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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
未開の地調査のお仕事
しおりを挟む地下交通システムの正体を突き止めれば帰りはあっという間だ。
正常に稼働したレールをEVカートで走れば30kmなんてすぐである。
だけど持ち帰った情報が「転移してきた廃墟に繋がってた」となれば、この知らせに市はさぞ悩んだようだ。
テュマーがいるわ知らない土地はあるわ、悩みの種が増えればそりゃ困る。
『誰かさんが思いのままにいじれる』『ついでに臨時で守りを固めてきた』
この二つまで包み隠さず伝えればいい追い打ちになったと思う。
とにかくこうして都市に直接的な危険がないと突き止めて報酬は倍額、一人10000メルタだ。
これらを踏まえて、市は各ギルドやリーゼル様を交えてトンネル先の土地の処遇について検討するとのこと。
ああ、つまり「これからどうしよう」ってことだ。
その間にドワーフたちが主導で例の土地を調べて、白き民やらが来ないように監視するらしい。
この件に深く絡んだストレンジャーは「何か進展があるまで待機」だとさ。
「……なあタカアキ、俺はハウジングなんて聞いちゃいなかったぞ」
「何を隠そうG.U.E.S.Tはそういう要素もセールスポイントだったんだぜ。旅の道中でそういうのと触れ合う機会なかったのか?」
「いや全然、その代わりに邪魔する奴らばっかと巡り合った感じだ。どっかで見落としたか?」
「まあそうやすやすと出てくる要素じゃねえからな、ハウジング。余裕が出てきたやつが慣れてきたころに大量の物資と金を用意して『私の考えた拠点』を作るようなシステムだし」
「それがどうして剣と魔法のファンタジー世界でお会いするんだか」
「これも何かの縁だ、いっそ「あっちで拠点運営しますと」でも表明してドワーフの爺さんたちと一緒に開拓しちまうとかどうよ」
「俺に開拓者になれってのか? 戦ってパン焼くのがせいぜいなのにどうやってそういうのやりくりしろって言うんだお前」
「どの道よぉ、お前の力でお好みの色に染められることも報告したわけだろ? あそこをどうするかって話には今後絶対絡まされると思うぜ」
「それくらい覚悟はしてるさ。おかげでここ数日ずっともどかしい気分」
「スパタ爺さんが本腰入れて狩人ギルドの奴ら連れて調査するらしいぜ。何か分かり次第俺たちにすぐ知らせるってさ」
そしてあれから少しが経った。
まだ眠い俺はマフィア姿なやつと宿のカウンターに落ち着いていた。
壁掛け時計が知らせるタイミングは朝の八時、だらだら寝過ごした証拠だ。
「……お呼びになるその時までお好きなようにお過ごしください、か」
こうしてる間にも『アサイラム』は後続組の連中が手をつけてくれてる。
土地に手を加えたり、あそこがフランメリアのどこにあるのかを調べたり、やることがいっぱいらしい。
だからと「じゃ任せるわ」で一投げするわけにもいかず何度か足を運んだが。
「そうはいいつつお前、時々様子見に行ってるみたいじゃねーか。まあ俺もなんだけどな」
「あれからトラブルはないってさ。楽しそうに森を切り開いたり、俺の作った違法建築物に勝手に匠のこだわりぶっこんでお洒落にしてたよ」
「奇遇だな、俺もそんな感じだ。なんでも調査を引き続き任されたから向こうで好き放題やってるらしいぜ」
「お前もか。あの人たち、ちゃんとしかるべき許可貰ってるんだよな?」
「白き民対策って名目がありゃ何してもいいみてえだ。それに文句言おうにもリーゼル様も関わってるんだ、誰にも止められねえよ」
「つまり好き放題やってんのか。なんて場所だフランメリアめ」
「お咎めなしっていうのはお前にも当てはまると思うぜ。勝手に好き放題していいのよ?」
「あそこに街でも作れってのかお前は」
「少なくともこれでいつでもマイホームは手に入るぜ。しかも地下交通システムでクラングルまで十分足らずの物件」
