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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

知ってる誰かさんの神殿(2)

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「おいおいおいマジかよあの変なのこっち指さしやがったぞ!? 視力がよろしいみてえじゃねえかのっぺらぼうだけど!?」
「嘘……!? こっちに気づいてる……!?」

 あんなもの見間違いであってほしかったが、タカアキとミコまで慌ててもう疑いようがない。
 丘の眺めにあのキモい馬の白さとナイトの鈍色が続々と目立っていた。

「まずいぞみんな! あのひょろひょろしたやつらと巨人も……いや全部こっちへ向かってる! どいつもこいつも動きに迷いがないぞ!?」

 それだけじゃなかった。クラウディアの驚く声が今の答えだ。
 遺跡周りのどこか神秘的だった風景も台無しだ。
 白き民の大なり小なりの輪郭が、俺たちめがけて一直線に動いている。

「はぁっ!? なんでコノハたちに一切躊躇なく突撃してるんですか!? 判断早すぎますよねあいつら!?」
「えっ、まじ……? すっごい来てるんだけど!? みんなこっちにまっしぐらなんだけど、これどゆこと!? まさかあーしたちバレちゃった!?」
「すごい勢いで迫ってる……!? こんなに離れてるのに……!?」
「おっきいのも来てるー……に、逃げる? 逃げるしかないよね?」
「完全に捉えられてますね、私たち~……ここは退いたほうがいいんじゃ~」
「くそっ、逃げても追いつかれる! お……応戦するしかないよな……!?」
「敵が! 敵が突っ込んできますよ! どうしますか!? 逆に突撃しますか!?」

 その効果は抜群だ、チアルたちの可愛らしい声がパニックを起こしてた。
 周囲が混乱でもつれる間にも、目に映る白さはぐんぐん大きくなっていく。

「慌てるな貴様らッ! 地形の起伏に身を隠せ! あいつらの機動力はこちら側の地形と相性が悪い、ここで迎え撃つしかないッ!」

 そうでもないやつもちゃんといた、騒ぎを一刀両断するようなエルの一声だ。
 凛々しい声でおっしゃる通りだ、俺たちは土地の持つ高低差の陰に隠れてる。
 ということはあの騎兵の突撃を一回だけやり過ごせるわけだ。

「これもう団長たち、ここらを中心に戦うしかないよねー……イチ君たち来てくれてよかったと思う、みんな迎撃だ~」
「幸いこっちは地形が敵の攻撃を防いでくれてますからね。いち君出番ですよ、あんなやつらやっつけてしまいなさい」
「みんな、陰に隠れて迎え撃つよ……! たぶん足の速い敵はわたしたちの側面を狙って来ると思うから、囲まれないように左右に備えて! 魔法とか使える人は近づいたら打ち込んで!」

 さすがは名のあるクランってところか、フランとセアリに続いてミコの指示が広がれば落ち着いた。
 ミセリコルディアの冷静さに新米冒険者六名は戸惑いまじりで動いたようだ。
 遠く向こうには一塊になった馬乗りたちが直進中なのが見える。

「聞いたなお前ら? まあなんだ、いろいろ驚いたけどぶちのめせば全部同じだ。今日も今日とて状況開始ですよっと」
「ん、分かった」
「あの前衛的なお馬さん、カサカサ走ってるのにけっこう早いっすねえ。戦場の作法にならって迎撃っす~♡」
「こちら側の土地の形に構わず突っ込んでくるあたり、やつらはまだ不慣れかもしれんぞ。みんな、ミコたちの言う通りここで落ち着いて迎え撃つんだ」
「マジでやるんか……さっき練習しといてよかったと思うよ、お兄さん。しょうがねえ今度は動く的でも撃つかー!」

 もう一つ落ち着いてる連中もいた、『ストレンジャー』に縁のあるやつらだ。
 逃げ場もない以上、ここらの総意は売られた喧嘩を買ってやる路線だ。
 そう定まってすぐ、敵の動きを前に照準を調節してると――

「敵が別れましたよ! ほんとに左右から来るつもりですよ、馬乗りのやつら!?」

 すぐにコノハが叫んで教えてくれた。騎兵の一団の動きに変化がある。
 馬鹿正直な突っ込み方から急転換して、別れた半々でこちらの右左を挟むように動き出してる。
 代わりに正面からやってきたのは、巨人とのっぽたちの大きな歩幅だ。
 俺たちを本気で潰そうと、歩きづらそうな地形をずんずん走破してる。

