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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
今日も今日とて白い奴お断り
しおりを挟むタカアキの説明を受けながらハウジング・システムで土地をいじり始めた。
まず分かったことがある。ハウジング・テーブルを中心とした範囲内を好きなようにいじれるらしい。
更に言えばその範囲もテーブルをアップグレードすれば拡張可能だそうだ。
その対価はPDAが得た素材やチップだ、今後活用するなら【分解】がますます大事になってくるだろう。
じゃあひとまず最初にするべきは何か? それは内側の整備だ。
路上の車も廃屋も雑多なものも、全部【解体】してまっさらに変えた。
これで目につく光景は全て資源に変わったのだが。
*がらん がらん がらん*
家があった土台に建築法を無視した木造家屋が組み上がっていく。
資源ゲージをがりがり削ってできたのは、かつてあった一戸建てをなぞる四角形だ。
ひとまず「ここを守れる」程度の建物を立てろといわれて作ってるのだが。
「……オーケーできたぞ、見事な家だろ?」
さっそく完成した平たい物件をご案内した。
おっといけない忘れ物だ、壁と扉の枠に【扉(木)】をセット。
がらん、とノブつきの内開き扉が隙間を味気なく彩れば――
「……自信満々なとこ悪いが豆腐みてえだぞ」
「ああ、パックから出したばっかのやつみてーだわ。誰か醤油もってる?」
心無いコメントが横から届いた。
作業を見守る坊主頭とサングラス顔がこの物件を言い表してる。
何歩か下がって見直せば、おおむね茶色な木材が新鮮なお豆腐のごとしだ。
「豆腐じゃねえよ、一応家だ!」
でも俺の力作だ、んなこたーないと所要時間十分以下の建築をかばうが。
「シンプル極まってるっすねえ……しかも窓ないから真っ暗っすよ、幽霊でそうっす」
「とても質素な建物だな! もう少し明るい方が好みだぞ!」
ロアベアとクラウディアのせいでクソ物件としての価値が高まった。
中を確かめるとすでに幽霊が出て来そうなどんよりムードだ。
がこんがこんと壁を何枚か取っ払った、悪霊退散。
「お前さんの建築センスどうなってんじゃ……よいか、まず窓つきの壁で日の光を取り入れて外への見晴らしもよくするんじゃよ。ついでに床もなんでもいいから木材のやつ貼っとけ」
どうも俺の建築技術はスパタ爺さんの目も厳しく入るほどクソらしい。
「こ、こう……?」
その通りに窓枠のある壁を貼った。これで見た目も中身もだいぶマシになった。
室内の形に木の床を巡らせると、少しは温かみのある部屋の完成だ。
「だいぶマシになっとるぞ。ついでじゃし二階建てにしてみんか?」
「床はこんな感じでいいか。ところでこれ、けっこう木材使うんだけど……」
でも思ったより資源の消費が激しい、木材がどんどん減っていく。
実際、旅路で積み上げたゲージがゼロからのリスタートを目前にしてる。
「確かお前さんの持っとる材料を使うんじゃっけか? なら心配いらんぞ、んなもんちょうど周りにいっぱいあるじゃろ?」
ところがスパタ爺さんは「ちょうど」を見渡してる。
ここアサイラムを囲う森を切り倒して使っちまえとばかりだ、いいのかそれ。
「言われてみれば取り放題か。勝手に伐採していいのか?」
「なあに、安全を確保するって約束にはここらを好きに弄っていいって話も含まれとるよ。どの道わしらもそこらの木ぶったぎる予定じゃったしな」
「ずいぶん信頼されてるご様子で。じゃあ木材に困らなさそうだな」
「しかしお前さん、切り倒したばっかの生木を【解体】できるんかのう?」
「どういうことだ」
「木材っつーのはな、ちゃんと水分抜いたりしてやらんといけないんじゃよ。酒と同じで寝かせてやらんと持ち味をいかせんのよ」
「つまり切り立てじゃダメな可能性があるか……タカアキ、その辺どうなんだ?」
