魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

DEATH FROM ABOBE!(要約:頭上注意!)

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「――いっち! 捕まって!」

 それが人生最後のギャンブルに変わった頃だ、急にばさっと羽ばたきを感じた。
 女の子の声もしたかと思うと、急に脇を掴まれて足元が浮かんだ。
 背中を引くような浮遊感だった。
 さっきまで踏んでいた地面がみるみるうちに離れて、太い杭の重さがごひゅっと真下を抉った。

「うっ、おっ、うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁッ!?」

 気づけばアサイラムの上だ、拠点の姿も白き巨人も幾分か小さくなっていく。
 いつぞやノルベルトに高く放り投げられたけどあんなもんじゃない、空を飛んでるんだぞ!?
 遅れて誰の仕業か理解できた、頭に感じる胸の重さと「むふっ」と悪戯気に笑うあいつの声だ。

「間に合った! いっち回収かんりょー!」

 お前の仕業か、チアル!
 フル装備のストレンジャーを抱える力強さにびっくりだが、おかげで空を飛んでる――すっごい怖い!

「チアル、お前か!?」
「にひひっ♡ 空を飛べるのってあーしぐらいしかいないっしょ? 助けに来たよ?」
「おかげで不名誉な死に方せずに済んだ、マジでありがとう愛してる! あと羽大丈夫!?」
「こんな状況でも羽の心配してくれるとかやさしーじゃん? こちらこそさっきはありがとね? いっち大好き!」

 目が眩むほど地上と縁が離れてるが、女の子に抱っこされながら冗談を言える余裕があるのが救いだ。
 「どうやって俺ごと飛んでるんだ」という無粋な質問も浮かんでくれば、下の様子もだいぶ変わっていて。

「あいつらまだまだ来る感じじゃねーかクソッ! なんだあの量!?」
「うーわ……あれまじふざけてる? あーしたち、さっきのでだいぶ倒したはずだよね、どんだけいんの……とととっ……!」

 白くてデカい奴の歩みに合わせて、ソルジャーやらナイトやらがわらわら伴うのがよく見える。
 しかもさっきのデカい得物持ちの諦めも悪く、見上げる姿から極太の矢が飛んできた――くるっと二人で翻って回避。 
 最悪なことにこうしてる間にも戦闘が再開したようだ。
 こうして分かった、防御がずたずたになったアサイラムに敵が押し寄せてる。

「おい、チアル!」

 どうするか……いや、俺にできることなんてこれくらいか。
 『白殺し』を抜きながら頭上の柔らかさに「これから」を伝えることにした。

「なあに!?」
「みんなに黙ってたことがある、実は高いところ怖い!」
「あははっ、いっち怖いものだらけじゃん!」
「いつもどおりだ! オーケー、このまま降ろしてくれ!」
「降ろすって、どこにおろせばいーの!」
「俺に喧嘩売ったクソ野郎だ、ちょっと買ってくる!」

 ばさばさ浮かばせてもらいつつ、次の矢を番える巨人を銃口で示す。
 割と無茶な要求だと思うが、こいつのノリの良さを信じるに――

「おーけー! ヤバくなったらあーしがお迎えに行くからっ!」
「迎え先はヴァルハラ以外にしてくれ! 突っ込め!」
「急降下するからじっとしててねー! ところでヴァルハラってなんなん?」

 笑って快諾だ。ありがとう未来の俺、いい子に会わせてくれたな。
 ところでこんな選択を後悔した、夜風の中を真下に突っ切るってことは事実上の落下だ。
 戦乙女の羽に頼って見上げる『白き巨人』に落ちていけば、想像以上の風の抵抗に内臓(場所は伏す)が縮み上がる。

「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!? やっぱ急降下はなしだ安全運転でああああああああああああああああああああッ!?」

 急激に距離感の縮まった地上もそうだが、迎撃で飛んでくる杭もあってスリルが行き届きすぎだ。
 チアルのセンスでうまく避けると、四本もある腕の利便を生かてこっちを払おうとする動きにぶち当たり。

