魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

敵だらけでも飯がうまければなんとかなる

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 あんなにいろいろあれば、今夜あたりまた来るかもと身構えるのが普通だろう。
 俺だってそうだった、まさか「この日はうまいカレーを食べて何事もなく終わりました」なんて済むはずもない。
 寝静まってる間にあの新種が来るんじゃないか、そんな不安で夜の見張りに加わることにした。

 それで結論から言おうか、そのまさかに落ち着いた。

 いつもより見張り多め監視長めで夜明けを待つうち、ワールウィンディア一匹たりとも来なかった。
 そんなことあるかとしぶとく居座って南も東も二度見したが、本当だった。
 要は肩透かしだが、仕掛けた罠が活躍する機会がなくてよかったと考えよう。

「…………流れ的にさっそく引っかかりにくると思ったのにこれかよ」

 そういう経緯のもと、俺はテーブルに置かれたトレイに手をつけた。
 白皿を温かく真っ白に覆う白米と、肉や野菜がごろごろ混じった黒いルーが料理を表現してた。
 色々な風味が溶けて回って、ぴりっとした辛さと舌触りのいい甘さが理想的なカレーを訴えてる。

「あんな物騒な準備始めるからよ、みんな枕元に武器置いて一晩中ひやひやしてたみてえだぜ。俺も夜襲喰らうんじゃないかって夜更かししてたんだけど、まあ平和なもんだな」

 食堂の様子は、向かい側のサングラスに偏執するやつの説明が当てはまってる。
 よく眠れませんでしたという顔が呆気にとられたまま朝食に落ち着いてた。

「被害状況はここの睡眠の質が削れた程度で済んだみたいだ。どうか来やがらないでくださいっていう誰かの祈りが通じたか?」
「操ってるやつってのが見事に新しいお友達壊滅させられて傷心だったって線もありえなくね?」
「その線でいくなら今後も見かけたら積極的にぶっ倒す方針になるぞ。倒した分だけ楽になる仕組みなら大歓迎だな」
「問題はああいうのにどう対応するかって点だな。現代火力が使える俺たちとか、人外パワー全開のヒロインのお嬢ちゃんたちはどうにかなるとして、日本人冒険者の皆さんはどうすんだって話だ」
「みんなに白き民以上に強くなってもらうのはどうだ?
「そりゃいい案だな、朝からまたカレー食いながらひでえアイデア浮かべやがってこの野郎」
「いや、だって飯取りに行ったら一晩寝かせたカレーがあったからつい……」

 結果として、こうして白き民の脅威より晩飯のカレーが勝ったってことだ。
 ここにはいつも通り「ご自由に」と料理が並ぶカウンターに列があったが。

『ノルベルト師匠、カレーは二日目がうまいんだぞ! まさか一晩寝かせたやつも提供してくれるとは最高だな! ここに来て良かった!』
『朝からカレーは理にかなってるんだぜノルベルト氏! カレーはスパイスを使うから薬膳料理みたいなもんだッ! つまりヘルシー!』
『おお、そうだったのか! であれば健やかになれるだろうな、俺様もまたいっぱいいただくとしようか!』
『お肉いっぱいのカレーもありますね、トッピングはベーコンとソーセージとチーズにしましょうか。こうもご飯が美味しいならセアリさんアサイラムで一生暮らしてもいいぐらいです』
『まーたカレー食べるんだね、キミたちぃ……ていうか団長さ、ここで過ごしてから体重増えた自信あるよ……』

 俺の良く知る日本人とヒロインがカレー目当ての集まりを作ってた。
 キリガヤとケイタとノルベルトの歳の近さが生み出すやかましさに、肉食系なセアリとそれを遠目にするフランだ。 
 厨房に立つムツミさんもこれには得意げだ。どんだけ作ったんだろうあの人。