「こっちに来てからなんでもかんでも無節操に分解してるしいけるだろ」
「だとさ」
「よっしゃ、だめならわしらが加工して使うだけよ――おいお前さんら、斧貸してやるからちょいと切ってこい! 暇なやつはカートから荷物運んどくれ!」
タカアキを交えて悩んだ結果、多分いけるだろうという判断でみんなが駆り出されたようだ。
その間に【窓】を選択、建築の規格にあったいろいろなデザインが出てくる。
壁の枠にあわせて押せば「がらっ」とはまった、おまけでカーテンも追加だ。
「これでどう?」
「建築センスも腕前もわしらの方が上じゃなあ……」
「しょうがねーだろ素人だぞこっちは、爺さんたちにかなう訳ないだろ」
「じゃがこんなもん一瞬で作れるのはデカいぞ。つーことでせっかくじゃ、二階も作るぞ。そこの天井取っ払って部屋の隅っこに階段おいとけ」
注文が多い爺さんめ、天井の一部を解体して殺風景さに階段を添えた。
途中にカーブを交えたシンプルな構造だ。天井までの足掛かりができてしまった。
「資源は大丈夫か? 天井の上に床しいとけよ」
「このままじゃだめなのか? そのまま足場になってるぞ?」
「壁にはちゃんとした足場が必要なんだよ。床を置いてやらねえと駄目だったはずだぜ」
「その辺律儀なんじゃなあ……わしらもやってみたいわ、羨ましい」
「できることなら権限全部スパタ爺さんに渡して任せたい気分」
「わはは、それは嬉しいがなんでも経験よ。自分でいろいろ作ってみんか」
今度は床を置けとの指示だ、見てくれのわりにがっしり頼もしい段差を上った。
貼り立ての天井に床をスナップ接続して配置すれば丸裸の二階建てができた。
そうすればまた周囲に壁を作って――めんどい。
「……くっそ面倒だな、これ」
「いや、わしらからしたらその能力すんごい欲しいからね? 指動かすだけで何でもできるとかそれもう神の所業かなんかじゃよ、それなりの建物がもうできとるしどうかしとるよ」
「そういやG.U.E.S.Tやってるときは機能性重視で超適当に作ってたなあ。実際こうして見るとやっぱ俺も面倒だと思うわ、屋根作る時はそれにあわせた壁があるから先に合わせとけよ」
眺める二人のご期待に沿って屋根向けの壁を探した。
これか、カテゴリの中に屋根用の説明つきのやつがある。
頭上にあわせると屋根の斜め具合が自動接続機能でくっついた――暗くなった。
「どうだ、お望み通り作ってやったぞ」
「ほんとに二階建てできちゃったのう…これならここらの活動を支えるいい住まいになるはずじゃろ」
「中も色々いじれるが後回しだな。ついでに家具とか置けねえか? 建築メニューにあるはずだぜ」
「家具まで作れるんか!? おいおい、ドワーフから仕事奪うつもりか!」
また注文だ、今度は家具置けとさ。
いろいろと並ぶリストの中に木材と布を使う寝具があった。
出てきた建築予定のベッドを適当な場所に「がらん」とさせれば、人一人がせいぜいの寝床が出てくる。
「……今度はベッドが出てきたぞみんな。次はなんだ? 車か? それとも一家団欒してる家族?」
「とうとうベッドすら出しおったぞこいつめ。じゃがデザインといい寝心地といい、絶対わしらで作ったやつの方がいいじゃろうな」
まあ、スパタ爺さんから見るとあんまりよくなさそうだ。
この寝る者を拒むような弾力性がそうだ。
ヴァルム亭のベッドの方が五倍はいいだろう、心地の悪い跳ね返りだ。
「まあ確かにこいつで寝たくはないな。悪い夢でも見そうだ」
「こいつのいいところは俺たちの寝床の良さが再確認できるところだろうな。まあないよりマシだろ」
「クラングルの市民がブチギレるレベルのベッドじゃのう……」
「あとはご自由に」と質の悪いベッドを何台か置いた、文句はG.U.E.S.Tの作者にどうぞ。
細かい内装は後にするとして、必要最小限の味気ない見た目から抜け出せば。
「ステーションの方の草刈りが終わったぞ!」
「発電施設もさっぱりっすよ~♡ こっちまでハウジング機能届くんすかね?」
