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剣と魔法の世界のストレンジャー

冒険者ギルドの冒険者らしくなったやつら

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 冒険者ギルド、クラングル支部は今日も賑わってる。
 ボードは前よりも依頼書が貼られていて、都市の賑やかさが現れてた。

 初めて目の当たりにした時と比べればその印象はだいぶ違う。
 日本人のまだしてない身なりがけっこう増え、人外の美少女の顔ぶれも同じぐらい足された。
 近頃は依頼の幅も増えて、だいぶ冒険者が信頼されてる――報酬はともかく。

 他に変わったことといえばタケナカ先輩の人柄が絡んだ冒険者のことだ。
 「右左見て進むか引くか」ができるようになって、それだけ踏んだ場数も増えた。
 ああ、それから――

「……いくぞッ! 遠慮はいらんからな、イチ!」

 とっ、と誰かが動きやすい床を駆け抜けた。
 そこはまだ昼飯時にも満たない頃合い、今まで以上に賑わう訓練場だ。
 周囲にはスキルの調子を確かめる傍ら、俺たちのご様子を眺める連中がいて。

「そりゃこっちのセリフだ。お互い怪我なし、アーツはありだ!」

 間合いを詰めてきたに、俺も足並みを合わせた。
 向かう先は濃いブラウンの髪もきりっと短く、白黒の服を馴染ませ、靴も革鎧もだいぶ様になってる青年だ。
 顔のつくりも、なんならその目もひたすらにまっすぐな『クソ真面目』がいた。
 名はキリガヤ、自称格闘系冒険者はは輝かしい銅色を首にぶら下げてる。
 
「――せええええいっ!」
 
 そいつともうすぐ拳がぶつかりあう具合で、相手の身体がずれて蹴りにきた。
 まさかの顔狙いの一撃だ。身を下げた途端に足がびゅっと首元をよぎった。
 かと思えば戻した構えで踏み込まれ、避けたばかりのところに右拳が来る。

「……っと、いきなり蹴りか!」

 これくらいなら対応できる。前腕の面積を立てつつ逆に近づく。
 盾のごとく扱った片腕にばぢっと鋭い痛みが立った、でも勢いは半殺しだ。
 すかさず解いて拳を突き出す――も開いた手で払われる、そらされた。
 一歩後退、もう片腕で守りながら咄嗟に備える、かと思えばあいつが翻り。

「おおおおおおおおおおおっ!」

 ここぞとばかりに熱血な身体つきが唸った。
 短い動作からくる素早い回し蹴りだ。
 考える間もない一撃に迷った結果、姿勢を丸めるように腕で身を守った。
 重みと勢いが乗ったブーツにずん、と身体が持ってかれる――クソ痛え。

「うううぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!」

 そしてキリガヤはそいつをきっかけに打ち込んできた。
 追撃の拳だ、バランスを崩さない右左の連打が次々攻め立ててくる。
 こっちも手で払う、腕で防ぐ、間合いをいじって勢いをそぐ、頃合いを見て拳の動きに腕をねじ込むも。

*ぎぢっ*

 これが狙いだったか、キリガヤめ。
 掌底で弾かれた――と思ったら手首を掴まれたのだ。
 そのままあいつは身を曲げて、おそらく俺を地面に打ち倒すつもりなんだろうが。

「お前……本当に格闘一本なんだな……!」

 逆に利用してやった。掴まれたそれをぐるっと捻り直して、相手の腕を掴んだ。
 動きをせき止めてから引っ張ればキリガヤの足がもつれた――いまだ。

「……くっ! やるな、イチ……ッ!」

 が、このまま押しかけるところで下がられて、手のひらでどんと押された。
 そこにまた拳と足先が繰り出される。避けて防いでやり返しての攻防が続く。
 そしてあいつは一瞬身構えると、急に動きを鋭く絞らせて。

「――せいっ!」

 その姿をわずかに解いた直後、不自然なほど素早い一撃が飛んできた。
 食らった。でも浅い、頬の横に熱されたような痛みがちりっと走っただけだ。
 たぶんアーツだろうが、使った本人は構えが解けてほんの僅か無防備だ。

「そいつはもうちょっと勝手を知ってからの方がいいんじゃない……かっ!」

 キリガヤの奴は一つ見誤った、たぶん咄嗟にこれを放ったんだろう。
 さっきまでの機敏な動きが急に強張ってる、してない証拠だ。
 親切にも隙を見せてくれたキリガヤに潜り込んで、丸く身を構えて突き進んだ。
 あいつはこんなベタなタックルに攻めるか守るか避けるか迷ったようだが。

