魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

いいから休め、ストレンジャーズ

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 重たいジェリカンを三つ背負って最初は疾走、次は早足、やがてのろのろ落ち着いた。
 粘つく視線を振り切るのにさほど走っちゃいないが、戦利品がたたって負担になった。
 急いだ分だけ休憩を何度も挟んで、疲れた声で愚痴を口々にしつつのご帰宅である。
 連戦で使った体力にはキュイトのチョコバーだ。疲れた俺たちの帰路はしっとりした甘さに助けられた。

「……あっ! 皆さんおかえりなさーいっ♡」

 そんな事情を土産に拠点へ戻ると、広場でリスティアナが手をぶんぶんしてた。
 満面の笑顔でたたたっと寄ってくる姿はまるで飼い主の帰還を待ってた大型犬だ。
 仮にそうなら、ご主人どもは疲労困憊で構ってやれる余裕もないが。

「ただいま…………」

 俺は『ロリパーティのストレンジャーとわん娘添え』を代表した。
 どぷどぷ中身が揺れる容器も重たーく突き出せば「わっ」と軽々抱えてくれた。

「ふふふー、皆さんがご無事でよかったですっ☆ ……って、なんだかとってもお疲れみたいですね? 特にイチ君、汗いっぱいの険しいお顔してますけど」
「こんな顔して帰ってくるぐらいの何かがあったってことだ」
「なるほど――ヤバいんですね!」
「ああそうだ、ヤベえよ。魔獣注意って促し方は伊達じゃなかった」
「い、一体何があったんでしょうか……? とにかく、みんなが無事に帰ってきて安心しました。怪我とかしてませんか?」
「心が疲れた」
「それは重症ですね……! 大丈夫ですか? ぎゅうってしてあげましょうか?」
「そいつぎゅうっとしておいてくれ、グラフティングパペットの樹液入ってる」
「おおっ、これがグラフティングパペットの……! 思ったよりずっしりしてますね? なんだかMGOの世界にいた頃を思い出しちゃいます」

 そのままお帰りのハグでもしてくれそうだったのでちょうどいい、樹液を運んでもらった。

「ん゛……疲れちゃった……」
「私が思うに、リスティアナ先輩を連れて行けばよかったと後悔してる。よもやあそこまで危険な場所だったとは」
「あはは……すごかったよね、最後の。あんなに敵に囲まれたの初めてだよ、無事に帰ってこれて良かったね」
「やっぱリ、ゲームの中とは勝手がちがうナ……頑張りすぎてワタシ干からびそうダ、荷物降ろしたら川で泳いでくル」
「地図にある通り、確かにあそこは素材豊かな森ではありましたけれども、それだけの脅威がいたということですね……はぁ」
「魔獣でいっぱいでしたー……レフレク、すごく怖かったです……」
「や、やっと帰ってこれました……! あんなにいっぱいいるなんて思ってもいませんでした……」

 お疲れなわん娘とロリどもを連れてもう少し頑張れば、広場がすぐそこだ。
 見慣れたアサイラムがちゃんとあった。やっと帰ってこれたと実感した。
 戦利品もそこらに降ろせば、文字通り肩の荷も降りてすっきり晴れやかだ。

「げ、元気に満ち溢れてるオリスちゃんたちがここまでくたくたになるなんて……! お疲れさまです、大変だったみたいですね?」
「ユルズの森は収穫はあれど、魔獣が跋扈するような筆舌に尽くしがたいほどの有様だった。あそこは素人が気安く立ち寄ってよい場所ではない」
「イチ君がいてもヤバかったんですねー……大丈夫ですかオリスちゃん? ぎゅうってします?」
「ということで素材と共に凱旋した我々を癒してほしい、つまりだっこ」
「ふふふ、いいですよー? お帰りなさいのハグですっ♪ ぎゅ~っ♡」

 あるもの全部外して一息ついてると、オリスがぎゅ~っとされてた。
 お帰りの挨拶に一言申す気力はまだない。乳に埋もれてチビボディをゆだねるのを見守るだけだ。

「おぉぅ……特大級の圧。これは確実に100を優に超えた大きさ、でっかい」
「頑張りましたね~♪ よしよし……トゥルーちゃんもぎゅ~っ♡」
「わたしはいいかなーあぶっ……おっき゛い゛……」
「遠慮しなくていいんですよ~♡ 次はメーアちゃんですね、ぎゅ~っ♡」
「やめロ、ワタシはそういう気分じゃ……でっかいナ!?」
「わ~お、熱々すぎて煮魚みたいになっちゃってますね☆ じゃあ次はホオズキちゃんですよ、逃げないでください! ぎゅ~っ♡」
「いいえ、私は遠慮させていただきますので――はしたないですよリスティアナ先輩おっぶっ!?」
「このままコンプしちゃいますよ~♡ って……レフレクちゃんは手加減しないといけませんね、手でぎゅ~っ♡です! よしよし……」
「レフレク頑張りましたー……はふう……♡ もっとぎゅっとしてください……♡」
「ほらほら、メカちゃんも遠慮しなくていいですよ~? ぎゅ~っ♡」
「あ、あたしはいいで……お゛ぉっ!?♡ お゛ッ……♡ お尻掴まないでください……っ♡」