「マジで分かれたな……タカアキ、ロアベア、ニク、クラウディア! 右側いって撃ちまくって勢い削げ! 正面から来るところにお見舞いしてやれ!」

 考える間もなくすぐに身体が動いた。
 ストレンジャーズの大部分に「行け」と手ぶりを込めて右へ送る。
 ついでにコノハも手招きして、俺は迎撃体勢のそばを駆け抜けていく。

「いちクン、やれる!?」

 小銃に初弾を込めて左へ進む途中、ミコが尋ねてきた。
 信頼してくれてる顔だ、もちろんと頷いた。

「そのつもりだ、ちょっと左側迎え撃ってくるから反対は任せた。コノハ、一応ついてきてくれ」
「うん、おねがい! みんな聞いて、敵の本命はたぶん正面の大きいのだと思うよ! 騎兵の壊滅を優先して!」
「ちょ……あにさま!? 迎え撃ってくるってどうするつもりなんですか!?」

 取り仕切る相棒から距離を置けば、護身用のタヌキガールは急ぎ足でついてきてくれた。
 見るに左側面を狙う連中は大ぶりな動きでこっちに直進してる。
 だからこそいいんだ。説明はともかくその正面に向かって急いで。

「どうするって? ぶち殺すだけだ。なんかあったら守ってくれ」
「えっいやぶち殺すって簡単に言ってますけどね……!?」

 地形から身を乗り出して、胸元の土に小銃を置いた。
 照準器を覗けば、馬モドキに揺らされる白き民がレティクルと重なった。
 騎士様の乗馬センスは大したもんだと思う、あんなキモい走りの上で上手にバランスを取ってる。

『ワーオ、マジで来たぞ! 撃て撃て撃て撃て!』
『いっぱい来た……! みんな構えて!』
『お近づきになる前にお出迎えっすねえ、あひひひっ♡』
『あんまり身を晒すんじゃないぞ! あいつらが他にどんな手を持ってるか分からんからな!』

 あいつらもおっ始めたか。向こうで308口径の銃声がばばばっと重なった。
 まずは一番手前だ。手綱を掴んで大きな曲剣を振り上げるナイトをエイム。 
 最初の一発は胸元やや上だ、狙いが落ち着くと同時にトリガを絞る。

*BaaM!*

 撃った。出来損ないの馬から標的が派手に転んだ。
 でもまだ生きてる。喉あたりを押さえつつよろよろ動く――もうちょい下か。

「……命中だな、次」
「あ、当たった……!?」

 すかさずボルトを動かした、飼い主を失ってもまだ走る白い化け物を捉える。
 ワオ、裂けたように開いた口が笑ってるようでキモい。そこを狙って発砲。
 爆進中の"シロイヤツ"がぐらっと派手に転んだ、撃破。

「まず一匹!」

 次はどいつだ。その後ろ、落馬したナイトを飛んで避けたやつを見つけた。
 青く溶けた仲間の代わりにスピードを一段早くしてくるも。

*BaaaM!*

 照準に重なる四足歩行の顔を撃つ、地を這う格好があらぬ方向へずれた。
 次弾を込めると潰れるようにつまづく馬と、投げ出された相棒の仲睦まじい様子だ。

「二匹だ!」

 さあ次だ、消えた仲間の後ろからまた騎兵が続く。
 今度は鎧をきた白き馬だ、その背中で白き民が狼狽してる――照準を落とした。
 騎士が欲しけりゃ馬を射よだ、ばぁんっと撃った。
 兜ごと抜かれた白き馬がみっともなく横倒れになった、お得なこった。

「三匹!」
「うそ、コノハのあにさまつよすぎ……!?」

 呆然と見てる狸系女子を着弾の証拠に、また次を探った。
 クソ汚い白馬の騎士もいい加減気付いたか。勢いを落として、もっと横に回り込もうとしてる。
 進行方向に指先一つ先読みを乗せて横顔を撃つ、ダウン。

「……四匹!」

 重たい身体が落ちるのを見てボルトを動かした、お次はどなた?
 だけど突っ込んでくる騎兵の姿は見えなかった。
 強いて言うなら、あの世に突撃した同類を前に馬を迷わせるナイトがいた。
 なので撃った、馬が倒れた、落ちた騎士がよろめく姿へ更にもう一発。

