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剣と魔法の世界のストレンジャー
夜間警備の依頼(1)
しおりを挟むどこぞの女王様風の表現でティータイム半ばあたり――俺たちは依頼の説明を受けにいった。
クラングルの南部で『我々は見ている』とばかりに仰々しくしてる建物だ。
レンガ造りの二階建て、それもわざわざ鉄柵まで囲わせたお堅い場所は、壁の内側の貴重な面積をだいぶ陣取っていた。
持ち主は街の衛兵だ、武術に長けたトカゲ系の女性が活躍する職場らしい。
そんな彼女たちの活躍あってこの街はクラングルらしさを保っているが、ここ最近はそうもいかないという。
その事情に触れるべく、詰所の広場に集ったのは一個小隊大ほどの数だ。
人間人外問わずの信頼に値する連中がわらわらすれば、衛兵と商業ギルドの組員が依頼の背景をまず話してくれた。
"クラングルはかつてないほど賑わってる"――これが現状だし原因だ。
唐突に来た旅人たちがフランメリアに落ち着いてはや半年ほど、外からきた刺激に都市は栄えていた。
その影響もようやく落ち着いたかと思いきや、先月あたりの『転移者帰還イベント』が起きればまた国中が大騒ぎに。
この国が目まぐるしく変わればこの都市もまた変わる。
そういう事情があって、この世はまだまだ賑やか盛んになってるわけだ。
ところがここで一つ問題があった。
人が増えて栄えれば、同じくして都市の面倒ごとも増えるのである。
そこで衛兵の活動を支援するクランが設立された。
その名も衛兵支援組織【イーリアス】で、彼女たちと街の平和を守ってこれで無事解決――じゃないからこうなった。
最近はクラングルも冒険者やらパン屋やら賑わって経済が良く巡ってるようだけど、だからこそなんだろうか?
街の賑やかさにあやかってあちこちで不審な人物が目撃されてるらしい。
例えば、いきなり街中で白き民について説き始める奇妙な集団。
例えば、夜な夜な人前にいきなり現れては裸体を見せる人物。
例えば、道行く人に支離滅裂で卑猥な発言を高々に伝えて去っていく誰か。
暗くなれば街の秩序に中指おったてるがごとく振る舞う変人が、理性というまごうの檻から解き放たれてるのだ。
クソみたいな催し物がこうも相次げば、市のお偉いさんが腹を立てるのも仕方ない。
せっかく繁栄の真っただ中にある街に汚物があったら台無しである。
そこで最近活躍しているという冒険者に「これだ」と目をつけたらしい。
衛兵や支援組織の面々と我が物顔で夜の街を歩いて、ここで好き勝手出来ないことを分からせろ――だとさ。
あわよくば不審者を捕まえる、良くて冒険者側が「お前らを見てる」というメッセージ性をお届けする、それがこの依頼だ。
不審者スポーンの頃合いに合わせてタイムリミットは深夜、午前二時まで。
コンセプトは「寝ない悪い子には寝ない良い子をぶつけろ」だ。
報酬は4000メルタ。不審者を確保、収容、ムショ送りにすればボーナスつきである。
◇
招集された俺たちが4000メルタですることはこうだ。
『シート』を掲げて衛兵たちと市内を練り歩き続ける、以上。
「…………こんなしょうもない理由で集められたのか、私たちは」
そんな背景のもと、街の肌寒さにため息交じりの悩ましい声が上がった。
名前はエルヴィーネ、通称エル。結んだ栗色の髪と爬虫類らしい瞳がきりっとしたミセリコルディアの戦士担当。
厚着からはみ出す緑のトカゲのしっぽは不機嫌真っただ中で。
「まさか団長もさ、変態不審者の抑止力になれっていう理由で集められてるとは思わなかったよ……ほんとしょうもないや……」
「私もこの街には時々物申したい時があったが、今日は特にそんな気分だ。いやなんだ、怪奇極まりないメッセージを残す不審者とは」
「……この仕事するってことは、そう言うの目の当たりにしちゃうってことだよね団長たち」
白い息をたっぷり温かく漏らしつつ、どこか遠くを見るお姉さんもまた一人。
夜でも温かみを感じる赤い髪色の下では、良く喋る顔が冒険者の仕事の選べなさを悔いてるところだ。
