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剣と魔法の世界のストレンジャー

メイドとのきずなが深まった!!!

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「んあ……?」

 ぱちっと弾けるように目が覚める。
 気づけばヴァルム亭より上等なベッドと枕の柔らかさの上にいた。
 なんだか馴染みのない白い天井が見えるけれども――足先から欠けた脳のあたりまで、心地の良い痺れがあった。

 ……いや、信じられないぐらい全身が軽い。
 骨にこびりついてたような不自然なこわばりもなくて、イメージ通りに身体に力が入る。
 頭の中も汚れてたものがきれいに洗い流されたみたいだ。
 どこからどこまで疲労感を絞りつくして、代わりにありったけの活力を注いだような爽やかさだった。

「ん゛ん゛ーー……寝てたのか……?」

 まあ熟睡した心地があるのは確かだ。半身をぐっと伸ばした。
 みちみちと筋肉が伸びて気持ちがいい……白くて艶の張った腕が良く伸びる。 
 それにどこか艶っぽさのある甘い香りを鼻いっぱいに感じた。
 見下ろせば胸板いっぱいの忌まわしい傷跡からも、上品な石鹸みたいな香りが漂ってるような――

「いや、まて、どういうことだ……?」

 が……すっきりした脳が異変を掴むのは容易かったはずだ。
 俺は今、一体どうしてか裸なのだ。
 左腕には相変わらずのPDAが相棒らしく振舞っているものの、一糸まとわぬわが身を感じた。
 なんなら下もそうだ。よくできた寝床の肌触りに、なんだかこう柔らかみとぬくもりも下腹部に感じ。

「あ……っ♡ お、おはよ……もう起きたんだ、あんた? けっこー早起きなんだね、健康的じゃん」

 ちょうど目で物色した先、少し乱れた黒髪も羊耳と角をセットにやってきた。
 不愛想な顔をうっとり染めたメリノが一体どうしてか、自分の腹の上で這ってるように感じる。
 肌のすべりがいい引き締まった身体も重なって、確かめるように二人分の胸板がしゅりしゅり擦れる……。

「……あー、お互い健康的みたいだな」

 一瞬、正気を失いかけた。
 でもぎり耐えた。そんな面識のなかったメイドさんが同じ身振りで重なってんだぞ?
 どうにかこうにか冷静を保ちながら、あと腹の上でもじもじしてる愛想悪し愛嬌良しな羊系の美少女を眺めてると。

「……あんさ、あんた、この傷どうしたん? や、ロアベアパイセンから噂は聞いてたけど。なんかあった系?」

 ふにゃっと落ち着きつつ、それでいて心配したまなざしを胸元に向けられた。
 羊らしい横長の黒い瞳はすすっ……と人の傷跡をしなやかになぞってくれてるが。

「……色々あったしなんかされた」
「そか、痛くない? 大丈夫なん?」
「雨が降るとずきっとくる」
「ふうん。幻肢痛みたいなもん? あっ……気にしてたらマジごめん、別に気持ち悪がってるとかじゃないから、あんたのこと気になるだけだし」
「こうして受け入れてくれてるのは分かるからいいさ。それにやってくれた奴にも仕返ししたからな」
「あ、そ……いや、なにおっかないこといってんのお兄さん。てかさ、そっちだってこっちの羊っぽさ受け入れてくれてんじゃん? 平気なん?」
「生憎お前より可愛げのないやついっぱい見てきたところだ」
「え、なに? どんなお付き合いがあったのその人生? こっちのこと可愛く見えちゃうぐらいなんかあったん?」
「生物学上フランメリアに来るまで邪魔になるようなやつらとお付き合いしてきた。今頃全員あの世だろうな、地の底の方の」
「うーわ……ガチめな言い回しだこれ、酸いも甘いも通り越して生きとし生ける物の味しめちゃったやつ。でもちょっとカッコいいじゃん、そういう人嫌いじゃないよこっちは」
「こんな訳ありでも受け入れてくれる奴も嫌いじゃないぞ」

