魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

サクラメント・ステーション(3)

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「――戻ってきたみてえだぞ。揃いも揃っていい知らせって感じの顔じゃねえが」
「そんな感じじゃなあ。どしたんじゃ? やべーのおった?」
「良いニュースはなしだ。ステーション丸ごと陣地にされた上でテュマーどもがお待ちかねだった、んで急いで戻ってきた」
「人型のロボット……みたいなものが二体いました。イチさんたちが言うには"エグゾ"っていうらしいんですが……あれは何なんですか?」
「向こうでエグゾが歩き回ってたぞ。陣地は簡単な造りだが、けっこうな人数を押し込める大きさだったな。それなりに待ち構えてるはずだ」

 情報が新鮮なうちに帰ると、ちょうどレール上の片付けも済んだような顔色だ。
 結果、新しい荷物と黒いご遺体を乗せる三両目として生まれ変わったらしい。

「やっぱりテュマーがいたんだ……でも、エグゾ? 無人機とかじゃないよね?」

 こんな報告にミコの心配が真っ先に働くのもきっとブルヘッドのせいだ。
 無人のエグゾアーマーに襲われた思い出がどうもちらつくが、あれは違う。
 身動きが人間的で、あの内側のくぐもった声は中に誰かがいる証拠だ。

「いいや、中からテュマーの声がした。ちゃんと中身入りのやつみたいだな」
「テュマーが動かしてるんだ……そうだもんね、それくらいやってもおかしくないし」
「もう一つ気がかりなのは、ここらで事故ってたのと同じ格好のテュマーが奥に五人も十人も見えたあたりだ。こういうが部隊ごと感染してる感じだった」

 もっと言えば、カートを天井めがけて脱線させた犯人の出所も分かった。
 向こうにあったステーションを守っていた『軍人テュマー』の群れだ。

「はっ、まさかゾンビの兵士が俺たちをお出迎えってか。それよりお前らが好ましくなさそうにしてる"エグゾ"とやらに教えてほしいんだが、サイトウが言うには人型のロボットなんてもんがいやがるのか?」

 そこまで伝えるとタケナカ先輩が荷台に乗せられたご遺体を気にしてた。
 ついでにエグゾアーマーの意味すら知りたがってるので、前に撮影した一枚でも見せてやろうと思ったが。

「エグゾっつーのはな、機械で動くでっかい甲冑みたいなもんじゃよ。わしらフランメリア人的な感覚でいや『着るゴーレム』か、お前さんらの言うようにロボットってのが飲み込みやすい表現かもしれんのう」

 スパタ爺さんのタブレットが答えだ。
 スティングのどこかでドワーフ系のご老人に囲まれたエグゾが映ってる。
 戦闘でぼろぼろな外骨格を着て大はしゃぎな眼鏡のイケメン……女子がいた。
 銃口が裂けた20㎜口径の得物を勿体なさそうに抱えたまま、周囲の髭面に機械の構造とパワーを饒舌に伝えるような調子だ。

「そうだな、要するに電力でいろいろアシストしてくれる外骨格だ。エグゾアーマー、略してエグゾ。つーかこれハヴォックじゃねーかどういう場面だ」
「あのあとハヴォックのやつがいろいろ教えてくれてのう。わしらも着たかったんじゃが、またしてもこのドワーフボディが枷になったわ」
「この一枚だけでもあいつが何言ってるか大体わかるよ。ちなみに人が乗って動くとこんな感じだ、俺も乗ったことあるけど楽しいぞ」

 そこにもう一枚付け足した。PDAに映るキャンプ・キーロウの一コマだ。
 ガレージを前にエグゾを馴染ませる兵士たちの訓練風景である。
 カメラに気づいて乗ってくれた姿が冒険者の方々に伝われば目も真ん丸で。

