魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

ごうごう響く地下への備え

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 アーロン地下交通システム。
 タカアキの情報を交えるなら、あの世界では都市の交通事情を良くしようと地下に道を見出したらしい。
 「上か下か」に対して地下を選んだ末、地下鉄より早くてお安いシステムができた。
 大型自動車一つ分ほどのトンネルをまっすぐ伸ばした地下ネットワークに、レールに沿った電気車両を時速200kmもの勢いで走らせる仕組みだ。

 それが向こうで普及してた証拠は、この地中に作られた店舗なのかもしれない。
 だけどこうして剣と魔法の世界に転移して『混沌都市クラングル』の具合を強めたなんてひどい話だ。

「でな、いろいろ調べたんじゃが……前にも話した通り、トンネルは中途半端に転移しとるようでな。北へ伸びるやつは中途半端に途切れとるから問題ないんじゃが、そうなると南側に伸びるやつがなあ……」

 そうして案内されたのは、俺が最初に足を踏み込んだあの駅のような場所だ。
 帰還組のやつらが既にそこで身を固めていて、土嚢だとかで築かれた簡単な陣地が南に警戒してる。
 地下の歩道橋で留まると爺さん――『スパタ』は太い指を向こうにあわせて。

「ほれ、向かって二つトンネルがあるじゃろ? 右が南へ下るやつで、左がこっちに上ってくるやつじゃ。つまりここ以外繋がりはないんじゃよなあれ」

 南へ続く二つのトンネルと重なった。
 縮小した地下鉄みたいな様子だ、でも敷かれたレールも浅ければ穴の幅狭さもずいぶん小さい。

「気をつけなきゃいけないのが南ぐらいなのはいいニュースってことでいい?」
「通じる先は『さくらめんと』とかいうどっかの地下ステーションらしいんじゃが、まあ案の定ここと同じようなもんが転移したってのは確定しとる」
「ワオ、もう一つ駅があるなんてお得だ。快適に行き来できそうだな」
「壁の外から一瞬でクラングルじゃよ、こんなすげえの全部剥がしてうちの里に運びたいぐらいじゃ。ただなあ……」
「ただ?」
「まさにその向こうの駅が問題なんじゃよ。なんかこう、地上にある構造も一緒くたに転移しとるみたい」
「おまけつきかよ、お得極まりないね。じゃあなんでそこまで分かったのかも聞かせてくれ」
「その証拠はお互いを繋げとる送電システムじゃな」
「送電システム?」

 ここの正体を掴んだり、という顔にはちゃんとした理由があるそうだ。
 そう言われて更に続けば南行きのレールまでぐいぐい案内されて。

「まずな、このずいぶん頼りないレールがあるじゃろ? こいつはこの『EVカート』を進ませるための足掛かりなのは見てわかるよな?」

 床の平たさに置かれた白い車両をちょいちょい触りながら尋ねてきた。
 車とも電車ともいえない中間的存在が四つの車輪を誇らしげに晒してる。
 俺たち現代人からすれば、中途半端に組み立てられた自動車に見えなくもない。

「補足しとくけど、このEVカートってのがレールの上を走る車両だぜ。ここの管理システムでお客様を自動で運ぶように設定されてるから事故は……まあ起こさないはずさ。んで――」

 タカアキの説明も混じれば、スパタ爺さんの頷きに調子のよさは続いて。

「爺さんが言いたいのはこういうことだ、こいつはレールでもあって、電力を送る送電網みたいな役割もしてる。どっかで作られた電力が地下スーパーに送られる役目にあれば、このEVカートも上を走ってりゃ自動で充電される仕組みなんだよ」
「そうなんじゃよ、すごくね? しかもこれ、150年以上たっとるのにほぼ劣化せずに残っとるんよ……」

