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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
はじめまして、ヒロインども
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騒がしいおやつのあと、アサイラムの有様をヌイスと見て回った。
もちろん『G.U.E.S.T』のハウジング機能を交えてだ。
発電施設からエグゾ置き場と化した二階建て、浄化の魔法と【P-DIY・ライフシステム】の合わせ技に宿舎とここの機能性を伝えた。
「と、まあこんな感じでゲームのシステムに則ったことがいろいろできるんだ。図面に登録した建物もこの通り」
がらん。
広場手前に戻ってきたところで、お気に入りの螺旋階段を地におっ立てた。
昼間の遭遇戦の疲れを癒してた集いが「またか」とそろそろ慣れたように見てる。
「わあ、なんて立派な聖ヨゼフの階段…………じゃないよ君。建物の構築どころかあの大掛かりな浄水装置を一瞬で作ったり、無線送電システムを自由にいじれたりと、個人が軽々しく行使できていい力じゃないからね? 少し見ぬうちにとうとう創造主になったのかい?」
そして独りでに立つ階段を前に、眼鏡越しに面倒なやつを見る目を強く感じた。
そこでクラフトシステムを立ち上げ。
「それからPDAの機能で万能火薬も作れるぞ。砂糖とか糖分強めのやつに木材か布を組み合わせると指先一つで出てくる、こんな風に」
【万能火薬】を一つ作った。白くて厚い紙袋がぼとっと落ちてくる。
テーブルに唐突な形で現れたそれに、金髪美人の知的さは中を覗いて「はぁ」とため息だ。
「あのね君。制限はあれど土地を思うがままにいじれるとか、万能火薬を作れるとか、それ下手したら文明をぶち壊しにできるポテンシャルを秘めてるからね? 都市部から離れた未開の地ど真ん中とはいえ、こうも隠し立てもなく行使していい力なのかともう少し慎重になるべきだと思うよ」
「大丈夫だ、フランメリアのためにお勤め中のアキに見張ってもらってるからな。なんか俺やべえって思ったらクソ正直に申告するようにしてる」
なんならたった今不発弾でも見つけてしまったような顔をされた。
ドワーフ族の文化を爆上げさせたやつがそう気にかけるほどに過ぎた力だそうだ。
でもご心配なく。そばでお行儀よくおやつタイムの緑髪エルフの男を指した。
「おやヌイス殿、久しいものですな。いやはや、こんなところでお会いするとは……ご覧の通りアサイラムの調査はもちろん、冒険者の皆様の視察に来ておりますぞ」
第二の眼鏡顔は待ってましたとばかりにご機嫌だ。パンケーキと共に。
「やあ、アキ君。君が相変わらず甘党で安心したよ、このとんでもない力を持った彼のお目付け役になってくれたったという解釈でいいのかな? なんだかパンケーキをじっくり味わってるようだけど」
「料理ギルドの皆さまの腕前を事細かに調べるというのも、世のためになりましょう? 今のところはたちどころにこの世を消し飛ばすような問題は起こしておりませんので、心配は無用といったところですかな?」
「おやつを片手間にそう説明されるのは些か不安だけれども、少なくとも目を見張らせてるらしいね」
「ええ、この頃とても栄えるクラングルといい、フランメリアの世でも大砲を抱えた鳥のごとく駆けまわるイチ殿といい、見過ごせないものばかりですからなあ? 全ては国の利益のためですぞ。いやしかし洗練されたふわふわなパンケーキもいただけるのですから役得といいますか」
「こうして変な階段を作って得意げにしてるところまでしっかり見てくれてると思うことにするよ。今後も面倒な彼に付き合ってあげてくれたまえ」
「はっはっは、ここにいれば退屈もしませんからな? お安いご用ですぞ――しかしまたツチグモをお目にかかれるとは、皆様とダムへ向かった頃を思い出しますなあ」
「正直これほどの代物をこっちでどう保つか悩んだものだけど、ニシズミ社が整備マニュアルやら事細かにデータをくれてね。どうにか里の人達で六割がた整備はできる具合さ」
「ここまで手土産をいただいたということは、かの会社はよほどあなた方に利益をもたらされていたに違いありませんな。よければフレンド登録をお願いできますかな? それと東の鉱山都市の現状についてもお話を聞かせて頂きたいものですが」
「そう言うと思ったよ。ドワーフたちがどうせ君に会うだろうとか言う理由で、向こうの財政や今後の発展計画、開発した新たな金属やらとデータをまとめておいんだ。けっこう分厚い紙媒体にこまごま書いてあるけどいいかい?」
「流石はヌイス殿ですなあ、貴女のような方がいれば彼らのコミュニティもさぞ栄えたことでしょう。さてさて、是非とも拝見させてください」
「いいや、すごいのは里のみんなだよ。ああも成り立つのもひとえに彼らの優秀さあってこそだからね。書類はスパタさんに渡してあるから受け取りに行ってくれたまえ」
火薬袋を分解して資源に変えてると、二人は挨拶からあれこれ話を広げてた。
背景には停まりっぱなしのツチグモだ、そういえばこいつで旅をしたんだよな。
「でだ、ヌイちゃんよ。その里? 鉱山都市? とやらに帰った皆さんも、やっぱりみんな例外なくステータス画面開けちゃってた系のオチ?」
席に落ち着くタカアキが帽子を脱いだ。
赤黒い毛並みを見せて、ウェイストランド帰りがゲームシステムを使える事実について気にかけてる。