「そこで暮らしてても十分以内で職場直行できるのが唯一の救いだな」
「でもまあ、俺たち旅人はそうやすやすとフランメリアの土地は手に入れられないんだけどな」
「そうなのか? 金さえ払えばどうぞってイメージだけど」
「そりゃあ、簡単に他所のやつに国の土地くれてやるわけねえだろ。そういうのが欲しかったらいろいろ厳しい条件をクリアしないとだめなのさ」
「金以外ってどんな条件だ、モンスターのボスでも倒せとかそういうのか?」
「もちろん金もいっぱいいるけどよ、国に多大な利益をもたらして国民になる権利を手に入れてやっとだって話だ。楽じゃねえさ」
「長い道のりだってことはよくわかった」
「そんなもんさ。俺たちが「ステイ」喰らってるのもそういうのが絡んでるぜ、けっきょくフランメリアの土地は余所者じゃなく国民のもんだ」
ご覧の通り、朝からタカアキと一緒にだらだら話す体たらくだ。
覚えてるのは好き勝手出来る土地に「わしらに任せとけ」とウキウキしてたスパタ爺さんぐらいだ。
「……あそこって、ご主人のものになるのかな」
こんな風に考える野郎二人だが、横でわん娘が眠そうに首をかしげてた。
そう、ここにはニクの考えもあるわけだ。
「俺のせいで訳ありの土地になってるのは確かだな」
「つーか絶対、それのせいで向こうも話が複雑になってるんじゃね?」
あそこがG.U.E.S.Tのシステムで好き放題にいじれる以上は誰かさんのものである。
当然、土地の背景とそれにまつわる責任やらも誰かさんのものだ。
「下手すりゃパン屋の次は土地の所有者か。それで今俺がすべきことって何だと思う?」
「土地の開拓の仕方とか、建築の『用・強・美』を学ぶところからじゃねーかな?」
「本屋にでも行けと?」
「お求めなら付き合おうか? それに今ならドワーフの爺ちゃんから学べるぞ、良かったな」
「とりあえずリム様を招待するのはなしだな。フェンスの内側が全部芋畑になる未来が見えてきた」
「……おいお前さんら、まったく朝からなんて話してるんだか」
眠気を覚ましてると、厨房から頭頂部の危うい赤毛のおっさんが混ざった。
いつもてっぺんが明るい宿の店主だ。今朝も元気に窓からの光を弾いてる。
「いろいろあった」
「そう、いろいろ。今日も二人して悩ましいってわけさ親父さん」
「お前さんの口癖の「いろいろ」は何度聞いても複雑すぎるぞ。まあ、おおよそは耳にしたんだがな」
親父さんは立ち会うなりこっちの事情を大体くみ取ったような顔だ。
なんで知ってるんだという質問はもういらないだろう。
ここは前と比べて冒険者が穏やかに賑わってるし、噂もよく巡るはずだ。
「お早いことで。そのおおよそっていうのはどこまでだ?」
「あの妙なトンネルが安全になったことから、クラングルの外まで通じてドワーフどもが何かやってるってところまでだな。市民の間では例の土地とやらが開拓されるだろうって話でもちきりだぞ」
「親父さんの耳に届くってことは、あの森に文明でも切り開く路線がどんどん強まってるらしいな」
「誰かさんが魔法のように壁出したり建物生み出したりしたこともばっちりだぞ」
「そこまで聞いててくれてありがとう。で、感想は? すごいだろ?」
「そんな嬉しくなさそうな自慢は初めてだぞ。まあそうだな、わしから言えるのは「がんばれ」ぐらいだ」
「ワオ、俺だってこんな適当な応援初めて」
「なんだかすごいことができるそうだが、開拓っていうのは楽じゃないからな。もし任されればその土地に価値をつけるために尽力しないといけなくなるんだ、お前さんが思ってる以上に気難しいものだぞ」
「そしてそのすごいことのせいで避けられませんと、もうストレスフル」
「まあ頑張ってくれればわしの店にも箔がつくわけだ。どうだ、もっと出世して国民になって、土地の主になってみないか?」
「失敗すればつくのは泥か、責任重大だ」
「そうやっていち早く責任を感じて思い悩むだけまだマシだと思うがな。タカアキの言葉を拝借するが、今のうちにその手の勉強でもしたらどうだ?」
