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剣と魔法の世界のストレンジャー
九尾の子たちと芋の怪異(2)
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【農作物研究所で制御不能になった魔法植物を駆除してください-料理ギルド】
この世界での経験上、急いで書きなぐったような文面から俺たちをこき使おうという魂胆を感じた。
お願い事はこうだった。
ここクラングルに料理ギルドが管理する作物の研究所があるらしい。
そこで訳あって実験中の植物が解き放たれてしまったので、冒険者の実力でどうにかしろとのこと。
まずはその訳を聞くところから始めて、事態を収めれば一人あたり5000メルタほどだ。
魔法関係なら俺の出番だし、下手すりゃストレンジャー一人分より強いかもしれないヒロインとわん娘が一緒だ。
目的同じくして小遣い稼ぎもできるだろうし、カルトの件を払拭するにも具合がいいと思ったわけだが。
「えーと……農作物研究所ってこのあたりらしいけど……? クラングルにこんな場所あったんだね、大人びてていい雰囲気……!」
自称姉が先頭をてくてく歩く。
明るい金髪と悪魔らしい尻尾からくる姿は時々「ついてきてる?」と振り返ってた。
そんな仕草をするたび、背の高い建物が目立つ通りの静けさがいやにちらつく。
「ん……ぼくの知らない場所。こんな静かなところがあったんだ」
そのまた後ろをゆくわん娘も興味深々な様子だった。
クラングルの賑やかさからかけ離れた雰囲気に尻尾をふりふりしてる。
でもなニク、お前のご主人はここの正体を知ってるんだ。
なんだったら、ちょうどこの前不本意な形式で足を運んだばっかで。
「にーちゃん、あれなんだろー? すっごい立派な建物があるよー?」
そこにとうとう鳥ッ娘の無邪気さが介入してきた、ピナリア略してピナ。
鳥類らしいふわふわな茶髪と、八重歯眩しくやわっこい顔が疑問形だった。
羽先にある指がくいくいジャンプスーツを引いて「あれ」を気にしており。
「も、もしやあれは……っていうかあにさま、なんでさっきから顔逸らしてるんですか? いやまさかとは思いますけど……」
「あれ」から視線を外してると、丸い狸耳混じりの茶黒いボブヘアが察したような見上げ方だ。
いつ見ても落ち着きある表情が「あっ」となんか察してるところだ。
いい加減白状しようか。地図に従って俺たちが進む先には、妙に気品に溢れた白い建物が待ってている。
「研究所はどこだろうな、まさかこのあたりにあるのか?」
「ずいぶん立派な建物だなー……【シュガリ】っていうんだ、宿かなんかなのかな? いち君知ってる?」
「ご主人、何か知ってるみたいだけど」
「にーちゃんあれなに? ボク気になる!」
「……ねえさまたち、先を急ぎませんか? あれはコノハたちが挑むには荷が重い場所だと思いますようん」
「研究所どこだろうなあ!?」
看板に浮かぶの【シュガリ】という名前がもうそこまで迫ってた。
ああラブホだよ、あろうことか依頼先がこの通りにあるんだとさ、ふざけやがって料理ギルドの奴らめ。
コノハのおませ具合以外は「なにあれ」だが、こんなロリいっぱいのまま近づきたくない場所なのは確かだ。
「あの……みなさま……わたくしたちの目的は、困っておられる料理ギルドの方々のもとへはせ参じることでございますので……」
ところがそんな空気をお淑やかな言葉がぴたっと食い止める。
すすっと前に出た白いローブ調の格好に兎耳に揺れれば、ラブホに釘付けな面々もあっさりなものだ。
九尾院メンバーで唯一良識に溢れてそうなツキミの一声のおかげだ。
よく伸びた白髪と眠たげな目に隠れる赤い瞳が一瞬ちらっとこっちを見ると。
「――ですが、わたくしも気になっております……立派な佇まいでございますね、ふふ……♡」
まるで「シュガリの正体込み」で妖しく笑んできた――なんだその反応は。
今更になって、どうしてこの依頼を軽はずみに受けてしまったのか後悔した。
が、ついに柵に守られた和風混じりな建築様式がすぐそこまで迫ると。
