魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

狂った射撃に訓練はいかが?

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 しゃこっ。
 左手で支えた小銃からボルトハンドルを引くと、小気味のいい音がした。
 押して戻して308口径弾を装填、手前の照準のと人差し指の感覚を重ねた。

「いいかお前ら。当てたかったら正確に狙って撃つのは当たり前だけど、大事なのは指づかいだ。トリガを引く時の指の感覚がそのまま狙いになると思った方がいい」

 たった今口にした通り、トリガの感触と向こうの景色を合わせた。
 テーブルを追い越す銃身の先に森の風景が遠くあった。
 うっすら残った木々の前に白い人型が並んでる――ハウジングで作った的だ。

「指ねえ。じゃあ指先で狙うようにすりゃいいのか?」
「敵に引き金を向ける感じっすね。遠くを狙うのけっこう大変っす~」

 凸型の上に白い姿を置いてると、横目に小銃を構える二人が触れる。
 視線を戻して深呼吸、手振れを押さえて狙いを整え。

「そうだな。俺に教えてくれた奴は「指をさすように」って言ってたけど、こいつをもっと直感的に言えば人差し指の第一関節の線だ。ここで敵の方を向くように意識すればすぐに撃てる」

 そう伝えてからトリガを引いた。

*BaaM!*

 火薬の音がよく響いて、衝撃が銃床をぞわぞわ這ってきた。
 100mほど遠ざかった白き民もどきがぐらっと揺れる、ソルジャー撃破。

「ヒット、頭に当たったよ」

 そばで双眼鏡を覗いたニクが尻尾をぱたぱたしてた、撫でてやった。
 真似して見るにゴム製の敵は額をぶち抜かれたらしい、ひどい話だ。

「おいおい……けっこう遠いってのに、当たったら嫌なところに一発目で直撃させるかねえ普通。しかもスコープもなしだぜ?」
「お頭に命中っすねえ。いとも簡単に当てるとは流石イチ様っすよ」
「ちょっと撃てばすぐ慣れるぞ。小銃は拳銃とは違ってちゃんとで構えればブレないからな、落ち着いて狙って撃てば大体は当たるようになってる」
「そもそも三点ってなんだよ」
「そこからかー。要は身体で銃を受け止めて、反動が正しく流れるようにコントロールするんだよ。俺の構え方真似してみろ」

 俺は隣の様子に「こうだ」と一例を見せながら教えた。
 小銃をしっかりと保持して、木製のハンドガードを掴んで、銃床は肩で受け止めて全体を支える。
 こうして保持すれば4㎏以上はある銃もブレないが、拳銃だったら話は別だ。
 オートマチックにせよリボルバーにせよ、ああいうのは使用者の腕だけが頼りだ。

「確かにそうだな、こうやって抱え込むように撃つからそんなに狙いがブレねえや。いやだからってあんなちっちゃい的にやすやす当てれるか?」
「拳銃だったら至近距離はともかく、遠くなんて狙ったらブレブレっすからね。でもうちこういうのあんまり使ったことないっす~」
「まあとりあえず撃ってみろよ。最初は無理せず25mぐらいのやつからだ、胴体に当てて着弾の感触を掴め」
「もっとお兄さんにアドバイスしておくれよ、やればわかるじゃ無理だぜ」
「じゃあそうだな、あの的全部お前の嫌いなやつだと思え」
「よっしゃ全員ぶちのめしてやるぜ。俺のこと馬鹿にしたコンビニ店員の頭ぶち抜いてやる」
「まだ根に持ってたのかよお前」
「なんかあったんすかタカ様」
「なんかあったらしいぞ」

 次弾装填しつつ「どうぞ」と的をすすめると、二人はさっそく撃ち始めた。
 銃声と装填音のばんばんかちゃかちゃとしたASMRが即席の射撃場を漂った。
 タカアキは光学照準器を頼って宣言通りに身近な敵を仕留めて、ロアベアは不慣れな小銃でどうにか当ててるようだ。

「……まさか俺が教える側になるなんてな」

 ついさっき『射的でもしないか?』と持ち掛けたのは俺だ。
 西側に作った射撃場に案内したのはいいものの、二人がこういうに疎い様子を見て教えるハメになった。

 というのも、タカアキといいロアベアといい拳銃に短機関銃と身近な相手向けの得物しか使ってなかったからだ。
 これじゃせっかくの【イシャポール】も持て余すということで、最低限の扱い方を教えるはめになったのだ。
 
