魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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剣と魔法の世界のストレンジャー

それなりに友は増えて行く

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 怪我人の治療も兼ねてしばらく留まれば、けっきょくそれ以上の敵はこなかった。
 狩人たちが足取りを調べたところ、どうも東の山あたりから降りてきた痕跡が真新しかったらしい。
 推測できるのは俺たちがくるタイミングで増援がきてたかもしれないということ。
 そしてはっきりしてるのは――想定の倍以上を倒したってことだ。

 こっちの被害は「五体満足」ぐらいだったか。
 キリガヤが鈍器で頭を殴られ、ヤグチが矢と槍を受け、ホンダが顔を斬られた。
 手持ちの道具で間に合う傷なのが幸いだ。
 ミコみたいに回復魔法が使えればすぐだろうが、モノがモノなので貴重らしい。
 冒険者稼業では防具が大事なのがよく分かった。どんなに努力しても守られてない身体は簡単に傷つくのだ。

 周囲の状況が落ち着けばお待ちかねの戦利品だ。
 おかしい話だろうけどこの時ばかりはみんなわいわいやってた。
 そういうことが初めてな顔ぶれは最初こそ遠慮がちだったが、すぐ慣れたようだ。
 男女も身分も年齢も性別も関係なく、白き民が落とした物資をみんなであれこれ吟味するのは達成感があった。

 あいつらが現世に置き去りにした数々はまだ使えそうなものばかりだ。
 傷はあれど十数人でも持て余す量はある。持ち帰ることにした。
 アーツも要求値が低い【刀剣】と【弓】のものが落ちてた。狩人含めて希望者の手に渡った。
 ぶった斬った鎧は総意で集会所に飾ることに――本人は嫌がってたが知るか。

 そのあと砦を後にして、狩人たちに導かれながら帰還した。
 昼も過ぎて全員腹が減ってたに違いないし、あんな激しい戦いもあれば足取りはへとへとだ。
 でも背には戦利品がいっぱいだ。重くなった足がこれほどうれしいと思ったことはなかった。
 全員であの門をくぐりかえせば、クラングルの多種多様な顔ぶれが驚いてたのは笑える話だ。
 ギルドに戻れば俺たちの姿を心配されたものの。

『先輩がいい飾り拾ってきたぞ、集会所のアクセントにどうだ?』

 と俺たちは笑ってキャプテンの鎧を見せた。
 タケナカ先輩は苦く笑ってたし受付の姉ちゃんも一安心だ――「こら」と叩かれたが。

 依頼の報告をすれば、今回の件は少し狩人ギルドと立て込んだようだ。
 で、けっきょく7000メルタの価値である。命をベットしてこれだ。
 割に合わない気がするも寛大に許すことにした。何せ戦利品もあるのだから。
 回収した装備を先輩のコネで捌けば中々だ、全員に2000メルタほどが配られた――ちなみに狩人たちも含んでる。

 こうして人間主体の『白き民討伐』が終わればしばらく身体を休めた。
 達成感というか疲れを思い出したというか、集会所でぼうっとしてた。
 そんな時だ、いきなりこんなことを言ったのは。

『腹減った……』

 ホンダだった。おかげで昼飯も忘れてたことを思い出した俺たちは。

『じゃあ今から打ち上げと行くか?』

 と、タケナカ先輩のいい笑顔が打ち上げはどうだと誘ってきたのだ。
 もちろんオーケーだ。狩人たちも無理矢理連れていくことにした。



 この日知ったがクラングルには冒険者ご用達の酒場があるそうだ。
 かつて冒険者ギルドにあったものが独立したらしく、飲食業盛んな通りで数十年も続けているとか。
 タケナカ先輩たちはそこの常連らしく、俺たち新入りはそこへ案内された。
 もちろん仕事が終わった狩人たちを「おらっついてこいっ」と強引に連れて。

 連れてこられたのは横にも縦にも広い木造建築の佇まいだ。
 良く言えば時間を感じるし、逆なら古いような大きさが身構えてた。
 パンの配達で何度か見かけた気はするが、酒とは無縁なせいで意識してなかった。

 慣れたように入り口をくぐる先輩を追えば、そこは俺たちが知らなかった世界だ。
 数十はあるテーブルが広々さを使い切って席を用意しており、そこに同じ身なりの奴らがたくさんだ。
 人もヒロインも、余所者も地元の人も、この混沌とした都市さながらに賑わってる。
 料理の数々を運び回るウェイトレスだってそうだ、人間人外問わずに活躍中である。