「いっけー! いっち投下!」

 そのぎりぎりだ、あいつが手放すのも軽いノリでこなしてくれたのは。
 急に落下感から持ち上げられたかと思えば、足先で大きく白い手が空ぶってた。
 タイミングを合わせたのか。その甲斐あってえらく広い肩に着地して、面白みのない造形の横顔がすぐそばだ。

「またデカいの相手にするとかもう呪いじゃねーか! お前のせいだぞ××××野郎!」

 チアルがばさばさっと離れたのを一瞬見届けてから、左手抜きのマチェーテをその頭に突き立てる――!

『WOOOOOOOOOOOOOOOッ!? AAAAAAG――AAAAAAAAAAAA!』

 こいつは流石に効いたか、刀身の半ばまでぐっさり達すれば巨人も大慌てだ。
 潰れた声を巨大さ相応に広げつつ、背を揺らして振り落とそうと暴れ出した。

「おっ……とっ!?」

 思った以上の機敏さもあって平衡感覚がひどく揺さぶられる。
 取りついた虫を払うような挙動だけでも、森まで投げ出されそうな勢いだ。
 腕が影を作るのを感じれば悠長な巨人ロデオもおしまいだ、マチェーテを頼りにリボルバーを持ち上げ。

「――運が悪かったな、あいにくだ」

 横顔がこっちをにらむその直後、押し付けたこめかみにトリガを引いた。

*BAAAAAM!*

 ゼロ距離からの大口径弾だ、名前も威力もお前向きだろ?
 外しようのない一撃は流石に効いたか、巨人が強くよろめく。
 が、まだ足腰が力強く立ってる。直るバランスに振り回されつつ、続けざまに残弾も食らわせた。

『OOOOOOOOOOOOOOOOORRRRRRRRRR……!』

 三発だ、三発も打ち込めば身体も声も力が抜けていった。
 これでまさに『白殺し』だ、ざまあみろ!
 崩れ落ちながらマナに溶けていくところから飛び降りると。

「Ho-Mia-Dio!? KIO-ESTAS-CI-TIU-ULO!?」
「Ne-Povas-Kredi-Gin……C、Cirkaui!」

 そこは白き巨人をぞろぞろ追いかけてきたソルジャーやナイトのど真ん中だ。
 驚きの籠った声と仕草がじりじり構えだすのも仕方ない、銃身を折って弾を込め。

「よお、仕事の邪魔したな。お前らもどうだ?」

 装填完了、同時に斜め構えな大雑把な狙いでナイト級の胸をエイム。

*BAAAAAAM!*

 足が踏み出すところに射撃、鎧ごと白い身体に衝撃を伝えてずたずただ。
 すると次だ、「AAAAAAッ!」とソルジャーが代わりに突っ込んできた。
 得物は長い槌か、咄嗟を込めた斜めの振りに悩んだが、回し蹴りの要領で【レッグ・パリィ】を放つ。
 流しきれなかった衝突力が足に伝わるが問題ない、横にバランスを損ねたところを至近距離で射撃、仕留めた。

「ぶれいず・すふぃあ!」

 次の獲物を狙うタイミングだ、急に舌足らずな魔法の詠唱が聞こえた。
 こいつは妙だ、人間の声でもヒロインのかわいらしさでもない。
 まさかと思えば群れの向こう側で誰かが杖を持ち上げていた。
 革製の防具で最低限のおめかしを済ませたやつだ。手にしたそれの頂点で青い光が赤みを作り出し。

「あいつがメイジ級か! さっきから人の拠点燃やしやがって!」

 【ブレイズ・スフィア】が飛んでくるも、近距離用の照準器にそいつを重ねた。
 足元を狙った炎の弾がぼふっと弾けた――だが無意味だ、魔法は効かない。
 奇しくも発砲もその爆発と一緒だ。肩を殴る衝撃の向こうで頭が弾けた。

