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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

芋と油と燃料と

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【オーケー聞いてくれ、デラウェア州で飲み歩きに対する厳罰化が決定されて以来、近辺で数多の逮捕者が出たのは良く分かってるだろう。今や飲み歩きするだけで十日間も監獄へご招待されるこのご時世だ、利用者の質も地獄手前まで落ちたが、そこで私は客層を絞るべくこのガス・ステーションのセキュリティを強化した。コンビニに用があるなら州に「」と認められたIDカードを提示しなくちゃならないわけだ。問題を起こせば法律と機銃を乗せたドローンが殺しにくるぞ、ざまあみろストリートギャングのクソガキどもめ】

 PDAからそんな音声が流れた。
 苦労した声色混じりの得意げな語り方だが、その持ち主はすぐ目の前だ。
 黒く変色した身体に制服を着た男。世紀末世界的に言えばテュマーだが、それが派手な転び方で便器に頭を突っ込んでいて。

「店の思惑通りホワイトなやつ白き民がいっぱい来てくれたみたいだな、繁盛してたぞ」

 俺はそいつが握っていたタブレットを後ろへパスした。
 ID提示だの指紋認証だの大層な防犯を意識したトイレは、ご覧の通り死体もあれば一世紀分の汚れも溜まってひどい有様だ。
 黄ばんだタイルなんて歩いただけで足裏がぞわぞわするぐらいだ。さっさと抜けようと振り返ると。

「ついでに店のセキュリティにも貢献するようないい客と巡り合ったってわけか。ところで奥に誰かいたのか?」

 熟成された汚さにいや~~~な顔を浮かべるマフィア姿があった。
 二人してトイレのチェックを任された仲だ、目的は果たせたのでハッキングでこじ開けた二段構えの扉を抜けた。

「店長らしいやつが前衛的にくたばってた」
「おおかた人間やめてた感じだろうな。違うか?」
「正解、テュマー化したまま便器に顔突っ込んでお亡くなり」
「誰か流してくれるのをずっと待ってたみてえだな。ちゃんと流した?」
「詰まってたから諦めた。俺みたいな素人じゃなくてその手の業者に任せた方がいいんじゃないか」

 嫌な思いをしてしかめっ面で戻れば、まだ行き渡る電力のせいで閉店時が分からない店構えだ。
 強化ガラスとID認証用のゲートに隔たれた広さに、たくさんの商品と支払い用の端末が今日も店を営んでる。

 ところで、コンビニと言えば俺たち日本人は何を想像する?
 おにぎりやおでんが置いてあって、雑誌もあればコピー機も備えてるようなやつを当たり前に浮かべるはずだ。
 ところがここは違う。スナックの棚やドリンク用の冷蔵庫が押し込まれ、どこを見ても食い物だらけなのだ。

「……むしゃむしゃ」
「いちクン!? ニクちゃんがフライドチキン食べ始めて言うこと聞かないの! 早く止めて!? お夕飯入らなくなっても知らないからね!?」

 その一例なんて向こうで騒いでるニクとミコがそうだろう。
 まだ延々と稼働しているショーケースが軽食を温かく保ってるぐらいだ。
 わん娘が制止を振り切ってチキンを貪るあたり、相変わらず謎技術で150年経っても食えるものらしい。

「戦前から全商品ずっと熱々か。電気がついてるってことは電力の出所はブラックプレートあたりか?」
「だろうな。こんな状況になっても稼働してるなら、そういうのがどっかで発電してるのがお決まりだ」
「全自動にしても電力代が気にならないわけか。それにしたってなんで食い物ばっかなんだ?」
「あっちのコンビニは日本のそれとは違うのさ、給油するついでの栄養補給と気分転換だよ。眠い奴のためにエナドリやらも置いてあるだろ?」
「期間限定スイーツとかコラボ商品の代わりにセルフ式のホットドッグにドリンクバーか。俺の知ってるコンビニとだいぶ違うな」
「しかも賞味期限は無限、さながら食える骨董品だな。良かったら特製ホットドッグでもいかが? ところでお前のわん娘めっちゃチキン食ってるぞいいのか」