「みんな、よくやってくれたな。正直言って俺もあんな事態になるとは想定してなかった、申し訳なく思ってる。だが何より驚いたのはそれでもこうして全員が元気で五体満足でいることだ、ホンダとハナコも『ストーン』に関わらず無事にこの席を共にできて良かった――俺たちに乾杯」
「まさかこのメンバーであんな数をやっちまうなんてな……乾杯、今日はたくさん食っておけよ。お前らが元気で誇らしいや」

 その片隅で先輩二人が木製の容器を掲げたのを見て、俺たちも『乾杯』だ。
 席には総員が思い思いに注文したせいで、豪快に焼かれた肉や深皿いっぱいのパスタや魚料理がこの街の多様性を浮かべてる。

「乾杯。ちなみに俺は酒は飲めないし一生飲まないって決めてる」
「乾杯。おにくだー……」
「乾杯だ! 心配するな、未成年だから飲酒しないぞ!」
「乾杯……っていうか、ほとんどノンアルコールですね。いや俺もそうなんですけど」
「乾杯! あれ、お酒飲んでるの俺と先輩たちだけ?」
「かんぱーい、ヤグチと先輩しか飲んでないね……私はパス、健康気にしてるから!」
「か、乾杯……こういうところ来るの初めてだな、お酒飲まなくていいのかな」
「乾杯です。大丈夫だよ、クラングルってお酒が飲めない人にも配慮されてるから……傷大丈夫?」
「我々狩人もご一緒していいんですかね……まあ乾杯ってことで! いやあ、本当はお酒飲みたいんですけど明日は早朝から仕事なものでして……」

 そんなのを前に各々容器を掲げれば盛り上がって当然である。
 ただし酒が飲めないやつが多数いるせいで中々に奇妙な乾杯の図だ。
 先輩ども(とヤグチ)がこの世界らしい木のジョッキで何かを飲む傍ら、俺たち新入りは大きなグラスでただのジュースだぞ?
 ちなみにミナミさんたちは狩人の仕事の都合上飲めないらしくて残念そうだ。

「私もご一緒させてもらうねー、乾杯。いつも彼氏のシナダ君がお世話になってます、『ネコマタ』のキュウコです」
「改めて彼氏のシナダだ。みんなよろしくな」
「もう、無茶したって聞いたけど大丈夫なの? すごい数の白き民と戦ったとか……」
「死んでたまるかってみんなで頑張ったんだ、戦利品いっぱいだったろ?」

 それとシナダ先輩の彼女もいる、猫の耳と尻尾がまさにヒロインなお姉さんだ。
 冒険者らしい和風の装いには『アイアン』等級がぶら下がっていて、槍使いのそばでぴったり同席である。
 連れ込んだご本人はどこか誇らしげで、タケナカ先輩は「マジで連れてきたか」と苦笑だ。

「――はちみつレモンだこれ!!!」
「ん……濃いけど嫌いじゃない、さっぱり」

 みんなに合わせてニクと歯車印入りのグラスを傾ければ――注文通りの味だ。
 その名も『黄金の蜂蜜レモン』だ、たいそうな黄金色なくせに濃い甘酸っぱさ。

「……未成年のやつは仕方ねえと思うが、お前ら酒飲まないのな。この一際やべーやつに至っては蜂蜜レモンかよ、なんか俺だけ歳を感じるような構図になってんぞ」
「酒にはいい思い出がないんだよ。いや聞いたらこの場の雰囲気ぶっ壊すぐらいのストーリーがあるぞ、聞くか?」
「また今度な。何があったか知らんがせいぜい健康的にやってくれ」
「こっちに来てから毎日健康的だぞ」
「ああ、俺もだ! 筋トレが捗ってるぞ!」

 疎外感を感じてるタケナカ先輩にこれみよがしにグラスを見せつけた。
 同じ飲み物を掲げるキリガヤと肩も組めば厳つい表情は呆れたみたいだ。
 さてどこから飯に手をつけるか――こんがり焼かれた厚切りのハム、香草の効いた魚のステーキ、魚介類たっぷりのパスタ、ボウルいっぱいのポテトサラダ。
 悩んだ挙句に何の因果かポテトサラダだ、食べるとにんじんやら玉ねぎやらが混じるそれに元の世界の味を感じた。

