魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

配管工事をしよう!(イージーモード)

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 道路から外れたところに四角形の穴が大きく空いた。
 タカアキの装甲車がすっぽり入るようなやつだ。それを縦横に広げていく。
 そこに【P-DIY・ライフシステム】の輪郭を重ねれば、非常識な手段でできた穴を覆うように建築可能な緑色が浮かぶ。
 あとは「*がらん*」だ。指先一つでその中に建造物が建った。

「……こんなのいきなり出てくるとかどうなってんだろうな」

 次の瞬間には何か夢でも見てるのかと思った。
 地面はコンクリートで覆われ、そこに青と白で『水仕事』を表現する箱形の機械やらタンクやらが図々しく居座っていた。
 地面まで繋がる極太のポンプやらがいかにも水を巡らせる形だ。
 ただしクソデカい。見上げるほどの姿は濃い影を落としているようだ。

「すげー、ほんとにゲーム通りにできてやがる……ご覧ください爺ちゃんども、これが地下水から雨水からきったねえ汚水まで貪欲に集めて綺麗にする『P-DIY・ライフシステム』さ」
「急に出しおったなおい……じゃがいろいろやってくれる割にはコンパクトに収まっとるのう」
「こいつ一つで生活用水をどれほど保証できるか気になるところじゃが、どうせあっちの世界の技術じゃしすげえんじゃろうなあ……」
「まあ、すげえすげえで済むのは確かなんだけどよ……こっからこの未知のテクノロジーみてえなやつをどう扱えばいいんだ?」

 幼馴染とドワーフと、それから居残りの冒険者も集まってぽかんとしてた。
 自分で扱いきれるのか不安になるぐらいの迫力だ。でもやるしかない。

「……答えはこうだ、やってみる」
「よーし……思い出しながら説明してやるぜ。まずインフラ設定開け」
「そうこなくちゃの、わしらも付き合ってやらあ」

 だけど心強いスパタ爺さんたちがいる。ひとまず【インフラ設定】を開いた。
 そうすると湾曲した画面に選択肢が小難しく並んだ。
 道路の構築だの、送電ラインだの、中でも【上下水道】がそうだろうか。

「色々出てきたけど目ぼしい奴発見、上下水道ってやつか」
「おう、それそれ。まず配管できるかどうかやってみろよ。ライフシステム用パイプがあるはずだからそいつを川まで伸ばすぞ」

 探ればすぐだ。金属を対価にお好みの水道用のパイプを作れるらしい。
 試しに触れれば、建築と同じ要領でけっこう大きなパイプの形が生まれ。

「……おいおい、なんか俺の視界がすごいことになってるぞ。土の中にパイプの形が埋まってるように見えるんだけど大丈夫かこれ?」
「そりゃ正常だ、ゲームじゃちゃんと地中でも輪郭が見えるようになってるぜ。とりあえずこのでっかい機械に近づけりゃ自動的に位置が合わせられるはずだ」

 手をぐりぐり動かすと面白いことが起きた。選んだ形が地面に埋まってる。
 土の中に【建設可能!】と緑色をまとったシルエットが透けて見えてるのだ。
 地中の様子が可視化されてるらしい――僅かにずらせば、出来立ての機械の根元にぴたっとはまった。

*かんっ*

 建築した。するとどこからともなく聞こえる金属音。
 ライフシステムの地下部分からパイプが川へと伸びているのが見えた。一応【解体】もしてみると。

*かいんっ*

 消えた。なるほど、ほんとに自由自在だ。

「……どうじゃ? どうなっとる?」
「作れてるみたいだ。このまま川まで伸ばすぞ」

 具合が分かった、まだたっぷりある金属を使って水の通り道を伸ばす。
 パイプを作る。その先に重ねてまた作る。かんかん伸ばして川を目指す。 
 途中でフェンスを囲う穴に触れた。むき出しの地面に配管すると新品の導管が丸見えだ。

「なるほど、穴があいてると丸見えになるのか。いやそれもそうか……」
「マジで伸びてら。つーことはちゃんとできてるな、このまま川まで一直線だ」
「すっげ~のう……わしらだったらそりゃもう芸術的に配管してやるってのに。なんてうらやましい……」
「どーなっとんのこれ……地面に導管伸ばすとか魔法でもくっそ面倒じゃってのに、こうも簡単にやられるとドワーフ的に悔しいのう」
「イチ、お前やっぱり神かなんかになりかけてるんじゃねえか? 俺はそろそろ建築を司るお偉いさんみたいに見えてきてるぜ」
「その神様がせっせと拠点のために頑張ってるところだ、応援してくれ――ちょっと楽しい」

