魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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剣と魔法の世界のストレンジャー

引っ越し祝いの釘の雨

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「――どうだった?」

 手土産と一緒に戻るとミコの心配げな顔が待ってた。
 ニクはともかくみんな慣れないシェルターの環境に気が凝ってそうだ。

「どうもいい引っ越し先を見つけたみたいだ、あそこで居心地よさそうにしてたぞ。んでこいつが見取り図だ」
「やっぱりいたんだ……って、ここってこんなに広かったんだね」

 まずはここの見取り図を渡した。
 軽く目で触れて分かるのは、ここはトイレ以外に小部屋がほぼない点だ。
 さっきの広い通路には左右に大部屋が三つあって【食堂】【雑貨店】【反乱軍詰所】と役割が振られてる。

「いったい何考えてやがったのかシェルターにちょっとした町を作ろうとした馬鹿がいた感じだ。しばらく進んだ途中で曲がると更に広い通路があって、そこに敵がほとんど集まってたな」
「……シェルターに街……どういうことなんだろう」
「戦前の連中の思考はアテにしない方がいいぞ。最初は人間、次はテュマー、最後は白いやつらの手に渡ったらしい」
「つーことはマジで事故物件じゃねえか。二度も家主がくたばったとか縁起わりー」
「これから三度目にする予定だろ」

 タカアキも地図を面白がってきたところで今一度状況を確認した。
 道中にある二部屋は制圧、まっすぐ奥にあるトイレは不明、本命の広々な通路に敵がほとんど集結中だ。
 反対側にも通路が横切ってちょうどここは『工の字』を描いてた。
 向こうにあるのは硬く閉じた【武器庫】と、倉庫だの監視室だのと小部屋が二つあるぐらいか。

「屋敷の地下に街っていったいどういうことですか……」
「あの奇妙な死体といいこの構造といい、まったくもって妙な場所だな……」
「なにこのへんてこな間取り……ここ作った人何考えてるの? 団長気になっちゃう」

 ミセルコルディアの美少女三名も紙越しにここのおかしさを感じてる。

「反乱軍……ってなんですか? ひょっとしてここって、軍かなにかが使っていた施設とかでしょうか……?」

 それとリスティアナもこのシェルターの存在理由についてきょとんとしてる。

「テュマーと戦う場所のつもりだったんだろうな。えらく気合が入ってたやつらをここに集めてたらしいけど……」

 考えはこうだ。ここはテュマーを絶対許さない人種がいたんだろう。
 戦前にこんなもん作って「テュマーぶっ殺す」と張り切ってたに違いない。

「そいつらの誰かがテュマーになってご覧の有様ですってか?」

 想像し得るオチはたぶんタカアキの想像通りだ。
 ここで意気込んでも電子ゾンビの仲間入りは防げなかったらしい――さっきのアルミホイル帽子みたいに。

「ご名答、ゾンビ化して内部崩壊だ。途中の部屋にお住まいだったような奴が死んでたからな」
「あちゃー、なっちゃった感じ?」
「それらしいやつがアルミホイル被ったままだったぞ」
「んなもんで防げるわけねーだろ馬鹿じゃねーの」

 ついでに「途中の部屋は安全」と足すとミコは少しげんなりしていて。

「アルミホイルとテュマー……」

 ディで始まるやつでも思い出してるんだろう。顔も声も引きつってる。

「大丈夫だ、ド変態野郎まではいなかったぞ」
「う、うん……ならいいんだけど……じゃあ、敵は奥に集まってる感じなのかな?」
「んで向こうもここを手に入れて間もないって感じ。邪魔なもんどかしたりしてリフォーム中だ」
「そっか、まだ向こうも態勢が整ってないみたいだね」
「ただ現時点で数名分排除してるからな、向こうが気づくかもしれない」
「……確かに。仕掛けるなら今しかないかな?」

 ともあれミコの緑の瞳は見取り図に釘付けだ。
 白くて細い指先は広い通路で戦うという寸法まで来てる。
 そうだな、あの広さならこっちの数も活かせるし敵の構えもまだ未完成だ。