「なんか懐かしい味がするな、このポテサラ……」
「そりゃこの酒場は元の世界の奴がけっこう働いてるからな。日本人向けの味付けが多いんだ」

 もぐもぐしてるとタケナカ先輩がそう教えてくれた、なるほど同郷の仕業か。
 どうして冒険者の顔ぶればっかなのかも分かった。
 なんなら品書きがかかれたボードには【焼き鳥(豚)】とか【カラアゲ(鶏の揚げ物旅人風)】とか【大盛りチャーハン(旅人風米料理)】などとそれらしいラインナップである。

「だから日本人がいっぱいいるわけだ、納得」
「そういう味付けには現地の人達も珍しがって来てくれてるからな、おかげでここも繁盛してる」
「それも人工食品じゃない本物が食えるんだから嬉しい話だよな」
「しかも手軽にありつけるんだ、おかげでこっちで太ったやつはいっぱいいるらしいぞ」
「なあタケナカ先輩、元の世界ってどんだけひどかったんだろうな……」
「そもそも労働のハードルが断然違うんだ、こっちのが天国だろ?」
「違いないな。どおりで俺たちうまくやってるわけだ」

 タケナカ先輩の「ひどい場所だったな」と嫌そうな顔からパスタを狙った。
 アオの魔の手がさらって残り半分だ。一口越しに本物の魚介類を感じた。
 ほんのり塩辛いが麺もぷつっと切れて気持ちいいし、凝縮されたトマトの味に人工じゃないエビや貝のうまみがとても混ざってる。

「やっぱり魚料理はここがおいしいね? いくらでも食べられちゃうよ」
「いや、キュウコ、お前……もう食ったのか? それみんなでシェアするやつ……」
「あ、ごめんつい……すいませーん、お魚の香草ステーキもう一つお願いします!」

 魚のステーキは――シナダ先輩の彼女さんの猫らしさがもう平らげてた。
 みんなも美味しい料理に手が止まらない。一仕事して昼飯も抜いたせいか本当に良く食う。
 どこいっても大体うまい、そんなクラングルの食事事情に救われてるな。

「はーいご注文の旬のフルーツたっぷりプリンスペシャルサイズでーす」

 そう思った矢先に届いたのは、エプロン姿で緑のスライムな女の子――が持つ、ガラスの盃でご丁重にされたプリンだ。
 カスタードとカラメルが固めの質感に出来上がってて、圧し掛かるクリームと旬の果物でお洒落なスイーツになってる。

「ワーオ、なんだこのでっかいプリン。この中に甘党でもいる?」
「おい誰だプリン頼んだの。いきなりこんなの頼む奴なんていたか?」

 デザートを頼む奴はどいつだ、タケナカ先輩が犯人を捜してる。
 もれなくこっちにも来るが「NO」だ、スライム系ウェイトレスに「カラアゲください」と頼むホンダも首を振るも。

「……すみません、それ私です。プリン好きでして」

 いた、ものすごく申し訳なさそうに手を上げるミナミさんだ。
 プリンを頼んだ張本人はへこへこしつつスプーンを入れて幸せそうだ。
 タケナカ先輩は「酒飲んでる方が場違いに感じてきたぞ」とこの場の空気を疑い始めてる、なんともおかしな打ち上げだ。

「――こちら飢渇の魔女特製フライドポテトですわ、召し上がれ♡」

 エプロンでふんわり着飾った銀髪踊るロリも料理をちょこちょこ運んできて、なおさらおかしくなった気がする。
 いや違う――リム様じゃねえか!
 唐突の芋テロだ、大皿いっぱいのフライドポテトがずどんとテーブルを支配した。

「……誰かフライドポテト頼んだ?」
「うふふ♡ サービスですの! どうぞごゆっくり皆さま、いっちゃんもいっぱい食べるのですよ?」
「お気遣いどうも、何してんだよリム様」
「ん、リムさまだ。どうしてここにいるの?」
「しっ! おしのびで働いてますの! 今度お屋敷の方にきてくださいね! ロアベアちゃん暇そうで死にそうですわ!」
「分かったくたばる前にいってやるよ、お芋ありがとう」
「おかわりもありますわよ! たくさん食べてね!」
「はよいけ」

