魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

オールド・チャプター・ブックストア(2)

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「ははっ、店舗移転しても常連に恵まれてやがる。そういえばあっちの世界じゃ電子書籍が普及して本屋なんてなかったよな? 紙媒体が高級品になるぐらいだ」

 最初にそんな物言いをしてくれたのはいつもの幼馴染だ。
 途中の車の陰で軽く感心する様子を真似すれば――なるほどな。

「そう考えると俺たちの目の前にあるのは宝の山ってところか?」
「ああ、ただし中が無事ならの話だぜ。つまりお前の大好きなスキル本だとか、ものづくりの引き出しを増やしてくれるやつがあるかもな」
「なら今見えてるお客さまに吹っ飛んでもらう方向性はなしだな。つーかこの店、ちゃんと立ち読み行為に制限かけるべきじゃなかったのか?」
「150年ずっと店ん中彷徨ってるのかねえ。店員さんもいねえし俺たちで退店してもらうしかねえだろうなあ」

 ウェスト・ヴァージニアから移転してきた書店はここでも盛況してるらしい。
 埃のたまったガラスの質感に黒い人影がきょろきょろ映ってた。
 ほのかに薄暗い店内で左右する青い光は、数えるのをあきらめたくなるレベルだ。

「わしも建物ごと吹っ飛ばすってのには賛同しかねるのう。ドワーフ族たるもの、知識の入れ物たる書物は無下に扱うなと代々教わってるものでな」
「決まりだな、派手にドカーンは禁止とする。俺も本読みたい」

 スパタ爺さんの要望であれにライフルグレネードやらぶち込む方向性はなしだ。
 ボンネットから次を伺ってると、近くの廃車からもぞ……と犬の耳が生えて。

「あれ、どうするの? 入り口近くに固まってるみたいだけど」

 ニクが引っこ抜いたオイルフィルターを「ん」と見せびらかしてる。
 すぐにメイドの手に渡った。あいつの5.7㎜拳銃のお供に探してくれたのか。

「お~、うちのためにわざわざありがとっすよニク君。よしよし」
「んへへへ……♡」
「ああしてテュマーの皆さまがおられるということは、お店の中は保存状態がいいんすかねえ? 中々でうろうろしてるっす」

 ロアベアも即席の消音器をきゅるきゅるつけながら見守ってた。
 このままおびき寄せるというのもありだが、向こうの物持ちの良さが分からない。
 屋上で小銃持ちが三人も監視してるような場所だ、中のお客様どもも銃を持ってると思うべきか。

「今考え中、頭の中で撃ち合うつもりで中から引きずり出そうかまで達してる」
「それで中からすっごい数がいらっしゃってもうちは歓迎っすよ、あひひひっ♡」
「……多分、まだ二階にもいると思う。今見えてる数だけとは限らないかも」
「二階までぎっしりってなりゃ単純計算でお客様も二倍かもしれねえな、下手な喧嘩の売り方じゃ痛い目見るぞ」
「まだ向こうはこっちに気づいとらんようじゃがのう、初手できれいに決めて優位に立ち回りたいもんなんじゃが……」
「……おい、後ろに控える医者の安全を配慮したらどうだ。それに上を見ろ、あの馬鹿エルフが何か思いついたような顔だぞ」

 退店させる方法を考えてると、誰かの顔色の悪さが曇り空を見上げてた。
 目線を辿ると、屋上の土嚢をひょこっと越した得意げなダークエルフがいて。

【私が引っ掻き回してくるぞ、敵の背中はお前たちで分け合ってくれ】

 と、ドヤ顔がメッセージを送ってきた。
 その旨に正気かあいつみたいなクリューサの顔つきが向かうも。

【大丈夫か? ちなみにこの質問には今隣でクリューサがお前の正気を疑ってるってところまで含んでる】
【お前たちの方に注意が向いてるからな、後ろから驚かせてやればさぞ参るはずだぞ。退路も山ほどあるんだ、私に任せろ】
【分かった、お医者様に心配かけないように我が身を大切にしてくれ】