「仮にここから敵が逃げてもたどり着く場所は限られてる。出口はたった今俺たちが押さえてるようなもんだしな」
「ここしかないよね。みんなの動きを発揮できるうちに仕掛けた方がいいかも」
「決まりだな。向こうが守りを強くする前に勢い付けてぶつかるぞ」

 つまりすぐそこでやるしかない、敵が整う前に全力をぶつける。
 そこまで決まったところで「じゃあ行くか」と相棒に顔を合わせるも。

「……テュマーってなんなんですかね、さっきからずっとその名詞が気になってるんですけど」

 セアリが頭に「?」の幻影を浮かべてた。
 あのナノマシンゾンビが気になるらしい――どう説明すればいいんだ。

「私もテュマーとはなんだとずっと思ってたがな。あの黒い死体のことなのは分かるんだが」
「この世界のものじゃなさそうだよね。ミコも地上にあったあれのこと、テュマーだ……ってシリアスにいってたし?」
「MGOに出てきたものじゃないのは確かですよねー? 私、廃墟探索してたらああいう風に倒れてるのを何度か見かけたことがあるんですけども……」
「え、えーと……みんな見たことないもんね……? テュマーって言うのは……」
「ナノマシンが悪さして作った機械ゾンビだ。タカアキ、お前ならすげえ分かりやすい説明してくれるよな?」

 手短にゾンビと伝えると『えっ』という顔をされたがこういう時の幼馴染だ。
 話を振られたタカアキも『えっ』だったものの。

「テュマーってのはだな、暴走したナノマシン……まあウィルスみたいなもんだ、そういうのでゾンビになっちまった人類のことだぜ」
「は? ゾンビにウィルス? ちょっと待ってくださいずいぶんバイオなお話じゃないですか!?」
「ゾンビになるだと!? おいどういうことだ説明しろ!?」
「ちょっと待っていきなりグロい話になってるんだけど大丈夫なの!?」
「ゾンビ……!? もしかして私たち生ける屍になっちゃうんですか!?」

 話してくれたおかげでゾンビの仲間入りの心配事が飛び交ってしまった。
 ウェイストランド経験者四人で「しっ!」と制したが。

「心配はいらねえよ、生身の人間はノータッチだ。働きかけることができるのは身体に電子機器とか埋め込んでるような人種だけ、俺たちには無縁なもんさ」
「なれる資格をお持ちのやつはここにはいないだろ? 今気にするようなもんじゃないぞ」
「ちなみにそのナノマシンはボストンってとこにある大学で実験中にたまたま生まれた変異種だ。盗み出そうとした学生がへまこいてぶちまけて蔓延したっていうお話があるぜ」
「それは俺も初耳だ」
「そ、そんな事情があったの? テュマーって……?」
「あのゲームの背景にある設定だ――あっこれネタバレだなごめん二人とも」

 ついでにその誕生秘話まで及んだが、害がないと分かれば落ち着いたらしい。
 「ならいいんですけど」と不安げなセアリを最後に、ミコは杖を握って。

「……みんな、そこの広い通路で戦うよ。四人に分けて左右から攻めたいんだけど、いいかな?」

 手にした見取り図を頼りにすべきことを伝えた。
 四人に分けて広い通路に押し掛ける寸法か。
 敵は固まってるが広さ的に八人でも動ける余裕がある。
 それだけが強みの今、向こうが何か備える前にやるだけだ。