「誰だ、晩飯にカレーどころか翌朝のカレーまで注文したやつ」
「妙にいっぱい作ってんなーって思ったら二連続カレーを要求するやつがいたみてえだな。しかもムツミさんも律儀に応えてやがるぞ、意外とノリいいなあの人」
「でもうまいぞこれ。そういえば朝からカレーなんて久々かもな」
「そういやけっこう前に作ったよな、あの時は北海道産の牛筋を使ったやつだ。で、どっちがうまい? 正直にいってみ?」
「お前には悪いけどこっちの世界で食った奴がうまい」
「だよなあ……俺もう元の世界戻れねえわ、そういう舌になっちまったもの。昨日の晩飯も人工じゃないトンカツによりどりみどりのカレーだぜ?」
「料理ギルド所属のやつらも本物の食材で腕ふるえるんだからやりがいがあるだろうな。まったくひどい出で立ちだな俺たち」
「割と前の居場所に未練がない奴が多いのも飯のせいなのかねえ……なんか俺もカレー食いたくなってきたわ、いってくる」
「けっきょく食うのかよ。だったらついでになんかあの……ヨーグルト・ドリンクみたいなやつ持ってきてくれ」
「ラッシーな。そういうのは俺じゃなくメカちゃんに頼めよ、メイドに仕事をくれてやんのも主人の役目だぜ」

 タカアキはホットドッグもどきを平らげるとカレーを求めに行ってしまった。

「……ご主人、またカレー食べてる。気に入ったの?」

 代わる代わるにやってきたのは黒い尻尾をぱたぱたさせたニクだ。
 肉だけのサンドイッチが本人証明をしてる。

「みんな食べてるからつい……良かったらお前もどう? うまいぞこれ」
「おいしそうだけど、朝から匂いが強いものは鼻が鈍るからこれでいい」
「だからって厚切りベーコン一枚丸ごと挟むのもどうかと思うぞ」
「ふふん、ぼくのかんがえたオリジナルサンド」

 わん娘は隣に座って一生懸命もぐもぐし始めた。幸せそうだ。
 白き民がこないと分かればみんなも呑気なもんだ。
 一度手を止めて飲み物でも取りに行こうとするも。

「だんなさまー……? お飲み物をお持ちしました……?」

 きっと聞き耳を立ててたんだろう、メカがお盆をちょこちょこ運んでくる。
 二人分のラッシーだ、「どうも」と一声かけて頂いた。

「わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとうメカ」
「ん……ありがとう。これ甘酸っぱくて好き」
「い、いえ、食堂で給仕として働くのも、あたしの役目ですので……」

 どうもこの仕事意識の高いメイドさんは、料理ギルドの連中と一緒に俺たちの面倒を見てくれてるらしい。
 後で撫でてやるとして、ちょうどその背後で別のメイドも這い寄ってた。
 冷蔵庫からエナジードリンクを持ってくるによによな緑髪だ。

「そりゃ助かるけど、何もみんなに気を使わなくてもいいんだぞ? そもそも今回は冒険者やってるってことも忘れるなよ」
「そ、そういうわけにはいきません。クロナ先輩に、ここで冒険者として働きつつメイドとしての腕も磨けって言われてますから……」
「こんなところでメイド修行もやってこいってかクロナめ。えらいぞメカ、よしよし」
「あ、あたしがんばります……うぇへへへへへ……♡」
「なんていうかその、お前の向上心を見てるとそこの不真面目なやつが嘘みたいに感じるよ……」

 メカは言いつけを守って冒険者兼メイドをきっちりこなしてるらしい。もちもちしてやった。
 それに比べて背後のダメなメイド、別名ロアベアはずかずか隣に押し掛けて。

「そこの……? って、ロアベアせんぱい……!?」
「朝から景気づけっす、お仕事前にはカフェインっすよメカちゃん」

 駄目な一例として、冷えたエナドリを開けてぐびぐび飲み始めた。

「お前がメカと真逆なのは良く分かった。いきなり隣でエナドリ決めるな、どんな朝の挨拶だ」
「今日も頑張るっていう意思の表明っすねえ」
「だからってわざわざ俺の隣でする?」