「いっち! 迎えにきたよっ!」

 殺到してくる敵の目の前で銃身を折って再装填、約束通りお迎えがきた。
 当然、周りから矢や魔法も飛んでくるがお構いなしだ――無茶しやがって。

「一人やったぞ! 俺たちの戦果だ!」
「にひひっ♡ やったね、あいしょー抜群! それじゃ離脱しまーす!」

 背中を預ければまた俺たちは飛んだ、さようならシロアリども。
 ばささっと空に上ると戦場の様子がまた見えて、さっきと戦況が変わってた。
 こうして見る限り、拠点の連中が壊れかけの防御線をどうにか保ってた。
 ゲートのあたりからはリスティアナの必殺技のエフェクトが見えるほどだし、動揺する白き民にはクロスボウ部隊の弾幕が効いてる。

「これみてこれ! あんね、おじいちゃんたちからいいものもらってきたよ!」

 さてどうするかと空中で物見にふけってると、チアルに足でつんつんされた。
 次に横目越しに妙な硬さと重みを感じた。
 制服調衣装の腰あたりに柄付きの弾頭がぶら下がってる気がする。

「この状況でいいものだって? あの爺さんどもはとうとう俺のことを爆撃機かなんかと勘違いしてやがるのか!? いやそうだな大砲鳥とか呼ぶんだからな!?」
「なにキレてんのいっち!」
「ここで文句言ってるだけだどうせ聞こえてねえ!」

 ……さっきの即席手榴弾だ。しかもご丁重にメモで一味加えてある。
 角ばる弾頭が何個もワイヤで束ねられ、空でも見やすい文字でこう訴えてる。

【飛ぶぞ】

 飛ぶぞじゃねーよ馬鹿野郎、飛んでんだよこっちは。

「これでちょっとやっつけてこいだって! あーしたちの連携あいつらに見せちゃう? いっちゃう?」
「文句言えないように完璧にやってやる、お前次第だ」
「にひひっ♡ いっちとまた飛べるね、こーなったらやるしかないっしょー?」

 空の戦力として都合よく扱われてる気がするが、物申すのは後にしてやろう。
 巨大なクロスボウ持ちは倒した、下で暴れてるデカいのは残り二匹か。

「……まずいな、デカいのがどっちも拠点に張り付いてる。頑張って作ったのに滅茶苦茶にしやがってあのクソ野郎ども」

 上から眺めるに、中でも西側で棍棒を滅茶苦茶に振り回すやつが特に厄介だ。
 魔法と矢で多少の怯みはあれど、とうとう土嚢を壊して見張り塔を壊し始めてる――ミナミさんたちはどうにか逃げたらしい。
 反対の東は? 敵は少ないものの、剣と盾の巨人と冒険者たちが対峙してボスバトル中だ。
 そしてデカい暴れん坊にあやかり、中央狙いのソルジャーやらが突破を図るもヒロインたちが食い止めてる……こんな感じか。

「どーするの? このままじゃタケナカパイセンたちがヤバいよ、棍棒持ってるやつが暴れてるせいで、あのへん滅茶苦茶にされてるんだけど……」

 チアルにばさばさしてもらいながら手元の収束手榴弾と見比べてると、そんな光景にもまた変化が起きた。

 スティレットの発射炎だ。スパタ爺さんが棍棒持ちの巨人をやったらしい。
 でも妙だ。金属塊みたいな得物を払ったかと思えば、ばふっと空中に爆発が起きる。
 そこにまた擲弾の音が響く、今度は東側、まだ無事な見張り塔からだ。
 が、巨人の四本腕が突き出す盾が吹っ飛んだだけだ――まさか、あいつら防いでやがるのか?

