魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

エグゾ・スタンバイ

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 それから何事もなく、今日もうまい昼飯をいただいてしばらくが経った頃。

「――オーケー、ちゃんと動いてる感じがする。良く整備してくれたな」

 がしょん、と大きな一歩を感じた。
 全身の挙動に機械の動きが圧し掛かるような、懐かしい感触だ。
 大ぶりの動きを意識して更にもう一歩。
 身体にまとわりつく重量ごと、ふわっと足が持ち上がる。

「どうじゃ? 使っててなんか違和感とかあるかの?」
「なんとか歩けてるってことはたぶん異常なしだ。久々すぎてリハビリが必要だなこりゃ」
「うむ、部品かき集めてみっちり整備した甲斐があったのう。大丈夫か? ちゃんと上れそうか?」
「今必死に思い出してる。ところでこのヘルメットはどうにかならないのか? 目の前がプラスチック製のバイザーなんだぞ?」
「軍用のやつの頭部を修理しとるからそいつで我慢せい。ほれ、もう少し頑張らんか」
「ドワーフって患者には厳しく当たるタイプか? 出来れば急かさないでくれ」

 装甲一枚分に隔てられた声に従って次を踏みしめた。
 そのまま開閉式のバイザー越しに見える階段に差し掛かった。
 緩衝材まみれの内部で腕も足も動かし、いまだかつてないほど慎重に段を踏む。

「……よ……よし! なんか思い出してきた!」

 がしょん。
 外骨格の機構にまだ引っ張られつつ、ようやくフランメリアの地面を踏んだ。

 ファンタジー世界で久しぶりのエグゾアーマーだった。
 ブルヘッドでさんざん世話になった癖に使い方を忘れたせいで、こうしてステーションの階段で難儀してる。
 しかしスパタ爺さんは言うのだ。こいつを使って面白いもんを作ってやると。

「おお、エグゾアーマーではないか。その様子だと感覚を取り戻しているところか」

 アサイラムの道路をずっしり辿ると、ちょうどノルベルトが並んできた。
 その通りだ、と機械の力込みでぎこちなく片手をあげた。

「幸いゼロからじゃなくからのスタートだ、すぐ思い出すさ」
「ここは荒治療に限るぞ。ブルヘッドを駆けていたころまで遡ってみてはどうだ」
「そうしよう、ギア一つ上げるか」
「車と同じで普段使いしないと忘れるんじゃなあ、転んで壊しても直してやるからよく馴染ませとけよ」

 オーガもリハビリに付き合ってくれた。大きな急ぎ足を追いかける。
 キャンプ・キーロウを思いだせ、適度に脱力、外骨格に押されるように走る。
 気づけば最低限の身の動きでエグゾが進む。重たいリズムを刻んで駆け出す。

「お前の言う通りブルヘッドと一緒にキャンプ・キーロウのあたりまで帰ってきたぞ、こんな感じだったな」
「フハハ、あれだけ思い出が詰まっていれば嫌でも蘇るだろう。久々の着心地はどうだ?」
「いい気分だ。次は腕の使い方も思い出した方がいいかもな」
「うむ、見事に勘を取り戻しとるな。そのまま倉庫のあたりまで運んでくれないかの、そこにそいつの整備用のラックだとか置きたいんじゃが」
「だったら記念にこいつ用のガレージでも作るか。一緒にデザイン考えてくれ」
「よいなそれ! もしかしてハウジングでエグゾ用の設備とか作れんかのう?」

 おめでとう、ストレンジャーは外骨格のおめかしの仕方を思い出した。
 あとはジョギング感覚だ、健康のためのひとっ走りである。

「お前と一緒に走ってるとほんとに懐かしい気分だ。傭兵やら無人兵器相手にクソ忙しかったよな」
「行く手を阻む者たちを根こそぎ踏みつぶしたものだな。あれほど道を踏みならしたのだ、良き帰路ができただろうさ」
「わしらが観光旅行からの帰宅気分で優雅に帰れたのもお前さんらの活躍あってこそよ。行く先々はどこもストレンジャーズの話でもちきりじゃったなあ」
「だってさノルベルト、俺たち今頃向こうじゃ有名人だ」
「であれば、オーガの名もよく届いているに違いあるまいな。毎日が祭りのようで楽しかったなあ」
「今も祭り中だろ。いつまでこうなんだか」

 よし、身体がしてきた。
 小走りからスムーズに歩いていく。
 倉庫近くにこいつのガレージを作ろうかと気が向けば、道すがらの広場でミセリコルディアとチアルが驚いてた。