 幼馴染が言うにはそういう文化だそうだ。
 そのままあいつはホットドッグ用のカウンターに一直線だ。
 こっちはひたすらチキンを食う愛犬をどうにかするか。

「ニク、フライドチキン大食いチャレンジはそこまでだ。俺たちは食い物目当てでコンビニ強盗しにきたわけじゃないのを忘れるなよ」
「ん゛……分かった。でもおいしかった、ご主人も食べる?」
「一つくれ。それよりスパタ爺さんはどうした? 燃料あるか調べに行ったらしいけど……」
「お爺ちゃんなら奥の管理室を調べてるよ、燃料の貯蔵量とかそこで分かるみたいなんだけど……コンビニ強盗……!?」

 ご主人の一声でストップだ、名残惜しそうに最後の骨なしチキンを差し出された。
 食べればスパイシーでさくさくしっとり。別にこのために来たわけじゃないが。

「イチ様ぁ~♡ ここすごいっすね、エナドリ専門店みたいな品揃えっす!」
「フハハ、ドクターソーダも置いてあったぞ? 白き民どもを根こそぎ片づけた褒美としては十分なものよ」

 スパタ爺さんの行方を探すうち、メイドとオーガの喜ぶ様が目に入った。
 冷蔵庫いっぱいの品ぞろえが全品タダとなれば、俺たちもただの客に早変わりか。

「ここの店長も気の毒だな、テュマーになった挙句に全商品十割引きセールを勝手に開催されてるなんてオーバーキルもいいところだ」
「店長さんいたんすか?」
「トイレでくたばってた。黒かったよ」
「なんと、テュマーと化していたのか……ということは、その類のものは近くにいなかったか?」
「ここにお邪魔してるのは俺たちコンビニ強盗団ぐらいだ。仮にいたとしても相手じゃ分が悪いだろうな――ジンジャーエールくれ」
「そもそも見事なまでに白き民の縄張りとして機能してたっすよねえ……いらっしゃったところで壊滅させられるのが目に浮かぶっす」
「ふむ、やつらしか見えなかったということは心配には足らんか。しかしフランメリアにもテュマーが来ているとはな……」

 買い物中の二人のそばを抜けると、ノルベルトが親し気に物を投げてきた。
 ペットボトル入りのジンジャーエールだ。ありがたくキャップを開けた。

「――よし、大量だな。こういう行動食はやはり向こうのものがいいぞ、ついでにキュイトのためにいろいろ持ち帰るとするか」

 もれなくこの状況にあやかったクラウディアも商品を物色中だ。
 チョコバーだのジェリービーンズだの目につくお菓子をバックパックに詰め込んでる。楽しそうだ。

「クラウディア、一応聞くけどそんなに頂いてどうするつもりだ?」
「こういう品は外で活動している際に手軽に食べられるからな、今のうちに補充というわけだ。それとキュイトが携帯食の開発に向こうの食糧を欲してるのもあるんだが」
「良かった、ただ食い意地が張ってるだけじゃなかったか」
「ふっ、心配はいらないぞ。ちなみに帰りの間食べるお菓子も厳選してるんだ、お前の大好きなトルティーヤチップスはそこだぞ」

 大食いエルフらしく一仕事してたみたいだ。
 ドヤ顔で示された通りにトルティーヤチップスの袋を拝借。
 奥へ歩くと、びちゃ、と足元に水っぽさが伝わる――なんてこった、酒臭い。
 というのも、五十口径の余波を食らった冷蔵ケースが台無しにされてたからだ。
 中にある無数の酒瓶が度数をまき散らし、世界にまたとない複雑なカクテルを生み出してる。