 リスティアナはロリどもを愛おしそうに可愛がってる。ストレンジャーのラピッドスロウもかすむ勢いだ。
 なにやってんだこいつと視線を振ってると、はちみつ色の瞳がきらっと輝かしく俺を狙った気がする。

「――イチ君もっ!」
「後でな」

 代わりにニクに尊き犠牲を被ってもらった、ぎゅっとされて苦しそうだ。

『……ん゛ぅ……きつ゛ぃ……』
「おう、なんか騒がしいと思ったらお帰りか。みんなでなにしてるん?」
「お帰りなさいっす~♡ ご無事で何よりっすよ、なんかすっごい疲労困憊なご様子っすね皆様ぁ」

 食堂からタカアキとロアベアも聞きつけてきたみたいだ。
 最低限の説明で済ませることにした。周りに広げた皮やら容器やらジェリカンに物語ってもらおう。

「そこの帰宅のスキンシップは忘れてくれ、ご覧の通り生きて帰ってきたぞ。俺たちが一番乗りか?」
「おーおー、いろいろ持ち帰って来やがったな……最初の帰還パーティはお前らだぜ、おめでとう。ところでなにこのぬめぬめぬるぬるした瓶とか」
「つい先ほどミコ様たちから連絡あったっすよ、湖制圧したんで戻ってくるそうっす」
「あいつらもちょうど終わったか。なんか悪い知らせはないよな? 特にミコ」
「ミコちゃんたちならほぼ無傷で片づけたそうだぜ、ヤグチたちは鉱山前にあった集落をきれいにしたから今地道に調査してるとさ」
「けっこう呆気なかったとのことっすけど、調べる場所が多すぎてそっちのが忙しかったって言ってたっす。持てそうな戦利品だけ持ってのんびりお帰りになるそうっすよ」
「私はしっかりお留守番してましたよ~♪ 拠点に異常なしですっ! イチ君もぎゅ~ってしませんかー?」
「イチ様ぁ、リスティアナ様がハグしたがってるっすよ。にしても懐かしいっすねえ、本物の瞑想花とかライトニングシュルームとかいっぱいっす」
「ああそう、けっこう余裕そうだな俺たち。改めてただいまタカアキ」
「おう、改めておかえり。めっちゃ疲れた顔してるぞお前」
「じゃあその通りだろうな。ところで倉庫に聖水とかあった?」
「なんだいきなり。聖水なら昨日送られてきた物資にあるぜ、誰か呪われたのか?」

 出迎えの三人がぬるぬるぬめぬめと異彩を放つ素材に興味を引かれてるところ悪いけど、俺は表情を使って幼馴染をパシらせた。 
 あいつから見ても心配になる顔だったらしい、いそいそ倉庫から丸い瓶を引っ張ってくれた。
 その名も巻かれた名札通りに【聖水】だ。
 ついでに【100メルタ(半額)】と透明な液体のお手ごろさを訴えてるが、きっと効くはずだ。

「疲れた顔して帰ってくるぐらいの何かがあったのは確かだ、知りたいか?」

 なので頭からばしゃっとかぶった。
 ぬるくて少し塩辛いけど温まった顔がすっきりだ、悪霊退散。

「……いや、おま……ためらいなくぶっかけるってことは相当じゃねえか。マジでなんかあったん? 変なもん持ち帰ってない?」
「いい経験になったよ」
「帰ってきていきなりセルフ聖水プレイするぐらいにか?」
「その返しに軽口も叩けないほどだ――くそっ! ふざけやがって! バケモンだらけだったぞあのクソ森!?」
「うわっ急にキレるんじゃねえよ頭おかしいのか!?」
「ちょっと欠けてる! いいか、あそこは心霊スポットだ! 今すぐ地図にそう書いとけ!」

 そのままの流れで瓶を叩き壊してやろうと思ったけどやめた、分解した。
 足はずきずき重たいわ、背中はぱつぱつ張って痛いわ、いかに苦労したかをでっかいバッグ入りのジェリカンで訴えた。
 蓋を開けてひと嗅ぎしたロアベアが「わ~お」な驚き方だ。持ち帰った変なものをそうやって見せびらかしてると。

「おっ、戻ったかお前さんら。思ったより早かったじゃないの」

 行ってこい、とか頼んできた張本人が同じく食堂からのそのそやってきた。
 いかにヤバかったか汚らしい言葉が山ほど出かけたが、抑えてご注文の品を促してタスク完了だ。

「そりゃ逃げるように帰ってきたからな」
「お前さんがいたのにか?」
「ああ、なんたってユルズの森は化け物だらけだ。地図にホラースポットって書き足しておくか、それかぬめぬめの森に改名しとけ」
「そんなにおったんか……? まあ詳しい話はゆっくり休んでからでよいぞ、ご苦労じゃった。して、これがわしの頼んだ樹液かの?」
「今俺の口から「苦労した分1000メルタぐらい値上げしてくれ」って出かけてる」
「重要な情報を持ち帰れたってこたー出すもん惜しまんから安心せい、1000どころか5000は増額したるわ」
「そりゃどうも、約束通り満タンにしたけどこれでいいか?」
「うむ、匂いだけなら里でも使っとったのとおんなじじゃな。でかしたぞ、お前さんらの苦労は無駄にせんからな……ほんとに大丈夫? クリューサのやつでも呼ぼうか?」
「呼ぶならヌイスにしてくれ、ちょっと話しておきたいことがある」
「ヌイスのやつならドローンの監視が終わって仮眠とっとるぞ、もう少し寝かせといてやらんか」