「あっ……! 見てみんな! あれじゃないかな!?」
お姉ちゃんの元気な声的に何か掴んだらしい。
底なしに元気な様子につられると、愛を紡げるホテルの隣に大きな敷地があった。
【農作物研究所-料理ギルドクラングル支部】
と、入り口までの道のり込みで看板が主張してた。
お隣の格式を守る柵模様よりもずっと厳重な形で、生垣が濃く茂ってる。
ラブホの横は研究所だったわけだ――んなとこに置くな馬鹿野郎。
(ああ……お隣さんは一体何をしてるんだろう? 私心配だよ、時々変なもの見えちゃうし、お客さんは遠のいちゃうし……)
「店長よ。お隣がきにかけるにあたいする様相なのはぼくもおなじだが、こうして不安げにみにいったところで状況はかわらんものだよ。しかるべきものたちに任せようじゃないか、じきにどうにかしてくれるさ……」
「このあたりにじゃがいもがまき散らされてご近所も迷惑してるんですよねー……早く誰かなんとかしてくれないかなー」
そこまで足が届いたところだった。
【シュガリ】の横でお洒落な制服たちが、そんな生垣に向かって心配してた。
中でも金髪口髭の「他人の女寝取ります」みたいなエプロン姿は天敵を目の当たりにしたように震えてる。
まあ、そいつらの次の興味は言うまでもなくこっちだ。
異色を放つ六人に気が向けば、サキュバス系混じりの顔ぶれはこっちを向いて。
(あっ……あれってもしかして、イチさん……?)
「おや、うわさをすればなんとやら。それもあの"カルト殺し"までいるじゃないか、生業にむけた格好からさっするに「まさに」というかんじか」
「イチさんだ。じゃあどうにかなりそうですね……って、なんかロリいっぱいですけど大丈夫なんですかあの人たち」
(……ちょっと待って、あの子たちの教育上よくないんじゃないかなうちの店)
「だいじょうぶだ店長、ぼくたちはみな等しく二十歳以上だからね」
(そうはいってもやっぱり心配だよ、子供たちは大切にするのが私のポリシーなんだから)
できれば今は関わりたくない面々と意識があってしまった。
やめろこちとらロリと男の娘の混成部隊なんだぞ。
向こうも背後のラブホの構えと九尾院の面々にそろそろ気まずそうだ。
「あ、ど、どうも……悪い植物やっつけにきました」
背中の突撃銃と一緒にご挨拶した。あくまで俺たちの仕事は問題解決だ。
するとラブホの人達は厳つい店長を押し出すように一礼してきた、少し安心してるように思える。
「いち君、あの人たち知り合いなのかな?」
「ご主人のこと知ってるね。何かあったの?」
「にーちゃんの知り合いの人達だったんだ! こんにちは、ボクたちに任せてね!」
「あの、あにさま……? もしかしてお知り合いとかそういうやつですか?」
「あちらの方々となにやら面識があるようにお見受けいたしますが……?」
「…………顔が広いからな」
周りの興味を考えるに今はラブ要素抜きで接することにした。
はじき出されたチャラそう強そうなおっさんと不本意な形で相まみえれば。
(ああよかった、もしかしてと思ったけど依頼を受けてくれたんだね。近隣の方々も不安がってるし、私不安だったよ)
「こんにちはイチさん。オーナーはこうして来てくれてよかったと言ってますよ。良かったですね、これでこのあたりもようやく落ち着くかも……」
(それにね、ちょっとした騒ぎがあったせいでお客さんも怖がっちゃって、すっかり寄り付かなくなって……)
「騒ぎがあったせいでお客さんも来なくなってオーナーは心を痛めてますね……その格好からしてどうにかしてくれた感じですか?」
すっごいぼそぼそ喋る小心者な様子に、サキュバスのお姉さんが付き添ってようやく意思疎通ができた。
ひどい立地条件が祟ってラブホが迷惑するぐらいの何かが起きてるらしい。
「まさにどうにかしにきた感じだ、何があったんだ?」
(それがね、じゃがいもを飛ばしてくる変な植物が生えたみたいなの)
「オーナーも言ってますけどじゃがいもを飛ばしてくる変なモンスターがいるんですよ。ちょっと覗いてみれば分かると思うんですけど……」
じゃがいもだそうだ。
……じゃがいも? ふざけてんのか?