 飲み干した末に「あひひひっ」とカフェインハイなメイドがいる。
 メカにこうならないように目で伝えておいた。

「うちが元気な証拠として受け取って欲しいっす。ていうかまたカレー食べてるんすか」
「みんな食べてるからつい……」
「日本人の皆様に受けがいいみたいっすね。キリガヤ様とかタケナカ様もとても気に入っておられるっすよ」
「人工食材じゃない本物のカレー、しかも料理ギルドのプロが作ってるんだぞ? そりゃ喜ぶだろ」
「人工食材を使ったカレーってどんな感じなんすかねえ……イチ様ぁ、おかわりいるっすか?」
「いや、いらね。それよりなんかノルベルトがここの男子どもと仲良くやってるように見えるけど気のせいか?」
「ノル様ああ見えて十七歳なのをお忘れっすか。男子学生ズと気が合うのもそういう親和性によるものっすよ」
「そういえばそうだったか。すっかり忘れてた」
「歳が近い相手がおられてきっと嬉しいんじゃないんすかねえ……うちもひと働きしてくるっす~♡」

 ロアベアは人に空き缶をけしかけてからメイドらしく行ってしまった。
 目立つオーガに「十七歳……!?」と戸惑ってるちびメイドとひどい差だ。

「なあ、あいつって屋敷でもああなのか?」
「は、はい……でもロアベア先輩、あたしよりすごくお仕事ができますので……」
「屋敷のメイドとして長続きしてるってことはそうなんだろうな。そういえばメカ、今日はいろいろあるけどお前らはどうするんだ?」

 せっかくだ、俺は空き缶を分解しながら尋ねた。
 今日は拠点の説明があったり、また周辺を探索するパーティがいたり、革職人がきたりと少し忙しい日だ。
 そうなるとオリス率いるチビどもはどうするんだろうか?

「えっと、あたしたちですか? オリスさんが革職人の方から防具を受け取ったら、さっそく外の調査に出かけたいって言ってたんですけど……」
「お前らは外出組か。白き民の新種が出たっていうのに熱心なことで」
「だんなさま、風車の町を覚えてますか? あそこから北西に上ったところに、大きな森があるから行ってみたいそうなんです」

 メカが言うには北側の探索に加わりたいそうだ。
 ゴライアスにキャヴァリエとお友達が増えたっていうのに、よくそんな場所まで遠出したい気分になれるな。

「……もちろんそれにはちゃんとした事情もある。昔の地図を頼るなら、そこは資源に恵まれた豊かな森というお話」

 どうして行くんだ、までが喉から出かけるとロリ声が混じった。
 誰だと見下ろせば身の丈一メートル以下の白髪エルフだ。
 トレイに乗った豆たっぷりのカレーと大きなナンに存在感負けしてる。

「なんだこのカレーエルフは、どっからきた」
「オリスさんです、だんなさま!?」
「私はカレーエルフではない、タイニーエルフ」
「お前も朝からカレーか。で、こうして話に混じるってことはその豊かな森とやらに行く理由も教えてくれるよな?」

 カレーエ……オリスは椅子の高さに難儀しながら隣にちょこっと座った。

「眼鏡エルフに取り寄せてもらった資料を読み解くに、ここから北西ほどに森林地帯が広がっているとのこと。かつてはクラングル周辺では目にかかれない素材があるとして有望視されていたものの、開拓が取りやめになって手つかずらしい」

 そのまま古い地図の写しも取り出して語ってくれた。
 それほど精密じゃない、もう少しで骨董品に格上げされそうな一枚だ。
 あの風車の町を離れたあたりで森林が広がってる――『魔獣注意』ともあるが。

「お前らが行く先についてだけど、豊かすぎてヤバイのもいるって書いてないか?」
「それくらいのリスクは承知ずみ。そして森は私のようなエルフの活躍の場。であれば適切な場所だと思われる、白き民がいようと森なら戦いようはある」
「俺としてはそうまでしていきたい理由も知りたいところだな」
「この地域ではクラングル周辺で見受けられない素材がたくさんある。そして近頃、そういったものに対して需要が高まってる。であれば――」
「なるほどつまり金が欲しいんだな」
「それもある」
「じゃあ他にもあるのかよ」
「ここには魔獣もいるとされる。古い情報を信じるなら、私たちヒロインの知る「たいしたことない相手」がいて腕試しにはちょうどいいと思ったから」

 こんな危険な場所までなんでわざわざ? という疑問にオリスは少し得意げだ。
 そういうことか、の敵が出てくるってことらしい。
 どんなやつかは存じないが、こいつらでも十分対処できる相手なのかもしれない。