 少しのやり取りの後、クラウディアはどやっと何かを見せてきた。
 曇りを晴らすようなライトニング・ポーションの黄金色だ、カバーも外れてもう安全じゃなくなってる。

「暴れてくるからその隙にどうぞってさ」
「そうか、あいつにポーションを持たせてやったのは失敗だったかもな」
「失敗にならないようにすればいいだけだ。騒がしくなったら行くぞ、ニクは俺に続いて外側から削れ」
「ん、任せて。しっかり狩る」
「タカアキは俺の後ろで左右頼む、ロアベアとスパタ爺さんは二人でカバーしあいつつ動いてくれ。確実に殺せよ」
「頭に撃ち込めば死ぬ、まったくゲーム通りだね。最高だ」
「久々に首斬り落とせるっすねえ……あひひひっ♡」
「早いモン勝ちじゃからな、先取られても文句はなしじゃぞ」
「オーケー、行くぞ。クリューサはそこで留守番でもいいからな」
「こんな気味の悪い場所で待ちぼうけなどごめんだ、不本意だが俺も行く」

 クラウディアがすっと消えたのを理由に、俺たちは得物を手に身構えた。
 そう次の変化をじっと待ってると。

*PPAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAMM!*

 ほらさっそく聞こえた、二階の方からポーションの炸裂音が奏でられてる。
 窓が一瞬光るほどの効果が発揮されれば、ガラス越しの店内にどたばたと足音が行き交うのもすぐで。

『異音を検知、急行せよ!』『警戒しろ、警戒しろ』『モスマンだ、モスマンがいる! モスマン!』『階段は走るなプロトコルを無効化します、迅速に移動せよ』

 青い瞳の持ち主たちが慌ただしく蠢くのが目に付いた。
 その間にとうとう踏み込む。
 ニクとタカアキを連れて、何年も開いてなかったようなドアを押すと――

「……出て来なさい、優しく早くします、信じてください」

 最初に感じた光景は埃で灰色になった店内だ。
 そして入ってすぐ左手、階段を見上げるテュマーの背があった。
 薄汚さと暗さの下で、斜め置きの本棚が年季の入った商品をまだ売り込んでる。
 壁際の棚も本の質量が支配しており、書店を名乗り上げるのも納得である。

(おいおい、あんだけ騒いだのにまだ残ってるぞ……俺はこっち側から行く、一階制圧開始)

 そしてお客様の数も中々だ。
 両手で数えるのも面倒なほどの黒い奴らが商品近くでそわそわしてる。
 目についたやつに弦を絞ってエイム、矢じりをその後頭部に合わせれば。

(ファーストキルわしがもらっちゃうもんね、店のモンに変わって閉店準備じゃ野郎ども)

 右へ別れたスパタ爺さんがさっそくクロスボウを持ち上げてた。 
 すると、かしゅっ、と太矢を弾く音が響いた。
 その返事は「がっ」という電子的な断末魔だ。

「……今の音は? 顔を見せてください、どうかこっちへ、私は――」

 そいつを理由に階段近くの敵が振り向こうとした、迷わず指二本を離す。
 ぼっ、と矢の鋭さが黒い横顔を抉った。戦前の男の陽気さがごろっと崩れる。

「異音を検知、調査モードに入ります。モスマンはいます、信じてください」
「モスマン? モスマンなのか? モスマン?」

 その音に店内の客も気づいたか、本棚の間から人の動きを感じた。
 店奥の本棚越しにセンサーの青さがまた見えた。
 慌てず矢筒からの一本を番えて緊急射撃、びすっと命中。

*Pht! Pht!*

 同じく右手から押し殺された小口径の音、本棚の間からテュマーが倒れにくる。
 続くクロスボウの二連射と共に、別の誰かが逃げ腰に転がる――立ち読み客だったが頭に矢が刺さってる。