顔いっぱいに「冗談はよせ」を表現してると、ラブホの人達は生垣に心配を向けて。
「やあいちくん、そくさいだったかね。ご覧のとおり我がホテルは少々やっかいな目にみまっているよ。ちょっとそこで背伸びしてごらん」
「背伸び?」
「そう、背伸びさ。きみなら大丈夫だろう」
だらしない制服姿で紫髪のサキュバス――オクニリアだったか、そんなやつが研究所の中を促してきた。
みんなで顔を見合わせるうち、じゃあ見てみるかとつま先立ちを強めれば。
「…………なんだあれ、でっかい花か?」
追い越した生垣の高さから【農作物研究所】の土地柄がどうにか見える。
庭園のような空間だ。いろいろな植物が整理された区画を緑豊かに飾ってた。
その中で目立つものがある――そびえたつ太い緑の幹が、球形を重たく実らせてた。
おそらく二メートルはある背丈だ。茶色を帯びた丸い形の上で、やけに大きな白と黄の花が太陽を浴びていて。
――がぱっ。
ヘルメットのバイザー越しの視界に妙な光景がまた増えた。
ふとましく(そして厚かましく)育った幹の上で、花と繋がった丸みが急に開く。
まるで人が口を開けるようなしぐさで中身を晒せば、食虫植物の中みたいな暗がりがこっちを向き。
「……待て、なんか開いて」
そのおかしさに声を上げた直後だ。
巨大な花のような何かは生き物みたいに身をもたげると、ぶっ、と何かを飛ばし。
*べちっ*
ヘルメットの防弾性に何かがヒット。思わず仰け反った。
間違いない、攻撃だ。慌てて「伏せろ」と注意もろとも射線を遮るが。
「いち君!? 大丈夫!? 今こっちに何か飛んで来たよ!?」
「くそっ!? まさかあれが魔法植物……」
キャロルのご心配と一緒にその場に伏せた時だ、足元に見慣れた形が一つ。
小ぶりな丸みがここ最近も見たような形でごろっと転がってて。
「……ん、じゃがいも……?」
「……ほんとだ、お芋が落ちてる」
「……おい、なんでじゃがいもがこんなところに」
それはニクが首を傾げる通りのものともいう――じゃがいもだ。
ちょっと緑のかかった炭水化物の塊がなぜかそこにある。
いやもしかして……そう思いながらもまた背伸びすると。
*べちっ*
こっちを向いたままの巨大な花と視線が合うなり、またヘルメットに衝撃が。
正体を追えば、ちょうど芋がクラングルの石畳をころころしてた。
「じゃがいも飛んできたよ! 何があったのにーちゃん!?」
「なんでじゃがいもが……? あの、一体何事なんでしょうかこれ、しかもこれ緑色なんですけど」
「じゃがいもでございますね……? 敷地の中から飛んでこられたようですが……」
ピナからツキミまで確かにこうして目の当たりにしてるのだ、間違いなくじゃがいもが飛んできてる。
それも攻撃性をもって。何が起きてるのかラブホの皆さんを見るも。
「見たかねいちくん、ああやって姿をさらせばようしゃもなくじゃがいもを発射するへんてこ植物がはえててね。生垣のすきまとかから狙撃してくるわで、かなりめいわくをこうむってるんだ」
(じゃがいもが当たったけど大丈夫? 怪我はない? あんな感じで人の姿が見えるとじゃがいもが飛んでくるの、うちのお部屋まで届いてくるぐらいで……)
「お隣の敷地、あんな植物がいっぱいで大変なことになってます。しかもホテルの二階まで届くんですよ……何部屋か窓割れちゃってますからね実際」
いかに迷惑なのかもよく教えてもらった、由々しき事態だ。
何事かと思ってやってくれば「じゃがいも打ち出すお花」だぞ? 誰の仕業だ、リム様か?