「スティレット防いだってか? 冗談じゃねえぞ……」
「どしたん~?」
「悪い知らせがあっただけだ。よし、二匹同時にやるぞ」
「二匹一気にいっちゃう!? 別にいーけど、どーやんの?」
「棍棒持ちのとこにさっきみたいにダイブしろ、持ち上げたらそのままヤグチたちと遊んでるやつの背中にお届けしてくれ――できるか?」

 これ以上見て分かるのは調子に乗り始める巨人たちの様子だけだ。
 ポケットから何発か弾を抜いてくわえた、腰の手榴弾も引きちぎっておく。

「あいつら一気に狙えばいーの? おけ~! あーしに任せろ~!」
「げんふぃだふぁおまふぇ(元気だなお前)」

 薬莢の味を乗せて一言述べてやると、ぎゅんっと身体が夜空を切った。
 お望み通りにやってくれてるらしい。アサイラム上空を広く曲がっていくと、いい突入ルートを作り始めて。

「じゃあいくよ~! いっちとだったら無敵だ~!」
「あんえんうんえんふぇほへ(安全運転でおね)……ふぉおおおおおおおおおおおおっ!?」

 チアルのUターンが西の川を背にしたその瞬間、ついに身体が落ちていく。
 さっきよりパワフルな急降下だ。風に全身を引かれつつ、俺たちは小さなアサイラムの風景に飛び込む。
 どんどん目に入ってくるのは冷たい空気と、監視塔裏まで突破し暴れる巨人の振る舞いで。

「見えてきたよ! このままやっつけちゃえ!」

 背中の無茶ぶりがそいつへまっしぐらだ。
 冒険者を棍棒で追い回す場面がまじまじ迫ってくる。
 やがて全員が距離を取って取り囲んでるのも伝わってきて。

「いへ! ごー!」

 こうなりゃやってやる、舵そのままだ。
 風でぶん殴られながらも手榴弾のキャップを抜いた、少し早いがこれでいい。
 じりじりと導火線の点火を感じれば、白き巨人のつるつるの頭にキスでもしろとばかりに地上が近づき。

『――あっあの馬鹿マジでやりやがったぞォォォッ! 全員退避しろおおおおおお!?』

 タケナカ先輩の悲鳴だか怒声だかわからない気持ちも届いた気がした。
 敵も妙に敏い。拠点を背にする冒険者たちと対峙するまま、ふと何気なくこっちを見上げ。

『MI-NE-SERCAS!? OOOOOOOOOOOOOooooooooooooッ!』

 驚愕を込めた大声が棍棒を手向けて来た、が。

「ふあぐほうは(フラグ投下)!」

 いまだ。その顔面にめがけて手榴弾を手放した。
 戦乙女のダイブに合わせた軌道が、また急な形で身体が起こされる。
 少し間違えれば向かうはずの地面がぐっと離れた、今度は水平に持ち上がっての低空飛行だ。

*zzzZBAAAAAAAAAAAAAAAAAMmmm!*

 背後で寄せ集めた弾頭の爆発が響く、チアルが「ひょう」と賑やかになった。
 彼女の正直さに引っ張られる先も次の獲物だ。人間とヒロインの集まりがボスと取り巻きと拮抗してる。
 近づくにつれ魔法のエフェクトがひゅんひゅん追いかけてくる、リボルバーとマチェーテを両手に備えた。

「いっへふふ。ひあぁな(行ってくる、じゃあな)」
「気を付けてね! やっちゃえ、いっち!」

 迎撃をかいくぐって飛び込んでくるのは、剣と盾を四本腕で使いこなす化け物が東側の防御をぶち壊した場面だ。
 監視塔を繋ぐ橋も叩き落とし、土嚢も払って良くなった風通しにソルジャーたちが巡ってる。
 それをしのいでるのはヤグチだ。巨大な剣の一撃をがきっと防ぐ音が今にも聞こえるほどで。

「――う゛うお゛おおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 ……そんなやつらの頭上を素通りし、巨人の背中に突っ込んでいくハメになった。
 ちょうど飛んできたケイタの電撃魔法を丸盾で防ぐ挙動だった。突き出すような上半身の姿勢に放り込まれる。
 白き民特有の質感に足がついた。勢いあまって巨大な横顔に頭突きもかましてしまい。

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!?』

 いい邪魔になったそうだ、突撃しようと身構えたままぎょろっと睨んでくる。
 ちょうどよく向けてくれてありがとう。ご対面したばかりの顔に速攻でマチェーテの先をねじり。

