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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
どうせ見せるなら、未来の恩人に明るい姿を
しおりを挟むヌイスはダムで別れた後の足取りについて物語ってくれた。
フランメリアにたどり着くとリム様と別れて遠い東へ向かったらしい。
ツチグモごとクラングルなんかに押し掛けたら極めて面倒になるという判断だ。
でもヌイスのことだ、事前にこう考えが及んでいた。
『過ぎた技術を抱える流れ者を受け入れてくれる場所はどこだろう』と。
ニシズミ社の最先端技術を詰め込んだ車両なんてここじゃ過ぎた代物だ。
そしてMGOの事情は知ってるとはいえ、剣と魔法の世界に転移して居場所を作れるのかと不安もあった。
そこで旅立つ前、ブルヘッドに留まるドワーフやエルドリーチにそのことを相談したという。
すると結論はすぐだ。
どうせドワーフの里へ人手だの機械だの運んでるし、そいつらと暮らせという案だ。
色々と便宜を図ってもらえるよう紹介状を書いてもらって、帰還組の車列を追って東へ進んだ。
だけど予想外なことに、そこの居心地は案外良かったという。
流れ着いた旅人やヒロインたちもそれなりに居つき、住まう人々も未知の機械なんてものに大喜びするような人柄だ。
連れてこられたウェイストランド人に混じって生活の土台を固め、持ち前の知識で里の発展に貢献したそうだ。
里周辺にまで及んだ転移物の調査、技術的な助言、そういった日頃の行いもあってヌイスはツチグモもろとも認められ――
「……というわけで、今や私はドワーフ族の仲間だよ。あちらで活動するうちに歯車仕掛けの都市『カルーセス』とのコネクションもできたし、ちょっとしたビジネスも始めて懐も潤ってる。お別れ前の宣言通り、この世界に順応した上で君たちの行方を追いかけてきたのさ」
こうして食堂の席に落ち着いて、真ん丸なパンケーキを優雅にカットしてる。
ならって食べた。たっぷりの固めのクリームとしっとり甘い舌ざわりが疲れた体によく効く。
「今頃何してるんだかぐらいに噂してたらこれか。ちゃんとこの世慣れしてきたんだなお前」
「もちろんさ、でも考えることは今もなお高く積み上がってるよ。世の現状を知れば知るほど頭が痛かったね、しかも転移した場所について記録しないといけないし、白き民とかいう妙な存在も死ぬほど気がかりだ」
「こっちも似たようなもんだぞ、ついさっき白き民の新顔と最悪のご挨拶をしてたところが見えただろ?」
「しっかり見てたよ。ここについてすぐにドローンを飛ばして君を追いかけたんだけど、ちょうど白くて悪趣味なのがパレードみたいになってたね」
「さっき中止にしてきたけどな。ってことは、俺たちがミコのところまで駆けつけたあたりですれ違ったのか?」
「ご親切にドワーフたちがここまでの道しるべを立ててくれたおかげで迷わず来れたよ。もう少し飛ばしてくるべきだったかなこれは」
「あの不健全極まりない現場に駆けつけてくれただけでありがとうだ。文句は言えない」
「私は君が美少女に囲まれながら暴れ回っててなんだか安心したよ、一周回って健全な姿に思えたからね」
「俺はあれからずっと元気だけどなヌイス、こちとらあんなクリューサより不健康な青っ白いのとずっと戦ってるんだぞ。最近はさっきみたいなキモいお馬さんもお披露目されて精神衛生的に最悪だ、マジでなんだったんだあれ」
「ちゃんと見たよ。巷では冒険者は儲かると言われてるけれども、だからってあの得体のしれない化け物と相手をしないといけないなんて私はごめんだ」
「一応聞くけど、あれに心当たりはないよな?」
「ああいう世の中に優しくない上に面白みのない化け物なんて、作中に登場させると思うかい? あんなの完全に想定外さ、転移物より百倍厄介だ」
「お前から想定外って言葉が出るなら、エルドリーチから何かしら教わらなかったんだろうな」
「そうなんだよねえ……あいつが言及しなかったということは、以前は今日この頃みたいにさほど脅威ではなかったのかな。いや、そうだとしても、あんなイレギュラーについて触れなかったのは些か妙な感じはするけども」
「多分そうなんじゃないか? 旅人だのヒロインだの転移してからまた活発になったとかいわれてるし。まあつまり脅威になった原因は俺たちってことになるけど」
「なんにせよ君も私もあれについて悩んでるのは確かか。まったく、お互いどこまでも一筋縄ではいかない人生を送ってるようだね」