「――なっ、ああああああっ……!?」

 と見せかけてあえて体勢を崩して滑りこみ、短く足を払った。
 対応できずに転ぶも流石キリガヤ、それでも身をよじって受け身をとる。
 そこへ飛びつく。起き上がろうと背を向けた一瞬をボディプレスで追いかけた。
 最後は「ぐえっ」だ。後は首を逆手に構えた想像上の刃物でずばっとひとなぞり。

「確かに格闘一筋っていうだけはあるな。遠慮してるとはいえ攻撃も防御も素早くできてるぞ」

 仕留めた獲物を離してやった。
 見下ろせば、荒い息遣いの同僚が参った様子だ。

「……す、すまん……アーツは、まだ早かったようだ……!」

 やっぱりあれはアーツだったか、そう後悔しながら大の字になった。
 手を伸ばしてやるとすぐにぎゅっと握り返してきた、俺の勝ちだ。

「大丈夫か?」
「ああ、俺は頑丈さには自信があるからな。いや、しかしけっこう格闘スキルには自信があったんだがな……」
「それでもキックは強烈だったぞ。手加減してたみたいだけどな」
「蹴りだけはどうしても加減したくてな。【スキル】を上げてから自分でも信じられないぐらい威力が出るんだ」
「スキルシステムの恩恵ってやつか」
「多分な。便利だが事故が起きた時を考えると怖い」
「こんな場所でうっかり殺人級のキックかますやつより、そう心配できてコントールできるやつのほうが偉いと思う。もうちょっと実戦っぽくやってみる?」
「俺には十分なほど実戦的だったんだがな……」
「まずはアーツの使い心地に慣れるところからどうだ、付き合うぞ」

 起こせばひと汗かいてさっぱりしたいい顔だ。
 一つ勝負が終われば見守っていたニクも「ん」と駆け寄ってきて。

「おつかれさま。キリガヤさま、お水だよ」

 二人分の水筒の差し出しだ、キリガヤが「ありがとう」とがっついた。
 一緒に冷たい水を飲めば熱も良く冷めた。
 休憩にはいい頃合いだ、成り行きを見守ってた同業者を避けて隅へ向かうと。

「……というかイチ、強いなお前は。俺のやることなすことがまるで全部読まれてたみたいだぞ」

 寄り掛かる壁の先で、キリガヤの熱くなった顔に驚きが浮かんでた。
 あっという間にぐびぐび飲んで空っぽだ、物足りなさそうな様子に「ゆっくり飲めよ」と水筒を差し出してやると。

「ただ行き当たりばったりを全力でやってるだけだ。戦闘中いちいち考えて戦ってない」
「思いつくままでああできるのもすごいと思うぞ。お前と一戦交えて、なんだか踏んできた場数の違いを身で感じたんだが」
「今まで数をこなしたのは確かだ」
「ん、ぼくも一緒に戦ってきた」
「やはり実戦を経てこそか……練習ばかりではいかんな」

 キリガヤとニクと三人仲良く遠くを見た。
 最近設けられた【的当て】スペースにサイトウがいた。
 藁の的で矢の練習に興じてるようだ、遠目に見る分にはいい命中率だ。

「さっきので分かったけど、スキルが高いと威力を底上げしてくれるみたいだな。さっきの蹴り、けっこうマジで防いだのにずっしりきてる」

 ついさっき蹴りをせき止めた腕を確かめる。
 まだじんじん痺れてるし、緊張感が抜けたせいか重い痛みが残ってるほどだ。
 折れちゃいないようだが強烈だ。もちろんこの痛みにはちゃんと理由があって。

「すまん、どこか痛むか?」
「こうして壁際でだらだら話せるなら大丈夫だろ」
「ならいいんだが……本当に大丈夫か?」
「お前が手加減と気遣いができるやつで感謝してるよ、ありがとう。にしても、スキルの効果って思った以上に目に見えるもんなんだな」
「ああ、スキルが上がると俺たちの身体能力も増していく……だとか言われていてな。俺自身でも信じられない力を発揮するようになってるんだ」