「――五匹目だ! ××××野郎!」

 オーケー、任された騎兵は全滅だ。
 右側の様子に狙いを向ければ、そこは乱れ撃ちとばかりの弾幕だ。

『畜生、狙い辛えなッ! 急に動き変えやがってシロイヤツめ!』
『ん……ッ! 全然当たらない……!』
『これ当たってるんすかねえ、どんどん来てるっす~』
『落ち着いて狙うんだぞ! 適当に狙って撃っちゃだめだ!』

 銃だのクロスボウだのの「まぜこぜ」が、数に物を言わせて迎え撃ってた。
 効いてるみたいだ、意気揚々な騎兵どもはどう突撃しようかと足が渋ってる。
 次は一足遅れてどしどしランニングしてるのっぽだ、次の迎撃の余裕が取れたな。

「うわあ、ほんとに全滅させてますよこのあにさま……お見事です、流石ミコねえさまに任されるだけはありますね」
「倍来てたら間に合わなかったかもな。あっちも大丈夫か」

 約束通り仕事は果たした、弾倉に弾をちゃこちゃこ込めつつ戻った。
 先には斜面に隠れて身構えるヒロインたちがいた、だいぶ落ち着いてる。

「ありがとういちクン、騎兵はどうにか抑え込めてるよ!」
「本当に壊滅するとはな、有言実行をこうもやるのは清々しいというか……」
「あっ、おかえりイチ君。ミコの言う通りほんとにやっちゃったね……とにかくぐっじょぶ、タカ君たちも抑え込んでくれてるよ。でも団長、銃火器ってずるいと思う!」
「セアリさん思うんですけど、ミセリコルディアに新メンバー増やすならいち君入れちゃえばいいんじゃないんですかね? いえクラン名的に慈悲の正反対いってますけど言われるがままに完遂するとか仕事人すぎません?」

 良かった、ミセリコルディアのクセ強きやつらはだいぶ余裕だ。

「どういたしまして。あいつらのデザインが気にくわなかったからよく狙えたぞ」
「確かにさっきからずーっといやそうな顔してましたしね……コノハも嫌ですよあんなの、きもいこと極まりないです」
「あとは夢の中に出て仕返ししないことを祈ろうか、あれ考えた奴は死ね」

 コノハをちょこちょこ連れ回しながら「倒したぞ」と小銃を掲げておいた。
 二人一緒の早足で、陰に身をひそめる集まりへ落ち着くと。

「いっちすごーい♡ 一発も外さなかったじゃん、実は凄腕の狙撃手だったん~?」
「えええ……イチ先輩、涼しい顔して帰って来ちゃった……」
「ぽかーん、なんだけどー……? あっさり撃退しちゃってるー……」
「出番ありませんでしたね~、相変わらずつよつよですね~」
「あの人だけ違うゲームの登場人物みたいになってね……? いや、それより敵来てるから集中しないと集中。お見事先輩」
「これがキラー・ベーカリーなんですね! 私もパン屋で働けば強くなれるんでしょうか!?」

 チアルたちが褒めてくれた。どんどん近づく巨大さを前にしてやかましい。

「暇にさせて悪かったな、んなことより本命がそろそろ来るぞ。あのでっかいのが……」

 それより敵だと正面を促した……時だった。
 撃ちまくりの右側から、そろそろ死期が間近だった騎兵が急に路線を変える。
 最後の一体だ。狂った馬は防御態勢を取ったナイトごと突破してきた。

「あにさま! 油断大敵ですよっ!」

 そこへ反射的にトリガを向けたが、コノハの動きがずっと早かった。
 身を乗り出してクナイを投擲、向こうが飛び跳ねようと力んだ寸前に落ちていく。
 キモ馬が走り出す格好のまま停滞した――【シャドウスティング】の影響だ。

『Malamiko! Huraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa――!?』

 おかげで背中の持ち主は不幸な有様だ、急停止についていけずに投げ出された。
 飛来する鉄の塊と化した白き民がこっちへ転がり飛んでくる。

「……来たなぁ!? おおおおおおぉぉぉぉらああああああああああぁぁぁッ!」 

 チアルたちの誰かが立ちふさがった。
 四肢の構造と頭の角が羊らしさを説く、白くてふわふわな姉ちゃんだ。
 不本意な体勢で飛び込んできたナイトを受け止め、かと思えば体をぐぐっと捻り。