竜らしい尾はげんなりだ。ミセリコルディア団長担当、フランがそこにいて。
「大丈夫ですよ、今回いち君もいますし。セアリさんとニクちゃんの嗅覚もあれば、今宵エンカウントする変質者なんてボーナス同然です」
「セアリってさあ、夜元気だよね……」
「ふっ……セアリさんは夜に強いのですよ、不審者だろうと臨時収入のために捕まえて見せますよ」
「夜行性のメスなんだねつまり」
「誰が夜行性のメスですかコラ」
夜の暗がりに元気な夜行性のメス――じゃなく、青色髪のワーウルフも追加だ。
ドヤ顔に定評のある人柄は暗い世界でのお仕事に興奮気味である。
こうして態度もケツもデカい狼系女子のセアリも先陣で尻尾をぱたぱたさせる中。
「……わたし、お仕事でも変なのとは会いたくないです……」
「ミコ、貴様は何かあったらすぐ私たちの後ろに隠れるんだぞ。いいな?」
「団長も会いたくないけどしょうがないよね……やばい時はイチ君のバイオレンスに期待しよっか」
「大丈夫ですよミコさん、そういう時は人じゃなくメルタが歩いてると思えばいいのですから」
その後ろ、賑やかさの消えるクラングルの街並みに不安げにする相棒がいた。
うさぎ耳の立つ上着で暖を取りつつも、一段の後ろでとぼとぼ足が進んでない。
その名もミコ。依頼の説明に終始困惑してた『ミセリコルディア』のマスターで。
「――怪しいやつは撃っていいんだよな?」
「ダメに決まってるだろう馬鹿者!?」
「遠慮のなさを生かす場面じゃないからね!? イチ君今日も攻撃的だね!?」
「なんでこの人ためらいもなく銃持ち出してくるんですかね……」
「絶対ダメだよいちクン!?」
そんな面々の傍ら、俺は『夜間警備の依頼』に同行していた。
依頼者から「威厳出して」という切実な願いでジャンプスーツに擲弾兵のアーマーを重ねた今、なぜかこうして散弾銃を携えてる。
てっきり12ゲージの制圧力が必要なやべーやつのがいると思ったらこれである。
「……ん、知ってる匂いがする」
それから横でべったりしながら鼻をすんすんさせるわん娘もだ。
フードも被ったダウナー顔はこういう時頼りだ、犬の嗅覚があれば変人のきな臭さもすぐ掴むだろう。
「一応言っとくけどな? 依頼の説明で知ってる顔がいっぱい集まってて、さてどんな仕事かって思ったら俺たち総出で不審者への対応だぞ? 変態って表現がつくほうのな。そりゃ住民も迷惑するわ馬鹿野郎」
「ああ、説明中にタケナカたちもひどく困惑していたな……」
「団長、ミセリコルディアが呼び出されてそんなに大変なのかなって思ったんだよね……」
「大変っていうか変態ですよね、でも途中で帰っていい雰囲気じゃありませんでしたし」
「みんな渋々引き受けてたよね……衛兵さんたちも切実にお願いしてきたし、断れなかったもん……」
仕事のひどさは今後延々語り継ぐとして、俺はミコたちを越して向こうを見た。
詰所から通じる石畳をまっすぐ北へ進んでいるところだ。
このまま進めば中央通り、このまま中央の公園にたどり着く道のりだったか。
「……で、まず俺たちはまっすぐリーゼル様の屋敷の方へと突き進むと。タケナカ先輩たちは南側から東の冒険者ギルド支部方面に向けて横断していくらしいな」
説明を聞いた後は(微妙な空気のまま)冒険者たちで話し合ったわけだ。
どう巡回するか? そうタケナカ先輩が話を持ち掛けたのである。
何十と集まった俺たちは衛兵の巡回ルートとの兼ね合いで南側からスタート、端から端まで広がっていくローラー作戦を選んだ。
今頃、いつもの人間ばかりの顔ぶれは小分けになってクラングルを探ってるらしい。
「うん、タケナカさんはホンダ君とハナコちゃんを連れて北東へ進むって言ってたね? ってことは、一度中央公園で合流するかも?」
ミコが歩きながら宙に指を動かしてる――メニューで地図でも見てるんだろう。
ならってPDAで確かめれば、通りのまっすぐ加減を辿ると『中央公園』がある。
「中央公園か……何度か来たことあるけど、まさかこんな形で行くことになるなんてな」
「わたしも依頼で立ち寄ることになるとは思いませんでした……」