*BAAAAAAAAAM!*

 脳天めがけて白殺しをぶっ放した。
 これにはたまらず攻撃の手を緩めて身じろいだ。
 激しい揺れをブッ刺した得物でこらえつつ残弾を撃ち込む。
 が、三発もぶち込んだのにまだ悶えてる。がむしゃらに振られた長い腕がソルジャーたちを弾く。

『……イチ君降ってきた!? やっぱりあの人の仕業だったか!?』
『さっきでっかいの倒したのイチ君の仕業か! 今がチャンスだよみんな、雑魚を片付けて!』
『ちょ……なにやってんスか!? 巨人にしがみついて……ええー……!?』
『うーわマジでそれやるん……? あははっ、やっぱイチ先輩面白いね! まだまだ戦えそうな気がしてきたじゃん!』
『敵が混乱してます! 殺るなら今しかないです! 怪我した人は回復するのでいったん下がって下さい!』
『なんかすげーことしてるぞ! 俺たちも負けてられねえぜうおおおおおおおマナ切れたあああああああッ!』

 下でヤグチたちが巻き返すのが良く聞こえてくる、ハンドガードを折って銃身を折った。
 むき出しになった熱々のシリンダに咥えた弾をぺっと落とした、一発だけ入った――ならいい、一発で充分だ。

「こおやおう――てめえなんか一発で十分だ」
「WOOOOOOOOOOO……!?」

 銃身を振って、閉じて、撃った。避けようのない45-70弾のお味はいかが?
 白殺しのネーミングセンスは伊達じゃない、中をずたずたにされて動きが硬くなると、巨体がずずんと崩れていく。
 やがて白い肉もマナ色に消えた。どうにか地面めがけて飛ぼうとすると。

「ご主人!」

 戦況をすり抜けてきたニクが律儀に受け止めにきてくれた。
 大人しく任せるとぎゅっと抱っこされた、よりにもよってお姫様スタイルだ。

「お迎えありがとう、ぐっどぼーい」
「Malbona-Ulo-Venis!? Atentu!」
「KREINTO! Cirkaui! Cirkaui!」

 無事に地上への帰還を果たすと、付きまとう先を失ったソルジャーたちがわらわら追いかけてきた。
 勇ましそうに「Oooooo!」と槍が突き出てくる。
 お返しだ、腰構えに抜いた45口径をぱぱぱっと浴びせてダウン。
 続く二人にも撃ちまくって足止め、残りはニクの斬撃が同時に仕留めた。
 その足でお出迎えからヤグチたちの元へ戻れば、待ってたのは一戦交えつつの皆さまが浮かべる困惑だ。

「ただいま」
「お、おかえり……いやすごいことしてるねイチ君!?」
「三体もやっちゃったよこの人……最初のやつが倒れた時点でまさかって思ったら、案の定知ってる人でした……っとぉぉぉっ!」

 俺も弾倉交換しつつ戦線に加わった、散らばる白き民へまた弾をばら撒く。
 そばではナイトの攻撃をヤグチが防いで、続くアオが長柄武器で打ち倒してのいい連携だ。
 南から殺到しようとする群れにぱぱぱぱっ、とわん娘の機関拳銃も唸れば。

「あんたほんとに人間なんスか!? なんつーか……すげーです、いろいろと!」

 チャラオが戦いながら背を近づけてきた。
 敵の攻撃を片手斧で防いで、逸れた腕を掴んでの首元への一撃だ。

「おかげでみんなテンションブチ上がってるよ! こっちもなんか面白くなってきたじゃん!」

 その合間を埋めるのが両手剣使いのセイカだ、混乱しながら前進してくる敵をひと薙ぎで出迎えた。
 腹を切断された後ろからもまた増援が来る。
 するとお次は【ライトニング・ショット!】と電撃が端を襲い。