「だってさタカアキ、今度書店でも行くか?」
「じゃあお前の向上心に付き合ってやるよ。ただしクソ真面目にその手の本を探す隣で俺は黒井ウィル先生の『奇妙な団結~単眼ロリババア食屍鬼とくんずほぐれつフルタイム~』買うからな」
「朝っぱらからタイトルをフル朗読するな馬鹿野郎」
「わし思うんだが、お前の幼馴染がこんな奇抜なのによく健全に繁盛しとるなうち」
「タカアキがいつもご迷惑かけてます」
あの『拠点』をどうするかの考えに、親父さんはちょっとばかり理解を示してくれてるようだ。
なんだったら開拓者になれるように学びをすすめるほどだ。
それに伴って「何か頼むか」と顔が物語ってる。
「ま、それよりわしからの朝のご挨拶は「いらっしゃい、何かご注文は」だ。何か飲み物でもどうだ?」
「じゃあいつものザクロジュース」
「ん、ぼくもザクロジュース」
「あの苦いやつかよ。じゃあ俺も」
冷やかしになる前にお目覚めの一杯を注文した。
こっちで暮らして分かったことその一、眠気にはあのザクロジュースが効く。
三人分も求められて親父さんは「またか」と用意しにいってくれて。
「……なんやかんやであのクソ苦いジュースが気に入ってるようじゃないか。毎朝毎朝苦そうに飲み干してるんだからな」
帰る姿に赤くゆらめくグラスも三つだ。今日は氷も入って良く冷えてる。
この世界は冷蔵庫もあれば、こんな風に飲み物も冷たくて毎日驚きだ。
「慣れると病みつきになることが最近判明したんだ。おごりをどうぞ皆さま」
「わーい」
「わーい……いや、これ確か後味がすげえ苦いよな、良く飲めるなこんなん」
料金を渡した、今日は俺のおごりだ。
ニクとくんくんすると強い甘みのある香りだ、舌に苦味が蘇って目が覚めた。
「どおりで毎朝飲んどるわけだな。他の客もお前さんの真似して頼んでくれるぞ」
「俺の真似してどうすんだ?」
「周りもそろそろこいつが強さの秘訣と思ってるふしがある」
「ザクロジュース飲むだけで強くなれるなら良く売れるだろうな。これ作ってる人大喜びじゃないか?」
今ではクッソ苦いジュースが身体に良いことも周りに広まってるらしい。
呆れる親父さんを前に三人でぐいっといった――冷たくて甘酸っぱい、からの地獄のような苦さ。
「……にがーい」
「……にがい」
「……苦すぎるだろこれ、最初はうめえと思うんだけどな」
「いつ飲んでも苦そうだな。こうして渋い顔させておいてなんだが、薬でも飲ませとる気分だ」
「知り合いの医者だったら良薬なんとやらとかいいそう」
後に残るは氷だけだ。汗をかいたグラスをがらっと戻した。
こいつを飲んで強くなれるってのはあながち間違いじゃないかもしれない、忍耐力的な意味で。
三人分の苦い顔を前に親父さんは少し面白がってるようだが。
「にしても飲み物に気軽に氷か。いつも思うけどフランメリアはなんでもありだな」
こっちはこっちでグラスの冷たさの方が気がかりだ。
おそらく元の世界よりもずっと綺麗だろう、四角くて透き通った氷がある。
次第にばりばり聞こえてきた――ニクがその音通りに氷をかみ砕いてる。
「わしらだってここ最近のフランメリアの技術の進化には驚いとるさ、まあ外国からきた奴はもっと驚いとるがな。何せマナで動く冷蔵庫に空調だの、こんな宿ですら防音加工が施されてシャワーもついとることが信じられんそうだ」
「なんか他の国よりずっと進んでる言い方だな」
「いつだったか、前にイグレス王国からきた親善大使が「進みすぎだ」とかひどくショックを受けてたそうだぞ」
「あの国か……」
「なんだ、嫌そうな顔しとるがどうした」
「いい思い出がないだけだ」
「気持ちは分からんでもないがな、あの女王の自覚がない女王が強引に農業都市の土地買い占めて茶畑を作ったことは今でも有名だからな」
「あの噂本当だったのかよ……」
「なんだかお前さん、イグレス王国とつながりがあるような反応だな。何かあったのか?」
「今俺の喉元で「今だから言うけど」って話題が出かけてる。どうすればいい」
