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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
ユルズの森(3)
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「トゥール、貴女の言う通りでしたねっ!」
何かが大きく落ちてくるその時、動きも判断もホオズキが一番早かった。
着物風の姿が自分の身の丈ほどの刀を引いて割り込んでくる。
それに代わるようにオリスとざざっと飛んで下がると。
『ヴシッ……!?』
俺たちめがけて広がった重さが、そこで一振りの刀に迎え撃たれた。
ホオズキが押さえたようだ、鱗の立つ太っ腹を横斬りに出迎えた。
小柄な体なくせして見事な振りだ。せっかくの奇襲も台無し……と思いきや。
「――ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
その正体は軽く後ろに弾かれつつ、どすっ!と威嚇的に着地した。
斬撃が鋭く通ってかすかによろめくが、それは力強く地べたを這ってる。
そこでようやくはっきり分かった、土色の鱗に覆われた――恐竜だ。
「こいつがストライクリザードか!? どこがトカゲだふざけやがって!?」
照準器の中にある姿にそんな名詞が悪く思いつくのも仕方ない。
まずデカい。鋭い爪を隠す気もない全長が俺の腰ほどを追い越してる。
そして怖い。四足歩行で地面を掻いて、誰が言ったか『二足歩行を始めそう』なほど強く構えてる。
更に勢いが違う。腹から青い血をぼとぼとさせようが知らん顔、爬虫類の目で次の獲物を物色してた。
*BaaaM!*
でも運は悪かったみたいだ、ぎょろっと見回す顔に308口径弾を撃ち込んだ。
オリスも「そこっ!」と長弓を放つ、着弾で引きつるところに矢が生えた。
「ヴ、ヴ……シュウウウウウウウウウウウウウ……」
死ぬには十分だったようだ、恐ろしい顔のまま這いつくばった。
脳天に穴、鼻先に矢じりと呆気ない死に様だ。
にしても、空気をねぶるような断末魔がまだ耳にこびりつく――これがストライクリザードなのか?
「……驚いた。実際のストライクリザードはこれほどのものだったとは、よもや頭上から奇襲を仕掛けてくるとは想定外」
オリスが目を真ん丸に用心深くそれへと近づく。
「……お前らの言う序盤の雑魚敵ってのは、こんな風に木の上からサプライズ仕掛けてくる茶目っ気があるのか?」
俺もご一緒だ、小銃に着剣しながら「びくびく」にだが。
刺突の構えのまま近づくと、タイニーエルフの小ささは矢に手を伸ばし。
「ゲームとしてのこれは地を駆け巡るだけだったけれども、今我々の目の前にいるものは違う。頭上から明らかにこっちを狙っていた、それも計画的に」
「こうしてヘッドショット二度食らってくたばるところまで計画的か?」
「その点は単純にこちらの力を見誤っただけだと思われる。つまりこれの死に様は『楽勝かと思ったら返り討ちにあった件』という感じになる」
「なめてかかったら痛い目あったってか? なるほど、確かに食べるのにお手頃なサイズがこっちにいっぱいいるな」
「それか貴方が食べ応え抜群に見えたからでは?」
「なんにせよ食事の趣味が悪いのはよく分かった。大したことないっていうのもな」
もったいない精神で回収しようとしてたので、その前に銃剣をねじ込んだ。
念には念をだ、確実な死を確かめないと気が済まない。
這いつくばる首元を突くと、鱗の張りとぐじゅっとした手触りが――おえー。
「ゲームの中ではいくらでも相手をしましたが、実際に相手取ると厄介なものですね。深く入れたつもりが全く致命傷にならないとは……」
引き抜こうとすると、奇襲を未然に防いでくれたホオズキが寄ってきた。
刀にへばりつく青くて粘っこい色を払ってるようだ。
もしや銃剣を抜くと、同じように真っ青どろどろに汚れてた。
こいつの血か? 妙にぬめつくし、嗅げば草みたいなきつい青臭さがある。
「さっきはどうも。そのゲームの方じゃない実物に見事な一撃だったぞ」
「どういたしまして。やはり本物は私たちの知る作中ものと勝手が違いますね、それにこんな風に奇襲も仕掛けるなんて……そうくるとは思ってもおりませんでした、不覚です」
「つまりひどいオフ会だな、騙されたわけだ」
「なるほどオフ会、言い得て妙な表現」
「いや、オフ会って……」
「それよりホオズキ。こっちで半年間過ごしてたらしいのにこういうのはお目にかからなかったのか?」
「はい、初めてです。ワールウィンディアみたいな魔物はともかく、魔獣となると都市周辺では徹底して狩られているようですからね。少し遠出をすれば見かけることもあったそうですけど、冒険者が増えてからすっかりいなくなったとか……」
「俺たちみたいな都市暮らし系冒険者とは適度な隔たりがあったんだな。で、未開の地にやってきて初めてお会いできたのか。感想は?」
「……私たちの知っているものとはわけが違いますね。一撃を入れたというのに、平然と構えていましたから」
「最後はあっけなかったけどな。返り討ちにあってくたばるなら『序盤の雑魚敵』っていう表現もあながち間違ってなさそうだ」
二度と動かないそれにとどめをはっきりさせると、ニクも興味を示しにきた。
死体と青い血が気になるらしい、銃剣を嗅がせるといや~な顔のしかめ方で。
「これがストライクリザードなんだ。でも変なにおい、腐った果物みたい」
ダウナー声で不愉快そうにして引いてしまった。
俺もつられてみれば、魔獣の死体からは段々と甘酸っぱい悪臭が漂ってる。
「うーわマジだ……なんだこれ……なんか腐ってないかこいつ?」
「ん……腐ってるっていうか、溶けてる? 傷から流れてるこのどろどろ、血じゃない気がする」
「溶けてるってなんだ!? おい、こいつって触ったらたたられる系のやつじゃないよな!? やっぱ呪われた森だったか!?」
「これは呪いの類に非ず。エーテルブルーインを想像すれば理解は容易い、これは死ぬと傷口周りから肉や骨が溶けだして空っぽになる」
森の祟りなんて「冗談じゃねえ」と退くと、オリスがずぼっと矢を抜いた。
そして矢じりを見せられた、血にしては濃すぎる粘度がこびりついてる。
まさに解けた骨身を表してるし、それが死体からとめどなく流れてるわけで。
「あのクマの出来損ないみたいな頭おかしい生態系してるっていうならよく分かる。くたばったら勝手に溶けて悪臭もくれてやるサービスつきか、最高だ」
「……じゃあ、死体から出てきてるのって解けた肉や内臓?」
「俺の銃剣を汚したのもそうだろうな。畜生、やっぱここ呪われてるぞ」