しかし忘れるものか。依頼書には確かに料理ギルドの名があった。
つまりリム様だな、あの芋野郎めとうとう芋の魔物でも生み出したのか?
「……じゃがいもっていったら、リムさましかいないよね」
わん娘のジト顔ですらこのじゃがいもを訝しんでる。
犯人像に浮かぶのはどうひねっても銀髪ロリだ、あの芋。
「オーケー俺の知り合いの所業かもしれない。ちょっとぶちのめしてくる行くぞお前らリム様ぁぁぁぁッ!」
「よくわからないけど後はおねえちゃんたちに任せてね! 行くよみんな! じゃがいもに気を付けて!」
「おー、さすが冷凍食品だけで死屍累々をつみあげただけあるね。きたいしているよ、よきしらせをもってきてくれたまえ」
(あんまり無茶したら駄目だからね? どうか気を付けて行ってらっしゃい)
「これで一安心できそうですね、オーナー。後はイチさんに任せて私たちは帰りましょうか」
俺はシュガリの方々に見送られつつ、下ろした突撃銃を手に生垣を辿った。
すぐに【農作物研究所】と書かれた正門が植物で彩られていたことに気づく。
その向こうではレンガ造りが土地面積に甘んじる形で広がって、通りの雰囲気に相応しい妙な静けさを放ってた。
◇
この世界での経験上、急いで書きなぐったような文面から俺たちをこき使おうという魂胆を感じた。
お願い事はこうだった。
ここクラングルに料理ギルドが管理する作物の研究所があるらしい。
そこで訳あって実験中の植物が解き放たれてしまったので、冒険者の実力でどうにかしろとのこと。
まずはその訳を聞くところから始めて、事態を収めれば一人あたり5000メルタほどだ。
魔法関係なら俺の出番だし、下手すりゃストレンジャー一人分より強いかもしれないヒロインとわん娘が一緒だ。
目的同じくして小遣い稼ぎもできるだろうし、カルトの件を払拭するにも具合がいいと思ったわけだが。
「えーと……農作物研究所ってこのあたりらしいけど……? クラングルにこんな場所あったんだね、大人びてていい雰囲気……!」
自称姉が先頭をてくてく歩く。
明るい金髪と悪魔らしい尻尾からくる姿は時々「ついてきてる?」と振り返ってた。
そんな仕草をするたび、背の高い建物が目立つ通りの静けさがいやにちらつく。
「ん……ぼくの知らない場所。こんな静かなところがあったんだ」
そのまた後ろをゆくわん娘も興味深々な様子だった。
クラングルの賑やかさからかけ離れた雰囲気に尻尾をふりふりしてる。
でもなニク、お前のご主人はここの正体を知ってるんだ。
なんだったら、ちょうどこの前不本意な形式で足を運んだばっかで。
「にーちゃん、あれなんだろー? すっごい立派な建物があるよー?」
そこにとうとう鳥ッ娘の無邪気さが介入してきた、ピナリア略してピナ。
鳥類らしいふわふわな茶髪と、八重歯眩しくやわっこい顔が疑問形だった。
羽先にある指がくいくいジャンプスーツを引いて「あれ」を気にしており。
「も、もしやあれは……っていうかあにさま、なんでさっきから顔逸らしてるんですか? いやまさかとは思いますけど……」
「あれ」から視線を外してると、丸い狸耳混じりの茶黒いボブヘアが察したような見上げ方だ。