「もうそういうもんだって割り切りった。うまいなこれ」
俺たちらしいやり取りを交えて、ヌイスもフランメリアに馴染んでたことが伝わって嬉しかった。
とはいえお互いの共通の悩みは謎多き白き民か、嫌な話だ。
「でも現状そんな得体の知れねえ何かで食ってるようなもんだよ、ほんと皮肉極まった話だ」
そこにタカアキもサンドイッチにかぶりついた。
「うん、そうだね。そのくせ倒せば土地が豊かになるし、落とす装備は資源として再利用できて、おまけにアーツやスペルの習得用アイテムも落とすなんて訳が分からないよ、まるで冒険者のためだけにある都合のいい生き物みたいだ」
「ありゃ誰かが親切にも冒険者向けに用意してくれたってわけじゃなさそうだぜ。俺たちが来るずっと前から長らく、フランメリアの皆さまにご迷惑かけてたらしいしよ」
「この国の人達がどうして好戦的でフィジカル強めなのかはよく分かったよ。あんなものと戯れる機会と隣りあわせだったら、自ずと戦いの作法が磨かれるだろうね」
「俺も冒険者稼業に本腰入れてからだいぶ鍛えられたぜ。キャプテンも仕留めたしな、横取りしちゃったけど」
「イチ君はまあしょうがないとして、タカアキ君もだいぶこの世に毒さ……適応してるね。しかもG.U.E.S.TのDLCに出演してたせいで向こうのスキルも混ざってるなんて、とんでもないことになってないかい?」
「最初は一人だけ銃使えるぜってウキウキしてたけど、段々寂しくなって使わなくなりました。今では幼馴染と一緒に盛大にぶっ放してて楽しいです――以上」
「うん、やっぱり私の良く知るタカアキ君だ。なんていうかその恩恵にあやかれるのが君で良かったよ、下手したら近代兵器で悪事もし放題だしね」
「残念だったな、一つ目美少女がいる手前無粋なことはできねえぜ。でもこの前、好みの子に『おめめ見せて♡』ってセクシーに頼んだら弁明の余地なく投獄されました。めげずに頑張ろうと思います」
「君の場合は銃とか使えなくても問題だらけだったね。いやその一言で牢に放り込むような体制が出来上がってるのもどうかと思うけど、とりあえず努力の方向性を見直すべきじゃないかな」
今の幼馴染の事情にはヌイスも逆に安心するぐらい呆れてた。
白き民に加えて幼馴染奇行種と余計な悩みが増えてとっても嫌な顔だが。
「ヌイスさん、どうしてるのかなーって時々思ってました。でも良かった、こうしてまた会いに来てくれて……とっても嬉しいです」
けれども、隣でにっこりするミコが一番いい知らせかもしれない。
おかげでヌイスも「そうだね」とフォークの手を止めて。
「私だって元の姿に戻れた君と、こうして美味しいパンケーキをちびちびつつけて何よりだよ。きっとみんなが頑張っていると思って、私も向こうでいろいろと張り切ったものさ」
「ふふっ、わたしもです。色々な人たちといい関係を築けたんですね? すごいなあ」
「大したことないさ、ウェイストランド人が連れてこられてしっちゃかめっちゃかな環境になってたから紛れるにもうってつけだ」
「あ、そっか。ドワーフの里って、あの世界から連れてこられた人が沢山いるんですよね……その人たち、今どうしてるんだろう」
「向こうより環境がいいし、食べ物もおいしいし、やることにも尽きないからみんな楽しそうだったよ。日本人やヒロインも根付いていれば私のような流れ者もすぐに馴染めたさ」
「そうだったんだ……えっと、なにか変なこととかさせられてませんよね……?」
「里の人達は気味が危惧する通り荒々しいけど、危なっかしいことはさせられてなかったよ? むしろみんなドワーフ族に対して大いに手を貸してたものさ。持ち帰った技術の普及から製造、新しい製品の開発や都市の整備、転移した建物からのサルベージと仕事も無限大だからね。というか私は、半年以上前からフランメリアとうまく付き合う転移者達にびっくりだよ」
ドワーフの里とやらがどんな場所なのか苦笑い一つで表してから、足元からごそっと何かを拾った。
それが「ほら」と見せびらかされて目がゆけば――歯車印のついた紙袋だ。
「……そういえばヌイスさん、その紙袋はなんですか?」
「歯車のマークつきってことはカルーセスで買った感じか? なんかいろいろ入ってそうだけど」
「おっ、もしかして俺たちへのお土産? 何買ったん? お菓子? 単眼フィギュア?」
三人で食いつけば、持ち主は少し得意げな様子で中身をごそごそして。
「これがさっき言ってたビジネスの一つさ。君たち冒険者へのお土産だよ、まだツチグモにたくさんあるからね?」
誇らしげにそれを取り出して見せた。
ファンタジー世界にあるまじきデザインを施された取っ手付きのボトルだ。