 ――ごしゃんっ。

 さぞ重たいそれを、そばの斜面めがけてパワフルに投げつけてしまった。
 背中から豪快な着地を強いられたナイトが『Oaah!?』と苦し気な声を上げた。
 追撃の熊ッ娘が「おら~!」と斧を叩き込みかけるも、暴れて蹴り飛ばされる。

「がぁっ……!? は、早く仕留めて……!?」
「退けッ!」

 死に物狂いなナイトは腰の短剣に手をかけたところだ、そこへ割り込んだ。
 起き上がりかけた姿に逆さに持った小銃で銃床を振り落とす。

『Ne――ッ! Ne-Proksimigu-Al-Mi, Vi! monst……』

 そいつの顔面を兜ごと叩き割った。がぁんっと鈍い衝撃がトドメだ。

「オーケー仕留めたぞ、そこの熊と羊なやつ大丈夫か?」
「お、お助け感謝します~……突っ込んできてびっくりしました~」
「どーも先輩、つかあたしたちより強くね? 銃で殴り殺したよこの人」
「横取りして失礼。それよりでかいのこっち来てんぞ、気を付けろ」

 熊&羊のヒロインは緊張半分、安心半分で次に身構え直したようだ。

「うーわ……いっち容赦なさすぎー……まじ鬼神かなんかなん?」
「初対面の頃から巨大ゴーレム二匹も仕留めてますからね、あにさま……白き民が気の毒です」
「えっなにそれ? なんかあったんコノハちゃん?」
「冒険者ギルドで語り継がれてる『暴走ゴーレム事件』の話ですよ、思えばあの頃からやばい人でしたね……」

 ついでにチアルとコノハが人の姿に話を重ねてる。
 こんだけ喋る余裕があるなら大丈夫か、今度はまっすぐ迫るデカいやつらだ。

「邪魔なやつは片づけたぞ、どうだエル」

 青く溶けた奴を後にして、手早く具合を尋ねた。
 するとエルは感心したようないい笑みだ。

「貴様がいると安心できるな――全員、正面の敵に備えろッ!」
 
 それで全員の意識が整えば、見る先でがまさに迫る場面で。

『RrrrOOOOOOOOOOOOOOOOO……!』

 舌の根元を巻くような高い叫び声を吐きながら、それが急に停まる。
 手には背中から抜いたばかりの投げ槍があった。
 同時にどうしてあんなに腕が伸びてるのか理解した――ノルベルトでも難儀しそうなデカい獲物を、深く振りかぶってる。
 無駄に長い腕を生かす投擲フォームに、【感覚】が嫌なものをぞわぞわ感じた。

「お前ら、後ろに下がれ!」

 考えるよりも先だ、起伏の陰から飛びのいた。
 周りもほんの一瞬遅れて続いたようだ。
 その場からここの総意が転がるように距離を置けば。

 ずしゃっ……!

 俺たちが盾にしていた地形から、特大の穂先が豪快に生えてきた。
 土の散弾までお見舞いしてくれるおまけつきだ、ヘルメットが殴られた。
 巻き込まれたチアルが「ひゃあっ!?」とミコに抱き着くほどの威力だ。

「う、うわあ……!? なにあれ、なんかぐっさりきたよ!? あのひょろっとしたの、やばめなやつだった……!?」
「地面を貫いてる……!? みんな、あの白き民の投げるものに気を付けて!」
「……なんだこの威力は!? 前に出過ぎるな! あいつの投げ槍は危険だ、絶対に当たらないようにしろ!」

 エルもこれには参った様子だ。代わりに身を乗り出せば――

『RrrrOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOoooooッ!』

 また別の場所で続く二匹目が何かを振りかるのが見えた。
 ひょろっと長い指が握りしめてるのは槍じゃない……大きな石だ。
 おい、まさか。
 嫌な予感に足が動いた頃には、そいつは遠慮なく振りかぶっていて。

「あっ頭を下げて散らばれ早くッ! やべえぞ畜生がああぁぁッ!?」

 身を隠すタカアキのところまで逃げ込めば、すぐ後ろが土色に爆ぜた。
 そのはずみで、ごつごつした石の塊がちょうどさっきの場所を転がり過ぎていく。
 向こうは隠れてようが当てるつもりだ。逃がさないという意思表示かもしれない。

「なんだってんだ、あの高身長なやつ!? 地面ぶち抜くわ岩投げてくるわ巨人よりやべーんじゃねえのか!?」
 
 こっちの反撃は伏せたタカアキの文句だ。
 でも向こうは慈悲をどこかに忘れたらしい。頭上で重さが「ずおっ」と掠めた。
 不吉な音の正体はウォーカーでも仕留めるのかとばかりの投げ槍だ、後ろの地面に深々刺さってる。
 近くには遺跡から剥がしたと思しき石材が転がってた――んなもん投げんな!