「よしここまでにしよう。わしだってこの店と命が惜しい」
「ありがとう親父さん、愛してる」
「気持ち悪いこと言うなばかもん」
氷を通じて今分かった、アバタールのせいでこの国の技術力はすごいらしい。
そして旅の途中で聞いた女王様の噂がマジだったってことも。親父さんが知るほどの有名人だったかあの紅茶。
「ちょっと昔にシトリアからきた学者さんも驚いてたって話題になってたわね。なんでもフランメリアは数世紀以上は文明が進んでるんじゃないかとか卒倒してたって面白い話だったわ、大げさすぎるから嘘だと思うけども」
赤毛のお姉さん、分類するなら宿の娘さんが「お待たせしました」だ。
客席にパンやらハムやらの簡単な食事を運んでる。
その物言いを信じるならやっぱりこの国は異常だ、俺たちが感じてる快適さも未来の俺の賜物かもしれない。
そして俺はそんな世界の深みを調べないといけない、やること山積みだ。
「……だってさ、タカアキ。どう思う?」
「その顔見りゃ答えはこうだ、未来の技術広めて文明チートでも目論んでたんじゃねえの?」
「俺がか」
「お前の人柄からして単純にいい暮らしをもたらしたかっただけかもな。おかげで俺たちは気持ちよく寝れて朝からシャワーも浴びれて冷たいジュースを飲めるんだぜ」
「また妙な話しとるようだが、お前さんら朝飯はどうする? また外で食って来るのか?」
悩ましい俺たちから娘さんがグラスを掻っ攫うと、親父さんは朝飯の話だ。
言われてみればザクロジュースのせいで空腹が刺激されたし、厨房からの煮込んだスープの香りがうまそうに感じた。
白米が食べれる定食屋にするか、適当に買い食いでもするか、いや宿に預けておいた塩なしパンがあったはずだ。
「キープさせてた塩なしパンあったから悪くなる前に食っちまうよ。なんかおかず作ってくれ」
「お前さんが事あるごとに焼いて持ち帰ってくるもんだからいっぱいだぞ、二つほど大きいのが盾として通用するほど硬くなっとるんだが」
「マジか……こういう情けない質問はどうかと思うけど、どうにかならない?」
「ならそうだな……ちょうど昨日のスープがけっこう残ってたからな、簡単なもんだがそいつで軽く煮込んでやろうか?」
「じゃあそれ頼む。ちなみにどんなスープ?」
「豆と野菜と燻製肉をたっぷり入れたやつだ。ちょっと待ってろ」
「うまそうだな、よろしく」
「ん、ぼくも食べる。焼いたソーセージもおねがい」
「俺も頼んでいいかい親父さん、ついでにハムとチーズの盛り合わせも追加で」
「お前さんらもすっかりフランメリアに染まっとるな。外国の奴らが言うには、朝から暖かい飯をいっぱい食うのはこの国ぐらいだそうだぞ」
凶器さながらに強化されたパンは親父さんがどうにかしてくれるらしい。
予想以上に増えた注文に呆れた背中(と輝かしい後頭部)を見届けてると。
*ぴこん*
こんな時間に通知だ。PDAに既に届いたメッセージの数々に新着が一つ。
【おはよう、クラウディアだぞ。これがお前たち旅人の言うアサテイショクか! 異国の味がしてうまいぞ!】
まさかのどこぞのダークエルフからのお知らせだ。
食べかけの焼き魚定食の向こうで、掴んだ箸にクソ難しい顔な医者がいた。
周りにうっすら見えるのは付き添いのタケナカ先輩だ、向こうも朝からのんびりしてる。
【こっちも今から朝飯だ。箸に苦労してる先生が見えるぞ。お前は使えるのか?】
【食に貪欲なダークエルフを甘く見るなよ、造作もないぞ。今クリューサに教えながら一緒に食べてるぞ】
クリューサは和食に挑んでるとさ、朝から仲がよろしいことで。
他にメッセージを見る限り分かるのは。
【おはよ、いちクン。もう起きたかな? まだ寝てたらごめんね?】
【フランさんがどうせ撮るならこれ着てみてっていうから着たんだけど……どうぞ♡】
俺がお目覚めになる前より送られた相棒の自撮り画像だ。
どこかの一室で、桃色髪のもっちりしたお姉さんと、竜らしい角を生やした赤髪のお友達が仲良く映ってる。