「流石ドットサイトだな、よく当たるぜ。でもなーんか狙いが上に逸れるんだよな……ひょっとして壊れてんのかこれ?」
「照準の設定が済んでないだけだそれ、上のねじでドットを合わせながら撃てよ」
「イチ様ぁ、うちもなんか弾が思ったところに飛ばないっす! これきっと壊れてるっす!」
「お前もかよ。弾が全部上に偏ってんぞ、オープンサイトで狙う時は溝に挟んだ四角で囲むんじゃなくその上に的を置け。針先一つ分ほど浮かせる感じだ」

 おかげで、不慣れな装填音と308口径のやかましさがここをお騒がせしてる。
 一軒隣の投擲&魔法トレーニング用のスペースから人が気にかけてくるほどだ。
 よもや的当てのつもりが二人の射撃指導になるなんて思わなかった。
 ボス、やっと理解しましたよ。銃の使い方を教えるのってこんなに大変だったんですね……。

「あーうんお前の言う通りだ。これって慣れてくると遠くにも狙いがつくな」

 しばらく見守ってると、タカアキが50mほど離れた相手を狙ったみたいだ。
 ばんっ、と鋭い銃声の先で白い人型にヒット。心臓にお見舞いか。
 続いてお隣の腹と胸をぶち抜いて、奥の人型の喉に命中だ。射程が75m先まで伸びてる。

「慣れると狙いやすいだろ? 拳銃は使ってるやつの腕がそのまんま出るから思ったように飛ばないけど、小銃なら少し身体に馴染めば遠くを狙えるようになる。照準の位置的にも向こうに意識が向くからな」
「おう。まあこいつを実戦でこなせるかどうかはまた別ってことで」
「ちゃんと狙って当てることよりも咄嗟に敵を撃てて仲間に当てなきゃ上出来だと思うぞ」
「そりゃ厳守したいもんだけどな。で、今のどうよイチ先生」

 その上で「いかが?」と当たり具合を伺われた。
 双眼鏡越しには少し外れつつもいやらしく着弾してる、実戦でこうなら上等だ。

「いいんじゃないか? いざ本番でそんな風に次々撃てるなら大丈夫だと思う」
「なんかふわっふわな感想だなオイ。ほんとに大丈夫なんか?」
「じゃあ実戦的に言うけどな? そもそもお前、こっちに来てからの人生で白き民だのなんだのと200mも離れた距離で戦うことなんてあったか?」
「いや、ねえな。ていうかそんなシチュエーション絶対ないだろうな」
「そういうことだ。今現在は下手にロングレンジで撃って当てるより、確実な距離で確実に仕留める方が大事だろ?」
「てことは俺の近距離仕様にしちまうって判断は正解だったみてえだな?」
「正解だったんじゃないか? 銃ってのは近い的にしっかり当たるようになれば自然と遠くに狙いがいく、そんなもんだ」
「そんなもんか」

 今言ったように、この世界は百メートル以上も離れた交戦なんてがない限り起きない。
 つまり幼馴染の「小銃の近距離照準器乗せ」は正しいかもしれない。
 慣れれば自然ともっと遠くに当てられるはずだ。

「イチ様ぁ、この銃けっこういいっすね。反動がおっきいっすけど、しっかり狙えばよく当たるっす~♡」

 次はロアベアだ。ゆっくりだけど的を得てる。
 お世辞にも早いとは言えないボルトを引いて装填、一秒二秒から狙いに悩み。

*BAAAM!*

 俺たちの得物よりも短い銃身から、一際強い炸裂音がどこかを貫いた。 
 50m向こうの白い横腹を貫通、あれが人間だったら今頃ぐちゃぐちゃだろう。

「お見事、ありゃ痛いだろうな。次はもっと奥狙ったらどうだ?」
「じゃあ向こうの狙うっすよ、着弾見てほしいっす」
「了解、アドバイスはいるか?」
「いるっす~、あとはうちを褒めてくれれば完璧っすね!」
「じゃあ正面の75mのやつを狙え。凹凸のど真ん中のほんの少し上に人型を重ねろ、見えるか?」

 もっと遠くの敵を狙ってみたいそうだ、付き合うことにしよう。
 突っ立ったままの白黒メイドが小銃を構えるという中々な光景だ。
 するとによつく顔がふっ……と口も閉じて狙いを定めだした。