「くそっ! ノルベルト連れてくりゃよかったマジで! 今日は俺たちの厄日にしないか!?」
「最悪の記念日ってとこには同意してやるが今それどころじゃねえだろ!? どうすんだよ!」
「弾切れ待つぐらいしか思いつかねえよクソが!」
「ついでに死人出ないことを祈る必要もあんぞ!? どんどん近づいてやがる!」

 俺からも文句をくれてやると、追加の投げ槍がまた斜面を貫いた。
 背の高いやつらとは違うずんずんと盛大な足踏みも身近に感じてきた。
 身動きを封じて巨人が接近させてきたか。さあどうするとみんなでお互いの閃きを探るが。

「……みんな! あーしが囮になるから敵に近づいてっ!」

 誰かがばさっと翼を広げるのを感じた、チアルが飛び立とうとしてる。
 馬鹿野郎、何考えてんだあいつ。
 そう思った矢先、この場唯一の戦乙女は勢いよく空へと羽ばたいてしまい。

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!』
『RrrrrrOOOOOOOOO! Ne-Lasu-Gin-Wskapi!』
『Pafi-Malsupren! Pafu! Pafuuuuu!』

 すぐにあっちの雰囲気が空飛ぶ陽気な人柄に見惚れたのが耳に届いた。
 追って乗り出せば、巨人ものっぽも見上げた先のチアルに狙いが変わってた。 
 長い腕からの投げ槍がびゅお゛っ、と尋常じゃない音であいつのすれすれをいった――当てる気だ。

「あの馬鹿……くそっ、囮その2だ! コノハ! 直撃しなくていいからあのデカいのにポーションぶん投げろ!」

 でもおかげで突破口は見えた、それなら俺も付き合うぞ。 

「あにさま、それ突っ込む気満々の発言ですよね!?」
「死なない方のな! カバー外して「3」数えて投げろ!」
「正気ですか!? ええい、コノハなにがあっても知りませんけど、ちゃんと付き合いますからね!?」

 白テープつきのクナイを抜いて呼び掛けると、あいつはなんやかんや例のポーションを用意してくれた。
 この間にも向こうでのっぽたちが槍を投げて、どすどす近くを貫いて俺たちを封じてくる。
 しかも遺跡の光景からソルジャーやらが白く続いてるのだ。
 早いうちにこの厄介なを倒さないとまずい。

「ミコ! かき回してくるから続け!」
「えっ、ま、待っていちクン!? かき回してくるって……ほんとに行くの!?」

 ちゃんとミコたちにもこれからを伝えた、これで準備万端だ。
 小銃に銃剣を装着、突撃の備えでその場を駆けあがり。

「3――2――1――!」

 身を晒す頃には、背後のカウントが終わる時だ。
 柄付きのお薬が頭上をひゅんひゅん追い越し、白き巨人の足元へ赤い軌道を描き。

*zBaaaaaaaaaaaaaaNgg!*

 そこに強烈な爆発が赤く立ち上がる。
 手榴弾とは違う炎の広がりが、丸太みたいな片足を確かにすくった。
 これがイグニス・ポーションか。足元の爆発に巨体は転んでのっぽが気を取られる大戦果だ。

「ひぁぁっ!? あ、あにさまいまですっ!」

 いまだ、そいつらの意識へ踏み込む。
 爆発に乗じた駆け足で、投げ槍の狙いに戸惑うひょろ長いやつを目指した。
 特大級の転倒姿を通り抜けると、投擲の姿勢を崩さぬまま見下ろす白い顔と目が合う――