 働きぶりは報酬が増えるほど完璧だったらしい、いい笑顔で親しく叩かれた。
 食堂から安心できる(暇してそうな)顔ぶれが次々見えたのもその時だ。
 「あら」と気にかけにきたムツミさんや、タケナカ先輩たちにクリューサたちを見て帰ってこれた気分になれた。

「その様子から察するに絶対トラブルがあったなこりゃ、お前ら怪我はねえか? 誰がいったか確かにひでえ顔したやつがいるんだが」
「あ、お帰りなさいイチ先輩……うわっなんだこのカラフルだったり発光してたりしてるぬめぬめ!? なんか変な抜け殻もあるし!?」
「イチ先輩、帰ってくるだけでも情報量多すぎますよ。どこに帰還一番で聖水浴びる人いるんですか……っていうかなんですかその一周回って毒々しい植物たち」
「来たか! 無事でよかったぞ、さあストライクリザードの尻尾を見せてくれ!」
「……お前たちだけでこれほどの素材が集まるとは信じられんな。ユルズの森とやらは宝の山の何かなのか? まあ、それだけの苦労も釣り合うほどあったようだがな」
「みんな揃いも揃って土産話を楽しみにしてた感じ? オーケー、とりあえずハナコ、地図にあれこれ書いてほしいから手伝ってくれ」

 ユルズの森の様子を知りたがってるようだ、疲れた背中を伸ばしてしっかり伝えることにした。



「――つまり、これでユルズの森が危険な場所であることが判明した。情報通りにストライクリザードもグラフティングパペットもいたけれど、エーテルブルーインの存在も確認できた。あそこは敵が多すぎる、いわば一歩踏み出すだけで敵地ど真ん中に放り出されるようなもの」
「ていうか……あれ以外にもまだいると思うよ? 森から離れる時に、なんか奥から知らないやつの唸り声とか聞こえてきたし」
「あれ以外にいるとか嘘だろウ……。どうにか戦えたガ、リスティアナ先輩連れて行けばよかったゾ……思ってたのとだいぶ違っタ……」
「あちらには有用な素材が取り切れないほどありましたが、それ以上に魔獣が多くて危険極まりない場所でした。気軽に何かしら取りに行くというわけにはいきませんね、あれはいささか危険が過ぎると思われます……」
「たくさんの魔獣が森の中でレフレクたちを狙って待ち伏せですっ! とっても平和そうに見えたのに、騙されちゃいました!」
「みんな、あたしたちのこと明らかに狙ってましたもんね……? 森の中もけっこう続いてましたし、奥に行かない方がいいかもしれません。あっ、エーテルブルーインもいたっていうことは、エルダーとかも出るんじゃないんでしょうか……?」

 説明の大部分をロリどもにぶんな……一任させれば、午後の広場にユルズの森のヤバさが遺憾なく伝わった。
 森に触れた時から逃げて帰ってくるところまでの一通りに、聞き入ってたみんなの顔は信じられなさそうな顔である。
 けれどもスクショがあの光景をとりとめてるし、テーブルにはどこにも逃げない証拠が並んでる。悪夢が実在する証拠だ。

「……ホンダ、お前さっき「雑魚ばっかりなら行ってみたい」とかぼやいてやがったな? これでも行きてえか? ちなみに俺はごめんだ」
「……ごめんなさい、前言撤回します。俺もごめんです」
「ユルズの森ってどうなってるんですか。もうちょっと穏やかなイメージがあったのに、そんな捕食者だらけの死の森だったなんて聞いてませんよ? しかも触れただけでそれって、下手したら現状一番危険な場所じゃないですか」

 タケナカ先輩とホンダ、ハナコの後輩コンビにも恐ろしさが伝わったらしい。
 お土産の歩く木の一部と、ぺしゃんこの巨大爬虫類がいい説得力をもたらしてると思う。

「ほぼヒロインの八人でおしかけてこれなのも忘れるなよ。今度あそこに「いってきます」とかほざくやつがいたらせめて六人一組パーティ二個分は準備させとけ、それと遺書もだ。あの森全体が敵みたいだった」
「ん……思うにあそこは魔獣たちのテリトリーだよ。もしかしたら、いろいろある植物をえさにして獲物を狙ってるのかも? そんな動きだった」

 俺からも念入りに実情を付け足すと、ニクのじとっとしたコメントにふとあの森の豊かさが思い重なった。
 あれってもしかして、豊富な植物を利用して俺たちをおびき寄せてたのか?
 いやな想像が働いて疲れた背筋がぞっとした。やめだやめ、眠れなくなる。