 そう。キリガヤのスキルを確かめるついで、その効果も知ろうと思ったのだ。
 MGO由来のそれは何も特別な技や魔法を使うきっかけになるわけじゃない。

 例えば【ステータス・スキル】というのがある。
 刀剣だの回復魔法だの、そんな数々のカテゴリとは違う独立したものだ。
 【腕力】を例に取ろうか、これは身体を動かすようなスキルを使うと上がる。
 この数値が上がれば上がるほど目に見えて膂力が増すそうだ。

「自慢じゃないが【腕力】スキルは50でな、そのせいか妙に力が出てしまうんだ」
「高いのかそれって」
「素手が44でキックが48だ、俺の主力スキルだぞ」
「戦闘技術系よりも高いのかよ」
「ああ、毎日欠かさず筋トレしてたら地味にここまで上がっててな。それに街の人のためにお使いやら配達やらの仕事もやって健康的だ」
「筋トレして町の人にも気に入られて人間やめれるなんてすばらしい世界だ」
「だがなイチ、単純な繰り返しじゃ上がらないんだぞ。今じゃもっと負荷をかけないとちっとも上がらないからな」
「ほんとに筋トレだな」
「他のスキルだってそうだぞ、上がっていくにつれて必要な練習量は増えてくんだからな!」

 今こいつが言ったように筋トレをすれば【腕力】が上がるとしよう。
 増していけばその分目に見えて強くなるし、今後求められる負荷も同様だ。
 【持久力】が上がれば信じられないほど元気になるし、【精密さ】が上がれば手先が器用になる――そんな具合だ。

「なるほど、そうやって変化が目に見えるなら確かに使ってみたくはなるよな」
「だから冒険者になるやつも多いそうだ。だが俺は扱いには気を付けるべきだと常日頃から思ってるぞ、確かに便利だがそれだけ他人を傷つけるきっかけになるし、悪いことにも使えてしまうんだからな」
「お前なら大丈夫そうだな。そこまで考えられるなら大したもんだ」
「ずっと昔おじいちゃんに「強くなることは責任も増すのだ」ってよく言われたんだ、二度と忘れない言葉だ」
「そのじいちゃん喜んでるだろうな」

 そこへ【刀剣】が上がればやがて非常識な太刀筋をぶちこめたり、【素手】を極めればコミックさながらのパンチをご馳走できたりしたら?
 途端に旅人は「すごいやつ」としてポテンシャルの塊になる、良くも悪くも。
 キリガヤも言ってるがこのスーパーパワーは使う先を間違えれば悪事が捗る。
 タケナカ先輩がどうしてああいってたかよくわかる――つまり俺たちの秘める可能性は悪用されたら面倒なのだ。

「キリガヤさまはどうやって素手とかキックとかをそこまで上げたの?」

 こうやってきょとんとしてるニクもそうだろう。
 MGOのシステムがある以上、わん娘もこれから強くなるわけだ。逞しく育ってご主人嬉しい。

「それは俺も気になってたな。どうやったんだ?」
「最初はただ冒険者ギルドにある練習用のダミーに打ち込むだけだったな。本当に上がるのか半信半疑でやってたんだが」

 熱血系素手使いは「あれだ」と訓練場のどこかを指した。
 台座でがっちり固定された作り物の人型が幾つか並んでる。
 目を細めると『白き民』の半身にも見えなくはない。

『……アーツってどうやって発動させるんだろう』
『えっと……ミコさんがこういってたよね、最初にまずアーツの名前をイメージして構えてみるとか』
『さっきから何回やってもできないんだけど』
『ざ、雑念とか余計なものがいっぱいだからじゃないかな? 一度煩悩を捨てて心を無にしてみるのはどう?』
『辛辣なこと言わないでくれハナコ……』

 ホンダが覚えたての【チャージスマッシュ】を放とうと苦戦してるらしい。
 刀剣スキル20で使えるアーツだけど、意識が乱れて新しい技を生み出してる。 
 隣には【アイシクル・バレット】という氷系基礎呪文を解き放つ地味眼鏡女がいた――今日も言葉がきつい。

「あれ殴って上がるのか?」
「20ぐらいまでならけっこうな。その後は誰かに訓練に付き合ってもらったりした、先輩たちだとか、ヒロインの方とかにな」
「そういう上げ方もあるんだな」
「スキル上げも色々調べられてるみたいだ。ゲームのシステムに則って強い敵を相手取ったり、最近はスキル値の高い相手に教わると早く上がるとか言われてるぞ。けっきょく上げるには本人の努力次第なんだがな」
「お前なら性格的にぴったりじゃないか?」
「うむ、努力という言葉は好きだ!」