「おかげで負傷者の治療が間に合いました! まだ殺れますよ!」
「イチ先輩! もし電撃魔法の範囲攻撃のやつ見つかったら俺にくれ! この魔法マナパ悪い!」

 黒髪ゆるふわショートボブがトゲトゲの鈍器をもって恐ろしい勢いで殴り殺しにいった、男子中学生も滝汗もろともご一緒だ。
 イクエとケイタも無事で安心した。チーム・ヤグチはここで一番輝いてる。
 巨人もいなくなって勢いの戻った冒険者二十名あまりは拠点の外で奮闘中だ――ここは大丈夫か。

「ヤグチ! 任せて大丈夫だな!?」
「うん! 守り通すよ!」

 最後にそう確認して信じることにした。
 ぶち壊された守りを辿って西側へ向かえば。

「巨人殺しが帰還した。あれだけ暴れたのになんという涼しい顔」
「みんな、イチ先輩が戻ってきたよ! 普通に帰ってきちゃった!?」
「敵前に突っ込んで帰ってくるとか何考えてるんですか貴方は!?」
「やるナ、イチ先輩! 敵の勢いが目に見えて弱ってるゾ!」
「だ、だんなさまぁぁぁッ!? あたし心配しました、無茶しないでくださいっ! 良かったです帰ってきて!」
「おにーさんすごかったです! さすが勇者さま!」

 地上でチビエルフと愉快なロリどもがわいわい戦ってる最中だった。
 みんな五体満足だしメカクレメイドに至ってはぼごぉっ、と道中のソルジャーを叩き斬りながらすがり寄ってくるほどだ。

「本当にやりやがったなこの野郎め! ギルマスに報告してやるから楽しみにしてろよ!?」
「わはははっ! これぞストレンジャーじゃな! お前さんがいればどんな戦いもただの喜劇じゃ!」

 合間を縫ってメカをよしよししてると、タケナカ先輩の剣撃が「ついで」で敵を払いながらやってきた。
 308口径の銃声も伴えばスパタ爺さんもいい笑顔だ、爆撃やらせたことは一生覚えてやる。

「俺だって空飛ぶとは思ってなかったぞ! 誰だ俺を爆撃機か何かと勘違いしたのは!? 今すぐ名乗り出ろ!」

 拠点に攻めてきたご一行をまた一段と外へ追い出しながら、今のうちに犯人を捜すことにした。
 人間冒険者の戦いぶりを逸れてきた白き民と目が合った、クナイをびゅっと投げて頭に生やせば。

「マジでやるなんて思わなかった笑うわこんなん死ねオラアアアアァァッ!」

 どこからともなく幼馴染がダッシュしてきた。
 正直に白状しながらも突入してきたナイトをドロップキックだ。
 笑ってる場合か。よろめいた甲冑姿にするっとメイドが踏み込んで首を一閃。
 
「おい! 冗談でやらせたのか!? 今俺の口から「こ」と「ろ」と「す」が出かけてるぞ!?」
「しいて言うならうちらの総意っすねえ、あひひひっ♡」

 今日もによっと首を狩ったところで、ロアベアは「あちらっす」と目で表現してくれた。

「イチ君ならやるって信じてました! グッジョブですね☆」

 まずリスティアナが映った。剣で相手を叩き潰しながらにっこりだ。

「デカいのを狩るのは好きだろう? 一票入れさせてもらった」
「どうせ仕留めて帰ってくるだろうと思ったんだぞ! おかえりだ!」
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!? AAAAAAAAHHHHH……!?」

 続いてクリューサの投げナイフで気を取られたソルジャーが、脇からすり寄るダークエルフに急所を一突きにした。

「ちなみにミナミ様も同意してたっすよ、やってくれるとご期待なさってたみたいっす」
「みんな信じてくれてありがとう畜生が! ――おいニク、まさかお前も」
「……ん、信じてたよ」
「ああそうかよ、お前らのおかげであだ名が人間爆撃機だろうな! ミコに自慢してやる!」