「だから呪いではない。でもこの死に様はちゃんとゲームをなぞったもの、最後は尻尾を残して空っぽになる」
「なんで尻尾だけ残して溶けるんだよ、誰だそんなひでえ生き様考えたやつ」
気づけば2m以下の図太さはさながらエーテルブルーインのように萎んでた。
青いどろどろが抜けてぺしゃんこの抜け殻の出来上がりだ、しかもなぜか分厚い尻尾だけが元気に残ってる。
元になったゲームの方でもこうなのか、とヒロインどもを見るも。
「MGOでは撃破と同時に一瞬で萎んだけれども、これは些か生々しすぎる。私の知っているストライクリザードは、もう少し可愛げと親しさのこもったカジュアルな感じだった」
「変なところがリアルになっちゃってるよねー……案外あっけなくやられちゃうのは相変わらずだけどさあ」
「あんまり硬くないのも相変わらずだゾ。死に方がすごく気持ち悪いことになってるガ、ワタシたちの知る雑魚のままかもしれン」
「切り付けた時の手ごたえはエーテルブルーインより柔らかかったですからね。とはいえ実際に溶けてしまう様子は不気味極まりないです、私の刀が汚されてしまいました……」
「本物のストライクリザード、怖いです……れ、レフレクの魔法でやっつけられるんでしょうかー……?」
「あたしも怖いです……! あ、あのっ、この森って、こんなのがいっぱいいるんでしょうか……?」
ゲームに非ずな現物をそこまで見たロリどもは総じて微妙な顔だ。
ユルズの森の「ただの美味しい森」っていう印象はもうないんだろう。
何せトゥールがそうだった、猫の耳も立てて目をきりっと見張らせていて。
「メカ、残念だけどいっぱいだね。とっくの昔に囲まれてたみたい、そこらじゅうの木の上でわたしたちを見てるよ」
「や、やっぱり……!? あの、えっと、さっきから、上からあたしたちを見てくる感じが、また増えた感じがして……」
「じゃあ確定だねー? あいつら木登り上手だなー、環境音に紛れてこっそり近づいてきたんだろうね」
と、あたふたするメカに少し悔しそうにいうわけだ。
あの恐竜未満の化け物どもが、さっきみたいに木の上で俺たちを見張ってると。
ここはあいつらの縄張りで、俺たちは迷い込んだ飯ってことか。
「いっぱいか。どう動く?」
そして俺たちのやる気も得物も頭上に向かった。
敵の存在が分かっただけでありがたい話だ、途端に全員が浅く身構えた。
「このままだと挟み撃ちだけど、東の方はそんなに集まってないみたい。後ろには引かせない感じで配置についてるよ」
「退路も塞ぐなんてお利口だな。もし突破するならどれくらいだ?」
「たぶん、四体かな。ごめんねお兄さん、耳がもう少し慣れたらもっとはっきりすると思うんだけど……」
トゥールの猫らしい聴覚を頼るに、包囲されて痛い目を見ない方向は東側か。
相手の動きに流されないようにじっとしたまま、俺は周りを目でなぞった。
幸いこっちの大部分は近接戦闘系のスキル持ちだ、固まって突撃するには申し分ないほど揃ってる。
オリスとレフレクも小さくてすばしっこいし、矢と魔法も扱える――決まりだ。
「十分だ。敵に向かって引くぞ、蹴散らした先で反転して片づける」
右手の方を見た、まだ敵の姿はない。
小銃の残弾よし、リグの手榴弾も取りやすく整えた。
まだ動くなと目を配らせた。相手に悟られるな、今は囲まれた獲物のままでいろ。
「ん……それだとたぶん、向かう先で固まってくると思う。ぼくが足止めするね」
「我々の機動力を今生かすべき。トゥール、メーア、ホオズキ、メカ、お兄ちゃんと一緒に右へ走って。私が横から射貫く」
「あははっ、やる気だねー? さすがはお兄さんだー、それじゃわたしも頑張ろっかな? 後で撫でてね?」
「ほんとにお兄ちゃんって呼んでるゾ、コイツ……大丈夫カ……?」
「オリスさんが少々奇異な方なのはもう目を瞑りましょう……メーア、先にいって一番槍をお願いしますね。レフレクは誰かの頭上について援護してください」
「はいっ! レフレクはおにーさんのおそばにつきますっ! ごー!」
「だんなさま、お、お背中はあたしがお守りします! い、いつでもいけますっ!」
「こっちに来てから家族関係が複雑になった気分だ。それじゃ――」
一同の確認が少しやかましく取れた、気取られる前にゴーだ。
小銃を手に横に駆けた、槍持ちのメーアとニクがすぐ追い越して先行した。
頭上からの嫌な空気を急いで抜けると、がさがさ慌てるような枝の合唱が始まり。
『ヴヴ……ヴシュウウウウウウウウウウウウウッ!』『ヴウウウウウゥゥ……!』『ヴシュウウウウウッ!』『ヴヴヴ……!』
トゥールの耳は正しかった、幾重にもにも重なった震え声が追ってくる。
うまく奇襲をずらせたか。ふよふよついてくるレフレクを確かめて、犬と魚の黒と青な尻尾を追いかけると。
「ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
先の木々から勢いよくトカゲモドキ、恐竜未満の化け物どもが落ちてくる。
ずたっと柔らかく地を踏むと、土色の身体を半起こしに荒っぽく突っ込んできた。
「邪魔」
でもこっちは機関拳銃を持ったわん娘がいるんだぞ、やっちまえ。
*papapapapapapapam!*
第二の奇襲にニクの手が九ミリ弾をばら撒いた。
横薙ぎの掃射が攻撃を叩き伏せた。ダメージはともかく『ヴッ!?』と怯む。
「今ですっ! 【フォトンボルト】!」
頭上から可愛らしい詠唱が繋がって降りかかる、レフレクの光魔法の発動だ。
知らない読みに白輝きする魔法陣が小さく浮かんだその一瞬、眩い光の弾が三つあふれた。
狙いは端の敵だ。握りこぶしほどの白い三発がどどどっと顔を打ち据えて、激しくのたうった。
「――私も新たなアーツを試す時。横から崩すから後はお願い」
横からオリスも滑り込みながら援護だ、魔法にがしゅっと重たい弦の音が続く。
立ち止る魔獣たちの横に二本同時の矢がきれいに当たった、アーツの挙動だ。
不意の魔法と矢に四足歩行の群れが意識をかき乱される、大きな隙ができた。
「もらったアアアアアアアアアアアアッ!」
この状況を誰よりもくみ取ってたのは間違いなくメーアだろう。
援護のタイミングに乗って、元気な魚人ボディがぴょんと槍を突き出しにいく。
「ヴッッ……シュウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
対して向こうは戸惑いつつだが、一匹がじたばたと迎え撃ちにいった。
そこからは穂先と鼻先の単純なぶつかり合いだ。
前腕が浮かびそうな激しい地の這い方が迫るも、直前にメーアは蹴って踏み込む。
軽く勢いづいた槍先が先に口を貫いたみたいだ――『ヴ』と一声で大人しくなった。
「いけっ! 突っ込めッ!」
俺も続いた――銃剣と一緒にな!