「中央のやつ狙ってるっす」
「オーケー合わせた。できるなら頭か首元狙え」

 ロアベアが浅い呼吸で狙ってる、ほのかな銃身のふらつきを見守ると。

*BAAAM!*

 短銃身ならではのきつい銃声がした。
 揺れるレンズの中で白い半身が揺れた。首下に命中、心臓ギリギリか。

「いいぞ、どうにか心臓に命中。頭でも心臓でもいいからもう一発撃ってみろ」

 中々いい感じだ。次を促すとかちゃっとボルトが次弾を送った。
 そして少しの迷いを経てまた撃った。お次はみぞおちに命中、被害あり。
 立て続けにもう一発発射、今度は横顔にぐっさりだ。

「どうっすかイチ様ぁ、当たったっすか?」
「ワオ、お見事。外してないのが俺好み、頭狙い以外はいい仕事してる」
「よっしゃ~、でもこれで遠く狙うのって難しいっすねぇ。スコープとかあったら楽勝そうっすけど」
「ああいうのは便利そうに見えて実際はいろいろ面倒だぞ。それにだ、そういうのがあったところでそんな距離からちくちく撃つのか?」
「いやあ、ちょっと体質と合わないっすねえ。うちは首狙いのクリティカルを狙う仕様なんで~」
「なら咄嗟に構えて撃って当てられるようにした方がいいだろ。中距離ぐらいの的に慣れとくといいぞ」
「なるほど~……なんか指で狙うっていうのがちょっと分かってきたっす。こう、手先の感覚を的にむける感じっすかね?」
「それか指をさすような感じだな。トリガを引けば大体はそこに飛ぶと思って構えるんだ、ボルトアクションだとそれと並行して装填しないといけないから大変だけどな」
「じゃあ今度は負荷かけて狙ってみるっす」
「負荷ってなんだ、そいつに重りでもつけるつもりか」
「いえ忍耐的な意味っすね。てことで後ろからうちのおっぱい持って」
「俺に重りになれってかこの馬鹿メイド、チェンジすんぞ」
「そんな~」

 ロアベアも弾倉を交換、かちゃかちゃ音を刻みながら早打ちを始めた。
 308口径に軽々なのは流石ヒロインだ。せいぜい胸を揺らす程度の障害でしかない。
 段々とペースを上げて(そして外しつつも)真面目に練習に励んだようだ。

 こうも派手に撃ちまくってるけど弾の心配はない、薬莢を回収しとけばヘキサミンが再装填してくれる。
 というか、それが災いした。
 火薬が作れてしまう今、さほど残弾を心配する必要がなくなったからだ。
 その結果が手前勝手に銃声を響かせる有様だ、お騒がせしてごめんなさい。

「剣と魔法の世界なのにこうもやかましくしていいのかねえ……」
「ん? どした? 急に物憂げな顔してんぞお前」
「なんすかなんすか。お悩みっすかイチ様」
「当たらずとも遠からず、どうしようもない話題だ」

 ともあれこっちもイシャポールのカンを養っておくか、と思った時だった。

「――そういう貴方はどれほどの腕前なのか興味がある」

 弾倉を抜いて交換した瞬間、目下にひょいと白髪の頂点が入り込んだ。
 見下ろせば小さな口をきゅっと閉じた無表情で、オリスが興味深そうだった。
 近くで矢を撃ってたんだろう、相変わらず身の丈に合わない弓を背にしてる。

「あ、俺も気になるかも。イチ君、あの時すごく遠くから白き民を次々仕留めてくれたよね?」
「たくさんいた敵が総崩れになる絶妙な援護だったよね……! 私も見てみたいな! やってみせなよ、イチ君!」

 つられてやってくるのっぽとチビのコンビ、じゃなくてヤグチとアオだ。
 もう大体がそういう空気だ、見世物目当てのやつらがまた増えていく。

「どうしたのいちくん!? よくわからないけどおねえちゃんが見守ってあげるからねっ!」

 目を輝かせて押し入ってきたキャロルのせいでもはや確定だ、やるしかない。

「イチさんの銃の腕前ですか……面白そうですねえ、見学させてもらってもいいですかね?」

 なぜかミナミさんも思いっきりくつろいだままやってきた。見たか白き民ども、これがアサイラムだ。
 ここらでクロスボウの練習に励んでいた新入り達も関心して迫ってきた――やればいいんだろ!