「……おい、来てやったぞこの××××」

*Baaam!*

 迷うことなく銃で見上げ返した、308口径弾一発分のお近づきの印を込めて。

『RRRRRRRRRRROOOOOOO……!?』
『RRrrrOOOOOOOOOOO! Kreinto! Mortigi-Rapideeee!』

 どうもお気に召さなかったらしい、顔を抑えてぐらんぐらん揺れて怯んだ。
 適度な距離感で布陣してたのっぽたちが一斉に俺を狙うのを全身で感じた。
 目の前のやつなんて丸盾とがっしりした槍を構える切り替えの早さだ。
 そうだ、それでいい、狙いが集まったところでクナイの信管を起こす。

*Paaaaaaaaam!*

 足元に叩きつけた、アーツの反応で眩い光と濃い煙が瞬く間に広まった。
 【ニンジャ・バニッシュ】にスモーク・クナイの合わせ技だ、これで俺は煙幕の中で透明になった。

『Malaperis!? Trovu-Gin!』
『rrrrrrrRoooooOOOOOOッ!? Mi-Ne-Lasos-Vin-Eskapiiiiii!』

 果たし効果が通用するか不安だったが、煙を抜ければ結果は目に見えた。 
 のっぽたちは閃光と立ち込める煙に動揺したまま誰かを探してる。
 中には目くらましの中を槍で突き探るやつもいた、細長いやつらは全部で七、警戒心が足元に移ってる。

「またファースト・キルだ、悪いな!」

 チャンスだ。起きようとする巨人に近づきつつ、手近なのっぽに狙いをつけた。
 ミコたちへ盾と長槍を構えだすタイミングだ。そこへ小銃を持ち上げ。

 ――ぶん投げたッ!

 白くて平坦な表情へと【ピアシング・スロウ】を込めて、投げ槍風にお届けだ。
 びゅぉっと鈍い風切り音を伴ってメッセージが伝わったらしい。脳天あたりに銃床が生えてる。
 銃剣をたっぷり咥えたそいつはふらふら膝をついて倒れた。ちなみに込めた言葉は「くたばれ」四文字だ。

『WOOOOOOOOOOOOOOOO――! STURMIIIII!』

 あたりが慌てふためくと、さっきの巨人が四本腕で起き上がろうとしてた。
 こっちもアーツの効果が切れた、今のうちに仕留めてやる。
 マチェーテを抜いて肉薄しようするが。

「うおおおおっっっしゃあああああああああああああぁぁぁぁ! 私がッ! 一番乗りですぅぅぅぅぅッ!」

 突然だった、ものすごくうるさい叫び声が丘に木霊した。
 それは駆け足をばかばかとやかましく響かせ、こげ茶色の髪色を揺らしてそばを過ぎって――

『rrrrRoooOOOOOO……!?』

 揺れる馬の尻尾で分かった。敵陣を抜けて奥ののっぽに突撃するやつがいる。
 膝下はさながら馬のよう、なんなら頭の上も馬耳なヒロインだ。
 そいつは籠手つきの両腕で身を守りつつ、ただひたすらに走ってた。

「うううぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! これが、本物の馬パワアアアアアアアアアアアアア!」 

 いや、うるせえ。
 もっと頑張ればクラングルまで届きそうな雄叫びを込めて、鉄砲玉さながらの馬系ヒロインがのっぽの足へ突っ込んだ。

 があ゛あ゛ぁぁぁんっ……!

 鼓膜が震えるほどの衝突音が汚く響いた。
 そしてどういうことか、三メートル以上はある白き民が後ろに吹き飛ばされ。

『RRRRRRッ……rrrrOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?』

 僅かに浮いたかと思えば、背中からフランメリアへどっしりダイブだ。
 土埃を打ち上げるほどの強い転び方にのっぽの群れも気を刈られてる。
 あいつ正気か、体当たりで転ばせやがった!?