黒い外装はプラスチックそっくりな質感で、表面にカブトムシみたいな生物のロゴと一緒に【Yith-Maker】と一文字刻まれてる。
「なにこれ水筒?」
さっそく手が伸びるが、ヌイスはひょいとこっちに投げてきた。
日頃培われた反応でキャッチすると、思わず放り出しかけるほど軽い。
やや絞られた先端を回すと容器を兼ねたフタが取れて、中栓さえ取っ払うと金属的な内瓶がよく見えた。
「私がデザインした保温ボトルだよ。冒険者向けの機能性を持たせていて、今じゃカルーセスにいるドワーフ族の業者に製造、販売を委託してもらってるんだ。先週から売り出されたんだけどこれがなかなかの売れ行きでね?」
そこに製作者本人の手で説明書も添えられた。
手のひらほどの冊子にお手入れから何までこまごま説明が収まってる。
「……こいつがか? 言っちゃ悪いけどなんか肌触りが頼りないぞ」
「俺にも見せて~……うわなにこれかっっる、耐久性大丈夫? 安物じゃないよね?」
「わっ……すごく軽い……? これ、どうしたんですか?」
二人に回したってとにかく軽い、ちょっと意識が外れれば忘れてしまいそうだ。
850mlほどの容量を軽々いじってると、ヌイスはこれで一儲けしたように笑い。
「フランメリアならではの特殊な素材をふんだんに用いてるからね。ドワーフの里で見つけたチタンもどきやら、プラスチックそっくりな植物やら、そういうのを向こうの技術とかけあわせて作った製品だ。もちろん魔力が通った素材だとかは使ってない『マナ・フリー』だから君でも使える」
「あーなんだ、つまり企業努力のこもったすごい製品なんだな? しかも俺のことを考えてくれてる親切なやつ、と」
「もちろんさ、性能も私自ら語ろうか? これは熱湯を三日間キープできるし、中に液体があっても音が全然しない、しかも内瓶は雑菌を抑制する加工が施してある。おかげで一本あたり5000メルタはするけど、耐久性とお手入れのしやすさは保証するよ」
「この妙に軽い水筒が5000?」
「たけえなオイ!? 高性能な軽さだったか!?」
「た、高いなー……!?」
その口から「5000」だ、お手軽なものじゃない。
性能に関しては製作者が直々にさっそくお披露目してくれるそうだ。
別のボトルを開けて飲みかけのお茶を注いで、きゅっと閉じて振り始める。
中途半端な液体が攪拌されるが――――まったく音がしない、どうなってんだ。
「値段はあれど、とことんいいものを。そういうコンセプトで商売してみたら思いのほかうまくいってね? ただ単に私が熱々の飲み物をいつでもどこでもおしゃれに味わいたかっただけなんだけども、景気がいいこの頃は買い求める人が沢山いるんだ。まあ、一財築いてきた証拠さ」
しまいによく混ざったミルクティーを飲み干してご満悦である。
戦いに明け暮れる冒険者なんかと違ってかなり余裕そうだ。
流石は元人工知能、それもバロール・カンパニー務めだけあるというか。
「戦うことが資本の俺たちとはえらい違いだ。まだこのボトルの値段が信じられないけどな」
「あっちで商売してたのかよ、ヌイちゃん。そんでその大層立派なマイボトルをたくさん土産に持ってきたってか?」
「5000メルタもするのに、もらっちゃっていいのかな……?」
「この保温ボトルの良さは使ってみれば分かるさ。あとでツチグモのストレージから引っ張るのを手伝ってくれないかい」
ヌイスは「どうぞ」と口の付いたボトルを手渡してきた。もらえるなら頂こう。
親愛の印、ただし使用済みを確かに受け取ると。
「けっきょく里帰りするドワーフたちに混じって東へ渡ったというわけか。合理的な判断だが、その手土産が爆弾を積んだドローンに新発売の保温ボトルとはな。それから俺と白き民を並べて話に出すなこの馬鹿者が」
お隣の席からクリューサがやってきた。タイミングを見てたらしい。
「ストレンジャーズに縁のあるやつが全員健やかにやってた証明だろ。ここで再会パーティーでも開くか? ケーキでも焼いてもらう?」
紙袋のヌイス自慢の製品を投げて送った。手に渡ると意外な軽さに眉が驚いてる。
「毎日毎日騒いでるような有様だぞ、これ以上やかましくされるのは俺の趣味に合わん。ところでこの5000もするボトルというのはタダで貰ってもいいんだな?」
「当然だよ、また会えて嬉しいという私の気持ちだと思ってくれ。ああ別に売れ残りだとか訳あり品だとかじゃないからね、大事に使いたまえよ」
「なら頂こう。しかしドワーフの里とやらの周辺にも転移したものが存在しているとは無節操なものだ、それにまつわるトラブルはなかったのか?」