メーアが槍を抜いて下がるところに入れ替わると、そこに別の敵が挟まった。
「ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
寄り集まった四匹の塊だ、先頭のやつが襲い掛かってきた。
遅れて後もばたばたやかましく続いてきた。でも残念、こっちは屈強なロリどもがいるぞ。
「おーっと、お先に失礼お兄さん。みんないくよー」
真っ向から突っ込むストライクリザードに、トゥールが二刀流の姿で割り込む。
土色の図体の意識もそこに持ってかれた。
足が重く緩んで、突然の猫ッ娘を爪で叩き伏せようとするも。
「狙うなら背中だね……っ!」
あいつは滑らかな動きで逆に潜り込んで、あろうことかその背筋に乗った。
ぴょいと圧し掛かった重みに魔獣はさぞ嫌そうだが、振り落とされるよりも早く二振りの剣が刺さる。
そいつは『ヴオッ!?』と思い知ったような声で暴れた。トゥールが素早く離れれば、痙攣しながら動きが止まり。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARGHHHHHHHHHHH!」
また一匹仕留められた頃合いめがけて銃剣で突っ込んだ。
続けざまの攻撃に狼狽えるやつを発見、得物を斜め下に走って飛びつく。
トカゲの化け物は咄嗟に反撃を選んだらしい、きつく身構えてぐるっと旋回し。
――ぶぉんっ!
次にはそんな圧を感じた。
鱗でしっかり守られた極太の尻尾がこっちに飛び込んでくる。
「はっ、お前みたいな動きは良く知ってんだよっ!」
だけど焦るものでもない、腰ほどの高さを狙った振り払いにあえて向かった。
この試みはうまくいった。助走とひと跳ねの下で空気がぶん殴られる。
尻尾で叩くような知り合いがいて感謝だ――トゥールを真似して乗っかり、暴れる背筋に体重ごと銃剣を捻じる。
「ヴッ……ヴヴヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……!?」
硬い鱗をどうにか一突きにした、踏みつけた魔獣がぶるぶる震えて暴れ出す。
*BaaaaM!*
だったらトリガを引いて308口径を発射、びくっと大人しくなった。
その時、がん、がんと硬いもの同士の強烈な打ち合いが横に響く。
「ストライクリザードといえばっ! 序盤の資金稼ぎの相手だったのにっ! 中々っ! 楽にはいかないようですねっ!」
敵の一匹をもらい受けたホオズキが滅茶苦茶な爪の連打を刀で弾いてた。
ホルスターの拳銃に手が伸びるも、最後の一撃をがきんっと払いのけたようだ。
勢いを逆にされて爬虫類らしさが軽く仰け反る――持ち上がった敵の首にずばっと一閃だ、うーんいい仕事。
「メカ、足止めするから仕留めて」
「はっはい! えええええええええええええええええい……!!」
その近くで行くか逃げるか迷った一体も、間を縫ったオリスにぶち抜かれた。
腰を射貫かれてびくっと跳ねるが、そこをメカの大斧が気合込みでぶちのめす。
ちびメイドに気づいたばかりの頭がぱっくりザクロ割りだ、怖い。
「ヴシイイイイイイイイイッ!」
撤退は成功か、と思いきや横からもう一声だ。
木の上からあれが目の前に落ちた、すぐ自動拳銃を抜いてばばばっと連続射撃。
咄嗟の三連射にストライクリザードは怯んだようだ、そこへニクが早く駆けつけ。
「ご主人、こっちは任せて……!」
「どうも相棒、次行くぞ」
首をばっさり払ってからの、肩口への穂先がそいつを串刺しにした。
「ヴウウウッ!」と苦し気に暴れるものの、容赦なく喉を蹴って黙らせたようだ。
『ヴシュウウウウウウウウウウウウウッ!』『ヴシュッ……ウウウウウウウウウウウウウ……!』『ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……』『シュウウウウウウウ!』
お次は背後からの無数の鳴き声が追いかけてくる。青く汚れた小銃を抜いた。
撤退先の敵を平らげた次は追手どもの相手だ、照準器越しに次を探れば。
「す、ストライクリザードがいっぱい来てますっ!?」
レフレクがそう悲鳴を上げるのも仕方ない光景だった。
そこから赤褐色のトカゲモドキがうぞうぞ四つん這いで集ってるからだ。
森を這ったのか、高みから降りたのか、どうであれ今にも跳んできそうな怪獣的な姿が十も二十も集まってる。
『ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!』
威嚇を込めた振動声はじりじり迫り出した、目つきは俺たちを食べるつもりだ。
「……この森は呪われているという言葉は正しかったのかもしれない。この数は異常、どうするべき?」
さっきまで余裕で矢をお見舞いしてたオリスもこれには参ったって感じだ。
どうするかって? 迷わずリグに手を伸ばした。
「だったらこうする。全員、ここから離れて木の裏に隠れろ」
それから破片用の外殻を被ったフレキシブル・グレネードをちらつかせた。
弾頭を二個繋げて威力二倍、危険も二倍な新しいお友達だ――ピンを抜いた。
「ん、分かった。いくよみんな」
「なるほど、確かに効果的な状況。でも判断が早すぎる、撤退!」
「ほんとに使うつもりだこのお兄さん……!? に、逃げろー!」
「ミンナ、木を盾にして伏せロ!? コイツまったくためらわないナ!?」
「ちょっいきなりそのようなものを当たり前のように――に、逃げますよレフレク!?」
「ぴゃあああああああああああっ!?」
「えっ、だ、だんなさまー!? み、みんな隠れてー!?」
お手元の時限信管の燃焼音からみんながわちゃわちゃ離れていった。
ロリどもの個性がそこらに散る中、迫るストライクリザードの群れに向かって。
「――フラグ投下!」
どうぞめしあがれだ、くそったれ!
ピンが抜けて絶交した友達を別れの言葉で見送った。
レバーを弾き飛ばしながら飛んでいくそれは、奇しくも「いただきます」と一斉攻撃に備える動きに送られ。
*BAAAAAAAAAAAAAAAM!*
急いでその場に伏せたのと、森に野太い爆音がつんざいたのは同じ頃合いだった。
二段積みの破片手榴弾の味はいかが? 小銃を持ち上げて姿を見せれば。
「……ワーオ、お口に合ったみたいだな」
答えはずたずただ。かなりの数がぐったりひれ伏してる。
手のひらが四つ必要なほどいた数も、破片と熱にやられて半数ほど物静かだ。
仲間の身体で被害を免れた奴も、パニックが回ってヴシュヴシュと逃げ道に彷徨ってる――
「やっちまえ! オリス、レフレク、左側制圧しろ! 森の奥へ追い回せ!」
「おおなんたる有様。降りかかった火の粉とはいえあれは気の毒」
「ほ、ほとんどやっつけちゃってますー……【フォトンボルト】!」
もう一押しだ、こいつらには今日の昼飯を(あの世でも)諦めてもらおう。
手榴弾の衝撃にばらけだした様子を狙った。手近なやつの首下に撃つ、命中。
雑な狙いで装填と発射を往復すれば、群れの左側に矢だの魔法だのが追って当たって数々が倒れる。
「逃がすカ! 【ウォータースパイク】!」
お魚系蛮族も逃さない、水の魔法を唱えながら追いかける。
手元から蒼い水塊が鋭くすっ飛ぶ――前に見た【ウォーターニードル】を強くしたようなものだ。
逃げようとした敵の横腹が貫かれた。ごろっと転ぶも追いつく槍がトドメだ。
「メーア、深追い禁止だよ! ていうかほんとおっかないなあ、お兄さん……!」
魚人の活躍に横槍を入れようとしたやつに、トゥールが剣二振りで邪魔に入る。
叩きつけられる爪を弾いてからの、二撃目もするりと避けた勢いで懐に潜った。
くるっと翻って首元へ回転斬りをお見舞いだ――深々切られてショックで倒れた。
「てええええええええええええええええええええいいい……!」
が、しかし、ロリどもの追撃は止まらない。
レフレクの光魔法で止まるストライクリザードに、メカが追って大斧を叩き込む。
重い一撃が骨も皮も地面ごと断った。横向きの身体が50%オフだ。メイドこわい!