「あちらより小回りが効いて存分に攻撃力を叩きこめるチャンスだ。行くぞ」

 エルはやる気だ。抜いた剣がいつでも叩き斬る気概を見せてる。

「弓持ちやらが厄介ですね、イチ君にお願いしますよ」

 セアリもきゅっと衣装を締め直してこれからひと働きするようだ。

「こっちにはスペシャルスキル持ちがいるんだよ? やばい時はどかーんってやっちゃえ!」
「はいっ! どかーんっていきますからね!」

 フランとリスティアナが得物を手に進みだしてる。好戦的なこった。

「引っ越したばかりで悪いが強制退去のお時間だ、やっちまおうぜ」
「みんなを守るね。行くよご主人」 

 散弾銃を担いだ幼馴染もわん娘と横並びだ、俺もミコと一歩を踏み出すが。

「……ああそうだ、ちょっと待ってくれみんな」

 いいこと閃いた。大急ぎで【ワークショップ】とある部屋に寄る。
 中を探れば都合の良すぎる作業台と工具があるわけで。

「いちクン……? どうしたのかな……?」
「あー、そうかお前もしかして……」

 ついてきてくれたのはミコとタカアキだったか。
 そんな二人の物言いを背に【クラフトアシストシステム】を起動。
 タブを探って【カンガン】を発見。材料よし、条件よし、制作開始。

「敵は固まってんだろ? んで俺たちの向かう先は一直線、だったらこいつの出番だ」

 缶に部品にテープに白い火薬――使い捨ての散弾砲の材料が落ちてくる。
 発射に必要なものを詰め込んで紙で覆って、針金と摩擦信管を取り付けグリップとテープで彩れば完成。

「そ、それ使うんだ……!?」
「……うわあ、カンガンじゃねーか。そうだよなゲームのシステム使えるんなら作れるわな」

 そして納得するサングラス顔に完成品を一つ渡した、にやっと感心してる。

「仕掛ける前に二人でお見舞いしてやるぞ。使えるか?」
「お兄さんに使えってかこの野郎。分かったよ頼りにしてくれてどうも」
「よし、今からタカアキと一緒にお熱いのを食らわせてやるけどいいよな?」
「う、うん……別にいいんだけど……!? みんなに一声かけておいてね? それすごくうるさいから……」

 もう一人分さくっと作って、通路をぞんぶんにカバーできる投射量を得た。
 これで新居祝いの準備はできた。二人でカンガンを手に部屋を出ると。

「よし良く聞け、くっそやかましく吹っ飛ばすからその後に続いてくれ。俺たちは右側から行くぞ」
「ちょいと二人で引っ越し祝いのクラッカーだ、終わるまで待機しててくれお嬢さんがた。こいつは驚くぞぉ?」

 敵のいる通路の前で待っててくれた面々を押し退けた。
 向こうからは白き民の営みが聞こえる、ちょうどよく集まってくれてそうだ。

「えっちょっどうしたんですか男子二人!?」
「おいなんだいきなり!? というかその手に持ってるのはなんだ!?」
「イチ君のとんでも攻撃が来るみたいだよみんな、退避退避ー」
「み、みんな良く聞いて? 今からすごくうるさくなると思うから、できれば耳塞いでおいてね……?」
「おおっ! やるんですねイチ君!? ではそちらに付きますのでー!」

 そのついでにリスティアナとニクにトイレ側の通路へ控えるように頼んだ。
 ミコたちを後に進めば、地下に無理やり作られたあの町もどきが見えてきて。

「ア……?」

 そこにいた白い姿とちょうど目が合う。
 食堂と思しきガラス窓つきの部屋からすたすた出てきたばかりの奴だ。
 ほんの一瞬、予期せぬ客人でも見るように僅かに沈黙してたものの。

「――Malamiko!」
「Malamiko!? Iru!Iru!」

 いきなり謎の言語で騒ぎ出した。白い仲間が右から左ら駆け寄ってくる。

「どうも白い方々、お邪魔してます」
「よう、引っ越し祝いに来たぜ。こいつでな」

 二人で堂々としてるとそいつらは通路を埋め尽くさんとばかりに揃った。
 剣を持ち槍を握り、矢を番えて杖も構える、見てくれ様々な集まりだ。

「――Ataki」

 その後ろで一際いい装備をつけたキャプテンがこっちに仕草を飛ばしてる。
 言葉の意味は嫌でも分かる。
 なぜならそれで槍を持ったやつらがざっと踏み出してきたのだから。
 串刺しにしようと間合いを取り、遠くで弓が狙って殺す気満々の布陣だ。