 ウェイストランドの無駄に高い技術力が明かされた。
 確かにレールはくすんですらいない、新品同様の輝きは今なお現役を訴えてる。

「電力運ぶついでにこの自動車だか電車だか分からない乗り物を導く役割だったのか。よくまあ長生きしてることで」
「そんなすげえのがこうして健在なのは俺も驚きだな。だが待て、電力を運んでるってことはだぞ……?」

 そこへタケナカ先輩の厳しい目つきが向かってた。
 目には目でついていけば、乗り場の中央まで交差してるレールがある。
 問題はこれが南にある「何か」と繋がってる点だ。

「……もしかして電力を作ってる場所が、向こうにある?」

 ミコがそう言った――その通りだ、供給元がある。
 こんな疑問にスパタ爺さんの顔には単純明快な答えがいっぱいで。

「色々調べて分かったんじゃが、ここからおおよそ二十キロメートル先に『サクラメント・ステーション』って駅があるみたいでのう。資料によりゃその地上でブラックプレートを使った太陽光発電システムがあって、そいつでここの電力の一部を賄ってたようじゃ」

 脇に抱えてたタブレットの画面をぱっと見せつけられた。
 小難しい図解……を親切にも分かりやすくした地下システムの構造がある。
 トンネルが時々のゆるいカーブを挟んで、長い道のりを南へ伸ばしてるようだ。

「電力をおつくりになってる場所があったわけか。だからここは明るいのか?」

 そうか、ここが明るいのも壁の外で電力を作ってる場所があるからか。
 俺もみんなもそう思ったに違いないが、スパタ爺さんは否定気味の首振りで。

「いんや、管理システムあれこれいじって分かったんじゃが、電力の生成がストップしとる。繋がっとるどっかのステータス的には「おんらいん」らしいがの、何かが太陽光発電を遮っとる」

 ファンタジー世界に来てしまったに十キロメートルほどが拡大された。
 見て分かるのは、伸びたレールが黄色と黒色の点滅で電力不足を訴えてる様子だ。
 遠い向こうの地上に何かがあるが、何か不具合を抱えてるってことか。

「何かあるのは間違いねえって分かったのは嬉しいけどな。だったらどっから電力がおいでなすってるんだ、爺さん?」

 坊主頭の先輩の申す疑問はもっともだ。
 じゃあ俺たちのいるこの明るさはどこからって話である。
 ところがスパタ爺さんは待ってました、とばかりにまた歩き出す。

「タケナカの、そいつがイチのいってたの正体じゃよ。電力のストックが切れて、ここで発電機がずっと動いとるだけの話よ」
「発電機だって? んなもんがここにあったのか?」
「うむ、いざという時のために備えてあったらしくてな。それがすごいんよこれ」

 地上へ続く階段の隣までついていった。
 すると壁に【関係者以外立入禁止】と設けられたありきたりな警告のご案内だ。
 頑丈な扉と電子ロックが面会謝絶を望んでるが、背伸びしたドワーフに解かれた。

「ほれ、あそこにあるのがそれじゃ。通称【リキッド・ジェネレーター】とか言う代物でな、要するにえらく高性能な発電設備なんじゃけどあれ」

 そして150年モノの灯りが誘う通路を少し進んだ先だ。
 それはもう得意げな様子で「あれ」を手で紹介された。

 ごうごう。

 厨房の床下を通したものよりもずっと濃い唸りが、部屋いっぱいに響いてた。
 一目見て――音の発生源はひどく大きかった。
 金属の土台の上で、人一人の高さほどは保証された円筒形が横たわってる。
 幾つも接続された太いケーブルや排気管が訴えるには、これが発電機らしい。