あとは白兵戦担当の四人と愛犬が次々と浮足立った敵を片付けるだけだが。
「皆さんっ! 必要以上に追い込む必要はありません! 適度に倒したら――きゃあああああああっ!?」
残った敵に弾を浴びせて弾倉交換、と手が動いたその瞬間だった。
片耳にホオズキの高い悲鳴が伝わった。
すぐ気が向けば、追撃に回ったロリ四人の後方に異変がある。
『ヴシュウウウウウウウウウウウウウッ!』
「い゛っ……や、やめて……離れてッ!? あああああぁぁぁぁっ!?」
まだ一匹いた。きっと木の上に潜んでたか、ホオズキの背を押しつぶしてた。
悪い知らせもある、ストライクリザードは餌にありついたような口の開き方だ。
「おい! アドバイスだトカゲ野郎、鬼なんて食うと祟られるぞ!」
そんな死に方でこの森に嫌な箔が付くのはごめんだ、マチェーテを抜いた。
すると相手は「ヴッ……!」とこっちのアドバイスを受け取ったようだ。
鬼娘を踏みにじりながらも用心深く寄ってくる、じりじり詰めれば大ぶりに詰め返しにきて。
「ヴシュウウウウウウウウウウウウ……!」
間合まで僅か数歩、というところでそいつはくるりと地面を踊った。
次に感じたのはしなう尻尾の勢いだ。鱗をまとった太さが斜めにやってくる。
――上等だ、来やがれ!
だからこそだ、顔をガードしながら身構えた。
そんな覚悟の矢先。
「ぐ、おっ…………!?」
腹にどずんと重々しい音と衝撃が爆ぜて広がった。
気を抜けば後ろに弾き飛ばされそうな、びりりとした凶暴な力加減だ。
「イチ先輩!?」とホオズキの心配も混じるがそれだけだ、エルダーのアーマーが全てを奪ってしまった。
なんて防御力だこいつは、痛みも衝撃も全く来ないぞ。
「――かかったな?」
「ヴッ……!?」
自慢の一撃を防がれてさぞショックだろう、相手は思わず後ずさりした。
迷った挙句にもう一撃尻尾が持ち上がったが、迫ってそこを斬り上げる。
硬い手ごたえを貫き通すと、トカゲの象徴が半ばからずばっと跳ねた――エルには見せたくない光景だ。
『ヴッ、ヴシュッ、シュウウウウウウウウウウ……!?』
不名誉な外科手術をされた化け物は心も変わったみたいだ、青い血を散らしながら森へ逃げていく。
ここまで手負いにさせて逃がすのは残酷だ、ベルトからクナイを抜いて投擲。
【ピアシングスロウ】はまっすぐ逃げる背に刺さった。跳ねた土色の身体が四肢をばたばたさせて転げまわる。
「だ、大丈夫ですかイチ先輩!? い……今、尻尾に思い切り打たれませんでしたか!? お怪我はっ……!?」
残りを探るが、ホオズキがふらふら気にかけにくる程度には落ち着いたみたいだ。
ちょうどニクが最後の一匹を「はっ!」と突き倒す瞬間でもあった、もはやここには悪臭を放つ死骸の山しかない。
「そのまま返すけどそっちこそ大丈夫か? ふらふらしてんぞ」
「私のことは気になさらないでください、少々頭を打ってしまっただけですので……」
「それは負傷っていうやつだ、無理するな。こっちは嫌なもん見ちまった気分だ」
ふらふら不安定な鬼ッ娘を支えてやるとして、俺は得物を手にしつこく敵を探る。
森の脅威はゼロだ。その数と奇襲には驚いたけど、案外強くはなかった。
「ご主人、お腹平気? すごくいいのもらってたけど」
「見ての通りだ。すごいなこれ……かなりぶん殴られたのに全然痛くないぞ」
「これがエルダー革の実力、恐れ入った。ホオズキを助けてくれてありがとう」
「堂々と助けに行ってカッコよかったよー、へへへっ♡ ていうかストライクリザードの尻尾、防いじゃったねー……エーテルブルーインの力が籠ってるのかも?」
「やめろトゥール! もう少しで忘れかけてたんだぞ!!」
「動きが読めれば大したことない相手だったナ、だが奇襲をしてくるというのは厄介ダ……中身が溶け切ったら皮を拾うゾ、売れル」
「さすがは勇者様ですっ! レフレクもいっぱいやっつけました、ほめてください!」
「だんなさま、念のためお怪我がないか確かめた方がいいと思います……?」
安全が行き渡っていくにつれてチーム・ロリの気も抜け出したようだ。
俺たちは死骸の山を「どうするか」を前に周囲の安全を待つものの。
くう……。
急に弱弱しい空腹の音が聞こえた。誰かと思えばお腹に触れるメーアだ。
あいつは緊張感のないワイルドな顔のまま、わずかな考えを巡らせたようで。
「……お腹が減ったゾ、よしお弁当食べル!」
本能に屈するのが一番になったらしい。ご機嫌に安全な場所を探し出した。
そう言われてみれば腹が減った。ここで食うのは絶対にごめんだが。
「オリス、あいつ敵がいる森で堂々と昼飯食うつもりだぞ」
「メーアの行動は理にかなってる、一度南側に引き返して休息を挟むべき。その前に中身が抜けたストライクリザードを回収しておきたいのだけれども」
「ああうん、戦利品な。なんかどろどろ漏れてるけど、こいつ持ち帰るとか冗談だろ?」
「中身をきれいに落として傷のない部分を切り取ればいい。記憶が正しければ尻尾にも食物として価値があったはず、支障が出ない程度に持ち帰りたい」
「熊の抜け殻の次はトカゲの抜け殻か。次はどうせ木のお化けの抜け殻だな、やっぱ呪われてるだろここ……」
「うへー、けっこー転がってるねー……青いどろどろは地面に吸収されてるみたいだよ。これたぶん、マナじゃないかな?」
「すごい数ですね。皮は胴回りの部分だけ切り取りましょうか、できれば傷のないものを探さないと……」
「レフレク、メーアさんと一緒に休める場所を探してきますっ! お昼は妖精さんサイズのパンです!」
「あ、あたしも戦利品のお手伝いします……ぐ、ぐろてすく……」
「……尻尾のおにくっておいしいのかな?」
「ニク、こいつに食欲を示さないでくれ」
次の危険がどこからか迫る前に、俺たちは急いで戦利品を集めることにした。
グラフティングパペットとやらもこんな感じなんだろうか、この森には嫌な想像が働くばっかりだ。
◇
何かが大きく落ちてくるその時、動きも判断もホオズキが一番早かった。
着物風の姿が自分の身の丈ほどの刀を引いて割り込んでくる。
それに代わるようにオリスとざざっと飛んで下がると。
『ヴシッ……!?』
俺たちめがけて広がった重さが、そこで一振りの刀に迎え撃たれた。
ホオズキが押さえたようだ、鱗の立つ太っ腹を横斬りに出迎えた。