「ところで見てくれ、こいつはミスター・カンガンだ。お前らを祝いたいってさ」
「そして俺たちは祝いの場を設けに来たスタッフだ。クラッカーと釘は好きかい?」

 二人で射線を交差させるようにそれを構えた。
 釘と火薬いっぱいの缶を持ち上げると向こうも足取りを速めたようだが。

「――ぶちかましたら突っ込め!」

 密集した白色にめがけて針金を抜いた。

*zzZZBaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaMmm!*

 閉鎖空間に特大の爆音と、飛翔体が唸る金切り声が飛んだ。
 隣じゃ幼馴染が「うおっ!」と後ろに仰け反る反動だ。
 突き飛ばされるような勢いを抑え込めば、釘が弾けるあの跳ね返りを感じて。

「Kio-Estas-Ci-Tio……!?」
「Defeeendo! Defeeeendo!」

 次には敵の群れもズタズタ、あれだけの数も倒れて溶けての真っ青な様子だ。 
 それでも半数は残った白い人間たちが慌てた指揮官の号令で態勢を整えるが。

「何してんだキミたちぃ!? でもありがとね――」

 万能火薬の発射煙がまだ漂う中、横からフランの赤色が駆け抜ける。
 あいつはそこらの家具を踏み台にして、通路を埋める横陣形めがけて飛んで。

「指揮官もーらいっ! 【ブレイジング・ランス】!」

 元気でハリのある声がそう唱えて、手元でマナの炎がみなぎる――!
 次の瞬間、真っ赤な熱を蓄えたそれが敵のど真ん中めがけて投げ放たれた。

「OOOOOOOOOOOoooooooooo……!?」

 【ピアシングスロウ】よりもある勢いが宣告通りキャプテンをぶち抜く。
 当然、道中に立っていた鎧と盾を構える白き民ごとである。
 防具も身体もこじ開け、赤々とそいつの胸まで穿っているのだ。
 まとめて数体青い光に変わるのはすぐだった、敵の防御がほぐれる。

「キャプテンのドロップ品はセアリさんたちのものですからね! いきますよっ!」

 どんっ、と青色のワーウルフが地面を蹴って突っ込んだ。
 苦し紛れの槍を「ふっ!」と足で払うと、持ち主をたぐって狼の拳が殴る。
 肉薄したセアリを追い払おうと剣持ちが詰めるが、割り込むフランが槍で払って突き倒し。

「まったく貴様は……! だが、おかげで楽ができそうだなっ!」
「エルさん! 敵の攻撃は極力避けてね!」

 そこへ【セイクリッド・プロテクション】というミコの詠唱が連なった。
 防御魔法に包まれたエルが走り抜けていた。
 先陣を切った二人に割り込もうとする敵の剣士の得物を打って弾く――いい連携だ。

「俺たちも押すぞ! 誤射するなよタカアキ!」
「一生誤射童貞でいるつもりだ! 片側から攻めるぜ!」

 俺たちも散弾銃を抜いて突っ込んだ。
 リザードマンの剣捌きに巻き取られた敵がぐらっと後ろによろめくところだ。

「――はぁぁぁっ!」

 そいつは慌てて踏んで立て直すも、凛々しい声からの突きが繰り出される。
 エルの避けようのない一撃が皮鎧をぶち抜いた。硬直したのち青く溶けた。

「AAAAAAAAAAAA! Detruu-Gin!」

 たった三名のヒロインが前線を抑える中、その後方で青い輝きを発見。
 反対側に走る通路近くだ、そこに杖持ちの奴がいた。
 そいつは丸みを帯びた先端で宙をくぐるような動作をしたのち。

「――らいとにんぐ・くぉーらる!」

 舌足らずな言葉が青白さをひらめかせる……まさか詠唱か!