 キリガヤは素手スキル40以上の拳を見せてきた。
 ごく普通の人間が持ち得るありきたりな手だけど、人を殺しかねないパンチを放ったのは忘れもしない。

「それでお前は素手スキルが40超えか。大変そうだな」
「いや、最近は依頼の幅も増えててな。それでスキルを機会があったからちょくちょく上がった」
「そういえば増えてたよな、なんかいろいろと」
「なんでも錬金術師ギルドがかなり昔に脱走させた魔法生物がけっこう市内にいるようでな、そういったものを討伐するにあたって俺たちを頼りにするようになったそうだぞ」
「なるほど、俺たちが信用されたおかげでいい職場にありつけたか。つーかまーーーたあいつらか、錬金術師ギルドめ」
「俺のような新米でも対処できるゴーレムやら何やらがいて、そいつと戦う機会があったんだ。そういえば前の騒ぎも錬金術師とやらが絡んでたな」
「あの露出狂の先輩どもも悪徳錬金術師が絡んでましたってオチだぞ? 今のところ問題ばっか起こしてる連中にしか見えない」
「うむ、俺もだ。街の人達に迷惑をかけるなんて許せんことだな」
「腹立ってぶん殴ってやったよあのクソ野郎」
「無暗やたらに人を殴るのは良くないぞイチ」
「ちゃんと報酬代わりにやっただけだからセーフだ」

 冒険者ギルドも仕事が増えた分だけ成長する機会も増えたようだ。
 さて、キリガヤの強さも確認できた。そうなるとあいつはこっちを見てきて。

「……それで二人とも、俺は白き民とやらに通用すると思うか?」

 ようやく肝心な質問を不安げにしてくれた。
 ひと汗かくついで、白き民に太刀打ちできるか調べてほしいと頼まれたのだ。

「正直な感想でいいんだな?」
「ああ、言ってくれ」
「さっきのキックを全力でやるぐらいで十分通用すると思う。でも」
「でも?」
「はっきり言ってあんなのと素手で、まして間合いを詰めて一撃お見舞いしに行くのはリスキーだぞ。そもそも向こうはこっちよか体格もいい、得物も扱える、連携も取れてちゃんと動くバケモンだ」
「……ぼくも危ないと思う。白き民は武器の間合いも把握してるし、うかつに近づいたら簡単に迎え撃たれるよ」

 あのシェルターをキリガヤに重ねて浮かぶのは――二人そろって『危険』だ。
 全力でやれば十分通用するだろうけど、だからって容易く本気を出せるか?
 向こ数も装備も揃えてこっちよりワンランク上で、連携してくるのだ。
 剣持ち相手に生半可に挑めばざっくり。槍なんて近づけばざっくり。遠くから弓や魔法が飛んできたらどうしようもない。

「向こうにはしっかり鎧を着こんだ奴もいますからね。いくらスキルがあれど単純な打撃じゃ通用しない相手が普通にいるので……」

 そこへ前髪に隠れた表情が混ざる――サイトウが戻ってきたようだ。
 そんなだいたいの話を把握した混じり方に、キリガヤはもっと悩ましい顔だ。

「……つまり格闘では分が悪い相手なのか、白き民は」

 自分の拳をじっと見て、せっかく上げたスキルに自信が揺らいでる。
 こいつが持ち得るスキルをフル活用すれば渡り合える相手だとは思う。
 よく言えばもっと遠慮なく、悪く言えばびびらず力を発揮できればだが。

「いや、そうでもない。瞬発力を生かして一撃お見舞いすればけっこう効く相手だ、状況によっちゃ有利になれる。ただし向こうは殴る蹴るよりずっとリーチがあるってことを忘れるなよ、武器持ってる以上お前よりとにかく優位性があるんだ」

 俺はあの依頼で無双してたヒロインを思い出した。ケツのデカい方の。
 あいつが人間よりパワフルなのもあるが、間合いに気を付けて素早く攻撃を叩きこめば一方的に主導権を握れる。
 実際攻撃をうまく避けるか防ぐかすればけっこう怯むのだ、あいつらは。
 問題はそこにキリガヤが付け入れるかどうかだ。実戦慣れしてないこいつが。