「……デカいなおい。俺の職場の真下にこんなんあるとは思わなかった」
「……すごく大きいね、こんなものがパン屋さんの地下にあったの……?」

 ミコと一緒にあっけにとられる大きさだが、その音は見た目の割には穏やかだ。
 こうして話す余地があるほどの音量でずっと電気を生み出してるそうだが。

「ワーオ、リキッド・ジェネレーターか。こんなもんあるとか運良すぎだろ、すげえもん転移しちまったな」

 その巨大な様子にタカアキが珍しく関心してた。
 スパタ爺さんのドワーフ性も「わかっとるじゃないの」と関心気味である。

「お前さん、こいつの良さが分かっとるみたいじゃの」
「あっちの世界じゃたいした代物だろ、最終戦争直後にその価値が跳ね上がったすげえやつだ。そうだろお爺ちゃん」
「何まで知っとるようじゃないの。その通り、こいつは雑食性のくせしてとんでもねえ電力生む機械じゃ」
「ガソリンに軽油どころかバイオディーゼルに、アルコール度数70度以上の酒に食用油すら無理矢理燃やしてとんでもないエネルギー効率を叩きだすオーパーツだったな」
「都市一つ分の文明的な暮らしを二十四時間賄えるぞこりゃ。そのくせこうも健在なんじゃ、チートじゃよチート」
「じゃあクラングルもいけるんじゃね? すげえの来ちゃったなあ、お兄さん感激」
「うむ、いけちゃうかもなあ……。なんでわしらの里に転移してくれなかったんじゃ」

 二人して価値が分かるせいだろう、稼働中の姿に満足そうだ。
 つまりこいつが今の地下の電力を生んでるらしい。
 ご苦労なことに150年経ってもなお健全なご様子で勤務中である。

「こいつが何でも燃やしてそんな馬鹿げた発電量を叩きだすだって? 信じられねえぞ……? 向こうの技術力はどうかしてやがる」

 すごさの分かるタケナカ先輩も驚きを隠せないみたいだ。
 ジェネレーターの形をじっくり追い出したぐらいで、そこへついていくとある物にぶち当たった。

「人の職場の下にこんなもん転移させるなよ……で、この横についてるのは燃料タンクって感じか?」
「そうだろうな、まあ表面に【燃料容器】だとかご丁重に注意書きが書いてやがるんだからその通りだ」
「これがかよ……何リットル入るんだ?」

 一緒に見上げる先で、その発電機なりに巨大なタンクがぴったりくっついてた。
 太さも高さも天井ぎりぎりまで伸びて、わざわざ階段が備え付けられるほどだ。
 手すりの古ぼけた書き置きが【ドーナツ食いながらフィルター点検すんな死ね】とその昔を表現してる。

「ファンタジー加減に驚いた次は、転移してきた地下交通システムにリキッド・ジェネレーターか……お前はいつまで俺を驚かせれば気が済むんだ?」

 誰かの言う「大層な代物」にくいついたのはお医者様もだった。
 タンク干渉にご一緒しつつ、タカアキほど知ってそうな様子で珍しがってる。

「またやっちゃったごめんってこいつに謝ろうか?」
「それはお前の勝手だが、俺が気になるのは二つだ。この世界には不釣り合いなほどのテクノロジーがあって世の中が心配だということと、こいつを転移させるのに何を対価にしたかという疑問だ。気にならないか?」
「それって質量保存の法則だとか小難しい話とか混ざっちゃう? 悪いけどパスで」
「お前の図太さが羨ましいぞ。だがこいつがあればクラングルが一気に現代文明レベルに進化してもおかしくないのは確かだ」