「考えておくれよ。戦車だとか嬉々として持ち帰ったり、銃を使えるウェイストランド人がいっぱいだよ? 火力過多になってると思わないかい?」
「物騒な場所になってるようだな。言われてみればそうだろうな、好戦的なドワーフの故郷などそんなものか」
こうして聞けばずっと東の地にも転移の影響は及んでたか。
ドワーフの里やらはどんな場所なのかと想像が働くと、ヌイスは白衣のポケットをごそごそして。
「それから、向こうで新しい金属の研究にも携わっててね。価値がずたずたに下がってしまったミスリルに変わる新素材を色々と生み出して、里の景気もうなぎ上りさ。君たち冒険者に負けないほどの賑わいを見せているよ」
色彩綺麗な写真をぺらっと差し出してきた
手に取るとどこか近代的な建物の中の様子だ。
配線やパイプがあちこちに繋がって、大掛かりな機械が幾つも並ぶファンタジー世界らしからぬ風景というか。
「こんなのといい関係になったのか。ファンタジーどこいった? いまごろ迷子?」
「わーすっげえ、どっかの工場の中かこれ? 剣と魔法の世界なのに思いっきり化学方面に突っ走ってるんだな、ドワーフの里」
「色々な人が映ってるね。ウェイストランドから来た人たちとか、プレイヤーさんとか、わたしたちヒロインもいるし……向こうってこんな感じなんだ」
「尋常ではない量の機械やらを持ち帰ったとは聞いたが、ここだけ見るとお前たちの里だけ数百年ほど進歩したような感じだぞ。フランメリアの文明を壊さないだろうな」
俺たちの目がそこの顔ぶれに向かえば、ヌイスの口にしたことも頷けた。
安心感のあるドワーフの爺さんたちは当たり前のこと、そこに人種が様々混じってるからだ。
作業着を着たウェイストランドらしい男女に、日本人顔と人外ヒロインのかわいらしさが無理くり一つになってる。
その先頭で黒い延べ棒を手に笑んだ白衣姿は確かに「うまくやった」感じだ。
「――なに、そんな無粋な真似はせんさ。ブルヘッドに残ったやつらが世話になったらしいからのう、連れてきたやつらも里の一員として手厚く迎え入れとるぞ」
「いろいろおるのに調和が取れたのもヌイスの嬢ちゃんあってこそじゃよ。お主ら信じられんと思うけど、いろいろ尽くしてくれて里の景気が幾分良くなったんじゃよ」
「つまり俺たちの盟友ってわけだ。しかし新しい商売を始めるとか言ってたそうだが、まさかあのチタンもどきを使って保温容器を作り出すなんてな……しかもこれアルコール対応かよ、分かってるじゃねえかヌイス嬢ちゃん」
ちょっとした写真鑑賞会に、向こうで酒をやってたドワーフたちも足された。
キャラの濃い親しさに「そういうことさ」と頷いて。
「別れ際に口にした通り、ちゃんとこの世界に身を慣らしてからきたよ。君もフランメリアに馴染んだ顔をしてて安心さ、これで晴れて合流だね?」
パンケーキをぺろっと片づけた上で、整った笑顔をこれでもかと浮かべた。
俺だって相応の表情だ。こうして律儀にまた会いに来てくれたんだから。
「ってことは、俺たち全員こっちでもうまくやれてたんだな。最高のニュースだ」
「君、向こうでも支えてくれって言ってたじゃないか。会いたかったよ」
「そこまで有言実行してくれるなんて嬉しい話だ。改めてアサイラムヘようこそだ」
「これで君の抱える悩みも少しは分散できるさ、またよろしくね。それにしてもこんな場所でパンケーキとミルクティーのもてなしを受けられるなんて余裕そうだねえ……」
こっちも皿をきれいに平らげて応じた、「口についてるよ」と笑われた。
ミコにもしょもしょ拭かれると、その途端にドワーフの爺さんたちはふと写真を訝しんで。
「おいヌイスの、お前さんの持ってるこのインゴット……もしかしてあの【イース鋼】か? まさかできちゃったんか?」
スパタ爺さんは延べ棒を持ったヌイスを掲げてそう尋ねてた。
イース鋼ってなんだと周りのやつらと首をかしげると。
「正直密度の高い鋼以外の調達は絶望的だったんだけどね。魔獣の素材や転移物から回収したアルミニウム、少量のレアメタルを使ったらなんとかそれらしさはできた感じさ」
「ほんとに作っちまうとはなあ……して、いい顔して映っとるが性能の方どうよ? 期待通りか?」
「それがだね、ウェイストランドにある既存のものよりだいぶ劣るし、性質も変わってしまって七割ほどといったところかな。でも熱に強くてすさまじい耐久性を誇る「強い鋼」程度にはなったよ」
「わしらの技術全部注いでその程度か。いや……それでもあるだけのもんでそこまでいけたってなら、大したもんじゃろうなあ」