応えはヌイスの顔だ、そうだとばかりに悩ましい。
「結論から言うとだね、帰還者、移住者、そしてこの私もみんなステータス機能が与えられていたのさ。ある日開けると発覚してすぐに全員の状態を調べ回ったけど、誰一人として例外なく使えることが判明したんだ。つまりタカアキ君、まったくもって君の言う通りだよ」
それが淡々とあいつらしい言い方になれば「やっぱりか」だ。
「タカアキ、もう疑いようのない事実だこれ。こっちに来たやつみんな特典付きってわけだ」
「こっちに帰るなり移住するなり、ウェストランドからお越しになった方は例外なくお土産渡されてたってことかよ」
「おそらく誰一人として例外はないんでしょうなあ……ということは、どこぞの一国の女王様もあやかっていることはもはや免れませんな。良かったですねイチ殿」
「どこに良いところを見出したんだお前。あの人とは絶対連絡先交換しないつもりだぞ」
「はっはっは、断ったところでやすやすと諦めるようなお方ではないということをどうかお忘れずに。私は折れて受け入れるに一票を投じますぞ」
「そろそろ子連れで密入国果たさないように怯えながら祈った方がいいか? 最後に見た顔が絶対また会いにくる感じだったぞあの紅茶」
「なあ、お前に絡んでくる女王様ってワードってさ、もしかしてプレイ的な意味じゃなくガチ目の権力者の方示してる?」
「タカアキ君、今のうちに言っておくと君の不安は的中だ。彼はウェイストランドを旅する最中、他国に旅行感覚で密入国するような一国の女王様にひ・ど・く気に入られてるよ」
「ああ、ひ・ど・くな」
「つまり君の幼馴染は歩く国際問題だね」
「え、マジ? とんでもねえ爆弾どんだけ抱えてんのお前、大爆発起こして世界滅ぼすおつもり?」
「爆発するときは人気のない場所でしたほうがいいか?」
「はっはっは、魔女の深き所縁で結ばれている同盟国なのが唯一の救いでしょうな。他国には確実に理解できぬ、我々にしか通じない調子でお邪魔するような――まあ要するに身内ノリが通用する程度には仲の良い国ですので、イチ殿の身が肉食獣の如きお方の犠牲になる程度で済むかと」
「うーわお兄さんの知らないところでとんだ地雷育んでやがったぞこいつ、処刑されたりしねえよな?」
「その時は全力で大脱走するから迎えに来てくれ」
段々と考えが嫌な女王様に働いたところで、ヌイスが「あのね君たち」と挟んできた。
アキも食器を下げて書類を取りに行ったようだ。その頃合いで説明が続く。
「まずステータスを開ける件については、帰ってすぐに気づいたことじゃないんだけどね。少し経って移住者達がこの世界の暮らしに慣れてきたころ、数名がふとしたきっかけで突然と開けたのがきkっかえさ」
「うちのわん娘もそんな感じだ。リスティアナに教えてもらって初めて気づいてた」
「こっちも同じようなものだったよ。私や里の人達がどう気づいたか知りたいかい?」
「知能5でもわかるように聞かせてくれ」
「ケースは二つさ。ニク君と同じように、プレイヤーやヒロインの誰かに教えてもらってようやく気付いたか。それかたまたま、意識して空中をなぞったら開いたかだよ。それに気づいて軽い騒ぎになって以来、ウェイストランドから渡って来た人たちにステータスの使い方が急速に広まってね」
「みんな使えるって気づけたらそりゃ大騒ぎになるだろうな。ちなみにお前はどっちだ?」
「私はどちらかといえば後者に当てはまるんだ。ステータス画面を意識して「私にもできるかな」と年甲斐もなくなぞってみたら、まさかの君たちの仲間入りさ」
「ワオ、自力で覚えた方か。MGOにはないスキルもちゃんと実装されてるか?」
なるほど、銀の門をまたいだ人種にはステータスを扱うための権利をばら撒かれてるらしい。
「うん、確認したけどMGOのものではないスキルが紛れもなく追加されてるね。今も生産カテゴリに【電子工作】とか混ざってるよ、89という数値がちょっと誇らしいものさ」
「G.U.E.S.Tだと十が最大値らしいのにそっちはずいぶんお高いことで。どうなってんだこれ」
「これは私の推測だけれど、単純に向こうのスキル値1がMGOでは10相当に変換されてるんじゃないかな。つまり私は79とあるけど、君の言う感覚に置き換えるなら8.9といった感じさ」
「なら納得だ。俺の【小火器】スキルは80ってところだな」
「ゲーム的表現でいえば達人あたりの腕前だね。ちなみにMGOのスキルがどのような影響をみんなに及ぼしているのかも調査中さ、特に【ステータス・スキル】の筋力だとか持久力だとかの数値がどう個人に作用するのかもずっと調べていてね。色々テストした結果、どうも単純にその人の身体能力を示す数値ではないみたいなんだけど……」
ヌイスは話をあれこれ小難しくしたものの、すぐ取り繕って俺たちを見た。
特にタカアキだ、頑ななマフィア姿をじっと確かめるなり。
「まあ、こまごました話はさておいてだね。タカアキ君、ウェイストランドを踏んだことのない君がG.U.E.S.Tのスキルを持ってる理由は間違いなく、向こうの世界の登場人物になってるからさ」
と、死ぬ未来が消えた幼馴染にそんな物言いだった。
前にも考えたものだ、DLCに出演したから登場人物として扱われてる可能性である。
「なんとなくそう思ってたぜ、初めてステータスを開いたらあのゲームのスキルがちょい足しされてたんだからな。あれ? つーことは俺、マジモンの東洋人の殺人鬼として君臨してね……?」