 この発電機は医者の賢さでもそう言えてしまうぐらいヤバイらしい。
 するとスパタ爺さんがタンクの直径をごぅんごぅん、と叩き始めて。

「メンテナンス用の機材やらも丸ごとあるんじゃからな、もうわしら大喜びよ。なんとしてもここの調査で成果を出して【ドワーフ地下街】作っちゃうもんね」
「個人的にここにドワーフの住まいを作ろうとしてる方がよっぽど図太いと思うぞクリューサ」
「この手の技術を保持するならこいつらがうってつけだろうが、一族揃ってこの世界に技術革新でもしでかすつもりか?」
「心配せんでいいぞ、別にこいつで近代化させるじゃとかこの世に革命起こすとかそんなつもりないし。こいつにあやかってわしらの別荘みたいなもんを作るだけじゃしセーフ――ほんとははぎ取って里へ持ち帰りたいわ、畜生め」
「どんだけ欲しいんだよ。でも見た感じバラせそうな外見はしてないぞ」
「残念だがこの手の機械は一度設置したらほぼ動かせないような欠点を抱えてる、よって分解して持ち運ぶというのは絶望的な選択肢だ」
「そうなんじゃよ……これ、もうひとたびその場に置いたら梃子でも動かせんようになっとるのよ。これ考えたの意地の悪いやつじゃったのかってレベル」

 まるでそこに液体化した夢でも詰まってるとばかりにすげえにっこりだ。
 店の心配ごとがやっと掴めて安心である、職場の真下にこんなのあっても困るが。

「爺さんたちのことは信じてるからそういうのはどうでもいいけど、奥さんにこれ見せたらどんな顔するかがすっごい心配」
「ジョルジャのやつか? ドワーフ総出で店の保全やら保証してやるって約束しといたから「お構いなく」じゃとさ」
「笑顔で引き受けた様子がなんとなく浮かぶよ。でも職場の真下で高度なテクノロジーが元気に働いてるとかなんかやだ」
「事故なんか起きんし起こさんから心配事には入らんと思え。それよりもっと気にするべきはトンネルの先じゃからなお前さん」
「俺の仕事場の足元の心配よりも?」
「パン屋に染まりすぎてわしなんか心配」

 人様の職場の地下に近代文明丸ごと一つっていうのはともかく、ここでの最もたる心配はだ。
 発電機の横で、コンクリートに貼られた紙に【アーロン送電システム】とある。

「……サクラメント・ステーション。ここに俺たちの好きになれないやつらがいるかもしれないってか、つまりどうせテュマーだ」

 地下トンネルを南下した先にEVカートの発着所があるようだ。
 経験上、屋内で電気が通ってれば黒くて電子的なアレがとりあえずいる。

「ここにもいたんだし、いてもおかしくないよね……テュマー」
「ぼくもあいつらがいると思う、だってここにもいたし」
「だよなあ……またでかいのとか出たら大当たりだな」
「イチ、俺はこの世界にきてようやくテュマーと縁を切れると思ったがお前のせいでまた台無しだ。いたら責任をもって片付けるべきだろうな」
「やつらはフランメリアでも元気みたいだな。私の出番か? やつらなら殺し慣れてるぞ」
「幼馴染も忘れるんじゃねえぞ、俺も一種の原因みたいなもんだろ? しかしまあクラングルの地下がおもしれーことになってますこと」

 俺どころか短剣に犬に医者にダークエルフまで脳にテュマーがちらついてるようだ。
 パン屋の下にあんな悪趣味極まりないのを通らせるなんて言語道断だ、今後の人生のために片づけなければ。

「ストレンジャーズは話が分かるのう。わしらも絶対おると睨んで攻め込む準備しとったぞ」
「準備万端な感じか?」
「いつでもな。ここはわしらの故郷フランメリアじゃ、ホームグラウンドに立ったドワーフの恐ろしさを叩きこんでくれるわ」
「そりゃ頼もしいことで。なんていうか楽しそうだな爺さんたち」
「あれから面白れえのいろいろ作ったもんね、試す相手が中々おらんくて退屈だったもんよ」