「期待されてるなあ、お前。こうまできたらやるしかねーぞ?」
「皆様ご関心を持たれてるっすねえ、これはご期待に応えるしかないっすよイチ様。今後の士気のためにどうぞっす」
「最近思うんだけど俺って面接と家事以外何でもできる男って思われてない? オーケー分かったそこまで言うならやってやる」

 幼馴染とメイドも手を引いて「どうぞ」といい場所に招いて逃げ場なしだ。
 標的を見れば西側に向かって100mの距離感に、白い姿がまばらに立ってる。

「全部で20体、こいつらを一発も外さずに仕留めるってのはどうだ?」

 ボルトを開いて小銃弾を込めながら俺は尋ねた。
 周りの面々は25m、50m、75m、100mに並んだ五つずつの的とこっちを見比べて、承諾気味に返してくれた。
 じゃあやるか。フル装填した小銃を肩に当てて、最も近い左端にあてがった。

「ニク、当たったら5刻みで数えてくれ」
「ん、分かった。頑張ってね」

 愛犬にカウントを任せてから、一呼吸――からの。

*BaaM!*

 得物を持ち上げ発射、クイック・ファイアの要領で手近な胴体をぶち抜く。
 ボルトを引いて戻して次へ、その右へトリガを絞って首元を仕留めた。
 かちゃっと小気味いい装填リズムに乗って次、なぞる動きが頭に重なった途端に停止、発砲。
 前列の五名を順番に射貫いて平らげる。

「5、次は50m」

 ニクのダウナー声で25m級の全滅を確認、ミナミさんが「おお」と驚いてる。
 今度の相手は50mの的だ、さっきよりも遠ざかった白い的を銃身で追う。
 凹凸にその首元が乗った瞬間に撃った、ぼすっと頭が揺れた。
 こうして扱うと分かる、トリガが前よりスムーズだ。爺さんたちはよく分かってる。

「いきなりヘッドショットのご挨拶かよ。印象深いねえ」
「何のためらいもなく当ててるっすねえ、これがイチ様っすよ皆様ぁ♡」

 隣で茶化すやつがいるが無視、隣を狙ってぴたりと撃つ。
 ばんっと衝撃的な音の後に胸に当たったのが遠く見えた。
 調子を崩さず撃ち続けた、約束通り一発も外さぬまま十人到達だ。

「10。次は75mだよ」
「は、早いなー……!? イチ君、動きがもう本物かなんかだよ……!?」
「躊躇がなさすぎる……! っていうかほんとに外してないじゃん、何者なんだほんとに……!?」

 後ろで驚くヤグチとアオを感じつつ、75m遠ざかった獲物を探った。
 装填動作を一つすすめて弾倉を交換、薬室を閉じれば次弾装填完了だ。
 人差し指を向ける感覚で小銃を動かす――照準器に白さが乗った、撃つ。
 きっと命中、的の並び方を意識して一匹ずつ狙って砂漠。

「15、後は100mだけ」
「いちくんすごい! 映画みたいに仕留めてるね! まさかほんとに殺し屋だったんか……!?」
「仕留めてほしい奴がいたら教えてくれ、幽霊とメイド以外はやってやるよ」

 キャロルが身を乗り出して驚いてる、危ないのでそっと押し返しておいた。
 残りは100m先の的だ。
 これくらい離れようが感覚はすっかり覚えてる、緑に浮かぶ白に合わせた。

*BaaaM!*

 撃った、たぶん命中、狙いを横に逸らしてお隣さんを殺しにかかる。
 「あたった」とニクの声を頼りにゴム製の白き民を照準に置いて発砲。
 そうやってペースは落ちるも、狙っては撃ってを繰り返すことほんの僅かで。

「20、やったねご主人。全部命中」
「やったか。思ったより時間かかったな」

 イシャポールとの付き合いを手放せば、双眼鏡の中に仕留めた得物があった。
 良かった、全弾当たったら嫌な場所にしっかり当たってる。
 最後に「どうだ」と伺うと、最後は戸惑うオリスとミナミさんがいるだけだ。

「……おおなんという暴虐。これが『殺人パン屋』の殺人スキル、尋常ではない速度で撃ち抜いている。つまりすごい」
「いやいやいや……ほんとどこの世界から出てきたんですかイチさん、一発も外してない上に頭か胸に当たってますよこれ。殺意高すぎません?」
「全滅まで二分もかかってねえぞお前、お兄さんお前の将来が心配だよ。いい意味で」
「有限実行しておられるっすねイチ様ぁ。おばあちゃんもきっと鼻が高いっすよ、あひひひっ♡」
「きっとボスだったら俺の半分ぐらいでやってるだろうな。まだまだだ」

