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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

新米ヒロイン冒険者のストレンジャーズ添え

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 偵察で得た情報によれば、ここはさぞ調べがいのある土地らしい。
 なにせ元々あった廃墟や転移物が広々と散らばり、白き民やらも居座る有様だ。
 俺が世紀末世界からお取り寄せしたものはともかく、このあたりはかつて人がいたような印象をあちこちに残してるのだ。

「よーやくわかった、ここは大昔にフランメリアの民が開拓しようとして失敗した地じゃのう。まさかこんなとこまで繋がっとるとは……」

 もちろん、そんな話題も上がればスパタ爺さんがこういうのだ。
 それなりの事情と歴史を抱えた曰く付きの土地ということらしい。
 けれどもあの逞しいフランメリア人が放り出すほどの複雑な場所と分かれば、そりゃ不審な気持ちも強くなる。
 ところがその事情もすぐ明かしてくれた。【アバタール】の名を添えてだが。

 ――昔々のある時だ、この国は未開の地を切り拓くことに力を注いでた。

 クラングルが国として営みを始めてしばらくが経った頃だ。
 生活基盤が揃ったところで、広い土地を拓こうと意欲溢れる者がごまんといた。
 各地に住居やらを点々と構えて生活圏を広げてたそうだが、そこで急に失速するほどの事件が起きた

 開拓者アバタールの死だ、未来の俺はそんなタイミングでくたばった。
 しかも跡形もなく消える死に方に、当時の皆さまはよほど喪失感を覚えたそうだ。 
 危険な魔物だろうが白き民だろうがものともしない国民もモチベだだ下がり、国も混乱して『開拓してる場合じゃねえ』と停滞。
 同時に『後先考えずに生活圏伸ばし過ぎた』『どこまでもどんぶり勘定で成り立ってた』などと諸々の問題が発覚したのである。
 国民の皆様はやる気も失せて、放棄された土地が山のように残りましたとさ――

 ……ああうん、つまりまた俺のせいってことだ。
 今では廃村はもちろん、小さな町すら丸々捨てられてるほどらしい。
 当時の失速具合を各地でよく表現してるが、捨てる神あればなんとやらだ。
 結果的に白き民のちょうどいい住処になって、都市の外をもっと危険にしたのだ。

 未開の地を安全にするはずがこじらせる結果になるなんて皮肉が効いてるな。
 更にウェイストランドの建造物まで流れ込んでオーバーキルだぞ、クソが。

 よって俺たちは未開拓の地ならぬを安全にしていくことになった。
 もちろん、ここまでの事情が市に伝われば報酬もしっかり用意するそうだ。
 怪しい場所を一つ制圧したら5000メルタのボーナス、廃棄された場所に残された物品は「どうぞご自由に」だ。



 こうしてすべきことを得た冒険者は説明を受けたのち、すぐに動き出した。
 とはいえあの依頼書のせいで新入りが多い有様だ、実戦経験の深い奴を同伴させたうえで各地へ向かってもらった。
 ただしストレンジャーらしくこう付け加えた上でだが。

『――いいか、現代的な建物にはできれば近づくな。テュマーがいたら無理に相手しないでこっちにぶん投げろ、向こうは銃どころかもっとでかいの持ち出すような奴らだからな』

 誰が言ったか『黒き民』は持ち込んだ奴の責任だ。
 そういうのは他の冒険者には避けてもらうように頼んだ。
 同業者がうっかり穴あきチーズかひき肉に昇級なんて嫌な話だろ? 

 そして俺たちもまもなく新入りを連れて出発した。
 スパタ爺さんの頼みで例の墜落した飛行機を調べに行くついで、道中ぶち当たる廃村へ寄るルートだ。
 そこでリスティアナの率いる新米たちに一仕事させるわけである。
 もちろん報酬やらは全部くれてやるつもりだ。

「……とはいえ、こうして歩く分には平和だよな。あれからだいぶ歩いてるけど危険な場所って意識が湧かないぞ」
「ん……そうだね、みんなでお散歩してる気分。ちょっと楽しい」
「こっちはファンタジー世界をぞろぞろ冒険してる気分だ。そういや壁の外をこうやって歩くのは久々だな」