「…………ミコ、私の気のせいじゃなければあの時のやつが闊歩してるんだが」
「これいちクンです……」

 エルとミコの反応は不信感と察しの合わせ技だ、バイザーをめくった。

「おい、中身はまだ人間だから身構えなくていいぞ。何してんのお前ら」
「いや、それはこっちのセリフだ。大体なんなんだ、いきなりエグゾアーマーとかいうのを改造するなどと言い出して……」
「こいつはな、一体ありゃ重機関銃やら大砲やら人には荷が重いもんを軽々扱えるペイロードがあるんじゃよ。てことは実質装甲車が歩いてるようなもんよ? そこで余裕ができた今、立派なデスマシンに変えてやろうと思っとるのさ」
「ほ、ほんとにやっちゃうんだ……」
「もうなんでもありだな、ドワーフは……」

 『わしの考えた最強のエグゾ』を実現しようとしてるところまで回れば、二人も呆れてるんだか驚いてるんだか。
 その点、その場にいたフランやセアリやチアルは興味津々にやってきて。

「うわっあのロボットじゃん!? すごいなー、こんな風に動くんだ……団長も乗れるかな?」
「っていうかいち君普通に乗りこなしてますよね……そのパワードスーツ的なやつ。それがあったらセアリさんたちみたいな人外女子にも余裕で勝てるんじゃないんですかね? ずるいですよ近代兵器チートとか」
「わっ、なんかいっちロボット乗ってるし!? どしたのそれ!? かっこいい!」
「ロボットじゃなくてエグゾアーマーだ、一種のでっかい鎧だと思ってくれ」

 三人仲良くぺたぺた触れにきた。
 灰色の装甲越しに手触りを感じた――おい誰だ尻触ったの。
 一方的なふれあい体験をさせられてると、同席してた人形系ヒロインもずいぶん頼もしそうな目で。

「ふふふ、甲冑を着た騎士さんみたいです☆ いつも以上に心強いですね~?」

 と、好意的ににっこりしながら「騎士」呼ばわりだ。
 果たしてこの【Security】と胸に刻まれた警備用モデルに騎士道精神があるかは謎だが、頼もしく見てくれてる。

「これが騎士ね、前の持ち主は声高らかに堂々と「キル・ドー・ザー」だったけどな」
「きるどーざー……って、なんですかー?」
「いや、気にしなくていい。こいつの辞世の句だ」
「ふっ、騎士とは言い得て妙だな? これほど頑丈で力強いのだ、もっと格式のある兜でも被って大剣でも背負ってみてはどうだ?」
「わはは、ならわしがエグゾ用のでっかい剣でもこしらえてやろうか? そいつの出力からくる慣性を乗せりゃオーガ以上の一撃を出せるぞ?」
「やめろ、俺は信仰上と健康上の理由で剣とか刀とか振り回さないようにつつましくしてるんだ。大人しくあの絵にかいたエグゾにでもしてくれ」

 そこにエグゾの体幹をお披露目すると、六人は「白き巨人が」「探索したい」「ここが怪しい」と卓上の地図を囲んだ。
 居残り組で今後について話し合ってたらしい、邪魔したみたいだな。

「……あっ、ところでオリスちゃんたちがそろそろ戻ってくるって連絡してきました、みんな無事みたいです! 戦利品でいっぱいらしいですよー?」

 その足でガレージ予定地へ向かう途中、リスティアナの声が追ってきた。
 特に音沙汰がなくて心配だったけど元気に帰還中か、でも戦利品ってなんだ。

だって? どこ由来のドロップ品だ、もしかしてあいつら――」
「はいっ、白き民がいっぱいいたのでちょっと各個撃破してきたそうですよ? あの子たちすごいですねー、逞しいです☆」
「えっと、オリスちゃんとキャロルちゃんたちが白き民を狩ってたみたいなんだよね……? はぐれた敵を狙って少しずつ倒してきたとか……」
「狩りだなんて軽いノリでやっつけてるのは良く分かった。数減らしてくれるのは嬉しいけどなにやってんだあいつら」

 ミコも混じってあいつらの状況も分かった、森の中の廃墟を伺うついでにひと稼ぎしてきたそうだ。
 あのマスコットが集結したようなやつらが白き民狩りなんてひどい世の中だ。
 ロリどもの判断はともかく、それで抑止力になってくれれば御の字か。

『おい……なんか歩いてやがるぞ、ありゃ確かステーションで見た――ってイチじゃねえか!?』
『うわっなにあれ!? パワードスーツってやつ!? イチ先輩、それどうしたんですか!?』
『良かったイチ先輩でした……いや今度は何事ですか!? すごく物騒なの乗りこなしてますけど戦争ですか!?』
「ちょっとイメチェン中だ、お騒がせしました! まあ戦争に備えてるのは確かだな!」

