魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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剣と魔法の世界のストレンジャー

白いやつらを追いかけろ!!

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 人生のありどころであるヴァルム亭近くで「カルト見かけました」なんて不幸極まりない話だ。
 クラングルのため、ひいては冒険者兼パン屋暮らしのために『白き教え子たち』をもっと知る必要ができた。
 そしてあわよくば「ご一緒に解散はどうですか?」だ。
 クソ野郎と分かったらこの世界でもストレンジャーをお見舞いしてやる。

 そして各々が情報を仕入れたようで、俺たちは合流することになった。
 タケナカ先輩の考えで衛兵の詰所が都合よし、と選ばれたわけだが。

『わたし、街の人たちがあの人たちをどう思ってるのかも知りたいな……』

 ミコの考えがそう及んで、集合場所への道すがらに触れ回ることになった。
 詰所目指して南へ下る合間合間に信用できる街の顔を一つずつ伺えば。

「白き教え子たち? うちの店の前に勝手に張り紙貼った人達か。そういえばうちが冒険者御用達ってことで教えを口説かれたことがあったよ、なんでも白き神を怒らせたからこの街に天罰が下るからとかなんとか? いやオルトが追い払ってくれたけど。みんなであちこち歩きまわってるようだけどご飯とかいつ食べてるんだろうね、あの人たち」――『定食屋』のトウマさん。

「あのナンセンスなやつらを調べてるとな? ここ最近音沙汰なかった白き民が再び動き出したと聞けば確かに気になるが、そもそもあんなの崇める理由などないんだぞ? やつらには歴史というものがない、そこに自分勝手な思想を植え付けて世界の終末を信じてるような連中だぞあれ。それにしたってあんなのが今更騒ぐのも変な話よなあ……」――ライオス爺ちゃん。

「そうねえ、近頃騒いでる人たちって昔はここでひっそりと白き民を崇めてた人なのよ。個性豊かな集まる街いえど変わった人だなあって当時は白い目で見られてたわ、でもそれだけだったのよね。ここの情勢が変わるにつれて次第に大人しくなっていったけど、最近の事情を見るにそれにあやかった感じかしら? でもいきなりまた出てきて世界が終わるって大騒ぎしていい迷惑よ、子供が怖がってるんだから。やっつけちゃいなさいなイチ君」――近所のエルフのおばちゃん。

「あれには困ってるねえ。その昔、いきなり顔を出すなり「十年もしないうちに罪に汚れし天使が舞い降り、怒れる白き神が世を浄化する」とか言い出したんだよな、酒場で。俺みたいな獣人たちとか、しまいにゃエルフみたいなやつらも神の地を汚す不浄な獣とか名指ししてきて笑っちまったよ。また騒いで不愉快してるのは違いないさ、ていうかあいつらどこからともなく現れていつのまにか消えてくんだよな……気味が悪くて仕方ないや」――都市ご在住のオーク。

「(かなり迷惑そうな音質での)にゃ~」――クラングルのにゃんこ。

 などと、街の声を広く聞くことができた。
 共通点はどいつもこいつも迷惑、それでいて見えるのは「ただ騒ぐだけ」である。

 伺った話によると生い立ちはこうだ。
 十年前に現れたその当初から対して相手にもされず、そのまま勝手にフェードアウトしていく方向性に傾いたそうな。
 そう疎まれる理由はこんな主張を掲げているからである。 
 ここは白き民の持つ聖地で、フランメリアに集う人外な方々は美しき土地を汚す薄汚い獣だと。
 あろうことかその思想をエルフからドワーフに至るまで全方位に向けたようで、よくまあここでそんな真似する度胸があるなと思う。

「……と、まあこっちの収穫は街の南エリアで目撃情報があったこと。んで迷惑がってる街の人達の声ってところだな」
「今まで大人しくしていたのにいきなり騒ぎ出して、みんな心配してました。それに昔から、あの人たちのことはよく思われていなかったみたいです……」
「なんつーかさ、やることなすこと一方的すぎて気持ち悪いってのが市民のリアクションだったな。しかもいきなり現れて、同じようにどっかに消えるもんだからなおのこと不気味みたいだぜ」
「ん、みんな白き民が増えたことに乗っかってるだけの人達、って言ってた」