 なんだか野郎五人で楽しくなってきた、このまま川へと行軍だ。
 小さな草原を抜けて木々もくぐり、けっこうあっさりとパイプを伸ばせば、せせらぎの前にレージェス様がいた。

「……あら、どうしたのむさくるしく揃って」
「ああどうもさっきぶり、工事中っす」

 その手前あたりで「ストップ」とタカアキに一声食らった。
 もう少し伸ばせば川に到達ってところだ、このまま繋げれば完成だが。

「このまま繋げるなよ、P-DIY・ウォーターコレクトシステムってのがあるから探してみろ」
「ウォーターコレ……なんだそれ?」
「ゲームに出てくる便利な取水器だ、そいつ一つで雨水から何までそこらの水源から効率的に水を集めてくれるぞ。電力供給も忘れるなよ?」

 よくわからないがダイレクトに川を頂戴するよりもいい手段があるらしい。
 物珍しそうにする青白魔女のそばで画面を探れば発見、その名の通りだ。

「……これか? 一体どういう……」

 ところがだ、呼び出してみるとまたずいぶんとデカいものが浮かぶ。
 金属から電子部品までをふんだんに使った、長方形に横たわる何かだった。
 手で自由に回転させてみれば水源にあわせた大きな回収用のパイプやら、雨水を受け止めるような構造が分かる。

「ちゃんとリストにあったか?」
「ああ、あるけどさ……いやなんだこれ、またずいぶんとデカいな。こんなの置いて大丈夫?」
「お気に召さなかったら簡単に消せるからいいだろ、やってみ」

 しかしこれが正解らしい、川に沿わせて「がらん」だ。
 すると青色爽やかなボックス型が突然現れて、目の前から川の景観が遮られてしまった――これには魔女もびっくり。

「……すごいわね、イチちゃん。それは魔法かしら?」
「魔法かっていわれたら……なあ?」
「大体そんな感じじゃね? まあ魔法だな、うん」
「うーむ……過ぎた技術は魔法というが、まさにそうじゃろうな」
「これは要するに取水場みたいなもんか。なんかお洒落じゃが性能大丈夫なのかのう」
「こうして見ると動力は電力みてえだぞ。さっそく繋げてみようぜ」

 ともあれ川の流れと面と向かったそれにパイプを繋げると、自動調節されたのち接続されたみたいだ。
 
「よし、セット完了。やっちゃうか?」

 電力の供給まで手をかけて、一応「いいか?」と確かめた。
 周りは少しの緊張で「どうぞ」だ、一仕事だぞウォーターコレクターとやら。
 ワイヤレス送電で電気を流して【稼働】を選択すれば。

*ZZZZzzzzmmmmmmmmmm……*

 思った以上にお上品な音を立ててポンプが作動し始めた。
 てっきり爆音を身構えてたらひどい肩透かしだ。
 画面には――なるほど、ライフシステムと同期してるし水も送られてる。

「……複雑な造りをしているけども、ちゃんとお水を導いてるみたいね。魔女の魔法よりも仕事が早いじゃない」
「どうじゃ? いけとる?」
「あっという間に配管完了だな……ライフシステムもオンにするぞ」
「成功だな、じゃあ今度はあっちも電力供給しとけよ」

 幼馴染、ドワーフ、魔女の組み合わせもびっくりするほど呆気ない仕事だ。
 指であの大掛かりな置物にあれこれ設定してからパイプを辿り返すと。

「やあ、どうなってるんだねこれ。こんなものがいきなりおいてあるのはおどろきにあたいするが、なんかかってにうごいているぞ。わ~みずのおと~」
「あ、戻ってきたっすよ皆様。でっかい機械が動いておられるっすけど、なんすかこれ」

 川と繋がったライフシステムが機械系女子とメイドに物珍しくされていた。
 ごうごう元気に稼働中、そんな具合で水を処理してるらしい。

「なんかこう、すごい機械だ。それでレージェス様、これが浄水やら下水の処理やら一度にやる機械なんだけど……」

 魔女にご案内すれば、最初は驚き、次第に理解がいったような顔だ。

「……なるほど、これがさっき話していた装置。今までに見たことのない造りをしてるけれども、本当にこの機械一つで水絡みの課題が片付くのかしら?」
「今からそのテストだ、付き合ってくれ」