 そうやってアサイラムを経ってからしばらく、俺たちはだいぶ北へ進んでた。
 ゲートをくぐり森を抜ければ本当に未開の地だ。
 舗装とは無縁な草地もあれば遠くで栄える森もあり、地形の起伏に先行きを目隠しされれば、遠い地平線が見えることだってある。
 この総じて『知らない土地』をずっとニクと一緒に踏みしめてるわけだが。

「こんなもん背負って剣と魔法の世界をお散歩か、物騒極まりないねえ」

 マフィア姿にボディアーマーを重ねたユニーク姿が追いついてきた。
 背中に【スティレット】を一本くくりつけたタカアキだった。
 使い方も叩き込まれてぶっ放す機会が待ち遠しそうだ。

「こいつの装甲貫通力が必要な相手とマッチングしなきゃいいんだけどな。使い方は覚えたか?」
「おう、ストックを引き起こす、次に肩に当てる、最後は嫌な奴めがけてトリガを引けばいいんだっけか?」
「気が変わったときはその逆の手順だ。ストック戻せばなかったことにできる」

 こうして先行する野郎三人の背中には【スティレット対物擲弾発射器】だ。
 さぞ後続に物騒な印象を晒してるに違いない。

「こんなもん使い慣れてるなんてまるで歴戦の戦士ですこと。しかしまあ、このスティレット……とかいうの作るなんてドワーフはすげえよな……使い捨ての対戦車火器じゃんこれ。G.U.E.S.Tにもなかったぞこんなん」
「あのゲームになかった品ってことか?」
「ああ、完全オリジナルだ。こんなイカした魔法の杖があった覚えゼロだぜ、作中にも出てほしかったぐらいだ」

 ところで、幼馴染からしてこのは原作になかったものらしい。
 ヒドラとスピネル爺さんはゲームの理をぶち抜いたってことか。

「言っとくがタカアキ、そいつを作ったのは厳密にいやわしらじゃないぞ。ウェイストランドに残っとる同郷のもんと、イチの友人が共同で開発したんじゃよ」

 それをよく分かってるスパタ爺さんも混じってきた。もちろん発射器を背に。 
 聞かされた幼馴染は「こいつがねえ」となおさらスティレットを珍しがったようだ。

「ワオ、ずいぶん物騒な友人作っちまったなお前」

 ついでに俺が向こうで結んだ奇妙な縁にも。

「その物騒な友達二人分のおかげで旅が捗ったよ。初めての獲物にみんなでぶっ放したのはいい思い出だ」
「わはは、そうも扱ってくれりゃあいつらも職人冥利に尽きるじゃろうよ。ちなみに今わしらがもっとるのはな、こっちでちょいと改良を施したタイプじゃ。装甲貫通力200㎜以上の保証はそのままに、破片と爆風もまき散らせる多目的榴弾ってやつじゃな」
「つーことは本日お集まりの皆様にも効くタイプなんだな? おっかないねえ」
「ステーションでぶっ放してたら敵味方等しくズタズタだったろうな。今日も今日とて物騒なプレゼントをどうもありがとう」
「お前さんらと会う前に白き民で威力は実験済みじゃ、いい笑顔でぶちまかしたれ。もちろん弾頭にはプレッパーズをリスペクトして敵への一言を刻んどいたからな」
「俺のは【無慈悲】って言葉がお届けされるみたいだな、食らう敵が気の毒だ」
「ん……? ぼくのには【ついでに下がれ】って書いてる?」
「こっちは【親愛の印】だぜ、一方的すぎる方のな」
「わし【あの世で乾杯】な。これ食らうやつさぞ嫌な思いするじゃろうなあ」