 今度h宿舎裏手からタケナカ先輩と地味顔コンビだ、友好的に手を挙げた。
 そして倉庫前に到着。ここアサイラムの物資を集積する木造の平屋だ。
 ここらはあれこれ建てたせいで建築の余地がない――そこで目をつけたのが、以前作った二階建てである。

「えーと……ここにガレージでも作るか、せっかく一階部分を広く作ったんだし有効活用だ」

 俺はエグゾの動きを乗せてハウジング・メニューを開いた。
 難なくできた、浮かんだ画面を頼りに建物の外観をいじる。
 入口横の壁を削除、空き部屋から床を剥がしてコンクリート床を張り付ける。
 金属製のシャッターを取り付けて電源を接続、スイッチと連結させて――俺もずいぶん手慣れたな。

「いつ見ても面白いものだ。指先一つで容易く建築を行えるとはまるで魔法だな」
「ここ最近ずーっとハウジングいじってたからもう慣れてきたよ……スパタ爺さん、何かご要望は?」

 完成した車二台分ほどの余裕はあるガレージに、スパタ爺さんも九割がた笑顔だ。

「できれば工具だの置く棚とか欲しいのう。もっと欲張りなこと言っちまうけど、エグゾアーマー用のメンテナンス装置とか置けん……?」
「ほんとに欲張りなこと言いだしたなこの人――いやあったわ、設備リストにエグゾアーマー用メンテナンスベイとか出てきた」
「あるんかい! よし置け! 材料足らんなら何が何でも調達したるわ!」

 ご要望を探ればあった、設備リストに【メンテナンスベイ】とある。
 選択するとキャンプ・キーロウで見た、あの外骨格用の台座がうっすら見えた――壁にあわせてがらんと設置。
 するとどうだろう、本当に予定図通りのものが出てきた。
 エグゾが収まる骨組みに、お立ち台と充電用ケーブル、装甲や装備を持ち上げるためのクレーンもついただ。

「うわあ……マジで出てきた。これで満足度アップ?」
「ステーション地下にあるやつとほぼ同じじゃないのこれ! しかもバッテリー充電用の装置もついとるぞ。ぶっちゃけるとそろそろわし、お前さんをドワーフの里へ拉致したくなっとる」
「その時は旅支度してから遊びに行くから堂々と誘ってくれ」
「冗談じゃよ、わしらの里へ来たらみんなで丁重にもてなしてやるからの。しかしなんでもありじゃなあ」
「ボスに見せたら過去一めんどくさそうな顔しそう」
「わし思うんじゃけど、あの強き女に嫌そうな顔させたのはお前さんぐらいじゃろうな……」
「つまりボスに勝ってたってことだな、そういうことにしておこう」
「フハハ、では次のステップだな? 次はその身でボスから勝利をもぎ取るといいぞ」
「絶対嫌だ、いまだに勝てるイメージが浮かばねえよあんなの……ついでにガレージのデザインかえとく?」

 ボスもまさか俺がエグゾを着たままこんなことをしてるとは思うまい。
 三人でガレージの中をあれこれ微調整した。
 ドワーフの職人気質とオーガの美術センスもあれば、使わずじまいの部屋が丸ごと男の作業場へ早変わりだ。
 電源もしっかり繋いで完成。これでエグゾも地上へお引越しである。

「おねえちゃんの帰還だよー……ってゴーレムがいるっ!? もしかして敵襲か!? 敵襲なんか!?」

 外面を見て我ながらいい出来だな、と思ってたら横からそんな声だ。
 もしやと振り向けば、白き民の武具を背負った金髪ロリがびしっと身構えてた。

「落ち着け、俺だ。それか友好的なゴーレム」
「あっにーちゃんだ!? なにそれロボット? すごくカッコいい!?」
「キャロルねえさま、落ち着いてくださいませ。いちさまでございますよ」
「なんか変なのいると思ったらあにさまだった件――いや、なんですかそれ。すごく近未来的なフォルムしてますけど、コノハたちがいない間どうかされたんですか」
「っていちくんだ! その鎧どうしたの? ドワーフのおじいちゃんに頼んで作ってもらったの?」

 九尾院の子供たちもぞろぞろ続くところでもあった。
 まるでひと汗かいてすっきりしたような爽やかな帰りだ。
 しかし背にはやはりドロップ品の数々。きっちり仕留めた証拠がおっかない。
 そして当然、そんな四人をちっこい白髪エルフが追いかけてきて。