二人の共通点は――白やら黒やらの極めて布面積が少ない水着だ。
被写体の様子はというと、もう少し派手に動けば機能性が損なわれそうな豊満さを恥ずかしそうに抑え込んでる。
「……なあタカアキ、朝から自撮り送ってくる心理って何だと思う?」
「またなんとなく察したぜ。今日も自慢か?」
「俺の性格が分かるなら自慢かどうか分かるんじゃないか」
「まあそうだな、お前は飯は飯、そっちはそっちでわきまえる奴だ」
「そこから「どう返せばいい」って相談していいか」
「既読スルーはやめとけよ、肯定的なこと返しとけ――なあ、ミコちゃんひょっとして愛重い系の女子?」
「色々重いけどいい相棒だと思う」
アドバイスどうもタカアキ。
で、この目元は隠して口元がにやつく二人がどうして朝飯に重なるんだ。
ちょっとの物理的きっかけで上も下も大惨事になりそうな姿を見て、ひとまず浮かんだ返事と言えば。
【エロい!!!】
こちとら飯食ってんだ、と威嚇も込めて投げやりにぶっ放した。
すぐに既読がついた。きっと困ってるに違いないが。
【……ふふっ、今起きたのかな? これもどうぞ、撮りたてです♡】
速攻で返事もきた、それもクランハウスの廊下の様子つきで。
きっと逆効果だったに違いない。人気のなさに乗じて上着をめくって――悪化しとる。
「……愛重い系の女子ってどう付き合えばいいと思う?」
「最近思うんだけどよイチ、あの子って段々本性バレてきてるよな。周りもお前らとの関係性に段々気づかされてる頃だぜ」
「最近シナダ先輩がさ、「お前らそうだったのか」から「頑張れよ」って色々理解してくれたような接し方してくるんだ……」
「シナダパイセンよく見てくれてるぜ。いい理解者できててよかったじゃん」
「それはいいんだけどな、なんで自撮りにフランのやつが混ざってる?」
「おいあの子クランメンバー巻き添えにしてんぞ、どうなってんだ」
ボス、イージスは逞しく成長してるよ。そろそろ俺を尻にしくぐらいに。
実際尻というか下半身に押しつぶされた思い出が真新しいが、おかげでヒドラの気持ちが分かった。ラシェルとお幸せに。
「おはようございます~……寝すぎちゃいました……」
朝飯を待ち遠しくしてるとふわふわ上下する声が追いかけてきた。
三人で見ればそれらしく身なりを整えてもなお眠そうな、球体関節持ちのお姫様がふらっと席にありつこうとしてる。
「おはようリスティアナ、ぐっすり眠ったような登場だな」
「ん、おはようリスティアナさま」
「よう、俺たちもさっき起きた感じだ。一緒に朝飯でもどうよ」
ドールのヒロイン、リスティアナだ。睡眠の気持ちよさを引きずりつつの登場である。
小さく丸く開いた口であくびを一つ、腹の空き具合が分かる仕草で同席して。
「最近ずっと働きっぱなしでしてー……お手伝いに行ったりすることが増えて、たまには休まないといけないと思って気を緩めたら……思いっきり寝過ごしちゃいましたー……」
それでもヒロインらしい愛嬌の良さで胸元の何かを持ち上げてきた。
冒険者の首飾り、その名も『シート』だ。
ブロンズほどの輝きを捨てて、今では堅実なアイアンぐらいの色を持ってる。
俺の昇格にあわせてリスティアナも一つ上をいってたわけだ、それに伴ってこうして忙しそうだが。
「そういやアイアンになってから忙しそうだな、どうしたんだ?」
「最近、ヒロインの後輩さんがいっぱい増えてますよね? ちょっと気になっちゃう子たちがいまして、その子たちに何か起きないか私心配で……」
こうしてゆるく寝すぎたのも心配事によるものだったらしい。
こいつの言う通り、ここ最近はヒロインの冒険者がまた増えつつある。
そもそもここは俺たち人間が「武器もって冒険」せずとも暮らせる世界だ。
働いて食って寝るのハードルは元の世界より低いし、命をかけなくたってそこそこ充実した人生を送れるのだ。
そこにあやかれるのは可愛い女の子たちも然りだろう。愛くるしくて能力も高いとなればなおさらだ。