 ――という話を携えて、俺たちは衛兵詰所に集まっていた。
 飾り気のない会議室の広さには知る顔がいっぱいで。

「目撃情報は山ほどあれどその後が掴めねえか。困ったことにな、俺たちが今知ってることもその通りだ。おおっぴらに活動する裏で何やってやがるのか全然踏み込めねえときた」
「だが収穫はなかったわけじゃないぜ。クソうるさくやってる一方で、こぞって巧妙に人目を避けて活動してるところまでは掴めた」
「先週あたりに構成員とおぼしき人が馬車を借りて、外から何かを運んでたってところまでは分かったんだよねー……その後が途切れてるんだけども」

 冒険者らしい格好を遠ざけたタケナカ先輩たちが誰よりももやもやしていた。
 ニット帽で隠れた坊主頭や、冒険稼業を忘れたカップルらしいカジュアルスタイルなシナダ&キュウコは何を知ったのやら。

「こっちはあの酒場で聞き込みをしてみたんだがな、店員のプレイヤーさんが気になることを話してくれたんだ。どうも白き教え子たちと思しき奴がつい先日来ていたらしいぞ、昼間から飲んだくれていたそうなんだが」
「白き民の怒りがついに訪れる、この世は終わる、などと周りに伝えていたとか。その人の足取りも近辺で聞き込んだんですが、南へ向かっていく途中で途切れました」

 キリガヤとサイトウも、街向けの格好のままそんな報告だ。
 白いやつらの足取りが南へ向かったという情報が確かにある。

「俺たち、目撃した人を辿りながら街中を歩き回ったんです。そしたらハナコがあることに気づいたみたいで……」
「それが……白き教え子たちは南側を起点にクラングルに広がってるみたいなんです。しかも活動を終えたら必ず南へ向かっていて、あるところで突然行方をくらますっていう共通点も見つけました」

 変装したホンダとハナコは一体何を掴んだんだ、少し興奮気味にそう話してる。
 そんな物言いが伝われば、ここの集まりが興味深そうにざわめくのも仕方ない。

「ホンダ君とハナコちゃんからそう連絡がきて、ちょっと調べてみたんだけど……あの人たちが活動を終えた後を見た人が全然いないんだよね」
「あ、でもね? 深夜に街中を駆け回ってるっていう目撃情報を手に入れたよ、やっぱり人目を避けて何かしてるのは間違いないみたい」


 世界観を忘れれば仲睦まじいだけの一般人に見えるヤグチ&アオの格好と――

「夜の闇に紛れて活動してるって分かったんですよねえ。ちなみに我々狩人は街を監視するのもお仕事の一つですが、こうして掴めないとなるとおそらく向こうは自分たちだけが知るルートを使ってる可能性もあるんじゃないかと思ってきましたよ。曲がりなりにもこの街に慣れ親しんだご様子ですし?」

 協力してくれたミナミさんもしれっと加わった。
 どんどん集まる情報に誰もが臭さを感じてるみたいだ、胡散という名の。

「……よくこんな短時間でそこまでの情報を仕入れたな、お前たちは。このまま我々と共にずっと働いてほしいものだ」
「やはり何かしら裏でやってるのは確かか……そうだ、衛兵隊に協力してもらってる狩人たちも連れてきたぞ」

 こんな急な集まりに関心しつつだけど、トカゲの衛兵たちは更に誰かを連れてきたみたいだ。

「こ、こんにちは……ミナミ先輩、なんだか大事になってませんか……?」
「なんか大事になってないか……? 変なやつらが騒いでるって聞いて狩人ギルドから派遣されたんだ、よろしく頼むぞ」
「白き教え子ね……正直言うと、挙動不審だしおかしいなって思ってたよ」
 