小柄な体なくせして見事な振りだ。せっかくの奇襲も台無し……と思いきや。
「――ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
その正体は軽く後ろに弾かれつつ、どすっ!と威嚇的に着地した。
斬撃が鋭く通ってかすかによろめくが、それは力強く地べたを這ってる。
そこでようやくはっきり分かった、土色の鱗に覆われた――恐竜だ。
「こいつがストライクリザードか!? どこがトカゲだふざけやがって!?」
照準器の中にある姿にそんな名詞が悪く思いつくのも仕方ない。
まずデカい。鋭い爪を隠す気もない全長が俺の腰ほどを追い越してる。
そして怖い。四足歩行で地面を掻いて、誰が言ったか『二足歩行を始めそう』なほど強く構えてる。
更に勢いが違う。腹から青い血をぼとぼとさせようが知らん顔、爬虫類の目で次の獲物を物色してた。
*BaaaM!*
でも運は悪かったみたいだ、ぎょろっと見回す顔に308口径弾を撃ち込んだ。
オリスも「そこっ!」と長弓を放つ、着弾で引きつるところに矢が生えた。
「ヴ、ヴ……シュウウウウウウウウウウウウウ……」
死ぬには十分だったようだ、恐ろしい顔のまま這いつくばった。
脳天に穴、鼻先に矢じりと呆気ない死に様だ。
にしても、空気をねぶるような断末魔がまだ耳にこびりつく――これがストライクリザードなのか?
「……驚いた。実際のストライクリザードはこれほどのものだったとは、よもや頭上から奇襲を仕掛けてくるとは想定外」
オリスが目を真ん丸に用心深くそれへと近づく。
「……お前らの言う序盤の雑魚敵ってのは、こんな風に木の上からサプライズ仕掛けてくる茶目っ気があるのか?」
俺もご一緒だ、小銃に着剣しながら「びくびく」にだが。
刺突の構えのまま近づくと、タイニーエルフの小ささは矢に手を伸ばし。
「ゲームとしてのこれは地を駆け巡るだけだったけれども、今我々の目の前にいるものは違う。頭上から明らかにこっちを狙っていた、それも計画的に」
「こうしてヘッドショット二度食らってくたばるところまで計画的か?」
「その点は単純にこちらの力を見誤っただけだと思われる。つまりこれの死に様は『楽勝かと思ったら返り討ちにあった件』という感じになる」
「なめてかかったら痛い目あったってか? なるほど、確かに食べるのにお手頃なサイズがこっちにいっぱいいるな」
「それか貴方が食べ応え抜群に見えたからでは?」
「なんにせよ食事の趣味が悪いのはよく分かった。大したことないっていうのもな」
もったいない精神で回収しようとしてたので、その前に銃剣をねじ込んだ。
念には念をだ、確実な死を確かめないと気が済まない。
這いつくばる首元を突くと、鱗の張りとぐじゅっとした手触りが――おえー。
「ゲームの中ではいくらでも相手をしましたが、実際に相手取ると厄介なものですね。深く入れたつもりが全く致命傷にならないとは……」
引き抜こうとすると、奇襲を未然に防いでくれたホオズキが寄ってきた。
刀にへばりつく青くて粘っこい色を払ってるようだ。
もしや銃剣を抜くと、同じように真っ青どろどろに汚れてた。
こいつの血か? 妙にぬめつくし、嗅げば草みたいなきつい青臭さがある。
「さっきはどうも。そのゲームの方じゃない実物に見事な一撃だったぞ」
「どういたしまして。やはり本物は私たちの知る作中ものと勝手が違いますね、それにこんな風に奇襲も仕掛けるなんて……そうくるとは思ってもおりませんでした、不覚です」
「つまりひどいオフ会だな、騙されたわけだ」
「なるほどオフ会、言い得て妙な表現」
「いや、オフ会って……」
「それよりホオズキ。こっちで半年間過ごしてたらしいのにこういうのはお目にかからなかったのか?」
「はい、初めてです。ワールウィンディアみたいな魔物はともかく、魔獣となると都市周辺では徹底して狩られているようですからね。少し遠出をすれば見かけることもあったそうですけど、冒険者が増えてからすっかりいなくなったとか……」
「俺たちみたいな都市暮らし系冒険者とは適度な隔たりがあったんだな。で、未開の地にやってきて初めてお会いできたのか。感想は?」
「……私たちの知っているものとはわけが違いますね。一撃を入れたというのに、平然と構えていましたから」
「最後はあっけなかったけどな。返り討ちにあってくたばるなら『序盤の雑魚敵』っていう表現もあながち間違ってなさそうだ」
二度と動かないそれにとどめをはっきりさせると、ニクも興味を示しにきた。
死体と青い血が気になるらしい、銃剣を嗅がせるといや~な顔のしかめ方で。
「これがストライクリザードなんだ。でも変なにおい、腐った果物みたい」
ダウナー声で不愉快そうにして引いてしまった。
俺もつられてみれば、魔獣の死体からは段々と甘酸っぱい悪臭が漂ってる。
「うーわマジだ……なんだこれ……なんか腐ってないかこいつ?」
「ん……腐ってるっていうか、溶けてる? 傷から流れてるこのどろどろ、血じゃない気がする」
「溶けてるってなんだ!? おい、こいつって触ったらたたられる系のやつじゃないよな!? やっぱ呪われた森だったか!?」
「これは呪いの類に非ず。エーテルブルーインを想像すれば理解は容易い、これは死ぬと傷口周りから肉や骨が溶けだして空っぽになる」
森の祟りなんて「冗談じゃねえ」と退くと、オリスがずぼっと矢を抜いた。
そして矢じりを見せられた、血にしては濃すぎる粘度がこびりついてる。
まさに解けた骨身を表してるし、それが死体からとめどなく流れてるわけで。
「あのクマの出来損ないみたいな頭おかしい生態系してるっていうならよく分かる。くたばったら勝手に溶けて悪臭もくれてやるサービスつきか、最高だ」
「……じゃあ、死体から出てきてるのって解けた肉や内臓?」
「俺の銃剣を汚したのもそうだろうな。畜生、やっぱここ呪われてるぞ」
「だから呪いではない。でもこの死に様はちゃんとゲームをなぞったもの、最後は尻尾を残して空っぽになる」
「なんで尻尾だけ残して溶けるんだよ、誰だそんなひでえ生き様考えたやつ」
気づけば2m以下の図太さはさながらエーテルブルーインのように萎んでた。
青いどろどろが抜けてぺしゃんこの抜け殻の出来上がりだ、しかもなぜか分厚い尻尾だけが元気に残ってる。
元になったゲームの方でもこうなのか、とヒロインどもを見るも。
