魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

いざつくれ、その名も【アサイラム・アウトポスト】

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 さんざん盛り上がった連中がお開きになると、かくしてストレンジャー上等兵はエグゾアーマーの使い勝手を覚えたわけだ。

 そのあと『メカニック』が言うには、着用者の感覚が重要視される外骨格はそうやすやすと着こなせないものらしい。
 例えるなら「生まれた赤子が一日で立って歩く」ようなもんだとさ。
 その要因は果たしてステータスのおかげか、それともボスたちからの厳しい訓練の賜物か、それか自身の才能だとかセンスか。

 どうであれ事実はこの世に二つ。外骨格をつけれるようになった、そして射撃の腕は少尉殿には及ばぬってことだ。

「よりにもよってお前がエグゾアーマー乗りの資格を手に入れるとはな。これから先ウェイストランドでは災厄が訪れるだろうな」

 そうして兵舎に戻って一休みしていると、仕事を終えたクリューサが戻ってきた。
 誰かさんが兵士たちの暇つぶしに興じてる間に医療現場でひと汗かいてたらしい。

「イチ様は天変地異かなんかっすか、クリューサ様」
「今までの所業を振り返ってみて欲しいものだな、俺はヴェガスを抜けて以来ずっとそいつの異常な戦果を見聞きしてたんだぞ。エグゾなんぞに乗って暴れたら棺桶がいくらあっても足りんさ」
「言い得て妙っすねえ、実際うちらの通ってきた道には屍の山が高く積まれてるっすから。あひひひ……♡」

 お医者様はベッドに座る生首&メイドボディに「俺もカウントするなよ」と付け足したうえで、どかっと椅子に座った。
 かなりお疲れそうだ。そこにおもむろにロアベアの身体が起立、近づいていく。

「おかえりクリューサ、帰ってくるなり厳しい評価ありがとう」
『お疲れ様です、クリューサ先生。ずっとお仕事だったんですか?』
「ストレンジャーのでたらめさもほどほどにしてほしいものだが、この基地の医療体制には死ぬほど呆れてきたところだ。十分な設備があるくせに消毒と縫合とスティムと飲酒ぐらいしか治療手段を知らないような民間人しかいないんだぞ?」
「そこらへんのやつが適当に医者の真似してんのかよここ」
『もしかして……ここってちゃんとした処置ができる人、いないんですか?』

 クリューサが何を言い出すかと思えばこの口の適当さだった。
 そりゃ医療現場もいい加減だったら本職からすると納得できないものがあるんだろう。

「ここは見込みのある民間人やレンジャーの親族やらを基地の労働力として招いているそうだ。そのおかげで素人相手に講習をするはめになったわけだが」
「外の人間を雇ってるってのか、ここ」
「信用できる人手が欲しいのもあるだろうが、一番は兵士の家族を保護できる点だろうな。理由はわかるな?」

 不満そうな顔のままそういってくるが、おもむろに後ろからメイドが肩を掴む。
 「何事だ」と振り向き立ち上がろうとするものの、非力なお医者様は人外娘のパワーでねじ伏せられてしまった。
 何が始まるかと思えば肩を揉み始めた。最初は身体をよじって逃げ出そうとしたものの、すぐに肩の力を落とした。

「報復するならご家族から、ってか?」

 そんな首無しボディにマッサージされる心労多きお医者様に俺は答えた。
 確かにレンジャーは強い奴ばっかだ。でもだからといってその家族まで代々屈強な成り立ちとは限らないだろう。
 それにお手軽だ。例えば恨みを持つ奴がいたとして、そいつの親しいやつを害するだけでも十分報復になりえる。

『……こんな世界ですからね、確かにシド・レンジャーズの人たちのそばに置かせてもらった方が安全だと思います』

 つまりミコの言う通りだ。レンジャーが嫌いな人種から家族を守るための手段である。
 果たしてそれが組織的に正しいかどうなのかという判断は俺にはできない。だってここウェイストランドだし。