「うん、思えばみんなが転移した時点で君はG.U.E.S.TとMGOを兼ねた人になってたんだろうね。だからこそだよ、どうしてウェイストランドから来た人たちがステータス画面を開けるのか分かったんだ」
でもヌイスはこう言ってる、おかげでステータス機能の謎が解けたと。
「タカアキ、お前の生き様がヒントになってないか?」
「変だな、身体のどこにも答えなんて書いてなかった気がするぜ。どこみてそう判断したんだよヌイちゃん、俺の顔になんか書いてた?」
「俺にはサングラスしか見えないな」
「そいつはトレードマークだ、いいだろ?」
「……あの、ヌイスさん? わたしもこっちに戻ってきたり移住してきたり、そういう人たちがどうしてMGOの機能を使えるのかなって気になってました……?」
「聞き逃したくない話だな。あれはプレイヤーやヒロインだけが使えると思っていたんだが」
憩いの場のどこかからミコとエルも素早く聞きつけてきた。
ご静聴するメンツがある程度揃うと、ヌイスは素振りは話を続ける。
「分かりやすく言うと、G.U.E.S.Tの人達はフランメリアに来たせいでMGOの登場人物になってしまってるのさ」
「フランメリア人になってるってか?」
「あーそういうこと? 俺が向こうのキャラになってるみてえにか?」
「……登場人物、ですか?」
「まるでNPCにでもなったような言い方だな……」
「今のこの世界はあの転移事件の受け皿として機能していて、おそらくはプレイヤー然りヒロイン然り、連れてこられた人にゲームの参加者という名目でステータスが付与されてるんだろうね」
眼鏡越しのまっすぐな目つきが空き地の一つにとどまった。
回収されたガラクタが嬉しいドワーフと、相変わらずこき使われるディセンバーがいる。
そいつらも今回の件でステータスが使えるようになった人柄だ。
「そうだね、例えば扉を開けっぱなしにした建物があると思ってくれ。そこでたくさんの人を招いたパーティーが執り行われたとしようか、招待された人々はみんな喜んで入っていって、晴れてそれでお客様になるわけだよね?」
そう表現を広げてくれた。ちょうどあてはまる人間はここには山ほどいる。
まあそうだな、と俺たちが黙ってうなずくともっと進めて。
「ところが扉を閉めないような不用心さに確認する人間も配置しないような杜撰さだよ? たまたま迷い込んでしまった人がいたら、それがお客様か余所者なのかも区別できずに受け入れるしかないだろう? つまりこの世界はやってきた形がどうであれ、転移した相手をくるもの拒まずで片っ端から参加者として認めてステータス機能を付与してるんだろうね」
「そういうことさ」と話を閉じた。
まるでプレイヤーが引きずり込まれた事件がまだ終わってないような言い方だ。
「俺たちが起動中のゲームに物理的ログインしたみたいにか?」
「そう受け取ってもいいかもね」
「じゃあ、フランメリアの人たちが帰って来たらステータスを開けたのも……今のこの世界に戻ってきたせいで参加者として認められちゃったからですか?」
そう考えた矢先、ミコの質問が飛んだ。
まさに俺が気にしてた内容だった。
ヌイスの言う通り、この地を踏んだ奴におまけがつくような状態がまだ続いてるなら――過激な旅行からお帰りのフランメリア人もあやかれる。
「そうさ、思うに転移で帰ってきたのがきっかけだったんだろうね。それに、向こうの世界に迷い込んだ人たちは同時にG.U.E.S.Tの登場人物になってるのかもしれない。ウェイストランド人も然りさ、彼らもまたMGOの参加者として迎え入れられたゆえにステータス画面にありつけてるだろう?」
「タカアキみたいな?」
「つまり俺そっくりの境遇だらけか、寂しくないねえ」
そして俺たちは空き地の騒音に気づいた。
寄せ集めのパーツででっち上げた車の骨格がやかましく稼働してる。
「ウェイストランドに迷い込んだ方はみんな作中の出演者になれますよと。じゃあなんだ、ミコやロアベア、ノルベルトもちゃんとエンディング後のスタッフロールにスペシャルゲストあたりに記載してあるのか?」
思わずどこかに皮肉を向けたが、ヌイスは全然否定する気もなく。
「そんなところかもしれないよ、二つの世界が再現されてる以上はどちらも根幹にあるゲームありきだ。たとえそれが外からお邪魔した余所者だろうとね」
分かったところでどうしようもないとすんなり通された。
元の世界から連れてこられたやつら、ウェイストランドからきた人種、不幸な事故からの生還者、これら全部見境なしにゲームの登場人物扱いか。
あるいは「プレイヤーになった」とでもいうべきか。
なんにせよこれら全部ひっくるめて俺の責任だ。
「ウェイストランドに渡れば作中のゲストとして、そこからフランメリアにたどり着けば転移事件の犠牲者として、ってか? この頃の異世界転移のおまけはなんつーかショボいな、もっと奮発してもいいんだぜ?」
ヌイスの考えがこう及んだところで、タカアキがへらっと軽口をたたいた。
「ってことは俺が巻き込んだ数も跳ね上がったな」
乗ってやろう。ただし重い言葉だ。
今度は世紀末世界の人間を拉致か、計り知れない罪にまたプラスだ。
軽い気持ちで言ったつもりがなんとも言い難い空気になったものの。
「……ウェイストランドの人達も、一度向こうへ行って帰ってきたやつらも、俺たちみたいな転移者になってるってわけか。良かったのか悪かったのか判断しづれえこった」
果たして良かったのか――幼馴染は疑問に思ってる。
一番適切な答えを持ってそうな唯一のヌイスはくいっと眼鏡を直した。