ちょうど南側の草刈りが終わったらしく、クラウディアとロアベアがいた。
周囲からはかーん、と木を叩く音が本当に響いてるようだ。
それから「うおおおおおおお!」というキリガヤの熱い声も。
「お疲れさん二人とも。地下交通システムまでそんなに距離もないし、いけそうな気はするけどな」
「そういう時はハウジングの届く範囲を確認すりゃいいだけさ。ステータスいじってみろ」
どこまで手が届くのか、というのもこのメニューで分かるらしい。
画面を探ればすぐ見つかった、これで稼働範囲の確認ができる。
触れればここの限界を理解できた――なにせ森の東西南北に半透明の白壁が立ってるのだから。
「ワーオ……ほんとに見えたぞ」
「どんな感じだ?」
「白くて半透明な壁が見える、正常だよな? 俺の病気とかじゃない?」
「触れた途端に見えたってならたぶん目も脳も正常だと思うぜ」
幼馴染も安心するほどにゲームの仕様そのまんまらしい。
次の心配は、そこがどこまであるのかって話だが。
なのでステーション周りを調べるついでに南へ向かった。
ちょうど切り開かれた地面が発電所までの道のりを作ってるらしく。
「発電所はあっちか?」
「そうだ、ちゃんと道も作っておいたからな。中々草木でいっぱいだったから大変だったぞ」
クラウディアのドヤ顔を信じれば確かにあった。
そこでフェンスに囲われた斜め向きのブラックプレートが、中々来ない太陽光を物憂げに待ち遠しくしてる。
「……見事に日光浴できなくなってるな、まあこんな森の中だから仕方ないか」
その原因は森だ、現に木々がいい感じに空を遮ってる。
「んじゃせっかくじゃし通りをよくしたるかー! メイドの、ちょいと手伝え!」
「これじゃ発電もできないっすからねえ、うちにお任せっすよスパタ様ぁ」
さっそくスパタ爺さんの手斧とロアベアの仕込み刀が救出に向かったようだ。
ここは任せてハウジングの範囲を探りに行くと、後ろで『ゲイルブレイドっす~♡』とによつく声が聞こえた。
「この様子だと発電所よりももうちょっと向こうまで行く感じか?」
がーんと派手な斧の音も重なった頃、タカアキの目星が向こうに気づく。
発電所から十メートルもないあたりにうっすら白い壁が向こうの風景を映しつつ、ハウジングの限界距離を示してるらしい。
「このあたりが限界だな。思ったよりけっこういじれる距離はあるみたいだ」
「ここらか。ブラックプレートからちょいと先までカバーしてるな」
「じゃあこんな範囲をどう守ればいいんだっていう話だ。まさか木の壁設置してクラングルみたいに覆えとか言わないよな?」
「あの建物一つでけっこう資源食ってるぐらいだ、そりゃ無理だろうよ。待ってろ、なんかなかったか今思い出してる」
「資源は廃屋解体して意外とたまってるぞ、特に金属とガラス」
次は爺さんたちの求める『拠点の防御』とやらをどう実現するかだ。
すぐ隣のブラックプレートから二階建てのずっと向こうまで、どうやって近寄りがたくしてやろうか……。
「……そうだ、そういやあのゲームやってるときクッソ便利な奴あったじゃねえか。フェンスだ、金属製のフェンスとかねえか?」
タカアキがプレイ経験から何か思いついたらしい。
建築リストを探ればあった、金属製フェンスとかいうやつだ。
「もしかしてそのお前が便利だって言ってるのはこいつのことか?」
外観を呼び出してみれば、地面に横長のシルエットが重なった。
意外に大きい。金網つきの杭が【設置可能!】と5mほどの幅を緑色で表してる。
がらん。設置してみれば、草木を押し退けて原寸大のフェンスが登場だ。
「よう、お久しぶりだな。まさにこいつだぜ、そんなに資源も使わねえくせに広く守るし意外と頑丈でな、俺の記憶通りに働いてくれるならこいつがいいと思うぜ」
幼馴染はこいつと仲良しだったらしい、金網をからから揺らして懐かしそうだ。
しかもこのフェンスは【金属】のゲージがさほど減ってない。