「お~、クリューサ様の肩戦車の装甲みたいっす」
「そういうことだ、言わせてもらうが俺はそう言うのは好まない主義だ。今はまだそんな気風はないが、少しでも一線を越えれば銃を持ちエグゾを着た連中が公私混同するようなダメな組織になりかねんぞ」

 クリューサは相当硬そうな肩をぐっぐっと押してもらいながら、じっと外を見た。
 輸送用コンテナを弄繰り回してできた兵舎の窓からは、レンジャーたちに混じってあれこれ動く普通の身なりの人々が見える。

「大丈夫じゃないっすかね~? だってここの指揮官さん、誰に対しても一貫した態度で扱ってるっす。みんな平等にレンジャーとして扱ってるっていうか」
「それはそれで問題だと思うんだが。まあここが変人どもの巣窟としてながらく栄えようが、後々内部崩壊しようが俺の知ったことではない」

 確かにいい加減な兵士たちのたまり場にも見えなくはないが、そこをどうにかレンジャーたらしめてるのはきっとボスだ。
 プレッパーズの血が色濃くあるからこそに違いない。良い適当さがここにはある。

「ところでどうっすかクリューサ様、痛くないっすか」

 そこまでいったお医者様にぐぐっと指が押し込まれて言葉が途絶える。
 本人は少し厳しい顔で施術されてるが、痛くもくすぐったくもといった顔だ。
 かろうじて「ふう」と息を漏らしたところで効いてるのが分かった。メイドの手のひらがぐいぐい肩肉を押し伸ばしていく。

「…………いや、悪くない」
「そっすか。首と肩の凝りがえぐいっすよ、お医者様なのに不健康しかつまってないっす」

 あれだけ物言うクリューサも黙ったようだ、流石ロアベアだ。
 大人しくマッサージを受ける様子を邪魔しないように、俺は足元に置かれた荷物を見た。

「そう言えばナガン爺さんが俺たちあての贈り物を持ってきてくれたらしいぞ」
「お~、誰からっすか?」

 人間一人が両手で抱えて持てるような箱が幾つもあった。
 ご丁重に「プレッパーズより」「ダーリンへ♡」「ホームガード一同より」「ブラックガンズからクソ坊主どもへ」などと書かれてる。
 けっこうな量だが、ストレンジャーの面々に向けてあるのは確かだ。

「色々だ。今まで会った連中の分だけはありそう」
『こっちの箱はスティング自警団よりって書いてるよ、オレクスさんからかな?』
「マジでいっぱいだな……そういえばクラウディアとノルベルトはどうした?」
「……ん。ご主人、この箱の匂い……」

 さっそく開けようとしたが、この場にいない二人が気になった。
 ニクがプレッパーズからのボックスに尻尾をパタパタさせ始めるのを横目に、外を伺おうとするが。

『まあ! こんなところでもお野菜を育てているのですね!』

 窓から顔を出すとなんか聞こえた。
 基地の端っこのほうだ。兵舎から少し離れたところにちょっとした菜園があった。
 無駄に広いスペースを有効活用するためにわざわざ荒野で野菜が作られてるようだが、彩のない地味な植物が面白みを削いでいる。

『今は地味だがこれからさ。これまでは変異した植物で我慢してたが、こうしてブラックガンズから作物の種も来たんだ。ウェイストランドにいっぱいトマトを実らせてやるよ』
『以前からこのあたりでも水脈が見つかってどうにか水の供給ができたもんでね。少しでも食糧事前を良くするために俺たちでも農業を始めてるのさ」

 そんなささやかな畑の上で、レンジャーと民間人がせっせと種付けをしていた。
 見た感じは他の土地みたいに急速に作物は育ってはないようだ。
 けれども異世界から訪れし野菜はいつか先、ここでも実ってくれるはずだ。

『なるほど、過酷な地でも育つ作物をここに植えているのですね? いいでしょう、私も手伝いますわ基地の食糧事情に貢献するべくこの大地においもを孕めオラッ!!』
『おっおい何やってんだお嬢ちゃん!? 何勝手に変なの埋めようと』
『さらにもう一発! オラッ孕めッ!』
『プレッパーズめ! また変人増やしやがったな!』