 我ながらいいペースで撃ち抜いたけど、ボスならもっと上手にやるだろうな。
 いちいち照準を確かめずに、継ぎ目なしで次々当てる――そんな人柄だ。
 周りが「どんな人なんだ」とボスについて想像を働かせる中、俺は空になった弾倉に弾を込めようとするのだが。

「じゃあこういうのはどうです? ちょっと銃とは勝手が違うとは思いますが」

 ミナミさんが新人冒険者たちから何かを借りてきた。
 ここで貸し出されるドワーフ製のクロスボウ。【ボルトシューター】という。

「今度はクロスボウか。そういえば弓はともかく、こういうのを使うのはなかったな……」

 居残り組の目つきは、こいつを使ってどう結果が出るのか楽しみなご様子だ。
 そういえばこういう手合いは初めてだったか?
 フォアグリップで保持して後ろの装填用レバーを引くと、弦の絞りと同時に弾倉から矢が取り込まれた。
 接続された光学照準器から的を選んだ、50mあたりに赤点をなぞらせ。

 ――かしゅっ!

 トリガを引くと矢が投げ込まれる強い感触。
 ほんのわずかな間を置いて、ゴム質な鼻先をぐっさり貫通だ。

「…………そう言いつつ顔のど真ん中当ててませんかね」
「す、すごい……けっこう離れてるのに一発目で当てちゃった……」
「うそでしょ……? 私たち、まだ全然使いこなせてないのに……」
「銃どころか弓でもこれなんですね……あの人、スキルどうなってるんでしょう?」
「当たり前のように当ててるなあ、あの人……」

 これにはミナミさんも新人冒険者たちと一緒にびっくりらしい。
 反応が面白いのでもう一発撃って驚かせてやった。
 プラス25mに佇む白い身体の中心に投射、心臓に飾りが増えた。

「満足したか? 撃った感想は流石ドワーフって感じだ、使いやすいな」
「おぉ……さらっと直撃ですか。確かにこの武器はすごいですが、練習なしで頭に命中とは化け物染みてますね……」

 さすがドワーフの武器だ。ミナミさんの手を介して持ち主へ得物を返すと。

「あ、あのー……? 今の、どうやって当てたんですか? けっこう離れてるのに簡単に当てるなんて……」

 無事に手元にクロスボウが戻った新入りが尋ねてきた。
 日本人らしい高校生男子ぐらい顔つきが、当たったのが不思議そうにしてる。
 んなもん照準器覗いて敵の急所撃て、ぐらいの説明で済むかと思ったものの。

「どうやってって言われてもな、まずしっかり武器を保持して、手の感覚を敵に向けるように……」

 ところが新人たちがぞろぞろやってくる。
 マジで教えてほしいという顔ぶれだ。
 何ならその中にヤグチたちが混じってるのも気のせいじゃないだろう。

「どーせ暇ならよ、こいつらに武器の使い方を教えた方がいいんじゃねえか? 今後何かあった時にいいことづくめだと思うぜ?」

 想像以上の食いつきに腰が引けてると、タカアキが面白がってた。
 いや、言われてみるとそうかもな。
 ここにはけっこうな数の新米がいるけれども、クロスボウを使って「攻められても守れる」程度の力はある。
 なら今のうちに戦い方を覚えさせておくのもありか? いや、今後の戦いも見越してそうするべきか。

「オーケー、分かった。俺で良かったらクロスボウの使い方やら練習してみないか? ついでにお医者様が作ってくれたポーションの投げ方も教えてやってもいいぞ」

 どうせ時間はあるしいいか。俺は寄り掛かった射撃台のテーブルを示した。

「――それなら私も手伝うぞ! ダークエルフの技術で良ければ、お前たちにみっちりと教えてやるぞ!」

 すると便乗するダークエルフも出た、クロスボウと言えばやっぱりこいつか。

「もっといい先生もいたみたいだな。暇なみんなあつまれー」
「もうちょっとやる気ある集め方しろよお前」
「皆様ぁ、イチ様がなんか教えてくれるっすよ~」
「私もドワーフの作りしクロスボウには幾分興味はあった、便乗させてもらう」
「普通の弓の方が馴染んでるんですけど、こういうのも使ってみるべきですかね? しかしよくできてますねこの武器……」

 改めて二人で「どう」と誘うと、新人たちは顔を見合わせた末に寄ってきた。
 この日の午前はタケナカ先輩に代わって新人の訓練だ、希望者を手で招いた。

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