 敵前にストレンジャーのゆかりを持つ面々が固まってきた、
 ミコとノルベルトがいれば完璧だな、それならもっと早く蹴散らせたはずだ。
 そこに「うわあああああっ!」と迫真の形相で切り込むホンダを発見、横から狙う敵にクナイを投げて怯ませると。

『報告です! 敵がまた引いていきますよ!』

 そいつをハナコの魔法が冷たく仕留めた途端、ミナミさんの報告が入った。
 声を追うと牛鬼の上にその人がいた。戦場を見渡してくれてたようだ。

「……流石にもう、これで最後か?」

 目の前の有様も、ついそう口にしてしまうぐらいだった。
 白き巨人を失って想定外、とばかりに戸惑う敵が背を向けて退却中だ。
 こっちにはそれを追いかける力も、追撃するクロスボウの太矢もない感じだが。 

 ――ずずんっ!

 待ってたオチは最悪だった、森の方からまたあの足音がした。
 引いていくあいつらの後ろ姿に「まさか」と顔を見合わせてしまい、俺たちに嫌な雰囲気が生まれるのも仕方なく。

『……嘘でしょう……!? で、デカいのがまた二匹来てますッ! 取り巻きと【キャプテン】も一緒です!』

 どうしてそこでそんな報告をすらっといえるんだ、狩人のおっさんめ。
 隠し切れなくなった最悪の気分で前を見れば、あの姿がまたやってくる場面だ。
 間違いなく、どう見直したって布鎧をかぶった四つ腕の化け物だった。
 馬鹿でかい斧を二本もった仰々しいやつが二人だぞ? そいつに挟まれる形でキャプテンがこれ見よがしに堂々だ。

「……向こうはまだおかわりがあるみたいだぞ。どうする?」

 あんな光景にまた戦力が集まるのを見て――ひとまず白殺しの銃身を折った。
 45-70弾も残り六発しかない。45口径は弾倉一本分、HEクナイもゼロだ。
 周りだってそうだ。武器が折れたり、怪我をしたり、矢が尽きたり、そもそも溜まった疲労も深い。

「くそっ……あいつらがどうして馬鹿みてえに突っ込んでくるかこれではっきりしやがったな、まだ余力ありってことだよ畜生が」
「……あんだけ倒したのにか?」
「じゃなきゃ、あんな風に得意げに俺たちを見にこねえだろうさ。今日の白き民は一段とどうかしてるぞ」

 頼れるタケナカ先輩も正直よろしくない。
 あれだけ仕留めたのもあって、嫌な汗が不健康にじっとり垂れてる。
 何とも言えず向こうを見てると、東からヤグチたちも大急ぎな形でやってきて。

「どっ……どうしよう!? 敵が、敵がまた集まってる……!」
「タケナカ先輩! 向こうはまだやる気ですよ!? どうするんですかこれ!?」
「今そのことについて二人で話し合ってた、ひどいこと言うと思うけど正直ここを捨てたい気分だ」
「幸いなのは今のところこっちにくたばったやつがいねえってことだ、俺も残念ながらここを放棄したい気持ちが湧いてる」

 疲労困憊で帰ってくるご一行に、なんともひどい答えが浮かび始めてしまう。
 つまり詰みだ。あの白い質量を相手にする余力が底をついてる。
 向こうだってだいぶ消耗してるのは間違いないだろう、ほとんどがソルジャーな上に数もさっきよりは少ないが。

「……わしも正直、アサイラムをいったん放棄して下がるって選択肢じゃのう。あんだけ振る舞っといてまだ向こうは一段構えとったんじゃ、やつらめこっちのペースを超えてああして最後の攻撃に備えとる」

 悔しそうなドワーフの言葉も入れば、目の前には「撤退」の二文字が現実的だ。
 まだ急いで逃げれば拠点を犠牲に逃げることはできるはずだ。
 そしてこのままもう一戦したら必ずどこかで綻ぶ、そんな二択なのだ。

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――!』

 だが、ついに、白き巨人が雄たけびを上げる。
 潰れた大声を広げると、もう一体と足並みを合わせてずんずん歩き出す。
 キャプテンの佇まいも一緒だ、まるで勝利を確信したような腹立たしい足取りだ。