 そしてここには準備万端とばかりに得意げなドワーフもいる。
 ということは、ようやくトンネルを調べる準備ができたわけか。

「……何度か耳にしてたそのテュマーってやつは、白き民とはまた違うバケモンみたいだな。聞けばゾンビみてえだが」

 スパタ爺さんにまた「ついてこい」をされていると、タケナカ先輩もあの黒い奴が気になってるらしい。

「なあに、素材そのもんは人間じゃし白き民よか弱いさ。ただあいつら、こっちでも銃だの戦車だの普通に使いおるからな」
「……戦車? おい、どういうことだ爺さん」
「機械に支配されてそう言うのを扱う手立てを無理矢理叩き込まれとるんじゃったかの? まあそんな感じで兵器も使えば計画的な戦い方もする、ゾンビにしちゃ上等なもんさ」
「ゾンビが戦車に乗るだなんて聞いてねえぞ、冗談だろ?」
「要は噛まれてもお友達にならない代わりに文明の利器でぶっ殺してくるゾンビだ。俺も戦車乗ったやつと遭遇したことがあるけどやばかった」
「プロテクトのかかってない電子機器に感染するナノマシンで化けた人類様だよ、タケナカパイセン。身体に電子制御するようなもん詰め込んでなきゃ同類にはならねえから大丈夫大丈夫」
「いや、そういう心配じゃなくてだな……!? 元人間だってことは驚きだが、そんな賢いゾンビだなんて初耳だぞ!?」
「戦車ぐらいじゃったらイチがおるから平気平気、おったら鹵獲しといてくれ」
「簡単にいいやがって、でも確実にぶっ壊す自信ならあるぞ」
「おい、今お前なんていった? 戦車相手にぶっ壊すだとか簡単にいいやがったぞこいつ」
「こやつはな、向こうじゃ大砲抱えた物騒な渡り鳥とか上官に言われとるんよ。擲弾兵の奴らめ、中々洒落た物言いするじゃないの」
「まーた変な名前増やしやがって、グレイブランドの奴は暇なのか?」

 俺の知らない間に上官たちは人の二つ名で遊んでたらしい。
 どういうあだ名を作ってくれたかさておき、ドワーフのサポートが密接な今なら戦車も相手にできるはずだ。
 ギルドの倉庫には対物擲弾発射機が積まれてるぐらいだ、この世界でも楽しく戦車狩りに勤しめるぞ。

「それでお前さんら、そうするにあたって人手が必要じゃ。テュマー相手もそうじゃが、向こうの調査やら保全も兼ねてそれなりの頭数が欲しいのよ」

 「ごうごう」からステーションに戻ると、言葉通りに準備のできた様子がある。
 ドワーフサイズの装備品やら、調査に使うであろう機材の数々が積まれてた。
 カートに集って部品をバラして、何やら怪しげな改造をぢりぢり行う集まりさえある。

「だったら、こういう事情に詳しい人たちがいたほうがいいよね……?」

 ミコの疑問もごもっともだ、テュマーに詳しい人間は欠かせない。
 相棒のおっとりした視線は「わたしもいくよ」と訴えてるようだ。

「そうか、では医者は必要か?」
「屋内屋外なんでもござれだぞ、久々に一緒に徳を積もうじゃないか」
「ついでにお二人様参加だそうだぞミコ」
「ふふっ、きてくれるんですね? またよろしくお願いします」
「俺も俺で試したいことがあるだけだ、この馬鹿エルフはともかくな」
「お前たちと共に戦えるなんてテンション上がるぞ! そういえばロアベアはどうした? さっきからいないぞ?」
「なんかEVカート見に行った、なにしてんだあいつ」

 クリューサとクラウディアは来てくれるらしい、頼もしい奴らめ。
 ただし、そんな合間にタケナカ先輩は本当に悩ましそうだ。
 まあ無理もない、何せ相手はこの人にとって未知数極まりないテュマーだ。

「タケナカの、お前さんからも何人か連れてきてくれんかの。別に無理強いはせんし戦えともいわんが、冒険者の奴らもテュマーがなんたるか知った方が今後良き経験になると思っての」