 ……ついでにじゃがいもも。
 遠くでは周りの制止を振りきって、耕した土に気合を込めて芋を投げつける魔女の姿があった。
 お前じゃねえよ。ノルベルトはどこだノルベルトは。

「何してんだあの芋の魔物」
『りむサマは相変わらずだね……』

 芋のバケモンはさておき、反対側の窓に向かう。
 ごりごり肩を解すような大胆な手つきにクリューサがうとうとしていた。
 邪魔しないように首無しメイドの横を通り抜けると、ちょうど外を見た瞬間。

『まだまだね、足さばきが雑だわ』

 廃材で囲まれた野ざらしの訓練場が目について、大きな何かがすっ転んだ。
 あの逞しいアクイロ准尉のボディが何かと取っ組み合っていたようだ。
 周りにはレンジャーどもが興味津々に見ていて、筋肉だらけの長身が身構える先では――

『……く、っ……! なぜだ、俺様の攻撃が通らんぞ……!?』

 地べたから起きあがるノルベルトの姿があった。
 さっき転んだのはオーガの巨体だったわけだ。いやどういうことだ、思わず窓から身を乗り出す。

『確かにあなたの身体は鋼のように逞しいけど、筋肉の使い方がなってないわね』

 また二人がぶつかる。ノルベルトほどではない准尉の身体が構えた矢先、すべるような足さばきで前進。
 たいしてオーガはずさっと下がり、足取りのついでとばかりに飛び込んできた相手へ回し蹴りを放つ。
 本気の蹴りだ。あんなもん喰らったら……と思った矢先。

『そして体のバランスを雑に扱ってる。それじゃ私には勝てないさ』

 余裕なのか元々なのか、どうであれ硬い顔の女レンジャーは片腕を構えて前に出る。
 勢いがつき始めるころにボディビルダーさながらの肉体が割り込めば、一撃お見舞いするはずのノルベルトがあっけなく不発に終わり。

『なっ、うっ、おおおおおおおおおおおおおっ!?』

 受け止められた足を掴んだままの足払い。身体の質量を押し込むようなタックルを込めてオーガ一体分の重みがねじり倒される。
 蹴りの勢いすらも利用し、きれいに地面に打ち倒してしまったのだ。
 背中から床に飛び込んだところに、アクイロ准尉は「その気になれば仕留められる」とばかりにその首元に手刀で触れて。

『良い勝負だったわ。ここのレンジャーよりは立派だろうね』

 まるでナイフで首を掻っ切るかのような仕草の後、すました顔でノルベルトを起こす。
 こっぴどくやられた本人は悪くなさそうな顔だ。いい刺激に気持ちのいい汗をかいてにっこりしてる。

『……俺様ここまでやられたのは初めてだぞ。良き戦いであった、アクイロ殿』
『投げられたのも始めてかしら?』
『うむ、仕留められたのもな』
『ならその経験は素晴らしい糧になるはずよ。オーガというものにとらわれず、自分らしい動きを見つけなさい』

 オーガをぶん投げたとんでもない准尉はそれだけ残して去っていく。
 いい見世物に満足したレンジャーたちも散っていくが、いいトレーニングができたあいつはのしのし兵舎の方に歩き。

「戻ったぞ。良き訓練だった!」

 上半身裸のボロボロなオーガが戻ってきた。
 いい顔だ。結んだ金髪を解いてスッキリした様子でベッドに腰かけてる。

「なあ、あの准尉……ノルベルトぶん投げてたよな」
『……見間違いじゃないよね、ノルベルト君がやられてたもんね……?』
「フハハ、その様子だと先ほどの戦いぶりを見ていたのだな?」
「ちょうどお前が立ち上がるところからな、なんだあの筋肉お化け」
『だ、大丈夫……? 怪我とかしてないよね?』