「……ゾンビの次はロボットだなんて想定してねえぞふざけやがって。こんなもんがあるのは驚きだが、これほどヤバそうなのに銃向けられるなんて俺はごめんだぞ?」
「おい流石にでっかい銃持ったロボットとやり合うなんて聞かされてもないし心構えもできてないんだぞ! くそっ、無駄にカッコいいのが腹立つなこれ!」
「お、おお……!? これはパワードスーツとかいうやつだな!? なんというか心に刺さるデザインだぞ、日本人として!」
「関心してる場合じゃないでしょう、キリガヤ……俺もロボットと聞いて心は躍りますが、今は敵として向こうで待ってるんですよ? それも二体です」

 熱い男キリガヤはさておき日本人顔には敵に回ったロボットが実に嫌そうだ。

「動いてるエグゾを拝める日が来るなんてな……中身片づければ俺も乗れるかね?」

 その点、外骨格の価値が分かるタカアキは乗りたがってるようだ。それどころじゃねーだろとどついておいた。

「ああ乗れるだろうな、乗りたきゃあいつらから譲ってもらえよ」
「だって一度乗って見たかったもんああいうの!」
「私が気がかりなのはその"エグゾ"というのがこちらにとってどれほどの脅威なのかだ。前に建物の地下に無人兵器がいてひどい目にあったが、それと同じ類なのか?」
「いや喜んでる場合じゃないですよねタカアキ君!? またマシンガンで狙われるとかセアリさん絶対嫌ですよ!?」 
「デザート・ハウンド……だっけ? あんな感じのが二体もいるって思えばいいの? まーた依頼の難易度急上昇だよ……」

 どうもエグゾは『地下とロボット』にいい思い出がないミセリコルディア三名の琴線にも嫌な触れ方をしてしまってるらしい。
 そんな具合の途中で「ふむ」とクリューサが少しばかり考えた様子で。

「今手元にある情報から推測するに、そいつらは都市に配備されていた戦前の陸軍の連中に違いあるまい。おそらくエグゾと歩兵をあわせた市街地向けの部隊のことだろう、律儀に除隊しないままテュマーになったようだがな」

 テュマーの身なりについてそれなりの答えが浮かんだようだ。
 ということはさっき見かけたやつらは150年もお勤め中か、ご苦労なことで。

「……でもエグゾって動力が必要っすよねえ? なのにまだ動いてるんすか?」

 そうだ、ロアベアと疑問が重なった。あいつらはなんでまだ稼働してるんだ?
 テュマーにバッテリーを交換する脳と充電手段があれば話は別だが、あの外骨格は間違いなく稼働してたよな?

「俺もちょうど気になってた。あれは電力がないとただの人型の棺桶だぞ? とっくの昔に保証期間と一緒にバッテリーも切れてるはずだ」
「充電のアテなら都合よく俺たちの足元にあるだろう。使い放題の奴がな」

 対してクリューサは単純な様子だ。
 トンネルを這う浅いレールが答えだと紹介してくれた。

「あーそういうこと。ちょうど俺たちの下で電力が走ってたな」
「電力なら作られてるし運ばれてるようっすからねえ、それなら電池切れの心配もないっすね? あひひひっ」
「おそらくはエグゾ用の充電ステーションが設置されているのかもな。戦前の軍もそのような機材を保有していたはずだ」

 ここに電力が巡ってるからには、ああやってエグゾを動かす理由が何かしらあってもおかしくはないそうだ

『あんたら、大事なのはテュマーの不気味さにあれこれ話し合うことじゃないだろ。今大事なのはそいつらが我々で対処できそうな相手なのかってことだ』

 けれども銃座についたディセンバーの一言こそが重要だ。
 最低でもエグゾ二体が保証されたあの"陣地"に対処できるかどうかなのだが。

「その点じゃがわしらは50口径ぐらい飛んでくるつもりで準備してきたぞ。流石に機関砲でも積んだ無人兵器でもいやがったら困るが、確認できたのはテュマーにエグゾ程度かの?」

