手に餌付けいうな――うめーなオイ、つーかマジでステーキ焼いてんのかなんだその行動力」
「ご存じの通りやるっていったからにはやるタイプだ」
「なんて有言実行だ。いやでもうめーな……これお前が焼いたのか? 完全に店の味だ」
「クラウディアの監修のもと厳しく焼いたんだ、一人じゃ無理だな」
「私が教えたぞ。これを一人でこなせれば完璧だな!」

 クラウディアのドヤ顔と肉のうまさに納得して戻っていったようだ。

「イチ君、ほんとにお肉焼いてる……」

 入れ替わりでミコもきた。肉食べ放題のニクを目にして戸惑いいっぱいだ。

「――ほう、ステーキですか。ではセアリさんもご一緒しましょう」

 なんか犬も増えたぞ。セアリも尻尾をぱたぱたして加わった。
 しれっとご相伴に与るつもりだなこいつ。だけどニクは「ん」と譲る気だ。

「結果はこうだ、上手に焼けました。猫の次は犬もやってくるぐらい人気だな」
「誰が犬ですかコラ、セアリアさんはワーウルフですからね?」
「セアリさん、それニクちゃんのだからね……?」
「いいよ。一緒に食べよ」
「さっすがニクさん話が分かりますねバリムシャァァ!」

 ほんとに無遠慮だ、フルパワーで肉のこびりつく骨に食らいついてる。
 ニクも負けじと小さな口でざくざくむしゃむしゃスナック感覚だ。これが犬ッ娘の咀嚼力か。

「ばりばりいってる……あの、こんなに食べて大丈夫なのかな? お昼ご飯入らなくなっちゃうよ?」
「いや、肉のために朝飯控えたっていうから別にいいかなって……」
「えー……。ちゃんと三食バランスよく食べさせないと駄目だよ、ニクちゃんの体調にも関わるんだから気を付けてね?」
「誠にごめんなさい」
「もー、ほんとニクちゃんに甘いんだから。ふふっ、でもすごく嬉しそうだね? 尻尾ぱたぱたしちゃってるもん」

 少しずれてしまったニクの食生活については目を瞑ってくれるそうだ、今度から気をつけよう。
 ついでにミコにも「あーん」で促して一切れ運んだ。

「でもうまく焼けたんだぞ? ほら召し上がれ」
「えっ。あ、いただきまーす……?」

 はむっと食べた。むぐむぐしてから目が真ん丸だ、うまかったんだろう。

「どうだ、クラウディア直伝のなんかすごいステーキだ」
「……すごくおいしい。火の通りが絶妙だし、肉の風味がしっかり伝わってきて、いつも食べてるのと全然違うよ……!」
「ふっ、気に入ったかミコ。お前たちも里に来たら本場の味をご馳走してやるさ、これよりずっとうまいぞ?」
「だってさ、その時はこいつよりうまいのが食えそうだな」
「これよりおいしいんだ……クラウディアさんの故郷ってどんな場所なのかな? ちょっと気になるなぁ」

 骨を喰らうバリバリ音をバックにそんな話が咲いた。うるせえ。
 しかも思ったより肉が多かったのかニクとセアリがそろそろ難儀してる。誰だおまけしてくれた人。

「イチ、なんだかよく分からんが重要な荷物が届いてたぞ! とりあえず運んできた!」
「だ、だんなさま宛てにお荷物です~っ! 料理ギルドからなんですけど……」

 肉に屈しそうな二人を見守ってると、お次は熱血男子とメカクレメイドの妙な組み合わせだ。
 キリガヤとメカが腕力にものをいわせて持ってきたのは……木箱だ、それも人を押し込めそうな程度の。

「なんだいきなり名指しで送ってきやがって、俺の好物でも入ってんのか?」
「いちクンに……? なんだろう、りむサマが何か送ってくれたのかな?」

 二人がずっしり降ろすそれに【料理ギルドより、イチ様へ】と一文が添えられてた。
 リム様からの贈り物なのは確定だな。蓋を持ち上げると大量のじゃがいもと銀髪が見え――

「……農業都市からの新鮮なお芋ですわ、召し上がれ♡」

 ばたん。
 丁重に閉めた。パンドラの箱を開けてしまったらすぐ閉じればいいだけだ。

「よーし倉庫に運んどけ。それからあとでエレベーターとか作るからお前らちょっと手伝ってくれないか?」
「待っていちクン」
「そんなものも作れるのか、すごいな! 力仕事なら俺に任せてくれ――ところで今リーリム様がいなかったか?」
「あ、あのっ!? リーリム様が入ってましたよね!? 気のせいですか!?」
「気のせいだ。ところでお前らも肉食う?」
「今りむサマいたよ!? なんでじゃがいもと一緒に入ってるのこの人!?」

 倉庫に悪霊を封印しようとしたものの、蓋が吹っ飛んで「自由だオラッ!」と自力で脱出を果たした。

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