 なんていうか、さぞやられたらしいがとても充実してそうだ。
 心配したニクが近づいていそいそと体を拭いてくれた。
 
「……ノルベルトさま、痛くない?」
「全然痛くなどないぞニクよ。アクイロ殿め、遠慮するなといったのにひどく手加減をするものだ」

 あれで手加減してたってのか? 嘘だろ?
 一体どこにオーガを生身で放り投げる人間がいるかって話だが、そこに本気じゃなかったっていう点を加算すればなおさらだ。
 「なんすかなんすか」とマッサージ中のロアベア……の生首がノルベルトをガン見するが。

「何があったんすかノル様」
「筋肉強めの准尉殿と戦ってたらしい。さっき見たらぶん投げられてた」
「わ~お。その人たぶん人間やめてると思うっす」
「ただいま戻りましたわ! これでこの基地もお芋まみれですの!」

 ばーんとドアが開いた。
 イモの化身だ。基地にじゃがいもを植えつけてとてもご満悦だ。

「私も戻ったぞみんな。少し周りを見てきたが遠くに向こうの世界の魔物がいたぞ、このあたりも変化が訪れてるようだな」

 ダークエルフも帰ってきた。小腹がすいたのかエナジーバーをもぐもぐしてる。

「おかえり、これで全員揃ったな」
「む、どうした? 待ってたのか?」
「いや、仕送りがきてるんだ。俺たちあてのやつがいっぱい」

 クラウディアが肩を解されてうとうとするクリューサに「どうしたんだこいつは」と気づき始める中、全員が揃ったので早速箱を開けることに。

「えーと、まずはプレッパーズ……」
『いろいろ入ってるね……あっ、マナポーションもいっぱい』

 さっそくボスたちからの贈り物を開いた。
 いろいろ入ってる。旅先で使えそうな小物やら弾薬類、それにアーツアーカイブやマナポーションも入ってる。
 他には――袋にたっぷり入った干し肉。干物の癖に重たいぐらい詰まってる。

「……サンディ様の干し肉……!」

 さすがにニクが食いついた。目をきらきらさせてよだれも出るほどに。

「あいつら、ニクの為に作ってくれたんだな……」
『わっ、こんなにいっぱい……良かったねニクちゃん、ずっと食べたがってたもんね?』
「ん、すごく嬉しい……食べていい?」
「食いすぎるなよ」

 いい贈り物をありがとうボス。
 次はキッドタウンか。開けてみると小さなケースに収まった新しい工具、幾つかの本、それとメモリスティックが数本だ。
 『戦友よ、いい旅を!』だとさ。ボーイッシュな美男……美少女のキス顔写真つきだ。

「ノルベルト、お前にドクターソーダだ」
「おお、いくらあっても良い物だ。嬉しいではないか」
「ハヴォック様、誰かさんのせいですっかりメスらしくなってるっすね~♡ あひひひっ♡」

 ハヴォック何してるんだお前。
 次はホームガードから。干したリンゴが沢山に『戦友ノルベルトへ』と書かれたこれまた大きなアーマーとプロテクターのセット。
 エグゾアーマーの装甲を剥がして手直ししたような防具だ。ちゃんとドクターソーダも添えられてる。

「ノルベルト、チャールトン少佐からXLサイズの防具がきてるぞ。好物も一緒だ」
「俺様用のか? それはありがたいぞ!」

 本人は大喜びだ。さっそくアラクネのジャケットの上に重ねている。
 それと集合写真もあった。『ガーデン』をバックにオークたちの楽し気な様子が閉じ込められてるが、よく見るとおかしい。
 手前のエルフと将軍殿の間になんか変なのが混じってる。なんかこう、棒を持った女王様が。

「なんか紅茶の妖怪写り込んでる……」
『チャールトンさんと合流したんだ、あの人……』
「あら、チャールトン卿にフロレンツィアちゃんが映ってますわ! ヴィクトリアちゃんも揃ってにぎやかですわね!」
「ガーデンの者たちも皆楽しくやっているではないか。戦友たちよ、俺様はちゃんと徳を積んでいるぞ」
「あの人本当に会いにいったんすねえ、あひひひっ♡」