「その質問は良し悪しで応えるには複雑だね。でもこの便利さにあやかればどれだけ遠くでも一瞬でやり取りができるし、こういった機能を使える者同士で円滑にコミュニケーションがとれるだろう? 実際、ドワーフの里もそれで賑わいの拍車をかけたようなものだし」
「じゃあいい方向で受け取れってか?」
「今はそうするべきさ、この機能は私たちを繋いでくれるツールたりえるんだからね。まあ……そうやって集まった人種がフランメリアでどんどん大きくなって、いずれその力をどう及ばせてしまうのかまでは考えたくはないかな。人間だろうがヒロインだろうが、君たちは一歩間違えれば国を脅かす外来勢力にもなりえる存在だということを自覚しておくべきかもね」
手放しで今の立場を喜ぶな、程度の物言いだ。
冒険者はフランメリアの利益になってるそうだが、それでも他所から突如現れた外来種には違いないってことだ。
たとえこの世界が俺たち向けだとしても謙虚に身の程をわきまえろって感じか。
「いきなりこの国に余所者放り込んだ奴の罪深さがよく分かった、さぞデカいだろうな」
また軽口で笑った、転移をもたらした犯人の責任は際限なく膨れ上がってる。
「あいにくだったね? 私がいるから半分こといったところさ。世界の異変を引き起こした原因は君だけじゃない」
ところが金髪美人な眼鏡顔は「そう言うと思ったよ」な方のすくめ方だ。
「途方も知れないもんを一緒に背負ってぺしゃんこをご所望か? お前の言う里の連中も余所者だらけになってんだぞ?」
「問題はないよ。転移者だらけのドワーフの里は、そこに住まう誰もが国の利になるようにという掟を固く定めてあるんだ。人間、ヒロイン、ウェイストランド人、そして現地の異種族、すべてがフランメリアのために尽くす姿勢だよ――まあ、強いられてるってことでもあるけど」
その口が言うにはドワーフの里一致団結してこの国に尽くしてるらしい。
普段どんな生活を送って毎日何を食えばそうなるのか教えてほしいもんだ。
「そこにどうやって、って質問するのは無粋か? なんか宗教でも開いてひとまとまりになってらっしゃる?」
「宗教か、そう言われてみるとそうかもね」
「おい、とうとう誰かカルトでも開いたのか? 崇拝対象は誰だ、お話しにいってやるよ」
宗教めいたもので一致団結してるってさ、最悪の知らせをどうもヌイス。
しかし彼女はじとっ、と俺を見つめた。
「それはできないね、目の前にいるんだし」
「どういうことだ、ここに教祖様がいるのか?」
「魔女と魔族を説き伏せてフランメリアを作った偉人と、立ちふさがる敵をことごとく叩き潰した不屈の擲弾兵を兼ねたすごい人がいるじゃないか」
言うには、知らぬ間に俺が知らない顔ぶれをひとまとめにしてたオチだ。
ちょうどあてはまるので自分を指してみた。肯定気味に頷かれた。
「……俺ぇ?」
「君だねぇ? 神様とまでは言わないけど、二つの世界の行いがこうしてごちゃ混ぜの私たちを束ねてるわけさ。言ってみれば君はシンボルだよ」
「そうか、崇めてるやつらにお供え物はトルティーヤチップスとジンジャーエールがいいって言っといて。辛口&辛口で頼むぞ」
「ずいぶんと安っぽい神様だね。まあそういうことだから、里のみんなも君のことをよく理解しているよ。支えてくれる人がいっぱいるということを覚えてくれたまえ」
「そりゃどーも、会った時のためにスピーチでも用意した方がいいか? 苦手だけどな」
俺はまだ顔のしれない連中からもフリー素材みたいな扱いらしい。
今度は里の規律を保つ象徴か、忙しい。
「んじゃ、俺の役目は幼馴染がカルトのボスにならないように見張るって感じでいいか? それとも組織の二番目になればいい?」
「どっちもごめんだ、後者のお前と一緒に布教なんで死んでもごめんだ。何広めるつもりだこのサイコ野郎」
「アイちゃんしかねえ。いけるか?」
「食堂にきわどいやつ飾ったらマジで許さないからな。お前用の牢獄作ってやる、モスマン人形つきだ」
へらへらしたタカアキがひでえ冗談を込めてきた。馬鹿野郎と肘で突いた。
軽口を叩けるあそびがあるだけまだマシか、一緒にふざけて「あのねえ」とヌイスが呆れるが。
「……ヌイスさん、貴女はいろいろと知っているようだな? まるでイチの境遇もよく存じているようだが、一体何者なんだ?」
黙って聞いてたエルが急に口を開いた。
しかも目立たないように、絞った声でなるだけ静かにだ。
MGOのことだのアバタールだの、次々の言葉にただものじゃないと感づいたようだ。
「そうだね……どう説明するべきかな?」
あれこれ話してた本人はちらりと眼鏡顔を向けてきた。
言葉にした通りのものが表情に浮かんでる。正しくは「どこまで話すべきか」だろうが。
「すまない。あまり詮索をするべきじゃないのは分かっているが、もし不都合であれば別に――」
「あー、分かりやすく言うとだな……」
「ヌイちゃんの何から何まで知りてえのか? えーとまずどっからだ……」
「あの、エルさん。ヌイスさんのことなんだけど……」
ミセリコルディア凛々しさ担当がそこまで触れると、俺たちは言葉選びに迷った。
ところがヌイスは「いいんだよミコ君」と割り込んで。
「何者って言われても、ただ彼が大好きな親友さ。説明は事足りないかい?」
人差し指を口元に立てて、まるで「これ以上探るな」という仕草だ。
創造主を知ってしまったミセリコルディアの面々は、すぐ俺とヌイスを見比べて何かを悟ったらしい。
その上でこう続ける。
「しいて言うならそうだね、君たちと同じ境遇だ」
「同じ境遇? どういうことだ?」