 物騒な仲間と背中の使い捨ての火力を共有すれば、自ずと出てくる話題も相応だ。

「うちは【用法、用量を守って正しくお使いください】っすよ。ていうかスティレット持つの久々っすねえ、あひひひひっ♡」

 とうとう野郎だらけの集まりにニヨつく声も触れてくる。
 擲弾発射器を背負ったロアベアだ、発射したさそうな顔で追いついてきた。

「今更だけどロアベア、使い捨てのロケットランチャーを持ったメイドっていうのはなんていうか品位に欠けてると思う」
「問題ないっすよイチ様ぁ、うちそういう路線で通ってるんで」
「笑顔で言うなよ」
「ていうかお屋敷のメイドさんたちのことを思い出してほしいっす、みんなキャラ濃いじゃないっすか」
「今度お前らに「普通のメイドはいないのか」って言ったらどうなると思う?」
「そんなことしたらまた皆様に取り囲まれる時間を過ごす羽目になるっすよ。あとクロナ先輩がここぞとばかりに追いかけてくると思うんで、どうかご無事でいてくださいっす」
「くそっ、リーゼル様はどういう職場環境にしようとしてやがるんだ」
「あの人もうちらもイチ様が来るの楽しみにしてるっすよぉ、アヒヒー♡」

 こいつといいクセつよ系を集めるリーゼル様は何考えて生きてるんだろう。
 お屋敷に巣食う恐怖のメイド軍団を思い出したが、そこでふと後ろが気になれば。

「な、なんだかイチ君たちの背中がとっても物騒です……! だ、大丈夫ですからね皆さん? ちょっと空気の差が激しいけど、そこまで怖い人じゃないですよー?」

 こんなポストアポカリプス感の抜けない背後で、リスティアナがちび冒険者を導いてくれてた。
 ちょうど薄い水色髪をさらりと躍らせつつ、困り笑顔を後続に振りまいていて。

「……この人たちだけ世界観がまるで違う。こっちが和ゲーならあっちは洋ゲー、今我々は得も知れぬ隔てをひしひし感じている」

 訝しみ強めなベレー帽エルフがじとぉ……と人様を見てた。
 リム様よりちっこい身体だが、そいつこそがあの新米どものリーダーだ。
 小柄な身体と同等の長弓を斜めに背負ってるけど、果たして扱えるのやら。

「だいじょーぶです! おにーさんはレフレクの勇者さまなんですから! 見た目で判断しちゃめっ、です!」
「拒否する。この前通りすがりの親近感のある白いエルフが私にこう助言してくれた、外見は一目で本能的に気をつけられる情報だから大切にすべきと。それから野菜食べろと言っていた」
「こわくないです! とってもやさしい人です! ほらオリスさん、レフレクが近づいたら嫌な顔もしないで座らせてくれるんですからっ!」

 その上に座り心地を得ていた橙色な妖精さんがぱたぱたっと飛んでくる。
 ストレンジャーを理解したような明るい顔だ、仕方ないので肩に座らせた。
 しかしチビエルフは俺から何も読み取れないだろう、なんたってヘルメットをかぶってるからな。

「あのさレフレク、そこのお兄さん顔隠れてて表情がさっぱりだよ……」  
「はっ、たしかに……! おにーさん、兜を脱いでください!」
「どういう顔して脱げばいい? 勤め先のパン屋みたいに営業スマイル?」
「えーと、うん、そうだね……ちゃんとこうして応じてくれるし、悪い人じゃないと思うけど……言葉の言い回しとかがわたしたちと全然違うから距離感感じちゃうんだよね……」

 チビエルフの隣をゆくのは手足が猫な軽装の子だ。
 人の顔をちょうど気にしてたので顔を晒してやった。
 きっと無理に作った笑顔が駄目だったんだろう、苦しい笑い方をしてる。

「そりゃ悪かったな、じゃあアドバイスしてやるよ。どうかお前らの先輩みたいに早く慣れてくれ」
「あはは、でもこうやって面と向かって何言っても軽く返してくれるのはわたし好きだなー? 強者の余裕って感じ?」

 けれども少しばかり話がすり合わさったようだ。
 そこにすたすた、後ろから黒髪に角二本な和装束が追いかけてきて。

「こら、先輩たちに失礼ですよトゥール」
「ごめんなさーい」
「まったく……イチ先輩、今回の依頼にお力添えいただきありがとうございます。私たちは冒険者を生業にしてまだ日が浅く、不慣れなところがありますが……どうかよろしくお願いします」
「そう硬くならなくていいぞ、そこの猫系ガールみたいなノリでけっこうだ」
「ほらー、こういってるじゃん。わかってるねえお兄さん」
「むう。あのですね、実は殿方と一緒に組むのは初めてだったりしまして……」