「ああそういうこと。お前らのゲーム知識が生かせるお友達がいるのか」
「そういうことになる。つまりリスクの少ない稼ぎ時が到来」
「気合入ってるけど一言いいか? ここは開拓しようと意気込んでたやつらがサジぶん投げて何十年も経ってるような場所だ。その魔獣とやらがいる森に白き民とかいたらどうするんだ? 今の状況的に、ゲームで培った経験云々が簡単に通るような場所には見えないぞ」
「万一に遭遇しても都合がいい。今回の目的の大きなところは、私たちの力がどれだけ通用するかどうかの腕試し」
「おいメカ、お前にも聞くけどほんとにいくつもりか?」
「は、はいっ……! あたしも、新しい白き民に備えて腕を慣らしておきたいです!」

 なんてこったメカもやる気だ。なんなんだこの好戦的なロリども。
 ふんす、と少しドヤ顔なオリスを見てると、横から緑髪な猫耳も生えてきて。

「ついでに新しい装備とか試したいっていうのもあるんだよね~? エルダーの革防具に、いっぱい手に入ったアーツ……これだけ戦いの準備ができたら、ちょっと背伸びしたくなるじゃん?」
「うム、新しい水魔法も覚えたからナ。東の市街地でだいぶ白き民には慣れたガ、もっと経験を積みたいんダ」
「白き民の新種は騎兵といいといい、森のような環境ではその特性を生かせないと判断しました。もちろん、無理をしない範疇で探索して速やかに帰還するつもりですので……」
「レフレクたち、久々の冒険に胸が高鳴ってますっ! おにーさんもついてきますかー?」

 意気込むカレーエ……タイニーエルフをきっかけに、トゥールにメーアにホオズキにレフレクと猫魚鬼妖精が揃った。
 人の周りに腰をかけて「一緒にどう?」と目が誘ってる。どうしたもんか。

「ちゃんとあれこれ考えて今後を見据えてるのはえらいと思うけど、その森とやらがお前らのエンディング先にならないか不安だ」
「問題はない、我々は正面切っての戦いは不得意だけれど、機動性を生かした不正規戦闘はお手の物」
「自信たっぷりだな、でもそこでお前らがくたばったら翌日から訳ありの森になるんだぞ? そういう心配だ」
「心配ならお兄さんも一緒にどう? 来てくれると頼もしいんだけどな~?」
「それはいい案だゾ。暇なら少し付き合わないカ? どうせ本格的な調査じゃないからナ」
「ダメですよ皆さん。イチ先輩は昨日新種と戦ったばかりなんですし、それに他にもやることがあるでしょうし……まあ、一緒に来てくれると安心できるのは確かですけど」
「おにーさんが来てくれたら怖いものなしですっ! 行きませんかー?」
「だ、だんなさまが来てくれたら……確かに頼もしいですけど……?」

 次第にロリ六人分の視線が「ついてこい」と強く訴えてきた。

「……っていってるけど、どうするのご主人」
「どうしよう」

 サンドイッチを美味しく平らげたジト顔がきょとんと疑問形だ、撫でてやった。

「なんかカレー取りに行ってたらロリハーレムできてんだけど何事だよ。なんかあったん?」

 するとタカアキが折よく戻ってくる。宣言通りカレーを持ち帰ったようだ。

「ロリハーレム言うな。北西にあるでっかい森をちょっとみてくるから一緒にどうだってさ」
「森っていうと、あの地図に描いてあるやつか? 風車の町の北にある謎の森林」
「そこまで分かるなら『魔獣注意』の説明も目についてる?」
「もしかしたら『白き民注意』が書き足されるかもしれねーぞ。まあ行くかどうかはお前次第だけどよ、まずはヌイちゃんの報告を聞いてから判断するのもありじゃねえの?」
「それもそうか、早朝からドローンで偵察してくれたらしいなあいつ」
「夜明けと同時にフル稼働したそうだぜ。そういやヌイちゃんどした? 食堂のどこにもいねえけど」

 「二日目はうめえな」とカレーを食べる姿を見て思い出した、そういえばヌイスにドローンの偵察を任せたんだった。
 あいつの姿を探れば噂をすればなんとやら、食堂の扉がばたっと開いた。