その名の通り、都市のど真ん中に位置する一際大きな広場のことだ。
人の多さを広い芝地いっぱいに受け止め、いつ見ても陽気な場所だった。
ニク散歩やパンの配達で通りかかることがあったけれども、今回はずいぶん不名誉な形で足を運ぶことになりそうだ。
「……ところで不審者の匂いってどんな感じなんですかね」
「……ん、うさんくさい?」
「ニクちゃんうまい……じゃなくてですね、一応知ってる人の匂いはセアリさんばっちり記憶してるんですけれども」
セアリとニクの嗅覚的には、今のところ道中に異変はないらしい。
だったら俺たちにできる最善は目と耳を凝らして地道に探ることだ。
「……っていうかさ、こんなにぞろぞろ押し掛けたら流石の不審者も引っ込んじゃうんじゃないかな。冒険心と一緒に」
途中の路地やら店先やら、いろいろ探っているとフランがふと口にしてた。
市がこうして「冒険者派遣します」と声高々に有言実行したわけだし、街を困らせる奴らも腰が引けてると思う。
「こうまで大々的にやったら向こうの耳にそりゃ伝わってると思うけど、抑止力にはなってるだろ。今後お前らには冒険者もお相手しますってな?」
「そして次からは貴様らを見る目が増えるぞ、と印象付けるわけか」
「実際不審者を捕まえたら報奨金がでるっていってただろ? 向こうは首に金かけられたスリルとご一緒してるんだぞ」
そしてエルの口ぶり通りに「君を見てる」と言えるような人種が増える。
要するにこうして今日昼過ぎから正式に不審者の敵になったのだ、俺たちは。
向こうがスリルとして味わうほどの変態じゃない限り、今後堂々としないはず。
「……実際効果はあると思いますよ。だって特にトラブルもなくここまで来ちゃいましたから、セアリさんたち」
「そうだね……今のところは異常なし、かな?」
そう考えて間もなく、セアリとミコの言葉通りに事が進んだ。
左右を挟む建物も抜ければ『中央公園』の佇まいがあっけなく見えてしまう。
歩道と並木がこしらえた四角形に、手入れの届いた芝生が遠く続いていた。
ところどころの照明が暗がりから景観を守っているらしいが、力足りずに気味悪くどんよりしてる。
「俺から言わせてもらえばここから異常が起きそうって感じだ。昼間とはえらい違いだぞ、ここ」
「ん、暗いと不気味」
いつも一緒に足を運ぶニクも耳がぺたんとするほどだ。
不用意に芝生を辿ればその先で幽霊でも気さくに現れるんじゃないか、そんな不安を感じる薄暗さだ。
更に言うならここに世の中の物騒さを足せば、不審者が出るにはうってつけだろう。
「……確かに薄気味悪いな。普段はあれほど人で賑わってるというのに、なんだこの静けさは……?」
「不審者っていうかお化け出そうだね……団長怖いです」
「心霊関係は申し訳ないですけどセアリさんNGです。ミコさんのセイクリッド・ウェーブで退治してもらいましょう」
「魔法を使わなくちゃいけないような幽霊に会うのは流石に嫌だよ……」
「おい、幽霊の話するな」
「何か出てきそうな雰囲気がする」
『……おい、まさかお前らか?』
みんなで公園にホラーな想像を掻き立ててると、横から不意の声が挟まる。
この時ばかりは全員の意思が一つになったと思う。
六人でばっと振り返れば、通りの方から坊主頭が見えて。
「あっ……イチ先輩にミコ先輩! ど、どうでした……?」
「合流しちゃいましたね、私たち。こっちは特に異常なしだったんですけど」
「ご覧の通りこいつら連れて北東に向かってたが不審者の「ふ」すらないぞ。そっちはどうなんだ?」
後ろからホンダとハナコの地味な顔立ちが二つついてきて安心した。
良かった、お化けじゃなくてタケナカ先輩たちと合流したか。
「今のところは異常なし。公園の不気味さに盛り上がってたところだ」
「あれからまっすぐ進んできたんですけど、特に何も見当たらずにここまで来ちゃって……」
ウサギ耳がみょいみょいしてるミコと一緒に「問題なし」をアピールした。
向こうは「そうか」と退屈そうだ、まあ、先にの気味悪さにちょっと顔をしかめたらしい。