「エル! 魔法だ! ちょっと代われ!」

 射線からしてエルが狙いだ、一声かけると攻撃を避けてまた一体切り捨てながら戻ってくる。

「そういえば貴様は魔法が効かないそうだな! ならば――」

 踊るように入れ替わると黄金色の尖りが飛んでくる。
 ばちばちと電気を練るような音も伴って――まあそれがなんであれ。

「そういうことだ、任せろ」

 堂々と受け止めにいった。
 セアリやフランの「危ない」「避けて」が聞こえた気がするが。

 ――ぱちんっ。

 胸元で黄色く弾けて消えた、ちょっと痺れる程度だ。

「Ne-Povas-Kredi-gin……!?」

 ちょうど見届けていた剣士さながらの姿が顔を真っ白に戸惑ってた。
 ご挨拶だ、そこに散弾銃を持ち上げてトリガを絞る。

*Baaaaaam!*

 12ゲージの味はどうだい? 白い顔は兜ごと吹っ飛んだ。
 即効性のある散弾で相手が青く溶けていくのを見届ければ。

「Wooooooooooooooooo!」
「Sturmo-Sturmo-Sturmooooooooo!」

 左右の大部屋から追加の敵がぞろぞろと雪崩れてきた。
 押し出されたの群れが切りかかってくるが。

「よっ! はっ! ソルジャー級はっ、まだ余裕なんだけど……ねっ!」

 フランの槍さばきがまとめて引き受けた。
 攻撃を穂先で防ぎ、続けざまを柄で防ぎ、一歩引いての串刺しだ。
 別の敵が一人槍ぶすまを避けて迂回してくるも、タカアキとあわせて撃って引っ込ませた。

「皆さん、気を付けてください! ずっと奥に【ナイト】が見えました!」

 気づけばリスティアナも迫っていた。敵の列に大剣をお見舞いだ。
 防ごうとした斧持ちが得物ごと叩き伏せられると、流れるような追撃の袈裟斬りがトドメになった。

「リスティアナさま、横は任せて……!」

 お人形姫の動きにニクも続いた。道中の敵を散弾で吹っ飛ばしてこじ開けた。
 近くの軽装一人を刺殺したついで、リスティアナの隙を穂先で埋めたようだ。
 大剣を振り落とそうとする敵が迎え撃たれた――首を抜かれて崩れる。

「ありがとうございます、えらいですよー! てええええええいっ!」

 おかげでリスティアナの身体さばきは絶好調だ。
 「AAAAAA!」と横から槍が回ってくるも、踊るように避けて切り捨てる。

「ハッハァァッ! 事故物件掃除業者だ! お近づきの12ゲージをどうぞ!」

 隙を見つけたタカアキも押し出された戦線にあやかって一歩前進だ。
 通路の端を陣取ると、倒れた家具越しに遠くの弓持ちへと散弾を浴びせて牽制してるようだ。

「Ooooooooooooo!」

 するとヒロインたちの猛攻から外れた数名が飛び出る――散弾で煽った。
 で撃ちまくると、手足も弾け胴も抉られ、勢いを削がれて派手に転んだが。

「っと……!?」

 今度は頭上をひゅっと重たい何かが抜ける。
 まさかと見れば、遠くで狙いに戸惑いながら弓を構える奴らがいた。
 しかし適当じゃない。合間合間を狙って、的確にこっちを撃ってるのだ。

「いっ……たぁ……!?」

 いや、当てやがった。フランが攻撃を止めて素早く引いた。
 見れば二の腕に矢がぐっさりと刺さってる――俺は倒れた冷蔵庫に身を寄せて撤退を引き受ける。

「下がれフラン! ミコ! 負傷者一名!」

 後ろに伝えながら空いた射線に撃ちまくった。
 向こうの壁際で第二射に入ろうとする弓持ちの列が崩れた。苦し紛れに矢が飛んできたが身を引っ込めて回避。

「ご主人、フランさまを……!」

 そこへニクが斧持ち兵士を突き殺しながら下がってくる。
 わん娘は片手抜きの機関拳銃を迫る敵の様子にめがけて。

*papapapapapapapapapapapapapm!*

 犬の精霊の馬鹿力で抑えた反動のもと、九ミリ口径をばら撒いた。
 俺も「援護!」と一声かけて自動拳銃を抜いて大雑把に撃ちまくった。
 くたばるに値するかはともかく敵の勢いはそげた、そのまま後ろへ下がって。