「どうです! これが馬頭ですっ! 困った時は前に進むのが私のモットーです、これが日々の鍛錬の成果ですね!」

 極めつけはぶっ倒した手前でものすごい得意げなドヤ顔だ、んなことしてる場合か馬鹿野郎。
 しかしいい突破口になったらしい。ヒロインたちの足音が忙しく追ってきた。

『WOOOOOOOOOOOOOOOO……!』

 いやそれどころじゃなかった、目の前の巨人がぐぐっと起きた。
 ポーションの爆発力で片足のバランスを歪にしたまま、苦し気な起き上がり方だ。
 急いでHE・クナイを抜くもXLサイズの直刀が持ち上がり――

「うりゃ~~~~~っ!」

 と思ったら頭上から可愛い声だ。チアルが剣を突き出して落ちてきた。
 新調した得物が脳天をぐっさり飾って、起きかけの巨躯がまたバランスを損ねる。

『WOOOOOOOOOOOOOOOOッ……!?』

 が、しぶとい。身をよじって振り払おうとする生命力が残ってる。
 チアルが「わわっ!?」と揺さぶられた。迅速なトドメが必要だ。

「チアル! 離れろ!」

 「前に進め」のモットーどおり、クナイを指に引っ掛けて足元へ肉薄。
 背後でちゃんと続いてきたやつらがわーわー突っ込んでくるのも感じた、いい具合にきてくれたか。
 あいつがばさばさっと飛んで離れれば、白き巨人は迷った末に俺を選んだようだ。

「――うおおおおおおおおおッ!」

 直刀が払われた、深いスライディングで滑って回避。
 その勢いで懐に滑り込んだ。
 眼前に迫った太い足に飛びついて、すれ違い様のマチェーテを叩き込む。
 ゴム質を斬る確かな感触だ。頭上の巨大さが鈍くぐらつく。

「お近づきの粗品をどうぞ! サプライズだ××××野郎!」

 すかさずクナイの信管を弾いてもう片足にブッ刺した――後は分かるな?

*zzZbaaaaaaaaam!*

 そのまま股間を走って抜ければ、心温まる置き土産が後ろで爆発だ。
 が前のめりに倒れるのを背に感じた。後はとどめの心配だが。

『いっち! あーしにまかせろし~?』

 戦乙女がいい見計らいで飛んでくる――すぐ上をきわどい白が通った。
 がんがん剣を叩き込む音が続いた。軽い口調の割にえぐい最期を与えたらしい。
 これで巨人を仕留めれば、晴れた煙の先で華やかなやつらが乱戦に持ち込んでいて。

「いちクンもチアルさんも無茶しすぎだよ!? みんな、槍の間合いに気を付けて! 【セイクリッド・プロテクション】!」
「まったく、貴様を見ているとひやひやする……! 少しは自分の身を大事にしろ馬鹿者!」

 雪崩れ込んだミセリコルディアが手近な一体に連携を決めてる場面だった。
 ミコの防御魔法を受けたエルが接近、そこへのっぽの長槍が薙ぎ払う。
 長腕から想像できない振りの早さだが、がぎんっ、と青い盾に弾かれた。
 あいつの機動力はそれを逃さない。「てえいっ!」と力のこもった振り――【チャージドスマッシュ】で片足を叩き斬り。

「なんか最近、団長たちの周りって突撃する人ばっかだよね!? これイチ君のせいだと思う!」
「そんなこと言ってる場合ですかフランさん! それよりさっさと片付けますよこのひょろひょろしたの!」

 追いついたフランとセアリが素早く続きにとりかかった。
 くるりと踊るようなステップを乗せて穂先がもう片足を叩く、敵が膝をつく。 
 回り込んだワーウルフの脚力がそれを足場にすると、デカケ……膂力たっぷりな蹴りが白い頭を潰した。相手は死ぬ。

「こんなことしてるから九尾院で種族「鬼」とか言われてるんですよあにさまは!」

 起伏の裏から飛び出したやつらが逆に押していく流れが出来上がると、コノハが身軽に追いついてくる。
 道中狙ってきた大きな穂先をひょいと避けて、アクロバットなままにクナイをどこかに放った。
 槍で追いかける細長巨人にお返ししたらしい、高い頭が顔を抑えて怯んだ。

『もらったー!』

 よし、またもいいタイミングでチアルが降りてきた。
 戦場を自由に駆け巡るついでにの首裏をぶったぎっていった――震えて力なく倒れた。

「なんかウェイストランドでもそんな呼び方された気がする! えらいぞチアル!」
「わーい♡ やったねいっち! あーしまたやっつけた!」
「お前周りから無茶するなって言われてないか!? あいつらの撃墜数が一つ増えるところだったんだぞ!?」
「いやあにさまも大概過ぎますからね!? そんなことより奥からソルジャーとかわんさか来てますよ!?」