「――警戒! 異変を検知!」
「モスマンの仕業だ! 繰り返す、モスマンの仕業だ!」

 そこまで来てしまえば、残ったやつらもやっと警戒心が働いたようだ。
 拳銃、散弾銃、バットやらシャベルやら、武器様々に店内を見渡すも。

「……気づくの遅い、さよなら」

 そんな敵のタイミングへと、ニクがしたたっと潜り込んでいった。
 駆けつけてきた二人へと迫るなり、右手の銃持ちの脳天が穂先で潰された。
 片割れの死因はくるりと翻ってからの踏み込みと貫きだ、即死ともいう。

「非感染者を検知! 我が使命は抹殺です死ね死ね死ね!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ……!」

 が、別のテュマーたちが雪崩れ込んでいく。
 バックステップで距離を置いたニクに代わってそこを撃つ、抜いては撃つ、とにかく撃つ。
 横からの矢じりに一団が転んだ。それでもしぶといのが追いかけに行くも。

*Pht! Pht! Pht!*

 すぐ隣で消音された45口径の銃声、横でカービンを構えたタカアキの所業だ。
 ニクめがけて園芸用品をぶち回す姿がびくびくっと震えた。
 それでも続けざまにぱすぱす打ち込みつつ、あいつは親しみのある距離まで近づき。

「よお、マナー悪い客だな? どうか店内ではお静かに」
「オオオ……オッ――!?」

 きっちり脳天に仕上げだ、振り向く顔をばすっと吹っ飛ばす。
 本棚の間も覗いて奥にいたであろう何かにも数連射だ、向こうで「あ゛っ」と電子的な悲鳴が聞こえた。

「敵ッ! 敵ッ! 敵敵敵敵敵敵ッ! 敵ッ!」

 次の獲物を探していると右側からそんな声だ。
 急いで弓を構えれば、斧を叩き込みたくて仕方なさそうなテュマーが一人。
 射貫こうと思ったけど近い、じゃあこうだ。

「ロアベア! 一名様ご案内だ!」

 落とされる斧刃に合わせて一歩後退、からの【レッグパリィ】だ。
 持ち上げたブーツの先で手を蹴り払った。手斧の誤りにぐらりと腰が崩れる。
 そこに丸めた身体をぶつけて押した――お届け先はによっとするメイドの笑顔で。

「この方っすか? どうもっす、手元狂うんで大人しく斬られるっすよ」
「有機生命体を検知! 救援要……」

 転がるような勢いで逃げたようだが、気の毒にも次は抜かれた仕込み杖である。
 横一閃の最期に首がすっぱり落ちた。転がる顔は「せ」と言いそうな口ぶりだ。
 それと同時にロアベアは弾倉を交換、足元の斧を「どうぞっす」とこっちに蹴りながらまっすぐ構え。

「イチ様ぁ、伏せた方がいいっすよ?」
「お前がそう言うならそうした方がいいだろうな、頼んだ」

 その仕草に後ろからの足音が重なった、テュマーのやかましい走り方だ。
 目下のちょうどいい手斧に飛び込めば、背からばたばたと重みが迫ってきて。

「掘削させろ! 掘削させろッ!! 掘削させろォ!!! 非感染者は処置処置処置アアアアアアアアアアアアアッ!」

 敵の得物を拝借しながらひっくり返ると、ずいぶんと大きく逞しい男だった。
 紺色の作業着と安全帽がセットのでかい図体がつるはしを持ち上げてた。
 つまり俺を採掘する気だ。冗談じゃねえ、そういうのは職場でやれ!