いつ見ても落ち着きある表情が「あっ」となんか察してるところだ。
いい加減白状しようか。地図に従って俺たちが進む先には、妙に気品に溢れた白い建物が待ってている。
「研究所はどこだろうな、まさかこのあたりにあるのか?」
「ずいぶん立派な建物だなー……【シュガリ】っていうんだ、宿かなんかなのかな? いち君知ってる?」
「ご主人、何か知ってるみたいだけど」
「にーちゃんあれなに? ボク気になる!」
「……ねえさまたち、先を急ぎませんか? あれはコノハたちが挑むには荷が重い場所だと思いますようん」
「研究所どこだろうなあ!?」
看板に浮かぶの【シュガリ】という名前がもうそこまで迫ってた。
ああラブホだよ、あろうことか依頼先がこの通りにあるんだとさ、ふざけやがって料理ギルドの奴らめ。
コノハのおませ具合以外は「なにあれ」だが、こんなロリいっぱいのまま近づきたくない場所なのは確かだ。
「あの……みなさま……わたくしたちの目的は、困っておられる料理ギルドの方々のもとへはせ参じることでございますので……」
ところがそんな空気をお淑やかな言葉がぴたっと食い止める。
すすっと前に出た白いローブ調の格好に兎耳に揺れれば、ラブホに釘付けな面々もあっさりなものだ。
九尾院メンバーで唯一良識に溢れてそうなツキミの一声のおかげだ。
よく伸びた白髪と眠たげな目に隠れる赤い瞳が一瞬ちらっとこっちを見ると。
「――ですが、わたくしも気になっております……立派な佇まいでございますね、ふふ……♡」
まるで「シュガリの正体込み」で妖しく笑んできた――なんだその反応は。
今更になって、どうしてこの依頼を軽はずみに受けてしまったのか後悔した。
が、ついに柵に守られた和風混じりな建築様式がすぐそこまで迫ると。
「あっ……! 見てみんな! あれじゃないかな!?」
お姉ちゃんの元気な声的に何か掴んだらしい。
底なしに元気な様子につられると、愛を紡げるホテルの隣に大きな敷地があった。
【農作物研究所-料理ギルドクラングル支部】
と、入り口までの道のり込みで看板が主張してた。
お隣の格式を守る柵模様よりもずっと厳重な形で、生垣が濃く茂ってる。
ラブホの横は研究所だったわけだ――んなとこに置くな馬鹿野郎。
(ああ……お隣さんは一体何をしてるんだろう? 私心配だよ、時々変なもの見えちゃうし、お客さんは遠のいちゃうし……)
「店長よ。お隣がきにかけるにあたいする様相なのはぼくもおなじだが、こうして不安げにみにいったところで状況はかわらんものだよ。しかるべきものたちに任せようじゃないか、じきにどうにかしてくれるさ……」
「このあたりにじゃがいもがまき散らされてご近所も迷惑してるんですよねー……早く誰かなんとかしてくれないかなー」
そこまで足が届いたところだった。
【シュガリ】の横でお洒落な制服たちが、そんな生垣に向かって心配してた。
中でも金髪口髭の「他人の女寝取ります」みたいなエプロン姿は天敵を目の当たりにしたように震えてる。
まあ、そいつらの次の興味は言うまでもなくこっちだ。
異色を放つ六人に気が向けば、サキュバス系混じりの顔ぶれはこっちを向いて。
(あっ……あれってもしかして、イチさん……?)