「オリジナルには届かなかったのは残念だけど、実用化には十分すぎる品質だ。里のみんなも次世代の鋼だとか喜んでたんだからいいんじゃないかな?」
聞きかじりじゃ分からない小難しい話だ。なんかすごい金属ができた程度は分かった。
せっかくだし少し聞いてみるか、その前にメカに「下げて」と食器を任せた。
「横から失礼するけどイース鋼ってなんだ? 何やってたんだお前ら」
いざ質問してみると後悔した。スパタ爺さんとヌイスがまさに難しい口を作ってたからだ。
「簡単な話さ、実はとある合金の製法を持ち帰っててね。それをこっちでも再現できないかと試してたんだ」
「ミスリルよりすげえやつ作ってやろうって意気込んでたんじゃが、これが案外面倒での。チタンだのアルミニウムだのレニウムだの今のわしらじゃ手の届かんものばっかじゃから、考えてるうちに代用品だらけになっちまったのよ」
「だからいっそ名前を変えて【イース鋼】ということで開発してたんだ。最近やっとまがい物ができたんだけど、それにしたってこの世界には度が過ぎた品質だよ」
「現状ミスリルをいじれる術を持つわしらでしか作れんから、ドワーフ族ならではの新しい金属にはなったようじゃな。これでまたいろいろ作れると思うと胸が高鳴るわ」
「その件だけど君たち、里のみんなに頼まれてカーゴ・トレーラーに完成品をいくつか積んできたよ。重いからあんまり数は持ってこれなかったけどね」
「マジか現物持ってきたんか!? よっしゃ、さっそく見に行くぞお前さんら!」
「ちょうどガソリンスタンドぶっ壊しながら新しい武器考えとったところにか!? わしもいく~!」
「気が利くじゃねえかあいつら! 見せてもらうぜ次世代の鋼ってやつをよ!」
「――よく分からないけどすごい金属なんだな!!!」
「よく分からないと思うけどすごい金属さ。ごめんね、君には少し難しかったかな」
ストレンジャーに難解なお話ののち、髭面数名はどたどた出て行ってしまった。
そんな騒ぎようだが、クリューサは話題をもたらしたヌイスを見て。
「合金の製造か、お前はこの世で技術革新でもしてなり上がるつもりか?」
「私自身にはそんなつもりは一ミリたりともないさ。しいて言えば世話になってるドワーフ族へのお礼といったところかな」
「お前もわきまえてるだろうし、あいつらを介してなら問題はないだろうが、この世に過ぎたるものをもたらすのはかえって毒というものだ」
「そのあたりは承知してるよ。まあ、それをいうなら今のイチ君にもだいぶあてはまるわけだけれどもね」
「こいつの場合は一種の災害だ、もうどうにもならんし考えるだけ無駄だ」
進歩したドワーフについて物申してから、紅茶のおかわりを取りに行ったようだ。
ついでで人のことも災害扱いだ。それから場が落ち着くと。
「にしても、君たちの方はなんていうか……複雑極まりない状況に身を投じてるみたいだね? ロアベア君、紅茶のおかわりを頂けるかい?」
『この頃は白き民が深く絡んで大変っすねえ。サンドイッチもどうっすかヌイス様』
「軽い奴を頼めるかな。まったく、君の影響でウェイストランドのものが転移しただけに飽き足らず、白き民とか言う不定の存在が傍若無人に振舞ってるなんて思ってもなかったよ」
ロアベアにサンドイッチを頼みつつだが、こっちのお話に頭が重そうだった。
「せっかくまた会えたのに厄介そうな顔しやがって」
「実際そうだろう? 都市の下にあった地下交通システムにカルトがいたというくだりが、20kmは直進してるレール二本を通じて危険だらけの未開の地に繋がってたあたりまで飲み込めたけど、ひどいドミノ倒しの現場でも見てる気分だよ」
「その勢いもようやく最後の段まで近づいて来た感じだぞ。いいところに来てくれたな」
「だとしたら私は悪いタイミングで来たんだろうね、あの今晩あたり悪夢として蘇りそうな化け物がここにこないか心配さ」
「しかもクラングルからいろいろ期待されて投げ出せない状況だ、必要なもんはくれてやるから冒険者の皆様であいつら相手に頑張れだとさ」
「見事にこき使われてるね君たち。あるいは試されてるといったようにも見えるけど」
「どっちにせよ根元にあるのは向こうからいろいろ引っ張ってきた弊害だ、やり通さないといけない理由が分かるだろ」
「律儀に向き合ってるあたりは流石だね。なんというか、今の君にぴったりな仕事だと思うよ」
「それ褒めてる?」
「あんな出来損ないのウォーカーみたいなのに一寸の躊躇なく突貫できる人柄っていうのは中々珍しいと思うよ。つまりそういうことだ」
「よし褒めてるな、ありがとう」
「その前向きさは大好きだよ。なんて場所なんだここはは」