 神出鬼没な芋の悪魔は尻尾をくねくねさせて人混みに消えた――置き土産は香ばしく上がった芋だ。

「むっ、今のはお前の知り合いかイチ?」
「すごい量のフライドポテトですね……ところで今の子、なんだかイチさんと顔見知りな感じがしたんですが」
「知らない方がいいぞ、お前らまでじゃがいもテロ喰らったら溜まったもんじゃない」
「じゃがいも? よくわからんが好物だから大丈夫だ! 筋トレにもいいしな!」
「じゃがいもテロ……?」

 キリガヤとサイトウが芋にやられないために仔細は伏すことにした。
 タケナカ先輩が「なんだこれうまいぞ……!?」とカリカリのポテトに驚いてるのをよそに。

「ほねつきにく……!」

 横広なお皿を陣取る骨付き豚肉を豪快にかじる犬耳ダウナーッ娘がひとり――何やってんだニク。
 そばの受け皿と切り分け用のナイフは眼中にないようだ、がぶがぶしてる。

「イチ君、ニクさんがお肉にむさぼりついてるけど……!?」
「ご、豪快にいっちゃってるね……すごい食べっぷりだ!」
「うわっ何やってんだお前!? それお一人様じゃないぞ、ステイ!」

 ヤグチとアオがびっくりするのも仕方ない、止めに入るが止まらない。
 とうとう「なにやってんだ」とヒト科先輩属分類のタケナカ由来の呆れが向かうも、目を輝かせて骨をばりばり言いだしたたので手遅れだ。
 でも料理は終わらない。空皿が代わる代わる取り換えられて、俺たちはよく食べる。

「そうだ。ホンダ、顔の傷はどうだ? 痛まないか?」

 そうだ気になってたんだ。俺お食事中の地味顔コンビに近づいた。

「あ、イチ先輩。もう痛くはないんですけど……」

 フライドポテトをがつがつしてた片目隠れの表情がぴたっと止まる。
 ただし頬の側面には抉ったような傷跡がいびつに走ってた。
 どうにもあの戦いの経験がよろしくない形で残ってるみたいだ。

「えっと……ホンダの傷なんですけど、傷跡が残っちゃうみたいなんです。回復魔法をかけるのが遅かったみたいで」
「遅かったって? どういうことだハナコ」
「ああいうのってすぐにかけないときれいに消えないそうなんです。傷は塞がったんですけど、痕はずっと残るって」

 そんな痕をざらざら摩る姿を地味な黒髪眼鏡が心配そうに補ってくれた。
 ハナコがこうして言うには回復魔法は万能ってわけじゃないらしい。

「……残っちまうのか、どうにか塞げないのか?」
「お、お食事中なのにエグい表現しますけど、肉がごっそりえぐれてるのもあるそうです。そこにタイムリミットも含めれば仕方ないって」

 つまりこの跡とは長い付き合いになりそうだ。
 高校生だったホンダが負っていいものなのか、とそりゃ心配するが。

「大丈夫ですよイチ先輩、やっぱりちょっと気になりますけど」
「そりゃ気にするだろ。ほんとに大丈夫なのか?」
「今日を頑張った証拠にします、いい思い出にして見せますから。俺、そう決めたんです」

 したたかな奴め。頬をざりざりしながら小さく笑ってた。
 そんな様子にハナコもちょっと安心した様子だ。こいつらも成長したんだな?

「心配すんな、俺もだぞ」

 なので食事の場だろうが知ったことか、ジャンプスーツをあけて傷を見せた。
 一目で向こうは頬の傷なんてどうでもよくなったらしい、とても嫌な顔だ。

「うわっなんですかその……いや、すいません……!」
「こら、失礼でしょホンダ! ごめんなさいイチ先輩、でもそんな気持ち悪いのご飯食べてるときに見せないでください」
「これで俺と一緒だね……♡」
「ねっとりいうのやめてください……!」
「イチ先輩、時々ちょっと気色悪くなるのやめてください」
「ホンダ、なんか最近ハナコが厳しい」
「慣れてください、昔からずっとこうなんですよこいつ」

 ホンダの持つ地味眼鏡な幼馴染は今日も言葉がきつい。
 傷はもう仕方ないとして、二人で白き民を倒したのは間違いないんだ。そんな後輩を持てて俺は嬉しいぞ。
 あとは二人でごゆっくり、俺もフライドポテトをつまみにいくと。