「右も左もわからねえ奴が迷い込んだら魔獣の腹まで誘導されるってか? 笑えねえ冗談だ、この情報はしっかり広めとかねえと帰らぬやつが出ちまいそうだな」
「木に擬態する敵もいるとか戦る気満々だ……よ、よく無事に戻ってこれましたね……?」
「だいぶお手頃サイズに切り取られてますけど、この皮の持ち主がいっぱいいるってやっぱりおかしいと思いますよ……。しかもエーテルブルーインもいるなんて、森林一つが丸ごと魔境になってません?」
「うへえ、聞けば聞くほどホラーテイスト。良かったなイチ、今のところお前の嫌いな要素盛りだくさんだ」
「それって欲張って奥までどんどん進んだら、気づけば魔獣の皆様に囲われたかもしれないってことっすよねえ。もしそうなら初見殺し極まりない森っすよ」
「かもな。俺が帰ってきてすぐ聖水浴びた気持ちが分かっただろ? しかも森の中だ、銃とかあっても遮蔽物が多いわ、敵は素早く自由自在だわで難儀したぞ」
「植物もいっぱいだから鼻も利きづらいし、魔獣からすればいくらでも隠れられる場所だと思う。森そのものと戦ってる気分だったよ」

 タカアキとロアベアも持ち主不在の尻尾をしげしげ見つけて、この話にどんどんホラー味が積まれていった。
 言えば言うほど持ち帰った戦利品が訳あり品に思えてきた。こいつにも聖水をぶちまけようかとひらめくほどだ。
 ところがこうも話して「そうでもない」みたいな顔をするやつがいて。

「お前たちはいったいなにをそんなに恐れているんだ? フランメリアの未開の地は大体こうだぞ、強き森というのはそれだけ恵まれた証拠なんだ。このご時世で中々お目にかかれないものにありつけるということは、よほど力のある場所なのだろうな……」
「おいクラウディアの、ダークエルフ基準で物を語るなばかもん」

 集まった素材の数々のすぐ近くで、さも当然のようにこの世の理を語るクラウディアがそれだった。
 その凛々しい言葉にはあんな恐ろしい場所がまだいっぱいある、という恐ろしい裏付けだ。
 あんなのが他にあるとか勘弁しくれよ、という重々しい空気になったぞ。

「せめて尻尾ガン見しながらそんなこと言わないでくれ。お肉見つけたうちのわん娘みたいになってんぞお前」

 しかもこの大食いダークエルフはストライクリザードの尻尾に釘付けだ。
 なんなら偶然ご馳走でも見かけたような顔でじゅるりしていて。

「ふふん、ストライクリザードの尻尾は淡白でつまらないものとよく言われていたが、実際のところは少しの手間でご馳走に化ける上等な食材なんだぞ」
「この流れで食い物の話に持ってくとか流石だと思う。おいこいつの飼い主」
「俺に振るな馬鹿者、このバカエルフがはしゃいでるのは珍妙な怪物の尻尾など持ち帰ったやつの責任だからな」
「いいかお前たち、こいつは事前にしっかりと熟成させるのが大事だぞ。薄く塩で化粧をして一晩寝かせておくと味が変わるし皮もはぎやすくなるから、さっそく下ごしらえをしなくてはな」
「勝手に一手間かける方向性に持ってくんじゃないよ! 誰が美味しくする方法聞いた!?」
「ということでムツミさんに見せてくるぞ! 明日のお昼にフライにでもしてもらおう!」
「待てクラウディア! それほんとに食うつもりか!?」
「あのままだと食卓に魔獣料理が並ぶだろうな。なぜあんなに持ち帰ってきたんだお前たちは」
「四本もある件についてはそこの人魚ガールの責任だ、あいつが倍にした」
「マーマンだといってるだろウ、突っつくゾ。あの尻尾には思い入れがあるシ、食えると聞いてとりあえず持って帰ったんダ。ていうかどんな味するか気になル!」
「だってさ」
『見てくれ料理ギルドのみんなっ! これがストライクリザードの尻尾だ!』

 飼い主クリューサがもはや匙をぶん投げてる。あいつは尻尾を抱えて食堂へひとっ走りしてしまった。
 メーアが余分に持ち帰ったせいで計四本のトカゲミートは果たしてどんな未来を辿るんだろう。