 スパタ爺さんは引っ込む気ゼロだ。カートから得物をどっしり持ち出してる。
 つるっとした質感に黒白二色が落とし込まれた近未来的な造形だ。
 拳銃型のグリップといい伸縮式の銃床といい金属的な心地が感じられない。
 いかにも銃身を表現する長い長四角柱が俺たちに何かの発射口を訴えてる。

「デザート・ハウンド一匹分が入るには窮屈な充実ぶりだったぞ。今のとこ分かるのはテュマーがいてエグゾも待ってる陣地がトンネル側に向けられてたことぐらいだ」
「中央を守るような感じでレールに向けてバリケードが作られてました。逆にこっちが身を隠せる場所も幾つかあったので、攻めるなら都合がいいかもしれません」
「足音の混ざり具合や守りの規模からして十は余裕で超えているぞ。エグゾは二体で間違いないだろうが、奥の方にもまだまだいると思うべきだぞ」

 改めて向こうの状態を伝えればドワーフたちは単純そうに顔を見合わせて。

「イチ、お前さんならやれるか?」

 さも頼もしそうに人を見てくれた。
 そのついでに小銃後部のハンドルを引いて小さな収納口を解放したようだ。
 親指ほどに太い四角が捻じり込まれると、電子音と共に照準と残弾の状態が浮かぶ――レーザー銃か。

「スティレットで一網打尽とか考えてたけど無理そうだな、使うにも狭すぎてが怖い」
「うむ。これだけ狭けりゃ狙いが少しでも狂っちまえば大変じゃろうな、爆風と破片が敵じゃなくわしらの方に飛んでくることになりかねん」
「それにここの構造やレールにダメージを与えるのも爺さん的にもあれだろ? だから向こうのバリケードを逆に利用して直接仕留める……ってやり方が浮かんでる。真っ向からお立合いして勝てる相手じゃないぞありゃ」
「そのためのこの戦車モドキじゃ。こいつで敵の攻撃引き付けとる間にやれんか?」
「懐に潜り込む時間をくれればやれる。できるか?」
「なあに、はなっからテュマーなんぞ100は相手してやる気概よ。んじゃ突っ込んでやらあ」
「よし、カートの突撃に合わせてやるぞ。ところでそれレーザー銃?」
「あっちの世界の土産モンじゃよ、今日来たのはこいつをぶっ放したいのもある」

 決まりだ。この装甲まみれのカートを突っ込ませて敵陣に殴り込む。
 そうと決まれば他の連中の顔次第だ。
 俺は手持ちの火器を拳銃から突撃銃まで改めつつ。

「このクソ頼もしい乗り物で敵の目の前まで突っ込んでもらう。降車したら向こうの陣地にへばりついて逆に利用してやって、そのまま全員ぶっ殺せってノリだ。やりたい奴だけどうぞ、無理強いはしないぞ」

 転移させた責任を勝手に負うべく一台目の牽引車に乗った。
 でも意外だ、日本人顔もぞろぞろついてきた。

「爺さんには戦わんでいいって言われたがな。報酬も支払われるのに装備もタダでくれて、その上でただついてくだけなんて俺のプライドが許さねえ。これも仕事だ」
「いつだって俺たち冒険者は仕事を選べないのさ。ゾンビだろうがロボットだろうがやるぜ、お前と一緒に依頼こなしてからどうもスリルが足りねえ」
「お爺ちゃんたちやお前だけに危ない目に合わせるのは不公平な話だからな! テュマーとやらがなんであろうと相手になってやるぞ!」
「せっかくアドバイスをしていただいたので生かすつもりです。ついていきますよ」

 と、タケナカ先輩からサイトウまでテュマー駅で降りるつもりだ。

「わたしも一緒だからね? みんなのこと、サポートするから」
「不気味極まりない敵だが、都市の脅威となるようなものを前に退くような真似は私の選択肢にはない。行くぞ」
「イチ君とお爺ちゃんたちいるしなんとかなるでしょう。乗車しますよフランさん」
「エル気合入ってるねー、リーダーたちがそういうなら団長も行くよ。乗った乗ったー」