ヌイスは俺の抱えた事情にとうとう面倒くさそうな顔の使い方だ。
まことにごめんなさいと一言でかけたが、ロアベアもによによ戻ってきて。
「でもでも、ここがうちらにとっていい場所なのは確かなんすよねぇ……地下交通システムを使えば都市まですぐですし、イチ様パワーで快適っすから。参加した冒険者の皆様も苦労はあれどだいぶお稼ぎになってるっす」
注文の一皿が置かれた。断面にキュウリが垣間見えるサンドイッチだ。
一人分にしては妙に多い量が「軽いやつ」を訴えてる。
「皮肉にもみんなここで儲かってるからな。ちなみに俺だけ未開の地の再開拓をやらされてる気分だ」
「ということは、一時の平和が訪れたあかつきにはこの土地を頂けるかもっすねえ……アヒヒヒッ♡」
「まさかここに住めってか? 冗談じゃねえぞ宿屋の方がパン屋まで徒歩一分以内なんだぞ?」
「なんでパン屋さんの心配してるんすかイチ様ぁ」
ロアベアの言う通り、仮にここに平和が訪れても「なんかその後も任されそう」みたいな感じがどこかにある。
土地の主になれとか正直ごめんだ、ヴァルム亭の持つパン屋へのアクセスの良さには絶対勝てない。
ひとまずによっとする顔にサンドイッチをねじ込んだ、帰れロアベア。
「こうも白き民にまつわる大事に巻き込まれてるのには驚きだけど、一番信じられないのは君がパン屋さんに勤めてたことだよ……」
「ああ、今ならパン焼けるぞ。職場用にマイエプロンもオーダーしたぐらいだ、ほらこれ【キラー・ベーカリー】」
「いやお前、こっちに持ってきたのかよそのエプロン」
「いちクン、それ気に入りすぎだよ……」
でもそんな諸々より俺がパン屋で働いてたことが一番衝撃的だったらしい。
証拠にお給料で買ったカッコいいエプロンを広げると、なぜかヌイスは悲しい目だ。
「私の知ってるシューちゃんは接客もできないド陰キャで、料理が地獄の底みたいに下手なのが売りだったのに……」
「シューちゃんここに連れてくるな、どんな奴だったんだマジで」
「なあ未来のこいつどんな生活してたんだよ、絶対健全じゃねえだろそれ」
「そこは喜ぶべきだよねヌイスさん!? どうしてそんな悲しそうにしてるの!?」
「パンが焼けるシューちゃんなんてシューちゃんじゃないんだミコ君! もはやゲテモノか何かだよ!」
「誰がゲテモノだこら」
「すげえなシューちゃん、お兄さんその一言でなんかどういう生活スタイルだったのか察しちゃったよ」
「ゲテモノ……!?」
挙句にゲテモノ呼ばわりで本人は真剣に悲しんでる。
しかし切り替わりも早い、ヌイスの表情は次第にあたりを見回して。
「……というかね、覚悟はしてたけど男女比率がひたすらにおかしくなってるね。男が3に女が7みたいな構図になってるよ」
「お前が来てくれたおかげで後者に磨きがかかってるぞ」
「やっぱそう一目でそう分かっちまうよなあ、野郎どもがヒロイン陣営に飲み込まれてるもの」
「そう言われてみると、女の人ばかりだよね……」
と、食堂でわいわいやってる顔ぶれを確かめた。
帰還者に向けた軽食とは名ばかりで、料理ギルドが用意してくれたおやつを楽しむ時間と化してる。
どいつもこいつもパンケーキ、それも人外な美少女が勢ぞろいでもはやここはカフェかなんかだ。
『ねえさまがた、コノハは無事ですし新種の白き民とやらの情報もしっかりつかんできましたよ。あにさまは相変わらずバーサーカーでしたしご安心ください』
『良かった! お姉ちゃん、ピナちゃんに運んでもらおうかって思ってたよ!』
『……わたくしも運んでいただこうかと思っておりました。コノハさまが無事に戻られて胸をなでおろしております』
『ふふん、いつでも運べるように準備してたよ!』
『なんで揃いも揃って空飛ぼうとしてたんですか!? あにさまの影響受けてますよね絶対!?』
特に九尾院のロリどもが目に付いたらしい。
次第に俺とあいつらとの関係性に悩んだようだ、姉1に妹が3である。
「MGOはヒロインありきだったからね、プレイヤーよりもずっと多いものだとは分かってたけど、こうも如実に浮かんでると恐ろしさすら感じるよ。男性の肩身が狭そうな社会になってないかい?」
「もう慣れた」
「うん、そうだろうね。いや君、あんなロリサキュバスの弟になってるとか何があったんだいほんと」
「向こうが勝手に姉を自称してきただけだ。そういうプレイじゃないぞ」
「お前もお前であきらめて認めてるんじゃねーよ、あの子本気で姉だと思い込んでんぞ」
「……なんだかわたし、アレク君思い出してたよ。あんな感じだったよね、サンディさんたち」
「アレクの大変さが身に染みてる」
アレク、俺もちっちゃい姉を持つ大変さを理解したぞ。