今まで使わなかったのもあって余裕も強いが、これなら大量に作っても大丈夫か。
「……いやなにそれ便利すぎん!? そいつじゃ、そいつ使ってぐるっと囲えんか!?」
そしてさっそく獲物が引っかかった、目ざといスパタ爺さんだ。
「資源のストック的にいけるだろうけど……これで白き民を防げるのか?」
「こういうので律儀に覆われてちゃ本能的に近づきたくなくなるもんじゃよ。お前さん、これが目の前を遮っとったら面倒じゃろ?」
「よほどの理由がないと足も気も進まないな」
「そーゆーこった。それに金網っつーことは銃弾が通るわけじゃ、守りに都合がよい」
「なるほど、じゃあ置いちゃうか?」
「ちょいと待っとれ、フェンスの向きとか決めたるからな。適当に置いたら効果薄くなっちまうぞ」
ひとまずの守りはこいつで決まりだそうだ。
スパタ爺さんは手でミニ住宅街を目測すると、すり足で距離感を測っていく。
そして一分足らずで「ここに重ねろ」とばかりに足先で線をざざっと引いた。
「ここじゃ、ここにフェンス設置してくれんかの? そうすりゃ距離的に拠点を囲えるぞ」
「……すげえな爺さん、もう測ったのか?」
「わしらってそういうの仕事にしとったからな、すごいじゃろ?」
ドワーフってすげー。さっきのフェンスを解体してそこを中心に建て直した。
森の中を突っ切るように「こっちじゃ」と誘導されつつ設置、建築可能範囲ぎりぎりを取る形でつないでいくが。
「でもこれだとさ、思いっきり木とかにぶち当たるよな。その点どうすんの?」
タカアキと一緒に木々の邪魔にぶちあたった、これじゃ置けない。
しかし答えは単純だ、行く先を塞ぐ太い幹にスパタ爺さんの斧が襲い掛かる。
「ぶっ倒しながら開拓するにきまっとんじゃろ! やれ、メイドのお仕事じゃ!」
「あひひひっ♡ ゲイルブレイド大活躍で嬉しいっすねえ」
かぁん、と何度か傷をつけて進行方向を決めるなり、ロアベアが抜刀しながらの【ゲイルブレイド】だ。
見えない刃が飛べば傷に従って食い込んで――ばきばき勝手に倒れていった。
いや、それだけならまだしも。
「……あーそういうこと、確かに合理的。切ったそばから解体できるぞこれ」
切り倒された木に触れると【解体可能!】のお知らせだ。
なんなら残された切り株もだ。がこんという音一つで消えて木材が補充された。
「わっはっはっは! こりゃ楽しいのう! すいすい開拓しとるぞわしら、気持ちよすぎるわ!」
「やっぱいけたか。つまり木材取り放題だぜ、おめでとう」
「この機能のヤバさがようやく分かってきたよ、便利極まりない話だ」
……後はそんな感じである。
何本か木を切ってもらって、消し飛ばして、西へフェンスを伸ばしていく。
この要領で伸ばしては曲がって、アサイラムの土地を四角く囲うわけだ。
「……おい、今度は何もないところからフェンスが生えてるように見えるぞ。もう何でもありだなお前は」
「まったく先輩どもを木こりにさせてパシりやがって、伐採スキルがどんどん上がっちまってるぞ俺たち。切り倒したやつはカットしたほうがいいか?」
『セアリさま、ワールウィンディアがいた』
『あれはお肉ですね! 美味しそうですが手を出すのは駄目ですよ、勝手に狩ったらうちの食い込みリザードが怒っちゃいますから……』
『誰が食い込みリザードだ!? そこに直れ貴様ぁ!』
途切れた道路の先まで作業が達すると、肉体労働中の先輩二人と再会した。
後ろではニクとセアリが鼻を効かせてるらしい。異常はなさそうだ。
「こんだけあればたぶん十分だ。どうも先輩がた、後は任せてくれ」
感謝しながら【解体】だ、倒れた数本を切り株ごと消した。
「……あっという間に消しやがったぞこいつ」
「もうちょっと俺たちの努力の余韻を味わえとか言わないけどな、イチ。お前みたいな後輩をもって良かったことは土産話に事欠かないところだ」
「話すのに苦労しそうだな。フェンスの間に出入り口用のゲート置いとくから、出入りはそこからどうぞ」
フェンスの途中に金網製の門扉を挟んで仕事を続けた。