「……ガソリンスタンドで酒かよ」

 向こうがどんな文化なのかは知らないが、飲酒運転に寛容なのはよく分かった。
 口と顔でたっぷり毒づいてからそっと避ければ。

「スパタならそこの通路だ。酒が台無しになってて不満そうだったが」

 店の品々を吟味していたクリューサが「そこ」を指で示すところだ。
 車用品、医薬品、そんな品数をじっくり考えつつもぎ取ってる。

「親切にどうも。ところでクリューサ、なんでここって酒売ってるんだ?」

 ついでだ、物知りなお医者様に飲酒運転向けの品ぞろえについて聞いてみよう。
 するとどうだろう、なぜだか向こうは「だからなんだ」とばかりの顔で。

「なんで、とはどういうことだ。酒が売ってるのが珍しいような顔をしてるが」
「ガソリンスタンドで酒だぞ? 飲酒運転とかそういうことに対する心配だ」
「別にこういう場所で酒が置いてあるのは普通だろう。それに戦前では飲酒運転など当たり前だったそうだ、ならばその心配はお門違いだ」
「おいおい、酒飲みながらアクセル踏んでいい世界だったのか?」
「世界が終わりに近づくにつれて誰もがに走るようになったからな。末期には飲酒運転の判断基準も血中アルコール濃度0.08%から倍の0.16以上に引き上げられたと言われている、こいつは分かりやすく言えば血中に行き渡って精神の高揚や判断力の低下が著しくなる頃だな」
「は? どうぞ酔っ払って運転しやがれと? 馬鹿じゃねーの戦前のやつら」
「俺にいったところで当時のやつらの耳には届かんさ。医者的にも腹が立つ法の改正をしてくれたようだが、それだけ戦前の世が日に日に道徳心も常識もどこかに落とし続けていたのは確かだ」
「その結果が人命も弾薬もお安いウェイストランドか」
「ろくでもない遺産を残してくれたのも悲惨な戦前の世の仕業だろう。お前の言うように「馬鹿じゃねーの」だ、ちなみに飲酒運転は俺としても好ましくない不健康な行為だと言っておこう」

 クリューサは医学的に気にくわなさそうな顔で答えてくれた。
 どうせ世界が終わるなら気持ちよくなろうとこうして酒を振舞ってたのか。ひでえ世界だ戦前は。
 俺も気を付ける、と頷きを見せてから離れると。

「なんてこった、燃料の在庫がすっからかんじゃ。わし、あると思って他のやつらにしこたま持ち帰るって約束したってのに……」

 その先の電子ドアが開くなり、すげえしょんぼりした髭面が出てきた。
 生きがいをなくしたような消沈具合と口ぶりからして燃料は品切れらしい。

「進捗尋ねにきたら第一声がそれかよ。食い物はあるのに燃料がないってか?」
「それがなあ、地下タンクの貯蔵量を調べたんじゃが見事にないのよ……。アホみてーに飯はあるくせして、ガソリンどころか軽油すら一滴すらないときた」
「つまりスパタ爺さんだけ収穫なしか」
「おまけにお前さんの勢いが酒にすら及んで手土産すら台無しじゃ、床で飲めそうにないカクテル作りおってこの野郎」
「俺だってこんなところまで酒が充実してるなんて思わなかったんだ、どうか見逃してくれ。それで品切れの理由までは分かったか?」

 まぜこぜにした酒もあれば、スパタ爺さんの残念がる様子もワンランク上だ。
 何があったのかは聞くまでもないだろう。本人はタブレットをこっちに見せてきて。

【軍の連中が「燃料の徴収だ」となタンクローリーで押しかけてきたが、何か妙だ。私のカンだがこいつらはやり方が強引すぎる。従軍していた経験があるから分かるんだ、物申すときの態度がどこかよそよそしいし、手にかけた武器に力がこもりすぎだ。こいつらは本当に州軍なのか?】
【あの馬鹿野郎どもふざけやがって! 問答を繰り返してたらいきなり撃って来やがった! しかも燃料をよこさないとこいつをぶっ放す、とロケットランチャーまで持ち出してる! あいつらは脱走兵か? 軍の外れ者か? それとも軍服を奪った市民か? なんだっていい、あのアホどもの自爆ショーに付き合うのはごめんだ。死ぬほど悔しいが給油機を解放した、ああ胸糞悪い私の店を害する奴はクソガキと同じだ心臓がバクバクして駄目だ吐き気がする】

 と、どこかで拾い上げたであろうログを見せてくれた。
 なるほど、店主は人として死ぬ前に全品フリーにしたみたいだ。

「その最後のメッセージを交えるに、ここの店長はテュマー化して派手に便器に突っ込んだみたいだな」
「なんじゃ、これ書いたやつおったんか」
「トイレで事故死した感じだったぞ。良かったら案内しようか?」
「そいつが燃料無料配布のきっかけになったとわかりゃけっこう。くそっ、余計なことしおって」
「白き民が飲み干した、とかじゃなくて良かったな。戦前から続く伝統、その名もやらかしだ」
「そりゃウェイストランドの者たちも150年前の人々を恨むわな……」