 気づけばそこらじゅうで、冒険者がのっぽどもを取り囲んでの白兵戦だ。
 想像以上にきびきびした動きで放たれる巨槍だが、みんな避けるなり防ぐなりでうまくやり過ごしてたらしい。 
 戦乙女と狸少女をそばに次へ移ろうとすると敵を感じた、お手すきのやつが槍と共に迫ってくる。

『RRRRRrrrrrrOOOOOOOOOO!』

 そいつは自慢の歩幅で距離感を埋めると、途中で腰を落として払ってきた。
 穂先と土煙がぞりぞり迫ってきた。俺たちは動いた。

「あぶねっ……!?」
「ほっ、と……!」
「わわっ……あぶぶぶ!?」

 相手を見据えてバックステップ。目の前でコノハが跳ね避けて、あるいはチアルが飛んでしまえば見事に空振りだ。
 構え直してからの叩きつけもくる。横に跳ねてかわす、地面が小さく爆ぜた。

「――ご主人、ぼくも忘れないでね」

 その隙に駆けつけたニクが、食い込んだのっぽの長槍を足場に上っていく。
 そいつが突然の邪魔者に『RRRRRrrrrrroooo!?』とたじろぐも遅かった。
 振り上がる柄をすたすた辿り、その顔面へと槍もろとも突っ込んで。

*Baaaam!*

 頭をぐっさり刺突――からのゼロ距離仕込み銃だ。誰に似たんだか。
 手痛い一撃に細長き民が必死に振り払うも、ニクはしたっと降りてきた。
 敵は段々と苦しみながら青く溶けた。ぐっどぼーい。

「お~、今のすごくね? 鮮やかめなお手並みじゃん!」
「ニクちゃん、なんかあにさまに似てきてませんかね……」
「今の光景は忘れられないだろうな。援護どうも、よしよし」
「んへへへ……♡ 次はどいつ?」

 愛犬は尻尾をふりふりして撫で待ちだ。撫でてやった。
 四人で次の獲物を探し求めると、次は308口径の連続した銃声がついてくる。

「こいつら頭とか狙えば怯むぜ! 投げ物の威力はともかくそんなに大したことねーかもな!?」

 タカアキが合間合間に射撃を挟みながら合流しにきた。
 新米冒険者たちが囲むほっそり巨人に向けての嫌がらせだ。撃たれ戸惑ったところへ熊ッ娘の斧が足を伐採した。

「そのための騎兵だったんだろうな! それが俺たちのおかげで台無しだ!」
「見事にはまったわけだよ、あんなキモくてやべえのも銃の前には無力か」
「イチ様ぁ、落としものっすよ~」

 あとメイドもご一緒してる。途中で拾った小銃を丁重に渡された。
 どうもと受け取れば、すぐそこで白きのっぽがミセリコルディアの四人がかりからこっちへ後ずさり。

*zzBaaaaaam!*

 俺たちに矛先が変わろうとしたタイミングで白い横顔が爆発した。
 頭の機能性を損ねるような火力に次もなく崩れた、この小さな炸裂は――

「こいつらは間合いさえ気をつければ苦戦する相手じゃないぞ! それより遺跡から来るやつらが厄介だ!」

 やっぱりか、クラウディアがクロスボウを手にすたすた駆け寄ってる。
 得意な間合いを次々に潰された新手は残りわずかだ。
 あの灰色がいた遺跡からは軽装の白き民が何十と迫ってた。残るは下っ端か。

*ずずんっ……!*

 そう思った矢先にまた重々しい地鳴りだ。
 音の発生源にもしやと思えば、丘の上にまた白き巨人の輪郭だ。
 それも二体――いい加減にしろクソが!

「なるほど、本当に厄介だな」
「うーーーーーわまた増えたよ……気軽に呼ぶんじゃねえよクソ野郎が!」
「ん、また来た……!」
「お~、ぽんと出てきたっすね。お屋敷のみなさまへのいい土産話になりっそうっすねえ、あひひひっ♡」
「巨人召喚されてるじゃないですか!? お代わりもういらないです帰って下さい!」
「なっ……卑怯だぞ!? まさかあの灰色の、また巨人を呼んだのか!?」
「こうなりゃムキになってる証拠と思え。上等だ、やってやるよ」

 巨人のおかわりにソルジャーの群れとこっちも愚痴が口々だ。
 第二ウェーブとはまだ距離がある。小銃から照準器を外して弾倉を交換した。
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