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剣と魔法の世界のストレンジャー

白き民の事故物件

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 屋敷に隠されたシェルター、ただいま新しい家主入り。
 ずいぶんとこじれた物件になってるようだが、そもそも原因は俺だ。
 テュマー入りの建物を連れてきた挙句、得体のしれない『白き民』とやらの住処を無償で提供したわけである。
 なら持ち込んだ犯人は責任を取るべきだ――そういうわけで参加した。

 ミコは「ヴァルム亭の四人を依頼に組み込む」と商業ギルドに連絡してくれた。
 向こうは二つ返事で「はいどうぞ」と俺たちの参加を報酬つきでお早い承諾だ。
 その理由にはミセルコルディアへの信頼もあるが、どうも向こうはこっちを覚えてくれてたらしい。
 巨大なゴーレムを爆殺した実績のことだ、おかげで滞りなく手続きは済み。

「……セアリさん車とか初めてなんですけど、これくっそ便利ですね。人類がこぞってハンドルを握る理由がようやく分かっちゃいました」

 ……ただいま俺たちは装甲車の中でぎゅうぎゅう詰めになっていた。
 四輪駆動がこの世界らしい街道を軽やかになぞる一方、中は美少女まみれだ。
 天井ハッチから呑気にしてるセアリはまだいい、誰が言ったかショートパンツいっぱいのデカいケツの圧が迫ってくるだけでいいが。

「セアリ、尻尾を振るな頼むから! 顔に当たってくすぐったいんだが!?」
「こうして見るとセアリってケツでっっかいよね……ミコよりすっごいよこれ、叩いていい?」
「こらっ! 誰がデカケツですかエルさん!? 踏みつぶしますよ!?」
「なんで私の方に来るんだ貴様!? いい加減にしないか! お前が尻尾を振るたびに誰かに当たってるんだぞ!?」
「でもエルや団長だと尻尾長いからもっと大変なんだよね……かといってリスティアナちゃんとか完全にスカート丸見えになっちゃうしさあ」
「私は大丈夫ですよー? 変わりましょうか?」
「ダメです! セアリさんはお外の空気を感じたいのでここは譲りません!」
「いや大丈夫だとかそういう問題じゃなくてだな、リスティアナ……」
「一応ここ、男の子三人いるんだからね……? ちなみに団長もスカートなので立てません」

 後部座席はミセリコルディアの面々とリスティアナがわいわい賑やかだ。
 そこにワーウルフの青い尻尾とエルとフランの尻尾やら翼やらで更に窮屈に。
 どうにか押し込まれたお人形系のお姫様はまだ楽しそうだが、騒がしい三名は出発時から言葉も姿もぎゅうぎゅうしてる。

「……あいつら賑やかですこと」

 一方で助手席は楽なもんだ。こうして振り返って余裕である。
 ただし膝上にはちょこんと座る黒髪の美少女(男)が犬耳を立てていて。

「ん……♡ ここ好き……♡」

 今日もニクは尻の重さを預けて尻尾もふりふり、くつろいでいる。
 時折顔にかかる毛先がくすぐったいし、鼻先から洗ったわん娘の香りがする。

『セアリさん、エルさんたちが困ってるから落ち着こうね……?』
「ミコさんもセアリさんのケツがデカいというのですか? 上等ですよコラ」
『言わないよ!? なんでわたしも巻き込もうとしてるのかな!?』

 そして肩には鞘入りの物言う短剣、つまり特等席である。
 八名を効率的に車に押し込むにはどうするか悩んだ結果、ニクを膝に座らせ相棒を定位置に戻すという力技に至った。

「心配すんな嬢ちゃんがた! 俺がスカートの中を気にするのは単眼美少女だった場合のみだ!」

 それでタカアキはこの流れで何言ってるんだろう。
 左側を見ればハンドル片手にいい笑顔で親指だ、残念だが冗談性はない。

「えっ単眼……? 何を言ってるんですかあの人は……」
「……一つ目の種族のことなんだろうが、本気で言ってるのか?」
「タカアキ君の性癖変わってんね~、団長ちょっとびっくり!」
「ふふふ、タカ君ほんとうに一つ目の女の子大好きなんですねー?」
「単眼じゃないとときめかないんだよ! 分かるか!?」
『タカさん、本当に単眼の子が好きなんだね……』
「転移する前から単眼の彼女欲しいとか言ってたからなこいつ」
「そして今は一つ目の可愛い女の子がそこらじゅうにいる世界だ、やったぜ」