 狩人らしい姿をした日本人数名がいそいそ近づいてきた。
 おかげでここは情報量たっぷりだ、白き教え子たちの真相を暴けるかもしれない。

「……やっぱり何かが起きてるのは間違いねえな。分かった、すまないが衛兵さん、この街の地図を持ってきてくれないか?」

 揃った顔をざっと確かめて、タケナカ先輩は凛々しいお姉さんにそう頼んだ。
 向こうもすっかり気を良くして、テーブルに地図を「これだ」と広げてくれた。

「まずは情報整理って感じか。うまく集まったみたいだな」

 はらっと展開された地図を覗いてみた。
 縦横の長さが縮図とはいえクラングルの壁から何までを広く表現してるが、ここに集めた情報を埋めていくわけだ。

「集まったら次はどうくみ取るかだ。おい、まず何があったか一人ずつ話してくれないか? ハナコ、記録頼む」

 タケナカ先輩もやっと帽子を脱いで、そんな怪しさ眠る街の姿へ近づいた。
 それをきっかけ周りもぞろぞろと地図を囲んでいく――情報の共有が始まった。



 最初に俺たちは【白き教え子】たちの背景について確かめた。

 まずあいつらは十年ほど前、クラングルに突如現れた連中だ。
 いきなり現れるなり『白き民』が神だの、この土地は元々そいつらのものだの、挙句に国民へ「お前ら聖地を汚す獣」とか指をさす始末。
 かといって強引な勧誘もしなければ、せいぜい騒音問題を起こす程度である。
 騒ぐだけ騒いでから次第に見なくなったが、最近白き民が活発になったのと同時にまた現れた。

 その口が言うのはこうだ。
 神はお怒りである、世はやがて滅びる、と十年も熟成された言葉を広げてる。
 近頃は「冒険者は神を冒涜している」とまで触れ込んで、世界の終わりをただひすらに叫ぶ連中である。

「……人数は不明だが、少なくとも十名ちょっとの連中じゃないだろうな。昔は信者が二十名もいると聞いた、この勢いじゃそれぐらいかそれ以上がいたっておかしくないと思うぞ」

 広がる紙媒体の都市にまず悩ましそうだったのは坊主頭な先輩だ。
 そこに『歯車仕掛けの都市発行』と添えられた上で、ハナコが書き足した丸や線が南へ集ってる。

「それだとそんなにいるのに後が掴めないのは変じゃないかって繋がるぞ、やることやったら姿をくらますってなんだよ。幽霊かなんかか?」

 俺はまじまじと確かめた。
 憩いの場、市場、観光エリアまで、そういった場所に広く丸が重なってる。
 恐らくこれが活動していた場所だ、流石にリーゼル様の屋敷は避けてるらしい。

「それでですね、あの……活動してる場所をまとめたんですけど、この地図の通りです。何かおかしいと思いませんか?」

 そんな印をつけてくれた地味な眼鏡顔が話に続いてくれた。
 手にしたメモ帳が裏付ける「丸」がまさにそうだと指でなぞってる。

「広くやっててご苦労なこった。リーゼル様の住まいはやっぱり怖いみたいだけどな」
「だがこうして見るとおかしいのも確かだ。これじゃまるで……」

 が、よくみると妙なのだ。
 ハナコのつけてくれたサインをタケナカ先輩と追えば、次第に違和感も浮かぶ。
 街の南側、それもある場所の周辺には足取りを示すものが一つもなく。

「どういうわけか俺たちの寝床周りじゃ絶対に教えは説かないってか? 何かあるって感じの構図だぞこれ」

 それはタカアキの訝しむ口元が表現する通りだった。
 ヴァルム亭やクルースニク・ベーカリーのある通りを避けてる。
 そこから全方位に向けてぽつぽつと丸が立つように、そこを中心として活動してるような絵面だ。

「そうなんです。こうしてみるとあの人たちがこの……イチ先輩の住んでる場所を中心として動いてるように見えるんですけど、どう思いますか?」
「俺も最初信じられなかったんですけど、ハナコと一緒に地図を調べたらこうなっちゃって……これって、なんかある感じですよね絶対?」

 そんな発見をしてくれた地味顔コンビは得意げ半分、残り戸惑いな様子だ。
 もちろん俺にだが。これを信じるならご近所がやべえってことなんだぞ。

「うーわ……こういうとき「よくやった」と「なんてこった」どっちで返せばいいと思う?」
「私からはお気の毒としか言えません。最初見た時、もしかしてイチ先輩が何か引き寄せてるんじゃないかって邪推しちゃいました」
「イチ先輩絶対嫌がりそうだから伝えるかどうか悩んだんですけど、ここで何か起きてますよね絶対……」
「俺も最近、なんかやべえの引き寄せる体質じゃないかって悩んでたよ……」
「お祓いとか受けた方がいいんじゃないですか」
「ハナコ、そういうこというなよ……失礼だろ……?」