「……いいもんだな、まったく」

 わいわいやってる中をタケナカ先輩が抜けてきた。
 相変わらず美味しいポテトをサクサクかじりながらだけどいい笑みがある。

「どうしたタケナカ先輩」
「いやな、俺たち人間はヒロインに頼らなきゃ何もできないって今まで考えててな」
「あんたもか?」
「まあな。だからまあ、反骨精神ってのか? 俺はほとんど一人で依頼をこなしてたんだ」
「一人でって……じゃあ自分の腕だけでスチール等級までのし上がったのか?」
「スチールになったのはお前のせいだが、実を言うと「人間だってできる」って証明したくてな。剣一本とわが身ひとつでいろいろやってきたのさ」

 が、その口から伝えられた言葉には驚かざるを得なかった。
 人間の可能性を証明するために一人でやってきた? それがマジならどうかしてると思う。
 白き民の「命がもう1ダース欲しくなる」仕事を思えばそうなのだが。

「例えば何をしてきたんだ?」
「最初は手探りだ、冒険者始まる頃には市場の仕事でこの世界の基本は掴めてたからな。安い見返りで郊外に薬草やら拾いに行ったり、倉庫の警備をしたり、その合間でスキルも上げたな。壁の外で角生えたウサギやらに喧嘩を売って痛い目見たこともある」
「一人で負うには大変そうな数こなしてたんだな」
「ああ。で、ある時白き民ってのが気になったんだ。はずれの農村で数体出たからやってくれ、だとさ」
「まさかそれも一人でやったとかいわない?」
「やった。腕には自信があったからな、ちょっと浮かれてたのもある。そしたらアレだぞ? 慢心気味なところにあんなのとご対面だ」

 けっきょくその気持ちはたった一人であの白いのと対峙する運命を辿ったらしい。
 さぞ怖い思いをしたんだろうか、ジョッキを片手に苦そうな顔だ。

「あんなバケモンとお一人でどうぞ、か。俺だったらごめんだぞ」
「その時はそんな気持ちだったな。だがどうにか倒した」
「マジかよ……どうやって?」
「はずれの森にいてな、そいつを一人ずつおびき寄せてざくっ!だ。あの時は俺もおかしくなってたんだろうな、殺されかけたせいであいつらをやることで頭ん中いっぱいだ」

 タケナカ先輩は「こういう風に」と手ぶり込みで話してる、酒も入ってるが。
 次第にキリガヤたちもそっと話に近づいてくるのを背に受ければ。

「仕事がおわりゃ、そんな思いしたのに数千メルタだ。ヒロインだったら楽勝だろうが人間様じゃ割に合わねえよ。なあおい?」
「分かるよ、文句の一つも言いたくなるな」
「だろ? だがそれがこの世界だ、華やかな美少女のそばで俺たち人間は泥臭く手探りで最善を探さなきゃいけない。それでも俺はやってやるって覚悟してな」
「すごいな。そんな思いしてそうやって前向けるなんて」
「ゲームなんだって割り切れる奴は遺憾なくこの恩恵を生かせたらしいがな、だがそんな奴そうそういてたまるもんか。だから俺は「そこらの人間でもやれる」って証明したくなった」
「その結果があの集まりか」
「ああ、勇気を出して一声かけりゃあのざまだ。そこの彼女自慢してるやつみたいに気が合うやつがけっこういるもんでな」
「俺も彼女をよく自慢してたやつを知ってる。そいつも気が合ういい人柄だったよ、しょっちゅう彼女の自慢してて周りがげんなりしてたけど」
「あいつ以外にもいたなんてな。それでまあ、そんな俺たちの下には「なんとなく」で冒険者になるのが増え始めたと来た。だから俺はチャンスと見た、旅人がみんなでうまくやりゃ万歳だってな」

 どんだけアルコールに毒されてるんだろう、空のジョッキを掲げた。
 饒舌さにも磨きがかかったままだ、おかわりを頼んでからまたポテトに手をつけて。

「……だが今回は『ストーン』だろうが『カッパー』だろうが、高校生だろうが俺みてえなおっさんだろうが、確かにあの白き民に勝てたんだ。俺たちの記念すべき第一の勝利だ」