 まあおかげで後方はちょっと落ち着いた。ドン引きともいうが。
 幼馴染の性癖カミングアウトはともかく、俺たちは廃墟とやらに向かっていた。
 しかしタカアキがこういったのだ――車使っちまえと。
 その結果がこうだ、美少女みっちりの通勤風景である。

「しかし……セアリの言う通り車というのは本当に便利なものだな。馬やらよりも早い上にこうもたくさんの数を運べるのだから、この世界では反則気味というか……」

 そんな発想の甲斐あって移動はスムーズだ。こうしてエルが関心するほどに。
 元人工知能な面々は車の快適さ(と内部の窮屈さ)に驚いてた。
 何せ徒歩より何十と早い勢いで離れた場所にどんどん近づいていくのだから。

「ていうかもうついてますよ皆さん。もう依頼先が見えてるんですけど」

 天井ハッチからのデカいケツ……じゃなくセアリの声がその証拠だ。
 気づくと道を少し曲がろうというところ、ちょうど俺たちの先に何かがある。
 広がった石垣と門が待ち構えていて、件の屋敷がそのままに佇んでいたからだ。

「……あれがか、見事に世界観ぶち壊してるな」
『……うん、あれがそうなの。周辺は安全は確認したんだけど、中に『白き民』がいっぱいいるみたいで……』
「……戦った跡があるね」

 肩の短剣と膝上のわん娘と仲良く見る先には――枯れた噴水が堂々とある。
 そこに立つどこかの国旗がぼろぼろにはためきつつ、そばの看板が語るに。

【我々はテュマーに屈しない】

 こんな主張はあれど周囲はどうだろう。
 周囲に様々な形で機能を失った逆関節型の無人兵器が幾つも残ってる。
 説得力のある弾痕だらけの廃車が捨てられ、今なお形が残るテュマーの死体。
 その奥で待ち構えるのは屋根も崩れ玄関も埋まった建物だ。

「デザートハウンドだらけだな。なんだかあっちの世界に帰って来た気分だ」
「おかえりってやつか?」
「ただいまって言った方がいいか? タカアキ、そこで降ろしてくれ」
『……気を付けてねいちクン? 危険な場所なのには変わりないんだからね?』

 総じてここは剣と魔法の世界のくせしてウェイストランドらしい光景である。
 静まり返ったそこへ、八人を乗せた装甲車はごろごろ入っていく……。



「はーい到着だぜお姉ちゃんども。こちらが依頼先の事故物件でございます」

 車から降りると、タカアキのふざけた物言いが建物によく重なった。
 クリンの豪華な屋敷を思い出す光景だ、ただしノルベルトが暴れ回った後の。
 テニスコートは白骨化したご遺体が居座り、噴水には薬莢が散らばり、建物は自重に負けて豪華さを三分の一ほど圧縮してる。
 玄関の崩れようなんてネズミすら入るのも難儀しそうだ――つまり廃墟。

「事故物件……」
「まあ曰く付きっていうのは間違いないだろうな。何せこのザマだ」

 俺は元に戻ったミコと一緒に軽く見渡した。まずは周囲の状況からだ。
 ここはクラングルから街道を辿って少し寄り道したところにある場所だ。
 現に遠くで小さくなった都市の壁が見えるぐらいである。

「……デザートハウンドだ」

 ニクは噴水近くにある無人兵器の残骸が気になったらしい。
 両腕に機銃を積んだあの逆関節型のロボットだ、しばらくぶりだな。
 今は槍の穂先でつんつんしても物申せないまま立ち尽くしてる。

「おおっ、これはロボットとかいうやつですか!? こっちの世界らしからぬ造形ですけど、カッコいいですね☆」
「リスティアナちゃん、こいつはデザートハウンドっつー無人兵器さ。いやこうして実際に目の当たりにするのは初めてなんだけどよ、思ってたよりでけーなおい……」
「そんなお名前だったんですね! ってタカ君、なんだかご存じみたいですけど……」
「まあよく知ってるやつだ、悪い意味でな」