「…………朝からビュッフェスタイルでご飯が提供されるとか、やっぱりアサイラムはおかしいよ。しかもなんで君たち、またカレー食べてるんだい?」

 ブロンド髪の白衣姿がかなり眠たそうにここの賑やかさに面食らってる。
 お勤めご苦労な様子だ、戸惑いを伝えにふらふらやってきた。

「おはようヌイス、これがここの朝食風景だ」
「君たちがどうしてこうも元気なのか一目でわかったよ。こうして良く支えられてるみたいだね、うん」
「ん、おはようヌイスさま。おにく食べる?」
「別に朝飯にカレーってしきたりはねえから安心しろよヌイちゃん、今日だけだ。その顔色からしていろいろ探ってくれたってことでいいか?」
「早起きして飛ばせる範囲限界まで探ってたよ。それに伴って今まで君たちが使ってた地図の情報を更新したから、今後の冒険に役立ててくれたまえ」
「無理させたみたいで悪いな。墓から蘇ったゾンビみたいになってんぞ」
「俺には日光で弱ったヴァンパイアか何かに見えるぜ」
「両方の悪いところどりしたような状態さ。とりあえず周辺の敵の有無が分かったよ、騒ぐほどの情報じゃないけどね」

 「なんだいこの子たち」とちびどもを気にしたヌイスから紙が手渡された。
 あれこれ手を加えられた新しい地図だ。
 だいぶ正確になった周辺に、今までの調査結果とドローンの偵察が重なって複雑な模様が浮かんでる。

「……敵がいるってはっきりしたおかげでこういう単語が浮かんできたぞ、まさに『知らぬが仏』だ」
「近辺だけでこの有様かー、やっぱこうなっちまうわな……」
「おお、なんという……この不吉なマークはまさしくコロッサスとゴライアスを表現しているよう」

 タカアキとオリスで覗けば、そこにはやはり悪い知らせだ。
 こまごまと書き足された情報には白き民と思しき人型マークが添えてある。
 ヤグチたちが今から向かおうとしてる場所なんてあの「のっぽ」がいるようだ。

「何件か新しい場所も発見したけど、ここに付け足した白き民マークからお察しの通りもいたものでね。特に南側は必ずと言っていいほどに見受けられるみたいだ、先日みたいに数が少ないのが良い知らせだろうね」

 地図はそんな淡々とした説明がよくあてはまってた。
 巨人かのっぽか、そんなやつがソルジャーを伴ってあちこちに居座ってる。
 中には騎兵の群れが待ち構える最悪の場所もある――事前に知っておく分にはありがたい話か。

「南の方に集中してるみたいだな。灰色のやつはみなかったか?」
「残念だけど見付からなかったよ。なんなら、撮影した様子と一緒に一つ一つ納得のゆくように説明しようか?」
「希望者がいたら教えてやってくれ、朝から胃もたれしそうなニュースをどうも」
「昨日のは一度きりのとっておきじゃなかったってわけだね、つまり末永いお付き合いになるってことさ。他にも気になる場所があったから記載しておいたよ、役立ててくれると嬉しいな」
「危険な場所が分かっただけデカいのは間違いないさ。朝飯を楽しんでくれ」
「新しい地図はアキ君に渡しておいたから後で受け取ってね。さて、私も眠気覚ましにカレーをいただこうかな」

 よく働いてくれたヌイスもカレーを取りに行った。
 代わりに残された地図には敵の居場所や【魔獣生息地】と知りたい情報がある。

「ワーオ、どこみても危険地帯だ。これ見てみんなのやる気下がらないか心配」
「なあ、これってもしかしてだけどよ、昨日の出来事をきっかけに新種がスポーンしてんじゃねーの? 絶対そうだよな?」
「俺もそう思ってた。このノリだと拠点に押し掛ける時も連れてきそうだぞ」」
「ふむ、東の市街地跡にはコロッサスがいたけれども、ゴライアスやキャヴァリーも現れる可能性も十分にあり得る。今後は用心すべき」

 俺たちは朝飯ついでにじっくりと地図を眺めることにした。
 何度見ても敵だらけだ。だけど幸い、北西の森は白いやつらと無縁らしい。

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