 二人の大発見にこっちもびっくりだ。
 だけど俺が招いたと疑うような眼差しが、なんだか今になって否定できない。

「またカルトがご近所にあるとか笑うわ、どうなってんだろうな俺たちの人生。やっぱお前そう言うの招いてるんじゃね?」
「早めにお断りして俺たちの住まいから離れてもらおうか? あと笑ってんじゃねーぞ大事だぞこれ」
「それがいいに違いねえや。まあ笑うしかねえよ今は」

 その点タカアキはまた笑ってる。何笑ってんだコラ。
 こんなやり取りに「何があったんだ」と視線が集うが、次にタケナカ先輩とシナダ&キュウコの組み合わせが指を向けて。

「このパン馬鹿には気の毒極まりねえ事実だが、俺たちが馴染みのある場所に手がかりがあると分かったならデカい収穫だ。そこにさっきこっちが掴んだ情報を足すとだな……」
「活動した後に姿をくらますっていうのはみんなが言うように確実だろうな。だが南区で馬車貸し出しをやってる店があってな、そこで構成員と思しき奴が馬車を借りてたらしい」
「店員さんが言うには、演説と同じ声をしてる人だったんだってね。近隣の村から紡績の材料を運びたい、ってことでちょっとしたものを一台。ちゃんと返却はされてたみたいだよ」
「馬車の行方について探ったんだが、数日前に街の中央寄りの通りで停まったって情報だ。男数人が縦長な木箱みたいなもんを運んでた、までは掴めたぞ」
「でもなあ、そこで途切れてやがるのさ。路地裏に向かったとかは証言はあれど、じゃあそのどこまで持ってったかまでは謎ときやがった。だが近辺に紡績絡みの店なんてないってのは確認できたぞ」
「店の人もちゃんとお金も払ってくれたし気にはしなかったみたいだけどねー? それに馬車って借りるにしてもけっこうかかるから、懐に余裕があるのかなあ。あ、ちなみに借りた時に使ったのは偽名だろうね」

 行方はともかく怪しい情報をごっそり足した、地図のきな臭さに磨きがかかった。
 三人のの指は都市の中心部、その南寄りのどこかをはっきりと示してる。

「嘘をついてまで馬車を借りて、何かを街に運んだ……? あの人たち、何をしてるんだろう?」

 ミコの疑問もごもっともで、冒険者も狩人も衛兵もざわめくのも仕方なしだ。

「だそうだぞ衛兵の皆さん、そんな怪しい馬車を通した覚えは?」

 でも間違いなく足掛かりだ、じゃあ覚えはあるかとトカゲの姉ちゃんズに尋ねた。
 すると付き添っていた何名かが「まさか」って顔をして。

「……待て、もしやそういうことか?」
「数日前に目撃されたらしいが……もし本当ならこれは計画的なものだぞ?」
「ああ、本気で何かをしようとしている証拠にもなるぞ」

 などとざわめいてる。
 どうしたと心配がそこに向けば、次第に一人分の凛々しい顔が上がって。

「……いいか、けっして言い訳で言うつもりはないが我々は不審なものは検めるのが仕事だ。だがこの馬車の目撃された時期を考えると、後ろめたいことをするには実に都合がいい頃合いでな」

 深刻さ混じりの表情も次第に浮かんだ。
 どうも何かがそこで繋がっているらしい。

「向こうは何するか分からない集団だ、こうまでくると言い訳が通用しないことをしでかしてもおかしくないだろ?」
「そうか、そうだなイチ。いいか、数日前といえばクラングルに外からの荷が運び込まれるタイミングだ」
「どういうタイミングだ?」
「この都市は他の都市から送られてくるものが頼りなのは知っているだろう? ここは作物しかり、機械しかり、書物や細々としたものすら外に頼って成り立ってる場所だ。実際の名前は『交易都市クラングル』というぐらいだしな」
「活気のありそうないい名前だな。で、それがどうした?」
「先日はちょうど歯車仕掛けの都市から荷が運ばれる頃合いだ。お前たち旅人に機械じかけの品の需要があると稼ぎ時を聞きつけて、臨時で向こうから運び出されることになってたんだが」
「それにあやかったんじゃないかというのが我々の考えだ。そんな不審な連中がすり抜けるには絶好の機会だったわけだ」
「当日大小さまざまな業者がここまで荷を運んでいたことを考えるに、それに紛れるにはうってつけだったろうな」
「なるほど、トカゲの皆さんが言うには、その時ちょうど馬車でいらっしゃる方がいたからそれにあやかりましたと?」
「ああ。それに機械仕掛けは下手に手を触れないように注意を払わねばならない品もあってな、ゆえに歯車仕掛けの印が入ってるものは中を検めないこともあるんだが」
「私の心配はこうだ。もしその怪しい馬車が歯車仕掛けの都市からを騙る連中だったら? 荷の印すら偽っていたら? とな」
「つまり私たちがまんまと騙されたという懸念だ。よもやそのような輩を逃してしまったのか……? それと誰がトカゲの皆さんだ」