 チャールトン少佐の顔つきは「なんでこいついるんだ」って顔だが、きっと俺に見せたかったんだろう。
 リム様と一緒に笑顔の軍曹を見送って次へ。ブラックガンズの品々だ。
 魔女様宛に小麦粉やらチーズ、調味料がいっぱい。それと料理本が何冊が入ってた。
 あとは『喋る短剣へ、元に戻ったその時に』とぶっきらぼうに書かれたノート。中身をざっと見ると南の料理のレシピがまとめてあった。

「ブラックガンズからも来てるぞ、ミコとリム様あて」
『ハーヴェスターさんからかな? ふふっ、元の姿に戻れたら作ってみようかな?』
「食材がこんなにも! それに本も! くっそ嬉しいですわ!」

 最後はスティングからだ。箱はかなり大きい。
 中には重量感たっぷりの品々が詰め込まれてた。黒いヘルメットや何かの部品、そしてクロスボウと大ぶり小ぶりのナイフがそれぞれ一本。
 書き置きで『スティング自警団一同より擲弾兵殿へ』とあり。

【アバタールもどきへ。自警団どもと一緒にこっちの世界の素材でお前さんのために兜をこしらえてやったぞ。ついでにその銃剣にとりつける部品も勝手に作った、良く生き良く戦え】

 ドワーフが作ったという『兜』はジャンプスーツにあわせた色合いだった。
 耳から顎まで守ってくれるフルフェイス式だ。原材料は不明だがところどころにあるがヘルメットの丸みに防御力をもたせてる。
 目元には横に伸びたバイザーが視界を確保してくれていて、ヘッドセットを併用するためのスペースも設けてある。

「スティングからは……いろいろだな、俺たちあてに武器やら防具やら届いてる」

 付属してきた部品には馬鹿でも分かるよう雑なイラストと一緒に取り付け方が説明されており、銃剣に装着して使うものらしい。
 『人を殴れそう』な形をして、ちょうどグリップに通すための穴がある。
 銃剣に通して金具で締めれば、手を守りつつ気に食わない敵をぶん殴れるナックルガードが完成だ。

『……ドワーフのおじいちゃんたちって本当にすごいよね。何でも作っちゃうもん』
「人の欲しいものをピンポイントで作ってくれるセンスもすごいと思うぞ。ノルベルトとクラウディア、ドワーフのじいちゃんから差し入れだ」

 クロスボウと大きなナイフはどうもクラウディアとノルベルト用らしい。

【アバタールもどきへ、お前のつれがクロスボウを欲しがってたからわしら作ってやったぞ。これすっごいぞ、飛ぶぞ、相手の頭が。それとこのナイフはゾンビみたいな医者とオーガの坊主用だ、男ならナイフぐらい持っとかんか】

 とドワーフらしい太文字で書き置きがあるからだ。
 滑車つきの堅実な得物が矢筒と共にあり、ナタと見間違えそうな直刀の刃物もオーガサイズの鞘と一緒だ。
 恐らくお医者様に向けたナイフもさぞ鋭そうな黒の刀身が患者を待っている。俺の銃剣より良く切れそうだ。
 最期を締めるコメントは『どうかクソ健やかに、ストレンジャーズ』だとさ。

「クロスボウだ! もしかしてドワーフどもか!」
「俺様の為に作ってくれたのか、ドワーフの爺様どもめ。感謝せんとな」
「んでクリューサ、お前にも仕事道具が届いてるわけだけど……」
「クリューサ様はお休みっすよ、お疲れみたいっす」

 クリューサ用のナイフを手に声をかけるも、本人は――寝てる。
 死んでるわけじゃなさそうだがよっぽど疲れてたんだろう。今は寝かしておこう。
 そうしてみんなでわいわい箱の中身を吟味してると。

「お楽しみのところ悪いが出番だぞストレンジャー。奴さんどもが来てくれたんだが」

 扉の向こうからダネル少尉の声が届いてくる。
 出番か。俺たちはその場にあるものをそれぞれ受け取って、早速出向くことにした。

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