「君と同じ元AI、それもハッキングやらが得意な悪い子といったところかな? つまりヒロインみたいなものだよ」
「待て、ヒロインだと? じゃあ貴女は……」
君と同族さ――そう最後に付け足しそうな一言だ。
◇
もちろん『G.U.E.S.T』のハウジング機能を交えてだ。
発電施設からエグゾ置き場と化した二階建て、浄化の魔法と【P-DIY・ライフシステム】の合わせ技に宿舎とここの機能性を伝えた。
「と、まあこんな感じでゲームのシステムに則ったことがいろいろできるんだ。図面に登録した建物もこの通り」
がらん。
広場手前に戻ってきたところで、お気に入りの螺旋階段を地におっ立てた。
昼間の遭遇戦の疲れを癒してた集いが「またか」とそろそろ慣れたように見てる。
「わあ、なんて立派な聖ヨゼフの階段…………じゃないよ君。建物の構築どころかあの大掛かりな浄水装置を一瞬で作ったり、無線送電システムを自由にいじれたりと、個人が軽々しく行使できていい力じゃないからね? 少し見ぬうちにとうとう創造主になったのかい?」
そして独りでに立つ階段を前に、眼鏡越しに面倒なやつを見る目を強く感じた。
そこでクラフトシステムを立ち上げ。
「それからPDAの機能で万能火薬も作れるぞ。砂糖とか糖分強めのやつに木材か布を組み合わせると指先一つで出てくる、こんな風に」
【万能火薬】を一つ作った。白くて厚い紙袋がぼとっと落ちてくる。
テーブルに唐突な形で現れたそれに、金髪美人の知的さは中を覗いて「はぁ」とため息だ。
「あのね君。制限はあれど土地を思うがままにいじれるとか、万能火薬を作れるとか、それ下手したら文明をぶち壊しにできるポテンシャルを秘めてるからね? 都市部から離れた未開の地ど真ん中とはいえ、こうも隠し立てもなく行使していい力なのかともう少し慎重になるべきだと思うよ」
「大丈夫だ、フランメリアのためにお勤め中のアキに見張ってもらってるからな。なんか俺やべえって思ったらクソ正直に申告するようにしてる」
なんならたった今不発弾でも見つけてしまったような顔をされた。
ドワーフ族の文化を爆上げさせたやつがそう気にかけるほどに過ぎた力だそうだ。
でもご心配なく。そばでお行儀よくおやつタイムの緑髪エルフの男を指した。
「おやヌイス殿、久しいものですな。いやはや、こんなところでお会いするとは……ご覧の通りアサイラムの調査はもちろん、冒険者の皆様の視察に来ておりますぞ」
第二の眼鏡顔は待ってましたとばかりにご機嫌だ。パンケーキと共に。
「やあ、アキ君。君が相変わらず甘党で安心したよ、このとんでもない力を持った彼のお目付け役になってくれたったという解釈でいいのかな? なんだかパンケーキをじっくり味わってるようだけど」
「料理ギルドの皆さまの腕前を事細かに調べるというのも、世のためになりましょう? 今のところはたちどころにこの世を消し飛ばすような問題は起こしておりませんので、心配は無用といったところですかな?」
「おやつを片手間にそう説明されるのは些か不安だけれども、少なくとも目を見張らせてるらしいね」
「ええ、この頃とても栄えるクラングルといい、フランメリアの世でも大砲を抱えた鳥のごとく駆けまわるイチ殿といい、見過ごせないものばかりですからなあ? 全ては国の利益のためですぞ。いやしかし洗練されたふわふわなパンケーキもいただけるのですから役得といいますか」
「こうして変な階段を作って得意げにしてるところまでしっかり見てくれてると思うことにするよ。今後も面倒な彼に付き合ってあげてくれたまえ」
「はっはっは、ここにいれば退屈もしませんからな? お安いご用ですぞ――しかしまたツチグモをお目にかかれるとは、皆様とダムへ向かった頃を思い出しますなあ」
「正直これほどの代物をこっちでどう保つか悩んだものだけど、ニシズミ社が整備マニュアルやら事細かにデータをくれてね。どうにか里の人達で六割がた整備はできる具合さ」
「ここまで手土産をいただいたということは、かの会社はよほどあなた方に利益をもたらされていたに違いありませんな。よければフレンド登録をお願いできますかな? それと東の鉱山都市の現状についてもお話を聞かせて頂きたいものですが」
「そう言うと思ったよ。ドワーフたちがどうせ君に会うだろうとか言う理由で、向こうの財政や今後の発展計画、開発した新たな金属やらとデータをまとめておいんだ。けっこう分厚い紙媒体にこまごま書いてあるけどいいかい?」
「流石はヌイス殿ですなあ、貴女のような方がいれば彼らのコミュニティもさぞ栄えたことでしょう。さてさて、是非とも拝見させてください」
「いいや、すごいのは里のみんなだよ。ああも成り立つのもひとえに彼らの優秀さあってこそだからね。書類はスパタさんに渡してあるから受け取りに行ってくれたまえ」
火薬袋を分解して資源に変えてると、二人は挨拶からあれこれ話を広げてた。
背景には停まりっぱなしのツチグモだ、そういえばこいつで旅をしたんだよな。
「でだ、ヌイちゃんよ。その里? 鉱山都市? とやらに帰った皆さんも、やっぱりみんな例外なくステータス画面開けちゃってた系のオチ?」
席に落ち着くタカアキが帽子を脱いだ。
赤黒い毛並みを見せて、ウェイストランド帰りがゲームシステムを使える事実について気にかけてる。
応えはヌイスの顔だ、そうだとばかりに悩ましい。
「結論から言うとだね、帰還者、移住者、そしてこの私もみんなステータス機能が与えられていたのさ。ある日開けると発覚してすぐに全員の状態を調べ回ったけど、誰一人として例外なく使えることが判明したんだ。つまりタカアキ君、まったくもって君の言う通りだよ」