 そんな馬車がこうして身分を偽って侵入するチャンスがあったらしい。
 もし本当に後ろめたい理由があればだが。

「あんたらが騙されたっていう点も交えて全部マジだとすれば、もっと面倒だと思うけどな」
「うむ……これらがかみ合っていた場合、やつらはここで何かをしようと目論んでいることになる」

 が、そこまでして何かをしなければならなかった証拠にもなる。
 周りはますます白き教え子たちへの不信感を募らせてた。
 ついでだ、自分の住まいあたりを小突いて「白いくせに黒か」と付け加えた。軽く笑った奴がいた。

「つまり、向こうはその歯車仕掛けとやらから臨時でいろいろ来るのをとっくの昔に掴んでた。で、それにならって何か行動を起こしてると。まあ悪いことしたっていう実績もついて捕まえる理由になるし、むしろ都合がいいんじゃないか?」
「こうまでされたんだ、奴らはもう我々の敵とみなしたうえで動いてやる。直ちに当日やってきた馬車を調べ上げるぞ」
「あの白い連中め、我々を馬鹿にしおって……! 一体何がしたいんだ、腹立たしい!」

 そこまで話すと同席した衛兵たちが何割か動き出した、本腰が入ったようだ。

「なんだかとんでもないことになっている気がするぞ! じゃあ俺たちからの報告だ」
「キリガヤが「情報収集は酒場だ」というから渋々ついていったんですが、中々に興味深い情報がありました」

 続いてキリガヤとサイトウの二人組だ。
 話の流れに少し興奮気味に口にしたがってるが、一呼吸置かせると。

「あの冒険者向けの酒場で聞き込みをしたんだが……そのメンバーらしい奴が利用していたらしくてな、いやその通りかどうかはまだはっきりとしていないんだが」
「日本人プレイヤーの方がいたので聞いたところ、それらしいお話をしてくれまして。ひどく酔っ払った中年ほどの方がヒロインの店員さんに絡んでいたそうなんですよね」
「ああ、同郷の奴じゃないと言ってたな。二人に尋ねたところ、そいつが「どうせこの世はもう終わる」「人類に最後の審判が来る」と乾杯していたらしいんだ。やけ酒みたいだったとか言ってたな」
「でもしばらくしないうちに正気に戻ってすぐに退店したとも言っていましたね。近辺の住民から行方を追いかけたんですが、南へ向かった途中で急に姿をくらましてます」

 二人分の指はある場所に触れた――広場中央、南区に触れるぐらいの場所だ。
 俺の住まう通りから少し距離を隔てたあたりか、おかげで南側の怪しさに磨きがかかってしまった。
 そこへ「俺たちもなんだよね」とヤグチ、アオの背の高低差が入って。

「こっちも聞き込みしたり調べたりしたら、どうもそのあたりで白き教え子たちの姿が消えてることに気づいちゃって……」
「気味が悪いよね……この広場、良く二人で通ってるのに。ていうかなにしてるんだろうほんと、何か禁断の秘術とかやってるのかな?」
「い、いやあ……まさかそんな、こんな人通りが盛んになる場所でしないと思うよ普通……?」
「まあ、こそこそしてるもんね……そんな目立つこと、表立ってする人たちじゃないみたいだし」