「お~、気合入ってるっすねえ。どんな場所だったんすかねウェスト・ヴァージニアって」

 まあ、そんな攻撃的な姿もメイドの5.7㎜弾に阻まれたが。
 ぱすぱす立て続けに打ち込まれれば振りかぶる姿も後ろへ怯んだようだ。
 仰向けのまま顔に斧をぶん投げた、鼻先でごぎっと刺さって悶えたところにロアベアお得意の【ゲイルブレイド】だ。

「人間を掘ろうとするのがいっぱいだったんじゃね? どうもありがとう愛してる」
「どういたしましてっす~♡ うちら相性抜群っすねえ♡」
「こうして軽口叩けるところとかな。オーケーこれで大体始末したか?」

 ワオ、今日の生首は斧がついてお得だ。蹴っ飛ばしながら立ち上がった。
 周囲の状況を確かめるに店内の清掃もはかどってるらしい。
 逃げかけの横顔にびすびすっと太矢が生えてダウン。

「これけっこう狙いつけんの難しいのう! コンセプトはよいが照準に関して考えとかんとダメじゃな!」

 犯人のドワーフが矢入りの弾倉を装填しつつ合流だ、なんてひどい現地試験。

「アアアアアッアアアアアアアアアアッ!?」

 今度はそこにテュマーのノイズ混じりの悲鳴が巡った。
 階段裏の休憩スペースからごとっと感染者が倒れる……なんだ、ニクか。

「ん、こっちは片づけた」
「グッドボーイ、じゃあ後は……」

 わん娘が「どやっ」としながらお帰りだ、永遠の憩いが五名分転がってる。
 店奥でも潰された銃声が数発続いて、ようやくタカアキの笑顔も混ざり。

「ちょうど弾切れだ、予備の弾ねえ?」
「おかえり、ほらこいつだ。大事に使えよ」
「このカービンいいな、ドワーフのやつらは使い手のこと考えてくれてるのが良く伝わるよ」
「わはは、わしらの腕はもちろんじゃがその拳銃の出来あってこそじゃよ。こっちに戻ってからいろいろ作っとるが、やっぱファクトリーの銃器にはかなわんわ」

 一通り制圧ってところか、タカアキに25発入りの延長弾倉をくれてやった。
 こうも騒げばもうこそこそする必要もないな、弓を降ろして突撃銃に手をかける。

「……二階の方もそろそろだろうな。俺たちが騒いだということは、あいつも相応のことをしでかしてる頃だ」

 ところがいつに間にか、入ってすぐのカウンターでクリューサがくつろいでいた。
 あの野郎、そこらにあった本を見ながら悠長にやってたみたいだ。
 お手元に置いたナイフも忘れて【ヴァージニアはモスマンと共に】という一冊を楽しんでたらしい。

「おい! お前なに呑気に読書してるんだよ!?」
「面白そうな本が見えたのでな。この書店はどうかしてるぞ、どうしてモスマンについての本がやたらと多いんだ?」
「誰だそいつ!? 俺が採掘されそうなのが見えなかったのか!?」
「生物学的にお前はそれくらいで死ぬわけないだろう。それより二階から奴らが逃げてくるぞ」

 しまいには保温ボトルを取り出して一杯始める始末だ。
 コーヒーの香ばしさが漂えば、俺たちの強さを信頼してくれてるお医者様は「あそこだ」と階段を示して。

『後退せよ、後退せよ!』 『再集合、再集合!!』『危険因子を検知、ここを放棄せよ!』『アアアアアアアアッ!! アアアアアアッ!?』

 ……頭上で電子的なやかましさが炸裂した。
 クリューサの預言通りに、騒がしくなったテュマーたちが転がり落ちてくる。

「危険性極めて大! 逃げろ! 逃げろ! 逃げ――!」

 それは戦前の警察官の格好をしたヒトモドキだ。
 背中に刺さった矢からまだ逃れるように立ち上がると、少しの迷いの後こっちに警棒を持ち上げるも。

「ほら見ろ。あの馬鹿エルフめ、お前とまた戦えるのが嬉しくてこの前からずっとはしゃいでやがるんだぞ」

 なかなか相棒のことを分かってそうなクリューサが呆れてた。
 でも意外なことに、ドワーフ製のナイフを落ち着いた様子でくるっと構え。

 ――びゅんっ!