 とりあえず、そうだな、少し離れて建築ウィンドウを開いた。
 ハウジングの設備項目を見ればいろいろあった。
 流し台に風呂に――これでいいか、バスタブとシャワーのセットを指定。

*がらん*

 ワーオ、不思議だ! 草地の上に真っ白な浴槽と黒いシャワー台が合体した何かが召喚である。
 【P-DIY】とメーカー名を主張するアメリカの入浴事情を生み出してしまった、これでいつでも身を清められるぞ。

「おいイチ、野外露出型のお風呂できてねえか」
「俺も野ざらしの風呂ができるなんて思ってもなかったよ」
「何もないところから風呂出すな、シュールすぎるじゃろこんなん」
「おいきみなにをした? あめりかんなおふろがはつげんしたじゃあないか」
「イチ様ぁ、ずいぶん解放的っすねこのお風呂」

 しかしまだお風呂には入れないようだ、視界に【使用不可能】とある。
 曰く給水と排水、この二つを設定しないといけない――めんどい。
 でも画面を解けば案外単純な仕組みだ、電源の設定とそう変わらない。
 僅かな材料を糧に【ライフシステム】まで繋げられるらしい、給湯タンクと下水処理タンクに接続させた。

*かんっ*

 わあ、配管の音ー……地中にバスタブと結ばれたパイプがうっすら見える。
 【今後のご発展を見越し下水道管の建築をおすすめします】とアドバイスつきだ、親切にどうも。

「タカアキ、今ちょっといじったらライフシステムに直接つながったぞ」
「てことは使えるんじゃね? それからこういうのは下水管だの作ってひとまとめにする必要もあるからな、今度やり方教える」
「よくわからないけどそう言うアドバイスが今見えてる」
「何から何までゲーム通りだと逆に気味わりーな……」

 みんなの目を引く、この*唐突のバスタブ*をさっそく使ってみよう。
 プラスチックのバルブをひねると――少し間を置いてしゃっと何かが溢れる。
 湯気の立つお湯だ。なんてこった、ついにシャワーを創造してしまった。

「うーわほんとにお湯出てる……」
「……マジかお前さん、湯が出とるじゃないの」
「マジで出ちゃっとるのう……こんなんチートじゃろ、逆にキモいぞおい」
「ちゃんと排水もできてるみてえだな……俺たちが必要か心配になってきたぞ」

 ドワーフ三名も確かに触れてそう言うんだ、間違いなく熱い湯が出てる。
 みんなで触れれば熱々新鮮な具合である。とりあえずスクショ撮っとこう。

「すげえ、マジで原作通りになってやがる……イチ、このバスタブは記念に残しとかねーか?」
「いちくん、きみはたびたびにんげんではないとほうこくをみみにはさんだものだが、いよいよもってひとのいとなみからかたあしをはずしてるじゃないか。むからしゃわーをうみだすへんたいだ」
「イチ様ぁ、やっぱり創造主だったんすねえ。そろそろエナジードリンクとか生み出せないか試みてほしいっす~」
「……って感じなんだ、レージェス様。いろいろあってこの土地をこんな風にいじれるから、クラングルぐらい快適にしてみたくてな」

 さて、重要なのは【歩く浄水器】みたいなこのお姉さまがどう拠点に働きかけれるかという話だ。
 我ながらいきなり厚かましい上に無理難題を吹っ掛けるような気分だが。

「じゃあ造作もないわ。さっき少し試したもの」
「ずいぶん簡単に言うなオイ」

 レージェス様はいたって澄ました顔でそういうのだ。
 それどころかローブの胸元に手を突っ込んでごそごそしたのち、不適切に収納されてた黒い羽ペンを取り出して。

「あなたの作った建物を色々調べたけれど、ちゃんと魔法が作用することが分かったわ。ということは答えはいたってシンプルよ」

 ふらふらしゃがむなり、大きな尻を突き出しつつバスタブに触れた。
 何か刻んでるみたいだ。まるでサインでも残すようにかりっとペンを躍らせると。

「はい、かきかきっと。イチちゃん、ちょっとお手手を出しなさい」

 手を拝借だそうだ。グローブを外して「ちょうだい」の形で差し出した。
 するとなんのつもりか、そこらの罪のない雑草をぶちぶち千切って細かくすると、青臭いそれをトッピングしてきた。