 新米パーティーの中で特にお淑やかな黒髪鬼ッ娘も加わった。
 角の存在感も忘れてしまうほど物腰柔らかだが、腰に携えるのは――刀だ。
 背丈にあわせた取り回しの良さそうな一振りはまさに「得物」だ、あんまりいい思い出はないが我慢しよう。

「ホオズキ、私はその男ガ好きだゾ。気に入っタ」
「すっ――好きですって!? 会って間もない殿方ですよ!?」
「そいつといればうまいメシにもありつけるシ、報酬も全部ワタシたちにくれるそうじゃないカ。役得!」
「いや、役得って貴女、あのですね……」

 人間の肌色に鱗と水かきつきの手足があるお魚女子も歩幅をあわせにきた。
 穂先が三つある槍を担ぐ姿はご機嫌だ、野生味溢れる笑みで親しくしてる。

「その代わりどうか頑張ってくださいって言うのがこっちの条件だ、いいよなお魚ちゃん」
「任せロ、この槍と水魔法でやっつけてやろウ。あとお魚じゃなくてマーマンだからナ」
「マーマンってなんだ」
「魚人ダ。人魚じゃないゾ」
「似たようなもんだろそれ、要はお魚だろ?」
「おおなんと失礼な先輩。マーマンはマーマン、人魚に非ず」
「おにーさん、魚人さんと人魚さんは別々なんですよー?」
「どう説明すればいいんだろうなー……メーアは半魚人なんだよ、魚と人間のハーフみたいな?」
「本当は下半身が魚になった人魚を実装する予定だったそうですが、それだと地上を歩けないという理由でこんな姿になったとも言われていますよ」
「なるほど――つまりお魚だな」
「槍でつつくゾ、無礼な先輩メ」

 なんやかんやすぐ後ろについてくるヒロインどもとこうして話を交えてると。

「あ、あのっ……だんなさまー……?」

 あの小さなメイド姿が、ずいぶんか細い声でてくてく隣に迫ってた。
 そこにはメカだ。リスティアナよりもずっと薄い水色髪がもじもじ見上げてる。
 もっといえばみんなの会話に混ざれず焦ってるような、寂しそうな……。

「メカ、どうした?」
「えっと、だ、だんなさまをお守りするようにいわれてまして、だからあの、もしもお困りでしたら、あたしになんなりとお申し付けくださぃ……」

 が、いざ尋ねればたどたどしい声をしぼませてまた引っ込んでしまった。
 なんだったんだあいつ。ロリの群れに戻っていったメカクレメイドはなんとも不完全燃焼な感じで俯くも。

「メカはあなたとスキンシップを取りたがってる」
「ごめんね、メカってコミュ力があれだからちょっとわかりづらいかもしれないけど、お兄さんと触れ合いたいってさー」
「あっ、あのっまって二人とも……!? あたし大丈夫だから……!?」

 ずりずり。
 チビエルフと猫系軽戦士がおどおど姿をパワフル押し返してきた。
 それで挙動不審極まりなく足並みをそろえるちびメイドがお帰りだ。

「かくいう俺も知らぬ間にメイドになってたやつとどう接すればいいか分からないんだぞ? 今から誰かアドバイスしてくれると助かる、制限時間は目的地につくまでだ」

 そもそも付き合い方に困ってるのはこっちも同じだ。
 また会えたはずが「だんなさま」にされてる気持ちを考えてほしい。
 でもかわいそうだし他のメイドよりも愛嬌があるので頬をもちもちしてやった、すっごい柔らかい。

「あっ♡ だんなさま、み、みんながいるのにそんなっ、あたしのほっぺこねちゃっ……うぇへへへ……♡」
「そういいつつ人の頬を揉むのはセクハラ極まりないと思う、下手すれば訴訟不可避」
「普通、ためらいもなく女の子の肌触る……? っていうかメカもメカですごい喜び方してるんだけど……」