 やっぱりここで何かが起きてる、とそれぞれの視線が訴えてる。
 俺からすればたまったもんじゃない、人のご近所で何してやがる。

「……で、ミナミさん。狩人の新人さんがこのあたりで深夜テンションかもしれないけどなんか見つけちゃったらしいな?」

 募る不安に物申したいが地図を見る冴えない顔に質問した。
 するとミナミさんは「この子です」と、十代後半程度のなんとも頼りない女の子を引っ張って。

「ここまで来るともう気のせいじゃない気がしますよ、イチさん。目撃者はこの子です、ヒカリという『ストーン』の狩人ですよ」
「あ、は、はじめまして……等級ストーンの狩人、ヒカリです……」

 首から下がる首飾りもろとも、その子を紹介してきた。
 俺たちとは違って丸形の『シート』――黄色い石からしてストーンだ。
 日本人らしい丸い顔と黒髪に、狩人らしい装束が微妙に馴染んでないが。

「イチだ、よろしく。人間観察も仕事の一環らしいけど、いったいどこでどの辺を見てた?」
「よ、よろしくお願いします……えーとですね、時計塔、ありますよね?」
「ああ、何個かあるな。じゃあこの広場近くのか?」
「そうですそうです! ここで私、ギルドマスターから街の様子を覚える訓練をしろとかいわれてずっと見てたんですけど……」

 皮手袋の先がにゅっとある場所を示したところで、中央広場に一番近い時計塔がちょうど当たった。
 みんながぞろぞろ顔を近づければ緊張感たっぷりに戸惑ったようだが、ともかくヒカリという子は深呼吸して。

「広場の横を沿うように移動してる人がいたんです。白い格好をしてて、最近耳にするその人たちってすぐに分かりました」

 そいつの足取りまで指で教えてくれた。
 広場周りの建物までよれば、その根元を通って隠れるように南へ向かってる。

「人気のない時間帯に見たくはないのは確かだ。何時ごろだった?」
「午前三時五十分あたりです。まだ日が登ったばかりで薄暗かったんですけど、白い格好で目立ってました」
「覚えが良くて褒めてやりたいな。向かった先ってのはやっぱり俺のご近所?」
「はい、イチ先輩が住んでるこの通りあたりに向かっていったんです。あのパン屋さんにまっすぐ、って感じで」
「先輩呼ばわりするのはミナミさんだけでいいぞ。で、俺の職場が危ういって言いたいのか?」

 もっと最悪なことに、そんなおどおどした指は慣れ親しんだ通りまでつく。
 クルースニク・ベーカリーの看板が目に触れるあたりで――消滅である。
 おかげさまでニクが「?」を首で体現してた。気のせいであってほしい。

「そのころには建物に隠れて見失ったんですけど、それっきりなんです。もちろん怪しいと思ってしばらく監視を続けました、でもそれらしい人が全然出てこなくって……」
「結果は深夜テンション扱いか。どうか誤認であってほしい気分」
「は、はっきりしてなくてごめんなさい……! い、いきなり深夜の活動に慣れろとかいわれて朝の三時に時計塔に登らされちゃって、半分寝ながら監視してたんです……」
「んなことさせるギルマスが見てみたいな。どんなやつだ、悪趣味な顔してたら一言物申してやる」
「……イチ、気の毒だがお前の近所がどうかしてるってことが発覚したな」

 そんな情報がまとまったところで、タケナカ先輩は地図に微妙な顔だった。
 なんなら同情すらされてる感じだ。そりゃそうだ職場と寝床のすぐそばだぞ?

「みんな心配しなくていいぜ、俺とこいつって昔からカルトと嫌なつながりがあるからな。もうそういうもんだって諦観してるわ俺たち」
「……いちクン、これ絶対なんかあるよね。否定できないよもう」
「ん……またなの? やっつける?」
「お前そういうのとどういう縁があったんだよイチ、まあうん気の毒だな。俺たちの近所に空いてる宿あるから引っ越すのもありじゃないか?」
「そんなことしたらパン屋遠くなっちゃうじゃんシナダ、でもほんとにお気の毒だよね、まさかご近所が怪しいなんて」
「まさか調べた結果がお前のすぐ隣とはな……どうするイチ、いっそみんなで調べてみるか? 俺たちが世話になってるパン屋さんのためにもどうにかするべきだと思うんだが」
「イチさんにとっては不運ですが、真相を知る分には幸運というか……心中お察しします。まさかお勤め先でこんな事実が隠れてるなんて俺も思いませんでした」
「いい加減にしてくださいイチ先輩、なんで毎回毎回妙な出来事ばっかり招くんですか……」
「ハナコ、失礼だからな……? でも見事に生活圏と被ってるよなあ、これ」
「俺もパン屋さんが心配だよ……あ、もちろんイチ君もね? いや、うん、すごいよねある意味」
「もう本人たちとっ捕まえて尋問したほういいんじゃないかな……!?」
「荷を偽って運んだ時点でもう一つ罪犯してますからねえ、クラングルとイチさんの平和のためにお早めに対処するべきだと思いますよ」