 戦前のやつらの所業はいつだってウェイストランドの人々を困らせてるが、今回もそうだったか。
 燃料のアテが外れた、これでここに来た理由の一つが完全に消えた。
 するとできることは白き民の戦利品と、店内の有用そうなものを持ち帰るぐらいだ。
 これにはスパタ爺さんも顔が渋い。

「じゃあ、後はいただけるものはいただいてお帰りになる感じか? 今のところただの買い物になってんぞ俺たち」
「悔しいが廃車やらそこらにあるだけマシと思うしかないじゃろうなあ……しょうがない、探すだけ探してこうなら大人しく帰るとするか」
「アサイラムの周りもまた一つ安全になったんだしいいだろ?」
「うむ……それに一番の目的たるエグゾと白き民の相性についても知ることがあったからの。十分な結果があったということでいいじゃろう、悔しいが」
「二度いうってことはがっかり二倍だな」

 本当に悔しそうだ。ガラス越しに見える給油機を名残惜しく見つめるほどに。
 誰でもウェルカムな上、燃料もタダと大盤振る舞いした結果がこれか。

「おう、どうだった? なんかよろしくない声聞こえたけどそういうこと?」

 ドワーフとこれ以上をあきらめてると、ホットドッグ用のテーブルから声がかかった。
 エプロンまで着て本当に調理に勤しむタカアキだ。何考えてるんだろうこいつ。

「その通りだ、燃料空っぽだとさ。何やってんだよお前」
「おい、お前さん何しとるんじゃ。人がクソ悩ましく戻ってきおったって言うのになんで飯作ってるん……?」
「今日限りホットドッグの店をオープンだ、おひとついかが? トッピングは保存容器にぶっこまれた150年ものだぜ」

 サングラス姿はビニール袋入りのパンと、ケースで冷蔵された具材で一品作ろうとしてる。
 いやほんとに作り出した。パンを取り出してコンテナに密封された熱々のソーセージとピクルスを――もう好きにしろ。
 そうして熱々のホットドッグ(150年もの)が「ほらよ」と紙包みで渡された、しょうがないので食うとして。

「はいみんな注目。今ここの在庫チェックしたけど燃料の貯蔵はゼロだとさ、つまりこれ以上の収穫はなしだ。貰うもん貰ったらアサイラムに帰るぞ」

 少しパサつくパンと具をかじりながらだが、店内の面々にそう伝えた。
 どいつもこいつも好き勝手やって満足した様子だ、特にドクターソーダで満杯のケースを拝借するノルベルト。

「む、燃料がなかったのか? これだけ物が豊富なのだぞ、てっきりそれくらいあると思ったのだが……」
「ノルベルト、お前の燃料はともかく戦前のやつらのせいでここのメイン商品は全部品切れだ。まあここの安全を確保しただけ良しってことで」
「……品切れって、何があったのかな?」
「ここの持ち主が略奪しにきた奴に屈して全部くれてやったらしい。どんな顔してるか確かめたいならトイレの個室にいくといいぞ」

 事の顛末を気にするミコに「これ」とスパタ爺さんのタブレットを指した。
 どこまでも悔しそうなご本人からそれが回ると、ログを見るなり複雑な面持ちだ。

「うん、またこのパターンなんだね……」
「まただ。たぶん150年ずっとタダにしてるもんだから、みんな喜んであやかりにきたんじゃないか?」
「誰でも給油機にアクセスできるようになっとったからのう……こうなりゃしょうがないさ、トラックに積むもん積んで帰んぞ。エグゾも忘れんようにな」
「了解、爺さん。ところでどうやって荷台に積めばいいんだあれ」
「さっき落とした台あるじゃろ? あれをまた組みたてて階段代わりにするんじゃ、後はレールに合わせてエグゾを固定するだけよ。ちゃんと回収してあるな?」
「大丈夫だ、貧乏性がたたって荷台に積んどいた。ということでコンビニ強盗タイムはそろそろおしまい、忘れ物ないようにな」