 いかつさに酒の赤みをたたえた顔立ちがにっこりした。
 あの人はそばでいちゃつく同僚だの、隣で頷くキリガヤや、まだ頬を気にしてるホンダを良く見てるようだ。

「そして敵のお偉いさんをぶった斬ったな」
「そう、やっちまった。一応言っとくがな、真っ向から相手すりゃやばい相手だ――今回はお前のアシストありきだったがな」
「んなこたーない、あんたの手柄だよ」
「いいやお前も一緒だ、あの鎧は俺の宝物だ。俺たちが共に戦った証だ」
「はーい黄金のはちみつレモンドリンクでーす」

 そこまでいって一際上機嫌になればさっきのウェイトレスが何か持ってきた。
 グラスになみなみと注がれた黄金色だ。俺が飲んだあれなのだが。

「――ありがとな、イチ。こんなに気持ちがいいのはお前のおかげだ」

 タケナカ先輩はそれを一気に飲み干して、だいぶ覚めた顔でそういったのだ。

「それを言うならこっちからもありがとうだ。タケナカ先輩、俺が冒険者ギルドに初めて来た時のこと覚えてるか?」
「変なやつが来たなって良く覚えてるぜ、今もそうだが」
「そんな訳ありでも受け入れてくれるかって心配だったよ。でもあんたと知り合ってから変わった、こうしてギルドの一員としてみんなとうまくやれてる」
「俺たちだって最初はお前に不安だったからな、うまくやれてるかって。だが気にしすぎだったみたいだ」
「お互い気にし過ぎだったわけだ。だから感謝してるよ、俺も楽しいから」

 だから二人で笑った、奇しくも恩人が残した言葉通りだったからだ。
 うまくやれてるしいい縁がまだ待ってる。俺は確かに生きてるよ、二人とも。
 グラスを甘酸っぱく煽って「おかわり」と頼もうとすれば、他の面々もきた。

「ん、ぼくからもありがとう、タケナカさま。ご主人が笑顔なのはあなたのおかげ」
「俺からもありがとうだぞタケナカ先輩、いい縁に巡り合えた」
「俺もありがとうですよ、先輩。あなたのおかげであのギルド、けっこう心地いいですから」
「タケナカの奴がこうも良く喋るなんて珍しいな。でもありがとな、こうして彼女連れて自慢できるんだからな」
「シナダがいつも元気なのはタケナカさんのおかげだよ、無理せず頑張ってね!」
「ありがとうございます先輩。俺、今日で凄く自信つきました。これからもついてっていいですか?」
「みんな無事に帰ってこれたのも先輩のおかげだよね、私もありがとう。みんなでまた依頼受けたいな」
「お、俺も……! 誘ってくれて本当にありがとうございます、もっと頑張ってみようと思います!」
「なんだか自分らしさが見つかった気がします。ありがとうございますタケナカ先輩。これからもよろしくお願いします」
「狩人なのにまさか白き民と交戦するとは思いませんでしたし、その上で勝ってしまうなんて夢でも見てる気分ですよ。我々からもお礼を言わせてください――プリンおいしいですね、元の世界で換算すると二千円は取られそうです」

 ぞろぞろ続いてきた。おかげでタケナカ先輩は困った笑顔で「そうか」といって。

「まだまだこれからだぞ、お前ら。どんどん新入りは増えるし、これから白き民の案件は増えてく。忙しくなるだろうが、俺たちは今日あった出来事を忘れずに人間らしさを磨いていくぞ。旅人プレイヤーらしくな」

 いつもより頼れるいい表情を振舞ってくれた。
 もちろん、俺たちは「やってやる」と頷いた。
 程なくして追加の料理がきた――どこぞのダークエルフが言ってたけど食べることは生きることだ、いっぱい食べよう。

「ま、これからも俺の先輩として頑張ってくれ」
「なんてやつだ、上から目線で偉そうに無理難題言いやがって」
「その代わりなんでも手伝うさ、後輩としてな」
「こうして大活躍したんだ、明日からいろいろ忙しくなりそうだぞ。いいんだな?」
「あたり前だろ? これからもよろしくな」
「今時お前みたいな奴は珍しいと思うな。こっちこそよろしくだ、変わり者め」
「また変わったやつストレンジャーか、帰ってきた気分だ」
「どういうこった」
「変わり者と余所者は俺のあだ名だ」

 おかわりが来た。すっかり気に入ってしまった黄金のドリンクだ。
 掲げて「頑張ろうぜ」と意味を込めてから飲んだ――甘酸っぱい。
 "人はひとりでは生きていけない" あの言葉はこっちでも同じだったんだな。

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KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

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