「無事に帰還を果たした。偵察のつもりが腕試しになってしまった、でも戦果は上々ゆえ一切の問題はない」
「ただいまー……イチ先輩ごつくなってるねー、イメチェンでもしたのかな?」
「見張り塔は特に問題なかったナ、白き民も相変わらず街に籠ってたガ、少し数を減らした来たゾ……ところでなんだその大きな鎧ハ、いやロボットなのカ?」
「あそこの白き民たちは何か妙ですね、なんだか絶対にあの森から離れないとばかりの動きだったのですが――ってなんなのですかこの近代的な鎧武者は面妖な!?」
「レフレクたちまた強くなりました~♡ っておにーさんも強くなってます! ゴーレムさんみたいになってます!?」
「め、メカ、ただいま戻りました……? だんなさま、その姿は一体……?」
「ちょっとイメチェンしてたところだ。お帰りお前ら」
「フハハ、皆よく戦った証拠を持っているではないか。こうも幼きも強い戦士がいるとは冒険者ギルドも安泰だな?」
「こいつらも冒険者らしさに染まっとるのう。戦利品は広場向かいの小屋で回収しとるぞ、よく戦ったな」

 タイニーエルフ率いる新米冒険者たちも無事だったらしい。
 オーガほどのデカい姿にどいつも驚いてるが、持ち前のパワフルさが戦利品を貪欲に持ち帰ってた。
 逞しいというか将来が頼もしいというか……まあこれが人外冒険者である。

「……ご主人、遠くからシナダさまたちの匂いがする。帰ってきたみたい」
「他の冒険者の方々もお帰りになってるっすねえ、皆様ご無事な様子っすよイチ様ぁ……あっ、なんか久々っすねエグゾ着てるの」

 そのままドロップ品を運びに向かったキャロルたちを見送れば、どこからかニクとロアベアだ
 二人の眼差しを機械的に真似すると、北側の向こうで手を振る連中がいた。
 槍を掲げるやつを先頭にした連中――シナダ先輩だ、あんなご機嫌になるほどの結果があったんだろうか?

『おーい、チーム・シナダ帰還したぞ! ってなんだぁそのパワードスーツ!?』
『なんかおっきいのまた増えたなって思ったらイチ君だった……! みんなー、いろいろ調べてきたよー! おなかすいたー!』
『戻ったぞイチ! そのロボットみたいな鎧はなんだ!? 男のロマンをくすぐるじゃないか!?』
『こうしてみんなが揃っているということは、俺たちがいない間悪いことは起きなかったみたいですね! こちらは白き民と交戦しました!』
「戦利品は回収所に持ってけよ! 食堂でムツミさんがお前らのために飯用意してる!」

 よく見るとあいつらも白き民由来の武具を担いでた。
 ということは向かった先で遭遇したわけか。
 その身なりは一戦交えたような乱れがあるも、死に至るような傷をお土産にした様子はない。

「続々と帰ってきとるのう。この頃の冒険者は優秀なやつばっかじゃな?」
「タケナカ先輩のおかげだろうな。俺たちのモットーは命大事に、だ」
「よくぞ戻ってきたな! どれ、運ぶのを手伝ってやろうか? 俺様も早くやつらに腕を振るいたいものよ」
「負傷したならクリューサに言うんだぞ! 回復魔法を使える奴はいるか!」
「こいつらは揃いも揃って外で何をしてきたのやら。衛生的な心配もあるから治療が必要なやつは宿舎に来い、下手に傷をいじるなよ」
「あ、わたしも手伝いますね……? みんな、お疲れ様……!」

 外で何があろうがこうして万全の態勢で出迎える、それがアサイラム。
 ストレンジャーズもそれぞれの形で帰還を出迎えて、ここもまた賑わっていく。

「とても南に爆弾抱えてるような場所には見えないな、みんな陽気にやってる」
「だからいったじゃろ~? そーゆーところになっとるって。このノリが続くなら、きっとアサイラムはクラングルに負けん強いコミュニティになるさ」
「クラングル並みに濃いやつがもう一個できるなんてそれはそれでなんかなぁ……お腹いっぱいだ」
「まあわしらの目的はここらの確実な安全の確保じゃ、今は白き民をぶちのめすことだけを考えとけよ」
「了解、爺さん。エグゾはメンテナンスベイに飾っとくぞ」
「うむ、後はわしがあれこれいじってすげえのにしてやるからな――おいお前さんら! 頑張ってくれたとこ悪いがアサイラムに良くも悪くも進展ありじゃ、いろいろ話したいことがあるがひとまず飯食って休んどけよ!」

 実をいうと、なんやかんやアサイラムが気に入ってる――拠点に流れる冒険者に混じってエグゾを預けにいった。

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