 なんてこった、向かってくる元警察官めがけてぶん投げやがった。
 しかも手負いの患者の眉間に処置がぐっさり深々届いたみたいだ――お見事。
 ぐらっと眠る姿に俺たちもびっくりである、いつの間に投げナイフなんて覚えた?

「おい、今お前ナイフ投げなかったか? 悪い夢でも見てるのか?」
「誰が悪夢だ馬鹿者。俺もダークエルフどもに望んでもないのに叩き込まれてな、案外行けることが判明した」
「なるほど、最近の医者は患者にサジじゃなく刃物ぶん投げるのか?」
「最後の慈悲ぐらいにはなるだろう。来るぞ」
「クリューサ様も成長なさってるんすねえ、お見事っす。その調子で顔色良くなるといいっすね!」
「今のってピアシングスロウか!? 調子悪そうなのにやるねえ先生!」
「お前らは何かしらいちいち悪い言葉を混ぜなきゃ死ぬ呪いでもかかってるのかこの馬鹿野郎ども。さっさと片付けてしまえ」

 まあ驚く暇もないか、ダークエルフの暴虐から逃げ延びた類が次々下りてくる。
 お医者様もリボルバーでお出迎えだ、合図とばかりに手近な姿を撃って怯ませた。

「何やってんだかあいつめ。後片付けの時間だ、逃がすなよ!」

 全員でやかましい武器の数々を構えた。
 降りた先で立ち止まる諸々にR19突撃銃をエイム、大雑把にトリガを絞り。

*PAPAPAPAPAPAPAPAPAkink!!*

 フルオートで5.56㎜弾をばら撒いた、これにはご一行も派手にバランスが崩れた。

「ダークエルフはこういう時に強いからのう、白エルフほど気まぐれじゃないのが好ましいわ!」

 横からドワーフの小柄さも挟まってくる――その手には308口径の拳銃だ。
 簡単な銃床を取り付けての射撃である、逃げ迷った感染者が火力で弾け転んだ。
 階段からの増援にも撃ちまくって、先が転んでも後がつれての混乱をもたらした。

「リロード! 撃ちまくれタカアキ!」
「ここは今日から俺たちのもんだァ! ハッハァァ!」

 タカアキも人の得物で思う存分だ、弾倉交換の間に45口径の乱射である。

「アアアアアアアアアアアアアッ!?」「*死*を検知! 走れ同志よ、走れ!」「非感染者を発見! 撤退-交戦-撤退-交戦――エラーエラーエラー!
」「判断完了故郷に帰るべきだった昨日にでも! 殺せ殺せ!」

 その結果、悪質な火力に煽られた何匹かが逃げるか進むかで悩んだ。
 判断を狂わせた結果「死なばもろとも」を選んだらしい、滅茶苦茶な有様でやってくるが……。

「ご主人、行って来るね」
「うちらの間合いに来るなんてダメっすねえ、やってきていいっすか?」
「――だとさ、撃ち方やめ。是非弾の節約になってくれ」

 あいにくこっちは世にも恐ろしいダウナーわん娘とデュラハンメイドだぞ?
 全員でトリガを「やめ」にすれば、勢いのない敵なんて槍と刃物の餌食である。

「ロアベアさま、後ろお願い……!」
「ごちゃごちゃしてるならうちの出番っすねえ、任せるっすよ!」

 駆ける先頭を穂先で殴って勢いを止めて、続く後ろを一突きして投げ飛ばす。
 列が崩れればメイドの飛ぶ斬撃が二人同時に仕留めて、やけくそに振られた鉄パイプも弾かれたのち首一閃だ。

「ワッオッ、ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 最後の一体なんてご愁傷様だ、胸を串刺しにされた挙句、思いっきりこっちにぶん投げられてきた。
 向こうで獲物を狩った愛犬が得意げに尻尾をふりふりしてる、グッドボーイ。