「……最近野菜不足だって近所のオークのおっちゃんに言われてるけど、これはあんまりじゃないか?」
「タカアキちゃん、お水をちょっとだけためてくれるかしら?」
「お? おう、これでいいの?」

 何をさせるつもりなんだ? レージェス様は幼馴染に栓をはめさせた。

「ここに放り込んでみなさい。浄化の魔法がかかってるから」

 そのまま、溜まり始めたお湯にずたずたの雑草をぶち込むよう促してくる。
 もう魔法とやらがかかってるらしいけど、俺が『不思議な力お断り』なのを忘れてるんだろうか。

「お言葉だけど魔壊しつきだぞ?」
「あなたの勝手は知ってるわ。入れなさい」

 まあそういうならやってみよう。陰気な目つきに押されてぽいっと投入。
 千切れた雑草、ひいてはゴミが湯の中に入れば想像通りだ、緑色が汚く広る。
 「だめじゃん」と顔を伺うも、なぜだかレージェス様は得意げなもので。

「イチちゃん、何もあなたのマナを壊す力は無秩序なものじゃないの。こうしてあなたの手元から少しばかり離れれば――」

 そう優しい語りをしてくれた直後だ、バスタブの緑がすうっと薄まった。
 信じられるか? 見る見るうちに雑草の汚れが溶けてやがる。
 思わず行方を追おうとした頃には、すっかり綺麗なお湯だけがそこにあって。

「……溶けたな」
「溶けたわね。ほらみなさい、私はあなたのことをいっぱい知ってるんだから」

 仕上げは魔女渾身の青白顔が浮かべるドヤ顔だ、ほんとに浄化しちまったよ。
 これが浄化の魔女の力なのか。アサイラムに居残る皆様も「前触れなしのバスタブ」以上に驚いてる。

「つーことはかけれちまうなあ、浄化魔法……こりゃ面白いことになりそうじゃぞ?」

 イコール、スパタ爺さんが関心するままだ。
 レージェス様のご機嫌次第でここは幾らでも綺麗な水だらけにできる。
 クラングルと遜色ない衛生環境も夢じゃないわけか。生活排水も強引に清めて垂れ流し放題だ。
 とんでもないものを披露したご本人はそれはもう周りの視線に心地よさそうで。

「くすっ。台所からお風呂まで、下水道すらこの【浄化の魔女レージェス】の都合にあわせてあげるわよ? どうする? もっと清めちゃう?」

 どいんっ。そんな感じでまた胸を当てにきた。
 横合いから片目を潰されてるとドワーフたちも楽しそうに頷いてる。

「そうなってくると話は早いぞ。イチ、外の連中が帰ってくる前に上下水道作ってびっくりさせたらんか?」
「浄化の魔女の力かけ放題とかお主がおるからじゃろうな……よっしゃ、いろいろアイデア浮かんで来たぞ。わしらと一仕事せんか?」
「こりゃやるしかねえぞイチ、わしらなんでも調達してやるからここにすげえもん作ってやろうぜ」

 などと、すっごいやる気満々だ。
 正直水道だの配管だのさっぱりだけど、ここまで至れり尽くせりなら楽勝だ。

「オーケー乗った。レージェス様、さっそくで悪いけどここの整備を手伝ってくれるか?」

 確認だ、この魔女様は付き合ってくれるよな?
 伺った先からの返事は「にこぉ……」な濁りある笑顔で。

「ええ、もちろん。その代わり後で一緒にお風呂で綺麗になりましょうねぇ……♡」

 どんよりねっとりと対価を求められた――くそっ! また風呂だ!
 爺さんたちに助けを求めるも「よし水道図面作っちまうぞ!」と見て見ぬふりされた。覚えてろ。

「すいません身体で支払う以外でお願いします」
「……ちなみに私は羽でくすぐられちゃうのが性癖に刺さるわ。どう?」
「なんの情報だ!?」
「――あの、だんなさまー……? クラングルから送られたお荷物を……って、な、なんかいっぱい増えてる……!?」

 距離感バグった魔女と適切な距離を作ってるとちびメイドが混ざった。
 メカだ、ステーションから妙なタイミングで戻ってきたらしい。
 というかひどく驚いてる。そりゃそうか帰ってきたらまた数段すっ飛ばして文明化してるんだし。

「ああおかえり、シャワーでもどう?」

 どう説明するか迷った結果、俺は独立型のシャワーをしゃーっと流した。
 返答は「ええ……」だった。困惑する方の。

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