今度は北から東へ進んだ。キリガヤたちが邪魔な木々を片づけてくれている。
「おっ、もう来たかイチ! なるほどフェンスで囲おうという寸法か!」
「んなもんまで出せるんかお主……じゃがこれで守りが固められるのう、木は倒したままでよいか?」
「とりあえずこいつで囲っておけってさ。木はそのままでいいぞ、このまま南へ続けて発電所裏までカバーする」
「お前さんら、南側に繋がるように拓いてくれんか? とりあえずフェンスで大体の守備範囲決めちまうぞ」
解体した。道を作ってもらいながら更に南へつなげる。
木材を溜めてフェンスを立てての忙しいUターンを繰り返せば、一応の拠点の守りができてしまったようだ。
「……こうしてみるとすごいな、フェンスだけでもだいぶ雰囲気が違う」
「けっこう頼もしいもんじゃのう。後は監視塔でも設置して、できれば周りももうひと味加えたいところじゃが……」
「やべーもんでも置いてあるって感じだな。これなら流石の白き民もお近づきになりたくねえだろうさ」
「お~、危険区域みたいになってるっすよ。これ手作業でやったらどれくらいかかるんすかねえ」
「いいかみんな、こういうのは縄張りを示すだけで近寄りがたいものなんだぞ。既に奴らにとって嫌な場所になってるのは間違いないぞ」
仕事を一つこなせば、階段の方から荷物を運ぶ皆様が出てきた頃合いだ。
機関銃に弾薬、木箱に樽と見るだけで忙しそうな多さが引き上げられてる。
「後続から荷物届いたぞ……ってすげえなおい!? これも『はうじんぐ』のおかげか!?」
「い、いつのまにフェンスで囲われてる……!? 何があったの……!?」
「二階建ての建物もできてるじゃないか!? ちょっと見ない間に進化しすぎじゃないのか!?」
「これ、市にどう報告するのさ……? でも報酬は期待してもいいかもね、帰ったら何買おうかなー……っていうかうちのデカケツどこいったか知らない? 肉体労働サボってるんですけどあの子」
先頭で五十口径を軽々担ぐドワーフから続くミコたちやらもこれには驚きらしい。
「で、あとはどうする?」
「四か所ほど機関銃据えられる監視塔を作ってくれんかの? わしらでも登れるように階段つきのやつ、できれば二階建てを追い越すぐらいで頼む。あっそれから倉庫とかも欲しい」
「俺の建築スキルで良かったら。他には?」
「後はそうじゃなあ、とりあえずフェンスの外側を追うように穴掘れ。あとで埋められるようじゃし遠慮いらんぞ」
「周りに穴掘れってか」
「今はここの保全が最優先じゃ、さっきぐらいのやつで大胆に囲ったれ。そういうのがあれば人間じゃろうが白き民じゃろうが近寄りがたいじゃろ?」
「まあそうだな、高いところからの銃口も含めて考えれば中々いい防御になりそうだ」
「今日からここの開拓も考えなきゃならんのう……ひとまずはトンネルの先が安全になったと報告できる程度に固めとくぞ」
しかしまだ仕事は終わらない、人間をこき使うきらいがあるドワーフはよりいい防御をお望みだ。
いいさ、やってやる。だいぶ慣れた画面を開いたまま草地に向かった。
*A FEW MOMENTS LATER...*
……そして程なくして建築が終わった。
周りに「こうしろ」だの注文された結果、倉庫やらの木造建築が幾つも建った。
特に目立つのは階段を内蔵した見晴らしのいい監視塔だ。
運ばれてきた機関銃が四方を見張り、森から来る何かを狙えるようにできてる。
更にフェンスの外側を【掘削】で掘り進んで、踏み込めば射線に晒される深い溝が待ち構える始末である。
「どうよ、こんだけ作り込めば満足だろ?」
出来立ての監視塔の屋上で拠点をぐるっと見渡した。
ぱっと見て広くカバーできるし、我ながらいい仕事だと思う。
脇腹のリボルバーを抜いて照準器を覗けばいい感じに敵を狙える具合だ。
「……数時間足らずでちょっとした要塞になってますね、確かにこれなら安全を確保した、と報告できるでしょうけど」