「相変わらず容赦ないななあいつら。まあこいつらの運が悪かったってことだ、この書店は譲ってもらおうか」

 最後テュマーに突撃銃を重ねて単射、ぱきんっと電子化した顔をぶち抜く。
 いい仕上がりになればそこらじゅう静かなものだ。
 硝煙の香りが漂うだけの埃っぽい書店に早変わり。、あとは掃除して死体と生首を片付ければ完璧だな。

「かわいい顔してこえーよな。あいつらだけで何人やっつけたんだ?」
「俺たちよりいっぱい倒してると思うぞ。それよりクラウディアは無事か?」

 タカアキと残りの状況を確かめるものの、残った気がかりも実にあっけない。
 なにせ階段からすたすたと軽やかに降りてくるご本人がいたからだ。
 それはまるでひと汗かいて「いい運動をしたぞ」とでも言いたそうな顔で。

「おお、無事だったかお前たち。身を隠せる場所に事欠かない場所だったから一人ずつ仕留めてやったぞ、私に中々気づかないとは馬鹿なテュマーどもめ」

 まごうことなきクラウディアがエナジーバーをぱくぱくしながら帰ってきた。
 しかも傷一つもなく、軽々担いだクロスボウがいかに軽い仕事だったか訴えてる。

「あーおかえり、涼しい顔でエナジーバー食って帰ってくるぐらい活躍したか」
「ああ、こいつはうまいぞ! 後でキュイトとやらに礼を言わないとな!」
「そして帰還報告は飯の話か。クリューサ、お前がこっちでも苦労してる理由がなんとなくわかった」
「お前と別れてしばらくこんな様子だったところまで想像が及べば、俺の苦労の少しは分かるだろうさ……クラウディア、二階は制圧したな?」
「目についたものは一通り仕留めたぞ。残りはお前らが騒いでるのをいいことにそっちへ追い回した、いい的だったろう?」
「こんな場所でお前に振り回されるとはテュマーもツイていないものだ。念のため他に敵はいないか調べるべきだろうな」

 結論から言うと、大食いエルフの所業でここは俺たちのものになったようだ。

「……だってさ、全員お疲れさん。これで本には困らないぞ俺たち」
「わはは、よい活躍ぶりじゃったなお前さんら? さてお楽しみタイムじゃぞ、どんな本あるんじゃろうなあ……」
「ついでに敵の有無もチェックだ。まだ気は抜くなよお前ら」

 外はどんどん曇ってるが、これで少なくとも俺たちは雨宿りに困らないわけだ。
 明るく死体漁りに向かうドワーフを見届けると、ちょいちょい誰かに引かれ。

「――へい、いらっしゃい! オールド・チャプター・ブックストアへようこそお兄さん、本日全品100%オフとなっております」

 なんだと思えばカウンターの向こうでふざけだすタカアキだ。
 クリューサの「なんだお前」な顔にも関わらず、サングラスの張り付いた表情が店員らしくにやついてる。

「どうもお邪魔してます、スキルが上がる本はあるか?」
「それならこちらの本の中からご自由にお持ちください。まあ自分で探せってやつだ、頑張れ」
「じゃあおすすめは?」
「えーと……なんかこの、モスマンの本とか? なんだこの店モスマンの本ばっかだぞおかしくね?」
「ひでえサービス内容だ。ご案内どうも」

 幼馴染もとい店員さんが紹介するのはテーブル周りに並ぶ奇妙な品々だ。
 どれもこれも羽のついた赤目の化け物という風貌が共通して、なんならその通りのぬいぐるみも鎮座してるほどだ。

「……ところでモスマンってなんだ?」

 一応、レジ横にあるそんなふわふわの姿に尋ねてみた。
 羽虫に直立向けの足が生えた謎のミュータントが、つぶらな瞳で愛嬌を表してる。
 返事はない、ただのモスマンみたいだ。ひと撫でしてから店内を物色した。

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