 ミセリコルディアもフルメンバーだ、当然のようにぞろぞろ座り始めた。

「ご主人、みんな来てくれるみたいだよ」
「うちだとエグゾ相手は分が悪いっすねえ……露払いはお任せあれっす~♡」
「敵に突っ込むのは今に始まったことじゃないからな。それにこういう時はお前らのそばにいた方が安全なものだ」
「私たちのいつも通りだな! いいぞ爺さんども、敵に向かってくれ!」

 ストレンジャーズも乗り込めば前から「おう」と気前のいい返事だ。

『よーしいいかお前ら! ぎりぎりまで近づいてから加速するからな! 停車したら散開してまず敵の射線から外れろ、いいな!』

 あとは中にいる運転手ドワーフが言う通りだ。
 カートがまた動き出して、早いともいえない足取りが俺たちを運んでいく。
 銃座の方からも重機関銃の装填音も聞こえてくれば。

「聞け。どうせこんなシチュエーションだと思ってこれを作っておいたぞ」

 背後の二両目でクリューサが「こんなこともあろうかと」を取り出した。
 こぶしほどのガラス容器を針金で棒に固定した何かだ。
 柄付き手榴弾にも見えるし、封じられた黄色の液体が余裕なくちゃぷちゃぷしてる点から「ぶん投げろ」とばかりだ。

「なんだそれ? 意識の高いやつが作った手榴弾か? お洒落だな」
「テュマー相手を想定して作った手投げポーションというやつだ。こいつが割れると着弾地点に電撃と閃光をまき散らすぞ」
「お医者様の口から出てほしくないぶっ飛んだセリフが聞こえたぞ」
「じゃあもう一度言ってやる。歯車仕掛けの街にいたころに作った『ライトニング・ポーション』だ、原材料はマナポーションとフランメリアのふざけた植物だ」

 そんな説明も込めて周囲に『手投げポーション』が押しつけられた。
 タケナカ先輩やタカアキ、ロアベアとクラウディアに渡って計四本のお薬だ。

「面白いもん作ってたみたいだな。ところで俺の分はどうした?」
「あいにく品切れだ、そもそもお前のでたらめな力をぶち壊す才能が働くかもしれんだろ」
「魔壊しお断りか、俺っていつもこういう時損するな」
「いいか? 今配ったやつらに手短に言っておくが要は手榴弾だと思え。先端の容器が割れると反応を起こして、人体を行動不能にさせるほどの電撃が一瞬まき散らされる。心臓と脳が健やかなままでいてほしければくれぐれも自爆するな」

 医者の口からなめらかに出てほしくない説明によればストレンジャーお断りの代物らしい。
 投げてみたいけど『魔壊し』が効く薬かもしれないわけか、何を作ったんだかこの天才は。

「て、手投げポーションだって……? んな物騒な響きのポーション持ってくるとか流石は錬金術師ってやつだな……しかも見た目が手榴弾みたいじゃねえか」
「デザインが歯車仕掛けの都市って感じだな、お洒落~。こいつを患者さんにぶん投げればいいんだな、任せろよ先生」
「お~、現代とファンタジーが混ざったようなデザインっすねえ。これうちのお部屋に持ち帰っちゃダメっすかクリューサ様」
「何度か使い心地を試したがこいつはすごいぞ、割れた場所でちょっとした雷が起きるんだ! でもすごく眩しいから目は逸らすんだぞ、いいな!」

 選ばれし四人も戸惑やら関心やら混じった複雑なご様子だ。
 きっと俺が「いいなあ」と見てるのがバレたんだろう、ロアベアが柄付きポーションを手にニヨニヨしてきた――覚えてろ。