「そうか。剣も槍には勝てんというしな、そこに徒手空拳で挑めばなおさらか」
「ですがキリガヤは持ち味を生かしてこそですからね。そもそもスキルは個人の才能だとかも上がりやすさに関わってますし、実際一番上がりのいいものが素手とキックだったそうですよ」

 ちなみにこうして口にしてる通り、スキルシステムには厄介な特徴がある。
 持ち主のセンスだ。
 聞いた話だと人間の得意不得意が顔を出してるようで、人によって向き不向きが出るのだ。
 例えばサイトウは剣が得意じゃない、あれこれ振り回しても上昇が渋い、でも弓を使ってみたら意外と馴染んですぐ上がったとか。

「じゃあなんだ、キリガヤに『白き民相手に素手喧嘩売りに行け』って言ってんのか、この世界は。誰だこんなクソシステム作った馬鹿は」
「だからって素手と足技で戦えというのは酷ですよね……ヒロインの子たち曰く、ゲームの時と仕様が違うとかなんとか……」
「……よし、なら特訓だ。色々な武器の間合いを捌けるように身体で覚える!」

 スキルのクソ仕様について考えてると、キリガヤの無駄に熱い血は自己研鑽に働いたらしい。
 訓練場の風景にすっかりやる気だ、これもスキルの上がりに絡んでるんだろうか。

「ですがこんな風にやる気になれるあたり、やっぱり向いてるんじゃないんでしょうか」
「向こうは本気で来る連中だからな、言っとくけど。それでもいいなら手伝うぞ」
「ん、ぼくも手伝うよ?」

 まあこうしてずっとつるんでる縁だ、人の持ち味の大切さは良く知ってる。
 白き民の槍やら大剣を思い出して付き合うことにした、サイトウも「俺もやりましょうか」と混ざっているぐらいだ。

「おお、じゃあすまないが頼めるか? 白き民というのが使う装備で挑んでほしいんだが」
「複数人相手でやるぞ。向こうは群れてると連携してくるからな」
「じゃあ槍を使うね」
「あんまり得意じゃありませんが剣で良ければ」

 格闘馬鹿はやる気だ。水筒を返すと「頼むぞ!」といい笑顔で武器を取りに行った。
 しかしサイトウは妙に白き民に詳しい気がする、絵だってそっくりだったし。

「そういえばサイトウ、お前なんだか白き民に詳しいな?」
「戦ったことがありますので」
「あるのかよ」
「前にタケナカ先輩たちについていったんですが、その時一匹仕留めました。あれは不気味でしたね」

 どういうことかはすぐ分かった。
 顔の隠れた弓使いは胸元をごそごそして『カッパー』の首飾りを御開帳だ、いつの間に昇格してたのか。

「おいおい、あの白い方々やったのかお前」
「一匹だけですよ。タケナカ先輩なんて十は倒してましたから」
「タケナカ先輩すげえなおい」
「……あれを倒したんだ、タケナカさま」
「前にその時はほとんどソルジャー……あの防具に乏しい個体ばっかりでしたが、ナイトやメイジも仕留めてましたね。すごかったです」

 サイトウのどこか淡々とした物言いには興奮がある――それだけ俺たちの先輩がすごいことが分かった。
 決めた、今後はあの人を怒らせないようにしよう。パンの広告は貼るが。

「伊達に俺たちの先輩じゃないってことか、流石タケナカ先輩だ」
「素行も良いと職員の方からも評価されてますからね。街の方々からもそれなりに信頼されてるようです」
「新米の教育に力を注いでくれって頼まれる理由だな。ところで白き民撃破と昇格おめでとう、なんかおごるぞ?」
「パン以外でお願いします」
「チキンバーガーどうって言おうと思ったのに……」
「ごめんなさい、俺はご飯派なんです」
「じゃあ寿司でも焼肉でもおごってやるよ。ついでにキリガヤも誘うか」
「おにく……」

 タケナカ先輩のすごさが分かったところで、三人で「何食うか」って話になると。

*ぴこん*

 と、通知がきた。

【イチ、今の俺たち向けの案件が幾つか入ったぞ。白き民系のやつにクラングル市街地の警備といった感じだ、のちほどこの件について話しておきたい。まあ参加希望者を募るってわけだがな、お前も是非参加してほしいんだが】

 噂をしたご本人からだった、今の俺たちに相応しいお仕事があったらしい。
 その上でご指名か、ならはせ参じよう。返事は【了解、タケナカ先輩】だ。

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