 しかしスパタ爺さんがさも気軽にそう言うもんだから、その悩みはなおさらで。

「冒険者として活動していくうえで、そのテュマーとやらに遭遇する可能性はありえるからな。危険性を知るためにお前たちに同行するべきか」
「報酬はそれなりにくれてやっからな、それにわしの個人的なもんもある」
「あんたの個人的なもんだって?」
「タケナカの、お前さんが信用に値する程度のことじゃよ。なあに、あくまで調査が主目標じゃし派手にどんぱちさせんからな」

 ドワーフ的な信用があるようだ、タケナカ先輩は「わかった」と重くうなずいた。
 日本人が安全にテュマーを知るいい機会だ、もちろん俺たちの働きぶり次第だが。

「信頼できる奴を何名か連れて行きたい、それでいいか爺さん?」
「構わんさ、明日には出発したいんじゃがどうじゃ?」
「明日か。そうだな、今すぐにでもあいつらと話し合ってくる」
「なあに、お医者様もイチもおるし勝ち確定よ。気軽に来い」

 タケナカ先輩の参加が決定だ、そうなると――

『こんなのが時速200kmで走るとか信じられませんね……セアリさん、ちょっと乗ってみたいです』
『これ機関銃据えると強そうっすねえ、あひひひっ♡』
『いや何をしてるんだ貴様ら!? 勝手に遊ぶんじゃない迷惑だろう!?』
『セアリもう乗ってるじゃん。ほら、ドワーフのお爺ちゃん迷惑そうにしてるから降りよう? ケツの重みで潰れちゃうよ。っていうかみしみしいってない?』
『誰がデカケツですか!? セアリさんそんな重くないですからね!?』
『うおーい……お主らEVカートで遊ぶんじゃないよ、それ替えの効かない貴重な車両じゃからね? ぶっ壊したらわしらガチ泣きしちゃうからね?』
『ほらーお爺ちゃんもこう言ってるじゃん。こらっ! セアリ! お尻で潰す前に降りなさいっ!』
『いいでしょう次に潰すのは貴女ですよコラァ!!』

 地下空間のど真ん中で停車するEVカート周りに、さわがし……にぎやかなやつらがいた。
 引っ張ってきた軽機関銃を車体に取り付けようとするメイドだとか、デカケ……尻を乗せる青髪ワーウルフがそうだ。
 なだめる蜥蜴&竜の女の子も混じれば大体の参加者が定まった気がする。

「あいつらも参加ってことでいいよな?」
「みんないったい何してるの……」
「……お前らと付き合って分かったんだが、ミセリコルディアってのは案外茶目っ気があるみてえだな。いや、うん、いい意味でイメージが解れてるさ」
「何やってんだよあいつら笑うわ――俺も仲間に入れてくださーい!」
「わっはっは! ウェイストランドに比べて緊張感のないやつらじゃのう、楽しそうでおじいちゃんちょっと嬉しいわい!」

 カートにつきまとう姿はこのままテュマーまで付き合ってくれそうだ――面白がって混ざりに行くタカアキも。

「イチ、ロアベアはともかくお前の幼馴染だの、ミコの仲間やらは大丈夫なのか? 休日ではしゃぐハイスクールのやつみたいに騒いでるようだが」
「あれでもミコのお友達は俺以上に強いんだ。タカアキについてはノーコメント」
「あ、あはは……みんないざという時は頼もしい空、大丈夫だと思います……?」
「そこの馬鹿騒ぎが余裕の表れだといいんだがな。向こうとの温度差に風邪でも引きそうだ」
『お爺ちゃーん! うちのセアリがケツ圧で座席壊しちゃったんですけどー!』
『ちっちがいます! 壊すつもりありませんでしたからね!? 腰かけただけですから経年劣化してるんじゃないんですかこの椅子!?』
『なにしとんじゃお主ら!? ええいもう近づくな! 遊ぶなら地上でしてきなさい!』

 まあ、クリューサだけははしゃぐ姿に難儀してるような顔だ。

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