「くそっ、全員に質問だ。ここから退くって選択肢はありか?」
「……ご主人、次が来る」
「お兄さんは死ぬまで戦うってのはなしだ、命あってのなんとやらだろ? 悔しいが今は負けちまうのが正解だと思うぜ」
「うちもアーツ使い過ぎて疲れちゃったっす……こんなに戦ったの、初めてっすよ……」
「イチ、私も撤退に賛成だ。ここで命を散らす必要はないんだからな」
「俺はごめんだ、夜中に叩き犯された挙句あんなでたらめなものと付き合うのは健康上無しとしてる。先に引かせてもらうぞ」

 ストレンジャーな顔ぶれもそう言うのだ、それだけ絶望的だ。
 クリューサもするりと場を抜けてしまえば、もはや口にできるのは今すぐに逃げろと叫ぶぐらいだ。 
 向こうの勢いと姿が徐々にはっきりと近づいてくる、もう考えてる余裕はない、退却する。

「お前ら! アサイラムに犠牲者はいらないぞ! 今すぐここから……」

 悔しいが、向こうのクソみたいな景色から急いで引こうとした――時だった。

『フーッハッハッハ! ここに帰ってもなお徳を積む相手がいるとはな、今どきのフランメリアは至れり尽くせりではないか!』

 背後からバカでかい声だ。
 妙に勇ましいそれが、腰が引けた俺たちと夜の暗さをぶち破ってくる。
 そいつが戦いの混乱から生まれた幻聴じゃないのは確かだ。
 なんたってその強い笑顔を連想させる声は、誰もが忘れられない思い出なのだから。

「……ご主人! この匂い……!」

 ニクが反応してしまったとなれば、もう疑いようのない事実だ。
 耳も尻尾も立てて嬉しそうにそういうってことはだ、つまり……。

『敵前で余裕を見せるとはなってないやつらめッ! 大人しく俺様の徳になれっ、せえええええええええええええええええええええいッ!』

 「もしかして」を分かるやつらで口々にする前だった。
 急に拠点から現れた巨大な何かが、いきなり俺たちの横を素通りしてきたのだ。
 知る人は一生忘れない元気な声をあげつつ、がしょっ、と可変式の戦槌のサイズを身の丈に合わせ。

『M-Malamika-Atako――AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
『Malamiko!? Atentu! AteeeeeeOoooooooooooooooooッ!?』

 壊れた門に集まる白き民たちを、真っ向から文字通りに崩していった。
 アラクネ製の戦闘用ジャケットに身を包んだ巨体からくる一撃は強烈だ、まとめてソルジャーを数体巻き込みつつ前進して。

『フハハ! でかい図体のくせに視野が狭いようだ……なぁッ!』

 夜空の下に結んだ金髪が踊った。
 そいつの人柄を示す角が一際強く浮かんでいた。
 あいつは道中の敵を踏み台にすれば、その間合いを四つ腕の怪物の白いのっぺら顔まで飛んで狭め。

 ――ごがんっ!!!

 今日一番豪快な破壊音がその脳天からド派手に響きまわった。ワオ、頭上注意。
 誰がどう見たって、例え初対面だろうが理解できる力強い一撃だった。
 白き巨人の頭が遠目でも分かるほどにへこんで、脳みその機能性を乱され不格好に膝をついていく。

「…………ははっ、そうか、誰か噂したからマジで来たのかあいつ?」

 思わず笑った。そうだとも、あれは俺たちが良く知る暴れようだ。
 知らないやつは驚いてるが、ストレンジャーたちには分かる仲間である。
 またの名を――

『待たせたなぁ、イチよ! オーガの子ノルベルト、に確かにはせ参じたぞ!』

 ローゼンベルガー家のノルベルト、一番頼もしいオーガの戦士だ。
 暗さも疲れも吹き飛ばす豪快な笑いが、ついでとばかりに白き民をなぎ倒していた。
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