 タカアキとリスティアナも興味深そうにぺたぺた触ってるようだ。

「よお、久々だな。お前のご主人さまはどうした?」

 俺も一緒に胸の装甲をノックした。返事はない、ただのガラクタだ。
 ついでに何か漁れるものはないかと五十口径あたりを探ろうとすると。

「いち君、それ知り合いかなんかなんですか? 知ってるようなそぶりですけど」

 セアリが輝きの消えたセンサーをじっと見上げてた。
 思えばもしもこいつが稼働してたら――まずかったと思う。
 ここで無差別に五十口径をばら撒く最悪の隣人が生まれてたはずだ。

「そんな感じだ。こいつがもし動いてたら最悪だったろうな」
「……ん? 動いてたら? どういうことですか?」
「こいつは人類を襲うように設定されてる無人兵器だ。今はこうして機能停止してるけど、稼働してるやつだったら遠慮なく銃撃してくる」
「は!? なんですかそれ!? いやセアリさん初耳ですよ!?」
「初対面が元気なやつじゃなくてよかったな。もし生きてるのがいたら逃げろ、重機関銃四問でご挨拶されるぞ」
「まるで動いてるのと邂逅したような言い草じゃないですか?」
「ああ、動いてたしひき肉にされかけた」

 幸い、勤めを果たしてる最中の無人兵器はここにはいない。
 でもテュマーがいるってことは悪いニュースだ、この世界に人殺しマシンも一緒にきた可能性は十分にある。

「……で、これが俺の連れてきた廃墟とやらだな。シェルターはガレージの中だったか?」

 デザートハウンドからずらせば、テュマーに屈した豪邸のガレージが目に付く。
 建物の地下へと潜っていく下り坂の先がそうだ、そこに唯一無事な内観がある。

「うん……あそこなんだけど、中に階段があるの。そこにシェルターがあったんだ」
「規模は?」
「クリンぐらい、かな……? ご、ごめんね? 嫌なたとえしちゃって?」
「分かりやすい表現ありがとう、クリン思い出した」
「お二人とも、クリンってなんですか。セアリさん気になります」
「団長も気になります。なんか二人して渋い顔してるけど、どうしたのさ?」
「今日の晩飯は肉料理か? だったらまた今度な」
「ごめんね、ちょっと話す気になれません……」
「えっなにがあったんですかその反応」
「肉食べられなくなる話なんか……!? 逆に気になっちゃう!」

 ミコと一緒に見るに、ここに人食い族のシェルターほどが埋まってるそうだ。
 外回りを軽く確かめて分かったのは地上は安全ってことか。
 周囲は土地が平たく広がるだけで、敵が隠れられる場所もない素直さがある。
 住まいはガレージ以外全壊だ。焼け落ちた外側は屋敷の価値をほぼ損ねてる。

「いいか、イチ? 白き民はあんな見た目だが油断ならない敵だ。連携も取ってくるし中には魔法を使うものもいる、お前なら問題ないだろうが奴らの動きには気を使え」

 そこへいざ踏み込むぞ、とばかりにエルが腰の鞘を確かめてた。
 片手で振り回すには十分な丈の剣が一本、爬虫類らしい四肢でも握りやすい少し長めの柄だった。

「えっと、リスティアナさんは……白き民と戦ったことはあるのかな?」

 ミコも車から何か引きずり出してきた――杖だった。
 丸みのある先端に、緑色の石をはめ込まれたいかにもなデザインだ。
 けれども流石はヒロインだ、杖とはいえいざ握るとけっこう様になってる。

「もちろんありますよー? あっ、私は【スペシャルスキル】を使えますのでいざという時には言ってくださいね!」
「わっ、スペシャルスキル使えるんだ……!? どんな効果なの?」
「マナを込めた一撃でどーんです! 衝撃で周りの敵も巻き添えですよ!」
「すごいなあ……じゃ、じゃあ必要なときはお願いするね?」
「まっかせてください!」