「なるほど、理由としては新入りの面倒見てたってわけか。たまり場に来てるやつか?」
なのに酔狂にも、この頃は冒険者になるヒロインも増えた。
これもクラングルが賑わったせいだろうが、今や集会所は人間ヒロイン問わない盛況ぶりだ。
先輩どもが面倒を見る相手も増えたってことだが、じゃあその「気になる子」はどんな奴か尋ねれば――
「え、えーとですね……みんな、集会所に足を運びづらいそうなんです……なので私がいろいろ教えてるんですけど……」
眠気も忘れて少し気まずそうにされた。
いやそれにしてはなんか妙だ、俺に対して申し訳なさそうな何かを感じる。
「……集会所に来づらいの? その子たちに何かあった?」
すると疑問を代わりにニクがぶつけてくれた。
「えーと、その、あそこってあの子たちには敷居が高いっていうか……?」
反応はまさしく何かあったようだ。
もはや何か当たり障りのない言葉を探るように声を詰まらせてる。
相当な理由があるんだろうか? ニクと「?」と同じ記号を浮かべると。
「そこはほら、前と比べて明らかに環境が違うからな。最初は人間のみどうぞって風潮、続いてヒロインも良かったらどうぞ、現在なんていろいろなやつが雑に集まって「初心者歓迎」って空気じゃねえからな今」
タカアキが冒険者ギルドの今をよく語ってくれた。
あそこはそのセリフ通りの状況だ。
冒険者どころか料理人に狩人、ロリからドワーフ、しまいに芋の化身だ。
設備も充実して片隅で武器が作られ、電化製品が揃い、最近じゃおクスリを作るお医者様もいらっしゃる始末だ。
「そ、そうですねー……えっと、それもあるんですけど……」
しかしリスティアナはまだ気まずい。なぜか俺を見た上で。
なんかやったのかとそろそろ口から出かければ。
「なんだ、もしかしてそいつらにとって怖い奴でもいんのかよ? ちょうど当てはまるやつがここにいるけど、そういうことか?」
どこまで冗談かはともかく、タカアキが「こいつか」と親指を向けてきた。
その名もイチ、またの名をストレンジャー、つまり俺のことだ。
ところが笑い話で済ませるようなひどいご指名にそれはもう複雑だで。
「リスティアナ、なんか嫌な予感がするけど説明してくれ。大丈夫おこらなーい」
ダメ押しとばかりに説明を求めれば、それはもう諦めたような表情だ。
「いっ……」
「い?」
「イチ君が怖いって子が何名かいまして……」
だとさ。俺が怖いんだって、そうかそうか。
どういうことだこの野郎しばくぞ、なんて出かけたがやめておこう。
「名指しで怖いって言われたの初めてなんだけど俺」
「ご主人、怖くないよ……?」
「あーうん、いやよく考えなおしてみ? お前今まで何したよ」
大丈夫こわくなーいと今からでも愛嬌を作った。ニクによしよしされつつ。
しかしタカアキに今までの所業を見つめろと言われて思い浮かぶのは――
「どれだ……」
「選択に迷う時点で答えが出てんぞお前。一番よく広まってるのはカルトのクソ野郎納品したことじゃないか?」
「あれだけでそんなびびるか?」
「今までやったことトータルで考えりゃおっかないと思うぜお兄さん。お前のことは敵絶対ぶち殺す狂戦士みてえに広まってるもの」
「その敵絶対ぶち殺す狂戦士のせいで後輩たちがコミュニケーション取れてないってことか」
「リスティアナちゃんの気まずい顔からしてそうなんだろうよ。あってる?」
答えはいろいろだ。そして水色髪のお姫様らしい笑顔は引きつってる。
「あの、私もちゃんとフォローしましたからね? それに二人ぐらいイチ君のこと大丈夫って子もいるんですけど……」
「良かったなイチ、二人も理解者がいるみてえだぞ」
「問題は何人のうちの二人かってことだな」
「六人パーティです……。で、でも二人ともあなたが助けてくれた子でして……ほら、覚えてますか? キュクロプスの子と妖精さんのことです!」
そこから出てきた答え合わせはなんともよく覚えてる二人のことだ。
悪い先輩に絡まれてたやつに、生贄にされかけてたちっこいうあつか。