「おや、うわさをすればなんとやら。それもあの"カルト殺し"までいるじゃないか、生業にむけた格好からさっするに「まさに」というかんじか」
「イチさんだ。じゃあどうにかなりそうですね……って、なんかロリいっぱいですけど大丈夫なんですかあの人たち」
(……ちょっと待って、あの子たちの教育上よくないんじゃないかなうちの店)
「だいじょうぶだ店長、ぼくたちはみな等しく二十歳以上だからね」
(そうはいってもやっぱり心配だよ、子供たちは大切にするのが私のポリシーなんだから)
できれば今は関わりたくない面々と意識があってしまった。
やめろこちとらロリと男の娘の混成部隊なんだぞ。
向こうも背後のラブホの構えと九尾院の面々にそろそろ気まずそうだ。
「あ、ど、どうも……悪い植物やっつけにきました」
背中の突撃銃と一緒にご挨拶した。あくまで俺たちの仕事は問題解決だ。
するとラブホの人達は厳つい店長を押し出すように一礼してきた、少し安心してるように思える。
「いち君、あの人たち知り合いなのかな?」
「ご主人のこと知ってるね。何かあったの?」
「にーちゃんの知り合いの人達だったんだ! こんにちは、ボクたちに任せてね!」
「あの、あにさま……? もしかしてお知り合いとかそういうやつですか?」
「あちらの方々となにやら面識があるようにお見受けいたしますが……?」
「…………顔が広いからな」
周りの興味を考えるに今はラブ要素抜きで接することにした。
はじき出されたチャラそう強そうなおっさんと不本意な形で相まみえれば。
(ああよかった、もしかしてと思ったけど依頼を受けてくれたんだね。近隣の方々も不安がってるし、私不安だったよ)
「こんにちはイチさん。オーナーはこうして来てくれてよかったと言ってますよ。良かったですね、これでこのあたりもようやく落ち着くかも……」
(それにね、ちょっとした騒ぎがあったせいでお客さんも怖がっちゃって、すっかり寄り付かなくなって……)
「騒ぎがあったせいでお客さんも来なくなってオーナーは心を痛めてますね……その格好からしてどうにかしてくれた感じですか?」
すっごいぼそぼそ喋る小心者な様子に、サキュバスのお姉さんが付き添ってようやく意思疎通ができた。
ひどい立地条件が祟ってラブホが迷惑するぐらいの何かが起きてるらしい。
「まさにどうにかしにきた感じだ、何があったんだ?」
(それがね、じゃがいもを飛ばしてくる変な植物が生えたみたいなの)
「オーナーも言ってますけどじゃがいもを飛ばしてくる変なモンスターがいるんですよ。ちょっと覗いてみれば分かると思うんですけど……」
じゃがいもだそうだ。
……じゃがいも? ふざけてんのか?
顔いっぱいに「冗談はよせ」を表現してると、ラブホの人達は生垣に心配を向けて。
「やあいちくん、そくさいだったかね。ご覧のとおり我がホテルは少々やっかいな目にみまっているよ。ちょっとそこで背伸びしてごらん」
「背伸び?」
「そう、背伸びさ。きみなら大丈夫だろう」
だらしない制服姿で紫髪のサキュバス――オクニリアだったか、そんなやつが研究所の中を促してきた。
みんなで顔を見合わせるうち、じゃあ見てみるかとつま先立ちを強めれば。
「…………なんだあれ、でっかい花か?」
追い越した生垣の高さから【農作物研究所】の土地柄がどうにか見える。
庭園のような空間だ。いろいろな植物が整理された区画を緑豊かに飾ってた。
その中で目立つものがある――そびえたつ太い緑の幹が、球形を重たく実らせてた。
おそらく二メートルはある背丈だ。茶色を帯びた丸い形の上で、やけに大きな白と黄の花が太陽を浴びていて。
――がぱっ。
ヘルメットのバイザー越しの視界に妙な光景がまた増えた。
ふとましく(そして厚かましく)育った幹の上で、花と繋がった丸みが急に開く。
まるで人が口を開けるようなしぐさで中身を晒せば、食虫植物の中みたいな暗がりがこっちを向き。