 パン屋で鍛えたスキルの賜物だ、みんなに良く見えるように頬を捏ねてると。

「なるほどー、お困りなんすね? それならいい方法があるっすよイチ様ぁ」

 などと不審なにやつきで、スキンシップに割って入ってくる先輩メイドがいた。
 生態的にロアベアだが、ご持参した「いい方法」とばかりに背中に手を回して。

「メカちゃんケツでっっっかいのでこうすると喜ぶっす!」

 ……ひどいことを広めつつ、黒スカートいっぱいの丸みに狙いを定めてた。
 言われてみると確かにそうだった。
 失礼かもしれないけれども――メカの尻、デカすぎる。
 ちっこい身体つきのくせに本当に大きいのだ、片手でつかみ切れないような重さが柔らかく、それも二つも形になっていて。

 ――ぱぁんっ!

「あ、あのロアベアせんぱ……んお゛う゛っ!?♡」

 たった今それを笑顔でスパキングした馬鹿メイドがいた、ロアベアァ!!
 メカもメカですごい声でびくっとしてる。敵に感づかれそうなほど大きな尻叩きの音と一緒に。
 スパタ爺さんが「何しとるんじゃこいつら」と最大級の呆れを見せてくるのも仕方ないだろうが。

「……いや、何してんのお前……こわっ……」
「お屋敷だとみんな触ってるっすよイチ様」
「なんの情報だ!?」
「あ、う、あっ……♡ や、やめてください……っ♡」
「気持ちは分かるゾ、確かにメカのデカケツ具合は尋常じゃないからナ。こんな風に」

 すごい格好で悶えるメカに全力で謝るように仕向けるも、代わるように魚系ガールも手を伸ばしてきた。
 その構えはロアベアそっくりだ、つまり、ええと、ケツ叩き準備ってやつで。

 ――ぱちんっ!

「メ、メーアさん!? だんなさまがみてるのにやっ……お゛ん゛っ!?♡」

 魚の手による一撃が放たれた、メカクレメイドがまたすっごい声出してた。
 傍らで尻の質量がすごく重々しく揺れてるけど、俺は一体何を見せられてるんだ。
 というか魔の手がまた回ってきた。ベレー帽エルフが無言無表情で次の一手を張ろうとしてる。
 「やめなさい」とやんわり止めた。返事は「ちっ」だ、舌打ちともいう。

「こらー! だめですよー! メカちゃんお尻の大きさのことすっごく気にしてるんですからね!」

 ところが救いの手が入ってきた、リスティアナのやつだ。
 メカの尻を守るように割って入るも、もれなく手先はメイド服にデカく浮かぶ輪郭まっしぐらで。

「……でもでも、確かに大きいですもんね。それにすっごく柔らかいんですよねー、えいっ♡」

 ぐにょん。

「り、リスティアナさん……って、さわっ……ひゃああああああんっ!?♡」

 信じてたのに馬鹿野郎! にっこり笑顔で大胆にタッチ決めやがった。
 形を変えつつものすごーく揺れる重量感に「すごいですね☆」などと犯行を認めてる、ガチ目に引き離した。

「……ありがとねお兄さん、止めてくれたのあなたが初めてだと思う」
「ようやく私たちにも止めてくれる人が来てくれたんですね……イチ先輩、ありがとうございます」
「おい、お前らいつもこうなのか? 流石の俺も品性疑うぞ」

 しまいには猫と鬼に感謝されてるぞ。畜生、こいつらくせつよ系ヒロインか。

「…………くすん」

 尻の重たさを重く引き出されたせいで、メカが静かにぐすぐすしてしまった。
 だけど足を止めないんだからえらい、心配なニクも「大丈夫?」と頭を撫でてる。

「いくらお尻が大きいからって遊んじゃだめですっ! メカさんに謝ってください!」
「馬鹿野郎メカ泣いてるじゃねえか謝れロアベアァ!」
「イチ様も触れば分かるっすよ、このデカケツのすごさ! お屋敷にいるメイドさんの中で一番デカいっす!」
「後でクロナに報告してやるからな覚えてろこのダメイド」
「でもクロナ先輩、手慰みとしてすっごい揉んでたっすよ」
「なにやってんだあのクソデカメイドめ」