 頭の片隅でとりあえず現状を掴もうと試行錯誤して分かったのは、今この時がまるでピロートークみたいになってることだ。
 思い出せストレンジャー。俺は確か、そうだ、ロアベアにマッサージを受けに切ったんだよな?
 胸の上で「ふうん、相性いいじゃんうちら」とくつろぐヤンキーな羊娘の上で、そっとPDAを開けば。

「ところで一ついいか?」

 時刻は五時だ。ただし早起きする時間帯の方の。
 はしたなく「うわあああああどうなってんだあああああ!?」という叫びを出すのはみっともないので、極力冷静に尋ねることにした。

「ん、どしたんお兄さん」
「ここはどこから始まる質問オールインワンが手元にある。とりあえずなんで俺たちは裸でベッドの中ご一緒してんだ?」

 むにむに。そんな風に形のいい頬を揉んでやりながらだが。

「……そんな面識ないのにさ、こっちのことえらく可愛がってくれたじゃん、あんた。いやなに? もしかしてまだ昨日の余韻浸ってる系? 別にいいんだけど……♡」

 ニクほどじゃないがジトっとした顔が胸の上に乗ってきた。
 居心地の良さそうな様子になんだかすっきりした頭に記憶がよみがえってきた。そうだ、ロアベアにマッサージしてもらって――
 なにかこう、思い出してはいけないような気がしてくるが。

「ふふふ♡ お目覚め早々気だるげに盛り上がるなんてお元気だね、二人とも♡ みんな艶やかで美しかったよ、もちろんこの私もね……♡」

 すぐ隣、ベッドの奥からずぼっと何かが顔を出す。
 真っ白狼耳なボーイッシュ系メイドさんだ、通称ラフォーレ。
 バランスのいいすらっとした身体はやっぱり全裸で、色っぽいお顔が親し気である。

「あ、ラフォーレパイセンおはよーございます、朝から相変わらずきらついてますね。テンション高くて大好きっす」
「こんなにじっくり休めたんだからね、身も心もきれいになって私の美しさにも磨きがかかってしまったじゃないか……♡」
「もう朝の五時っすもんね、うちらどんだけ寝たん? 夕方過ぎから死んでたひょっとして?」
「…………あー、昨日何があったか説明できるか?」

 すごくきらきらしたまなざしもあったが、そのノリを信じてダイレクトに尋ねてみた。

「何が、って……君と私であんなに燃え上がったじゃないか、子犬ちゃん……♡ もう忘れてしまったのかい、それとも思い出させてほしいのかな……?」

 するとラフォーレは白い狼の腕でつやっと頬を撫でてきた。くすぐったい。
 どちらかといえば後者にあやかりたい気分だ。切実な思いを込めて。

「ああ思い出したい気分だな、省みるって意味で。特にその、俺たちがこうして裸で仲良くしてるあたりが」

 気持ちのいい目覚めに嫌な予感がまとわりつくが、おそるおそるに尋ねると。

「君がみんなと仲良くしてくれたからね……♡ 昨日は浴場でたっぷり清め合ったじゃないか、泡にまみれて濃厚な時間を共にしたのをもう忘れてしまったのかい? 愛いやつだな君はー♡」

 艶のある毛皮でくすぐってきながら、あの鋭い爪が空中をかいた。
 間もないうちに*ぴこん*と着信音。画面を開けばラフォーレから画像が送られていて。

「………………忘れてた気分だ」

 欠けた記憶がそこにあった。お屋敷の地下にある白い浴場が映ってる。

 湯気が立つそこでは大量の泡がこぼれていて、そこでしっとり濡れた髪のまま誰かに押し倒された奴が一名。
 茶髪で傷だらけの野郎が泡をまとって恥ずかしそうに赤らむその上、舌なめずりをする羊系ガール。
 そばでにまっとするリム様やクソデカメイド、そしてガン見するジト目も泡の中に紛れてた。
 極めつけは胸を乗せた生首が熱っぽい視線で見下ろしていて、その背後で数多の人外メイドさんたちがもじもじ――そんな場面だ。

*ぴこん*

 更に何かが送られてきた。ロアベアからだ。
 開けば床の上で「誰だこいつ」といいたくなるような美顔でぐったりする擲弾兵系男子と、横で同じくするわん娘のペアである。

「いやあ……すごかったっすねえ♡ 夕暮れまでぶっ続けになっちゃうなんて思わなかったっす……♡ あんな数のメイドさんたちとイチャイチャするとか、やっぱり英雄って色を好むんすねえ……♡」

 そして横で何かがもぞっと出てきた。知ってるやつの生首だ。
 裸の女体が抱えるによによ顔は雰囲気に馴染んだうっとり具合で人懐っこく――ロアベアァ!