「……しかし、そのような現状だったとしてもこれには代えがたいだろうがな」

 ところがクリューサはと言えば、俺たちが拾ってきた素材に目が釘付けだ。
 瓶詰にされて黄金色をぬるぬるに吐き出したキノコが特にそうだろう。視線が価値を物語ってる。

「さすがクリューサ先生、その値打ちが分かるとは中々の目をしている。ご覧の通り、我々は価値あるものを選んで回収してきた」

 オリスも小さくドヤってるが、あいつは「そうか」と頷いて。

「だとすれば、お前たちはこの依頼以上に稼いだことになるだろうな。ライトニングシュルームだけじゃない、粘り草に、瞑想花に……この雑に引っこ抜かれた上に齧った形跡のある根は、まさかロトスルートか? 信じられん」
「それはまさしくロトスルート。すごく甘いのでおやつとして少し頂いた」
「そのままかじる粗野なやつが本当にいたことに驚きだが、言っておくが極めてクリーンな鎮痛剤を作れる貴重な材料だぞ。今後はそいつに野生児のような振る舞いをしないことだな」
「私のような愛くるしいエルフの噛み痕ということで幾分か箔がつくはずだと思った」
「今のふざけた物言いには何も言わんからな。この木の実は……フランメリアナッツか? こいつはただの食用にしかならんが、まさかクラウディアのやつに頼まれたのか?」
「はいっ! それはレフレクが拾ってきましたっ! おいしいのでつい!」
「お前たちが一体どういう顔でこれほどのものを持ち帰ったのが気になるところだが、医者的観点からして危険に見合った成果であることは保証したいところだな」

 医者的にそそられるだろう草だの根だのキノコだのにすっかり釘付けだ。
 こいつがぺらぺら喋るぐらいすごい成果だったに違いない、遠回しな誉め言葉を感じる。

「……そんなにすごいのかこれ?」
「クリューサさま、すごく嬉しそう」
「お前らに分かるような伝え方を考えてやろう、ここに揃った薬学的なものを全て売れば40000メルタはいくだろうな。良い取引相手に恵まれて、お前たちに商才があればの話だが」
「俺でも分かる説明どうも――おい40000ってマジかよ」

 そして俺たちの苦労に中々のリターンがあったことも明かしてくれた。
 40000メルタ。森のあちこちで目ぼしいものをいっぱいに拾っただけで得られるには十分すぎる額だ。
 「40000……!」とオリスたちが盛り上がるのもしょうがない。

「個人的にはこのスナック感覚で食われかけたロトスルートは欲しいものだ。俺だったら7000は出すだろう」
「ふむ、7000。ではタイニーエルフのお墨付きということで10000という価格設定は?」
「たった今興が削がれた、7000と5000どっちがいいか選べ。ちなみにだがドワーフどもに任せたところで5000ほどがせいぜいだろうな」
「むう。分かった、7000であなたに売りたい」

 たった今……なんかこう、毛深い極太の人参みたいな根っこが売れたようだ。
 医者的なニーズによってポケットマネーで7000のお支払だ。こいつが欲しがるってことは相当のものなんだろう。

「わ~お……迷わずお買い上げですね? ロトスルートの価値が分かるなんて流石ですっ!」
「その口ぶりも価値が分かってるようだな、リスティアナ」
「はい、もちろん知ってますよー? ちょっとしたレアアイテムでしたので!」
「大雑把な表現ならお前が言うように貴重なものだし、俺の好奇心を埋めるほどのものだ。さっそく錬金術師ギルドにこのことを報告しないとな」
『うわっなんだねクラウディアくん、なんかそのしっぽ、しおをかけたらうごぎゃーーーーすごい跳ねてるー!?」
『落ち着くんだみんな! こいつは切断面に塩をかけると反応して暴れるんだ! きっと呪いの類じゃないからあわてず抑え込むんだぞ!』

 クリューサはリスティアナに「こいつをな」と謎の植物を見せてから、満足したように宿舎へ向かったようだ。
 このやり取りで分かるのは、あの森にはリスクに見合ったものがあるってことだ。そういうことにしよう。
 なんか不穏な会話が食堂からつんざいたのはひとまず無視するとして。

「……なるほどのう。地図に『資源豊富です』とか馬鹿みたいなこと書いとって不安じゃったが、嘘はついとらんかったわけか。 需要のある植物に、ドワーフ的に嬉しい樹液もとれるとなりゃ、こいつは大きな収穫じゃよ」

 こうも進んで、スパタ爺さんは総じていい話だといわんばかりに納得だ。
 いい話にまとめようとしてるけど、森いっぱいに魔獣を感じた思い出は絶対に忘れないからな……。

「そうだな、わがまま言わせてくれ。魔獣注意の部分はもうちょっと真面目に取り組んでほしかった、おかげさまで森の養分になるとこだったんだぞ?」
「わしにいってどーすんの。ここはお前さんの活躍で今後うっかり魔獣の餌になるようなケースを防げるようになったと思っとけ、前向きにゆくんじゃよ」
「発覚したのが俺たちの犠牲じゃなく活躍でよかったな」
「おいそこの狩人ギルドマスターの縮小版みたいなの、こやつどんだけ怖い思いしたんじゃ」
「縮小エルフではない、タイニーエルフ。お兄ちゃんは怖いもの嫌いが祟って、あの森の恐ろしさに敏感になったと思われる」
「あのストレンジャーがこんだけビビるってこたー、相応のヤバさがあったんじゃろうなあ――ところでなんじゃお兄ちゃんって」
「そうです、あの森にはお兄様が迷わず撤退を判断されるほどに危険が渦巻いていましたから。かくいう私たちだってそうです、まるで森そのものが敵意を持っているようでした……」
(お兄様?)
「ユルズの森が今のわしらにどれだけ危険か掴めたのかが一番の収穫じゃよ。よくぞそんな場所から土産背負って戻ってきたな、制圧ボーナスに色付けとくぞ――ところでなんじゃお兄様って」