 幼馴染から同僚から狩人まで好き放題言いやがってる。
 わん娘の手がぽふぽふしてきたぐらいだが、この「ふざけるな」を煮詰めた図に一言申してやろう。

「なあ、いいかみんな? 働き先や寝床がピックアップされるのは嬉しいけどな、何もこんな形で紹介されたくはなかったぞ。俺のご近所丸ごと事故物件みたいにしやがってあの白いクソども」

 白き教え子ども、もしお前らがクソ野郎だったらただじゃおかねえぞ。
 しかし実害が今のところほぼないのだ。
 だからこそ「じゃあお前らぶちのめす」とならないいやらしい歯がゆさがある。
 もやもやした気持ちが「集会中にライフルグレネードでもプレゼントしたい」ところまでせりあがってるが。

「何かをしてる、何かを都市に持ち込んだ、そしてこいつのご近所に何かがあるっていうことが分かったんだ。ギルマスに報告する分の情報は集まった、ひとまず他に細かい情報をここでまとめておくぞ」

 タケナカ先輩に「おちつけ」と背中を叩かれてやめた。
 でも俺はもっと調べてみたい気分だ。
 こうも街を巻き込んでるなら、別の繋がりがどこかに隠れてるかもしれない――

「……しかしまあ、こんな悪趣味なもん張り付けるとは何考えてんだかね。こんなの喜ぶの、自分があやふやでイキっちゃう中学生高校生あたりが限度だろうに」
「た、タカアキ君……? それ、あの張り紙だよね?」
「街の景観のために剥がしてきたぜ。まあどうせ世の中終わるなら一枚ぐらい持って行ってもいいだろ?」

 そう考えてるとタカアキがミコに何かをひらひらさせてた。
 黒くて大きな人型と、美化された白い人間が一緒くたにされた怪文書だ。

 【偽りの妖精たちが蔓延るけがれた現世を白き神は許さない。この世の堕落を舞い降りし黒い天使が証明した、白き勇者がそのものを浄化した時、福音は訪れる。我々は神に惜しみなく力を捧げる、妖精の血を神の御身へ】

 ご丁重なことに――最初に見たものとはイラストの構図も文面も違うみたいだ。
 剣を手にした白いやつが黒い何かに挑む、少々大げさな表現があった。
 が、その背中には別の色合いが浮かんでた。
 赤と金だ。宗教的に言えばワインのようなものが、金色の盃になみなみ注がれてる。

「……捧げるか。悪いけどそう言うのはごめん願いたいけどな」

 ここで一つ嫌なものが浮かんだ。
 その手の人種が本気を極めすぎて、犠牲者を生むような儀式でもおっ始めてたら?
 つまり生贄だ。残念ながらそういうのを求める奴らとは何度も会った。

「おい、衛兵さん。ちょっと聞きたいことがある」
「む、どうしたイチ。何でも聞くがいい」
「このあたりで行方不明になったやつとかはいるか? 誰かが死ぬような事件があったりは?」

 こんなアプローチはしたくなかったけど仕方ない。
 せっかくの衛兵にクラングルの犯罪事情についてお尋ねすることにした。
 ところがだ、そんな問い掛けに向こうは「そうだ」と小さく話し合い。

「あいにく誰かが亡くなるような事案はそうないが、行方不明という点では思い当たるフシがあったな」
「ああ、確かに行方知れずという案件があった。だがこの件とつながりがあるかどうかは分からんのだが」
「何か思うところがあるようだな。なんなら、その件に関わる者たちと話してみるか? ちょうど事情聴取をしているところだったんだ」
「だったらそいつらに会わせてくれ。ちょっと気になるからな」

 トカゲづくりのお姉ちゃんたちはまさに触れるものがあったらしい。
 状況的にカルトと絡んでる可能性は高い、どうか外れてほしいもんだけどな。

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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

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