でも一つ目の方はあれからしばらく見てなかったし、まだ冒険者やってたのかと思うほどだ。
「二人とも覚えてるとも。一つ目っ娘の方は最近見てなかったけどな、あいつどうしてたんだ?」
「あれからちょっと冒険者ギルドが怖くて近寄れなかったみたいなんですけど、イチ君の活躍を聞いて戻ってきたそうです! すごくいい子ですよ、今じゃパーティーの要です!」
「そうか、だったら俺のおかげで「戻ってきて何より」と「迷惑かけてごめん」だな」
「お前のせいで内情が複雑になってんぞその初心者パーティー。どうすんだ狂戦士」
「誠にごめんなさい」
今こうしてリスティアナに謝ったところで返ってくるのは困った顔だけか。
いや、こういう実例ができてしまった以上は見過ごせない問題だ。
ストレンジャーがもたらす悪い面がヒロイン一人の寝不足として浮かんでるわけだし、どうにかしないといけない。
「――何もお前さんがいいものをもたらすだけとは限らんさ、だがこういう問題は自分からフォローを入れておくべきだとわしは思うぞ」
「あっ、おはようございまーす☆ ちょっと寝坊しちゃいましたー……」
どこまで耳にしてたのやら、親父さんも料理を手にしれっと戻ってきた。
人形系美少女の挨拶にいい顔を返すと一転してこっちに面倒くさそうな様子だ。
「どう詫びるかまで頭が働いてた。飯まだ?」
「まずは腹を満たしてから考えるんだな。ヴァルム亭特製、塩なしパンのスープ煮込みだ」
面倒ごとを見るようなまま熱々の大皿がごとっと置かれた。
焼き目つきのパン数枚が良く煮込まれた具沢山スープの下敷きになってる。
山ほどかかったチーズとコショウがそそる――リスティアナも気になるほどに。
「おいしそうですねー……」
「おいしそうだってさ。親父さん、まだ作れるならお詫びでご馳走してやりたいんだけどいいか?」
「リスティアナがやってきた時点でそうくると思って準備しとったぞ」
「流石親父さん、じゃあ俺のおごりで」
親父さんめ、需要をよくわきまえてるようだ。
「いいんですか?」という顔におごることにした。その間に一口食べると――
「……うん、うまいなこれ。なんやかんやここの飯は落ち着くよ」
「長年冒険者の舌を相手にしてきたからな、お前さんらの身体が望むものなんてお見通しだ」
「私も分かります、ここのご飯って安心できる味なんですよねー……あっ、ザクロジュースもいただけますか?」
「本当にイチのおかげでザクロジュースがよく売れるな、待ってろ」
頭部まぶしい宿の主が自信ありげに言うわけだ、肉の味と野菜の甘味をたっぷり吸ったパンがうまい。
「ほっとする味……」
「定食屋もいいがこういうの嫌いじゃないぜ。まあ今は朝飯だ、リスティアナちゃんの後輩については食ってから考えようぜ」
ニクもタカアキも味のしみた具とふやけたパンの味で静かに染み入ってる。
スープに混じった大ぶりの豆は芋とは違う食感だ、そうだリム様にステータスのことも話さないと。
さて今日はどこから手をつけるか、そんな考えまで浮かんでると。
「……え、ええー……」
朝飯を待ち遠しくしてるリスティアナが急に困り始めた。
手を止めて「どしたん?」と伺えば、ちょうど娘さんが赤色たゆたうグラスやら焼きソーセージやらを持ってきて。
「お待たせ、ザクロジュースに焼きソーセージ……ってどうしたの、リスティアナさん?」
「どうかしたらしいぞ。なんかあったのか?」
「えっと、今話した子たちのことなんですけど……イチ君たちが見つけた【アサイラム】っていう場所の依頼を受けたって今送られてきまして」
「待て、アサイラム? あそこにか?」
「はい、報酬がいいからってみんな受けちゃったみたいで……」
タイミングの悪さは今日も変わらずだ。噂をすればご覧の通りである。
どういうことだと見れば、やがてやってきたスープ皿にも目もくれず。
【"アサイラム"調査のお仕事! 近頃発見した未開の地の周辺調査、土地内での作業などを住み込みで三日間手伝ってくれる冒険者を募集。等級不問、未経験者歓迎、一日三食付きでやりがいのある依頼です! ドワーフのじじいどもより、定員に達し次第締め切りじゃぞ】