それが淡々とあいつらしい言い方になれば「やっぱりか」だ。
「タカアキ、もう疑いようのない事実だこれ。こっちに来たやつみんな特典付きってわけだ」
「こっちに帰るなり移住するなり、ウェストランドからお越しになった方は例外なくお土産渡されてたってことかよ」
「おそらく誰一人として例外はないんでしょうなあ……ということは、どこぞの一国の女王様もあやかっていることはもはや免れませんな。良かったですねイチ殿」
「どこに良いところを見出したんだお前。あの人とは絶対連絡先交換しないつもりだぞ」
「はっはっは、断ったところでやすやすと諦めるようなお方ではないということをどうかお忘れずに。私は折れて受け入れるに一票を投じますぞ」
「そろそろ子連れで密入国果たさないように怯えながら祈った方がいいか? 最後に見た顔が絶対また会いにくる感じだったぞあの紅茶」
「なあ、お前に絡んでくる女王様ってワードってさ、もしかしてプレイ的な意味じゃなくガチ目の権力者の方示してる?」
「タカアキ君、今のうちに言っておくと君の不安は的中だ。彼はウェイストランドを旅する最中、他国に旅行感覚で密入国するような一国の女王様にひ・ど・く気に入られてるよ」
「ああ、ひ・ど・くな」
「つまり君の幼馴染は歩く国際問題だね」
「え、マジ? とんでもねえ爆弾どんだけ抱えてんのお前、大爆発起こして世界滅ぼすおつもり?」
「爆発するときは人気のない場所でしたほうがいいか?」
「はっはっは、魔女の深き所縁で結ばれている同盟国なのが唯一の救いでしょうな。他国には確実に理解できぬ、我々にしか通じない調子でお邪魔するような――まあ要するに身内ノリが通用する程度には仲の良い国ですので、イチ殿の身が肉食獣の如きお方の犠牲になる程度で済むかと」
「うーわお兄さんの知らないところでとんだ地雷育んでやがったぞこいつ、処刑されたりしねえよな?」
「その時は全力で大脱走するから迎えに来てくれ」
段々と考えが嫌な女王様に働いたところで、ヌイスが「あのね君たち」と挟んできた。
アキも食器を下げて書類を取りに行ったようだ。その頃合いで説明が続く。
「まずステータスを開ける件については、帰ってすぐに気づいたことじゃないんだけどね。少し経って移住者達がこの世界の暮らしに慣れてきたころ、数名がふとしたきっかけで突然と開けたのがきkっかえさ」
「うちのわん娘もそんな感じだ。リスティアナに教えてもらって初めて気づいてた」
「こっちも同じようなものだったよ。私や里の人達がどう気づいたか知りたいかい?」
「知能5でもわかるように聞かせてくれ」
「ケースは二つさ。ニク君と同じように、プレイヤーやヒロインの誰かに教えてもらってようやく気付いたか。それかたまたま、意識して空中をなぞったら開いたかだよ。それに気づいて軽い騒ぎになって以来、ウェイストランドから渡って来た人たちにステータスの使い方が急速に広まってね」
「みんな使えるって気づけたらそりゃ大騒ぎになるだろうな。ちなみにお前はどっちだ?」
「私はどちらかといえば後者に当てはまるんだ。ステータス画面を意識して「私にもできるかな」と年甲斐もなくなぞってみたら、まさかの君たちの仲間入りさ」
「ワオ、自力で覚えた方か。MGOにはないスキルもちゃんと実装されてるか?」
なるほど、銀の門をまたいだ人種にはステータスを扱うための権利をばら撒かれてるらしい。
「うん、確認したけどMGOのものではないスキルが紛れもなく追加されてるね。今も生産カテゴリに【電子工作】とか混ざってるよ、89という数値がちょっと誇らしいものさ」
「G.U.E.S.Tだと十が最大値らしいのにそっちはずいぶんお高いことで。どうなってんだこれ」
「これは私の推測だけれど、単純に向こうのスキル値1がMGOでは10相当に変換されてるんじゃないかな。つまり私は79とあるけど、君の言う感覚に置き換えるなら8.9といった感じさ」
「なら納得だ。俺の【小火器】スキルは80ってところだな」
「ゲーム的表現でいえば達人あたりの腕前だね。ちなみにMGOのスキルがどのような影響をみんなに及ぼしているのかも調査中さ、特に【ステータス・スキル】の筋力だとか持久力だとかの数値がどう個人に作用するのかもずっと調べていてね。色々テストした結果、どうも単純にその人の身体能力を示す数値ではないみたいなんだけど……」
ヌイスは話をあれこれ小難しくしたものの、すぐ取り繕って俺たちを見た。
特にタカアキだ、頑ななマフィア姿をじっと確かめるなり。
「まあ、こまごました話はさておいてだね。タカアキ君、ウェイストランドを踏んだことのない君がG.U.E.S.Tのスキルを持ってる理由は間違いなく、向こうの世界の登場人物になってるからさ」
と、死ぬ未来が消えた幼馴染にそんな物言いだった。
前にも考えたものだ、DLCに出演したから登場人物として扱われてる可能性である。
「なんとなくそう思ってたぜ、初めてステータスを開いたらあのゲームのスキルがちょい足しされてたんだからな。あれ? つーことは俺、マジモンの東洋人の殺人鬼として君臨してね……?」
「うん、思えばみんなが転移した時点で君はG.U.E.S.TとMGOを兼ねた人になってたんだろうね。だからこそだよ、どうしてウェイストランドから来た人たちがステータス画面を開けるのか分かったんだ」
でもヌイスはこう言ってる、おかげでステータス機能の謎が解けたと。
「タカアキ、お前の生き様がヒントになってないか?」