 リスティアナも背中のホルダーに自慢の大剣を収めて準備万端だ。

「まーあのゴーレムぼっこぼこにするいち君なら楽勝でしょう。中にいたのはまだ弱い部類でしたし」

 セアリも爪と毛皮の生えた手をにぎにぎしてる――素手で戦うらしい。

「でも油断は禁物だよー? あいつら戦術的に動くし、雑魚だろうがごり押しでいける相手じゃないからね?」

 フランも身の丈に合う赤い槍の調子を確かめてた。ニクと同じ戦い方だろう。

「白き民ってのはどんな戦い方をする連中なのかご教授くださいって気分だな。ぶちのめしていい相手ってのはよくわかったけど」

 そんな中、俺も周りにあわせて手持ちの装備に触れた。
 ヘルメットを被り背にマチェーテ、腰には自動拳銃、そして矢筒に弓に――

「俺たちみたいに戦うって言ったら分かるか? 剣も使う、矢も魔法も放ってくる、待ち伏せしたり罠にかけたりしてくる連中だ」

 と、タカアキが車からあるものを持ってきてくれた。
 スリングつきの散弾銃だ。室内戦を考えて突撃銃よりこっちにした。
 掴むとポンプアクション式の造形に【カードボード】と浮かぶ――か。

「要するに人間臭いってことだな?」
「そーゆーこと。でも人間じゃねえぜ、血も流さないし倒すと消えちまうからな」

 見ればあいつも同じ得物を吊るしていて、散弾入りの紙箱と弾帯を渡してきた。
 大き目の粒が詰まったそれをちゃこちゃこローディングゲートに詰め込む。
 相手は二足で立つ人間大だそうだ、ということは俺の得意分野だ。

「テュマーより可愛げがあることを願いたい。アドバイスは?」
「頭をぶっ飛ばせ」
「なるほど、そう言うのは得意だ」

 装弾が終わったところでタカアキは実に分かりやすいアドバイスをしてくれた。
 俺にとってはいつもどおりだ、なら楽勝だ。
 じゃきっとフォアエンドを二人仲良く前後させて装填完了。
 弾帯も身体に巻いて、最後に『ファクトリー』の銃剣をかちりとはめた。

「ん、準備できた」

 ニクもパーカー上のリグに弾倉を差してばっちりだこ全員が整った。

「――みんな、準備はいい? 行くよ」

 やる気も満ちたところでそう尋ねたのはミコだった。
 いつもとは違う雰囲気だ、クランマスターとしてやってるような貫禄すらある。
 全員が「オーケー」と頷けば、自然とガレージの方へと向かって。

「おい、まさかあれか?」

 豪邸の下に設けられた広さが見えてくる頃、さっそく嫌なものが目に付く。
 青ざめた死体が暴力的にやられたままだ――あのスクリーンショットの通り。
 たぶん『白き民』の仕業だ、斬られ貫かれで致命傷を負って絶命中である。

「テュマーだ……こっちにもいたんだね」
「ワーオ、テュマーだな。ご存命じゃなくてよかったっつーか……」
「せっかくフランメリアにきたのに嫌なもん見ちまったよ。ところでタカアキ、こいつに会うのは初めてか?」
「前に廃墟漁ってたら遭遇したぜ」
「そうか、それで? やったことはあるのか?」
「俺のファーストキルを知りてえのか? 待ち伏せて斧で頭カチ割った」
「今のは冗談とか込めてるか? サイコパスみたいな殺し方だな」
「いんやマジだ、敵だって知ってたから頭にアクセサリ飾ってやったぜ」
「じゃあ次生きてるの見かけたらお前に任せる、またカチ割ってくれ」
「お前もこえーこというな。ちなみにそっちはどうなんだ?」
「いっぱいシャットダウンさせてきたところだ」
「ん、ぼくもいっぱい仕留めた」
「頼もしいことですこと。とはいえこっちじゃそんなに見ねえからな、無人兵器なんて今日やっと見かけたぐらいだ」

 テュマーの殺人現場にニクとタカアキも興味を示してた。
 ヒロインの皆さまはなんだか距離を置いてるが、ミコはそうでもないらしく。

「これがさっき見せたテュマーの死体なんだけど……白き民の仕業みたいなの。矢だって使ってるものが同じだし」

 実際、ご遺体にぶっ刺さってる矢を平然とぶすっと引き抜いてる。
 渡されてみると、ちゃんとした作りだった。
 テュマーが使うにはきれいすぎる矢じりが殺傷力を鋭く保証してた。