 俺はおいしくないホットドッグをもぐもぐしながらだが、帰り支度を促した。
 店から出れば給油機近くで物欲しそうに停まったトラックがあった。
 そばには総員でかき集めた武具やらが小さな山を構えてるが、これだけでもよしとしよう。

「まあよい、屋上にブラックプレートもありゃ金属資源も転がっとるし? わしら的には成果なしってことにはならんからな。悔しいが」
「マジで悔しそうだな、悔しいが三度目だぞスパタ爺さん」
「そんだけ燃料が欲しかったってことじゃよ。転移物に頼らず自分たちでどうにかせんといかんわけじゃが……めんど」
「燃料なんて簡単に作れそうなんだけどな。ドワーフの技術力でさくっと」
「わしらでもさくっと作れんからこう言っとる。軍用車両でも動かせる質の燃料じゃぞ? よし作るかの精神でそうやすやす作れるもんじゃないし、今からちょっと作れた程度じゃ焼け石に水じゃ。大量生産する目途が立たん限りは意味ないのよ」
「少しでも作れるならないよりマシなんじゃないか?」
「その少しが車の機嫌にあうか確かめんといかんことを忘れるなよ。仮にわしらが油田見つけたとしてもそれを適切に扱う設備がいるし、どうにか作れても車をぶっ壊さない程度の燃料を安定して生み続ける方法を確立せんといかん。つまりクソめんどい」
「確かにクソ面倒だ、言うのは易しだったか」
「いっそ車を大胆にいじって、エンジンの代わりにモーターぶっこんで充電済みのバッテリーで走るのはどうかと思ったんじゃが……これもやっぱ死ぬほど手間がかかるわけよ。ぶっちゃけわしら、そこまで手が届くほど技術が追いついとらんからな……」
「ドワーフが直々にそういうってことはよっぽどか。そっちもそっちで課題が山積みって感じか?」
「うむ、しかもあれこれやることが多いから中々捗らんさ。にしても、五十口径が防がれるとはのう……」
「そして白き巨人のおかげでまた一つ宿題が増えたわけだ。お互い大変だな」
「まったくじゃ。ここはあるもん根こそぎ取ったら後日爆破すんぞ、ここを足掛かりにまた風車の町に居座られたら困るしの」

 ドワーフたちも中々お悩みを抱えてるようだ。
 とにもかくにも、次に目立った課題は燃料か。
 PDAでさくっと作れればいいけどそうもいかないらしい。
 そうしてトラックと横並びのエグゾに手を付けた瞬間。

「……おい、お前たちの話題に勝手に首を突っ込んでなんだが、バイオ燃料なら作れるぞ」

 そんな物言いと医者由来の不健康な顔色が早足で割り込んできた。
 バイオディーゼル、確か人工的に作る燃料だったか? お医者様はまさにそいつを作れると物申してる。

「クリューサの、わしらもそれくらい考えとったよ。確か人工的に作る合成燃料じゃったか? もちろんその辺も視野に入れてたんじゃが、問題は使用するに足る質を作れるような製法がさっぱりでな」

 スパタ爺さん的に言えばもちろんその考えもあったらしい、残念なことに悩ましい顔が添えられてるが。
 ところが、間に入ったクリューサはずいぶん得意げで。

「その信用に足る作り方を知っていると言ったらどうする?」
「どういうことじゃお前さん」
「俺のいたメドゥーサ教団は何も薬ばかりで生計を立てていたわけじゃないということだ。ミュータントの脂を使って戦前の車両を動かすクオリティの燃料を周りに売りさばいていたんだぞ?」

 次の瞬間にはドワーフの悩みを吹っ飛ばすようなカミングアウトだ。
 バイオ燃料の作り方、それも実用に足るものをよく知っている顔でそういうのだ。
 これにはスパタ爺さんも明るい驚きが顔に浮かんでる。

「……クリューサがこう言ってるぞ。まさに今欲してる情報じゃないのか? 可能ならどうすごいのか俺にも分かるように教えてほしいけど」
「お前でも一発で分かる説明をしてやろう。誰かさんの尻を追い回してた人食いカルトどももその燃料を使ってたぞ」
「よしじゃあ本物だな。スパタ爺さん、これはいいニュースなんじゃないか?」