「材料費の観点から今俺がしぶしぶ配ったことも忘れるなよ。あらぬ方向に投げて無駄にするやつと、俺たちの足元に落とした馬鹿には二度と使わせんからな」
「などと言ってるが、本当はお前たちが心配で急いで作ってくれたんだぞ! 素直じゃない男だが許してくれみんな!」
「もう間もなくじゃから楽しいお話はそこまでにしとけ!」
『200切ったぞ! しっかり捕まって降車準備しろお前ら!』

 そんな処方薬が回ったところでカートの速度がぐんっと上がる。
 ドワーフなりの警告に従って速度が倍に、そのまた倍に、牽引車ごとお構いなしにトンネルを走り抜けていき。

「――お前ら! 陣地は向かって左側だ、懐に飛び込んで射線を切れ!」

 スピードを全身に感じる中、得物に手をかけて装甲越しに前を見た。
 さっきこの足で見てきたばかりの光景へと車体は突っ込んでいき。

『おいおいおいおいほんとに陣地なんて作りやがって!? ご乗車の皆さまは安全になり次第降車だ! 援護する!』

 きっと銃座のディセンバーにもあの光景が見えたに違いない。
 トンネルの終わりに触れてすぐ、カートがぎりっと不快な音と感触で鈍った。

「……警告! 非感染者を感知!」
「接敵中! 繰り返す、接敵中! 応戦せよ!」
「再集合! 再集合!」

 トンネルを警戒するような陣地の中から黒い姿が数々騒ぎ立てるのが見えた。
 やっぱりか、軍隊らしい実戦向けの姿をしたテュマーどもだ。
 レールを沿ってそいつらの斜めへと突っ込むことになれば当然――

*DODODODODODODODODODOM!*

 盾代わりの車体に容赦のない五十口径が襲い掛かってきた。
 ぱぱぱぱっ、と小口径弾も続いて金属的な衝撃がほとばしるも。

『行け、早く降車しろ! 土嚢に隠れて射線を切れ!』

 負けじと銃座がどどどどどどっ、と強烈な銃声をぶちまけはじめる。
 しまいに車載機銃も連射を織り交ぜての堂々たる撃ち合いだ。

「いけいけいけ! とにかくあいつらから姿を隠せ! 陣地を逆に使って張り付け!」

 コンクリートに足がつくなり、土嚢に寄りつつ敵の集まりにばら撒く。
 ぱきぱき撃ちまくる合間に敵が見えた。五十口径弾によろめく程度のエグゾだ。
 そいつらはお返しとばかりに戦車モドキを重突撃銃で迎え撃つ――クソうるせえ!

「ま、マジで撃ちやがったぞあのバケモンども!? 地下でんなもん撃つんじゃねえ!? 止まるな走れ!」
「撃たれてるぞ!? なんでファンタジー世界で銃に撃たれなきゃなんねえんだ死んでたまるかくそくそっ!」
「あっ足を止めるな!? 敵の陣地まで駆け込んで姿勢を低くするんだ!」
「ひっ、ひぃ……!? 一体何を撃ってきてるんですかあれは!?」
「みんな、とにかく左側へ向かって射線を切って……!」
「くっ……容赦のない奴らめ!? 引き受けるといったがドワーフたちは大丈夫なのか!?」
「まずはセアリさんたちのこと気にしましょうね!? うおおおおお死んでたまるかあああああ!」
「スピードが命だよ! ひとまず土嚢に隠れてやり過ごすよみんな!」
「ご主人も早く……!」
「おー、めっちゃ撃たれてるっすねえ。銃持ちいっぱいなのは嫌っすようち」
「改めてウェイストランドのひどさが身に染みたな! 銃社会はろくでもないものだ!」
「懐に食いついたらすぐ反撃だ! 備えるんだぞ!」
「まーた地下で重機関銃かよふざけんなよ! 先行ってんぞイチ!」

 そうしてる間にも背中でみんなが左へ駆け抜けるのが分かる。
 弾倉一本分をばら撒き終えると、誰もが敵の陣地に逆に張り付いてた。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「たんぱく質を検知! いただきます!」
「非感染者を検知! ヤミー、ヤミー、ヤミー!」
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 誰もが土嚢の裏にへばりついた時、奥からたくさんの電子音声も聞こえた。
 地下の広まりにとても嫌な光景が待っていた。
 薄汚れたステーションに揺らめく黒、そして数え切れないほどの青い瞳だ。
 子供か大人か、肉体労働者か頭脳労働者か――そんなのどうだっていい、様々な身なりのテュマーたちがいるってことだ!