完成度は見に来てくれたサイトウが引くほどらしい。
この高みから弓を構えて「いけますね」と周囲を探ってる、射線ヨシ。
「繋がってた先に基地作りましたっていったらギルマスどんな顔するんだろうな」
「最初に「ええ……」ってなるかと。それよりイチさん、もう少し周囲を探ってきましたけど異常はありませんでした」
「足跡の正体も掴めずって感じか」
「ええ、いたのは魔物ぐらいですね。ワールウィンディアを見かけましたし、ガストホグの足跡もありました」
監視塔の使い心地は中々いい。白殺しのスコープを覗くといい見晴らしだ。
「ストレンジャー、これ全部あんたが作ったってマジか……? どんな手品を使ったのかご教授願いたいんだが」
その隣ではカートから解放されたディセンバーだ。
急ごしらえの銃座に乗せた機関銃をいじって、照準調整ついでに景観を眺めてるようだ。
「俺だって仕組みが分からない手品だぞ。確実なのはここの謳い文句が白き民お断りってところだけだ」
「一応、ここの安全性は確保できたってことですよね……建物もしっかりしてますし、攻め込まれても大丈夫な気はしますが」
「なああんたら、さっきあの爺さんどもが地雷でもしかけるかなんて言ってたぞ。ここに難攻不落って箔をつけようと楽しそうにしてやがったから、ここもドワーフのおもちゃになるだろうな」
「まあこれでトンネル経由でクラングルが危険にさらされる心配はなくなったんじゃないか?」
「じ、地雷……? そんなもの勝手に仕掛けていいんでしょうかね……?」
三人でもう一度確かめるが何度見たってひどい魔改造ぶりだ。
廃墟は解体され、できたて木造建築に物資が運ばれ、遠くでクラングルからきたドワーフが盛り上がってる。
武器を携えた姿が集まってるから議題は「どう強くするか」だろうな。
「――こんだけやっときゃ依頼者も納得じゃろ? トンネルも調査してここまでの道のりも抑えたし、出た先もひとまずこうして確保したんじゃから文句もいえんさ」
いつから混じったのか、階段からスパタ爺さんも登ってきた。
「そのまま気前よく報酬の増額もしてくれると思うか?」
「タブレットにちゃんと証拠の写真も逐次記録しといたぞ。うまくいったと説明しといてやるから心配せんでいい」
「楽しそうだなスパタ爺さん、顔が生き生きしてるぞ」
「そりゃあ太陽光発電も無事再開しとるからな、もう土地もここの電力もわしらの手のひらの中よ」
一緒に見つめる先は数時間足らずで完成した白き民も近寄りがたい空気だ。
キャンプ・キーロウほどじゃないけど中々に防御力を感じる。
「こ、これでいいのかな……? 市の方から怒られたりしないよね?」
ミコも追ってきたか、不安そうな様子で駆けつけてくる。
相棒と二人で「これでよかったのか」を表情で強調してみれば。
「なあに、むしろ大喜びじゃろうよ。それにわしらもこんなところまで絡んじまったし、向こうもドワーフ族に貸しが一つできたからにはやすやすと文句も言えんさ」
「いい顔だな、なんか企んでないか?」
「あの、ちょっと悪だくみしてるような顔してませんか……?」
「別に~? んなことよりも調査は済んだんじゃし、そろそろクラングルへ帰らんか? レールも復旧してEVカートも正常に動いとるから時速200kmであっというじゃぞ? さっそく乗ってみんか?」
無邪気というか、悪戯心が垣間見えてるというか、そんな髭面が言うにはそろそろお帰りの時間らしい。
我先にとEVカートへ向かう背中はご機嫌だ、相変わらずだなドワーフ族。
『クリューサ! お前サボってただろう! いけないんだぞ!』
『肉体労働は身体が資本の冒険者どもの役目だろう。俺たちは別に金で雇われてなどいないからな、悪く言われる筋合いなどない』
道路の上じゃクリューサとクラウディアが相変わらずだったか。こっちもウェイストランドから続く仲で何よりだ。
◇
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