 同時にぼんやりと思い出せてきた。そうだ、そうだった、俺は確か浴場につれていかれたんだ。
 そこからの記憶がどうもあいまいなものの、すっとんだそれは確かにこうして証拠として残ってる。

 でもな、これら全てを鵜吞みにできるならこういうことになるんだぞ?
 真昼間から夕方までぶっ続けで泡まみれになって、メイド以下男の娘までお相手する羽目になったと。
 そして二枚目のこの大量のメイドさんはなんなんだよ。まさかこいつらとも意味の深い接点を持ってしまったのか?

「……ん……♡ 気持ちよかったね、ご主人……♡」

 そんなロアベアの懐からダウナーな男の娘が誕生した。
 居心地の良さそうにむにゃむにゃした愛犬はとろけた顔でこっちを見てる。
 女の子同然の裸の姿は今日も元気だ――何がとは言わないけれども。

「……なるほど、そうかそうか」

 よくわかった。何せ腹がぐるると飢えを訴えていたのだから。
 もう一度スクリーンショットを確かめた。
 にわかに信じがたいが、泡まみれになった俺が確かに映ってる。
 それはつまり、頑張りすぎた俺が昨日の夕方から翌朝までこうしてぐっすり眠ってた証拠になるわけで。 

「……ようやくお目覚めになられたようですね、イチ様。おはようございます」

 がちゃっ。
 誰かさんのための客室に誰かが押し入ってくる。
 何もかも大きな黒髪ショートのメイドさんだ。扉をくぐるように踏み込むと、冷静な顔立ちがすたすた歩み。

「昨日のあなたの振る舞いには驚かされました。まさかあれほどの有象無象のメイドたちを律儀に一人ずつお相手なさるとは……化け物としか言いようがありません」

 すげえ嫌な情報を足してくれた。
 スクリーンショットに映る人外メイドさんたちと正々堂々一人ずつ向き合ったっていうことになるんだぞ、それ。
 記憶がぶっとぶほどに頑張った証拠だってさ――ふざけんな。
 そんな彼女が大きな尻をゆさゆささせつつ、しゃーっと部屋のカーテンを開けば。

「…………ですが素敵でした♡ この『スレンダー』族のクロナの身はあなただけのものですよ、未来の旦那様……♡」

 一体何やったんだろう俺。黄色さを感じる朝日の下で、クロナの冷たい顔が甘ったるく笑んでる。
 よーーーく分かった。大胆にもこのクソデカメイドも抱いたんだな、ストレンジャー。
 よし起きるか――信じられない記憶と一緒に、俺はすっとベッドから抜けた。

「よし、聞いてくれみんな。実を言うと昨日の記憶がないんだ」

 周囲を探ると荷物があった。ズボンと上着に身を通して、とりあえず現状を語った。

「……え? 忘れたん? あんなすっごいことしたのに?」
「またまたー♡ 恥ずかしいのかい、子犬ちゃん? 気持ちよさそうににっこりしてたじゃないか君……♡」
「お風呂の上でバーサーカーになってたっすからねイチ様ー♡ あれ、もしかしてガチでお忘れっすか?」
「……ぼくがお部屋に運んだの、覚えてない?」
「お忘れでも問題ありませんよ。このクロナはあなたのことをしっかり覚えましたから」

 反応はガチだった。全員抱いたってさこのド変態。
 なんならどうしてこの部屋でみんなと一晩共にしたのかもすっぽ抜けてるんだぞ。恐ろしいことしやがって俺。

「そして二つ言いたいことがある。一つは責任はちゃんと取るからごめんってことと……」

 そして俺はしっかりと靴を履き直した。ストレンジャー再起動だ。
 それから、妙にすっきりした身体をきゅっとしめた。
 バックパックも身に着けて朝五時早々に平常運転だ。ありがとうロアベア、すごく身体が楽だ。