「……確かに昼間とはえらい違いだな。ホラー映画が作れそうなんだが」
「タケナカ先輩、もしかしてお化けとか苦手だったりします? 俺大丈夫なんですけど」
「ホンダ、先輩にそんなつまらないことでマウント取ったら印象悪くなっちゃうよ」
三人ともこうしてきたってことは南側は安全なんだろう。
そうとなればこれからが問題だろうな、そう思ってみんなで先を見つめると。
『うおおおおーーーーーーーーー! 不審者ぁぁぁーーーーーーーーーー!』
夜の公園の上空で不審な声が走る。
全員分の視線が持ち上がったのは言うまでもない。
見上げれば頭上で銀髪と鎧が煌めいてた、白い羽をばさばささせながらだが。
「あれは不審者じゃないよな?」
「……衛兵支援クランのマスターさんだね」
「何事かと思ったが【イーリアス】のやつだな。あの様子からして不審者を捕まえる側に立ってるみたいだが」
なんてことはなかった、あれこそが衛兵支援をしているクランのマスターだ。
前に下半身露出罪の人間を逮捕してもらったのが印象深い。元気で何より。
三人で見上げてると西の空へ旅立ったようだが、いきなりタケナカ先輩は「待て」と宙に手を触れて。
「いや、キリガヤ達から報告だ。ミナミさんと一緒に不審者を捕まえたらしい」
怪訝な顔でメッセージを見ている――さっきの大声の理由がよく分かった。
「さっそくかよ。ていうかミナミさんも来てたのか」
「つ、捕まったんだ……?」
「狩人ギルドからも何人か来てるからな。えーと……【妙なやつが白き民を崇めよという張り紙をそこら中に貼りまくっていた】だそうだ。二人でふんじばったとさ」
「マジで不審者じゃねーか」
「ほんとにいたんだね……」
そりゃ羽生えた姉ちゃんも気合が入ると思う。
「キリガヤ先輩たち、捕まえちゃったんだな……」
「あの人無駄に行動力あるしね、こういう時強い気がする……」
耳にしたホンダとハナコも「ほんとに出たよ」といいたげだが。
「引っ込むどころか逆に堂々としてるようだな。どうなってるんだ……?」
「あちゃー、出ちゃったかー……これ、団長たちもそろそろエンカウントするんじゃなーい?」
「何事もなくと思ったんですけどガチですねこれ……気をつけましょう、油断するとほんとにおいでなさいますよこれ」
「う、うん……みんな、気を引き締めようね? わたしもなんだかそろそろ何か起こりそうな気がするし……」
ミセリコルディアも依頼のへんてこさを気にしてる場合じゃなくなったらしい、すぐに仕事モードに切り替わってた。
『……む? 貴官らは確か……』
と、そこにまた知らない声だ。
びしっとした女の子のものだ、どこか覚えがある。
するとホンダが「ひっ!?」と声を上げたのでつられてみれば。
「あれ? お前は――」
「ん……あの時の軍曹さま?」
俺とニクによく馴染んだ姿がそこにあった。
軍帽を乗せた黒髪ロングの女の子がきりっとした顔でいる――ただし下半身に広がる蜘蛛の足がセットだ。
「イチにミセリコルディアの者たちか。というかなんだ、軍曹さまとは」
アラクネの『軍曹』殿だった。
深く羽織ったコートの中で腕を組んで、ホンダの表情に少し不機嫌だ。
見た感じひとりで街の東側を横断してきた感じか、夜の寒さに少し難儀してる。
「こ、こんにちは……? い、いちクン、この子とはお知り合いなのかな……?」
「私は『駆逐隊』の指揮官であるシディアンだ。貴官のことはよく存じてるぞ、ミセリコルデ殿」
「駆逐隊って……もしかして、あのすごく強い子たちがいるクラン? 錬金術師の事件の時も活躍してたっていう……」
「貴官らほどではないがな。こうして会えて光栄だ、よろしく頼む」
蜘蛛ッ娘は軍帽を整えて、ミコを見るなりかさかさ握手しにきた。
確か相棒はクモが苦手だったはずだ、アラニエさんみたいな――と思えば普通に握手してる。
「こうして合流したってことは軍曹殿もお仕事か?」
「ぐ、軍曹って……?」
「ミセリコルデ殿、そいつとは少々任務を共にした仲でな。ご覧の通り私は小銭稼ぎでここにいるだけだ、他の奴らは「健康に悪い」だとかですやすや眠るようなのばかりだからな」