「変だな、身体のどこにも答えなんて書いてなかった気がするぜ。どこみてそう判断したんだよヌイちゃん、俺の顔になんか書いてた?」
「俺にはサングラスしか見えないな」
「そいつはトレードマークだ、いいだろ?」
「……あの、ヌイスさん? わたしもこっちに戻ってきたり移住してきたり、そういう人たちがどうしてMGOの機能を使えるのかなって気になってました……?」
「聞き逃したくない話だな。あれはプレイヤーやヒロインだけが使えると思っていたんだが」
憩いの場のどこかからミコとエルも素早く聞きつけてきた。
ご静聴するメンツがある程度揃うと、ヌイスは素振りは話を続ける。
「分かりやすく言うと、G.U.E.S.Tの人達はフランメリアに来たせいでMGOの登場人物になってしまってるのさ」
「フランメリア人になってるってか?」
「あーそういうこと? 俺が向こうのキャラになってるみてえにか?」
「……登場人物、ですか?」
「まるでNPCにでもなったような言い方だな……」
「今のこの世界はあの転移事件の受け皿として機能していて、おそらくはプレイヤー然りヒロイン然り、連れてこられた人にゲームの参加者という名目でステータスが付与されてるんだろうね」
眼鏡越しのまっすぐな目つきが空き地の一つにとどまった。
回収されたガラクタが嬉しいドワーフと、相変わらずこき使われるディセンバーがいる。
そいつらも今回の件でステータスが使えるようになった人柄だ。
「そうだね、例えば扉を開けっぱなしにした建物があると思ってくれ。そこでたくさんの人を招いたパーティーが執り行われたとしようか、招待された人々はみんな喜んで入っていって、晴れてそれでお客様になるわけだよね?」
そう表現を広げてくれた。ちょうどあてはまる人間はここには山ほどいる。
まあそうだな、と俺たちが黙ってうなずくともっと進めて。
「ところが扉を閉めないような不用心さに確認する人間も配置しないような杜撰さだよ? たまたま迷い込んでしまった人がいたら、それがお客様か余所者なのかも区別できずに受け入れるしかないだろう? つまりこの世界はやってきた形がどうであれ、転移した相手をくるもの拒まずで片っ端から参加者として認めてステータス機能を付与してるんだろうね」
「そういうことさ」と話を閉じた。
まるでプレイヤーが引きずり込まれた事件がまだ終わってないような言い方だ。
「俺たちが起動中のゲームに物理的ログインしたみたいにか?」
「そう受け取ってもいいかもね」
「じゃあ、フランメリアの人たちが帰って来たらステータスを開けたのも……今のこの世界に戻ってきたせいで参加者として認められちゃったからですか?」
そう考えた矢先、ミコの質問が飛んだ。
まさに俺が気にしてた内容だった。
ヌイスの言う通り、この地を踏んだ奴におまけがつくような状態がまだ続いてるなら――過激な旅行からお帰りのフランメリア人もあやかれる。
「そうさ、思うに転移で帰ってきたのがきっかけだったんだろうね。それに、向こうの世界に迷い込んだ人たちは同時にG.U.E.S.Tの登場人物になってるのかもしれない。ウェイストランド人も然りさ、彼らもまたMGOの参加者として迎え入れられたゆえにステータス画面にありつけてるだろう?」
「タカアキみたいな?」
「つまり俺そっくりの境遇だらけか、寂しくないねえ」
そして俺たちは空き地の騒音に気づいた。
寄せ集めのパーツででっち上げた車の骨格がやかましく稼働してる。
「ウェイストランドに迷い込んだ方はみんな作中の出演者になれますよと。じゃあなんだ、ミコやロアベア、ノルベルトもちゃんとエンディング後のスタッフロールにスペシャルゲストあたりに記載してあるのか?」
思わずどこかに皮肉を向けたが、ヌイスは全然否定する気もなく。
「そんなところかもしれないよ、二つの世界が再現されてる以上はどちらも根幹にあるゲームありきだ。たとえそれが外からお邪魔した余所者だろうとね」
分かったところでどうしようもないとすんなり通された。
元の世界から連れてこられたやつら、ウェイストランドからきた人種、不幸な事故からの生還者、これら全部見境なしにゲームの登場人物扱いか。
あるいは「プレイヤーになった」とでもいうべきか。
なんにせよこれら全部ひっくるめて俺の責任だ。
「ウェイストランドに渡れば作中のゲストとして、そこからフランメリアにたどり着けば転移事件の犠牲者として、ってか? この頃の異世界転移のおまけはなんつーかショボいな、もっと奮発してもいいんだぜ?」
ヌイスの考えがこう及んだところで、タカアキがへらっと軽口をたたいた。
「ってことは俺が巻き込んだ数も跳ね上がったな」
乗ってやろう。ただし重い言葉だ。
今度は世紀末世界の人間を拉致か、計り知れない罪にまたプラスだ。
軽い気持ちで言ったつもりがなんとも言い難い空気になったものの。
「……ウェイストランドの人達も、一度向こうへ行って帰ってきたやつらも、俺たちみたいな転移者になってるってわけか。良かったのか悪かったのか判断しづれえこった」
果たして良かったのか――幼馴染は疑問に思ってる。
一番適切な答えを持ってそうな唯一のヌイスはくいっと眼鏡を直した。
「その質問は良し悪しで応えるには複雑だね。でもこの便利さにあやかればどれだけ遠くでも一瞬でやり取りができるし、こういった機能を使える者同士で円滑にコミュニケーションがとれるだろう? 実際、ドワーフの里もそれで賑わいの拍車をかけたようなものだし」
「じゃあいい方向で受け取れってか?」