 肩乗り妖精も撫でにいったので続いた、三人で「よしよし」撫でてやった――いや尻じゃねえよ、頭だ馬鹿。
 ……でも正直、ロアベアの言いたいことも分かる。ものすっごいデカいのだ。
 このスカートごとどっしり揺れる尻は未来の俺の所業による産物じゃないと願おう、ごめんメカ。

「あー皆さま? 尻で楽しく盛り上がってるところ失礼、あちらに見えますはお目当ての廃村でございます。たぶんだけどな」
「クラングルってこうも変なやつばっかじゃったかのう……まあ下らんことしとるうちに見えてきたぞ、あれがハナコの地図にあったやつじゃろうな」

 呆れるタカアキとスパタ爺さんが足を緩めたのは、メカも泣き止んで尻を守り切ったまさにそのタイミングだ。
 ゆるやかな地形の起伏を幾度も超えた先に、ようやく人工物が見当たった。
 フランメリアの自然が生み出す緑の上で、まだ屋根のある古めかしい建物が何軒と続いてた。
 人気のない横腹を晒す様子には、なぜだか赤だの青だのがうっすらとかかってるような気がする……。

「……あれがか? なんかカラフルだな、気のせいか?」
「あっ、ほんとですね! あれがきっと地図に書いてた廃村ですよ、さっそく行ってみま――」
「待てリスティアナ、お邪魔する前に賑わってるかチェックだ。白き民いたら俺たち丸見えだぞ」

 リスティアナが好奇心いっぱいにロリどもを引率しようとするもまだ早い、行く手を手で遮った。
 そのついで「かがめ」と合図だ、全員が縮こまったところで双眼鏡を取り出し。

「まあ、確かに村って感じじゃないか? あんな場所に放置されてる割りには、けっこうしっかり建物が残ってるな……」

 測距機能を込めて前方を伺った。
 大小さまざまな木造建築がそれほど形を損なわずに『村』を保ってた。
 距離にして数百メートルほど、中途半端な未舗装の道路が建物の連なりに招くようにしてた。
 人の気配はゼロだ。何せ横倒れになって長そうな幌馬車に、荒れ放題の農地が雑草を育ててる。

「……ご主人、あそこで花がいっぱい咲いてるみたい」

 ニクも双眼鏡で良く見てたらしい、ダウナーな声でどこかを示してる。
 その通りに風景をなぞれば、村の内外に赤青黄色と鮮やかさが低く立ってる。

「なんかいろいろ生えてるっすねえ……カラフルっすよあそこ」
「じゃあ後は白色だけだな、いるように見えるか?」
「白くて動いてるのはいらっしゃるようには見えないっすねえ。でも廃村ならいそうっすよね、ああいうの」
「だよなあ」

 ロアベアの感覚でも敵の気配なしか、じゃあほんとに廃村なのか?
 見たがってるベレー帽エルフにも双眼鏡を回せば「おお」とレンズの性能に驚くのが聞こえるも。

「どの道、こっからこれ以上分かることはないじゃろうな。ここはじっと廃村ウォッチングしとらんで、そろそろリスティアナの嬢ちゃんのいうように堂々近づくべきじゃないかの」

 スパタ爺さんがレーザーライフルの形と共に一歩踏みしめてた。
 その通りだな。俺もスリングを手繰って背中のR19突撃銃を前にした。

「……よし、まっすぐ村まで近づくぞ。もし何かおかしいもの見つけたらすぐに言えよ、リスティアナとロアベアは背中についてくれ、タカアキとニクは左右頼む」
「はいっ、お任せあれです! いきますよ皆さん、弓と魔法使える人は後ろで準備してくださいねー? レフレクちゃんは先行して上空から偵察をお願いします!」
「敵がいるって色合いじゃないっすよえね、あれ……でも気を付けるっすよ、実は潜んでることもありえるっす」
「おう。ゆっくりしすぎるなよ、警戒しつつさっさと移動だ」
「ん、匂いは今のところ異常なし。行こ」
「おし、わしらについてこいひよっこども。もしなんもなけりゃただの5000メルタのボーナスじゃ、力入れ過ぎんなよ」

 「レフレク見てきます!」と橙色の妖精が空に上がったのを見て、新米ヒロインたちを背に少し早足に進んだ。

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