 しかもそいつを元手に俺を追い回してきた実績つきか、いい説明をありがとうド畜生。
 そう確かな説得力が付きまとえば、髭面に「おおっ」と明るさが戻るも。

「だが問題はそれだけの材料をどう集めるかだ。この世界ならそのような品に困ることはないだろうが、安定して一定の効果を見込める素材を絶えず確保できてこそだ」
「確かにそうじゃな……確かに食用油なんぞは市場にいっぱい出回っとるが、かといって買い占めて加工するってのも気が引けるしのう。いや、クラングルから廃油を集めるってのも……」
「あまり使い回したような油は推奨できない作り方だ。多少の酸化なら許容できるが、不純物が多すぎると生成に支障が出るぞ」

 それでもやっぱり不安も残るらしい、どう長続きする材料を確保するかだ。
 万能火薬は木と砂糖があれば作れるからまだいい。
 でもバイオ燃料とやらは(どう作るかはさっぱりだが)油を使うそうだ。
 安定して油を手に入れる手段か。それこそフランメリアだったら多少強引に集められる気もするが。 

「……植物油をいっぱい作る植物なら知ってるけど。リム様が作ったあの怪物」

 ぼそ、とダウナー声が追いかけてきた。
 またも間に入ったニクの声で思い出した。
 そうだ、リム様の生み出した悪魔のじゃがいもモンスターだ。

「そういえばあの芋「いつでもどこでも気軽にフライドポテトを食べれる」とかくっそふざけた植物生み出してたよな。結果は毒性のある芋と油を生み出し続ける悪夢みたいなバケモンだったけど」
「油でべとべとになって気持ち悪かった。変なにおいだったし」
「そうそう、油まき散らして研究所がプールみたいだったな。でかい奴爆破したらすごい火柱上がってたぐらいだ、思うにあいつの油を材料にするとかどうよ?」

 だけどやっとあの存在意義が生まれてきた、あの油を燃料にするのはどうだ?
 そう込めてPDAに『ポテトリフィド』の画像を表示して二人に見せた、ピナの足蹴りで幹を伐採されたお姿だ。

「……待て、どういうことだそれは? いや、なんだこの……ミュータントは」
「こいつはお前さんらが倒したっていう、どこぞの魔女が生み出した『ポテトリフィド』なんか? うわなんか油がにじみ出とる気味わるっ……」

 クリューサとスパタ爺さんに良く見せれば、それはもう気持ち悪がられた。
 これが動いてるのを見たらもっとひどいだろう。しかし二人の興味は床いっぱいの油に向かってるようで。

「光合成で油作りまくってたぞこいつ、倒したら研究所が油浸しになるぐらいの量だ。食用油だったそうだけど、食うに堪えないレベルだからただの歩く可燃物と化してた」

 研究所を円滑にしすぎるほどの油の量を思い出しながらそう伝えると。

「油を作る……? あの芋の悪魔はいったい何を考えてそんなぶっ飛んだものを作ったんだ。おい、こいつは使えるかもしれんぞ」
「なにすげえの作っとんじゃリーリムめ!? 光合成で油生み出すとかとんでもねえぞ!? イチ、今すぐあの芋女に連絡しろ! こりゃ燃料問題解決かもしれん!」
「ええ……」
「万能火薬が実質無尽蔵にあるとなれば猶更だ、設備さえあれば軍用車両でも動かせるバイオ燃料がいくらでも作れるぞ。よもやあいつの所業がこう働くとはな……」
「おいおい最高の条件揃っとるじゃないの! こうしちゃおれん、さっさと帰るぞ! 燃料精製所作ったらぁ!」
「……ご主人、燃料どうにかなりそうなの?」
「みたいだぞ。あのポテトミュータントが解決の糸口なんて思わなかったよ」
「りむサマ、いったい何生み出したの……!?」

 なんてこった、リム様の馬鹿みたいな発明のおかげで燃料がどうにかなろうとしてる。
 話しも弾んで二人はもはや手が負えない状態だ。
 まあ、そういうならリム様に連絡しておくか。ついでに自撮りも送ろう。

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