「どこにこんな数隠してやがった……!?」

 反射的に手が動く。弾倉を交換、装填と同時に迫る黒さをぶち抜く。

「なんだこの数はぁぁぁ!? やべえぞ応戦しろ! めっちゃいるぞ!」
「みんな、テュマーの群れが来るよ……!」

 タカアキとニクも続いた、九ミリとダブルオーバックの散弾がどこかの誰かをばたばたなぎ倒す。
 だが数が多い。俺たちが咄嗟に張った弾幕以上に飛び込んでくる。

「非感染者は死ね! 警告する貴様は戦いから逃げようとしているつまり死ね」
「う、お、うおおおおおおおおおおおおおおおおお……!?」

 傍らで戦車モドキとエグゾの撃ち合う中、とうとう最初の悲鳴が上がった。
 タケナカ先輩だ。バリケードをよじ登ってきたテュマーに圧し掛かられてる。 
 助けようと狙いが動くが、厳つい顔が握った剣の柄でどかっと横顔を殴る。
 そいつが咄嗟の殴打に怯めばぐるりと攻守交替、馬乗りのまま頭に剣先をねじ込んで倒したようだ。

「――ポーションをぶん投げろ! 俺が援護する!」

 坊主頭の先輩が無事なのを知れば、黒い群れの駆け足はすぐそこだ。
 ポーションを投げ込む隙はない――トリガを絞った。

*PAPAPAPAPAPAPAPAKINK!*

 5.56㎜をばら撒いた、誰かが転んで巻き込まれた後続がばらばらもつれた。
 そこに『投げるポーション』を手にしたやつらが続々踏み込んで。

「クソッ! どうにでもなりやがれ! 投下しろ!」
「あー困ります患者様! お薬をどうぞ召し上がれオラッ!」
「クリューサ先生からのお薬っすよ皆様ぁ~♡」
「みんな、広げるように投げろ! ばらばらに投げて範囲を大きくするんだ!」

 柄付きのそれが群れる人型へと放り込まれた。
 ちょうどめくら撃ちで散ったところへ柄付き瓶が飛び込んでいき――

*pPAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAMm!*

 小口径の銃声を何倍にも広げたような心臓に悪い破裂音が立ちあがる。
 強烈な黄色い光も伴っていた。地下空間が痛いほど眩しく染められて、咄嗟にかざした腕すら一瞬見えなくなるほどだ。
 耳と目も痺れるようだ。伝わる刺激の中でどうにか次を見れば。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!?」
「緊急事態発生倫理観がショートとととととととととと」
「あががががががががががががっ」
「警告警告電撃を感知ちちちちちちちち」

 そこでテュマーどもがいた。
 黄色い電撃が絡み合う蛇みたいに立ち込め、それに巻かれたやつらがびくびく硬く身悶える。
 不健康な感電の仕方が数十はあろう数を派手に転ばせて、急な閃光にやられたのか目を抑えてお先真っ暗に戸惑うやつだっていた。

「……おいおい、なんてもん作るんだよクリューサ」
「あの手の患者にはおあつらえ向きだろう。俺は安全な場所で高みの見物とさせてもらうからな」
「どうぞごゆっくり」

 適切な処方に感謝して倒れた敵に突撃銃を撃ちまくった。
 肝心の本人はぴったり土嚢について「どうだ」と俺に得意げだ。
 おっかない先生め。遮蔽物を乗り越えて鈍った敵の中へ突っ込ん
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