「MGOでは撃破と同時に一瞬で萎んだけれども、これは些か生々しすぎる。私の知っているストライクリザードは、もう少し可愛げと親しさのこもったカジュアルな感じだった」
「変なところがリアルになっちゃってるよねー……案外あっけなくやられちゃうのは相変わらずだけどさあ」
「あんまり硬くないのも相変わらずだゾ。死に方がすごく気持ち悪いことになってるガ、ワタシたちの知る雑魚のままかもしれン」
「切り付けた時の手ごたえはエーテルブルーインより柔らかかったですからね。とはいえ実際に溶けてしまう様子は不気味極まりないです、私の刀が汚されてしまいました……」
「本物のストライクリザード、怖いです……れ、レフレクの魔法でやっつけられるんでしょうかー……?」
「あたしも怖いです……! あ、あのっ、この森って、こんなのがいっぱいいるんでしょうか……?」
ゲームに非ずな現物をそこまで見たロリどもは総じて微妙な顔だ。
ユルズの森の「ただの美味しい森」っていう印象はもうないんだろう。
何せトゥールがそうだった、猫の耳も立てて目をきりっと見張らせていて。
「メカ、残念だけどいっぱいだね。とっくの昔に囲まれてたみたい、そこらじゅうの木の上でわたしたちを見てるよ」
「や、やっぱり……!? あの、えっと、さっきから、上からあたしたちを見てくる感じが、また増えた感じがして……」
「じゃあ確定だねー? あいつら木登り上手だなー、環境音に紛れてこっそり近づいてきたんだろうね」
と、あたふたするメカに少し悔しそうにいうわけだ。
あの恐竜未満の化け物どもが、さっきみたいに木の上で俺たちを見張ってると。
ここはあいつらの縄張りで、俺たちは迷い込んだ飯ってことか。
「いっぱいか。どう動く?」
そして俺たちのやる気も得物も頭上に向かった。
敵の存在が分かっただけでありがたい話だ、途端に全員が浅く身構えた。
「このままだと挟み撃ちだけど、東の方はそんなに集まってないみたい。後ろには引かせない感じで配置についてるよ」
「退路も塞ぐなんてお利口だな。もし突破するならどれくらいだ?」
「たぶん、四体かな。ごめんねお兄さん、耳がもう少し慣れたらもっとはっきりすると思うんだけど……」
トゥールの猫らしい聴覚を頼るに、包囲されて痛い目を見ない方向は東側か。
相手の動きに流されないようにじっとしたまま、俺は周りを目でなぞった。
幸いこっちの大部分は近接戦闘系のスキル持ちだ、固まって突撃するには申し分ないほど揃ってる。
オリスとレフレクも小さくてすばしっこいし、矢と魔法も扱える――決まりだ。
「十分だ。敵に向かって引くぞ、蹴散らした先で反転して片づける」
右手の方を見た、まだ敵の姿はない。
小銃の残弾よし、リグの手榴弾も取りやすく整えた。
まだ動くなと目を配らせた。相手に悟られるな、今は囲まれた獲物のままでいろ。
「ん……それだとたぶん、向かう先で固まってくると思う。ぼくが足止めするね」
「我々の機動力を今生かすべき。トゥール、メーア、ホオズキ、メカ、お兄ちゃんと一緒に右へ走って。私が横から射貫く」
「あははっ、やる気だねー? さすがはお兄さんだー、それじゃわたしも頑張ろっかな? 後で撫でてね?」
「ほんとにお兄ちゃんって呼んでるゾ、コイツ……大丈夫カ……?」
「オリスさんが少々奇異な方なのはもう目を瞑りましょう……メーア、先にいって一番槍をお願いしますね。レフレクは誰かの頭上について援護してください」
「はいっ! レフレクはおにーさんのおそばにつきますっ! ごー!」
「だんなさま、お、お背中はあたしがお守りします! い、いつでもいけますっ!」
「こっちに来てから家族関係が複雑になった気分だ。それじゃ――」
一同の確認が少しやかましく取れた、気取られる前にゴーだ。
小銃を手に横に駆けた、槍持ちのメーアとニクがすぐ追い越して先行した。
頭上からの嫌な空気を急いで抜けると、がさがさ慌てるような枝の合唱が始まり。
『ヴヴ……ヴシュウウウウウウウウウウウウウッ!』『ヴウウウウウゥゥ……!』『ヴシュウウウウウッ!』『ヴヴヴ……!』
トゥールの耳は正しかった、幾重にもにも重なった震え声が追ってくる。
うまく奇襲をずらせたか。ふよふよついてくるレフレクを確かめて、犬と魚の黒と青な尻尾を追いかけると。
「ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
先の木々から勢いよくトカゲモドキ、恐竜未満の化け物どもが落ちてくる。
ずたっと柔らかく地を踏むと、土色の身体を半起こしに荒っぽく突っ込んできた。
「邪魔」
でもこっちは機関拳銃を持ったわん娘がいるんだぞ、やっちまえ。
*papapapapapapapam!*
第二の奇襲にニクの手が九ミリ弾をばら撒いた。
横薙ぎの掃射が攻撃を叩き伏せた。ダメージはともかく『ヴッ!?』と怯む。
「今ですっ! 【フォトンボルト】!」
頭上から可愛らしい詠唱が繋がって降りかかる、レフレクの光魔法の発動だ。
知らない読みに白輝きする魔法陣が小さく浮かんだその一瞬、眩い光の弾が三つあふれた。
狙いは端の敵だ。握りこぶしほどの白い三発がどどどっと顔を打ち据えて、激しくのたうった。
「――私も新たなアーツを試す時。横から崩すから後はお願い」
横からオリスも滑り込みながら援護だ、魔法にがしゅっと重たい弦の音が続く。
立ち止る魔獣たちの横に二本同時の矢がきれいに当たった、アーツの挙動だ。
不意の魔法と矢に四足歩行の群れが意識をかき乱される、大きな隙ができた。
「もらったアアアアアアアアアアアアッ!」
この状況を誰よりもくみ取ってたのは間違いなくメーアだろう。
援護のタイミングに乗って、元気な魚人ボディがぴょんと槍を突き出しにいく。
「ヴッッ……シュウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
対して向こうは戸惑いつつだが、一匹がじたばたと迎え撃ちにいった。
そこからは穂先と鼻先の単純なぶつかり合いだ。
前腕が浮かびそうな激しい地の這い方が迫るも、直前にメーアは蹴って踏み込む。
軽く勢いづいた槍先が先に口を貫いたみたいだ――『ヴ』と一声で大人しくなった。
「いけっ! 突っ込めッ!」
俺も続いた――銃剣と一緒にな!