 ホオズキの言葉遣いに(お兄様?)と誰もが一瞬疑問形になりつつだが、俺たちの探索はメルタつきで賞賛された。
 とはいえ、それだけ消耗したことには違いない。
 オリスたちはやっぱり疲れが顔に浮かんでるし、俺だって背中が張っててひと眠りしたいぐらいだ。

「俺たちはご覧の通りだけど、アサイラムの方はどうだった?」
「見回ったが異常はなかったぞ、人手が増えたのもあって目に見えて余裕ができてるな」
「それが、逆に後方にいる連中がくっそ忙しくなっちまっとるのよ。新しい装備の製作やら、今後控えてる出来事についてやら、ちと伝えるのが複雑な有様でな」

 一方でアサイラムは異常なし……と思いきや、スパタ爺さんだけはそうでもなさそうだ。
 本当に面倒くさそうな顔でどう伝えようか迷ってるほどだ。何があった?

「トラブルか? いや、そんな感じのいい方じゃないな」
「ある意味トラブルじゃよ、お前さんにどう説明しようか悩むぐらいのな」
「面倒なのは分かるよ。で、どうした? 俺のバックストーリーばりに面倒なお話?」

 気になったので尋ねてみた。返事は「いやお前さんな」と呆れから始まって。

「ある意味そうかもしれんな、これ見て嫌な顔せんなら教えてやってもよいぞ」

 と、クリップでまとめられた書類が差し出された。
 ぱっと見ただけで遠回しな表現の数々にこう書かれてる、どれどれ……。

「……フランメリア国民のアサイラムの立ち入りを許可する……再開拓事業に向けて各地の有力な魔女の支援が……商業ギルドから実地経験のために新規の商人を派遣……魔獣の素材の需要につき買い取りが……」

 なんだかこまごますぎるが、とりあえず大文字で書いてるところぐらいは読めた。
 ここに関わる、なんかこう、すごいことだ。

「どうにか読めとるみたいじゃな、そこに何が書かれとるか分かるか?」
「ああ――なにこれ」
「そこまで読んでそりゃないじゃろ……」
「つまり何も分かってねえじゃねえか馬鹿野郎」
「おおなんというお兄ちゃんの読解力、もはや清々しい」
「スパタさん、イチ先輩は本気でこうなんだと思います。もう結構です私が読み上げますね」
「頑張ったんだぞ俺」
「頑張ってそれじゃ意味ないんです! ええい貸しなさい!」
「最近ハナコが冷たい、やっぱ氷属性は駄目だな」
「そんなこと言うからだ、もういいハナコに任せろ」

 俺が理解できたのはこうしてタケナカ先輩やらオリスに呆れられて、ハナコが全て担ってくれるほどの情報だ。
 仕方ないので地味眼鏡な後輩に回すと、あいつはぱぱっと何枚かを読み通し。

「……えーっと、つまりこうです。アサイラムが発展したことが外に伝わって注目されているってことですね。このくっそ面倒な書類を分かりやすくまとめると、明日にはいろいろな方がここを訪れるみたいです」

 最後は「正気か?」といいたげなくっそ面倒そうな顔だ。
 外からいろいろ来るってなんだ。みんなでそうスパタ爺さんを疑うと。

「分かりやすい説明をありがとな。ほんとにそういうことなんじゃよ、ここの噂がフランメリア国民の間にも、クラングルの職人たちの耳にも、そしてこの国を動かす魔女どもにも伝わったみたいでのう。明日から外部から来る人間を条件付きで迎え入れねばならんのよ」

 ハナコよりもくっそ面倒な顔で「はぁ……」と深いため息だ。
 俺たちがいない間に何があったんだ。そんな疑問にタカアキもへらへら絡みにいって。

「まるで有無を言わさず押しかけてくるみてえじゃん?」
「いやほんとそうなのよ。まず魔女どもが再開拓の支援の申し出をしおってな、しかも勝手に視察に来るそうじゃ、フライング気味に」
「魔女ってリーゼル様みたいな? なんかえらいことになってんなオイ」
「んで、各地の職人がここで手に入る魔獣やら植物やらの素材に目つけとる。クラングルからも買い手が次々上がっとる、フライング気味に」
「こいつらが森から帰ってきてすぐこれかよ、敏いねえ」
「して、フランメリア国民であれば誰でもステーションを使ってこの未開の地に見学しにきてもよいという決まりになっての。既に希望者がけっこうおるぞ、フライング気味に」
「こぞって先走りすぎじゃねーか何急いでんだよそいつら。おいこれイチのせいか?」
「うわあ、大変……オーケーつまり明日からお客様いっぱいなんだな?」
「そして商人ギルドも、わしら相手が新米の育成やらにいいと思ったのか行商人やらを派遣してくれるみたいじゃぞ。どや、ハナコの言うように面倒じゃろ」
「ほんと面倒じゃないですか……すごいことになってません?」

 ひとまとめの資料の伝えたいことが全て聞きだせた、アサイラムにあやかるやつがいっぱいだ。
 これにはタケナカ先輩も厳つさを忘れる面倒顔だ。でもロアベアだけはニヨニヨしており。

「フライングってあちらにおられる方みたいにっすか? なんか見知らぬお方がお見えしてるっすよ」

 着席の場からずいぶん南側に興味が向いてるようだった。
 フライングした市民でもいるんだろうかとつられると、落ち着き払った衣に身を包んだ知的なおじいちゃんがそこにいた。
 ステーションを抜けたあたりで周りを謳歌してる――ライオス爺ちゃんだ!