「今はそうするべきさ、この機能は私たちを繋いでくれるツールたりえるんだからね。まあ……そうやって集まった人種がフランメリアでどんどん大きくなって、いずれその力をどう及ばせてしまうのかまでは考えたくはないかな。人間だろうがヒロインだろうが、君たちは一歩間違えれば国を脅かす外来勢力にもなりえる存在だということを自覚しておくべきかもね」
手放しで今の立場を喜ぶな、程度の物言いだ。
冒険者はフランメリアの利益になってるそうだが、それでも他所から突如現れた外来種には違いないってことだ。
たとえこの世界が俺たち向けだとしても謙虚に身の程をわきまえろって感じか。
「いきなりこの国に余所者放り込んだ奴の罪深さがよく分かった、さぞデカいだろうな」
また軽口で笑った、転移をもたらした犯人の責任は際限なく膨れ上がってる。
「あいにくだったね? 私がいるから半分こといったところさ。世界の異変を引き起こした原因は君だけじゃない」
ところが金髪美人な眼鏡顔は「そう言うと思ったよ」な方のすくめ方だ。
「途方も知れないもんを一緒に背負ってぺしゃんこをご所望か? お前の言う里の連中も余所者だらけになってんだぞ?」
「問題はないよ。転移者だらけのドワーフの里は、そこに住まう誰もが国の利になるようにという掟を固く定めてあるんだ。人間、ヒロイン、ウェイストランド人、そして現地の異種族、すべてがフランメリアのために尽くす姿勢だよ――まあ、強いられてるってことでもあるけど」
その口が言うにはドワーフの里一致団結してこの国に尽くしてるらしい。
普段どんな生活を送って毎日何を食えばそうなるのか教えてほしいもんだ。
「そこにどうやって、って質問するのは無粋か? なんか宗教でも開いてひとまとまりになってらっしゃる?」
「宗教か、そう言われてみるとそうかもね」
「おい、とうとう誰かカルトでも開いたのか? 崇拝対象は誰だ、お話しにいってやるよ」
宗教めいたもので一致団結してるってさ、最悪の知らせをどうもヌイス。
しかし彼女はじとっ、と俺を見つめた。
「それはできないね、目の前にいるんだし」
「どういうことだ、ここに教祖様がいるのか?」
「魔女と魔族を説き伏せてフランメリアを作った偉人と、立ちふさがる敵をことごとく叩き潰した不屈の擲弾兵を兼ねたすごい人がいるじゃないか」
言うには、知らぬ間に俺が知らない顔ぶれをひとまとめにしてたオチだ。
ちょうどあてはまるので自分を指してみた。肯定気味に頷かれた。
「……俺ぇ?」
「君だねぇ? 神様とまでは言わないけど、二つの世界の行いがこうしてごちゃ混ぜの私たちを束ねてるわけさ。言ってみれば君はシンボルだよ」
「そうか、崇めてるやつらにお供え物はトルティーヤチップスとジンジャーエールがいいって言っといて。辛口&辛口で頼むぞ」
「ずいぶんと安っぽい神様だね。まあそういうことだから、里のみんなも君のことをよく理解しているよ。支えてくれる人がいっぱいるということを覚えてくれたまえ」
「そりゃどーも、会った時のためにスピーチでも用意した方がいいか? 苦手だけどな」
俺はまだ顔のしれない連中からもフリー素材みたいな扱いらしい。
今度は里の規律を保つ象徴か、忙しい。
「んじゃ、俺の役目は幼馴染がカルトのボスにならないように見張るって感じでいいか? それとも組織の二番目になればいい?」
「どっちもごめんだ、後者のお前と一緒に布教なんで死んでもごめんだ。何広めるつもりだこのサイコ野郎」
「アイちゃんしかねえ。いけるか?」
「食堂にきわどいやつ飾ったらマジで許さないからな。お前用の牢獄作ってやる、モスマン人形つきだ」
へらへらしたタカアキがひでえ冗談を込めてきた。馬鹿野郎と肘で突いた。
軽口を叩けるあそびがあるだけまだマシか、一緒にふざけて「あのねえ」とヌイスが呆れるが。
「……ヌイスさん、貴女はいろいろと知っているようだな? まるでイチの境遇もよく存じているようだが、一体何者なんだ?」
黙って聞いてたエルが急に口を開いた。
しかも目立たないように、絞った声でなるだけ静かにだ。
MGOのことだのアバタールだの、次々の言葉にただものじゃないと感づいたようだ。
「そうだね……どう説明するべきかな?」
あれこれ話してた本人はちらりと眼鏡顔を向けてきた。
言葉にした通りのものが表情に浮かんでる。正しくは「どこまで話すべきか」だろうが。
「すまない。あまり詮索をするべきじゃないのは分かっているが、もし不都合であれば別に――」
「あー、分かりやすく言うとだな……」
「ヌイちゃんの何から何まで知りてえのか? えーとまずどっからだ……」
「あの、エルさん。ヌイスさんのことなんだけど……」
ミセリコルディア凛々しさ担当がそこまで触れると、俺たちは言葉選びに迷った。
ところがヌイスは「いいんだよミコ君」と割り込んで。
「何者って言われても、ただ彼が大好きな親友さ。説明は事足りないかい?」
人差し指を口元に立てて、まるで「これ以上探るな」という仕草だ。
創造主を知ってしまったミセリコルディアの面々は、すぐ俺とヌイスを見比べて何かを悟ったらしい。
その上でこう続ける。
「しいて言うならそうだね、君たちと同じ境遇だ」
「同じ境遇? どういうことだ?」
「君と同じ元AI、それもハッキングやらが得意な悪い子といったところかな? つまりヒロインみたいなものだよ」
「待て、ヒロインだと? じゃあ貴女は……」
君と同族さ――そう最後に付け足しそうな一言だ。
◇
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