「ミコ! 回復!」
「えっ、ちょっどしたのイチ君!? 団長お触り禁止だけど!」

 負傷したフランを捕まえた、片腕から鮮血がほとばしってる

「う、うん! フランさん、我慢して!」
「手短に言うけど矢ぶっこ抜きサービスだ! 大丈夫いたくなーい!」

 「ねえ待って」という言葉を遮って【分解】という文字に触れた。
 すると矢が消えてぶしっ、と赤色をこっちにぶちまけてくれるのだが。

「いくよ、【ヒール】!」

 相棒の回復魔法が効いた、肉が引き締まる嫌な音が傷が塞いでいく。
 さすがに痛かったのか嫌な顔いっぱいだが、すぐ手が動くことを確かめると。

「あーえーうそ……よ、よくわかんないけどありがとね!?」

 赤色ドラゴン女子は戦線復帰した。これでよし――

「VEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAA!」

 頭上から甲高い白い声がしたのはそんなタイミングだ。
 他より一回り小さなやつが奇声を発して天井をべたべた這っているのだ。
 つまり気持ち悪い! 急いで散弾銃を向けるもそいつは天井を蹴って。

「Moooorti!Mooooooooorti!」

 謎言語と大ぶりのナイフを武器にミコめがけてダイブしてくる。
 させるか、最悪のタイミングを銃口で追った――

「……てええぃっ!」

 同時に、それは相棒が持っていた杖をようやく利用した瞬間だった。
 落ちてきた敵を横殴りにして、ぼごっと壁に叩きつけられてしまった、
 お見事だ相棒。けれども向こうはゆらゆら起きてまだまだやる気だ。

「よお、今度は俺が相手だ。じゃあな」

 二試合目の相手はストレンジャーだ、起き上がった顔に銃口を突き付けた。
 相手は「?」と意味が分からずに一瞬戸惑うが。

*Baaaaaaaaam!*

 そいつの迷いごと吹っ飛ばした、首から上の品性が欠けておくたばりだ。

「あ、ありがといちクン……!?」
「やっぱりお前もヒロインなんだな、強くなってて嬉しいよ」
「ふふっ、いったでしょ? わたしも成長してるって」

 相棒と拳をこつっとあわせた。二人で一緒に戦線に戻ると。

「Kaspafisto! Iru! Iru!」

 そんなところにデカい図体が数体、ガシャガシャ慌ただしく突っ込んでくる。
 オーガほどじゃないだ。それも四肢から胸元まで金属鎧で守られて、他とは一味違うのがよく表れてた。

「なっ……【ナイト】がきてる!? みんな! 気を付けて!」

 ミコの驚き方で分かった、あれがナイト級ってやつらしい。
 そいつらは身軽な兵士たちも引き連れて、蹴散らされる仲間をずんずんかき分けてきた。

「――あっ!? こ、こいつセアリさんと相性悪いと分かって……!?」

 そのまま通路の広さを動き回っていたセアリに一人が向かう。
 他よりごつい槍を突き出すと、間合いの差を使って穂先で追いかけていくが。

「スラグ弾を使え!」

 そんな時だ、タカアキの声がしたのは。
 あいつは弾帯から青い薬莢をちゃこちゃこ詰めてた。
 すぐにフォアエンドを引いて強制排莢、腰からスラグ弾を取って送って。

「どけセアリ! きっついのいくぞ!」

 槍で追い回すそいつに銃口を合わせた。
 ミコの【ショート・コーリング】がいい援護だ、迫る槍からぶょん、と逃れたセアリに変わって。

*Baaaaaaaam!