どうも軍曹は「まったくあいつらめ」と文句と一緒に単身ここに来たらしい。
「そうだったのか。そっちは何か変なの見かけたか?」
「衛兵たちの動きにあわせて高所から監視していたが、南側には異常は見受けられなかったな。だが先ほど【イーリアス】の者が飛んでいるのを見かけたところだ」
「知り合いが不審者捕まえたってさ。白き民崇めてる変なのがいけないことしてたらしい」
「本当に現れたか。となると、これから先そのような手合いが間違いなく続くだろうな」
「今まさにそんな話してたところだ」
でも職務態度は本気だ、背にあのクロスボウが軽々抜けるように準備してある。
「……貴様は本当に顔が広いな、イチ。あの駆逐隊と知り合いだったとは」
「これがあのクランのマスターだったんだ……団長、黒髪なアラクネって聞いたからもっとこーお姉さんなイメージがあったんだけど……ただのロリだった」
「駆逐隊ってちっこくて強い子でいっぱいのところでしたよね? やっぱり取り仕切ってる人もロリだったんですね」
「そこの竜族と犬、貴官らは私を侮辱してるのか」
「は? セアリさんは狼ですけど?」
「ロリ言うな馬鹿者ども!? ミセリコルディアの馬鹿二人が申し訳ない、シディアン殿……!」
「は? 団長馬鹿だって言うの? やんのか? やんのか?」
「は? やるんですかエルさん? いいでしょう明日闘技場でインナー食い込ませてやりますからね?」
「……ふふっ、賑やかなのはいいけどみんなやめようね? 特にフランさんとセアリさん」
「うわっミコが怖い!?」
「ひぃ!? 最近ミコさんが怖いです! いち君のせいか!?」
「…………貴官らは噂にたがわず愉快な連中のようだな」
ミセリコルディアの面々は黒髪ロリなクモ娘をどんどん不機嫌にしてる。
騒ぎ立てる二名がミコの笑顔で大人しくされたところまで眺めてると。
「……イチ、お前は老若男女問わず縁を結ぶ趣味でもあるのか?」
「知り合いいっぱいですよねこの人……」
「変な人だけどいろいろな人と仲良くなりますよね……っていうかホンダ、あとでシディアンさんにちゃんと謝っておいた方がいいよ?」
「まだ聞いたら驚くような奴と縁があるぞ。それとハナコが最近きつい」
「お前が魔王だとかと仲良くなってようが驚かんからな?」
「ほんと~?」
「おい、なんだその心当たりあるような言い方は」
タケナカチームはこっちのつながりに驚いてるみたいだ。
女王様なんて知った日にはショックで誰か死ぬかもしれない。
ともあれ、集う面々が仕事もほっぽり出してひっそりわいわいやってれば。
「……誰かこっちに来る」
ぼそ、とダウナーなわん娘が声が横切った。
咄嗟に身構えてしまうのは流石俺たちだと思う。
タケナカ先輩から軍曹に至るまでが咄嗟に武器に手がいってる。
じと顔が向かうのは公園の暗がりだ、俺も吊るした散弾銃に意識が向くも。
『……! ……!』
その誰かは実にあっけなく、そしておぼつかない足取りで現れた。
夜寒さに負けない分厚いコートを着た長身が、向こうからゆらゆら向かってくる。
くぐもった息遣いなのも無理もない、そいつは二本角の生えた銀髪の下を隠していたからだ。
「……おいおい、だからってホントに来るかよ」
「い、いちクン……あ、あの人なんなんだろう……」
「あれも知り合いに見えるか? 残念だけどああいうのは俺初めて」
さすがの俺も、いや、誰だって引いてるだろう。
そいつはガスマスクで顔を覆っていたのだ。
この世界らしからぬ、どっかで拾ったであろうそれでおめかししている。
コートの下は裸足だけど、素肌は暗がりに混じりそうな青色で、人間じゃないのは見て分かる。
もっと踏み込めば服装には胸のふくらみが浮かんだり、後ろで悪魔的な尻尾がうねってるのだ。
『……! ……!』
そいつは判断に困る俺たちを見ると、マスク越しの息遣いを荒くしてきた。
更に近づく。もうニ十歩、十歩、そわそわした青肌の足が迫ってくる――!
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