「呼んだ!?」と気づいた金髪サキュバスに否定形で応えると、眼鏡越しの視線はまだまだ他を見て。
「ショートケーキおいしいですねー! 皆さんが無事に戻ってきてよかったです♪ まさかほんとに新種の白き民が現れるなんて、思ってもいませんでした……!」
そこで皿いっぱいのケーキをぱくぱくするリスティアナの姿に重なった。
イチゴ入りのやつと一緒に俺たちの帰還を喜んでるようだ。口が白く彩られてる。
「……本物の【ドール】だね、彼女も知り合いかい?」
「そんな感じがしてるだろ? お留守番どうもリスティアナ、刀剣のアーツ拾ったけどいる?」
「ふふふっ、今日も大活躍だったみたいですね? ドロップ品はイチ君が拾ったものなんですから、自分で使うなりしないとだめですよー?」
「ほんとは投擲のやつがほしいんだけどな、後で交換出すか」
「それに私だっていろいろ拾って覚えてますからね、いっぱい強くなっちゃいました☆ えっと、ところでそちらの方はヌイスさん、でしたっけ……?」
人形系お姫様の距離感はいつもの面々から、金髪白衣な具合に向いたようだ。
ひょこっと伺いにきた顔にヌイスが口元を拭いてやった。
「私はヌイス、イチ君とタカアキ君とは親しい身だし、ミコ君のことも良く知っている誰かさ。とりあえず口を拭きたまえ、どこにケーキ食べながらご挨拶に来る子がいるんだい」
「にょわにょわっ……」
「にょわにょわ、じゃなくてだね。食べるか喋るかどっちにしなさい、お行儀が悪いよ君」
きれいにし終わって「なんだいこの子」とクールな顔で訴えられた。
「こいつはこっちの世界に来てすぐ知り合ったヒロインだ、いろいろ世話になってるよ」
「どうもー、人形姫のリスティアナです! ヌイスさんはイチ君たちのお知り合いだったんですね~? 眼鏡がとってもクールですっ☆」
「ねえ、なんでやたらと眼鏡を褒められてるんだい?」
「似合ってるってことなんだろ、返事はどういたしましてでいいんじゃないか」
「あっ、もちろん白衣もお似合いですよー♪ 何かお困りでしたら何なりと言ってくださいね? ここにいる皆さまは私の家族みたいなものですから、我が身を持ってお守りしますよ!」
応えはこうだ、揺れる胸をばるんばるん突き出して自己紹介が圧をかけてきた。
リスティアナの積極的な距離感にヌイスはたじたじだ。
「ああ、うん、ありがとう……とりあえず私の眼鏡と白衣に好意的なのは分かったよ。なんだいこの明るさと勢いに満ちた子は」
「見りゃ分かるだろ、お前に好意的なヒロインだ。てことでリスティアナ、仲良くしてやってくれ」
「はーいっ! ところでケーキは足りてますかー? 私がおかわり持って来ますねっ! オーダー入りますっ!」
「頼んでないんだよなぁ……」
話題のお姫様は勢いあまって頼んでもないケーキのおかわりを取りに行った。
「ええ……」と見送られてもお構いなしだ、これで説明は事足りたはず。
「なんていうか濃いね彼女。どんな人付き合いがあったんだい君」
「おいあの子ケーキ持ってくるつもりだぜ、晩御飯入らなくなんぞ。まああんな子ってことで付き合ってやってくれよ」
「り、リスティアナさーん……? わたしの分はいいからね……?」
「いっち~、これおいし~ね♡ そこのおねーさん、さっきあーしたちを助けてくれてありがとね~♡」
今度は入れ替わるような形で制服調の姿が現れた。
皿に乗せたチョコケーキにご機嫌なチアルだ、人懐っこい足取りをしてる。
羽をぱさぱさしながらのご挨拶に「またかい」と言いたげな顔された。
「今度はギャルとヴァルキリーをまぜこぜした子が来たね。どちら様だい?」
「こいつはチアルだ。ここ最近付き合いが深まってるぞ」
「この子も濃いね。どういたしましてチアル君、私はヌイスだよ」
「じゃあぬいぬいだね! 末永くよろ~♡ てかいっち顔広すぎ!」
ぱあっと明るい笑顔でとんでもない二つ名が下された、今日からぬいぬいだ。
「ぶふっ」とタカアキが笑う出来栄えだ、足で小突いてそこまでにした。
「あのさ、初対面の人にすごい名前を付与してないかいこの子」
「おめでとう、名前の数が四文字にアップデートだ。そういうやつだから受け入れてくれ」
「あれれ、もしかしてあだ名気に入らんかった系のはんのー? ごめんね?」
「いや、そういう名前をもらったことが生まれてこの方なかったものでね。とりあえず君とイチ君との関係について教えてほしいものだね」
「じゃあよかった~♡ あんねあんね? あーしはいっちの彼女二号だよ~♡」
と思ったら知らない関係性になった。馬鹿野郎、置いてかないでくれチアル!