 言葉通りにお見舞いだ。装甲ごとぶち抜かれたガタイがゆらゆらたじろぐ。
 更にもう一発、いや二発、連続で叩きこむととうとう膝を折る。

「うぅぅおおおおおおおおおおおおおっ!」

 怯む様子にエルが縦一閃の構えで踏み込んだ。
 たぶん【アーツ】だ、勢いのありすぎる急な一撃が兜ごと頭を叩き潰す。

「Reiru! Reeeeeeeeiru!」

 すかさず棍棒を手にした軽鎧の装いが彼女を横合いに襲う、が。

「残る脅威はナイトだけだ! このまま押しきれェ!」

 エルが攻撃を避けるついで、腰の動きを乗せて何かをしならせた。
 尻尾だ。トカゲのそれが横槍を入れかけた敵の首をばぢっとぶっ叩く。
 たまらずよろめき下がったようだ。エルの剣先がその胸元を斬って追いかける。

「こーいうときはアレだよねえリスティアナちゃん!?」

 今度はフランのフォローが横入りだ、さっき拾った槍を投げてトドメになった。

「ナイトがこんなにいるなんてお兄さんびっくりだ! お前ら抑え込め! リスティアナちゃんに任せろ!」
「こいつ、防御が硬い……!」

 タカアキの散弾銃の唸りが後ろの敵をいい感じに減らしてた。
 ニクもちくちく敵に迫って攻撃を遅らせてる。
 だけど厄介なのはこの全身鎧だ、スラグ弾にも耐えるし、しかも意外と早い。

「Ooooooooooooo! Ooooooooooooo!」

 攻撃的に叫ぶ一体がエルに目をつけたらしい、大きな剣をぶん回す。
 当然あいつが剣を横に防ぐが、がんっ!と重たい衝撃が広まった。

「くっ……! こいつ……! さすがに……!」

 エルはどうにか耐えたらしい、抑えたまま退こうとするも敵は更に打ち込む。
 もっと悪いニュースもある、別のが通路を押し通ってきた。
 くたばった仲間たちの武具を踏んで、ここぞとばかり迫ってきてるのだ。

「――リスティアナさんお願い! 【ショート・コーリング】!」

 同時にミコがそう叫んだ――引き寄せの魔法だ。
 ナイトが脳天めがけて振り落とす寸前、ぶょんと独特の音がエルを寄せる。

「助かったぞミコ! こんな場所によくもまあこれほど押し込んだものだ……!」

 うまく避けたようだ。転移からほんの一息入れると、追撃しにきたソルジャーを叩き伏せた。

「援護だタカアキ!」
「もう弾がねえ! 全部もってけ!」

 咄嗟にタカアキと意識が重なった、ありったけの弾を込め直した。
 そして休む間もなく、散弾とスラグ弾を織り交ぜた滅茶苦茶な弾幕を張った。
 効果を確かめる暇もなかった、けれども着弾の勢いで敵の足が確かに止んだ。

「はいっ! これで……叩きこめますっ!」

 ニクの機関拳銃の掃射すら交じって、敵を鈍らせるその最中だった。
 もう何体も倒したリスティアナが休む間もなく軽やかに突っ込む。
 自慢の得物を掲げて迫れば、一つ遅れてナイトたちが迎え撃とうとするが。

「いっきますよー! 私の必殺……【ルーセント・ブレイド】!」

 俺たちに抑え込まれた敵へと水色髪が楽し気に踊る。
 元気さを込めた名乗りもろとも、あの時見たマナの現象が剣を覆った。
 そこから刀身がまた強く煌めき、理不尽な一撃がひとまとまりの白き民を吹っ飛ばす――!

「OOOOOOOOooooooo……!?」

 あとはリスティアナの言う通り「どかーん」だ。
 大ぶりすぎる太刀筋にそこが吹き飛ぶ。
 防ぎきれなかったナイトが通路を転がり、固まったやつらも余波で壁にゴールした。

「……わーお。ほんとにどかーん……」

 そんなフランの声が聞こえて、まだやる気の俺たちはやっと足が止まる。
 武器を向ける先にはもはや敵がいなかった。というか空っぽの武具と釘だけがむなしく残ってる。
 まあ無理もない、こんな逃げ場のない場所で必殺の一撃を受けたらそうなるか。

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