「おーほんとだ……ってあれっライオス爺ちゃん!?」
「あ、ライオスおじいさま。どうしてここにいるの……?」
「おお、元気だったかイチ。安全になったら見に行くといっただろう? ほら、これジョルジャからの手紙だぞ」

 まさかのパン屋の常連だ、俺に気づくと白い歯を見せて親しくやってきた。
 そういえば来るとか言ってたけどマジで来たのか。少し格式ばった手紙が手渡されて。

【元気に徳を積んでるかしら? なんだか面白いことになってるけども頑張りなさいね! 私の故郷でよく作られてるパンのレシピも同封しました、これは腕が鈍らないようにする宿題よ。 追伸、店員さんが増えました。なんとスカーレットちゃんの妹さんです!】

 と、開けば温かみのあるメッセージが籠ってた。
 同封された何枚かがスカーレット先輩の文字とイラストでレシピを記されてるあたり、精進しなさいってことらしい。
 了解、奥さん。後でここでパンでも焼いてみるか。

「奥さんからの手紙か、嬉しいな。あれなんか店員増えてる……」
「スカーレットさまの妹……?」
「ま、今回は手紙の配達が主なもんだな。しかしこれがアサイラムか……いや、中々に希望を感じる場所だな。見たこともない建築の法則に、戦いを感じるこの守りの配置、まるであのステーションのように未来を感じるなあ……」
「大体あってるよ、まだまだ開拓の余地ありだけどゆっくりしてってくれ」
「ふっ、その気みたいだな、噂の若き開拓者よ?」
「やめてくれ、ほんとにフライング気味だぞ」
「ハハハ、からかっただけだ。どれ、少しここで物思いにでも――」

 嬉しさあまって軽くハグを交わすと、ライオス爺ちゃんは親しみ深いご老人のまま拠点を見回ろうとしたみたいだ。
 が、そこに何故かスパタ爺さんと目が合ってしまい。

「……む? もしやお前さん……星つぶてのライオスか?」
「うーわなんでその黒歴史同然の名前知っとるんだ……やめんか恥ずかしい」
「やっぱりお前かライオスめ! わしの作った杖にケチつけたことは忘れんぞ!」

 なんだか不穏な出会いが始まったようだ、戦闘BGMでも流れんばかりに話が発展してる。

「なんだと!? まさか注文の品に余計なもん入れてくれたのはお前か!? 魔法を手助けする杖作れいったのにのこぎりみたいな鞭勝手に仕込みおって!」
「そりゃお前さんらのダチがそういう仕様で作れ言ったからじゃ!」
「あんな魔獣の腹に手突っ込んではらわた引っこ抜くようなのと一緒にするな! そもそも友人にした覚えもないわあんな蛮族ども!」
「それが勝手に魔獣狩りの使った武器とかいってオークションに出品していい理由になるかばかもんが!」
「好きに使えって押し付けたのはお前だろうが! あんなのよりそこらの棒きれの方が役立ったわ! 腹立たしくて売ってやったもんね!」

 ……何があったんだろうこの二人。
 すごい勢いで口喧嘩を始めて俺たちはいい迷惑だ。計り知れない因縁だったみたいだ。

「ちょいちょい、喧嘩すんな。ここを戦場にするな二人とも」
「おーい、こんな時になにしてんだよ爺ちゃんども。ほらライオス爺ちゃん、お茶でも飲もうぜ? 来客用のお菓子もあるよ?」
「お前さんのこと星つぶてって必ずつけてから呼んだるからな!?」
『人の名乗りを数十年越しに蒸し返しおってこの樽ゥ! どこにガチ魔法使いに仕込み武器渡す馬鹿がおるんだ!!』

 勝負はつかずだ。タカアキがライオス爺ちゃんをすたすた食堂へ案内してひとまず終わった。

「……あんな風にか」
「イチ様のお知り合いがフライングで来てるっすねえ、ていうかなんすか今の」
「さあ……まあ、殺し合うレベルの仲悪しって感じじゃないしいいんじゃないの?」
「ありゃ、歯車仕掛けの都市に魔獣の群れが押し寄せてきたときに戦った戦士の一人じゃよ。その名も星つぶてライオスじゃ、知らんかったのか?」
「ただのパン屋の常連じゃなかったやつ? あれ、これって実はすごい人だったパターンってことでいい?」