「んでもう一つはこうだ――」

 気持ちのいい目覚めにあやかり、朝日を背にすたすたと客室の扉に手をかけ。

「うわあああああどうなってんだあああああ!?」

 恐ろしい事実から全力で逃げ出した! 命がけで走れ!
 振り返らずに出るなり通路を駆け抜ける。皮肉にも解れた身体が屋敷の外までの道のりを軽々運んでくれるが。

「……あっ、イチ様……!」
「……お、おはようございます! ど、どうかなされたんですか……?」

 その途中だ、早起きで健康的なメイドさん二人と出くわした。
 知らない組み合わせだった。白黒のお淑やかな装いには安直なエルフの長耳と、猫らしい四肢と耳&尻尾が混じっていて。

「あ、どうもおはようございます……」

 呼びかけられたのでいったん足を止めてご挨拶した。
 するとどうだろう、二人はそれらしい振る舞いがあったものの、なんだかうっすら頬を赤くし始めて――

「……昨日は、えっと、ありがとうございました……♡ 大好きです……♡」
「……あ、あの……いつでも待ってますから、ご主人さま……♡」

 すっげえもじもじしながら、すっと長いスカートをたくし上げてきた。
 恥じらう顔には清楚な下着が朝のご挨拶として連れ添ってる。そんな馬鹿みたいな事させるほど何かしたってことは俺は。

「うっううっわあああああああああああああああああああああ!?」

 なので逃げた。畜生、何かがおかしいぞ!
 たった半日で何をしたんだ俺は!? センシティブなご挨拶から逃げ出せば。

「……あ、おはよーございます♡ どうしたんですか? 大声上げちゃって」
「イチ様だー♡ えへへへへ……また一緒にお風呂入りましょうねー♡」

 また曲がり角の先でなにか出くわした。
 白い羽が生えた天使さながらの金髪メイドに、青肌青髪な小悪魔メイドがフレンドリーである。
 間違いなくどっかで接点を持った何かである。艶めかしい視線がその証拠だ。

「うわああああああああああああああああああああ!?」

 だから逃げた。一体俺の人生はどこで狂ったんだろう。
 逃げて逃げれば行く先々に騒ぎを聞きつけたメイドが勢ぞろいだ。色っぽい視線をかき分けて抜ければ。

「イっちゃん! 朝からはしたないですわよ! どうしたんですの!?」

 玄関に少しでたどり着こうって時だ、俺の良く知る声が向こうから届いた。
 大人姿のリム様がぷんすかしながら見守ってるところだった。
 しかしなんかおかしい。白肌豊満な身体を横からあふれさせて、下着のない鼠径部をうっすら感じる――裸エプロンだ!

「うわあああああああああああああああああああああああああ!?」

 急転換してクラングルへの自由を求めた。この状況じゃすこぶる危険だあんなん。
 リーゼル様あたりの『何じゃ騒がしい!?』という眠たげな声を背にしつつ、そのまま屋敷を後にしようとするも。

『昨日から元気なのはいいですけれどご飯ちゃんと食べていってくださいまし~! イっちゃんのためにマカロニアンドチーズも作りましたわ~!』

 リム様の口から好物の名が聞こえた――マカロニアンドチーズだ!
 よしやっぱ戻ろう。ぎゅるっとUターンをキメて白肌エプロン姿に向かうことにした。

「えっマジ!? 食べるー!」

 もうこうなってしまったもんはしゃーない、そう割り切ろう。
 けっきょく、二段階ぐらいぶっ飛ばしたメイドさんの視線を受けながら戻ることになった。

「うふふ、イっちゃんったら相変わらずあのお料理が好きなのですね。まずは顔を洗ってらっしゃい?」
「分かった、それとおはようリム様」
「おはようですわ♡ もう、昨日から何も食べてないでしょう? しっかり食べて今日も頑張るのですよ?」
「いやたべるんかーい……ほんとなんなん、この人……」

 いつのまに追いついてたメリノから突っ込みがきたが、リム様の大きな尻と尻尾を追いかけて朝ごはんにありつきに向かった。

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