メーアが槍を抜いて下がるところに入れ替わると、そこに別の敵が挟まった。
「ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
寄り集まった四匹の塊だ、先頭のやつが襲い掛かってきた。
遅れて後もばたばたやかましく続いてきた。でも残念、こっちは屈強なロリどもがいるぞ。
「おーっと、お先に失礼お兄さん。みんないくよー」
真っ向から突っ込むストライクリザードに、トゥールが二刀流の姿で割り込む。
土色の図体の意識もそこに持ってかれた。
足が重く緩んで、突然の猫ッ娘を爪で叩き伏せようとするも。
「狙うなら背中だね……っ!」
あいつは滑らかな動きで逆に潜り込んで、あろうことかその背筋に乗った。
ぴょいと圧し掛かった重みに魔獣はさぞ嫌そうだが、振り落とされるよりも早く二振りの剣が刺さる。
そいつは『ヴオッ!?』と思い知ったような声で暴れた。トゥールが素早く離れれば、痙攣しながら動きが止まり。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARGHHHHHHHHHHH!」
また一匹仕留められた頃合いめがけて銃剣で突っ込んだ。
続けざまの攻撃に狼狽えるやつを発見、得物を斜め下に走って飛びつく。
トカゲの化け物は咄嗟に反撃を選んだらしい、きつく身構えてぐるっと旋回し。
――ぶぉんっ!
次にはそんな圧を感じた。
鱗でしっかり守られた極太の尻尾がこっちに飛び込んでくる。
「はっ、お前みたいな動きは良く知ってんだよっ!」
だけど焦るものでもない、腰ほどの高さを狙った振り払いにあえて向かった。
この試みはうまくいった。助走とひと跳ねの下で空気がぶん殴られる。
尻尾で叩くような知り合いがいて感謝だ――トゥールを真似して乗っかり、暴れる背筋に体重ごと銃剣を捻じる。
「ヴッ……ヴヴヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……!?」
硬い鱗をどうにか一突きにした、踏みつけた魔獣がぶるぶる震えて暴れ出す。
*BaaaaM!*
だったらトリガを引いて308口径を発射、びくっと大人しくなった。
その時、がん、がんと硬いもの同士の強烈な打ち合いが横に響く。
「ストライクリザードといえばっ! 序盤の資金稼ぎの相手だったのにっ! 中々っ! 楽にはいかないようですねっ!」
敵の一匹をもらい受けたホオズキが滅茶苦茶な爪の連打を刀で弾いてた。
ホルスターの拳銃に手が伸びるも、最後の一撃をがきんっと払いのけたようだ。
勢いを逆にされて爬虫類らしさが軽く仰け反る――持ち上がった敵の首にずばっと一閃だ、うーんいい仕事。
「メカ、足止めするから仕留めて」
「はっはい! えええええええええええええええええい……!!」
その近くで行くか逃げるか迷った一体も、間を縫ったオリスにぶち抜かれた。
腰を射貫かれてびくっと跳ねるが、そこをメカの大斧が気合込みでぶちのめす。
ちびメイドに気づいたばかりの頭がぱっくりザクロ割りだ、怖い。
「ヴシイイイイイイイイイッ!」
撤退は成功か、と思いきや横からもう一声だ。
木の上からあれが目の前に落ちた、すぐ自動拳銃を抜いてばばばっと連続射撃。
咄嗟の三連射にストライクリザードは怯んだようだ、そこへニクが早く駆けつけ。
「ご主人、こっちは任せて……!」
「どうも相棒、次行くぞ」
首をばっさり払ってからの、肩口への穂先がそいつを串刺しにした。
「ヴウウウッ!」と苦し気に暴れるものの、容赦なく喉を蹴って黙らせたようだ。
『ヴシュウウウウウウウウウウウウウッ!』『ヴシュッ……ウウウウウウウウウウウウウ……!』『ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……』『シュウウウウウウウ!』
お次は背後からの無数の鳴き声が追いかけてくる。青く汚れた小銃を抜いた。
撤退先の敵を平らげた次は追手どもの相手だ、照準器越しに次を探れば。
「す、ストライクリザードがいっぱい来てますっ!?」
レフレクがそう悲鳴を上げるのも仕方ない光景だった。
そこから赤褐色のトカゲモドキがうぞうぞ四つん這いで集ってるからだ。
森を這ったのか、高みから降りたのか、どうであれ今にも跳んできそうな怪獣的な姿が十も二十も集まってる。
『ヴシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!』
威嚇を込めた振動声はじりじり迫り出した、目つきは俺たちを食べるつもりだ。
「……この森は呪われているという言葉は正しかったのかもしれない。この数は異常、どうするべき?」
さっきまで余裕で矢をお見舞いしてたオリスもこれには参ったって感じだ。
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「だったらこうする。全員、ここから離れて木の裏に隠れろ」
それから破片用の外殻を被ったフレキシブル・グレネードをちらつかせた。
弾頭を二個繋げて威力二倍、危険も二倍な新しいお友達だ――ピンを抜いた。
「ん、分かった。いくよみんな」
「なるほど、確かに効果的な状況。でも判断が早すぎる、撤退!」
「ほんとに使うつもりだこのお兄さん……!? に、逃げろー!」
「ミンナ、木を盾にして伏せロ!? コイツまったくためらわないナ!?」
「ちょっいきなりそのようなものを当たり前のように――に、逃げますよレフレク!?」
「ぴゃあああああああああああっ!?」
「えっ、だ、だんなさまー!? み、みんな隠れてー!?」
お手元の時限信管の燃焼音からみんながわちゃわちゃ離れていった。
ロリどもの個性がそこらに散る中、迫るストライクリザードの群れに向かって。
「――フラグ投下!」
どうぞめしあがれだ、くそったれ!
ピンが抜けて絶交した友達を別れの言葉で見送った。
レバーを弾き飛ばしながら飛んでいくそれは、奇しくも「いただきます」と一斉攻撃に備える動きに送られ。
*BAAAAAAAAAAAAAAAM!*
急いでその場に伏せたのと、森に野太い爆音がつんざいたのは同じ頃合いだった。
二段積みの破片手榴弾の味はいかが? 小銃を持ち上げて姿を見せれば。
「……ワーオ、お口に合ったみたいだな」
答えはずたずただ。かなりの数がぐったりひれ伏してる。
手のひらが四つ必要なほどいた数も、破片と熱にやられて半数ほど物静かだ。
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「やっちまえ! オリス、レフレク、左側制圧しろ! 森の奥へ追い回せ!」
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もう一押しだ、こいつらには今日の昼飯を(あの世でも)諦めてもらおう。
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叩きつけられる爪を弾いてからの、二撃目もするりと避けた勢いで懐に潜った。
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重い一撃が骨も皮も地面ごと断った。横向きの身体が50%オフだ。メイドこわい!