「……あのさミコ、良く触れるね……?」
「……ミコさん、すっかり逞しくなりましたね。それ死体ですよね……?」

 そこでフランとセアリが少し引いてるが、ウェイストランドの賜物だと思う。
 伊達にテュマー相手に戦場を潜り抜けた仲じゃない、逞しい相棒になったな。

「いい矢だな。それで、こいつらの死に方そのまんまが俺たちに向かって来る可能性があるってか?」

 しかし事実はこうだ。
 テュマーを殺せるほどの奴らがいて、そいつらが同じやり方で襲い掛かってくる。
 この世界にそんなのがいるなんて聞いちゃいないけど、殺せるなら問題はない。

「ここは不幸な事故が二度起きた物件らしいけどな、俺たちが三度目にならないように気を付けろって忠告だぜこりゃ。同じ目に会わないように気を引き締めとけよ」

 タカアキの言う通り事故物件を二度重ねたような状態だが、商業ギルドの奴らは三度目がないと信頼してくれてるんだろう。
 幼馴染は銃口を頼りに進むと「こっちだ」と招いてきて。

「……これがシェルターとやらの入り口だ。この先に奴らがいる」

 追いついたエルが身長差の含んだ足取りで案内してくれた。
 まっすぐな蜥蜴らしい瞳がを真似れば、ちょうどそこに階段があった。
 それはクリンで見たのと似ているつくりだ。
 二人横並びで降りれるほどの幅の先、電源不明の照明が奥へ誘ってるようだ。

「敵の数は?」
「階段を下りた先に通路があるんですけど、そこに数体見張りがいました。奥から匂いもいっぱいするしうじゃうじゃでしょうね?」

 セアリに尋ねれば、鼻をすんすんさせながら確実性のある答え方だ。

「……ご主人、変な匂いがいっぱいする。人みたいな、そうでもないみたいな」
「ニクちゃん、それが白き民の匂いですよ。覚えておいてくださいね」
「ん、わかった」

 ニクの嗅覚的からしても間違いなく「うじゃうじゃ」が裏付けられてる。
 さてどうするか――静かに顔を合わせてから、俺は銃剣を持ち上げて。

「先行したい、いいか?」

 リーダーであるミコに尋ねた。

「うん、お願い。タカアキ君とリスティアナさん、それからフランさんもお願いしていい?」
「了解だマスター・ミコ。ぶっ飛ばしてやるぜ」
「はいっ! 何かあったらばーんっていきますので!」
「接敵したら団長が迎撃するよ。他のみんなは適当に距離あけてついてきて、退路塞がないでね?」

 行ってくれだそうだ。得物を手に曲がりのある階段をそっと降り始めた。
 それから散弾銃を持った幼馴染が横に、後ろにお人形系美少女がぴったり、そばを補うように槍持ちのドラゴンガールがついてくる。
 ぞろぞろ降りれば、コンクリートの冷たさが浮かぶ通路が見えて――

(……いましたよ、まだあんなところに陣取ってますね)

 ゴルフカートが爆走できるぐらいの幅広さを感じた途端、セアリがそう告げた。
 こっそりとした声に従って入り口の陰に身を潜めつつ、静かに前を伺うと。

(あれが……白き民ってやつか? なんていうか思ってたより……)

 確かに――そこに白い人間というやつがいた。
 パイプの走る道のりが奥まで続くそこで、明らかに場違いな色合いが浮いている。
 人間的特徴を削いだ真っ白な人型が背筋をぴんとして佇んでるのだ。
 筋肉が浮かぶほどの身体は逞しいもので、そこに最低限機能を持たせた胸当てやら兜やらがそれらしく装っていた。

「OOOOOOOOOoooooo……」

 吐き出すような呼吸音と共に、だが。
 スクリーンショット通りの表情のない白い顔がそこにあった。
 俺の身長をやや越す程度の白いそれは、うつ伏せになったテューマをじっと見てるようだ。

「ne-plu-malamikoj?」
「Atentu-Atentu」

 が、そこに同じく死体を見下す仲間がいた。
 人間には分からぬ声の質と言語でやり取りしていて、明らかに意思疎通がある。
 気味が悪かった、化け物みたいなやつが人間さながらに話してるんだぞ?
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