「……待て、なんか開いて」
そのおかしさに声を上げた直後だ。
巨大な花のような何かは生き物みたいに身をもたげると、ぶっ、と何かを飛ばし。
*べちっ*
ヘルメットの防弾性に何かがヒット。思わず仰け反った。
間違いない、攻撃だ。慌てて「伏せろ」と注意もろとも射線を遮るが。
「いち君!? 大丈夫!? 今こっちに何か飛んで来たよ!?」
「くそっ!? まさかあれが魔法植物……」
キャロルのご心配と一緒にその場に伏せた時だ、足元に見慣れた形が一つ。
小ぶりな丸みがここ最近も見たような形でごろっと転がってて。
「……ん、じゃがいも……?」
「……ほんとだ、お芋が落ちてる」
「……おい、なんでじゃがいもがこんなところに」
それはニクが首を傾げる通りのものともいう――じゃがいもだ。
ちょっと緑のかかった炭水化物の塊がなぜかそこにある。
いやもしかして……そう思いながらもまた背伸びすると。
*べちっ*
こっちを向いたままの巨大な花と視線が合うなり、またヘルメットに衝撃が。
正体を追えば、ちょうど芋がクラングルの石畳をころころしてた。
「じゃがいも飛んできたよ! 何があったのにーちゃん!?」
「なんでじゃがいもが……? あの、一体何事なんでしょうかこれ、しかもこれ緑色なんですけど」
「じゃがいもでございますね……? 敷地の中から飛んでこられたようですが……」
ピナからツキミまで確かにこうして目の当たりにしてるのだ、間違いなくじゃがいもが飛んできてる。
それも攻撃性をもって。何が起きてるのかラブホの皆さんを見るも。
「見たかねいちくん、ああやって姿をさらせばようしゃもなくじゃがいもを発射するへんてこ植物がはえててね。生垣のすきまとかから狙撃してくるわで、かなりめいわくをこうむってるんだ」
(じゃがいもが当たったけど大丈夫? 怪我はない? あんな感じで人の姿が見えるとじゃがいもが飛んでくるの、うちのお部屋まで届いてくるぐらいで……)
「お隣の敷地、あんな植物がいっぱいで大変なことになってます。しかもホテルの二階まで届くんですよ……何部屋か窓割れちゃってますからね実際」
いかに迷惑なのかもよく教えてもらった、由々しき事態だ。
何事かと思ってやってくれば「じゃがいも打ち出すお花」だぞ? 誰の仕業だ、リム様か?
しかし忘れるものか。依頼書には確かに料理ギルドの名があった。
つまりリム様だな、あの芋野郎めとうとう芋の魔物でも生み出したのか?
「……じゃがいもっていったら、リムさましかいないよね」
わん娘のジト顔ですらこのじゃがいもを訝しんでる。
犯人像に浮かぶのはどうひねっても銀髪ロリだ、あの芋。
「オーケー俺の知り合いの所業かもしれない。ちょっとぶちのめしてくる行くぞお前らリム様ぁぁぁぁッ!」
「よくわからないけど後はおねえちゃんたちに任せてね! 行くよみんな! じゃがいもに気を付けて!」
「おー、さすが冷凍食品だけで死屍累々をつみあげただけあるね。きたいしているよ、よきしらせをもってきてくれたまえ」
(あんまり無茶したら駄目だからね? どうか気を付けて行ってらっしゃい)
「これで一安心できそうですね、オーナー。後はイチさんに任せて私たちは帰りましょうか」
俺はシュガリの方々に見送られつつ、下ろした突撃銃を手に生垣を辿った。
すぐに【農作物研究所】と書かれた正門が植物で彩られていたことに気づく。
その向こうではレンガ造りが土地面積に甘んじる形で広がって、通りの雰囲気に相応しい妙な静けさを放ってた。
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しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
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