唐突のカミングアウトにヌイスも食堂も軽く混乱だ、だって知らぬ間に彼女が増えてるもの。
「……ほんとにここでどういう付き合いしてるんだい、君? アサイラムは不健全な場所だったとみていいのかな?」
「にひひっ♡ 半分冗談だしー? でもいっちと身体のあいしょー抜群なんだよねー♡」
「ちっ、チアルさん!? その言い方だとなんか誤解されちゃうよ!?」
「えー、誤解ってなんなん? どーゆーのか教えてほしいな~♡」
――面倒くさいことになってる。
ヌイスにどう答えようか、少し悩んできゅうりサンドに手を付けた。
「このゲームの設計者のおかげで異性との付き合いが深まってるのが分からないか? そういうことだ」
「きゅうりサンド食べながら面倒くさそうに言うんじゃねーよお前」
「まあ、うん、こんなにヒロインが世に満ちていれば、知らぬ間に陽気で優しいギャルと巡り合うこともあるだろうね。いっぱい友達ができた証拠として受け取っておくよ」
そう聞かせて味わった。ほんのりからしが効いたバターと酸味のついたキュウリが合う。
すると今度は間を縫って小柄な白黒メイドがすすすっと現れ。
「あ、あのっ……はじめまして、ヌイスさま。あたし、だんなさまにお仕えしているメイドのメカと申します……っ! い、いご、お見知りおきを……?」
水色髪さらさらなメカクメイドがぎこちなーくスカートを持っておじぎを決めた。
まさかのメカだった、特に「お仕えしてる」点を強めてる気がする。
い後ろを辿れば、焚きつけたであろうメイドがによによしてる――ロアベアァ!
「……おお、なんという競争率。これはわたしも便乗せざるを得ない、仲睦まじき姿をとくとご覧あれ」
またなんか来た、チビエルフのオリスだ。
たたたっと阿鼻叫喚の図を出し抜くと膝の上に座ってきた。
上目遣いに見上げる顔は得意げだ。きゅうりサンドをねじ込んだ。
「レフレクもいますよー……?」
はたはた何か飛んできた、橙色に輝く妖精さんだった。
人の肩にふわっと座ってヒロイン度が増した。そろそろ誰か助けてほしい。
「空けてっ! お姉ちゃんだよっ!」
今度は後ろからものすごい勢いの足取りを感じた。自称姉のロリだ。
背中に抱き着かれてかわいいドヤ顔いっぱいだ、もう動けない。
「んもーこいつら一斉にくる……」
「ねえイチ君、なんで君ヒロインたちに群がられてるんだい? 公園のシカたちの眼前に放り込まれたおせんべいみたいになってるよ?」
「こっちに来てからずっとこうだ。もう慣れた」
「ええ…………」
横には相棒と戦乙女、そばには新米メイド、膝上にチビエルフ、肩に妖精背中は姉と見るだけで忙しい。
全部ひっくるめて「こんな状況」と訴えるとヌイスはものすごく品性を疑ってる。
「ふふふ♡ なんだかハーレムですねっ☆ よ~し、それでは私も加わりますよ~! はい、あ~ん♡」
キャパオーバーなのによりにもよってリスティアナもきた、フォーク片手に。
ぶっ刺さったシュークリームが突撃してくる――馬鹿野郎それはもうトドメだ。
「とりあえず状況が分かっただろうから助けてくれ、このままじゃシュークリームが拷問に変わる」
総じて俺が元気でやってる、と助け込みで伝えると。
「……いつになっても、君はどこでもわいわい明るくやってるんだね。私が一番知りたかったことさ」
と、何を含んでるのやらヌイスの呆れ顔はすんなりと笑んだ。
一番知って欲しかったことを理解してもらえたようだ。「そうだ」と困りながら頷いた。
「相変わらずこそこそやるのが向いてないだけだ。あと助けてくれ」
「面白いから記念に撮っておくよ。待ってくれたまえ、今スクリーンショットを立ち上げるから」
「大丈夫ですよイチ君っ! あなたならきっといけますからっ! はい、口を大きくあ~んですっ!」
「ほらみろヌイちゃん、見てて楽しいだろ? 毎日こうだぜこいつ」
「リスティアナさん!? それ一口でいける大きさじゃないからね!? っていうかなんでみんないちクン押さえつけてるの!?」
「お前のせいで拷問に変わったぞヌイス、あと助けて――おいっシュークリームぐらい普通に食わせろ馬鹿野郎今はおやつの時間だっ!!」
けれども助けの手を差し伸べなかったことは一生覚えてやろう。
ミコの制止むなしくシュークリームを押し付けられながらそう思った。
まあヌイスが楽しそうにしてたからいいとするか。ふたたびのアバタールと仲良くしてやってくれ。
「……ご主人、遊んでるの?」
「遊ばれてるの」
ストレンジャーのカスタードクリーム添えにぽてぽてニクがやってきた、撫でてやった。
◇
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