あとは白兵戦担当の四人と愛犬が次々と浮足立った敵を片付けるだけだが。
「皆さんっ! 必要以上に追い込む必要はありません! 適度に倒したら――きゃあああああああっ!?」
残った敵に弾を浴びせて弾倉交換、と手が動いたその瞬間だった。
片耳にホオズキの高い悲鳴が伝わった。
すぐ気が向けば、追撃に回ったロリ四人の後方に異変がある。
『ヴシュウウウウウウウウウウウウウッ!』
「い゛っ……や、やめて……離れてッ!? あああああぁぁぁぁっ!?」
まだ一匹いた。きっと木の上に潜んでたか、ホオズキの背を押しつぶしてた。
悪い知らせもある、ストライクリザードは餌にありついたような口の開き方だ。
「おい! アドバイスだトカゲ野郎、鬼なんて食うと祟られるぞ!」
そんな死に方でこの森に嫌な箔が付くのはごめんだ、マチェーテを抜いた。
すると相手は「ヴッ……!」とこっちのアドバイスを受け取ったようだ。
鬼娘を踏みにじりながらも用心深く寄ってくる、じりじり詰めれば大ぶりに詰め返しにきて。
「ヴシュウウウウウウウウウウウウ……!」
間合まで僅か数歩、というところでそいつはくるりと地面を踊った。
次に感じたのはしなう尻尾の勢いだ。鱗をまとった太さが斜めにやってくる。
――上等だ、来やがれ!
だからこそだ、顔をガードしながら身構えた。
そんな覚悟の矢先。
「ぐ、おっ…………!?」
腹にどずんと重々しい音と衝撃が爆ぜて広がった。
気を抜けば後ろに弾き飛ばされそうな、びりりとした凶暴な力加減だ。
「イチ先輩!?」とホオズキの心配も混じるがそれだけだ、エルダーのアーマーが全てを奪ってしまった。
なんて防御力だこいつは、痛みも衝撃も全く来ないぞ。
「――かかったな?」
「ヴッ……!?」
自慢の一撃を防がれてさぞショックだろう、相手は思わず後ずさりした。
迷った挙句にもう一撃尻尾が持ち上がったが、迫ってそこを斬り上げる。
硬い手ごたえを貫き通すと、トカゲの象徴が半ばからずばっと跳ねた――エルには見せたくない光景だ。
『ヴッ、ヴシュッ、シュウウウウウウウウウウ……!?』
不名誉な外科手術をされた化け物は心も変わったみたいだ、青い血を散らしながら森へ逃げていく。
ここまで手負いにさせて逃がすのは残酷だ、ベルトからクナイを抜いて投擲。
【ピアシングスロウ】はまっすぐ逃げる背に刺さった。跳ねた土色の身体が四肢をばたばたさせて転げまわる。
「だ、大丈夫ですかイチ先輩!? い……今、尻尾に思い切り打たれませんでしたか!? お怪我はっ……!?」
残りを探るが、ホオズキがふらふら気にかけにくる程度には落ち着いたみたいだ。
ちょうどニクが最後の一匹を「はっ!」と突き倒す瞬間でもあった、もはやここには悪臭を放つ死骸の山しかない。
「そのまま返すけどそっちこそ大丈夫か? ふらふらしてんぞ」
「私のことは気になさらないでください、少々頭を打ってしまっただけですので……」
「それは負傷っていうやつだ、無理するな。こっちは嫌なもん見ちまった気分だ」
ふらふら不安定な鬼ッ娘を支えてやるとして、俺は得物を手にしつこく敵を探る。
森の脅威はゼロだ。その数と奇襲には驚いたけど、案外強くはなかった。
「ご主人、お腹平気? すごくいいのもらってたけど」
「見ての通りだ。すごいなこれ……かなりぶん殴られたのに全然痛くないぞ」
「これがエルダー革の実力、恐れ入った。ホオズキを助けてくれてありがとう」
「堂々と助けに行ってカッコよかったよー、へへへっ♡ ていうかストライクリザードの尻尾、防いじゃったねー……エーテルブルーインの力が籠ってるのかも?」
「やめろトゥール! もう少しで忘れかけてたんだぞ!!」
「動きが読めれば大したことない相手だったナ、だが奇襲をしてくるというのは厄介ダ……中身が溶け切ったら皮を拾うゾ、売れル」
「さすがは勇者様ですっ! レフレクもいっぱいやっつけました、ほめてください!」
「だんなさま、念のためお怪我がないか確かめた方がいいと思います……?」
安全が行き渡っていくにつれてチーム・ロリの気も抜け出したようだ。
俺たちは死骸の山を「どうするか」を前に周囲の安全を待つものの。
くう……。
急に弱弱しい空腹の音が聞こえた。誰かと思えばお腹に触れるメーアだ。
あいつは緊張感のないワイルドな顔のまま、わずかな考えを巡らせたようで。
「……お腹が減ったゾ、よしお弁当食べル!」
本能に屈するのが一番になったらしい。ご機嫌に安全な場所を探し出した。
そう言われてみれば腹が減った。ここで食うのは絶対にごめんだが。
「オリス、あいつ敵がいる森で堂々と昼飯食うつもりだぞ」
「メーアの行動は理にかなってる、一度南側に引き返して休息を挟むべき。その前に中身が抜けたストライクリザードを回収しておきたいのだけれども」
「ああうん、戦利品な。なんかどろどろ漏れてるけど、こいつ持ち帰るとか冗談だろ?」
「中身をきれいに落として傷のない部分を切り取ればいい。記憶が正しければ尻尾にも食物として価値があったはず、支障が出ない程度に持ち帰りたい」
「熊の抜け殻の次はトカゲの抜け殻か。次はどうせ木のお化けの抜け殻だな、やっぱ呪われてるだろここ……」
「うへー、けっこー転がってるねー……青いどろどろは地面に吸収されてるみたいだよ。これたぶん、マナじゃないかな?」
「すごい数ですね。皮は胴回りの部分だけ切り取りましょうか、できれば傷のないものを探さないと……」
「レフレク、メーアさんと一緒に休める場所を探してきますっ! お昼は妖精さんサイズのパンです!」
「あ、あたしも戦利品のお手伝いします……ぐ、ぐろてすく……」
「……尻尾のおにくっておいしいのかな?」
「ニク、こいつに食欲を示さないでくれ」
次の危険がどこからか迫る前に、俺たちは急いで戦利品を集めることにした。
グラフティングパペットとやらもこんな感じなんだろうか、この森には嫌な想像が働くばっかりだ。
◇
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
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