……と、ボードの隅を陣取るブラック感漂う紙がスクショで送られてきた。
たぶんその子たちの誰かが送ってくれたんだろうが、一日あたり4000の報酬は確かに魅力的かもしれない。
「タカアキ、こいつは問題発生とみなすべきか?」
PDA越しの一枚を見せると、タカアキも「ええ……」な顔で。
「確かに俺たちこき使うって言ったけどさあ……こりゃ新入り押し寄せてくるぞ。ついでにいや……」
「土地の持ち主の責任も重大ってことだな」
「そういうこと。んで、こんなもんがいきなりギルドに貼られてるってこたー」
ぴこん。
タイミングを司る神なんて嫌いだ、まさにメッセージがきた。
送り主の名前はスパタ、どっからどうみてもあの爺さんの名前だった。
【スパタじゃよ、起きとる? やっとこさアサイラムの調査に本腰を入れられるようになったぞ。クラングルとの位置を探るために調査隊を送らせたんじゃが、その間にわしらも周辺の土地やらも調べておきたくての。そこで話があるからちときてくれん?】
と、目の当たりにした依頼書と重なる文面だった。
幼馴染の顔に「正解だ」と付け足せば、リスティアナもさぞ困った様子だ。
「どうしましょう、あの子たちが心配ですし……私も行くべきでしょうか……?」
「ならちょうどよかったな、俺も依頼主かもしれないやつにたった今ご指名されたところだ」
「あっ、そうだったんですね……? じゃ、じゃあ私もご一緒しちゃってもいいですか……?」
「ああ、一緒に来てほしい気分。ほんとあの爺さんたち元気だな……」
今日はゆっくり休もうと思ったがそうはいかないらしい。
どう進展があったのやら、是非ともスパタ爺さんから話を聞こう。
「ふふふっ♪ イチ君がいるとやっぱり頼もしいですね~? 今日もよろしく願いしますね?」
「今日も責任感じてるだけだ。飯食って準備したら地下ステーションで集合な」
スープを急ぎ足でかっ食らうと、隣でくいっと煽ったリスティアナが今日一番渋い顔だった。
ザクロジュースのおかげですっかり目は覚めた、今日も働くとするか。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
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修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
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しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
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日本列島、時震により転移す!
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

こども病院の日常
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ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
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最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
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※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
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