 静まり返ってみんなで「なんだあれ」だが、スパタ爺さんは疲れたように肩を落としたようだ。
 続く言葉は俺たちを目でひとなめしてから。

「……しかし良い頃合いかもしれんな、ここで構えてからだいぶ経ったが、皆の顔にそろそろ疲労も浮かんどる頃じゃ。当初の予定通り明日は思い切って全員休養、ちょっとした休日にでもしようかと思っとるよ」

 冒険者のコンディションでも気にかけるような視線の配り方だ。
 こんなところで一度みんなで足並みそろえて休めってさ、どういうことだ。

「今地図に書いてることは一旦忘れろってことか?」
「ああ、だいぶ制圧したとはいえ敵が身近なのは変わりねえんだがな。ちなみに俺は正直、とれるもんならくれって感じだ」

 敵影だらけの地図と、意外にも食いつくタケナカ先輩を絡めれば「うむ」と頷かれて。

「考えてみ? ここにきてからわしら 交代制とはいえずっと張り込みっぱなしじゃろ。しかも不意の襲撃やらもあって一体何度戦っとると思う?」
「まあ、週休二日制にしてほしいぐらいにはいろいろあったな」
「戦わずとも周囲に気を張るだけでも負担になるってことも忘れるんじゃねえぞイチ。今だから言わせてもらうが、調子がいい分休むペースが狭まり始めてるからな」
「そゆこと。行動範囲が増えたのはいいことじゃけどそろそろ足を止めんと伸ばし過ぎになっちまうぞ。それに後ろのやつらも動きっぱなしでまずいんじゃよ、そういうのもひっくるめての大きな休みってことよ。どや?」

 さっきの外からのお客様に関する話題がちょうどいい、とばかりに休みを持ち掛けにきた。
 確かにそうかもな、うまくいってる分、折り重なった疲れが無視できないほど浮き出てる。
 拠点の居残り組を今見ても、よくいえば張り切っていて、悪くいえば気が抜けずに少し堅苦しい。
 俺たちは少し悩んでから。

「……そう言われちまうと休みが欲しかったところだよ、背中も痛いしな」
「いったん全員の統制を取るにもいいだろ、賛成だ。お前らはどうだ?」

 アサイラムの持ち主&冒険者の仕切り役として承諾した。
 他を伺えばみんな休みを取ってしまえとばかりの頷きだ。というか、やっぱりこうしてみると疲れがある。

「よし、つーことで明日は休養日な。どーせ明日はいろいろ客が来るからの、一度思い切って全員等しくリフレッシュじゃ」
「続く言葉は敵より体力を保てか?」
「スティングの件がしっかり身に沁みとるみたいじゃな。敵に無防備晒さんように考えとるから心配はいらん、ちゃんと休むんじゃぞ」

 スパタ爺さんは「ようやったな」とステーションへ潜っていったようだ。
 なんだかその一言で俺たちは肩の力が抜けたようだ、変な笑いが出た。

「急な休みなこった。この件は全員に伝えとくぞ、もし可能なら希望するやつはクラングルまで一度戻っていい、ぐらいの余裕を作っちまうのもありだろうな」

 タケナカ先輩も「やっと休める」みたいな顔だった。
 これで休日の素振りがはっきりして、途端に疲れた雰囲気が回ってしまった。
 そのままこの集まりは解散だ。というか、休みの一言のありがたみがじわじわ効いてる。

『あっにーちゃんだ! もう帰ってたんだ!』
『いっちだ~♡ ただいまー! 湖制圧チーム帰還だよっ!』

 その時だ、青空のあたりから親しみたっぷりな美少女ボイスが降ってくる。
 見上げるとピンクのきわど……ピナとチアルがばさばさっと着陸の構えだ、戻ってきたか。
 ハーピーと戦乙女の鳥コンビの着陸地点は俺のすぐそばだ、二人とも笑顔がまぶしい。

「お前らか、おかえり。他のやつらは置いてけぼりにしたわけじゃないよな?」
「ん、おかえり。ミコ様たちは?」
「ボクたちが先行して見張りついでに報告だよっ! ミコお姉ちゃんならもうすぐ来るからねー?」
「にひひっ♡ あーしたち重たいもの持たなくていいから役得だねー♡ そっちどだったー? 大丈夫だったん?」
「くたくただ。明日はみんなで休みだとさ」

 空飛ぶボクッ娘と聖属性ギャルの報告によるとミコたちは無事に帰還するらしい、一番の知らせだ。
 代わりに「んっ!」と頭を二つ差し出された。撫でてやったが。

『フーッハッハッハッ! 今戻ったぞ! 良き成果だったなぁお前たち!』

 東のゲートからもえらく豪快でご機嫌なノルベルトの声もした。
 平常運転で安心だけど、分厚い扉が上がればお疲れなシナダチームの姿だ。
 何をどうしたのか、オーガが新品同様の巨大な兜を抱えてる――えらいもん持ち帰ったなあいつ。

『……な、なんかノルベルト君が叫んでる……』
『帰還するタイミングがダブったみたいだね、いやあれコロッサスの兜じゃん!?』

 すると今度は南側からもだ、ヤグチとアオが戦利品担いでこそこそと戻ってきてる。
 みんなが続々とお帰りのようだ。背を伸ばしつつ「おかえり」と手を振った。

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